著者
杉本 佳史 本城 久司 北小路 博司 中尾 昌宏
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.584-593, 2005-08-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
15
被引用文献数
1

【目的】会陰部不快感を有する慢性骨盤痛症候群2症例に対し、陰部神経刺鍼点への低周波置鍼療法を行い、その有効性をvisual analogue scaleを用いて評価した。【症例】症例1は68歳男性で、10年前より会陰部不快感が出現し、平成14年3月泌尿器科を受診した。慢性骨盤痛症候群の診断のもとに薬物療法が行われたが改善がみられず、翌年3月明治鍼灸大学附属鍼灸センター専門外来 (排尿障害) に紹介された。症例2は65歳男性で、平成9年より右会陰部不快感が出現し、平成15年3月泌尿器科を受診した。症例1と同様、慢性骨盤痛症候群と診断され薬物投与にて改善がみられず、同年5月鍼灸センター専門外来に紹介された。2症例ともまず、疼痛、不快感に対して、中膠穴への鍼治療を行い、続いて陰部神経刺鍼点への低周波置鍼療法を行った。【結果】症例1, 2ともに不快感に対しては中〓穴の治療では大きな変化がみられず、陰部神経刺鍼点への低周波置鍼療法を行うことによって、不快感の軽減がみられた。【結語】陰部神経刺鍼点への低周波置鍼療法は、慢性骨盤痛症候群の会陰部不快感に対して有効な治療法の一つと考えられた。また会陰部不快感の評価としてvisualana_loguescaleは有用であった。
著者
藤井 亮輔
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.792-801, 2010 (Released:2011-05-25)
参考文献数
5
被引用文献数
1

【目的】鍼灸按摩事業所の営業数と市場規模を推計し地域医療資源の基礎資料に資する。 【方法】98地区保健所から収集した三療事業所16,271件 (全国比21.0%) の名簿から施術所5,000件と出張業者1,000件を抽出し調査票を送付した。 【結果】有効回答率は23%だった。 住所地非現存率 (施術所20.6%、 出張業者31.5%)、 廃業・休業率 (同順で12.4%と41.3%) 及び電話帳調査結果から2007年初頭の営業事業所数を49,710件と推計した。 平均年収は個人施術所488万円、 同出張業者284万円、 法人施術所3,485万円、 同出張業者1,633万円だった。 これらのデータを基に、 三療業の2006年の市場規模を概算で3千250億円と推計した。 【考察】国の2006年度衛生統計の大幅な下方修正が必要である。 存否不詳事業所が1万6000件余り (全事業所比21%) 存在することから、 国の全国実態調査の早期実施が望まれる。 【結論】2007年の鍼灸按摩事業所は概算で5万件、 市場規模は3千250億円と推計された。
著者
渡辺 勝久 北出 利勝 廖 登稔 大藪 秀昭
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.160-164, 1993-12-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
9

鍼麻酔は, 諸条件による効果の不安定さから今日の歯科臨床では, あまり適応されていない。しかし, 稀にみられる局所麻酔薬に対する薬物過敏者や内臓疾患や神経疾患のために局所麻酔薬の使用が困難な場合, 薬物投与によらない鎮痛手段が必要となる。今回局所麻酔薬過敏患者の下顎埋伏智歯の抜歯の際の鎮痛を, 鍼灸により心身のリラックスを促したのちに鍼麻酔により行った。抜歯時に薬物を併用すること無く疼痛管理ができ術中・術後とも経過は良好であった。
著者
北川 毅 高野 道代 王 財源
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.37-50, 2011-02-01
被引用文献数
1

近年、 美容が鍼灸業界などで話題を集めている。 専門学校や一部の大学などでは、 すでに授業の一環として行われ、 臨床現場においてもの日々、 要望が強まりつつあるのが現状である。 ほんの十数年前までは美容のために鍼灸が用いられることは一部を除いてタブー視され、 鍼灸師の美容に対する関心は高くはなかった。 しかしながら鍼灸を 「美」 の世界に求められるといった背景には、 健康のみでは満足しきれない、 より高い生活の質を望む私たちの、 若さと美しさへの願望が見え隠れしているようにも感じられるのである。 これは日本のみではなく、 隣国の中国でも同じ事が言える。 中国の美容産業は年々と増加し、 ダイエットブームによる自然健康食品の大流行、 富裕層の増加にともなうエステ市場にも、 化粧品会社の参入が、 日々、 美容市場を拡大させているという。 日本でもここ数年間における美容産業は年々と広がりをみせる。 このような中で、 2010年6月に第59回全日本鍼灸学会学術大会が大阪中之島にある国際会議場で開催された。 とりわけ今回の鍼灸学会に、 初めて美容鍼灸の公開実技が行われることもあり大きな話題を呼んだ。 定員350名の会場が隙間なくギッシリと満席となり、 さらに座席がなくて立ち見席で埋め尽くされ、 遂には入場制限までが出るほどの反響をぶりであった。 そこで今回は学会で実技を公開してくださった方々の先生方の美容鍼灸に対する考え方や、 施術法について執筆をお願いし、 今後の美容鍼灸のー展望となれば幸いである。
著者
真鍋 立夫 尾崎 昭弘
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.498-509, 2003-08-01 (Released:2011-08-17)

高齢化社会にまっしぐらの日本です、これからは、ますます鍼灸療法のニーズがたかまって行くことでしょう。そこで、鍼灸療法が真に国民に愛されるようになるためには、「どこに行ってだれに治療してもらっても、一定の水準の鍼灸療法を、あたりまえに受けることができる。」これを目標に、個々の鍼灸師が自らの資質と技術の向上につとめなければなりません。それにもまして、まず「痛く無いバリ」をさせてもらうことをこころがけ、国民の鍼治療に対する不安感、恐怖感を取り去り、患者さんの皆さんが、安心して喜んで、気持ち良く治療を受けてもらえるように、我々全員が努力しなければなりません。そのためには、伝統的日本風の細い針による繊細な鍼灸療法の技術を研鑛し、鍼灸療法を単なる刺激療法に終らせること無く、真の鍼灸療法とは、経絡、経穴を通して体表に補潟というテクニックを行って、体内の生命維持システムに呼びかける体表情報操作医療であるということを、「鍼灸のグローバルスタンダード」として、いまこそ、日本から世界に向けて発信しなければならないのではないでしょうか。私は、長年の鍼灸臨床経験を通して、身体に全く鍼を刺さなくても、臨床効果を得ることが出来ることを知りました。また、それをバイデジタルオーリングテスト (以後BDORTと記す) によって証明することも出来ました。私は体表に鍼を刺すのでは無く、一定の方向に鍼を貼付することによって臨床効果を出すことに成功しました。鍼を刺さないために、全く痛く無いその鍼灸療法のテクニックを「方向鍼」と呼び、そのために用いる独自のアイテムである鍼を、Vector Effect Needle [VEN] (方向針) と命名して、このたびの講演を機会に皆様に紹介したいと思います。
著者
山下 仁 江川 雅人 楳田 高士 宮本 俊和 石崎 直人 形井 秀一
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.55-64, 2004-02-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
72
被引用文献数
1 3

鍼灸に関連して発生したとされる有害事象の情報を更新した。1998年から2002年にかけて発表された症例報告について、医中誌WebとPubMedを用いて検索した。鍼施術に関連する有害事象36症例 (感染』3例、皮膚疾患11例、臓器損傷または異物6例、神経傷害5例ほか) と灸施術に関連する有害事象9症例 (皮膚疾患6例ほか) が収集された。ほとんどの症例は現代西洋医学系学術雑誌に掲載されており、開業鍼灸師の目の届かないところで発表されている。したがって、安全性に関する情報を収集して鍼灸師にフィードバックする作業を本委員会が継続的に行う必要があると考えている。2003年6月6日に開催された本委員会のワークショップにおいては、感染制御の観点から見て適切な刺鍼法のあり方が議論の中心となった。適正な刺鍼マニュアルが作成されるためには、安全な刺鍼に関するエビデンスを集めることがさらに必要である
著者
宮本 俊和 古屋 英治 森山 朝正
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.166-178, 2008-05-01
参考文献数
26
被引用文献数
2 2

近年、 子供から高齢者まで多くの人がスポーツをするようになってきた。 そのため、 競技スポーツはもとより、 レクリエーションスポーツにおいても安全で快適なスポーツ環境が社会に求められている。 <BR> スポーツ分野の鍼灸のテーマも、 (1)スポーツ外傷・障害の治療(2)スポーツ選手の体調管理(3)生活習慣病の予防(4)競技パフォーマンスの向上など多岐にわたっている。 本シンポジウムでは、 スポーツ鍼灸の研究の現状を報告する。 以下はその概要である。 <BR>1)円皮鍼は長期合宿中に起きる筋疲労を軽減する。 <BR>2)鍼治療は、 高強度の運動によってもたらされる免疫機能の低下を抑制する。 <BR>3)低周波鍼通電は、 マウスの廃用性筋萎縮の進行を抑制する。 <BR>4)円皮鍼は運動後の急性筋疲労や遅発性筋痛に有効である。 <BR>5)M-テストは、 スポーツ外傷の予防とパフォーマンス向上を評価するのに有効である。

1 0 0 0 OA 報告

出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.195-206, 2001-05-01 (Released:2011-03-18)
著者
藤井 亮輔 山下 仁 岩本 光弘
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.566-573, 2005-08-01
参考文献数
5
被引用文献数
1

【背景】あん摩業、鍼灸業に係る施術所数及び同施術所に従事する就業者数は衛生行政報告で公表される。しかし、業の停止を届け出ない業者が相当数いる可能性があること、各免許を複数所持する業者の実態が明らかでないことから、業の実勢を示す統計データとしては疑問がある。<BR>【目的】平成14年衛生行政報告で公表されたあん摩業・鍼灸業の施術所数および就業者数の信頼性を検証する。<BR>【方法】1都4県下の12保健所を抽出し、同管内の名簿に登録されている業者3,084件全数を対象に、届出住所地での営業実態と所持免許別構成割合に関する質問紙を郵送して調査した。<BR>【結果】名簿に登録されている施術所のうち26.5%の施術所に営業実態がなかった。また、あん摩マッサージ指圧師の52.5%がはり師ときゅう師免許を併有していた。<BR>【考察・結語】得られた数値から平成14年の施術所数及び就業者数を推計すると、あん摩施術所41,500件、鍼灸施術所10,300件、就業あん摩マッサージ指圧師71,500人、就業はり師54,400人という概数が得られる。このことから、同年衛生行政報告例隔年第63表及び第64表は下方修正する必要性が示唆された。
著者
木村 研一 矢野 忠 山田 伸之 今井 賢治 廣 正基 渡辺 一平
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.279-291, 1998-09-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
46

皮膚交感神経機能に及ぼす鍼刺激の効果を検討するためにSSR (sympathetic skin response) 、SFR (sympathetic flow response) 及び手掌部の精神性発汗量を指標に検討すると同時に各指標間の関連性についても併せて検討した。被験者は健康成人男性10名、平均年齢24.7±3.1歳 (mean±SD) とした。実験は無刺激対照群 (以降、対照群) と鍼刺激群を設定し、同一被験者を対象とした。SSRは記録電極を左手掌部中央に、基準電極を同側中指爪上部に貼付し、SFRはレーザードップラー血流計のプローブを左示指指腹に装着した。精神性発汗波はハイドログラフを用い、右手掌部に1cm2のカプセルを装着した。各指標は同時測定し、電気刺激は前額部正中線上に刺激間隔および刺激強度をランダムに変更して行い、各反応を誘発し。記録した。尚、対照群は安静負荷前後、鍼刺激群は鍼刺激前後で測定を行った。鍼刺激は右側の合谷穴にステンレス鍼 (セイリン化成) を刺入し、鍼響を得た後1Hzの雀啄刺激を1分間行った後に、10分置鍼した。結果は以下の通りであった。 (1) SSR、SFR及び手掌部の精神性発汗波はHabituationを起こすことなく記録できたが、各々の相関関係は小さかった。 (2) SSR及び精神性発汗量は鍼刺激後有意に抑制されたが、SFRは無刺激及び鍼刺激の両方で抑制された。以上のことから鍼刺激は皮膚交感神経機能を抑制する作用があることが示唆された。
著者
松田 博公
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.156-165, 2008-05-01

内外の情勢は、 日本の鍼灸界に日本鍼灸学の構築を要求しています。 日本鍼灸の特色の一つを、 自然治癒力思想を根幹とすることだと考え、 そのルーツを探るのが本発表の課題です。 現在われわれが口にする自然治癒力思想を顧みると、 それは、 中国伝統医学を継承したものではなく、 江戸中期に輸入された蘭学由来のものであるという仮説が浮かび上がります。 幕末に刊行された江戸期最大の養生書 『病家須知』 に記された<自然作用力>というキーワードに着目し、 和田啓十郎の漢方復興運動の論拠となった<自然良能>の思想などを振り返りながら、 日本の鍼灸家が親しんできた自然治癒力思想が、 西洋のヒポクラテス医学のものであることに迫ります。 そして、 江戸期の日本人がヒポクラテス医学の自然治癒力思想を受け入れた背景には、 <邪正一如>という日本独自の治癒力思想があったという仮説も提出して、 検討に供したいと思います。
著者
森下 敬一 越智 久男
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.588-600, 2003-11-01 (Released:2011-03-18)

・1975以降、森下世界的長寿郷調査団は、毎年2~3回の頻度で「世界三大長寿郷 (コーカサス、フンザ及び南米・ビルカバンバ) 」の実地調査を実施してきた。・1984年-新彊ウイグル特に南彊が「第四の世界的長寿郷」であることを認定した。・1987年-コーカサス、中央アジア、パミール高原周辺 (フンザを含む) 及び南彊の北緯40度前後、東西8000kmに及ぶベルト地帯を「絲綱之路・長寿郷」と命名し、第16回・自然医学・国際シンポジウムに於いて研究発表を行った。・1991年-広西壮族自治区・巴馬の実地調査を試み、是が「第五の世界的長寿郷」である事を認定した。世界の百歳長寿者達は、シルクロード沿いのベルト状地帯に多く存在し、幾つかの共通項があることが判明した。主食が挽きぐるみの未精白穀物であり、竈に貼り付けて焼くこと。生まれた土地を離れず、その土地で収穫できる作物を食していること。文明の侵襲を受けていない長寿郷では、土壌→食物→身体の生命エネルギーが循環していた。
著者
金子 佳平
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.135-136, 1986-06-01 (Released:2011-05-30)

帯状疱疹は, 始め激痛で, 次第に慢性化し, 発疹と痛みが残るし又長いというのが実情のようであります。そして神経ブロックが行われるようであります。私の経験から見ると, 急性を治し損なうから, 慢性になるものと考えます。急性症には多少の相違はあっても, 初期から治療したものに慢性になったものはありません。大腸経の鍼灸治療程優れたものはないと思います。慢性化したものは多少時日を要します。要するに, 発病初期に治すことが必要条件と考えます。
著者
田辺 成蹊 柴 紘次
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.383-387, 1984-03-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
4

帯状疱疹は, 急性期には激痛を伴い, 疱疹が治癒した後も帯状疱疹後神経痛へと移行して, 長期間にわたって患者を苦しめる。この帯状疱疹痛に対する治療として, 各種の神経ブロックがさかんに行われており, 新鮮例においては有効であるという報告がみられるが, 帯状疱疹後神経痛では, 治癒率は著しく低下している。また, これらの神経ブロックには, 持続時間や合併症等に問題点を含んでいる。今回われわれが行った華佗夾脊穴を主穴とする鍼治療では, 41症例中, 新鮮例については, 著効69%, 有効, やや有効とも15%, 無効0, 帯状疱疹後神経痛では, 著効14%, 有効43%, やや有効, 無効とも21%であった。今後, 帯状疱疹痛の治療として, 鍼治療を積極的に取り入れることにより, 期待出来る成績を上げ得るものと考える。
著者
山本 哲朗
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.194-204, 2012

本稿では、 鍼灸医学の危機を救った石川日出鶴丸の足跡を辿り、 彼の目指した科学的基盤に基づいた鍼灸医学についての考察を行います。 <BR> 石川先生は、 富山県の出身で、 東京帝国大学を卒業後、 京都帝国大学の天谷教授の下で研究生活に入り、 1908年から4年間、 最先端科学が花開くヨーロッパに留学されます。 主にゲッチンゲン大学のフェルボルン教授の下で研究しますが、 短期間ながら、 ぺテルスブルグ大学のパブロフ教授や英国のスターリング教授、 シェリントン教授なども訪れています。 このヨーロッパでの経験が、 後年の研究発展へとつながるのです。 帰国後は、 京都帝国大学の教授として、 日本の生理学研究を大きく発展させ、 同時に、 鍼灸医学や心理生理学にも生理科学的手法による解析を試みられました。 <BR> 石川先生は、 神経生理学領域では、 加藤元一教授との論争で有名です。 この論争は、 神経の活動電流が、 麻酔部位で、 減衰して伝導するか(減衰論)、 減衰せずに伝導するか(不減衰論)というもので、 加藤教授が石川先生の愛弟子の一人であったことにより非常な注目を集めました。 <BR> 京都帝国大学を退官後、 1944年に三重大学医学部の前身である三重県立医学専門学校長として津市に来られ、 翌年には、 大学病院に鍼灸療法科を開設されます。 終戦後、 GHQは、 当時の鍼灸などの伝統医学が、 西洋医学の水準からすると、 科学的根拠に乏しいことから、 「鍼灸禁止令」を考えていました。 先生は、 御自身の研究結果をもとに、 GHQ関係者に鍼灸医学の科学性を説明され、 実際に鍼灸を施術してその効果も体験させ、 鍼灸の存続に貢献されます。 しかし、 この間の過労のためか、 1949年に教授会の席で脳卒中を発症し亡くなられます。 <BR> 石川先生の遺志は、 弟子の笹川久吾京都大学教授に引き継がれ、 日本鍼灸学会が結成されます。 第1回日本鍼灸学会が1954年に京都大学で開催され、 現在の隆盛へと繋がるわけです。