著者
矢内 真理子 ヤナイ マリコ Yanai Mariko
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Social science review (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.121, pp.55-79, 2017-05

論文(Article)本研究は,福島第一原子力発電所事故に関する週刊誌の報道における,言説の作られ方を明らかにすることを目的とする。日本の代表的な週刊誌である『週刊文春』『週刊新潮』『週刊現代』の3誌の2011年3月の記事を対象に,批判的ディスコース分析(CDA)をはじめとした,語用論の分野に基づいた分析方法を用いた。週刊誌が他媒体をどのような視点で捉え,報じているのかを分析することによって,週刊誌が他のメディアをどのように評価し、どのように原発事故に関する新たな「現実」を作り出そうとしているのかを明らかにした。This study aims to reveal how discourse was created in weekly magazine reports on the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Disaster. Analytical methods based in the field of pragmatics, including Critical Discourse Analysis (CDA), were used to study articles published in March 2011 in three of Japan's biggest weekly magazines: Shukan Bunshun, Shukan Shincho, and Shukan Gendai. By examining how these magazines viewed other forms of media and made their reports, this study explains how weekly magazines attempt to create new "realities" about the nuclear disaster, the methods they employ in trying to influence readers, how they view other forms of media, and what type of medium these weekly magazines are trying to present themselves as in the first place.
著者
板垣 竜太 Ryuta Itagaki
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Social science review (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.128, pp.39-65, 2019-03

記録映画「朝鮮の子」(1955年3月)は、東京都立朝鮮人学校への東京都教育委員会の廃校通知(1954年10月)をきっかけとして、それに対する反対運動のなかから製作された。本稿はこの映画の製作プロセスに注目し、そこに表れている関係性を歴史化することを目的としている。「朝鮮の子」の製作は在日朝鮮人の教育運動組織が推進し、在日朝鮮映画人集団が共産党系の記録教育映画製作協議会のメンバーとともに脚本、演出にあたった。荒井英郎が中心となって進めた脚本の<初稿>にもとづき、1954年12月下旬から撮影がはじまるが、内容に異論が出たため、1955年1月には一度撮影を中断し、京極高英を中心に脚本の<改訂稿>をまとめた。その過程で、子どもの語りを中心としたつくりに変わった。実際に作文を原典とするシーンは多くないものの、改訂により全体として朝鮮人の主体性がより強まる内容になった。この映画には、朝鮮人学校の教育実践とそれをとりまく教育運動をめぐる関係性が記録されており、とりわけ「敏子」の作文シーンはそうした特徴をよく示している。ただ、脚本改訂や資金難により当初の予定より完成が遅れた。その間に廃校反対運動は学校の各種学校化を前提とした条件闘争に転換しており、結果的に上映も不活発だった。The documentary film "Children of Korea (Chōsen no ko)", released in March 1955, was produced in the midst of the counter movements against the Tokyo Metropolitan Board of Education's decision in October 1954 to close the Tokyo Metropolitan Korean Schools (Tōkyōtoritsu Chōsenjin Gakkō). This article analyzes the making process of "Children of Korea" in order to historicize the political and social relationships which were reflected both explicitly and implicitly in the film. The documentary was produced by the Korean education movement organizations and was scripted and directed by the Zainichi Korean Cineaste Group (Zainichi Chōsen Eigajin Shūdan) with the professional assistance of Japanese members of the Documentary and Educational Film Production Council (Kiroku Kyōiku Eiga Seisaku Kyōgikai) which was led by the Japanese Communist Party. Based on the ‹first draft› of the scenario written by Arai Hideo, they started shooting from late December 1954. Facing with objections within the production staffs, however, they ceased shooting for a time and asked Kyōgoku Takahide to rewrite the scenario, what I call the ‹revised version›. One of the most radical revisions was that Korean schoolchildren had come to narrate in most of the scenes as if they read their own compositions. As a result, the representation of the independent identity of Zainichi Koreans had been emphasized in the film. Educational activities in Korean schools and relationships among educational movements at the time were vividly recorded in "Children of Korea". Toshiko/Minja's scene of reading her composition well-reflected such relationships and changes in the film. However, due to the scenario revision and financial difficulty, the completion of the film had delayed more than a month. During the delay, the strategy of the counter movement had shifted from the anti-closure of the Metropolitan Korean Schools to negotiation on conditions in privatizing the schools, ending up with the inactive screening of the film.論文(Article)
著者
山村 りつ
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.91, pp.75-106, 2010-03

本稿では,ジョブコーチ型支援に関する日米の先行研究の比較研究から,わが国における研究の特徴と課題を明らかにすることを目的とし,論文検索データベースを用いて抽出した239件(日本85件,米国154件)について,その内容から7タイプに分類を行った.その結果,各タイプの分布状況における日・米の研究の特徴を示すのと同時に,縦断的な視点から,両国における時間的経過に伴う研究動向の変化に共通性があることを示した上で,わが国の研究における課題を示している.論文(Article)
著者
伊藤 高史 Takashi Ito
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.137, pp.65-84, 2021-05-31

本稿は,ジャン・ボードリヤールが「シミュラークル」や「ハイパーリアル」といった概念を使って展開した社会分析を,メディア文化を分析するために筆者が提示した社会システム論的分析枠組みから捉え直し,同分析枠組みの有効性を示すことを試みる。ボードリヤールが描いた社会は,メディアの表象が「現実の表象」ではなく「現実」そのものとなるような社会である。このため,メディア文化に理論的にアプローチするときには,重要な示唆を与えてくれるものだ。ボードリヤールの議論は管理社会への警鐘として理解できるが,シミュラークルとしての「記号」「言語」の在り方を問い直すことで,人々が主体性を回復する可能性をも示唆している。メディア文化の社会システム論的分析枠組みから解釈すれば,管理社会論が指摘した側面は,経済的利益を制御メディアとする文化産業システムが創作システムと消費システムを浸食するものと理解できる。メディア文化の創造的側面に関しては,文化産業システムが本来的に差異を生み出すことで作動を継続するものであることに加えて,文化産業システムと創作システム,消費システムが相互に観察し合い,また自己を反省的に観察し,自己の作動を更新していく点に創造の契機が含まれていることを確認できる。
著者
塩田 祥子 坂下 文子 Shoko Shiota Ayako Sakashita
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.137, pp.211-226, 2021-05-31

社会福祉士の実習における「現場実習」段階は,施設で過ごす利用者や,そこで働く職員を知る時間であり,実習全体の基盤となる段階である。その際,重度の障がいがある利用者が過ごす施設では,ケアワーカーに実習生の「担当」をしてもらうこともある。担当となったケアワーカーは,実習生にケアワークの何をどのように伝えていくのか,自らの判断に委ねられ,悩ましいところである。実習指導者は,担当のケアワーカーに「ある程度の裁量」を求めているが,その曖昧さが,ケアワーカーの迷いにつながっている。特に,実習生にケアワークの実際をどこまでみせるか否かは,利用者の権利にかかわってくるため,迷いも募る。また,利用者のそばにいることが多いケアワーカーの実践を見学することを通して,実習生は利用者理解を深めることができる。そのため,実習指導者は,実習生の指導に当たって,ケアワーカーと連携していくことが求められる。具体的には,施設外での学びの機会が多い社会福祉士と,利用者の日常を支えるケアワーカーとの情報量の違い,解釈の違いを理解する。そして,常勤,非常勤職員も含めて,わかりやすく情報を伝達していく。さらには,組織として,実習生を任されたケアワーカーの戸惑いを支える体制づくりが求められる。実習生に利用者理解を促すためにも,介護現場に多く配置されているケアワーカーが実習生の指導に対してどのように思っているのか,その声を,今後も聞き続けることが大切となる。研究ノート(Note)
著者
金 松美 Song-mi Kim
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.125, pp.55-75, 2018-05-31

本稿の目的は、日韓の社会福祉学分野の文献において、「カルチュラルコンピテンス」に関する概念がどのように取り上げられているかについて検討し、今後の研究課題を提言することである。対象は日本の文献11件、韓国の文献22件であった。分析の結果、カルチュラルコンピテンスは文化的認識・文化的知識・文化的技術・文化的センシティビティーなどの内容が含まれる「包括的概念」、同僚・上司・組織及び多文化教育や訓練に関連する「連携的な概念」、業務の経験が重なりつつ肯定的な方向に発展していく「成長的な概念」であることが明らかになった。また、日本の文献は障がい者・児童など支援対象がより広範であり、韓国の文献は外国人に関する論文に集中していた 。日本の文献の主な内容は「教育」や「実践」などであったが、韓国の文献には「影響を与える要因」や「尺度開発」などが見られた。この結果を踏まえて今後の研究のための提言を行った。
著者
朴 蕙彬 Hyebin Park
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.124, pp.139-156, 2018-03-15

本稿の目的は,エイジズムに関する文献のレビューを行うことである。まず,先行研究の全体的な傾向を把握する。次に,エイジズムの構成要素を分析の枠組みにして日本のエイジズム研究の成果と課題を明らかにする。分析の結果,従来の研究の成果として多様な個人がもつエイジズム意識に関する基礎的データの蓄積が浮かび上がった。しかし,エイジズムに関する理論的考察が不十分であり,おそらくそれゆえに研究の焦点が心理的側面にもっぱら向けられる傾向があり,社会や文化などとの関連性には向けられていない傾向を発見した。これらの結果から,今後,エイジズムの理論的考察を深めるとともに,社会文化的要素を含めた包括的な研究枠組みを構築することが求められていると考える。
著者
鄭 煕聖 Heeseong Jeong
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Social science review (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.123, pp.21-35, 2017-12

本稿の目的は,当事者視点からセルフ・ネグレクト状態にある独居高齢者の支援ニーズを探索的に検討することである。セルフ・ネグレクトの状態にある65歳以上の在宅独居高齢者9名を対象に半構造化面接を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチの手法を参考に分析し,さらにマズローの欲求5段階説を用いて上位カテゴリーにまとめた。その結果,対象者の発言内容から調査対象者の支援ニーズに関係する17個のコードと9個のカテゴリーが抽出された。最終的に,マズローの欲求5段階説に基づき,【安全欲求充足のための支援ニーズ】【愛と所属の欲求充足のための支援ニーズ】【尊重欲求充足のための支援ニーズ】という3個の上位カテゴリーに分類できた。考察では,対象者の支援ニーズは段階に関係なく多様性を有しており,とりわけ,長期間放置されてきた潜在的ニーズを把握するためには当事者との親密な関係形成及びライフヒストリーに対する十分な理解が重要であることが示唆された。論文(Article)
著者
朴 蕙彬 Hyebin Park
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Social science review (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.125, pp.77-104, 2018-05

本稿の目的は,社会文化にみられる高齢者のステレオタイプを分析することである。まず,高齢夫婦が主人公である映画『東京物語』(1953)とそのリメイク作品である『東京家族』(2013)を対象に,登場人物間の人間関係や援助行動,セリフの分析を通して,両映画にみられる違いを明らかにする。次に,映画分析の結果を既存のエイジズム研究で明らかになっている高齢者イメージと比較する。その結果,高齢者は悠々自適,親孝行,援助の対象,孫が好き,女性高齢者の自己犠牲というステレオタイプが明らかになった。しかし一方で,高齢者自身が他の世代を援助する行動は受動的なものから能動的なものへと変化し,その数も増加した。さらに,家族以外の人物による高齢者に対する表現(エイジズム)も多様になってきていることがわかった。論文(Article)
著者
空閑 浩人 Hiroto Kuga
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.108, pp.69-88, 2014-03-20

本稿は,日本人の文化を「場の文化」であるとし,それに根ざしたソーシャルワークのあり方としての「生活場モデル(Life Field Model)」の構想を試みたものである。それは,日本人の生活と文化へのまなざしと,日本人が行動主体や生活主体として成立する「場」への視点とアプローチを重視するものであり,日本人の生活を支える「生活場(Life Field)」の維持や構築,またその豊かさを目指す,言わば「日本流」のソーシャルワークのあり方である。その意味で,この「生活場モデル」研究は,確かに日本の「国籍」をもつソーシャルワーク研究である。しかし,それはいたずらに日本のソーシャルワークの独自性のみを強調し,そこに固執するものでは決してなく,日本の中だけに止まらない国際的な可能性をも持つものである。
著者
郭 芳 田中 弘美 任 セア 史 邁 Hou Kaku Hiromi Tanaka Saeah Lim Mai Shi カク ホウ タナカ ヒロミ イム セア シ マイ
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.126, pp.15-32, 2018-09-30

本研究では「京都子ども調査」を分析することにより,子どもの自己肯定感に及ぼす要因を確認し,それらの要因の自己肯定感への影響の程度について,実証的に検証した。その結果,自己肯定感に影響を与える要因には「性別」「経済的要因」「関係的要因」があることが実証された。また,経済的要因の自己肯定感への影響はある一方で,「親・親戚との関係」「学校での生活」「友人の有無」という関係的要因のいずれもが自己肯定感に影響していることが明らかになった。
著者
藤本 昌代 池田 梨恵子 フジモト マサヨ イケダ リエコ Fujimoto Masayo Ikeda Rieko
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Social science review (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.130, pp.107-141, 2019-09

本研究は1940年代の尾高邦雄の職業研究を起点に,社会学における職業研究,職場の人間関係,職業集団,職場での労働者意識等の観点から再確認し,日本の社会学におけるホワイトカラーの研究経緯について2000年以降の傾向をまとめたものである。分析の結果,社会階層研究などの個人の職業に関する研究が1950年代から継続され,後続する研究者が育成されているのに対し,尾高や同時代の多くの社会学者が盛んに行ってきた企業調査や同業者組合,職人集団等の職業研究は徐々に減少し,2000年以降も減少し続けていることが確認された。その一方で,ホワイトカラー職,専門職の働き方に関する個別の調査では,丁寧なフィールドワークや多様な方法を用いた重厚なものが多く,研究内容の充実度は継続しているといえよう。論文(Article)
著者
朴 順龍 パク スンヨン Park Soonyong
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Social science review (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.118, pp.13-27, 2016-09

論文(Article)Z刑務所の受刑者25人を対象に,課題として作成したロールレタリングノートと教育感想文の内容分析を行った.分析方法はMayring. P.(2004)の質的内容分析方法に基づいた.分析結果,教育期間によって受刑者の心理的変化を概念化し,9つのカテゴリーと24個のサブカテゴリーを抽出することができた.このような結果を通じて,本教育プログラムが受刑者自分のみならず被害者に対する認識の変化及び教育認識の変化に肯定的な影響を及ぼすことが示唆された.In this study, the role-lettering and the education review notes created during the application of this education program to 25 inmates at Z prison in Korea, will be employed. The analysis is based on the qualitative content analysis method by Mayring. P. (2004). By conceptualizing inmates' changes of psychology and acceptance of this education program, the result of the data analysis was identified with nine categories including 24 sub-categories in three periods. This result suggests that this program has positive effects on not only changes in the recognition of inmates themselves and victims but also their acceptance of this education program.
著者
朴 順龍 パク スンヨン Park Soonyong
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Social science review (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.114, pp.19-33, 2015-09

論文(Article)本研究では、韓国の性犯罪者の教育担当職員4人を対象としてインタビューを実施し、教育プログラムの施行過程上の問題点を明らかにした。インタビューを通じて教育過程の中で、受刑者の個人差、ラポールの形成、教育方法、教育態度によって教育参加度や教育効果が左右されることが分かった。結論として教育効果を高めるために、教育担当者と受刑者の間にラポールの形成、視聴覚資料、ローレタリング手法などを活用する必要があった。This article deals with the problems of educating sex offenders at correctional psychology therapy centers in Korea. The result of this study is based on interviews with four professional educators. In order to improve sex offenders' effectiveness of education, it is important to build rapport between educators and offenders, to prepare audio-visual materials helping them to understand the benefits of the education program, and to introduce role-lettering which puts them in another persons' position.