著者
小出 貢二 間中 信也 指田 純 高木 清 喜多村 孝幸 平川 誠 野間口 聰
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.729-734, 1991-08-10

I.はじめに 血小板減少症を呈するidiopathic thrombocytopenicpurpura(以下ITP),disseminated intravascular co—agulation等の出血性素因や肝疾患が,頭蓋内出血の原因となることは良く知られている.しかしながら血小板減少症の発現は,出血性脳血管障害の急性期ばかりではなく経過中のすべての時期に認められ,血小板減少症が必ずしも出血性脳血管障害の原因として元から存在したものばかりでなく,出血後経過中の様々な原因により.二次的に生じたものも多いと考えられた.そこでわれわれは,出血性脳血管障害の経過中に認められた血小板減少症の原因とその臨床的意義について検討をくわえ興味ある結果を得たので報告する.
著者
藤原 一枝
出版者
医学書院
雑誌
Neurological Surgery 脳神経外科 (ISSN:03012603)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, 2017-12-10

東京大学脳神経外科に1949年から1963年までに入院した,15歳未満の頭部外傷患者362例を検討した中村紀夫先生(東京慈恵会医科大学脳神経外科名誉教授)は,1965年に「小児の頭部外傷と頭蓋内血腫の特徴」について『脳と神経』誌に報告した7,8).症例を検証する中で,受傷時の外力エネルギーが小さい,程度の軽い衝撃でありながら,bridging veinが破綻し,重篤な急性硬膜下血腫を生じさせている小児特有の病態があること,網膜出血は合併する重要な所見であることなどを指摘している.外傷の程度は,よちよち歩きでの転倒やベッドからの転落などの例が挙げられ,「日常生活にちょいちょい起こるような偶発事故」,「打撲部位は後頭部が多い」とある.この病態は,のちに小児の急性頭蓋内血腫の第Ⅰ型として報告され9),「中村(の)Ⅰ型」として知られるようになった. 軽微な頭部打撲による乳幼児の急性硬膜下血腫は,CTが普及し始めた1980年代以降,発見が早ければ救命率も予後も大きく改善した.私も35年以上フォローしている3例を経験している.
著者
村田 純一 北川 まゆみ 上杉 春雄 斉藤 久寿 岩㟢 喜信 菊地 誠志 澤村 豊
出版者
医学書院
雑誌
Neurological Surgery 脳神経外科 (ISSN:03012603)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.355-362, 2007-04-10

Ⅰ.はじめに 本態性振戦やパーキンソン病の上肢末梢の振戦には,視床腹側中間核(Vim核)の治療(凝固術あるいは脳深部刺激,DBS)が有効とされている.しかし,近位筋に著明な振戦は,標準的なVim核手術では制御しきれない場合がしばしばある12,13).また頭頸部,体幹などの体軸部振戦axial tremorや下肢の振戦も同様である.このような振戦を視床凝固術で制御するには,より広い範囲の凝固巣が必要となり,破壊に伴う合併症が問題となる.またDBSでは,標準的なtarget以外の効果的な部位をも刺激できるような電極位置の設定が必要となる13).重度の近位筋を含む振戦に対して,多数の症例群で安定した治療成績を上げるのは簡単ではない. Posterior subthalamic areaは,古くから定位脳手術の有望なtargetとして認知されており,1960年から1970年代に術中電気刺激または凝固破壊で,近位筋を含む多様な振戦に著効を示した多くの報告がある2,10,20,21).しかし破壊に伴う合併症が問題となり広く普及するには至らず,代わって視床Vim核手術が標準的治療となっていった14).しかしながらDBSが普及した現在,この領域は十分安全に治療可能なtargetである.ここはSchaltenbrand and Wahrenのatlasでは,不確帯(zona incerta, Zi)とprelemniscal radiation(Ra.prl.)からなる(以下,Zi/Raprl). 筆者らは,Vim thalamotomyで遠位筋振戦は消失したが近位筋振戦が改善しなかった本態性振戦の症例で,Zi/RaprlのDBSが著効した例を経験した.その後,振戦を主徴とするパーキンソン病にも同治療を試み,振戦ばかりでなく固縮・寡動にも有効であったため,症例を重ねて長期的に持続する効果を得ている.本稿では,その治療手技および長期効果を報告したい.
著者
村瀬 永子 平林 秀裕
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.712-723, 2021-07-10

Point・基底核には,四肢の運動,眼球運動,情動,認知とかかわる皮質—基底核—視床—皮質を介するループが並列し,体部位特異性がある.・基底核はハイパー直接路,直接路,間接路といった経路による複雑な興奮(脱抑制)と抑制の回路を成している.・これら経路による発火モデル(rate model)でパーキンソン病やジストニアといった疾患の病態が説明されてきた.しかしそれで説明できない点もみられる.・脳深部刺激(DBS)の電極から得られる局所フィールド電位(LFP)の研究から,パーキンソン病では広範囲の異常な同期活動が病態の本質であろうと推察されている.
著者
中村 俊介
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1070-1083, 2021-09-10

Point・頭部外傷に対する早期リハビリテーションとは,多方面にわたる機能を維持・改善・再獲得するために,48時間以内に開始される治療アプローチである.・廃用を予防し,早期のADL向上を図るため,早期離床や早期からの積極的な運動を行うように勧められるが,十分なリスク管理が必要である.・早期リハビリテーションは,多職種で構成されたチームで継続的に展開することが重要となる.
著者
森下 登史 田中 秀明 井上 亨
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.810-819, 2021-07-10

Point・通常,視床神経核の可視化は困難であるため,典型的な電極留置部位の座標決定方法を学ぶことが大切である.・微小電極記録では,somatotopyと運動誘発電位・感覚誘発電位から電極位置を推測することができる.・治療用電極留置時の試験刺激は,振戦制御効果と刺激誘発性副作用出現閾値を確認する上で非常に有用な手技である.
著者
平 孝臣
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.698-710, 2021-07-10

Point・定位・機能神経外科は脳神経外科で最も古い領域で,戦前から行われてきた.これらでの経験は,ヒトの神経生理学の発展に大きく寄与した.・定位脳手術は日本では1970年代まで世界をリードする勢いで行われ,楢林博太郎,佐野圭司らを中心に,日本を代表する脳神経外科医の多くが携わっていた.・現在,脳神経外科で一般化している神経内視鏡,ナビゲーション,術中モニタリングなどは,低侵襲と精度を重視する定位・機能神経外科分野から発展したものである.・2000年以降,脳深部刺激療法(DBS)の出現で定位・機能神経外科は隆盛を来したように思われるが,定位・機能神経外科医にしか治せない多くの患者が未治療のまま放置されているのが実情である.脳神経外科がより社会的に評価されるためにも,より多くの脳神経外科医が定位・機能神経外科に関与する必要がある.

4 0 0 0 OA Editorial

著者
上利 崇
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.697, 2021-07-10

薬剤治療抵抗性の不随意運動症を中心とする運動障害に対して,定位・機能神経外科が果たす役割は大変大きく,患者さんのADL, QOLの向上に大きく貢献しています.近年の医療工学技術の向上に伴い,体内植え込み型のデバイスの改良が進んでおり,さらに凝固・破壊術もリバイバルし,集束超音波による新たな治療も導入され,患者さんのニーズに合わせた治療選択肢が増えてきています.定位・機能神経外科の領域は今後もさらに多様化し,発展すると考えられます. 技術の進歩によって治療水準はある程度担保されると思われますが,治療成績を大きく左右するのは手術の精度であることは現在も変わりありません.そのためには,定位・機能神経外科の基本をしっかりと習熟していることが重要と考えられます.
著者
稲次 基希 前原 健寿
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.986-993, 2021-09-10

Point・頭部外傷後1週間以内の早期発作は急性症候性発作であっててんかんではなく,1週間以降の晩期発作を認めたものがてんかんとして扱われる.・急性期の抗てんかん薬の予防投与は推奨されているが,慢性期の予防投与は否定されている.・てんかん重積状態は予後を悪化させるため,積極的な診断・治療が必要である.特に非けいれん性てんかん重積では持続脳波モニタリングが有用である.
著者
伊東 清志 猪俣 裕樹 丸山 拓実 荻原 直樹 佐藤 大輔 八子 武裕 四方 聖二 北澤 和夫 小林 茂昭
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1183-1196, 2021-11-10

Point・頚椎前方除圧固定術は,米国の脳神経外科医が開発し,長きにわたり改良され,受け継がれてきた信頼性が高い治療方法である.・頚椎は運動器として動きながら頭蓋を支える側面をもつため,脊髄への圧迫も「動態」での評価が必要であり,「固定」することで圧迫を解除することは理にかなっている.・この方法を安全かつ効果的に行うためには,局所解剖を十分に理解し,術中の操作に取り入れることが大切である.
著者
寳子丸 稔
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1136-1140, 2021-11-10

脊髄脊椎疾患は非常に多い病気である 若い脳神経外科の先生方の中には,「脊髄外科」といってもピンと来ない方も多いのではないかと思います.実際,Japan Neurosurgical Database(JND)の2018年のデータ1)によると,全脳神経外科手術207,783件のうち,脊髄脊椎手術は17,969件(8.6%)を占めるにすぎません.また,同年の京都大学関連施設の非公式のデータでは,全38施設において年間の全脳神経外科手術件数が平均304件あるにもかかわらず,26施設で脊髄脊椎手術件数が10件以下となっており,多くの施設において脊髄脊椎疾患は縁遠いものとなっています. それでは,脊髄脊椎疾患は少ない病気かというと,決してそうではありません.有訴者率とは,病気やけがなどで自覚症状のある人の人口1,000人当たりの割合を示す指標です.そのデータは厚生労働省webサイトで確認することができますが,その1位と2位は腰痛と肩こりで,症状として最も多いものです.また,連続剖検例による検討2)では,80歳を超えると37%の人に頚椎での脊髄圧迫が認められたと報告されており,頚椎症性脊髄症は非常に多い病気です.さらに,DALYs(disability-adjusted life-years)とは,病的状態,障害,早死により失われた年数を意味する疾病負荷を総合的に示す指標ですが,世界全体でみると,腰痛と頚部痛が1990年には13位であったものが2016年には4位に上昇しています.また,先進国に限ると1990年から不動の2位を占めています3).これらのことから,脊髄脊椎疾患が引き起こす症状は社会への大きな負担になっているばかりでなく,国の経済が発展するに従い年々増加していることがわかります.
著者
西村 泰彦 Thomas Lübbers 北山 真理 吉村 政樹 服部 剛典
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1124-1135, 2021-11-10

Point・全内視鏡下脊椎手術(FESS)で使用される内視鏡はforaminoscope(椎間孔鏡)であるので,椎間孔からのアクセスを習熟することが肝要である.・水中手術であるため,われわれ脳神経外科医にとって重要な硬膜内外の圧に影響を与えながら処置を行っていることを自覚することが重要である.・FESSは極めて低侵襲な手術手技であるが,その習熟には急峻なラーニングカーブが存在する.
著者
荻野 雅宏
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1032-1039, 2021-09-10

Point・脳振盪はあくまで症状から診断され,背景にある病態生理は単一ではなく,簡便な診断方法も見出されていない.・段階的に復帰すべきことは広く認識されつつあるが,効果的な治療法やリハビリテーションも今後の課題である.・反復受傷の結果とされる慢性外傷性脳症(CTE)の病理学的所見は解明されつつあるが,臨床診断や検査法の確立にはさらなる研究が必要である.
著者
奧野 憲司
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.994-999, 2021-09-10

Point・脳外傷後急性期はせん妄や通過症候群を来し得るが,それら病態を理解して見極めることが重要である.・脳損傷で生じた興奮に対し,各種抗うつ薬(SSRI),気分安定薬(バルプロ酸,カルバマゼピン)の投与を考慮し,無効例には抗精神病薬の投与を考慮する.・抑制困難な症例に対しては精神科と協力して治療を行うことが勧められる.
著者
佐々木 達也 伊達 勲
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.829-837, 2021-07-10

Point・刺激調整の基本は,各電極の症状改善閾値と副作用閾値を調べ(モノポーラ・レビュー),治療域の広い電極を使用することである.・副作用出現時には症状と標的周囲の機能解剖とを照らし合わせ,原因となっている部位への刺激波及を避ける工夫をする.・各デバイスが有するディレクショナル刺激,adaptive DBSなどの特殊な刺激方法を積極的に利用する.
著者
佐々木 学 貴島 晴彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1257-1270, 2021-11-10

Point・固定術は椎骨間に骨移植を行って癒合させる手術である.インストゥルメンテーションの役割は椎骨間の制動により骨癒合を得やすくすることである.・腰椎固定術は,骨移植を行う部位により椎体間固定術と後側方固定術に大別される.椎体間固定術には,椎弓間を経由する後方椎体間固定術と,後腹膜腔から直接椎体に到達する前方椎体間固定術がある.・後方椎体間固定術は脊柱管,椎間孔の直接的な神経除圧と椎体間固定が行いやすい.前方椎体間固定は脊柱変形の矯正が行いやすく,間接的な神経除圧が期待できる.
著者
梅林 大督 永井 利樹 西井 翔 橋本 直哉
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1211-1223, 2021-11-10

Point・頚椎後方除圧術には複数の手術手技があり,各手術手技においても多くのバリエーションが存在する.また,各術式間の有効性の違いや優位性には未だ議論が残る.・実臨床においては,それぞれの術式の特性を理解して精通している手技を使い分けることが望ましい.・手術手技の詳細においても多様な考察の下にさまざまな工夫が行われているが,基本的な留意点は共通しており,これらを理解して手術を行うことが重要である.
著者
竹島 靖浩 中瀬 裕之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1171-1182, 2021-11-10

Point・頚椎変性疾患は複数の病態が知られているが,1人の患者に併存していることも多い.・頚椎変性疾患は放射線画像で指摘されても実際は無症候性である病変も多く,注意を要する.・頚椎変性疾患の診断・治療において重要なのは,病名診断ではなく障害を引き起こしている現象を同定することである.・そのためには,神経症状の種類や範囲,神経圧迫の機序ならびに不安定性の有無などに着目する姿勢が重要である.
著者
松岡 龍太 池田 紘二
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1160-1170, 2021-11-10

Point・神経障害を防ぐという術中モニタリングの目的はどの手術においても変わらないが,画一的な手法を当てはめるべきではない.・本邦で最も頻用される運動誘発電位(MEP)においては,刺激・記録電極,刺激条件,アラームポイントなど,脊髄脊椎手術と開頭術の違いを理解する必要がある.・脊髄脊椎手術では各種モダリティの特性を理解し,場合によっては併用することが重要である.

2 0 0 0 Editorial

著者
竹島 靖浩 中瀬 裕之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1113, 2021-11-10

神経系は人体の機能に直結する領域であり,脳・脊髄・末梢神経を個別に扱うのではなく統合的に理解することが大切です.本邦の脳神経外科では,脳疾患に加えて脊髄脊椎疾患や末梢神経疾患の外科治療も担っていますが,各施設の事情もあり,脳疾患治療に偏る傾向が強いです.研修医時代に脊髄脊椎・末梢神経疾患にも多くかかわることがこの統合的理解に大切ですが,残念ながらすべての脳神経外科医が理想的な環境で研修できているわけではありません. しかし,日常の脳神経外科診療の現場には,脳疾患の患者に加えて脊髄脊椎・末梢神経疾患の患者が訪れます.苦手意識が大きいと「『頭』の中は問題ないですよ」と説明して,本疾患群を見落としてしまうことになりかねません.この「苦手意識」の原因について自身の研修医時代に思いを巡らせると,日常的に慣れ親しんだ脳疾患とは異なる独特の診断アプローチが必要なこと,同一疾患でさえもバリエーションが多いこと,個々の患者においても治療選択肢が複数存在することなどが挙げられました.他方,本疾患群の診断・治療に慣れ親しむようになると,これらの苦手意識の原因こそが醍醐味であり,面白さなのだと気づきました.自身のスキルで適切に診断・治療することで,目にみえて神経機能の改善が得られるため,とても大きなやりがいを感じている専門医も多いと思います.