著者
平松 祐司 江口 勝人 米沢 優 早瀬 良二 関場 香
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.442-448, 1981-04-01

ポリアミン生物界に広く分布する生体アミンで, 核酸合成, 細胞増殖との密接た関係が明らかになつてきている.しかし, 産科領域におけるポリアミンの報告はきわめて少ない.そこで今回我々は, 妊娠, 分娩, 産褥, 新生児の血中ポリアミン(putrescine, spermidine, spermine)を高速液体クロマトグラフィーを用いて測定してみた.なおポリアミンは血液中では赤血球に多く, 血漿中に少ないので, 今回は赤血球ポリアミンについて検討を加えた.妊娠するとspermidine, spermineは徐々に増加しはじめ, その増加程度は妊娠5ヵ月より急増し, 妊娠7〜9ヵ月では非妊振時に比較するとspermidineは約2倍, spemineは約3倍の高値をとるが, 妊娠10ヵ月に入ると両者とも減少してきた.そして, 産褥5同目では妊娠10ヵ月の値と比較しspermidineは同程度, spermineはやや高値をとつた.しかしputrescineは妊娠, 産褥を通じ非妊娠時と同程度の低値で推移した.この妊娠時のspermidine, spermineの変化については, 骨髄造血機能および内分泌の影響が, 産褥期の変化については, 分娩時出血による造血光進および乳汁分泌の影響が考えられる.分娩時母体血と膀帯血の比較では各ポリアミンとも膳帯血中に有意の差をもつて多かつたが, 膀帯動静脈間の差は認められなかつた.この母体血と膀帯血問の差は, 胎児造血機能の亢進のみでなく, 胎児の成長発育を反映している可能性もある.新生児期においては, 各ポリアミンとも生後1目目にやや増加し, putrescineは7目目までそのレベルを保つたが, spermidine, spermineは徐々に減少していつた.この新生用赤血球のspermidine, spermineの変化は, 新生児末梢血中の有核赤血球, 網状赤血球の生後の変化とよく似ている.
著者
小幡 憲郎 児玉 省二 半藤 保 竹内 正七
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.413-421, 1980-04-01

異なった免疫能を持つだウィスター系ラット(無処置群,胸腺摘除群,プレドニゾロン投与群)の腎被膜下に,妊娠5〜11週の正常遊離絨毛を移植し,移植絨毛の変化を形態学約に検討した.1)宿主(ラット)の移植絨毛に対する免疫学的応答としての小円形細胞浸潤は,無処麓群では移植後3日で認められ,以後増強し14日目には全例に認めた.胸腺摘除騨では18〜30%にしか小円形綱胸浸潤はみられず,免疫抑制が示唆された.2)絨毛細胞表面のアルシアンブルー染色陽性物質の有無と小円形細胞浸潤の関係を無処置群について検討した.本染色陽性物質陰性例の66%,陽性例の36%に小円形細胞浸潤がみられ,本染色陽性物質の免疫保護作用が強く示唆された.3)移植絨毛生着率は移植後5目,7日目で胸腺摘除群では他群に比べて有意に高率であった.しかし生着期間の延長は胸腺摘除群,ブレドニゾロン投与群に認められなかった.4)移植絨毛細胞の増確は,胸腺摘除群が他の2群に比べ,移植後5日,7日目で有意に大であった.5)増殖絨毛細胞のpopultionはラングハンス細胞が主体であり,核の大小不同,核分割像,核小体がみられた.またblood space,syncytal lacunae 島=状構造および浸潤部位ではProteolysis 作用がみられた.絨毛構造の新生はなかった.今回の実験は人絨毛組織の異種移植という非生理的なシステムを用いているものであるが,人絨毛細胞の旺盛た増殖力とそれに及ぼす宿主の移植免疫のかかわりを強く示唆するものと解された.さらに絨毛細胞の増殖,分化におよぼす胎児の存在の影響を示唆する成績であり,これは胞状奇胎発生における絨毛細胞の増殖と関連して,極めて示唆に富む成績であった.
著者
宮上 順志 松橋 一雄 金沢 元美 矢内原 巧 中山 徹也
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.19-26, 1980-01-01

胎生期における胎児消化管生理解明の一助として、消化管ホルモンであるセクレチンを取り上げ,妊娠月数による母体血セクレチン値の推移像,胎児血中濃度と母体血との比較,胎児消化管組織申に於けるセクレチン含量の部位による相異を検した.併せてガストリン濃度についても同様の検討を行なった.I測定方法;1)血中セクレチン値はYanaihara et alの方法(1976)^<20>)によるRIA法,ガストリン値はGastrin-RIAkit(ダイナホット杜)により測定した.2)妊娠5カ月,6カ月中絶例につき胎児組織並びに胎盤組織申のセクレチン及びガストリンはWaterboiling法にて抽出,Sephadex G-25 Columnにてゲル濾過,凍結乾燥後に前記RIA法により測定した.II実験成績1)妊婦血中値 非妊婦・男子を対照としての妊婦124例についての成績では,妊娠により血中セクレチン値は増量し,妊娠末期に最高値248±150pg/mlに達する.ガストリン値は妊娠による変化はみられず平均65.4±36pg/mIであった.2)胎児血中値(i)セクレチン値は膀帯動脈血(UA)と騰帯静脈血(UV)中はそれぞれ460±166pg/ml,424±126pg/mlで胎児血は母体血(分娩時)の値307±158pg/mlに比し有意に高値を示した(p<0.05).(ii)ガストリン値はUA・Uv中でそれぞれ101±63pg/ml,91±38pg/mlで母体血(分晩時)の値67±22pg/mlに比しセクレチンと同様胎児血で有意に高値を示した(P<0.05).3)胎児組織中 immunoreactive Secretinは5カ月では小腸,6カ月では十二指腸に多量に存在し,消化管以外の大脳皮質中にも大量のセクレチンが検出された.immunoreactive Gastrinは胎児でも幽門部から十二指腸にかけて高濃度に存在した.
著者
林 茂一郎
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.94-102, 1980-01-01

胎盤の機能分化を推察する目的で,妊娠各時期の胎盤計44例を用い,酵素抗体法(間接法及び直接法)によりHCG及びHPLの局在を妊娠週数別に検討し,次の如く結果を得た.1.酵素抗体法における非特異的反応を防ぐため,組織の固定段階で10%FBSを用い,また切片には正常羊血清を用いる事により,きわめて良い結果を得た.2.TrophoblastにおけるHCGの局在は,光顕的にはS細胞の細胞質内に認められ,L細胞には証明し得なかった.また電顕的には,S細胞のPerinuclear space とendoplasmic reticulumの。cistemae及びmembraneに沿って証明されたが,S細胞のmicrovilli及びL細胞には認められなかった.3.HCGは妊娠5週ですでに絨毛芽(syncytial sprout)及び絨毛脱落膜接合部に高度に認められ,9〜12週では絨毛枝(rami and ramuli chorii)にも高度であつたが,12週以後は滅弱し,40週でぽ終末絨毛(terminal villi)の一部にのみ証明し得たにすぎなかつた.4.HPLの局在は,光顕的にS細胞の細胞質内に認められ,L細胞には証明し得なかつた.また電顕的にはS細胞のnuclear membrane及びendopasmic reticulumのmembraneに沿つて認められ,Golgi complexも認められた.S細胞のmicrovlli及びL細胞には反応を認め得なかつた.5.HPLの反応は,胎盤の部位による差は認められなかつたが,妊娠8週ですでに見られ16〜18週でpeakを示し,血清中のそれよりも早期であつた.したがつてHPLは,細胞内ではPreまたはPre-HPLとして存在していることが予想された.
著者
高林 晴夫 桑原 惣隆 浮田 俊彦 山藤 薫 伊川 和美
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.149-152, 1997-03-01
被引用文献数
4

近年, 新しい胎児DNA診断法として母体血中の胎児有核細胞によるDNA分析が強い関心を集めている. 標的細胞として胎児白血球, 胎児有核赤血球, 絨毛細胞が考えられるが, なかでも実際には胎児有核赤血球を標的とした研究が多く進められている. 我々は以前に母体血中の胎児有核赤血球の回収法として, 新しくPercoll不連続密度勾配比重遠心法を開発し報告を行ってきたが, 今回, 本法を用いて母体血中への有核赤血球の出現状況を正常妊婦91例, 正常褥婦19例, コントロール20例について検討を行った. その結果, 健康成人男女20例からは有核赤血球の出現はみられず, 母体血中からは妊娠5週よりその出現がみられ始め, 8週以降は全例にみられた. 母体血(7ml)中に出現する有核赤血球数についても検討を行った. 妊娠初期では5週より出現がみられ, 20週に向けて漸増し, 中期では平均20個台で推移し, 分娩前に急増し, 分娩後は速やかに減少する傾向を示した. 以上より, 母体血中の胎児有核細胞による胎児DNA診断を進める場合, 胎児有核赤血球を標的細胞とすることの有用性が示された.
著者
角田 肇 臼杵 〓 岩崎 寛和 美誉志 康 市川 意子
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.437-445, 1983-04-01

女性性器は膣から卵管に至る管腔臓器であり,性交,月経,分娩など細菌感染の機会も多いという解剖生理学的な条件から,性器感染症の頻度が高い理由を説明できる.従来子宮腔や卵管などは生理的には無菌と信じられているが,かかる要因から,発症するか否かは別として,細菌が上行して存在する頻度は決して少なくないと推定される.一方子宮頚部病変に由来する子宮周囲組織(傍結合織)の炎症性変化,いわゆる傍結合織炎の病態については諸説があって結論がえられていない.以上の実態を明らかにすべく研究を行った.対象は子宮癌16例と子宮筋腫,内性子宮内膜症だと良性疾患13例で,すべて腹式子宮全摘出術時に各組織を無菌的に採取し,膣分泌物も含めて好気性ならびに嫌気性菌の検出を系統的に行なった.1.良性疾患では13例中6例に嫌気性菌を証明した.2.子宮内膜から5例,卵管および傍結合織から5例に細菌の存在が証明された.3.頚癌0期のうち,円錐切除後の2例では,頚部周囲組織に著明な細菌感染を認めた.4.頚癌および体癌では,進行期が進むにつれて,リンパ節ならびに傍結合織中に細菌検出率が上昇した.5.膣以外の部位に嫌気性菌を証明しえた頻度は良性疾患では13例中3例に過ぎなかったが,子宮癌では16例中9例と過半数を占めた.6.膣と膣以外の部位との細菌叢の相関は,余り密接ではないが,ある程度の相関性を認めた.なお証明された細菌叢の大部分は腸内細菌叢として知られているものである.以上の成績から,膣内細菌叢は上行性あるいは経頚管壁リンパ行性に内性器および周囲組織に波及し,常在菌叢として存在することが証明されたが,これらの細菌は生体の条件により慢性あるいは急性炎症を惹起する,いわゆるopportunistic infectionの可能性を示唆している.
著者
塚原 嘉治 塩沢 久要 塚本 隆是 曽根原 衛雄 野口 浩 冨田 和彦 小谷 俊郎 岩井 正二
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.27, no.11, pp.1213-1222, 1975-11-01

1,000Rの試験照射後根治手術により剔出された111例の手術材料からの感受度判定と,同時に行ない得た64例の照射7日後の生検による感受度判定との比較を行なつた.そして局所的生検による感受度判定は実用に耐えうるものであるとの結論を得た.以下今回の研究のまとめを列記する.(1) 放射線感受性(radiosensitivity)は照射前より腫瘍細胞自体に内在するものであり,放射線感受度(radiosensitiveness)は変化した腫瘍細胞にhost側の反応が加わつた複雑な変化である.(2) 感受度判定で生検と剔出物とで85%の一致をみた.(3) 剔出例よりみた感受度良好所見は,(a)癌巣内好中球浸潤,(b)癌巣融解,(c)癌巣基底部破壊,(d)癌浸潤先進部障害,(e)chromatin障害であり,不良所見は(f)mitosis,(g)viable cellに富むことなどである.(4) 癌巣内で多彩な組織像を示し,場所により感受度を異にする場合,生検との不一致の原因となる.(5) 照射前の組織型で中間型に感受度良好のものが多いが,中間型でも問題とすべき組織像を混在するものは不良例が多い.(6) 剔出物において感受度の点数表示が可能である.
著者
津村 宣彦 櫻木 範明 晴山 仁志 野村 英司 大河内 俊洋 山本 律 武田 直毅 西谷 雅史 平畠 功二 藤野 敬史 大久保 仁 佐藤 力 牧野田 知 川口 勲 藤本 征一郎
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.48, no.7, pp.508-514, 1996-07-01

骨盤リンパ節 (PLN) および傍大動脈リンパ節 (腹大動脈節: PAN) を含む系統的後腹膜リンパ節郭清 (RPLND) を行った原発性上皮性卵巣癌137例の手術治療について後腹膜リンパ節 (後腹膜LN) の部位別転移頻度を求めた。137例のうち, 97例は化学療法施行前の初回手術時に, 40例は化学療法施行後の二次的手術 (secondary cytoreductive surgery) の際にRPLNDを行った。本研究で用いた臨床進行期は後腹膜LN転移所見を考慮せずに術中の腹腔内所見だけに基づいて決定した暫定的進行期である。得られた結果は以下のとおりである。1. 後腹膜LN転移は137例中30例 (21.9%) に認められた。PLNのみの転移が13例, PLNおよびPAN両方に転移を認めたものが11例あり, PANのみの転移が6例あった。2. 部位別のLN転移頻度はPANが12.4% (17/137) と最も多く, ついで総腸骨節, 閉鎖節, 外鼠径上節などと続いた。3. 化学療法施行前の初回手術時にRPLNDを行った症例における孤立性のLN転移はPANあるいは総腸骨節に認められた。4. PLN転移陽性24例のうち, PAN転移陽性例のPLN 転移部位数は5.27±3.00 (mean±SD) であり, PAN転移陰性例のPLN転移部位数2.62±1.66との間に有意差 (p<0.05) を認めた。これらの結果は卵巣癌のLN転移部位としてPANおよび総腸骨節が最も重要であること, PANとは独立して閉鎖節や内腸骨節などのPLNに転移が起こること, さらにPAN転移は直接の経路によるほかにPLN転移の拡大の結果として起こることを示している。したがってLN転移の有無を明らかにするためにはPANおよびPLN両方の系統的検索が必要と思われた。
著者
JINNO Masao
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.102-110, 1986-01-01
被引用文献数
7

ヒト体外受精に使われている培養液を,ICRマウス2細胞期卵の発育により比較・検討した.delayed centrifuged(DC,一般の血清処理法)婦人血清が添加タンパク成分として使われた時には,修正Krebs-Ringer-bicarbonate solution(m-KRB)は,胞胚形成率,孵化率ともに,修正Ham'sF-10(m-HF10)より,HF10粉末の製造会社によらず,すぐれていた.m-KRBを培養液のベースとする時の添加タンパク成分としては,immediately cooled and centrifuged(ICC,新しい血清処理法)婦人血清が,DC婦人血清やDC臍帯血血清に比し,胞胚形成率,孵化率ともに有意に高かつた.DC婦人血清とDC臍帯血血清の間には有意差を認めなかつた.またヒトならびにウシ血清アルブミンは,胞胚形成率においてはICC婦人血清と同様であつたが,孵化率において著しい低下を認めた.ヒトとウシの血清アルブミンの間には差が認められなかつた.ヒト体外受精の成績をretrospectiveに検討した結果,統計学的に有意差は認められなかつたが,ICC患者血清を添加したm-KRBによる受精率・分割率は,DC患者血清を添加したm-HF10の時よりも高い傾向が認められた.
著者
矢嶋 聰 東岩井 久 佐藤 章 渡辺 正昭 森 俊彦 星 和彦 米本 行範 鈴木 雅洲
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.30, no.12, pp.1657-1663, 1978-12-01
被引用文献数
1

(1) 宮城県の子宮頚癌住民検診は,昭和50年末までに,のべ受診者数が553,954人に達した.この間に発見された浸潤癌および上皮内癌患者数はそれぞれ707人,および701人であつた. (2) 昭和50年の年令階層別受診者は,40才台が最も高く対象婦人の27.4%であつた.高年令層は頚癌のhigh risk groupであるにもかゝわらず受診率はきわめて低い. (3) 頚癌の継続検診を行なうと,上皮内癌,浸潤癌の発見率は年度の推移にしたがつて減少するが,高度異型上皮の発見率はほゞ一定である. (4) 昭和40年,45年および50年のCytology Activity indexは,それぞれ60.0, 116.7および193.2であつた. (5) 検診車法による受診者の上皮内癌および浸潤癌のprevalence rateは,昭和45年および50年でそれぞれ192.8, 99.9,および102.3, 71.5であり,両者とも検診の継続により減少した. (6) 宮城日母登録方式による上皮内癌prevalence rateは,昭和45年,50年でそれぞれ213.3および205.1であり年度の推移による変化はほとんど認められなかつた.この方式による浸潤癌のprevalence rateはそれぞれ769.2および636.0であつた. (7) 昭和44年〜47年における宮城県の子宮頚浸潤癌incidence rate(年間)は32.9であつた. (8) 県下の子宮癌死亡率は5.0(10万人当り)から4.0程度であり,速度はおとろえたとはいえ,減少を続けているのが近年の傾向である.
著者
永田 行博 中村 元一 楠田 雅彦
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.34, no.9, pp.1496-1502, 1982-09-01
被引用文献数
2

子宮内膜症で開腹した症例に新しい子宮内膜症の分類法(American Fertility Society Classification of Endometriosis,AFS分類)を適用し,合理的な分類法であるか否かを検討し次の結果を得た.1.AFS分類は点数制であるため比較的客観的に評点でき,しかも簡単に分類できる.2.AFS分類による結果をAcosta et al.の分類のそれと比較すると,AFS分類でModerateと分類されたものがAcosta et al.の分類ではSevereと分類されるものが多かった。このような相違は卵巣にのみ病巣が存在するときに起った。3.卵巣に病巣が存在すると妊孕率は低下し,さらに直径3cm以上のチョコレート嚢胞があると著しく低下した.4.保存的手術後の妊娠率,妊孕率はAcosta et al.の分類ではその進行度とよく相関したが,AFS分類でははっきりした傾向が得られなかった.以上の結果から子宮内膜症の臨床進行期分類法としてのAFS分類の妥当性をさらに検討する必要がある。
著者
伊熊 健一郎 塩谷 朋弘 柴原 浩章
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.45, no.11, pp.1305-1312, 1993-11-01
被引用文献数
7

我々は, 良性の嚢胞性の卵巣嚢腫に対して腹腔鏡下で嚢腫内容液を吸引した後, 腹腔外で嚢腫壁を摘出する方法を考案して報告してきた. 今回は, 今までの経験からの注意点と改良点並びにmini-laparotomyの概念の導入などについて報告する. 1. 術前に単純嚢胞と診断した17例, 皮様嚢胞腫と診断した15例, チョコレート嚢胞と診断した9例の計41例に対して施行し, 本法が可能であったのは34例(83%)である. 2. チョコレート嚢胞として施行した1例に類内膜腺癌を経験した. 3. 開腹手術移行例は, 強度な癒着の4例, 内容液吸引不可能の1例, 膀胱壁損傷の1例, 悪性の1例の計7例である. 4. 卵巣嚢腫の大きさをI群:臍恥中央(500ml程度)まで, II群:臍高(1,000ml程度)まで, III群:臍高以上(約1,000ml以上)の3群に分類した. 5. Mini-laparotomyは, 巨大な卵巣嚢腫の2例と妊娠合併卵巣嚢腫の5例に施行した. 本法は, 少ない侵襲で開腹手術と同じ内容の手術が, 容易に安全かつ確実にできることを目的とした手術方法であると考える.
著者
井福 正規
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.28, no.8, pp.785-792, 1976-08-01

胞状奇胎排除後,その性周期が正常化する経過における視床下部-下垂体-卵巣系の動態を解明する目的で,良好な経過を辿つて,正常月経周期の発来した9例の患者について,(1) 基礎体温曲線(basal body temperature, BBT),(2) molar tissue由来のhCGのspecificなhCG β-subunitのradioimmunoassay,(3) 下垂体前葉からのLHおよびFSHのradioimmunoassay,(4) LH-RHによる下垂体反応テスト,(5) 血中progesteroneのradioimmunoassayを実施して次の結果を得た. 1. BBTは胞状奇胎排除後,比較的高い高温相より,徐々に下降して低温和となり,次に高温相に移行後初回月経が発来し,以後は正常周期(二相性)を示した. 2. 胞状奇胎排除後のhCG β-subunitはBBTの下降に伴い低下するが,初回低温相時期でも微量ながら測定可能であり,hCGの血中遺残が考えられた.しかし,次の高温相時期では消失すると思われる成績を得た. 3. pituitary gonadotropinの分泌は血中FSH値からみるとsuppressionの状態から除々に解放され,初回低温相でnormal follicular phaseのlevelまで回復した.又,この低温相から高温相への移行時期でのLH peakは平均62.8(range:56.5〜71.0) mIU/mlで,僅かに低く,初回月経後のovulatory peakは正常月経周期の範囲内にあつた. 4. 合成LH-RH 100μg筋注に対するpituitary responseは,LH, FSHのいずれの分泌も初回低温相の時期にsuppressionから解放される傾向を示した. 5. progesterone値は胞状奇胎排除後7日目に既に低値となり,初回低温相から高温相に移行するとともに増加して,2.43±0.52ng/ml(mean±S.E.)となり,更に初回月経後の高温相では3.14±0.62ng/mlであつた. 以上の成績より,胞状奇胎排除後婦人の視床下部-下垂体-卵巣機能は,molar tissueに由来するhCGの消褪に伴い,徐々にsuppressionより解放され,初回低温相の時期には微量のhCG β-subunitの遺残がみられるが,basal FSHはnormal follicular rangeとなり,LH-RHに対するpituitary responseも比較的良好となり,性周期の正常化が出現するものと推論される.
著者
幡 研一
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.472-480, 1978-05-01

従来ヒト血中Oxytocin(以下ox)濃度の正確な測定は困難であり,妊娠,分娩時における動態や意義に関しても不明のまゝであつた.著者は高感度で特異性の高いRadioimmunoassay(以下RIA)により,成人男子および母体血中ox濃度を測定し,以下の結果を得た. 1. 妊婦血中ox濃度は妊娠の経過と共に上昇し39週でpeakをしめした(妊娠初期:7.04±1.38pg/ml,中期: 16.05±6.66pg/ml, 38〜41週: 27.77±12.13pg/ml). 2. 分娩時血中ox濃度は第1期で33.1±12.1pg/ml,第3期(児娩出直後)で37.1±17.6pg/mlであつた. 3. 産褥の血中ox濃度は産褥3日目で23.79±12.52pg/ml, 7日目で6.21±3.06pg/mlであつた. 4. 授乳に伴う血中ox濃度の変動は,授乳前3.66±1.63pg/ml,授乳中6.16±3.48pg/mlと,授乳開始後そのlevelは上昇した. 5. Prostaglandin F_<2^α>(以下PGF_<2^α>)点滴静注時の母体血中ox濃度は,有効陣痛発来例では点滴前に比して平均10.33pg/mlの上昇を認めたが,有効陣痛非発来例では有意の変動を認めなかつた. 6. 分娩時血中ox levelと陣痛の強さとの間に相関はなく,また陣痛発作時と間歇時とのox levelの比較でも一定の傾向は認めなかつた. 7. 分娩第1期における血中ox濃度と頚管開大度との間に相関は認めなかつた. 8. PGF_<2^α>を点滴静注した成人男子の血中ox levelは点滴開始後全例で上昇し,点滴終了後45分でほゞ点滴前のlevelに下降した. 9. 以上の結果より,PGF_<2^α>点滴時の血中ox levelの上昇はFerguson reflexによるものではなく,PGF_<2^α>の下垂体後葉刺激の結果ox放出の促進に基因するものと推察された. 10. 分娩時における後葉よりのox放出のpatternは間歇性である。