著者
森脇 由美子 Moriwaki Yumiko
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 = Jinbun Ronso: Bulletin of the Faculty of Humanities, Law and Economics (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.65-73, 2021-03-31

19世紀にアメリカで大流行した大衆芸能ブラックフェイス・ミンストレルは、音楽、ダンス、寸劇の要素が合わさっていることから、文学、音楽やダンス研究、歴史学と多方面から研究が行われている。ブラックフェイス・ミンストレルに見られる黒人文化の借用や差別的内容、その影響力などは多くの研究者の関心を集めてきた。とりわけ1990 年代以降は、ホワイトネスの研究者たちが移民労働者たちの「白人性」の構築過程を探るための手掛かりとしてこれを取り上げたため、その人種意識が国民化や国民文化などと結びつけて論じられることが多かった。しかし近年では、このようなナショナル・ヒストリーを超え、大西洋史的視座から捉える研究も見られるようになった。これまでの研究を振り返るとともに最新の研究を紹介し、ブラックフェイス・ミンストレル研究の今後の方向性を展望する。
著者
藤本 久司 FUJIMOTO Hisashi
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.145-155, 2011-03-30

世界の文化を類型化し対比する主要な研究から「コンテクスト」「時間感覚」「結論の位置」「視線」「対面距離」「身体接触」「あいづち」に視点をおいたものをとりあげる。また、コミュニケーションギャップの具体例をいくつか挙げ、上記研究及び他の複数の視点から考察を行うと、1つの例にも様々な文化背景の要因が関わっていることがわかる。われわれは現代社会の異文化間コミュニケーションにおける非言語の重要性を一層注視しなければならない。ネット社会の発展の中で、文化背景を軽視した言語だけのコミュニケーションが増えることで、不要な誤解や摩擦が増え、時に極端な情報が伝わっている。誤解や無理解はそのままにしておくと偏見に変わる。理由や文化背景を正しく知り、また、説明する努力が求められる。メッセージの送り手は、送る相手の文化スタイルに合わせないとメッセージの内容が正しく伝わらない、ということを再認識することが必要だ。そのため自文化を深く知り、異文化の相手に正確に説明することと、接触する相手の文化について事前の理解を深めた上でコミュニケーションすることが肝要である。
著者
大河内 朋子 Okochi Tomoko
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
no.26, pp.29-39, 2009

「描写できないものの同義語」とされるアウシュヴィッツの描写可能性を巡る論争は今なお決着を見ていないが、その一方ですでに数多くの芸術的表現や歴史的ドキュメントか存在する。本稿では、戦後のドイツにおけるコミックメディア(外国コミックの翻訳を含む)がドイツ「第三帝国」(特にホロコースト)をどのように描いてきたかについて検討する。結論を言えば、ドイツ国外のコミック作品においては、たしかにナチス・ドイツは加害者として描かれているが、主たる関心は、ホロコーストに関わる「過去の記憶」の保持と、語ることによる「過去の記憶」の再生にある。読者は、過去を忘却から救い、過去を現在と未来へ繋ぐように要請される。それに対して、ドイツ人コミック作家はユダヤ人虐殺を周縁的なテーマとして扱う。 作品中のナチ党員も加害者として一方的に断罪されるわけではなく、むしろ「第三帝国」下のドイツ市民全体がナチズムと戦争の犠牲者として捉えられている。
著者
村上 直樹 Murakami Naoki
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 = Jinbun Ronso: Bulletin of the Faculty of Humanities, Law and Economics (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.37-47, 2021-03-31

常識的には、人間は、物事を「頭の中」で理解していると考えられている。例えば、人間は、他人の言葉を、耳や目といった感覚器官を使って体の中に取り入れ、それを「頭の中」で理解していると考えられている。しかし、この描像は正しくない。他人の言葉は、「頭の中」で理解されているわけではない。そもそも他人の言葉そのものは、「頭の中」には入ってこない。では、他人の言葉は、どのようにして理解されているのだろうか。人間が、他人の言葉を理解するということはどのようなことなのだろうか。本稿の目的は、まずこの問いに答えることである。また、人間が理解しているのは、他人の言葉だけではない。人間は、言葉として表明されない他人の気持ちや意向、ひいては世界における様々な物、事象、現象をも理解している。そして、それらも人間の「頭の中」で理解されているわけではない。では、それらは、どのようにして理解されているのだろうか。こうした問いに答えることも本稿の目的である。
著者
藤田 伸也 Fujita Shinya
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.109-123, 2010-03-28

明治のころ、三重県の北勢地方では万古焼が四日市を中心に盛んに焼かれ、全国的にその名は知られて、商業的にも成功していた。しかし現在、万古焼は美濃や瀬戸に比べて知名度は低く、陶磁の産地としての規模も小さく、また陶芸作家の活動も卓越しているとはいい難い。この論考では明治以後現在に至る万古焼の道程を振り返り、日本近代陶芸の発展の様相を探り、芸術と産業の間で揺れ動く陶芸の可能性について万古焼を中心に考える。まず今回は明治時代から昭和時代前半期戦時下までの万古焼の歴史を振り返る。
著者
森 正人 Mori Masato
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.147-159, 2009-03-31

本稿は1934年の建武中興六百年祭と35年の大楠公六百年祭が、資本や寺院や地方自治体の関わりによってどのように演出されたのか考える。そしてそれを契機にして楠木正成に関わる事物や景観や人物などがどのように価値付けられたり発見されたりしたのかも紹介する。そうした過程は地域という地理的単位と結びついて展開した。それゆえ、地域なるものと国家なるものが関係的に立ち現れることが最後に示される。
著者
尾西 康充 岡村 洋子
出版者
三重大学
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.1a-15a, 2001-03-25

本研究で取りあげる梅川文男は,戦後,三重県議会議員(一期)・松阪市長(三期)をつとめ,革新の立場から手腕をふるった人物である。一九六一(昭和三六)年の就任から死去する六八年まで在職した松阪市長の時代には,文化行政の面で,いくつもの貴重な業績を遺している。『都市部落』・『農村部落』の出版(朝日文化賞受賞),三重県解放運動無名戦士の碑の建立,松阪市戦没兵士の手紙集『ふるさとの風や』の出版,本居宣長記念館の建設(完成したのは没後)などである。戦後半世紀を経た今日から見れば,もはやありふれたものに映るかも知れないが,当時としては,どれも時代に先がけた取り組みばかりであった。彼の取り組みの特徴を一言で述べれば,松阪が担っていたそれまでの歴史的な過去を,それらが持つ正の部分も負の部分も含めて正視しようという姿勢が貫かれている点にある。そのような行政上の実績を評価するうえで,忘れてはならないのは,梅川文男が戦前,農民組合の活動に携わりながら,プロレタリア詩を創作した詩人であったという事実である。戦前に活躍した三重県ゆかりのプロレタリア詩人として,四日市の鈴木泰治と並ぶ,きわめて貴重な存在である。雑誌「詩精神」は「プロレタリア詩雑誌の〈正系〉」(伊藤信吉)をうけ継ぐものであり,そこには,「堀坂山行」というペンネームで書かれた作品が毎号のように掲載されている。三四(昭和九)年一月から翌年十二月まで続けられた「詩精神」には,新井徹・後藤郁子を中心として,小熊秀雄・田木繁・遠地輝武・大江満雄・鈴木泰治など,すぐれた詩人が集まっていた。そのなかの一人として,「農民組合運動のさ中にある詩人」(新井徹)の立場から,梅川文男は農民運動および水平運動に直接関わる詩をいくつも寄稿していたのである。そこで本稿では,まず彼の文学活動について論及しようと考える(次号では,当時の農民組合運動について,淡路時代の記録を紹介しながら,彼の軌跡を明らかにしたい)。さらに巻末には,梅川文男に関わる研究資料として,大山とし氏から閲覧の許可をいただき,翻刻した書簡を紹介する。三・一五事件によって神戸で検挙起訴されていた梅川文男の様子がうかがえる貴重なものである。治安維持法違反の容疑で官憲に拘引されたのが二二歳,それから五年間も囚われの身となるのだが,その若さにもかかわらず,彼には「悟り切った人のようなユウユウたる御心境」がうかがえたという(書簡09 : 二九年六月一八日)。河合秀夫の妻いく子夫人が梅川の父辰蔵に宛てて記した書簡十六通,二八(昭和三)年七月一九日から三〇年九月二九日に至るまでの記録を,原文に従って掲載する。
著者
安食 和宏
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
no.18, pp.1-17, 2001

フィリピンでは,1960年代以降,マングローブ林の開発が急速に進展しており,それらの土地の多くは養殖池に転用されてきた。本稿は,(1)地元住民がどのようにマングローブを利用してきたのか,(2)養殖池建設によって住民生活にどのような影響が生じているのかを,具体的な村落調査に基づいて把握しようと試みたものである。対象地域は,ボホール島の南西部に位置するマリボホック町リンコッド集落である。26戸での聞き取り調査の結果,マングローブの中でも特にニッパヤシの葉を材料とするニッパ・シングル作りが,集落にとって重要な産業であること,またマングローブ地域は重要な漁場として機能していることが明らかとなった。しかし,1980年頃からマングローブ林地の一部は養殖池に転用されてきた。ニッパヤシ工芸の関係者や漁業従事者はこれを大きな脅威として受け止めているが,養殖池での賃労働に依存する住民も少なくない。すなわちマングローブ林の開発は,地元住民に対して不利益と利益を同時に与えている。住民の属性(職業など)や階層による違いに注目しながら,このような関連性をいかに見極めるか,評価するかが重要な課題となる。
著者
森脇 由美子 Moriwaki Yumiko
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.133-146, 2009-03-31

19世紀の第二・四半世紀のアメリカでは、都市労働者たちの間で新たなヒーローたちが登場した。これは彼らが市場革命や都市化の波にさらされる中で、従来のヒーロー像とは異なる存在に自らのアイデンティティを求めたからである。市場革命の進行にともない、ニューヨークのようなヨーロッパの大都会に匹敵する都市がアメリカにも出現し、都市の中に圧倒的に労働者階級的な娯楽の場が形成された。そこではスポーツ・ヒーローとしての拳闘家や、労働者階級化した劇場の人気俳優および登場人物などが、新たなヒーローとして人々喝采を浴びた。さらに政治の領域でも、選挙権の拡大によって労働者階級まで選挙権を持つと、魅力ある人物として人々の心に訴えかける手法がこれまで以上に重要性を持つようになり、マイク・ウォルシュのような新たなタイプの政治家が登場することになる。しかし、これらの労働者階級のヒーローは階級的性格が強かったため、結局、「国民的」ヒーローとまではなりえず、人々の記憶に長くとどまることはほとんどなかった。
著者
坂本 つや子 SAKAMOTO Tsuyako
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
no.28, pp.73-87, 2011

クリストファー・マーロウの戯曲、Doctor Faustusの主人公フォースタスについて、マーロウが資料として用いたThe English Faust Bookをもとに検討する。順序は次のとおりである:1ヴィッテンベルクで学位を取得したフォースタスが悪魔と契約を結ぶ経緯、2数回の大旅行(地獄と天界の旅、ローマ訪問、世界旅行の途上楽園を遠望する)について、3カロルス5世の宮廷訪間、4アンホルト公爵夫妻訪間、5トロイのヘレンについてのエピソード、6ワグナーを相続人に指名する、学者たちとの別れ、手記の発見。The English Faust Bookでは、フォースタスはルネサンス人として異教の文化を学び、神の領域に属する知識を手に入れるため、冒険的探求の旅に出る。彼は手記を残し、死後出版されるよう心を配る。Doctor Faustusでは、フォースタスは悪魔に魂を売ることで人間に隠されている知識を獲得するが、その知識は彼を解放せず、むしろ神が支配する世界の枠組みの堅牢さを認識させる結果となる。しかし彼が高く評価するギリシア、ラテン世界の思潮は、中世的世界の枠組みを壊す力を秘めている。
著者
福田 和展
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
no.18, pp.97-114, 2001

《伍倫全備諺解》は明の郎溶が著した南戯《伍倫全備》が朝鮮に伝わり,中国語通訳官養成のための教科書として使用されていたものに,ハングルで中国語音の注音や解釈そして朝鮮語訳を施したものである。本書の序文には「雅浬並陳……最長於訳学」(正俗が並び述べられていて,最も訳学(通訳官養成のための外国語教育)に長じている。)と記されている。本稿では本書と同時期に朝鮮で中国語教科書として使用されていた《老乞大》《朴通事》との比較を通して,本書の文体,語彙,語法の分析を行い,「最長於訳学」とされる本書の言語的特長を明らかにした。