著者
井坂 和一 豊田 透花 大前 周平 高橋 悠 大坂 利文 常田 聡
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.217-223, 2021-11-20 (Released:2021-11-20)
参考文献数
30
被引用文献数
1

高濃度窒素排水の処理方法として,嫌気性アンモニア酸化(アナモックス)反応を用いた排水処理システムの実用化が進められている.化学工場の排水や天然ガス採掘で発生するかん水などは,37°Cを超える高水温になる場合がある.さらに国内の夏季気温が40°Cを超えることがあることから,高温条件がアナモックスプロセスへおよぼす影響について,実排水処理を想定した長期的な影響評価が必要である.本研究では,アナモックス細菌を包括固定化担体と付着固定化した異なる2種類の担体を用いて連続試験を行い,高温条件がアナモックス活性へおよぼす影響を評価した.その結果,包括固定化担体を用いた試験系では,37°C条件とすると活性は徐々に低下し,窒素変換速度は1週間で37%低下した.また,38°C条件に設定すると,1週間で49%の窒素変換速度の低下が確認された.付着型担体を用いた試験系においても,37°C条件とすると活性の低下傾向が確認された.16S rRNA遺伝子に基づくアンプリコンシーケンシング解析により,アナモックス細菌の優占種は“Candidatus Kuenenia stuttgartiensis”であることが明らかとなった.これらの結果から“Candidatus Kuenenia stuttgartiensis”を優占とするアナモックスプロセスでは,37°C以上の運転は困難であり,36°C以下で運転する必要性が示された.さらに,高温条件下におけるアナモックス反応比について調査した結果,アンモニアの除去量(ΔNH4+)に対する硝酸の生成量(ΔNO3−)の比(ΔNO3−/ΔNH4+)およびアンモニアの除去量(ΔNH4+)に対する亜硝酸の除去量(ΔNO2−)の比(ΔNO2−/ΔNH4+)は,共に低下する傾向が確認され,高温による活性低下を検知する1つの指標が示された.
著者
窪澤 駿平 大西 貴士 鶴岡 慶雅
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.141-151, 2022-07-20 (Released:2022-07-20)
参考文献数
16
被引用文献数
1

化学プラントの運転では,製品の品質を一定に保ちつつ生産コストを最小化することが求められる.このためには,製品の品質に関わるプロセス変数の計測と,計測した値に基づく対応操作すなわち制御が必要である.ところが,組成や粘度など,物質を装置から採取した後にオフライン分析しなければ取得できない変数もある.そこで,計測が容易な指標から,リアルタイムに取得できない変数値を推定する機能としてソフトセンサがある.ただし,ソフトセンサでも,データのみから統計的に構築する手法の場合は,過去の類似データがない状況での推定精度(外挿性)に課題がある.そこで本稿では,化学工学知識に基づく物理モデルを利用したダイナミックシミュレータと,AI技術のひとつである強化学習によって,プラントの詳細な内部状態を推定し,各状態変数値をソフトセンサとして利用する方法を提案する.また,こうしたソフトセンサを利用したプラント運転の展望と,提案するシステムに必要な予測モデルの入手についての方法論を述べる.
著者
松井 達郎 小島 裕史 薮 穣
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.117-123, 1999-01-10 (Released:2009-11-12)
参考文献数
4

湿気硬化1液型シーリング材の材料設計, 施工設計において硬化速度を把握しておくことは重要である.大気中の湿気によって硬化していく代表的な4種類の素材を用いて硬化速度を実測し, そのモデルについて検討した.擬定常状態を仮定すると硬化時間は硬化厚みの2次関数で表現できる.そのパラメーターを実験により求め, それの物理的意味を考察した.パラメーターは膜素材と硬化機構により決定される.硬化速度を速くするには膜の水分透過速度を速くすれば良くこの相関は実験値と本モデルの計算値と良く一致した.しかし低湿度領域で硬化速度が遅くなる系は反応機構に依る所が大きい.本モデルは逆反応が無視できない硬化機構や, 硬化膜が十分形成されていないで擬定常モデルが成立しない領域では再考を要する.
著者
欅田 榮一 金 鍾和 駒沢 勲
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.5, pp.1045-1052, 1990-09-10 (Released:2009-11-12)
参考文献数
18
被引用文献数
4 5

温泉水や石炭フライアッシュ浸出液には希薄な濃度のリチウムとともに大量のアルカリ金属, アルカリ土類金属およびその他の金属イオンが含まれている.本研究では, これらからリチウムを効率的に分離・濃縮・精製するプロセスについて研究した.まず, イオンシーブタイプの無機イオン交換樹脂, λ-MnO2を用いた.これは粒子内部にリチウムイオンのみを, 粒子表面にはほとんどの金属を吸着することによって分離する.次にリチウムを選択的に溶離するため, 2種類の溶離液, NH4NO3 と HNO3, による新しい段階的溶離法を試みた.この結果, 供給液のLi/Naのモル比は1/70~120であったが, 溶離液では300/1にすることができた.溶離液中に微量で含まれている不純物の除去は, β-diketone (LIX51) と TOPO の混合抽出剤を用いた液-液抽出法によった.洗浄操作と逆抽出操作に用いる希塩酸濃度の適切な選択によって不純物が検出できない高純度のリチウムが回収された.
著者
田中 耕太郎 中桐 俊男 藤井 孝博 本多 武夫
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.73-78, 2004 (Released:2004-12-07)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2

アルカリ金属熱電変換(AMTEC)のカソード側電極内の物質移動とその経時変化特性は出力性能に大きく影響する要因である. Mo電極の性能は1100 K以上の温度域で急激に劣化することが既に報告されている. しかしより低い温度域では, Mo電極の高い初期性能はより長時間維持される可能性がある. 本研究では温度範囲900-1050 Kにおいて, Na低圧蒸気雰囲気を利用する電極評価セル(SETC)による実験を実施した. 電極の限界電流密度を測定し, Na物質移動特性を自由分子流と仮定した無次元形状係数Gにより評価した. Mo電極部温度904 K, 1007 K, 1056 Kの作動条件において, 約100-150時間でGはそれぞれ20, 78, 122の一定値に収束する結果を得た. 904 Kの測定結果よりAMTEC 出力特性を検討すると, 従来のTiN電極(G = 150)と比較してMo電極は約50%の出力増加が期待できることを明らかにした.
著者
新井 親夫 山崎 喜久雄 佐納 良樹
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.39-44, 1982-01-10 (Released:2009-11-12)
参考文献数
13

気体吸着法による多孔質体の細孔分布計算式について検討し細孔容積Viが比較的簡単な次式Vi=Rc, i (Δvi-i-1Σj=1Mi, jVj)で求められることを示した.ここで, Δviは吸着量の増分, Rc, i, Mi, jは細孔半径および多分子吸着層厚さに依存する係数である。窒素吸着により測定したt曲線を用いて, 円筒モデルに基づく係数の値を求めた.
著者
加納 寛起 山根 岳志 吉田 正道 柴柳 敏哉
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.27-34, 2022-03-20 (Released:2022-03-20)
参考文献数
15

2種の輸送物性,拡散係数およびSoret係数が未知である水溶液に対して,レーザホログラフィ実時間干渉法を適用し,それぞれを同一の光学系上で計測するシステムを提案する.まず,本計測法の妥当性と信頼性を検討した.拡散係数はNaCl水溶液,KCl水溶液を対象に,拡散方程式の厳密解が正規分布にしたがうことから干渉縞群厚さの時間変化を利用して算出し,文献値と良好に一致した.Soret係数はNaCl水溶液を対象に,ある時刻の干渉縞位置,熱拡散項を含んだ拡散方程式の厳密解,上記で求めた拡散係数から算出し,既往研究の計測値と良好に一致した.妥当性確認後,文献値に乏しいNa2CO3水溶液10 wt%においても両者の計測を行った.また,本計測に対する誤差要因を明らかにし,拡散係数およびSoret係数の不確かさ幅を推定した.本法は等屈折率線と一致する干渉縞の解析に溶液の屈折率と温度・濃度の関係を利用することで,既存手法に比べて拡散係数およびSoret係数算出の単純化が図られた.
著者
望月 雅文 高嶋 巌
出版者
The Society of Chemical Engineers, Japan
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.487-493, 1982
被引用文献数
2

羽根幅の異なるタービン撹拌羽根近傍の流れを明らかにするため, 回転カメラと光膜により断層写真観測を行い, 以下の結果を得た. (1) すべてのタービンで, ファンタービンの場合に見られた流れ (ヘリカル流など) が観察された. (2) ヘリカル流が吐出される領域での勇断速度, 角運動量は, 他の領域に比較し著しく大きかった. (3) 羽根旋回域で消費される動力は全動力消費の16~36%であったが, 羽根域での単位体積当りの消費エネルギー速度は槽内の約10~20倍の大きい値であった.またこの速度は<I>B</I>/<I>D</I>=1/4, 1/5 (<I>B</I> : 羽根幅, <I>D</I> : 羽根直径) で最大値を示した。 (4) ヘリカル流領域における流速分布に対する模型を提出した.
著者
新居田 亨 大塚 進一
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.173-180, 1995-01-15 (Released:2009-11-12)
参考文献数
12

規則形状を有する種々の凝集粒子の沈降速度を, シリコンオイルを満たした円筒容器内で測定した.沈降速度に対する壁効果は一次式で補正した.規則形状凝集粒子は, 中心球のまわりに, 中心球とは異なった直径の, 1個~14個の球を, 多面体の頂点になるように, あるいは他の方法で配置したものであり, 11種以上の形状を持っている.モデル凝集粒子の動力学的形状係数は, 周囲の粒子による中心粒子表面の被覆率, 中心粒径に対する周囲粒子径の比, 周囲粒子数および中心粒子に対する凝集粒子の投影面積比などを用い相関された.この中で被覆率による相関は, 種々の形式の凝集粒子に対して最も広い適用範囲を示し, 動力学的形状係数を4%以下の精度で相関できた.
著者
中島 隼人 今井 良行 笠原 清司 久保 真治 小貫 薫
出版者
The Society of Chemical Engineers, Japan
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.257-260, 2007-05-20
被引用文献数
1 5

熱化学水素製造法ISプロセスの要素反応であるヨウ素と水の混合系への二酸化硫黄ガス吸収反応について,323 K,ヨウ素飽和条件で,二酸化硫黄分圧の影響を調べた.定圧二酸化硫黄ガス存在下,2相分離(硫酸相とポリヨウ化水素酸相),擬似平衡状態への到達が観察され,同状態におけるポリヨウ化水素酸に対してブンゼン反応の逆反応による理想的脱硫操作を行って得られる溶液の酸濃度(HI/(HI+H<sub>2</sub>O))は,高二酸化硫黄分圧の元で高く,最大15.7±0.3 mol%に達した.
著者
金 鍾和 梁 鍾奎 欅田 榮一
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.47-52, 1997-01-10
参考文献数
8
被引用文献数
1 4

都市ゴミ焼却炉飛灰に含まれている金属元素のうち, 化学製品の原料として再利用可能なもの (例えばカドミウム, 銅, マンガン, 鉛, 亜鉛等) を, 回収するプロセスの開発を目標とした.<BR>沈殿法分離プロセスの計算機援用合成法によって合成された既報の候補プロセス (C) を進化させて, 候補プロセス (D) を合成した.このプロセスは, 飛灰をHNO<SUB>3</SUB>によって浸出した液にNa2<SUB>2</SUB>Sを添加して回収対象金属の硫化物を沈殿させ, この沈殿を希硫酸, 濃硫酸, 希硝酸によって逐次溶解して, Mn<SUP>2+</SUP>, Zn<SUP>2+</SUP>, Cd<SUP>2+</SUP>, Pb<SUP>2+</SUP>をそれぞれ単離し, CuSを沈殿として残すものである.さらに, 各金属の純度を向上するために, 候補プロセス (D) を改良して, Zn<SUP>2+</SUP>が含まれているMn<SUP>2+</SUP>及びCd<SUP>2+</SUP>ラフィネート留分をbis (2-ethylhexyl) phosphoric acid (D2EHPA) によって溶媒抽出してZn<SUP>2+</SUP>を分離する操作及びCuSをNH<SUB>4</SUB>OHあるいは (NH<SUB>4</SUB>) <SUB>2</SUB>CO<SUB>3</SUB>によって [Cu (NH<SUB>3</SUB>) <SUB>4</SUB>] <SUP>2+</SUP>とし PbSを沈殿として残す操作を加えた候補プロセス (E) を合成した.
著者
シルバニ マンスル 稲垣 眞 清水 忠明
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.6, pp.862-866, 1992
被引用文献数
1

この論文は, 複雑な動特性を持つ系 (たとえば分布定数系など) を近似できる伝達関数として, 1次遅れと無駄時間を有する要素<I>K</I>exp (-<I>Ls</I>) / (1+<I>Ts</I>) を2つ加えたものを提案している.まずこの伝達関数の性質を調べるため, ゲインと位相を計算しパラメータを調整することにより共振現象を実現できることを明らかにした.これは, ボード線図上でゲインと位相の勾配を大きく変える可能性のあることを意味し, その結果複雑な特性をよく近似できる可能性を有することを意味している.また, パラメータ<I>K</I>, <I>L</I>および<I>T</I>を求める手段として周波数伝達関数の漸近的性質を述べている.この伝達関数の有効性を示すため化学装置の中でその動的性質が理論的にも実験的にも比較的よく研究されている熱交換器を対象にして数値実験を行っている.その結果, 共振を有する周波数特性をよくフィットできること, そして同じ装置のインデイシャル応答に対してもよくフィットできることを示している.
著者
中島 隼人 今井 良行 笠原 清司 久保 真治 小貫 薫
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.257-260, 2007 (Released:2007-06-25)
参考文献数
9
被引用文献数
5 5

熱化学水素製造法ISプロセスの要素反応であるヨウ素と水の混合系への二酸化硫黄ガス吸収反応について,323 K,ヨウ素飽和条件で,二酸化硫黄分圧の影響を調べた.定圧二酸化硫黄ガス存在下,2相分離(硫酸相とポリヨウ化水素酸相),擬似平衡状態への到達が観察され,同状態におけるポリヨウ化水素酸に対してブンゼン反応の逆反応による理想的脱硫操作を行って得られる溶液の酸濃度(HI/(HI+H2O))は,高二酸化硫黄分圧の元で高く,最大15.7±0.3 mol%に達した.
著者
薄井 洋基 佐伯 隆 高木 恒雄 徳原 慶二
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.248-256, 1995-03-15 (Released:2009-11-12)
参考文献数
12
被引用文献数
4 4

蓄熱冷暖房システムにおける熱媒の輸送において, 陽イオン界面活性剤を添加することにより, 顕著な抗力減少効果が得られることが知られている.本研究では従来その効果が確認されている抗力減少用添加剤を用いた場合のスケールアップデータを得, また配管系における熱媒輸送時の所用動力の簡易推算法を検討した.これらの実験結果より陽イオン界面活性剤を実システムに添加した場合の管路系の設計が可能となった.また, 本研究ではビル空調システムの熱媒輸送系へ界面活性剤を添加する場合に想定される種々の実用上の問題点を解決するための実験的検討を行い, 界面活性剤を実システムに添加しても大丈夫であることを確認した.
著者
(故) 江口 彌 谷垣 昌敬 武藤 邦夫 土屋 博嗣 後藤 英司 佐藤 俊樹
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.6, pp.1102-1108, 1989-11-10 (Released:2009-10-21)
参考文献数
7
被引用文献数
6 7

気相が共存しない状態で, 均一水溶液中の亜硝酸の消失速度を, 288~313Kで測定して, 速度解析を行った.水溶液中での亜硝酸の自己分解は, 既往の気液系で行われた研究で導かれている素過程にしたがって起こるが, 気相が存在しない場合には, 溶解度の小さい生成物である一酸化窒素の放出が抑制され, 気液系では無視できる逆反応の影響が大きくなる.また, 亜硝酸は自己分解で消失するだけではなく, 溶存酸素による液相酸化によっても消失する.この反応系においては, 亜硝酸の自己分解における迅速な第1素過程で生成する一酸化窒素の溶存酸素による液相酸化が律速過程である.以上の考察に基づいて, 溶存酸素が存在する水溶液中における亜硝酸の総括消失速度を, 一酸化窒素の液相酸化速度を考慮して導いた.また, 総括反応速度定数および総括反応平衡定数の温度依存性を明らかにした.
著者
中村 一穂 高岸 太一
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.29-34, 2018-01-20 (Released:2018-01-20)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

結晶のゼータ電位は,結晶表面にどのイオンが優先的に吸着しているか反映する値であり,晶析における結晶の成長過程を理解するうえで有用な情報をもたらす.しかし,測定者や測定方法により値が大きく異なるため,結果の理解が困難となっている.本研究では,水酸化カルシウム水溶液と炭酸ガスを用いた炭酸カルシウムの反応晶析において,反応中の炭酸カルシウム結晶のゼータ電位の変化を溶液のイオン組成の点から考察した.また,高分子電解質ポリアクリル酸(PAA: Polyacrylate acid)を母液に加えた場合の添加の影響についても検討した.PAA無添加の場合は,生成した炭酸カルシウムのゼータ電位は正の値を示し反応中大きな変化を示した.このプラスの電荷は結晶表面へのCa2+の吸着を反映したものと考えられえる.反応中のゼータ電位は,反応初期は約+70 mVの値を示し中和反応の進行にともない減少し,中和点付近で約+15 mVの極少を示した後,緩やかに上昇する変化を示した.この変化を反応中の母液のイオン組成の変化と比較した結果,ゼータ電位の変化は母液中のCa2+の濃度変化を反映して変化することが明らかになり,結晶表面の電位決定イオンはCa2+でありその吸着平衡の変化はゼータ電位の変化により把握できることが示された.同様のゼータ電位の測定をPAAの存在下の反応晶析で行った結果,結晶のゼータ電位はマイナスの値を示し,結晶表面へのPAAもしくはPAAとCa2+の錯体の吸着が示唆された.これらの結果より,ゼータ電位が,結晶表面のイオンの吸着状態の状態を反映し,その反応晶析中の変化のモニタリングに有効な指標であることが明らかになった.
著者
井野 一 今石 宣之 宝沢 光紀 藤縄 勝彦
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.263-269, 1983-05-10 (Released:2010-03-15)
参考文献数
6
被引用文献数
14 12

W/O/W型乳化液膜による抽出プロセスの問題点は, その最終段階すなわちW/Oエマルジョンの破壊 (解乳化) 操作にあると思われる. 本報は交流を用いた電気的方法の, 解乳化操作としての有効性を検討するとともにその基本的特性を解明することを目的とする.食塩水と, Span 80を4vol%含むケロシン溶液とを回転式ディスパーザで攪拌して試料エマルジョンを作製した. 分散水滴の平均径dpは3.2~4.7μmの範囲にある. このエマルジョンは遠心力あるいは昇温による解乳化試験に対して極めて安定であった. エマルジョン層内に挿入したガラス製の非導電性電極と, エマルジョン層の下部にある水相との間に1~12kVの交流電圧を印加することによってエマルジョンの安定性は極端に低下し, 清澄な水相が得られた. 主要な因子と清澄水生成速度Vとの関係は次式で表された.ここで, Hは電極間隔, Eは印加電圧, μはエマルジョンの粘度, μcは油相の粘度であり, ETは遷移電圧でその値は6~8kVである.結論として, 水滴の直径が1μm以上であるならば, W/Oエマルジョンは交流高電圧印加法によって解乳化されることがわかった.
著者
趙 相俊 大谷 吉生 江見 準
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.776-784, 1995-07-10
参考文献数
9

セパレータ型HEPAフィルタは, 四角形断面を持つろ材とセパレータによって構成される単位流路の集合体である.従って, この単位流路の圧力損失を求めることによりフィルタユニット全体の圧力損失特性を評価できる.<BR>本研究では, 2次元モデルフィルタを用いてろ材 (多孔質体) を含む流れ場の相似則について検討し, 圧力損失を決定するパラメータを導出した.さらに, 無次元圧力損失を導出された無次元パラメータの関数としてまとめ, 一般化された圧力損失推定線図を示した.また, 2次元モデルフィルタの数値解析結果を, 2次元及び3次元モデルフィルタの圧力損失の実測値と比較し, 実際のフィルタユニットの圧力損失特性を評価するとともに, フィルタユニットの重要な設計因子であるセパレータ高さの最適値を推定する式を導出した.
著者
峯 浩二 清水 将夫 佐野 耕太郎
出版者
The Society of Chemical Engineers, Japan
雑誌
化学工学論文集 = Kagaku kogaku ronbunshu (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.52-56, 2012-03-20
参考文献数
23
被引用文献数
1 3

細胞外へ多糖を産生する<i>Polianthes tuberosa</i>(チューベローズ)カルスについて,多糖産生に対する溶存酸素濃度およびせん断力の影響を評価した.両者を独立して評価する方法として,充填層型リアクターを使用することが有効であった.カルスの酸素消費速度は溶存酸素濃度の上昇とともに増加するが,多糖の産生は7.6 g/m<sup>3</sup>をピークに減少した.溶存酸素濃度を7.6 g/m<sup>3</sup>近傍に保った条件の下では,供給する培地が与えるせん断力に対して,多糖の産生は極大値を有した.工業生産において一般的に使用される通気撹拌槽では,7.6 g/m<sup>3</sup>付近での溶存酸素濃度の制御は可能であり,好ましいせん断力の付与は難しいものの,安定な操作域での運転が可能であった.
著者
杉原 慶治 真田 俊之 城田 農 渡部 正夫
出版者
公益社団法人 化学工学会
雑誌
化学工学論文集 (ISSN:0386216X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.402-408, 2007-09-20
参考文献数
20
被引用文献数
1 21

超純水中での単一気泡の挙動を定量的に計測・評価した.超純水製造装置で精製した水の純度を保つため,異物の混入や溶出を抑えた材質の配管・水槽を用いて実験系を構築し,テストセクション出口側で比抵抗値およびTOC値を計測することで,水の純度を定量的に評価した.実験は,超純水中に単一気泡を発生させ,高速度ビデオカメラを用い気泡挙動を,スチルカメラを用いて気泡形状をそれぞれ詳細に観察した.まず,気泡が直線運動からジグザグ・螺旋運動に遷移する臨界<i>Re</i>数を調べ,<i>Re</i>=650程度では気泡が終端速度に達した後100 mm程度も直線上昇しその後遷移したのに対し,<i>Re</i>=700程度では終端速度に達すると直ちに遷移を行い,臨界<i>Re</i>数は一意に決定できなかった.定常状態の気泡の上昇速度や抗力係数を調べ,半径<i>r</i><0.5 mm程度では理論解とほぼ一致するが,<i>r</i>>0.5 mmでは実験値と理論解のかい離が観察された.また気泡形状を,ルジャンドル関数を用いて定量的に評価を行い,気泡形状と抗力係数との比較を行った.さらに気泡形状を表現する新たな実験式を提案した.