著者
近藤 直司
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.285-291, 2010-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
7

近年,さまざまな精神医学的問題をもつ青年期ケースの中に発達障害を背景とするものが少なくないことが明らかになってきている.本稿では,ひきこもり問題の精神医学的背景,発達障害の関連,ひきこもりをきたしやすい広汎性発達障害ケースの特性と予防的早期支援の考え方について述べる.また,広汎性発達障害ケースの心理療法的アプローチと地域の関係機関によるネットワーク支援の実際についても触れた.
著者
松原 慎
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.993-1000, 2016

<p>機能性消化管疾患 : 診療ガイドライン2014が上梓された. その中でも過敏性腸症候群 (IBS) の治療の第3段階においては, 催眠療法, 認知行動療法 (CBT), 弛緩法がエビデンスのある有効な治療として推奨された<sup>1) </sup>. これらは心身医学の専門医が積極的に適用すべき治療法である. しかし一方で, 第3段階の治療を複数はおろか一つでも縦横に使いこなせる心療内科医もまだ十分には育成されていないと思われる. 従来の常識とは異なり, 現代の催眠は, オーダーメイドが可能なことから自律訓練法 (AT) より支配性が少なく安全に用いることができる. しかし, エビデンスのある腸指向催眠療法 (GDH) は伝統的催眠の手法を用いている. またCBTも瞑想およびリラクセーションを取り入れ, 催眠もCBTも変性意識を扱うようである. 本稿では, 催眠療法およびその近縁であるATとCBTのエビデンスの紹介および実践上の注意点, 各治療法の長短について, 横断的に比較検討して概説した.</p>
著者
角田 博之 宮岡 等 永井 哲夫 上島 国利
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.273-277, 1998
参考文献数
10
被引用文献数
2

約15年間にわたって口腔領域のセネストパチー症状を訴え続けた後, 突然妄想状態を呈し精神分裂病と診断された症例を報告する.初診時28歳, 男性, 無職.主訴は口腔領域の異常感.15歳時より, 顔の筋肉が切れている感じや咬合がずれているような感じが持続し, 28歳時, 歯科医の勧めで精神科を受診した.セネストパチー症状は, 向精神薬の投与によっても改善が認められなかった.30歳時に著明な被害関係妄想を認めたため, 精神分裂病と診断された.したがって, 本症例にみられた口腔領域のセネストパチー症状は, 分裂病の前駆症状あるいは部分症状と考えられた.セネストパチーの治療では分裂病症状の出現に注意し, 彼らが歯科を受診した場合は必要に応じて精神科受診を勧める必要があろう.
著者
鈴鴨 よしみ 熊野 宏昭 山内 祐一
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.417-424, 1997
参考文献数
14

この研究の目的は, タイプA行動パターン, 職場ストレス(Karasekのdemandcontro1-supportモデルにより定義), および生活習慣の歪みの間の関連を, 以下のような仮説に基づいて検討することであった。1)タイプA行動パターンと職場ストレスは, 運動不足, 飲酒, 喫煙, 食行動の異常といった健康に対して悪い影響を及ぼす行動的リスクファクターを助長する。2)タイプA者が高ストレイン状況下におかれるとより多くの生活習慣の歪みを呈する。2職場の649名の職員(男性442名, 女性207名)に質問紙(「JobContentQuestionnaire(JCQ)」, 「前田式A型傾向判別表」, その他生活習慣の歪みについて尋ねるもの)による調査を行った。そして, タイプA行動パターン, 職場ストレス, および生活習慣の歪みの間の相互連関を各性別ごとに分散分析により検討した。この研究はパス解析を用いて行った以前の研究を再解析したものである。再解析を行った理由は, パス解析ではタイプAと職場ストレスの相乗効果が検討できず, 上記の2番目の仮説の検証が十分にできなかったためである。さらに, 以前の研究では26項目から成るJCQを用いたが, JCQの信頼性と妥当性を検討した最近の研究の中で22項目4下位尺度版の利用が推奨されていたため, 今回は22項目に基づいて新たに算出し直した結果に基づいて解析した。その結果, 以下にあげるような関連がタイプAまたは職場ストレスと生活習慣の歪みとの間に見出され, 2,3の結果を除き, 第一の仮説はおおむね是認されたものと考えられた。1)男性のタイプA者には喫煙者が多く, 女性のタイプA者はアルコールをよく飲む。2)仕事の要求度の高い男性はアルコールをよく飲む。3)裁量の自由度の高い男性には喫煙者が多い。4)同僚のサポートが十分にある男性は間食が少ないが, アルコールをよく飲む。5)仕事の要求度と裁量の自由度がともに高い女性は間食が多い。6)裁量の自由度と同僚のサポートがともに低い男性は最も運動不足である。また, 第二の仮説は以下のような点で検証された。1)裁量の自由度の低い男性のタイプA者は最も運動が不足していた。2)仕事の要求度の高い女性のタイプA者と仕事の要求度の低いタイプB者の双方で喫煙者が多い傾向にあった。以上から, 今回の研究では, 全体的に仮説を支持する結果が得られたということができよう。今後は, より多くの職場を対象にして, 職種をより詳細に分類した研究, そして, タイプA行動パターンと職場ストレスの身体的および心理的リスクファクターに対する影響も検討できるような研究をさらに進めることが望ましい。
著者
松岡 美樹子 原島 沙季 米田 良 柴山 修 大谷 真 堀江 武 山家 典子 榧野 真美 瀧本 禎之 吉内 一浩
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.52-57, 2016 (Released:2016-02-26)
参考文献数
10

近年, 摂食障害と発達障害との関連が指摘されている. 今回, 発達障害の合併が疑われ, 知能検査の施行が治療方針変更の良いきっかけとなった1例を経験したので報告する. 症例は32歳女性. X−21年に過食を開始し, 過食, 自己誘発性嘔吐や食事制限, 下剤の乱用により, 体重は大きく変動した. X−6年に神経性過食症と診断され, 入退院を繰り返した. X年に2型糖尿病に伴う血糖コントロールの悪化をきっかけに食事量が著明に低下し, 1日数十回の嘔吐を認め, 当科第11回入院となった. 生育歴やこれまでの経過から, 何らかの発達障害の合併が疑われたため, ウェクスラー成人知能検査を施行した. その結果, 動作性IQが言語性IQに比して有意に低値であり, 注意欠陥多動性障害を疑う所見も認められた. 退院後atomoxetineを開始したところ, 過食・嘔吐の頻度が週に1, 2回程度に減少し, その後も安定した状態を維持している.
著者
Stacey B. Day Mineyasu Sugita
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.192-203, 2018 (Released:2018-03-01)

Time of visible life on earth began before “thought” and perception of “Belief Systems”. When Erwin Schrödinger asked “What is life?” he was facing out into life. He did not ask “What is death?” as might have done a philosopher facing into life―inwards towards death. With the increasing power of man, over time, to provide himself with all that he wanted ; with increased knowledge ; and with material progress ; ratio and science in general, took to concentrating on the mathematically expressible properties of the universe―size, shape, motion, material, change―the “real world”. Questions considering the purpose of life ; what makes life of value or worth living, of beauty, love, identity, the human nexus (bonding), of “Being” were left to men of religion or to philosophers.Further, the acceleration of technology (applied knowledge), the world of Dirac’s quantum and mental models, proliferation of nuclear resources, and arguments that human beings are imperiling their own survival, urges reflection on the “middle ground” between Science and Religion―the “No-Man’s Land” ―that is the interest of this paper. Jung’s axiom that “Death is not the end” at least offers us continuity with Schrödinger’s problem, advanced now into reflections on Mind ; What is Mind? Is Consciousness eternal or instrumental in Mind? Is Intuition real? Wherein lies Faith? Have we already witnessed the “Power of the Negative” in the Stress Burden that contemporary life exacts, and How shall man go from Jung’s “valley” (Ego) ―war, tragedy, loss of life, agony to the “mountain top” (Self) where men―we ourselves―may face our collective unconsciousness?Anyone who believes that we can fully explain how the immaterial human mind is related to the material body is not fully informed.
著者
増田 彰則 平川 忠敏 山中 隆夫 志村 正子 武井 美智子 古賀 靖之 鄭 忠和
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.369-378, 2004
参考文献数
23
被引用文献数
3

思春期・青年期の心身症およびその周辺疾患の発症に及ぼす家族の健康,養育環境,養育方法,家族機能と被暴力体験の影響について調査した.対象は,心療内科を受診した患者195名(平均年齢21歳)と健常大学生415名(平均年齢20歳)である.調査は,われわれが作成した自己記入式質問紙を用いて実施し,ロジスティック解析にて検討した.その結果,病気発症に有意な影響を及ぼす因子として,「親から身体的暴力を受けた」,「父親から母親に身体的暴力があった」,「家庭は安全な場所ではなかった」,「甘やかされて育った」,「片親が死亡した」,「幼小児期に可愛がられた記憶がない」の6項目が抽出された.これらの因子を2項目もっている例では,まったくもっていない例に比べてオッズ比で7.9倍,3項目以上もっている例では21.1倍の病気発症の危険因子となった.以上より,心身症およびその周辺疾患の治療では,家庭環境や家族機能について十分な配慮とアプローチが必要である.また,病気発症の予防に健全な家庭環境と良好な家族機能の回復が重要であることがわかった.
著者
村岡 衛
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.1015-1021, 2010-11-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
4

"Gas"という言葉は18世紀にベルギーのJ. B. van Helmontという化学者が造った言葉です.ギリシャ語の"khaos"から造られたそうです.まさに消化管ガス症状は混沌としています.消化管のガスは出所もどういう経路をたどって人体から排出されるかについては見当がついています.しかし,消化管ガス症状の治療は簡単ではありません.その対処法は困っている患者さんに真摯に対応するしかありません.「げっぷ」と「おなら」について心身医学的に症例を通して考察しました.
著者
畑田 惣一郎 野添 新一
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.445-453, 2014-05-01 (Released:2017-08-01)

近年,うつ病の遷延化問題における職場復帰対策は重要な課題の一つである.本研究では,遷延性うつ病の3事例を通し,職場復帰を阻害する心理社会的要因を明らかにして,職場復帰のための心理社会的アプローチを行った.ここではその経過と効果について述べ,考察を加えることを目的とする.対象は当院を紹介受診した遷延性うつ病患者3名である.われわれは彼らに面談・心理検査などを利用し介入・分析した.3症例の問診・検査の結果,トラウマ体験に起因する(対人・会社)恐怖イメージが職場復帰の阻害要因として,作用していたと考えられた.そこで,(1)生活リズムの改善による心身の安定化,(2)会社・外出恐怖には段階的エクスポージャー,(3)完璧主義など非機能的な認知様式には日記などを活用し認知の修正,(4)睡眠リズムの改善の介入を行った.その結果,薬物治療のみでは,職場復帰できなかった3症例が復帰することができ長期経過(3年以上)も良好であることを確認できた.遷延性うつ病の中には,薬物と心理社会的アプローチに加えて,トラウマの視点から,恐怖イメージのアセスメントと「行動」「認知」へのアプローチが必要な症例が少なくないことを強調したい.
著者
福土 審
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.1034-1038, 2014-11-01 (Released:2017-08-01)

過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome: IBS)では,通常の一般臨床検査で把握される形態変化を欠くにもかかわらず,腹痛と便通異常に代表される下部消化管症状が慢性,再発性に持続する.IBSは頻度が高く,患者の生活の質を障害し,早期社会不適応の重大な原因となり,不安障害,うつ病性障害,身体表現性障害とのcomorbidityが高い.IBSの病態は,消化管生理学,微生物学,ゲノム科学,脳科学,心身医学を総動員して追求されており,いまだ完全ではないものの,次第に解明されつつある.その病態の中でも,脳腸相関の異常の重要性をわれわれは早い時期から提唱してきた.ComorbidityはIBSが重症化するにつれて病態への関与度が増す.コホート研究により,うつ病性障害と不安障害がIBS発症のリスク要因になることがわかつてきた.その逆に,IBSを含む機能性消化管障害であることがうつ病性障害と不安障害の発症リスクを高める.失感情症や人生早期の虐待などの重大なストレスはIBS発症のリスク要因になる.IBS患者では,大腸伸展刺激を加えたとき,中部帯状回,扁桃体,脳幹の過活動や背外側前頭前野の活性不全があり,腹痛を感じやすい.これらは,失感情症や被虐待歴をもつ個体でも部分的に生じている.IBS発症のリスク要因としては,感染症の種類も重要である.うつや身体化があると,感染症を契機としたIBS発症のリスクが高まるが,伝染性単核症が慢性疲労症候群の発症リスクを高めるのと対照的に,キャンピロバクター腸炎はIBSの罹患率を高め,病原体の臓器-疾患特異性がある.IBSとそのcomorbidityの背景には脳機能画像で検出可能な脳機能異常があり,脳腸相関を軸にしたその支配遺伝子,蛋白,関連微生物の同定が急務である.
著者
小川原 純子 横山 祐子 森下 勇 一條 智康 加藤 直子 山岡 昌之
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.1335-1342, 2015-12-01 (Released:2017-08-01)

思春期には体も心も大きく変化する.身体的発達のみならず,自我同一性(identity)の確立などこの時期の正常な心の発達を知ることは,思春期のうつ病や,摂食障害などの心身症を診察する際,その病態の基本的理解として欠かすことができない.また,思春期の患者がもつ生来の言語能力や社会適応力・認知力といった各人の能力を見極めることは,患者の感じている困難感の分析に有用である.さらに思春期に至るまでの生育環境や養育者との基本的信頼関係の構築の有無などの情報は,思春期の患者の心の発達過程での問題点を推測する重要な手掛かりとなる.
著者
中井 義勝 今井 浩 柏谷 久美 吉川 真里
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.281-286, 2001-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
9

コンピューターに取り込んだ身体像を任意に変形できる装置を用いて, 健常女性(N), 神経性大食症(BN), 神経性無食欲症むちゃ食い/排出型(AN-B)と制限型(AN-R)の身体イメージ測定を行い, Eating Disorder Inventoryとの相関を検討した.Nはやせ願望に基づいて, BNは自己像不満に基づいてウエスト理想値やヒップ理想値を細くした.一方, AN-Bはやせ願望と過食に基づいて, AN-Rはやせ願望でなく, 無力感, 成熟恐怖や感情感覚の混乱に基づいてウエスト理想値やヒップ理想値を細くした.この成績から健常人と摂食障害患者は身体イメージの評価基準が異なり, とりわけAN-Rは身体イメージが無力感, 成熟恐怖や感情感覚の混乱に基づいていることが明らかとなった.
著者
森下 克也 高橋 歩美
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.831-837, 2011-09-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
10

職場のストレスによる適応障害の1例に対して,漢方薬と認知療法を適用し良好な結果を得た.患者は27歳,女性.低い自己評価と抑え込まれた自己主張との間に葛藤が存在するというスキーマの上に仕事の負荷の増大が加わり,ストレス耐性が破綻し多彩な身体・心理的症状を呈した.治療は,生活の質を落としている身体・心理的症状に対して漢方薬を,その原因となっている非機能的思考に対して認知療法を適用した.その結果,約10ヵ月で症状が全快し,過剰適応的,主観的なストレス・コーピングが自律的,客観的なそれへと変容した.心身一如を旨とする漢方薬は,多彩な身体・心理的症状に対して西洋薬よりも合目的的であり使用薬剤を最小限に抑えることができる.また,認知療法は,薬物療法では困難な,歪んだ認知の修正に対して有効である.両者の併用は,安定的な適応障害の改善に効果的であった.