著者
朝比奈 俊彦 小林 隆夫 寺尾 俊彦
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.42, no.9, pp.1168-1174, 1990-09-01
被引用文献数
1

目的:受精卵の着床や妊娠初期の接着現象に関しては, その機序は依然として不明な点が多くいまだ十分解明されているとはいえない. そこでわれわれは, 着床直後のマウス初期胚およびヒト初期妊娠着床部, さらに正常子宮内膜培養細胞における接着関与物質の局在を酵素抗体法を用いて検索し, 初期胚と子宮内膜との接着機構の解明を試みた. 方法:(1)ICR系雌マウスをPMS-hCGを用い過排卵処理し交配させ, 妊娠5日目に子宮を摘出しfibronectin (FN), laminin (LM), type IV collagen (C_<IV>), XIII因子subunit S (XIII_S)の染色を行った. (2)ヒト患者において手術的に摘出した卵管妊娠(7〜8w)および子宮筋腫合併妊娠(5w)の着床部で, FN, LM, C_<IV>, XIII因子subunit A (XIII_A, XIII_Sの染色を行った. (3)ヒト患者において, 手術的に摘出した筋腫子宮の正常内膜部分を無血清培地にて単層培養し, FN, XIII_A, XIII_Sの染色を行った. 染色はすべて酵素抗体間接法を用いた. 結果:(1)マウス初期胚着床部では, FNとXIII_Sがtrophoblast giant cellsに, C_<IV>は子宮内膜上皮細胞に陽性染色された. LMはdistal endodermとその基底膜に陽性染色された. (2)ヒト初期妊娠着床部ではC_<IV>がsyncytiotrophoblastの表面と絨毛間質部, および子宮又は卵管内膜間質部に, FNとXIII_Aが絨毛間質部, および子宮又は卵管内膜間質部に陽性染色された. (3)子宮内膜培養細胞においてはFNとXIII_Aが間質細胞に陽性染色された. 結語:(1)マウス初期胚着床時の接着現象において, FN, C_<IV>およびそれらの接着に架橋的に働くXIII 因子の関与が強く示唆された. (2)ヒト初期妊娠の接着機構においてもFN, C_<IV>, XIII因子の関与が強く示唆された. (3)さらにそのFNとXIII因子は, 子宮内膜間質細胞で産生されていることが判明した.
著者
青木 耕治 Yagami Yoshiaki
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.34, no.10, pp.1773-1780, 1982-10-01
被引用文献数
8

原因不明習慣性流産(習流)に対する疾患感受性遺伝子の関与の有無と,習流夫婦間の主要組織適合性の差異を検討する目的で,習流夫婦26組と,対照として2人以上の子供を有し流産既往のない健常夫婦45組と健康成人206名のHLA-A・B・DR座抗原(A座8種,B座21種,DR座10種)を検索し,更に習流婦人26名についてはHLA-A・B・C抗体とDR抗体をも検索した.その結果:(1)習流夫婦と健康成人のA・B・DR座抗原遺伝子頻度を比較すると,習流夫婦の妻は,A11に関して26.6%を示し,健康成人の8.6%に対し有意に高い傾向を示した.(2)習流夫婦と健常夫婦のHLA適合性を比較すると,DR座について,1つ以上共通抗原を持つ組が前者で84.6%,後者で24.4%であり,明らかな有意差をみた.又,DR座について,夫が陽性で妻が陰性というMajor不適合の全くない組は,前者で26.9%,後者で2.2%あり,有意差をみた.逆のMinor不適合については,有意差はなかつた.(3)抗体の検索では習流婦人1名にA・B・C抗体を認め,DR抗体は全例の習流婦人に陰性であつた.以上の結果から,免疫遺伝学的見地より,A11を持つ妻は流産になりやすい可能性があり,移植免疫学的見地より,夫婦間のDR座抗原適合性が免疫学的妊娠維持機構に破綻をもたらす可能性があるという事が示唆された.
著者
横田 明重
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.15-22, 1993-01-01
被引用文献数
1

ω3系多価不飽和脂肪酸(以下ω3系PUFAと略す)は必須脂肪酸として脳, 網膜, 精巣に多く存在し, その欠乏により種々の障害を引き起こすといわれている. ω3系PUFAが極端に少ないサフラワー油食によりω3系PUFA欠乏ラット(SA群)を作成し, 胎仔, 新生仔および離乳ラットの脳の脂肪酸組成と学習能力の関係について検討し, 以下の結果を得た. 1. SA群は, 脳のDHAがControl群(SO群)に比し減少した. 2. SA群ではSO群に比してARが低値であり学習能力の低下がみられた. 3. SA群に離乳時(生後21日)からControl食を摂取させたSAO-1群ではARは速やかにSO群と同等となつた. 4. 条件回避学習開始時(生後60日)にControl食に変更したSAO-2群では, SAO-1群に比して遅れて条件回避率が上昇した. 5. 条件回避学習終了後の脂肪酸分析では, SAO-1群, SAO-2群のDHA, C22: 5ω6はSO群のレベルまでほぼ回復した. すなわち, 母獣の摂取する食餌により胎仔の脳, 分娩後の母乳, 新生仔の脳の脂肪酸組成は影響を受け, さらに離乳ラットの脳の脂肪酸組成は直接摂取する食餌の影響を受けることがわかつた. また, 脳のDHAの比率に並行して学習能力が変化することがわかつた. 以上のことより, DHAの脳構成成分としての重要性, 妊娠中, 分娩後の母獣の摂取する食餌の中のω3系PUFAの重要性が示された. さらに, 新生児を管理する際に母乳栄養の合目的性, 母乳摂取不可能な場合のω3系PUFAの補充の必要性が示された.
著者
荻原 範彦
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.20, no.9, pp.1151-1160, 1968-09-01

子宮頚癌放射線治療に際して白血球減少症をよく経験するが, 本症が照射前に予測できるならば治療計画の立案に有利となる. 著者は, 放射線治療を受けた子宮頚癌患者47例の白血球減少状態と照射前血液および骨髄所見との関係を検討した結果, 照射前の末梢血および骨髄の所見から, 照射により招来される白血球減少状態を予測しうることを明らかにすることができた. また減少を予測された症例にいくつかの抗白血球減少剤を使用した結果を検討した. その概要は次の通りである. 1. 照射中の白血球減少状態は, 照射前白血球数と初期白血球増多率との相関から予測することができる. 2. 照射終了後, 骨髄の低形成化によると思われる長期にわたる白血球減少状態を, 照射前の骨髄細胞数と白血球数との相関から予測することができる. 3. 以上の結果に基づいて, 照射による白血球系の障害を避けて照射を完了しうるような, 放射線治療基準を作製した. 4. イノシン, セファランチン, グルタチオン等の薬剤に抗白血球減少作用を認めた.
著者
有沢 信雄
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.137-144, 1964-03-01

Dehydroepiandrosterone (DHA)の可なりの大量が副腎静脈血から単離されているにもかゝわらず生物学的意義については始ど知られていない. 赤須らはDHAがTestosterone (TP)やEstradiol (ED)のPrecusorとしての役割の他に天然の蛋白同化ホルモンとして, 異化ホルモンたるCortisolと拮抗協力作用を営んでいるのではないかと考えている. 今回, 正常婦人及び去勢婦人にDHA単独又はDHAとTestosteronepropionate及びEstradiol benzoateを併用投与して尿中のPD及びPT値の測定を行つた. 実験結果は以下の如くである. 正常婦人にDHA1日20mg. 7日間投与した場合のPT値は0.41mg/dayから1.67mg/dayに増加しPD値は1.50mg/dayから2.01mg/dayに増加した. 一方, 去勢婦人にDHA1日20mg. 7日間投与した場合のPT値は0.64mg/dayから0.91mg/dayに増加しPD値は0.65mg/dayから1.15mg/dayに増加した. 即ち. PT値の増加傾向は正常婦人の方が去勢婦人より著明であり, これは正常婦人はDHAの17-Hydroxy progesteroneへの転換が容易であるが去勢婦人はたぶんProgesteroneを必要とするためDHAからの転換が難しいためと推定される. 去勢婦人にDHA1日20mgとTestosterone propinate 1日30mg, 7日間併用投与の場合のPT値は, 0.94mg/dayから0.73mg/dayに, PD値は1.13mg/dayから0.13mg/dayに減少した. PT. PD値の著明な減少は, Testosteroneが副腎皮質を抑制したためと思われる. 去勢婦人にDHA1日20mgとEstradiol benzoate1日2.00mg/day7日間併用投与の場合のPT値も0.61mg/dayから0.59mg/dayに減少しPD値は0.55mg/dayから0.19mg/dayと著明に減少したがPT値は殆んど減少を見なかつた.
著者
瀬尾 文洋 鈴木 秀宣 上原 一浩 矢内原 巧 中山 徹也
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.32, no.8, pp.1089-1097, 1980-08-01
被引用文献数
1

妊娠中における血中遊離型(F)及び抱合型(C)エストロゲン(E)の動態については未だ明らかにされていないため以下の実験を行った.対象としては正常妊婦及び分娩時の母体末梢血,並びに膀帯動静脈血を用いた.更に妊娠中毒症,胎児発育遅延(IUGR),無脳妃妊娠,胎盤性sulfatase 欠損症等の異常妊娠におけるF及びC.Eの変化も合蛙て検討した,被検血漿中よりエーテルにて抽出した分画をF分画として,次いでβ-Glucmronidase/Arylsulfatase を用いて加水分解を行い,Fとして抽出したものをC分画とした.本加水分解による回収率は85%であり,かつC.V.は5%と一定していた.Sephadex LH-20カラム.クロマトグラフィを用いて,estrone(E_1),estradiol(E_2),estriol(E_3)を分離し,各々を抗E_3-16,17-dihemisuccinyl-BSA血清を用いたRIAにて測宛した.(実験成績)(1)正常妊婦末梢血中E値は妊娠週数に伴いF及びCともに増長する.妊娠経過に伴うC.Eに対するF.Eの比(C/F)は各Eにより異たる.E_1では妊娠中期までは一定した上昇傾向を示さず妊娠末期に上昇する.E_2では俺は全期を通じて一定しているが,妊娠末期に軽度上昇を示す.E_3では妊娠経過に伴い前期で4.5,中期で6.5,末期では8.5と著しく上昇し,Cの増量が著しい.(2)妊娠中毒症及びIUGRではF及びC・Eとも低下し,Cの減少が目立つが,両老間に推計学的有意差は認められなかった.無脳児妊娠及び胎盤性sulfatase欠損症においてはF.EのみたらずC.Eも極めて低値であった.(3)母胎血中と臍動脈血中E値を比較すると,臍動脈血中総E値は母体血中値より高く(7倍).特にE_3値は母体血に比べ18倍の高値を示し,その大部分(98%)はCであった.E_1はCおよびFとも母体に高く,E_2値はFが母体に,Cは臍動脈に高かった.臍帯動脈間の血中各E値を比較するとCでは3Eにほとんど差はなく,Fが臍静脈にE_1, E_2, E_3共に各々5, 8, 1.7倍高値であった.
著者
深井 達也
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1-7, 1967-01-01

生体の示す免疫機構の上に胸腺が重要な位置を占める事がこの数年間の研究で明らかになつて来た.著者は,純系マウスに自然発生した可移植性リンパ肉腫を系の異なるマウスにallogeneicに移植し,移植免疫における胸腺の意義について若干の検討を試み次の実験成績を得た. (1) 新生児期に胸腺摘除を行うと組織適合性の異なつた系からの腫瘍移植が可能となる.即ちallogeneic tumor transplantationに対してtolerantになる. (2) 成熟期胸腺摘除は組織移植に対する免疫耐性に全く影響を与えぬ. (3) 新生児胸摘に依り生じた移植免疫能の失調状態は新生仔マウスの胸腺を移植する事に依り改善されるが,その際,移植胸腺が移植腫瘍と同系のものであるならば腫瘍移植は成功する.異系の胸腺を移植すると腫瘍移植は成功しない.この事実は胸腺が免疫耐性の導入にある役割を演じている事を示唆している. (4) 本実験から,胸腺が組織移植に関する免疫機構に極めて重大な影響を与える事,しかも胸腺が免疫機構の確立に於て演ずる役割は新生児期に於て重要である事が推察できる.
著者
安達 茂実 古谷 徳夫 三沢 芳夫 石田 道雄 金沢 浩二 竹内 正七 田中 耕平
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.38, no.11, pp.2031-2036, 1986-11-01

概要 近年、絨毛癌に対する化学療法において、etoposlde(VP-16)やclsplatm(CDDP)の投与が試みられ、その有効性が報告されている。今回、Nude Mouse (以下NM)移植絨毛癌細胞株GCH-1に対するVP-16、CDDPの抗腫瘍効果をMTXとの比較において検討するとともに、VP-16、CDDPの組織内移行濃度とその抗腫瘍効果およひ副作用との関連性についても検討し、以下の結果を得た。 1)腫瘍増殖抑制率Inhlbltlon Rate (IR)はVP-16 82 6%、CDDP 74 6%、MTX 36 2%てあり、VP-16およひCDDPのIRはMTXのIRに比較して有意であつた。 2)VP-16、CDDP、MTX投与群担癌NM、非担癌NMにおける薬剤投与前との比体重の推移をみると、CDDP投与群に有意の比体重減少が観察された。 3)担癌NMの血清β-HCGの推移は、腫瘍の増大と並行して上昇する傾向を示し、腫瘍増殖抑制効果のみられた薬剤投与群では明確な上昇は観察されなかつた。 4)VP-16 25mg/kg、 CDDP 5mg/kg を担癌NMにone shot にて腹腔内投与し、腫瘍、血液、各臓器におけるVP-16、CDDP濃度の経時的推移をみた。投与後05時間において、血中濃度に対する腫瘍、肝、腎濃度を比較すると、VP-16では各々0 10倍、0 59倍、0 32倍、CDDPでは2 68倍、2 85倍、5 42倍であつた。したがつて、VP-16はその血中濃度の割には各組織への移行率は低く、一方、CDDPはその血中濃度の割には各組織への移行率が高かつた。次に、投与後4時間までの推移をみると、VP-16の濃度は急速に減少し、投与後05時間における濃度に比較して、血液、肝、腎濃度はほぼ10%以下に減少した。これに対し、腫瘍濃度はなお37 1%の遣残を示した。CDDP濃度の減少はVP-16に比較して連延し、血液、肝、腎濃度はなお50〜60%の遺残を示し、腫瘍濃度はむしろ減少が早く、約20%の遺残に過ぎなかつた。