著者
鈴鴨 よしみ
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.12-16, 2015 (Released:2015-04-16)
参考文献数
15
被引用文献数
1

医療のアウトカムとして患者のQOLを測定・評価することは、1980年代から様々な分野で実施されてきた。研究の進展に伴い評価における課題も浮き彫りになったが、その一つがレスポンスシフトである。レスポンスシフト(response shift)は患者が報告するアウトカム(Patient-reported outcomes: PRO)に特異的な現象である。自分の健康状態を自己評価する際に、我々は自己内部にある基準を参照して判断するが、この内部基準が変化する現象をレスポンスシフトと呼ぶ。レスポンスシフトは、内的基準の変化(recalibration)、価値の変化(reprioritization)、意味の変化(reconceptualization)の3つに分類される。治療介入効果の検証のために介入前後でPROを測定し比較することはしばしば行われるが、このような経時的比較は、同じものさしで測定すること(基準が変わらないこと)を前提としている。しかし、健康変化や介入によってこれまでに体験したことのない状態を体験すると、自己評価の基準が変わってしまうことがある。この現象が起きると、本人が良くなったと自己評価していたとしてもPROスコアには変化が現れない、またはその逆に、本人は変化していないと感じていてもスコアには差が現れるという現象が生じ、介入の効果が過大・過小評価されてしまう。そのため、レスポンスシフトを検出し考慮したうえで介入効果を評価する統計的手法が検討されてきた。一方、レスポンスシフトは、環境の変化への適応として捉えることもできる。慢性疾患や障害の存在にも関わらず利益や成長を見出すことは、負の影響を軽減するための認知的戦略である。この視点において、レスポンスシフトはバイアスや交絡因子というよりは、それ自体が重要な健康指標であり介入のゴールであると考えることができる。QOL評価研究で培われたレスポンスシフトの検出手法を、行動医学における心理的適応の検出・評価研究に適用することで、さらなる知見が得られる可能性がある。
著者
鈴鴨 よしみ 福原 俊一
出版者
日本腰痛学会
雑誌
日本腰痛学会雑誌 (ISSN:13459074)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.38-43, 2002 (Released:2008-07-10)
参考文献数
11
被引用文献数
2 1
著者
鈴鴨 よしみ
出版者
日本腰痛学会
雑誌
日本腰痛学会雑誌 (ISSN:13459074)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.17-22, 2009 (Released:2009-12-19)
参考文献数
9
被引用文献数
2 6 2

Roland-Morris Disability Questionnaire (RDQ)は,患者自身が直接回答するPatient reported Outcomes(PRO)指標の1つとして位置づけられ,腰痛によって日常生活が障害される程度を評価する尺度である.「立つ」,「歩く」,「服を着る」,「仕事をする」などの日常の生活行動が腰痛のために障害されるか否かを尋ねる24項目に,「はい」,「いいえ」で回答してもらい,「はい」と回答した項目の数を加算して得点を算出する.RDQ日本語版は計量心理学的に十分な特性を持つことが検証されている.RDQは,1)項目と回答選択肢が少なく臨床で実施しやすいこと,2)全国調査により求められた基準値があること,3)すでに多くの研究に活用されていること,などが長所としてあげられる.一方で,1)少ない項目であるために個人を評価するには精度が不十分であること,2)精神面の影響を測定する項目が少ないこと,などが短所となりうる.目的に応じて尺度を選択することが重要である.
著者
鈴鴨 よしみ
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.154-159, 2022-04-15 (Released:2022-04-15)
参考文献数
17

作業療法において,作業とは人の日常生活に関わる全ての諸活動と定義されており,作業療法は“生活の質”そのものを扱っているといえる.QOLは対象者自身が報告する身体的・心理的・社会的な生活の質であり,計量心理学的な特性(妥当性,信頼性,反応性など)を備えた尺度(調査票)によって,定量化することができる.多くの尺度が作成されており,それぞれに特徴があるので,自分の目的にあった尺度を選択することが必要である.QOL評価は,患者の理解を深めたり介入の効果を評価したりするのに有用であり,作業療法分野において重要な指標となりうる.
著者
熊野 宏昭 織井 優貴子 鈴鴨 よしみ 山内 祐一 宗像 正徳 吉永 馨 瀬戸 正弘 坂野 雄二 上里 一郎 久保木 富房
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.335-341, 1999-06-01
被引用文献数
2 2

がんに罹患しやすいパーソナリティ傾向を測定するShort Interpersonal Reactions Inventory(SIRI)の日本語短縮版を作成した.SIRIと平行検査を含む質問紙調査を, 病院職員485名を対象にして行った.因子分析により, 原版に含まれる4因子20項目からなる日本語短縮版SIRIが作成された.因子分析の結果と平行検査との相関分析の結果より, 従来からがんの発症と関連があるとされてきた合理性・反情緒性と社会的同調性のうち, より関わりが大きいとされる後者を, 日本語短縮版SIRIは測定できることが明らかになった。さらに, 4下位尺度の標準得点を算出することにより, 4つのパーソナリティタイプが識別できる可能性が示唆された.
著者
岩佐 一 吉田 祐子 石岡 良子 鈴鴨 よしみ
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.10, pp.617-628, 2019-10-15 (Released:2019-11-09)
参考文献数
46
被引用文献数
2

目的 高齢者において,余暇活動の充実は,主観的幸福感の維持,介護予防の推進にとり重要である。本研究は,地域高齢者における余暇活動の実態を報告したIwasaら(2018)をふまえ,「現代高齢者版余暇活動尺度」を開発し,その計量心理学的特性を検討した。余暇活動に積極的に取り組む者は,認知機能が低下しにくいとされることから,余暇活動の測定尺度を開発するにあたり,認知機能との関連について検討する必要があると考えられる。本研究では,当該尺度の,因子構造の検討,信頼性の検証,基本統計量の算出,性差・年齢差の検討,認知機能との関連の検討を行った。方法 都市部に在住する地域高齢者(70-84歳)594人を無作為抽出して訪問調査を行い,316人から回答を得た。このうち,「現代高齢者版余暇活動尺度」,認知機能検査に欠損のない者306人(男性151人,女性155人)を分析の対象とした。「現代高齢者版余暇活動尺度」(4件法,11項目),外部基準変数として認知機能検査(Mini-Mental State Examination(MMSE),Memory Impairment Screen(MIS),語想起検査),基本属性(年齢,性別,教育歴,有償労働,経済状態自己評価,生活習慣病,手段的自立,居住形態)を測定し分析に用いた。当該尺度の再検査信頼性を検証するため,インターネット調査を2週間間隔で2回行い,192人(70-79歳)のデータを取得した(男性101人,女性91人)。結果 確証的因子分析の結果,「現代高齢者版余暇活動尺度」の一因子性が確認された。当該尺度におけるクロンバックのα係数は0.81,再検査信頼性係数は0.81であった。当該尺度得点の平均値は14.44,標準偏差は7.13,中央値は15,歪度は−0.12,尖度は−0.73であった。分散分析の結果,当該尺度得点における有意な年齢差が認められたが(70-74歳群>80-84歳群),性差は認められなかった。重回帰分析を行った結果,当該尺度得点は,MMSE(β=0.31),MIS(β=0.24),語想起検査(β=0.25)といずれも有意な関連を示した。結論 地域高齢者を対象として,「現代高齢者版余暇活動尺度」の計量心理学的特性(因子構造,信頼性,基本統計量,性差・年齢差,認知機能との関連)が確認された。今後は縦断調査デザインを用い,余暇活動尺度と認知機能低下や認知機能障害の発症の関連について検討していく必要がある。
著者
鈴鴨 よしみ
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.429-432, 2017-06-16 (Released:2017-08-17)
参考文献数
7

ロービジョンとは視力を完全に失ってはいないが見えにくさのために生活上の不自由を生じる状態を指す.社会の高齢化に伴いロービジョン者が急増しているにもかかわらず,ロービジョンに対する一般的な理解は不足している.視覚機能の損失は,日常生活や社会生活に大きな影響を及ぼすだけでなく,多くの場合心理的なダメージも大きい.本人のみならず家族の生活にも大きな影響を及ぼすことがある.適切な情報やケアを提供するシステムを構築し,ロービジョンの生活への影響を最小限にするリハビリテーションシステムが求められる.
著者
小幡 紘輝 鈴鴨 よしみ 宮武 ミドリ 出江 紳一
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.407-414, 2021-08-15 (Released:2021-08-15)
参考文献数
34

要旨:ロービジョンとは,見えにくいために生活上の困難を生じている状態を総称した概念である.作業療法士によるロービジョンの評価や介入の実践を文献検索にて調査した.システマティックレビュー,ランダム化比較試験などを対象とし,医学中央雑誌とPubMedのデータベースを用いて検索を行い,66件の論文が抽出された.評価には,視機能や運転適性や住環境調査が含まれ,介入には,個別に対応する問題解決戦略や住環境調整やデバイス処方が含まれた.ロービジョンに対する作業療法の効果を調査している研究はまだ少ない.今後,ロービジョンについて作業療法士への啓発を行うとともに,作業療法の効果を科学的に検証していく必要がある.
著者
中野渡 達哉 鈴鴨 よしみ 神先 秀人 沖井 明 菅 俊光 出江 紳一
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.30-37, 2016 (Released:2016-02-20)
参考文献数
41

【目的】本研究の目的は,人工股関節置換術(以下,THA)後の健康関連QOLに対して機能的脚長差が影響を及ぼすまでの一連の障害構造モデルについてパス解析を用い検討することである。【方法】THA 後患者42名を対象に,術後3週の構造的脚長差と機能的脚長差,術後6ヵ月後の主観的脚長差,SF-36のサマリースコアを評価した。モデルへ投入する項目を選択するために単変量解析を行い,その後にパス係数とモデルの適合度を求めるためにパス解析を行った。【結果】モデルには機能的脚長差,主観的脚長差,身体的コンポーネント・サマリースコア(以下,PCS)が選択された。パス解析の結果,機能的脚長差は主観的脚長差に影響し,主観的脚長差はPCSに影響していることが示された。このモデルは十分な適合度を示した。【結論】THA後主観的脚長差をもち身体的健康関連QOLが低下した患者に対して,機能的脚長差に対する治療的介入が重要であることが示唆された。
著者
岩佐 一 吉田 祐子 鈴鴨 よしみ
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.151-160, 2019-03-15 (Released:2019-03-26)
参考文献数
38

目的 食生活は,生物・心理・社会・文化的存在としての人の満足感と密接に結びついており,食生活に関する満足度の評価には多面的な尺度が必要である。本研究では,日本全国に居住する地域高齢者を対象とした標本調査を行い,鈴鴨他(2001)の「食事関連QOL尺度」(18項目版)とその短縮版における計量心理学的特性を検討した。まず,①18項目版の因子構造の確認を行い,その結果をもとに,②短縮版を作成した。次いで,18項目版・短縮版における,③信頼性,④性差ならびに年齢差,⑤妥当性の検証を行った。方法 日本全国に在住する地域高齢者(60~84歳)1,200人を無作為抽出して郵送調査を行い,849人から回答を得た(参加割合70.8%)。このうち,「食事関連QOL尺度」18項目に欠損の無い者780人(男性367人,女性413人)を分析の対象とした。「食事関連QOL尺度」(5件法,18項目),外部基準変数(主観的幸福感,食満足感,食欲,食事の制限,咀嚼,共食の回数,惣菜・インスタント食品の利用頻度,食に関する情報収集,食品摂取多様性),基本属性(居住形態,教育歴,経済状態自己評価,有償労働,健康度自己評価,生活機能,生活習慣病,飲酒,喫煙)を分析に用いた。結果 確証的因子分析を行ったところ,適合度は許容範囲であり,先行研究で報告された4因子解が再現された(『Ⅰ食事の楽しみ』,『Ⅱ食事の充足感』,『Ⅲ食事環境』,『Ⅳ食の多様性』)。8項目を選出し短縮版を作成した。「食事関連QOL尺度」得点(18項目),各下位尺度得点(因子Ⅰ~Ⅳ),短縮版得点(8項目)におけるα係数はそれぞれ,0.94,0.86,0.89,0.77,0.72,0.90であった。「食事関連QOL尺度」得点,各下位尺度得点,短縮版得点をそれぞれ従属変数として2要因分散分析(性別:2水準,年齢:5水準)を行ったところ,すべての変数において,女性のほうが男性よりも得点が高かった。一方,年齢差は認められなかった。総菜の利用頻度において有意な相関は認められなかったほかは,外部基準変数との間に概ね中等度以上の相関が認められた。結論 地域高齢者を対象として,「食事関連QOL尺度」(18項目版)とその短縮版の信頼性・妥当性を確認した。今後は,健康アウトカムを外部基準として「食事関連QOL尺度」の関連要因,予測妥当性の検証を行うことが課題である。
著者
鈴鴨 よしみ 熊野 宏昭 山内 祐一
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.417-424, 1997
参考文献数
14

この研究の目的は, タイプA行動パターン, 職場ストレス(Karasekのdemandcontro1-supportモデルにより定義), および生活習慣の歪みの間の関連を, 以下のような仮説に基づいて検討することであった。1)タイプA行動パターンと職場ストレスは, 運動不足, 飲酒, 喫煙, 食行動の異常といった健康に対して悪い影響を及ぼす行動的リスクファクターを助長する。2)タイプA者が高ストレイン状況下におかれるとより多くの生活習慣の歪みを呈する。2職場の649名の職員(男性442名, 女性207名)に質問紙(「JobContentQuestionnaire(JCQ)」, 「前田式A型傾向判別表」, その他生活習慣の歪みについて尋ねるもの)による調査を行った。そして, タイプA行動パターン, 職場ストレス, および生活習慣の歪みの間の相互連関を各性別ごとに分散分析により検討した。この研究はパス解析を用いて行った以前の研究を再解析したものである。再解析を行った理由は, パス解析ではタイプAと職場ストレスの相乗効果が検討できず, 上記の2番目の仮説の検証が十分にできなかったためである。さらに, 以前の研究では26項目から成るJCQを用いたが, JCQの信頼性と妥当性を検討した最近の研究の中で22項目4下位尺度版の利用が推奨されていたため, 今回は22項目に基づいて新たに算出し直した結果に基づいて解析した。その結果, 以下にあげるような関連がタイプAまたは職場ストレスと生活習慣の歪みとの間に見出され, 2,3の結果を除き, 第一の仮説はおおむね是認されたものと考えられた。1)男性のタイプA者には喫煙者が多く, 女性のタイプA者はアルコールをよく飲む。2)仕事の要求度の高い男性はアルコールをよく飲む。3)裁量の自由度の高い男性には喫煙者が多い。4)同僚のサポートが十分にある男性は間食が少ないが, アルコールをよく飲む。5)仕事の要求度と裁量の自由度がともに高い女性は間食が多い。6)裁量の自由度と同僚のサポートがともに低い男性は最も運動不足である。また, 第二の仮説は以下のような点で検証された。1)裁量の自由度の低い男性のタイプA者は最も運動が不足していた。2)仕事の要求度の高い女性のタイプA者と仕事の要求度の低いタイプB者の双方で喫煙者が多い傾向にあった。以上から, 今回の研究では, 全体的に仮説を支持する結果が得られたということができよう。今後は, より多くの職場を対象にして, 職種をより詳細に分類した研究, そして, タイプA行動パターンと職場ストレスの身体的および心理的リスクファクターに対する影響も検討できるような研究をさらに進めることが望ましい。
著者
尾藤 誠司 鈴鴨 よしみ 福原 俊一
出版者
特定非営利活動法人 日本医療マネジメント学会
雑誌
医療マネジメント学会雑誌 (ISSN:13456903)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.423-428, 2005-09-01 (Released:2011-03-14)
参考文献数
10

平成14年にわれわれが作成した入院患者用患者満足度評価尺度であるHPSQ-25は, 信頼性・妥当性に優れた評価尺度であったが, 6つの下位尺度に関する因子構造分析の結果, 因子をよりシンプルなものに変更する必要性があることが示唆されていた.今回, HPSQ-25の再構築と, より簡便な尺度への質問項目削減を試みた. 関東地区の3医療施設における入院患者386名に対し再度HPSQ-25による患者満足度評価を行い, その後, 一定のルールを用いて項目の削減を行った.その結果, 前年度で問題とされていた4つの因子はすべて “スタッフと患者の問のコミュニケーション” という1つの概念に収束し, 4つの因子における合計17の質問項目は6つの質問項目にまで収束させることが可能であった.その結果, 新たに再構築された入院患者用患者満足度評価尺度は, 13項目3下位尺度のより簡便なものとなった. 新たな尺度の信頼性・妥当性の検証も行い, 満足すべき結果を得ることができた.
著者
鈴鴨 よしみ 寛 善行 賀本 敏行 荒井 陽一 小川 修 福原 俊一
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.93, no.6, pp.659-668, 2002-09-20
参考文献数
11
被引用文献数
7 6

(目的)前立腺癌疾患特異的QOLを測定する尺度「UCLA Prostate Cancer Index(UCLA PCI)」を翻訳し,オリジナルと等価概念を現す日本語版を作成すること(対象と方法)多段階のプロセスを経てオリジナル版の翻訳を行った.さらに,前立腺癌患者6名を対象にパイロットテストを実施し,翻訳上の問題点や実施上の問題点を抽出して改訂し,原作者の了承を得た.(結果)項目分析の結果,無回答者がいた4項目,一つのカテゴリーに片寄る1項目が抽出された.無回答であった項目はその後の質的解析により回答選択肢に問題が見つかり,改訂され解決された.回答に偏りのある項目は,対象が症状の安定した群であったためと考えられた.他の項目は性機能を含め,十分な回答率が得られた.所用回答時間は5.5分と負担のないものであった.(結論)理解しやすく負担のない,且つオリジナル版の持つ概念と等価であると認められたUCLAPCI日本語版version1.2が完成した.また,尺度開発におけるパイロットテストの有用性が示された.
著者
内藤 真理子 鈴鴨 よしみ 中山 健夫 福原 俊一
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.110-114, 2004-04-30
被引用文献数
9 3

口腔疾患は,局所的な疼痛や咀聯機能障害を招くだけではなく,心理社会的,経済的に影響を及ぼす一要因として看過できないものである.近年,これらの視点から検討を行ううえで必要となるQOL尺度の重要性は増している.そこで,心理社会面の反映に優れ,かつ対象集団や状況に応じて補完項目やほかの尺度の併用を考慮できる包括的口腔関連QOL尺度開発を目的として,General Oral Health Assessment Index(GOHAI)日本語版作成に着手した.原作者から日本語版作成の許可を得た後,翻訳者による尺度の順翻訳を開始した.順翻訳された項目を基に,フォーカス・グループを通して討議を行い,暫定版尺度を作成した.この暫定版を使用して地域住民を対象にパイロット・スタディを実施し,その結果から質問紙の再検討を行った.質問文の長さや表現の難解さ,逆転項目の存在が問題点として示されたことから,可及的にオリジナルに忠実であるように配慮しながら,暫定版に修正を加えた.さらに,レイアウトや字体に関する検討を完了した後,逆翻訳作業を行った.原作者による逆翻訳の確認および最終的な了承を得て,GOHAI日本語版Version 1.0を完成させた.