著者
武井 明 鈴木 太郎 土井 朋代 土井 準 富岡 健 廣田 亜佳音 泉 将吾 目良 和彦
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.742-756, 2017-11-01 (Released:2019-08-21)
参考文献数
27

高機能の自閉症スペクトラム障害(ASD)患者が成人後に示す就労状況については十分検討されていない。そこで,今回われわれは,児童青年期から経過観察できた高機能のASD患者が示す成人後の就労状況を明らかにするための調査を行った。対象は18歳以下で当科を初診した高機能のASD患者のうちで,成人後も通院を継続している56例(男性21例,女性35例)である。調査時の平均年齢は24.1歳で,経過観察期間は平均9.3年であった。DSM-IV-TRによる診断では自閉性障害8例(14.3%),アスペルガー障害19例(33.9%),特定不能の広汎性発達障害が29例(51.8%)であった。最終学歴は高校卒業以上が39例(69.6%)を占めていた。併存症状は初診時に56例全てに認められ,最も多かったのは不登校で48例(85.7%)であった。一方,成人後の併存症状は32例(57.1%)に認められ,最も多かったのはひきこもりで15例(26.8%)であった。成人後の就労状況では,就労している者が15例(26.8%)(正規雇用は5.4%),就労支援事業所などに通所している者が17例(30.4%),無職者が24例(42.8%)であった。また,就労している者では併存症状を有している者が有意に少なかった。以上の結果から,成人後まで通院を継続しているASD患者では,知能が高くても正規雇用され自立した生活を送ることのできる者はきわめて少ないことが明らかになった。また,併存症状の有無が転帰に影響を与える可能性が示唆された。したがって,通院を継続している高機能のASD患者に対しては,青年期以降も切れ間のない継続した支援が成人期まで必要であると考えられた。
著者
二宮 有輝 松本 真理子
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.597-613, 2018-11-01 (Released:2020-02-28)
参考文献数
42

【問題と目的】日本の大学生を対象にSNSの活動データを収集し,抑うつ症状を伴う青年におけるSNS上の特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】Twitterを利用している大学生158名(男性94名,女性63名,不明1名,平均年齢18.89,SD=0.90,有効回答率73.8%)を分析対象として,抑うつ得点に基づき,正常群(57名),軽度群(75名),中程度以上群(26名)に群分けした。各参加者のTwitterから1カ月分の活動データを収集し,群間の差異を検討した。【結果および考察】Twitter活動データについて群間の差異を検討した結果,正常群に比して,軽度群および中程度以上群の方が午前中のオリジナルツイート(独り言)の割合が高くなる傾向が認められた。午前中のオリジナルツイート1,919件を対象にテキストマイニングを用い,対応分析により抑うつ群変数と抽出語との関連を検討した結果,「現実生活の多忙さ」と「現実生活からの逃避」の2成分が得られた。また,対応分析の布置図から,軽度群では学業などの現実生活の多忙さが表現されやすく,中程度以上群では学業からの逃避態度や,躁的な防衛と考えられる特徴がTwitter上に表現されやすいことが示された。今後は午前中のツイートだけでなく,対象とする投稿の範囲を広げ,本研究で得られた示唆が投稿全体に認められるのかどうかを検討する必要があるだろう。
著者
松本 俊彦
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.158-168, 2019-04-01 (Released:2020-02-28)
参考文献数
28

非自殺性自傷とは,感情的苦痛の緩和や他者に対する意思伝達や操作などの,自殺以外の意図からなされる,故意の身体表層に対する直接的損傷行為を指す。この行動は,DSM-Ⅳ-TRの時代までは,境界性パーソナリティ障害の一症候としてのみ認識されてきたが,DSM-5では,この行動は境界性パーソナリティ障害とは独立した診断カテゴリーとなった。このことは,従来の,自傷を限界設定の対象と見なす考え方から,自傷それ自体を治療の対象とする考え方と,治療理念の変化が生じたことを意味する。本稿では,まず非自殺性自傷に関する臨床概念の歴史的変遷を振り返り,今日における非自殺性自傷の捉え方へと至る過程を確認したうえで,物質使用障害などの嗜癖,ならびに自殺との異同を論じ,最後に,DSM-5における非自殺性自傷の診断カテゴリーの意義と課題について筆者の私見を述べた。
著者
佐藤 寛 石川 信一 下津 咲絵 佐藤 容子
出版者
日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.307-317, 2009-06-01
被引用文献数
2

The three depression self rating scales, the Children's Depression Inventory(CDI), the Depression Self-Rating Scale for Children(DSRS), and the Center for Epidemiologic Studies Depression Scale(CES-D), are used to screen for depression in Japanese adolescents. The present study incorporating these three scales and a semi-structured interview for determining DSM-IV depressive disorders aimed to test the ability of the scales to identify depressive disorders in a community sample of junior high school students in Japan. The receiver operating characteristics (ROC) analyses and stratum-specific likelihood ratios (SSLRs) were applied to the data sets of 286 community adolescents aged 12 to 14 years old. The ROC analyses revealed moderate convergent validity of these scales in detecting depressive disorders. The optimal cut-off points suggested by the ROC analyses were 31 for CDI, 24 for DSRS and 37 for CES-D, which were all higher than traditional cut-off points. Results of the SSLRs further demonstrated that these three scales were useful in screening for depressive disorders in Japanese community adolescents, applying the optimal cut-off points as noted.本研究の目的は,子どもの抑うつを測定する自己評価尺度の判別精度を受信者操作特性(ROC)分析と層別尤度比(SSLR)の観点から検討することであった。一般対象者の中学生286名に対し,抑うつの自己評価尺度であるCDI,DSRS,CES-Dの日本語版を実施した。加えて,DSM-IVに基づくうつ病(大うつ病,気分変調症,小うつ病)の半構造化面接を実施し,抑うつの自己評価尺度との比較を行った。本研究の対象者のうち,15名(5.2%)が面接時点で何らかのうつ病の診断に該当していた。ROC分析の結果,これらの自己評価尺度はいずれも中程度以上のうつ病の判別力を示しており,各尺度の最適なカットオフ値はそれぞれ,CDI31点,DSRS24点,CES-D37点であることが明らかにされた。SSLRを算出したところ,CDIでは0-21点で0.51,22-30点で1.57,31-54点で108.40となった。DSRSでは0-15点で0.46,16-23点で1.06,24-36点で∞であった。CES-Dでは0-15点で0.40,16-36点で1.00,37-60点で54.20であった。各尺度の日本語版における従来のカットオフ値(CDI22点,DSRS16点,CES-D16点)を満たしていた場合でも,得点が本研究のカットオフ値に満たない場合にはうつ病の検査後確率は検査前確率とほとんど変わらないことが示された。
著者
松本 美希 河邉 憲太郎 近藤 静香 妹尾 香苗 越智 麻里奈 岡 靖哲 堀内 史枝
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.618-627, 2016-08-01 (Released:2017-05-17)
参考文献数
35

本研究は,自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorders: ASD)児の認知特性,特に視覚性注意機能の特徴をCog Health認知機能検査を用いて明らかにすることを目的とした。愛媛大学医学部附属病院精神科に外来受診中の7~15歳のASD児37例と,7~15歳の健常対象児131例を対象とした。ASD群にはCog Health認知機能評価の1カ月以内にWechsler Intelligence Scale for Children(WISC)を用いて知的水準を評価し,両群に対しCog Health認知機能検査を用いて注意機能およびワーキングメモリーの評価を行った。知的能力とCog Health各課題の正答率の関連については,遅延再生課題の正答率のみ知能指数と有意な関連があった。遅延再生を除いた各課題の誤回答数,見込み反応数,時間切れ反応数,正答率,反応速度の結果を比較したところ,注意分散課題において対照群に比べ,ASD群の見込み反応数が有意に低く,反応速度が有意に遅く,正答率が有意に高く,注意分散課題でのASD児の優位性が明らかとなった。ASD児の中枢統合性の障害や,視覚探索能力の高さ,字義通り性などの認知機能を反映している可能性が示された。
著者
井上 勝夫 神谷 俊介 吉林 利文 宮岡 等
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.199-207, 2018-04-01 (Released:2019-08-21)
参考文献数
18

重症の聴覚過敏症状を呈した自閉スペクトラム症autism spectrum disorder(ASD)の18歳女性症例の治療経過を報告した。患者は13歳時に不登校のため当院を初診し,特定不能の広汎性発達障害と診断された。18歳時,ほとんど全ての日常生活音に過敏となり驚愕の反応を示し恐怖を感じるようになり,耳栓とイヤーマフでも対処困難なため再診した。耳鼻科での医学検査,頭部magneticresonance imaging検査,および脳波検査で異常所見なく,ASDに関連した聴覚過敏と診断された。適応外使用であることを含めた説明と同意を経て薬物治療を試みた。Aripiprazole(ARP)を18mgまで漸増したところ症状は軽快したが,副作用が生じたため中止した。その後,ARP 3 mgで症状の軽快がみられたが効果不十分だったため,ARP再開3カ月後より音曝露を課題とした治療の併用を試みた。音曝露は,音楽を耐えられる音量で1日1回15分毎日,徐々に音量を上げ,耳栓の上からヘッドホンを装着して聴くことを課題とした。その結果,音刺激に対する馴化と般化が生じ聴覚過敏は大幅に軽減した。ARP再開5カ月後,副作用のためARPを中止し音曝露のみを3カ月間継続したが,症状の改善が続いた。本症例の治療経過から,ASDの聴覚過敏に対する少量のARPと音曝露の併用の効果の可能性が示唆された。ASDの聴覚の特徴,ASD治療におけるARPについての副作用を含めた最近の知見,聴覚過敏の治療,および今後の展望について考察した。