著者
太田 博孝 福島 峰子 真木 正博
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.525-529, 1989-05-01
被引用文献数
4

排卵障害に有効な漢方薬における卵巣直接作用のうち, とくにアロマターゼへの影響をラット卵胞を用いて検討した。卵胞はPMSG処理未熟雌ラットから分離した。また卵胞のアロマターゼ活性を阻害する目的で4-hydroxy-4-androstene-3, 17-dione (4-OHA ; 10^<-5>M) を用いた。各卵胞は培養液中で種への濃度 (10〜500μg) の当帰芍薬散, 桂枝茯苓丸, 温経湯, あるいはその生薬成分を加え, 24時間器官培養した。培養液中に4-OHA (10^<-5>M) を添加すると培養液中estradiol (E_2) 分泌量は対照群の38% (p<0.05) まで低下した。同時に上記漢方薬を添加すると, 100, 500μgの量でいずれもE_2分泌を有意に増加させた。このE_2分泌刺激作用がこれら漢方薬の構成生薬のいずれの作用によるかを知るため, シャクヤク, センキュウ, トウキ, ボタンビ, ケイヒにつき検討した。その結果シャクヤクのみがE_2分泌刺激作用を示した。シャクヤクはこれら3種の薬剤に共通に含まれる唯一の生薬であることを考えるときわめて典味深い。
著者
平出 公仁
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.18, no.11, pp.1265-1274, 1966-11-01

妊娠時における十二指腸からの鉄吸収についてその特異性を知るために, 放射性鉄を用い十二指腸拡置法によつて, 正常, 貧血, 鉄負荷時の鉄吸収, アミノ酸, 有機酸同時注入による影響, 胆汁中への鉄排泄と鉄の腸肝循環の可能性, progesterone, estrogenの鉄の吸収に及ぼす影響について観察した. 1)胃腸管ではすべての部位において鉄は吸収されるが, その中で十二脂腸では最もよく吸収が行われ, 回腸, 胃と続き, 結腸では僅少であつた. 2)妊娠時の鉄吸収は非妊時より亢進し, 臓器内鉄移行も増加している. 3)貧血妊娠時では正常妊娠時に比し鉄吸収が著しく迅速かつ大量である. 鉄負荷妊娠時は正常妊娠時に比し鉄吸収は抑制される. 母体臓器, 胎仔, 胎盤への鉄移行も正常時に比し貧血時は増加し鉄負荷時は抑制されている. 4)十二指腸内に微量鉄投与を行ないその鉄吸収を電子顕微鏡的に観察すると, 貧血妊娠時では正常, 鉄負荷時に比し十二指腸粘膜細胞のinterdigitation (指状篏合)が強く認められ, その吸収容積を拡大させ形態学上, 鉄吸収を容易にする状態にあること, 及び細胞内のlysosomeの存在は細胞内物質代謝の旺盛なることが考えられる. 5)十二指腸内に, ある種のアミノ酸, 有機酸が存在すると鉄吸収は亢進する. 6)生理的にも胆汁中に鉄が排泄され, ステロイドホルモンにおける腸肝循環と同様に, 鉄においてもこれが成立する可能性がある. 7)十二指腸における鉄吸収はestrogenによつて著しく影響される.
著者
武内 享介 乾 昌樹 森 敏之
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.44, no.11, pp.1443-1449, 1992-11-01
被引用文献数
2

妊娠時のマグネシウム投与のカルシウム代謝に与える影響につき, 切迫早産症例において血清, 尿中ミネラルおよびカルシウム代謝調節ホルモンの動態に着目して検討し, 以下の結果を得た. (1)血清Mg濃度は硫酸マグネシウム投与0.5時間後で著明に増加(1.91±0.06mg/dl→4.6±0.71mg/dl, p<0.01), 以後徐々に低下し2時間後からは3.65〜3.88mg/dlの間を推移した. 尿中Mg排泄量(Mg/Cr ratio)は前値(0.05±0.01)に比べ1時間後には3.18±0.8と明らかに増加した後(p<0.01), 緩徐に低下し最終的には1.97〜2.35の範囲内を推移した. (2)蛋白補正血清Ca濃度は投与前は9.04±0.47mg/dlであったが, 血清Mg濃度の増加に伴つて低下, 投与0.5時間後には8.3±0.27mg/dlとなつた(p<0.01). その後はほぼ一定であったが, 30時間後より徐々に上昇し60時間後には8.52±0.31mg/dlにまで回復した. 尿中Ca排泄量(Ca/Cr ratio)は投与前値(0.06±0.03)に比べ投与0.5時間で1.85±0.16と有意に増加した(p<0.01)が, その後徐々に低下し0.58〜0.92の範囲内を推移した. (3)血清PTH濃度(前値181±76.9pg/ml)は投与1時間後に118±42.2pg/mlへと軽度低下したが, 6時間後には294±121pg/mlへと上昇した(p<0.05). (4)血清1α, 25-(OH)_2 vitamin D_3濃度(前値89.3±44.2pg/ml)は投与24時間後には126±38.7pg/mlと有意に増加した(p<0.05). (5)血清CT濃度には経過中有意な変動を認めなかつた. 以上の知見より, 切迫早産におけるリトドリン治療下では, 硫酸マグネシウム投与は尿中Mg排泄量と尿中Ca排泄量の増加を惹起し, 血清Ca濃度の低下を招来する. その結果, PTH分泌の増加とそれに引き続く1α, 25-(OH)_2 vitamin D_3の産生促進が生じ, 血清Ca濃度は正常化に向かう可能性が示唆された. なお, CTの関与は少ないものと思われた.
著者
宮本 耕佑
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.17, no.6, pp.471-477, 1965-06-01

習慣性または切迫流早産に対するVitamin Eの治療効果については, 若干の報告があり, おおくはその有効なことをみとめているが, いまだそのさいの作用機序については明確にされていない. そこでその一端をうかがう目的で, Vitamin Eが生体子宮運動にどのような影響をおよぼすかということを, ウサギについてバルーン法によって実験をおこない, つぎのごとき知見をえた. 1) 非妊成熟ウサギの子宮収縮運動は Vitamin E の投与によって抑制される. とくに投与量の増加や投与日数の延長に比例して, 抑制効果も増強する. 2) Vitamin E により抑制された子宮運動は, Estrogen (Estradiol)の併用によりまもなく回復にむかい, ついには著明な昂進をしめしてくる. すなわち Vitamin E の抑制作用は Estrogen の子宮運動昂進作用を抑制するほど強力なものではない. 3) おなじくはじめから Vitamin E と Estrogen を併用投与すると, Vitamin E の抑制効果はきわめてよわく, 投与期間の延長とともに Estrogen の効果のみが顕著にあらわれてくる. 4) Vitamin E と progesterone の併用投与では, Progesterone 単独投与あるいは Vitamin E 単独投与の場合ととくにかわった所見はなく, 波形上からのみでは両者に相剰作用があるかどうかはあきらかにしえなかった. 5) 下垂体後葉ホルモンに対しては, Vitamin E による子宮運動の抑制度にほぼ平行して感受性が低下し, progesterone の場合と類似の経過をとる. しかし Vitamin E に Estrogen を併用したときは, その投与期間に比例して, 感受性が昂進してくる. 以上のごとく Vitamin E ぱ生体子宮の運動を抑制するもので, あたかも Progesterone 様の作用があることを確認した.
著者
酒井 潔 水元 修治 田中 昭一 荒木 重雄
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.63-68, 1969-01-01

従来,卵巣の内分泌能をみるのに,尿中に排泄される性ホルモンを定量する方法が広く行われてきた.しかし,より直接的に卵巣の内分泌能をみるには,血中のホルモン動態をしらべるのがよい,我々は,^3H-estradiolを人間に静注し.その血中よりの経時的減少から.Taitのtwo-compartment modelに従つてestra-diolのmetaboloc clearance rateを測定した.対象は月経整順な成熟婦人6名であり,いずれも黄体期と考えられた.^3H-estradiol(20.3μCi/μg)ethanol溶液10μCiを生理食塩水で稀釈し,対象に静注した.その後経時的に採決し,血漿10mlをとつて放射能測定の材料とした.これをetherで抽出し,非結合型^3H-estradiolのみをcolumn cgromatographyで分離し.liquid scintillation spectrophotometerにより放射能を測定した.^3H-estradiolの血中濃度を時間の経過に従つて片対数グラフ上にとると.注射直後より約30分までの急激な減少とそれ以後の比較的なだらかな減少との2相性の直線をなすことがわかつた.従つて.これに対してTaitのtwo-compartment modelを適用してestradiolmetabolic clearance rateや生体poolの大きさなどの計算を行つた.その結果,estradiolのmetabolic clearance rateは697-1065l/日,平均856l/日であり,inner poolの大きさは17.9-35.7l,平均25.2l,またinner pool outer poolをあわせた生体内poolの大きさは41.8-69.0l,平均56.5lという値が得られた
著者
森 和郷 小森 昭人 平沢 峻 倉増 敏男 横山 幸生 川瀬 哲彦 尾関 良隆 橋本 正淑
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.15, no.13, pp.1231-1236, 1963-11-01

昭和35年6月1日より昭和36年9月19日迄の約1年2ヵ月の間に, 札幌医科大学産婦人科外来に於て腟鏡診を中心として行った子宮頚癌の早期診断の結果について報告した. 対象患者は外来診察に於いて既に子宮口糜爛を有する者及び癌の精密検査を希望するもの2000例である. 検査方法は腟鏡診及び細胞診を行い, 腟鏡診にて必要を認めたものに照準切除診を行った. 腟鏡診に使用した機械はMollerの双眼コルポスコープである. 加工腟鏡診として錯酸診, 沃度診及びアドレナリン診を附加した, 判定規準は大凡Hinselmannの分類に従ったが, 一部改変した. 細胞診はPapanicolaouの原法に従い且判定規準も同氏のものを用いた. 組織診はHaematoxylin 染色, 必要に応じてVan Gieson染色を行い, 判定はMullerの分類に従った. 1) 検診患者の年令的分布は, 腟鏡診異常所見群のピークは36〜40才に, 癌性潰瘍群のピークは46〜50才であった. この両者の年代的差異は異常所見からの悪性化の年次的関係を暗示させるものと思われる. 2) 受診患者の自覚症状は不正出血38.5%で第1位, 順次帯下25.9%, 接触出血12.5%, 無症状14.3%, 腰痛5.9%, 月経異常2.8%となり, 接触出血を含めた性器出血が大半を占める. 又無症状のものから6.8%に腟鏡診的異常所見が発見された. 3) 腟鏡診所見の頻度については, 良性所見は全体の84.7%に見られ(転位帯25.9%, 変換帯38.5%, ポリープ5.1%, 腟炎6.0%, 真性糜爛9.1%), 異常所見は全体の15.2%に見られた. (白斑1.9%, 基底2.0%, 分野1.5%, 異型変換帯1.1%, 異型血管5.0%, 癌性潰瘍3.4%). 4) 肉眼的癌又は癌を疑わしめた140例中, 腟鏡診では119例に癌と診断したが, 組織診では117例に侵入癌があった. 即ち肉眼的に23例, 腟鏡診では2例の誤診があった. 5) 腟鏡診と細胞診との比較に於て, 腟鏡診のみで癌と診断したもの94.8%, 細胞診のみで癌と診断したもの97.4%であった. 両者を併用すると100%近い診断率が得られた. 6) 腟鏡診と組織診との関係を腟鏡診的癌母地と見做される所見について観察すると次の如くであった. 即ち白斑50例中侵入癌2例, 異型上皮4例, 基底66例中癌6例, 上皮内癌4例, 異型上皮5例, 分野50例中侵入癌2例, 上皮内癌3例, 異型上皮8例, 異型変換帯63例中上皮内癌2例, 異型上皮3例, 異型血管89例中侵入癌37例, 上皮内癌2例, 異型上皮5例を夫々組織学的に確診した. 又変換帯979例中30例0不穏上皮異型上皮11例が見られたことは注目に値する. 7) 腟鏡診に於ける血管像は特に観察した1433例中異型血管301例(21.0%)が見られた. これらを組織診にて検するに侵入癌78例, 上皮内癌6例が見出され, 悪性率27.9%であった. 以上の観点により, 腟鏡診は子宮頚癌の早期診断への補助診として, 細胞診及び組織診との併用が望ましいと思われる.
著者
上野 隆
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.27-48, 1954-01-01

本論文の要旨は昭和27年4月1日第4回日本産科婦人科學會總會に於て發表した.更に其の1部は昭和25年5月21日春季名古屋醫學會第59回總會,昭和25年10月22日秋季名古屋醫學會第60回總會,昭和26年2月25日第7回東海産科婦人科學會,昭和26年11月3日第9回東海近畿連合産科婦人科學會に於て夫々分割發表した.
著者
黒牧 謙一 竹田 省 関 博之 木下 勝之 人見 祐子 前田 平生
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.46, no.11, pp.1213-1220, 1994-11-01
被引用文献数
10

産科における輸血の必要性と他家血輸血の危険性を考慮すると自己血輸血法の確立は不可欠である. 今回産科症例に対して自己血輸血を行い, 採血及び輸血による妊婦の血液性状の変化につき検討し, 妊婦の自己血輸血の臨床効果とともにその有用性と問題点につき検討した. 分娩時に出血が多量になる可能性の高い, 前2回帝切例, 前置胎盤や稀な血液型の妊婦, 34例を対象とした. 採血1週間前より鉄剤の投与を行い, 自己血採血は1週間ごとに300mlずつ3回行うことを基本とした. 分娩後は出血量に応じて自己血輸血を行った. 採血後エリスロポエチン値は上昇し, 同時に網状赤血球数は増加し, 脱血後急速に赤血球を増産していることが判明した. ヘモグロビン(Hb)値は900mlの採血で平均0.6g/dlの低下であった. ヘマトクリット(Ht)値, 総血漿蛋白(TP)値もHb値とほぼ同様の動きを示した. またその他の血液検査には大きな変動を認めず, 母児に対しても採血による影響は認められなかった. 分娩時の出血が多量であっても, 自己血の返血を行うことにより同種血輸血は必要なく, 正常産褥経過症例とほぼ同様の血液所見を示した. 輸血後は倦怠感やふらつきなども軽減し, 乳汁分泌も良好であった. 産科領域においても妊婦の自己血輸血のための採血及び輸血の安全性と有用性が確認された.
著者
小林 浩
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.40, no.7, pp.828-834, 1988-07-01

2型糖鎖抗原に属するSialyl SSEA-1抗原を用いて婦人科疾患, 特に卵巣癌に対する腫瘍マーカーとしての有用性について検討するとともに, CA125との関連についても検討した. 子宮筋腫, 子宮内膜症, 良性卵巣腫瘍患者の平均値±標準偏差および陽性率は, 28.5±12.2U/ml(16.1%), 33.2±13.5U/ml (31.3%)および30.0±30.3U/ml (11.6%)であり, 子宮内膜症患者に比較的高い陽性率を認めた. 卵巣癌患者の臨床進行期別にその平均値±標準偏差および陽性率を求めると, I期は28.9±15.3U/ml(20.1%), II期は45.3±30.7U/ml(43.8%), III期は182.3±643.3U/ml(50.0%)およびIV期は63.2±70.4U/ml (72.2%)とその陽性率は臨床進行期が進むにつれて上昇した. また, 治療経過に伴うSialyl SSEA-1の変動は予後とよく相関した. CA125とのコンビネーションアッセイでは, Sialyl SSEA-1陽性でCA125陰性例は1例しか存在しなかつた. しかし, CA125と異なり, Sialyl SSEA-1は妊娠による影響が少ないため, 卵巣腫瘍合併妊娠における有用性はCA125より優れていた. 一方, 各種疾患腹水中や体液中のSialyl SSEA-1濃度を測定した結果, CA125と同様にチョコレート嚢胞内容液, 羊水中および卵巣癌患者腹水中に極めて高濃度の抗原が存在した. さらに, 子宮内膜症患者の腹水中濃度も比較的高値を示すため, これが血中濃度に反映している可能性が示唆された. 以上より, Sialyl SSEA-1抗原はCA125と同様, 子宮内膜症で比較的高値を示す傾向を認めたが, その陽性率はCA125より低率であつた. また, 卵巣癌の血清学的診断における有用性に関しては, 卵巣癌全体では47.2%に陽性を認め, 臨床的には予後をよく反映したが, 早期癌における陽性率が低く, 早期発見には不適当であつた. さらにCA125とのオーバーラップを認めたため, コンビネーションアッセイによる陽性率の上昇は期待できなかつた.
著者
小林 浩
出版者
社団法人 日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.1051-1055, 2007-04-01

卵巣子宮内膜症性嚢胞から0.5〜1.0%の頻度で悪性化をきたすことが推定されている.45歳以上で6cm以上の腫瘍径を有する症例がハイリスクであると考えられ(4cmでも癌化の報告はあるが),卵巣子宮内膜症性嚢胞から癌化するまでは約5年の歳月を有する.閉経前の患者は長年(1〜15年)経過して徐々にチョコレート嚢胞が増大し悪性化をきたすのに対して,閉経後の患者は比較的短期間(1〜3年)で悪性転化をする可能性が示唆された.閉経期に増大するチョコレート嚢胞は悪性化を見逃さないように各種画像診断により評価すべきであると思われる.したがって,「閉経すればチョコレート嚢胞は治る」と患者に説明することは注意を要する.臨床的には,チョコレート嚢胞が悪性化する前には月経困難症等の症状が消失することが多い.病気が治癒したのではなく悪性化をたどっていると考える.また,エコーでは内部構造が黒くみえてくると要注意である.
著者
BERDUO Francisco HAYATA Takashi KAWASHIMA Yoshiro
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.42, no.12, pp.1697-1701, 1990-12-01

日常臨床上, 子宮内膜症を有する不妊症患者に遭遇する機会は多い. われわれの既往妊娠・分娩歴からみた子宮内膜症統計によると, ことに外性子宮内膜症においてその妊孕性は低い(59%). そこで, 子宮内膜症の根絶が不妊婦人に福音をもたらすとの観点から, 子宮内膜症の発生病理の解明を図らんとした. 著者らは以前, 内性子宮内膜症を代表する子宮腺筋症に着目し, その異所性内膜腺管上皮の電顕像を得, 所見を正所性子宮内膜 (増殖期) および高分化型子宮内膜腺癌の電顕所見と比較検討した. その際, 子宮内膜症が類腫瘍性増殖の可能性を有していることが示された. 今回, 外性子宮内膜症の代表として, 不妊症と関連の深い卵巣チョコレート嚢胞内腔面を構成する上皮細胞を電顕的に検討した. その結果, 異所性子宮内膜を有する子宮腺筋症と, 卵巣チョコレート嚢胞の主役を成す腺管ないしは嚢胞内腔上皮は, 電顕的に異なることが示された. このことは, 子宮腺筋症における正所性子宮内膜基底層の連続進展説を併せ考えても, 卵巣チョコレート嚢胞の発生病理は, 子宮腺筋症のそれとは異なることが示された. また, 後者の低い妊孕率からも, 卵巣チョコレート嚢胞を代表とする外性子宮内膜症には, 不妊症臨床上, 格別の配慮が望まれる.
著者
菊山 逸夫
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.572-580, 1978-06-01

糖代謝が胎児新生児の発育にどのように関連しているか知る目的で,妊婦静脈(M.V),分娩時母体股動脈(M.A),〓帯静脈(U.N),新生児静脈より採血した赤血球の解糖系酵素(G-6-PDH, PK, F-6-PK)活性を,ultraviolet法により測定し次の結果をえた. 1) 妊娠各月数における酵素活性の変化に一定の傾向はみられず,正常婦人のそれとも差はなかつた. 2) 酵素活性の母児相関 G-6-PDH活性:r=0.609, F-6-PK活性:r=0.792, PK活性:r=0.548で,これらの相関はすべて有意であつた. 3) 出生体重とG-6-PDH活性 満期産児では体重の重いものほど高い活性をしめした.しかし早産未熟児では低体重にもかかわらず,巨大児と同程度の高活性であつた. 4) 分娩時間とG-6-PDH活性について,M.Aでは15時間を越えると低値をしめすものが多く,予定帝王切開群では経腟分娩群に比べ低値をしめした(P<0.05). U・Vでは時間による変化はみられず,分娩様式においても差はなかつた. 5) Embden-Meyerhof pathwayとP.M.SのratioをF-6-PK/G-6-PDHで表わすと,M.A=11.0, U.V=5.5で,胎児のP.M.S優位が証明された. 6) 新生児の各酵素活性に男女差はなかつた.G-6-PDH活性はU.Vに比べ日令7日で30%の低下がみられた.F-6-PK, PKでは日令変化はなかつた. 7) 特発性高ビリルビン血症をおこした新生児で,光線療法をした児に活性変化はなかつたが,ACTH投与児ではG-6-PDH活性の低下をみた(P<0.05). 以上よりP.M.Sは胎児体重と密接な関係があると推察された.また母と児の酵素活性が相関していることから,母体のP.M.Sを活発にすれば胎児体重を増加せしめうるのではないかと考える.
著者
茂呂 信高 長塚 正晃 藤原 紹生 白土 なほ子 小塚 和人 奥山 大輔 千葉 博 齋藤 裕 矢内原 巧
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.333-339, 1998-06-01
被引用文献数
1

近年, 退行性骨粗鬆症を予防するには性成熟期における骨量をより高めることが重要と考えられている.今回, 超音波骨密度測定装置を用いて思春期女子の踵骨骨密度を測定し, さらに骨代謝パラメーターとして血中Intact Osteocalcin(OC)値, 尿中, Deoxypyridinoline(DPYR)値および初経発来との関係について検討した.[方法]対象は健康な6歳から15歳の女子295名である.骨密度測定は, 超音波伝播速度(S0S), 超音波減衰係数(BUA), Stiffness(ST)を測定した.血中OC値はオステオカルシンキット(ヤマサ), 尿中DPYR値はPYRILINKS-D Assay(METRA Biosystems Inc.)を用いて測定した.[成績]1)SOS値は6歳よりその変動は軽微であるが初経発来後は有意な上昇がみられた.BUA値は9歳より漸増, 初経発来後13歳までその上昇は顕著であり, 初経発来群は未発来群に比し有意に上昇した.ST値はほぼBUA値と同様の傾向を示した.また初経発来後のSOS, BUA, ST値の変化についてはその後3年後に変化が顕著であった.2)血中OC値は6歳から11歳にかけてやや上昇するもその後下降する一方, 尿中DPYR値は11歳より13歳にかけて著減しBUA値と有意な負の相関を示した.OC/DPYR比の推移をみると初経発来により明らかな高値を示した.[結論]BUA値は主に骨の緻密度を, SOS値は骨の硬度を表わすとされている.今回初経発来前後の思春期女子の骨密度の推移を超音波により検討したところ, SOS, BUA値は異なった推移を示したことから, 思春期には骨質の変化が生じており, これらは初経発来によりさらに大きく変化することが示された.またOC/DPYR比は初経発来以後明らかな高値を示しており, 思春期の骨密度の増加と初経発来が関連することが示唆された.
著者
沢住 和秀
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.33, no.7, pp.987-995, 1981-07-01

ガードリング型外測陣痛変換器背面に800gの重錘を乗せ, 腹壁圧着を一定にして, 子宮収縮指数を用いて子宮収縮を定量化し, NSTとOCTを行なつた.妊娠中の子宮収縮指数は分娩前4週で増加し, 分娩前にふたたび増加した.また初摩婦の方が経産婦よりも大きた子宮収縮指数を示した.OCT時の胎児心拍数図所見は分娩時の所見と同様のものが多かつた.0CTはNSTよりも分娩時fetal distfessを予測するのに有用であるが, 分娩時にはOCT陽性, 疑陽性例はもちろん, 陰性例にも分娩監視をおこたつてはならない.OCTの最適負荷は子宮収縮指数で65〜70min・g/cm^2と思われる.高くても100min・g/cm^2以下におさえた方がよい.OCT施行中にfetal distressを示した場合はすぐに中止すべきである. OCT陽性例ではOCTによりLTV減少傾向がみられた.