著者
中前 博久 日野 雅之 太田 健介 鈴木 賢一 青山 泰孝 酒井 宣明 阪本 親彦 長谷川 太郎 山根 孝久 巽 典之
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.216-220, 1998 (Released:2009-04-28)
参考文献数
13

症例は22歳,未婚女性,看護学生,低色素性貧血ならびに不明熱にて入院となった。入院後,鉄欠乏性貧血と診断し,鉄剤の投与を行っていたが周期的に貧血の進行がみられた。特に外泊後に急激な貧血の進行が認められていたことより,われわれはfactitious anemiaを強く疑い,テレビモニターでの監視ならびに所持品検査を行ったところ,患者病室のロッカーならびに自宅より多数の注射器,注射針および血液の入ったボトルが発見された。以上より本症例をfactitious anemiaと診断した。患者は自己瀉血を認め,心療内科医のカウセリングにより貧血の改善傾向がみられたが,退院6カ月後に通院しなくなった。十分量の鉄剤投与に反応を示さない極度の慢性低色素性貧血患者にはfactitious anemiaを考慮する必要がある。
著者
指田 吾郎 岩間 厚志
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.111-118, 2015 (Released:2015-03-12)
参考文献数
38

近年の研究成果は,造血器腫瘍をジェネティック変異とエピジェネティック変異が複数蓄積した病態として理解する重要性を示している。骨髄異形成症候群(MDS)はクローナルな造血幹細胞による悪性腫瘍であり,造血不全状態を呈して,一部が急性骨髄性白血病(MDS/AML)へと移行する。近年の詳細なゲノムワイドの遺伝子解析によって,TET2, DNMT3A, EZH2, ASXL1などのエピジェネティック制御遺伝子の変異がMDSで次々と同定された。これまでに蓄積されたがんにおけるエピゲノム異常の知見とあわせて,エピジェネティック制御異常を伴うMDS発症の分子基盤が徐々に解明されつつある。
著者
水野 石一 村山 徹 大林 千穂 高橋 健太郎 宮田 陽子 安藤 美和 佐藤 倫明 井本 しおん 松井 利充 伊東 宏 千原 和夫
出版者
The Japanese Society of Hematology
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.8, pp.593-599, 1998-08-30
被引用文献数
3

53歳,女性。51歳の時に肺炎にて近医を受診し,頚部リンパ節腫脹,貧血,高ガンマグロブリン血症を指摘され,multicentric Castleman's disease (MCD)を疑われた。53歳の時に下肢のしびれ感,脱力感を認め,当科入院。多クローン性高ガンマグロブリン血症を認め,リンパ節生検にてリンパ濾胞間に形質細胞の浸潤を認めたため,MCDと診断した。また,胸部CTにてびまん性粒状影,経気管支肺生検にて形質細胞の浸潤を認め,lymphoid interstitial pneumonia (LIP)と診断した。また神経学的所見および神経電気生理検査から多発神経障害の合併と診断した。LIPに対しprednisoloneとcyclophosphamideによる治療を行ったが,一部に線維化が進んでいたためかあまり改善は認められなかった。肺合併症はMCDの予後を左右するため早期の発見と治療が必要である。
著者
大橋 晃太 横山 明弘 籠尾 壽哉 細田 亮 山本 隆介 米田 美栄 工藤 昌尚 朴 載源 上野 博則 矢野 尊啓
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.670-674, 2013 (Released:2013-08-02)
参考文献数
15

症例は53歳男性,2006年11月にPOEMS症候群と診断され,翌年2月に自家末梢血幹細胞移植(ASCT)を受けた。2011年7月に両側胸水貯留による呼吸困難と,全身性浮腫が出現した。血漿vascular endothelial growth factor (VEGF)およびM蛋白が増加し再発と診断された。lenalidomide/低用量dexamethasone (Ld)療法により体液貯留は速やかに改善し,11コース実施後も増悪なく経過している。ADLは全介助から軽介助立位可能なレベルまで改善した。最近lenalidomideの本疾患への使用報告が増加しているが,浮腫の改善だけでなく溢水症状が急速に改善した報告はない。水分貯留傾向が著明なPOEMS症候群においてLd療法は有効な治療選択肢である。
著者
河村 雅明 竹内 仁 八田 善弘 相磯 きすみ 堀越 昶 大島 年照 堀江 孝至
出版者
The Japanese Society of Hematology
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.206-211, 1995-03-30
被引用文献数
2 1

症例は47歳の女性。貧血と末梢血へのリンパ芽球の出現を指摘され,1988年10月当科に入院した。ALL (L2)と診断され,JALSGのALL-87プロトコルが開始された。治療開始10日目に39.6°Cの発熱がみられ,緑膿菌による敗血症とそれに伴うエンドトキシンショックを合併したが,抗生剤の併用により軽快した。白血球の回復に伴い,胸部X線写真で左上肺野に浸潤影が出現し,陰影は急速に拡大するとともに,三日月状空気透亮像(air crescent)を伴う空洞形成を呈した。経気管支鏡的に起因菌の検索とAMPH-Bの注入を行ったところ,菌は証明されなかったが空洞は軽快した。完全寛解後,腰痛が出現し,腰椎X線写真で,腰椎椎体の壁不整および椎間腔の狭小化を認めた。腰椎椎弓切除術および病巣〓爬術を施行し,病巣部よりアスペルギルスの1コロニーが培養された。AMPH-Bの静脈内投与で腰痛は軽快し,その後の化学療法は支障なく行えた。AMPH-Bは本症例の治療に有用と考えられた。
著者
市原 弘善 康 史朗 青山 泰孝 久村 岳央 太田 忠信 古川 佳央 寺田 芳樹 山根 孝久 日野 雅之 麥谷 安津子
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.352-356, 2012 (Released:2012-04-10)
参考文献数
10

症例は62歳,男性。近医にてC型慢性肝炎の診断のもとInterferon-β (IFN-β)で治療が開始された。治療開始後29ヶ月2週目にWBC 2,300/μl, Hb 7.2g/dl, PLT 4.7×104/μl, と汎血球減少を認めIFNを中止。しかし,その後も汎血球減少は進行,LDH 4,898IU/lと急激な上昇を認め,当科紹介入院となった。精査の結果,悪性貧血と診断,ビタミンB12投与により速やかな改善が得られた。ウイルス性肝炎に対してIFN治療が広く行われている。それに伴って様々な副作用が報告されているが,悪性貧血合併報告は稀である。IFN加療中に貧血を合併した場合,悪性貧血を鑑別する必要があると考えられ報告する。
著者
壹岐 聖子 大林 由明 浦部 晶夫
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.65-67, 2000 (Released:2009-07-28)
参考文献数
3

A 41-year-old woman who had been given a diagnosis of aplastic anemia 14 years before was admitted because of recurrence of the disease. Despite therapy, the anemia progressed gradually. The patient refused blood product transfusions for religious reasons. Angina pectoris-like chest pain without ischemic changes on electrocardiograms appeared at a hemoglobin concentration (Hb) of 1.6 g/dl. The patient died of heart failure at Hb 1.5 g/dl. Autopsy showed enlargement of the heart, fatty changes in the myocardium and liver due to chronic hypoxia, and no changes in coronary arteries.
著者
高木 省治郎 須田 啓一 小松 則夫 大田 雅嗣 加納 康彦 北川 誠一 坪山 明寛 雨宮 洋一 元吉 和夫 武藤 良知 坂本 忍 高久 史麿 三浦 恭定
出版者
The Japanese Society of Hematology
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.27, no.12, pp.2274-2280, 1986

Five patients with malignant lymphoma in whom primary chemotherapy had failed were treated with high-dose chemotherapy using AAABC regimen, total body irradiation, and transplantation of cryopreserved autologous marrow. Complete remission was achieved in all five patients. In these patients, the recurrence of malignant lymphoma did not occur during the follow up time of 2 to 59 months after autologous bone marrow transplantation. Three of them are alive in continuous remission for 33, 49, and 59 months, respectively. In one of these three patients, acute lymphoblastic leukemia developed 44 months after bone marrow transplantation. However, successful chemotherapy resulted in a complete remission of leukemia, he is alive in remission. The remaining two patients died of pneumonia and respiratory failure 72 days and 82 days after bone marrow transplantation, respectively. Our results show that intensive chemoradiotherapy and autologous-marrow transplantation can produce a prolonged remission in patients with malignant lymphoma in whom conventional chemotherapy has failed.
著者
山田 古奈木 森 健 入江 誠治 松村 万喜子 中山 勝司 平野 隆雄 須田 耕一 押味 和夫
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.11, pp.1103-1108, 1998 (Released:2009-04-28)
参考文献数
11
被引用文献数
1

症例は41歳男性。平成7年10月発症の急性骨髄性白血病(M1)。2回の寛解導入療法に不応であったが,3回目の治療後寛解を得て,平成8年4月HLAの一致した兄をドナーとして同種骨髄移植を行った。移植後好中球数は20日目に500/μlまで回復し,その後さらに増加したが,移植前より合併していた真菌症が急速に悪化し移植後31日目に死亡した。剖検では,全身性真菌症の所見を呈し,心筋刺激伝導系への真菌の浸潤が死亡の直接の原因と考えられた。急性GVHDはみられなかった。剖検時に採取した患部組織の培養より,Aspergillus flavus (A. flavus)が検出され,アフラトキシン産生株であることが判明した。アフラトキシン産生性のA. flavusが臨床検体から分離されたのは本例が初めてである。
著者
濱西 徹 西川 寛紀 小林 正人 中尾 大成 大萩 晋也 佐々木 秀行 松本 元作 三家 登喜夫 南條 輝志男
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.53-58, 1998 (Released:2009-04-28)
参考文献数
8
被引用文献数
3

患者は26歳の男性。平成6年7月再生不良性貧血のため,同種骨髄移植を受けた。経過は順調であったが,平成7年1月腹痛が出現したため,当科入院。腹痛の精査行うも原因不明で,その間に症状は徐々に増強した。入院4日目突然両側視力低下が出現した。翌日には全身に発赤を伴う丘疹が出現し,血液検査では重篤な肝機能障害を呈した。上記の一連の症状が水痘帯状疱疹ウイルスの臓器播種によるものと診断し,アシクロビルの静脈内投与を開始し,上記症状は著しく改善した。皮疹に先立ち急激な腹痛で発症した水痘帯状疱疹ウイルス感染症は稀であるが,高率に臓器播種し致死的で,早期治療が予後を大きく左右する。したがって,骨髄移植後,免疫抑制状態にある患者において,原因不明の激烈な腹痛を認めた場合,水痘帯状疱疹ウイルス感染症を念頭に置き,早期診断に努めることが重要であると考えられた。
著者
松縄 学 川上 恵一郎 久武 純一 鈴木 順子 中牧 剛 日野 研一郎 友安 茂
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.44, no.10, pp.1010-1014, 2003 (Released:2009-07-28)
参考文献数
14
被引用文献数
2

症例は21歳,男性。原因不明の急性肝炎で入院した。安静で徐々に肝障害は改善したが,入院約2カ月後より再度肝機能の悪化,高熱がみられ,汎血球減少が進行した。血清のTNFα, IFNγ, IL-6, M-CSFが高値で,骨髄に血球貪食像を伴い,血球貪食症候群類似の病態を示した。プレドニゾロン,γグロブリン,G-CSFの投与後,解熱し,肝障害も徐々に軽快したが,汎血球減少は改善しなかった。その後の骨髄検査で血球貪食細胞が残存していたが著明な低形成を示し,肝炎後再生不良性貧血と診断した。ATG, シクロスポリン,G-CSFによる免疫抑制療法を行い,造血能の回復がみられた。骨髄中のリンパ球のCD4/CD8比は改善し,TNFαやINFγなどのサイトカインも減少した。血球貪食症候群様の病態に伴う活性化T細胞およびINFγ, TNFαの増加が肝炎後再生不良性貧血の発症に関与したと考えられた。