著者
濱野 高行
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.60, no.9, pp.1092-1099, 2019 (Released:2019-10-08)
参考文献数
31

無作為介入研究(RCT)により,貧血改善以外の鉄の恩恵は,むずむず脚症候群の改善や貧血を有さない鉄欠乏患者における倦怠感の改善などもわかってきた。心不全患者におけるRCTから,静注鉄剤であっても自覚症状のみならず,心不全増悪による入院を有意に減らすと報告され,欧州心不全ガイドラインでも鉄欠乏があれば,ferric carboxymaltoseを静注投与することが推奨された。また血液透析患者におけるRCTでも積極的静注鉄剤投与が,鉄欠乏時にだけ投与する消極的投与に比し,赤血球造血刺激製剤の投与量や輸血頻度を減らすだけでなく,非致死性心筋梗塞,脳卒中,心不全入院,総死亡の主要複合アウトカムを抑制することが報告された。これらの理論的根拠は,致死的心筋症を呈する心筋特異的transferrin receptorノックアウトマウスの基礎実験に求めることができる。このマウスでは,心筋内鉄欠乏が電子伝達系の機能不全を惹起する結果,アデノシン三リン酸の産生障害が起こり,鉄欠乏によるオートファジー不全が異常ミトコンドリアの心筋内蓄積を招来する。
著者
生田 克哉
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.1903-1913, 2015 (Released:2015-10-10)
参考文献数
49

通常,生体内での鉄の動きは厳密に制御されているが,鉄の全体量が減ってしまうと鉄欠乏性貧血が生じるし,鉄代謝調節因子ヘプシジンが炎症などで過剰産生されると鉄の造血への利用が障害され慢性疾患に伴う貧血が生じる。逆に,背景に貧血が存在することで鉄過剰症という問題が生じる場合があり,例として遺伝性難治性貧血であるサラセミアが挙げられ,重度の貧血に対して行う赤血球輸血が長期間にわたることでさらに大量の鉄が体に負荷され鉄過剰となり,臓器障害を起こし予後にも関与してくる。一方,鉄過剰という状態そのものが造血を抑制して貧血をもたらしている可能性がある。例として,輸血依存性であった骨髄異形成症候群や再生不良性貧血が輸血後鉄過剰症となった場合に鉄キレートを行うことで,背景に存在していた輸血依存性が回復する現象が注目されている。このように,各種貧血において鉄代謝は非常に密接に結びついている。
著者
藤村 欣吾 高松 弓子 蔵本 淳
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.27, no.9, pp.1693-1699, 1986 (Released:2009-02-02)
参考文献数
27
被引用文献数
3

Fifty six (56) chronic ITP cases were treated with steroid hormone over one year and the effectiveness of steroid was evaluated. Fourty one cases (66.1%) showed good response (platelet counts≥10×104/μl) to the initial steroid treatment within 15∼80 days (mean 29.4 days) and the platelet counts increased depend on cumulative dose of steroids (prednisolone, β-methasone). The clinical and hematological responsiveness after at least one year of steroid treatment was observed in 9 cases were complete remission (platelets≥10×104/μl) reaching to the drug free, in 18 cases of partial remission (Plts≥10×104/μl), 10 cases of minor response (5×104≤Plts 10×104/μl) and 19 cases of non responder (plts<5×104/μl). The CR and PR groups showed good response to initial therapy and the pretreatment period from the onset was shorter than that of MR or NR. Since there was no remarkable correlation between the clinical response to steroid and the PAIgG level or other various autoantibodies level, the prediction of steroid responsiveness before treatment was difficult by these serological findings. The complications of steroid therapy were found in steroid unresponsive cases who were treated with large amount of steroid for long period.These analysis mentioned that the prednisolone (β-methasone) treatment should be the first choice for the initial treatment of ITP to relieve bleeding tendency and to increase the platelet counts rapidly in above half cases (48%).
著者
家原 知子 長谷川 大輔
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.125-129, 2021

<p>小児血液・腫瘍性疾患患者は一般小児に比べて新型コロナウイルスに感染しやすく,重症化するリスクが報告されつつある。最も重要なことはCOVID-19の感染を防ぐことである。患者やその周囲の者は,人込みを避け,マスク着用,手指衛生の徹底を行う必要がある。入院中は院内感染防止に努める必要がある。COVID-19に罹患した際には,COVID-19による合併症と原疾患の状態を判断して,リスクの高い病態の治療を優先させる個別化した治療方針の決定が必要である。寛解期であれば,一定期間の原疾患の治療中断はあり得るが,高リスクや緊急性の高い場合は,原疾患の治療を優先する必要がある。その他の問題点として,SARS-CoV-2感染を恐れて医療機関受診控えで重症化に至った報告がある。また,医療資源の不足から,治療に遅れや変更が生じるなど,小児血液・腫瘍性疾患患者の治療が影響を受けている。小児やその保護者に適切な情報提供が必要である。</p>
著者
森下 英理子
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.1236-1246, 2021 (Released:2021-09-08)
参考文献数
50

COVID-19では血液凝固異常を合併する頻度が高く,血栓症が多発することが知られている。そしてそのメカニズムは複雑であり,低活動性・無動化といった物理的要因に加えて,炎症による血液凝固の活性化,血管内皮障害の関与が大きい。血栓症はpulmonary thromboemobolism,deep vein thrombosisのほかに,動脈血栓症も発症し,さらには肺胞毛細血管内微小血栓も認める。COVID-19の病態の悪化には血栓症が関わる可能性があるため,中等症ならびに重症患者では予防的抗凝固療法は必須である。予防的な抗凝固療法を実施しても肺塞栓症の発生頻度は依然として高いことより,根底にある炎症の制御と血管内皮保護を今後抗凝固療法に併用する必要があるだろう。
著者
南学 正臣
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.938-943, 2021 (Released:2021-09-08)
参考文献数
31

低酸素誘導因子(hypoxia-inducible factor, HIF)は低酸素状態に対する適応応答を司り,様々な低酸素に対する適応応答を誘導する。HIFの主要なターゲット分子としてエリスロポエチンがあり,赤血球を増やすことで臓器への酸素供給を促す。HIFの分解はHIF-PHが司っており,HIFを活性化するHIF-PH阻害薬は腎性貧血の新しい治療薬として期待されている。また,慢性腎臓病の進展のfinal common pathwayとして腎臓の慢性低酸素が重要であり,心血管系合併症においても臓器の低酸素が重要である。HIF-PH阻害薬にはVEGF産生の刺激などによる理論的注意点もあるが,低酸素に対する臓器保護も期待される。2019年にはHIF/HIF-PHによる低酸素応答機構を解明した三人の研究者がノーベル医学・生理学賞を受賞しており,関連する酸素生物学は世界的にも注目されている分野である。
著者
内田 智之 井上 盛浩 華 見 田島 将吾 大田 泰徳 萩原 政夫
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.624-629, 2017

<p>5年前から関節リウマチ(RA)の加療中で,2年前に悪性リンパ腫の発症が疑われたが確定診断には至らず,抗リウマチ薬(メソトレキセート(MTX),アバタセプトとプレドニゾロン)の休薬で自然寛解していた。今回発熱と脾腫で再燃し,脾生検による病理組織学的検査でEpstein-Barr virus encorded RNA(EBER)が陰性で,CD3−,CD56+,細胞障害性顆粒(TIA-1)が陽性でありchronic natural killer lyphoproliferative disorderの診断を得た。繰り返し共通の染色体複雑核型異常を認めたため,リンパ系悪性腫瘍と判断し,化学療法を開始するも反応不良で早期に死亡した。RAに合併するMTX関連リンパ増殖性疾患(LPD)はB細胞性が主であり,NK細胞性はまれである。さらにNK細胞性LPDの全てでEBV陽性であり,EBV陰性例は調べた限りで報告はない。</p>
著者
斎藤 健 薄井 紀子 土橋 史明 牧 信子 浅井 治 矢野 真吾 加藤 明徳 渡辺 浩 香取 美津冶 長峰 守 荻原 朝彦 山崎 博之 小林 直 田嶋 尚子 倉石 安庸
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.7, pp.481-486, 1998-07-30
参考文献数
17
被引用文献数
2

成人急性骨髄性白血病(AML)においてCD7が予後因子となり得るかを評価する目的で,CD7陽性(+) AMLとCD7陰性(-) AMLの治療成績の比較検討を行いその意義について検討した。対象症例は1989年9月より1996年1月までの6年4カ月の間に,当科に入院した15&sim;65歳の<i>de novo</i> AML症例63例である。63例中表面マーカー検索材料中の芽球が70%以下の9例,早期死亡例(1カ月以内)2例を除外した52例が評価可能症例であった。FAB分類ではM1: 10例,M2: 16例,M3: 11例,M4: 8例,M5: 5例,M6: 2例であった。評価可能症例中CD7+AML症例は10例で,FAB分類ではM1: 3例,M2: 6例,M3: 1例であった。CD7-症例42例中CRは33例(CR率:78.6%),無再発生存率は22.1%, 4年生存率は35.4%であったのに対し,CD7+例10例のCR率は60%(6例),無再発生存率は53.3%, 4年生存率は44.4%であった。CD7+AMLとCD7-AMLの間で性別,血液学的所見,肝脾腫,リンパ節腫大,中枢神経系浸潤の有無,CR率,4年無再発生存率に有意差を認めなかった。CD7陽性は単独では予後因子となり得ないと考えられた。
著者
都築 基弘 平野 正美 井野 晶夫 長谷川 明生 宮崎 仁 小島 博嗣 丸山 文夫 岡本 昌隆 松井 俊和 江崎 幸治
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.296-302, 2000

1984年8月から1998年1月までに受診した高齢者(60歳以上)AML全83例の特質を明らかにするために同時期に受診した若・壮年者(15&sim;59歳)114例と臨床像および検査所見の比較検討を行った。高齢者AMLは,白血病細胞側の特徴としてはMDS先行AMLが多く,<i>de novo</i> AMLのFAB分類ではM3が少なく,M0, M1の多い傾向がみられた。染色体検査では予後不良とされる5番,7番染色体の異常が多くみられ,予後良好な15;17転座,8;21転座,16逆位は少なかった。また白血病芽球のミエロペルオキシダーゼ陽性率50%未満の症例が多くみられた。宿主側の特徴としては,検査所見では末梢血芽球比率,総蛋白低値,フィブリノーゲン,クレアチニン高値を示した。performance status 3および4の症例が約40%を占めており,診断時肝障害,心疾患,明らかな感染巣を有する症例が多くみられた。高齢者AMLは若・壮年者に比し多くの予後不良因子をもつ集団であることが示された。
著者
中村 信元 尾崎 修治 安倍 正博 松本 俊夫 矢田 健一郎 神野 雅 原田 武志 藤井 志朗 三木 浩和 中野 綾子 賀川 久美子 竹内 恭子
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.690-695, 2010

67歳男性,背部痛を契機に2001年10月に多発性骨髄腫IgA-<i>&lambda;</i> stage IIIAと診断された。VAD療法5コース後の2003年3月に自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法を行うも再発した。以後,サリドマイド療法などを行うも再燃し,2007年6月入院した。入院後のボルテゾミブ(Bor)療法で,2度の腫瘍崩壊症候群をきたした。その後のCTで右肺上葉,膵尾部,脾臓の腫瘤が急速に出現し,ミカファンギンやボリコナゾールを投与するも,入院85日後に死亡した。剖検で,肺,脾臓に多発性の真菌塊と出血性梗塞が認められ,僧帽弁には真菌塊の疣贅を認め,組織学的に播種性接合菌症と診断した。Bor療法後の腫瘍崩壊によるアシドーシスや,コントロール不良の糖尿病,輸血による鉄過剰,抗真菌薬投与中のブレークスルー感染症などが発症の誘因と考えられた。
著者
池田 裕明
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.716-722, 2019

<p>近年のがん免疫療法の発展は目覚ましく,免疫チェックポイント阻害療法に続いてT細胞輸注療法が実用化の段階に入り始めている。B細胞抗原であるCD19に対するキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor, CAR)遺伝子導入T細胞であるCD19-CAR-T細胞の輸注療法が2017年に急性リンパ球性白血病,びまん性大細胞性リンパ腫の治療法として立て続けに米国FDAに承認され,我が国においても本年2月にこれらの疾患について承認が了承され,近く正式承認されることになった。CAR-T療法に続く腫瘍特異的T細胞の輸注療法として腫瘍特異的T細胞レセプター(T cell receptor, TCR)遺伝子を導入したリンパ球の輸注療法が大きく期待されている。本稿ではTCR遺伝子導入リンパ球輸注療法の開発の現状と課題について概観し,我々の取り組みについても紹介する。</p>
著者
小杉 浩史
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.279-288, 2015

初発未治療多発性骨髄腫患者に対する大量化学療法併用自家造血幹細胞移植療法は,4つのメタアナリシスおよび系統的レビューにより,通常量化学療法に比較して,無増悪・無再発生存率に優れるが,全生存率での優位性は認められていない。IMIDsやプロテアゾーム阻害剤等の新規薬剤を含んだ場合の成績については,まだ第III相試験の報告が少なく,現時点で評価は確立していない。自家移植後の維持療法の意義については,ガイドラインでその評価がわかれるが,多くのガイドラインでは,少なくともCR未達成の場合の維持療法については,複数の第III相試験の結果から推奨している一方,日本血液学会のガイドラインは慎重姿勢であることにも留意が必要である。
著者
島田 和之
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.631-640, 2021 (Released:2021-07-03)
参考文献数
49

血管内大細胞型B細胞リンパ腫は,全身臓器の細小血管内に腫瘍細胞が選択的に増殖する節外性B細胞リンパ腫の一型である。生検臓器より十分な腫瘍細胞を得られないことが,病態解明を妨げてきたが,異種移植マウスモデルや血漿遊離DNAを利用することにより,本病型が活性化B細胞型びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に類似する分子遺伝子学的特徴を持ち,免疫チェックポイント関連遺伝子に高率に異常を来すことが明らかとなってきた。治療面においては,rituximab併用化学療法による治療成績の向上と高い二次性中枢神経浸潤リスクを勘案した,R-CHOP療法に高用量methotrexate療法と髄腔内抗がん剤注射を組み合わせた治療を試験治療とする臨床第II相試験が行われ,同治療により良好な無増悪生存割合と低い二次性中枢神経浸潤累積発症割合が示された。病態に対する理解の深化と治療成績のさらなる向上が今後の課題である。
著者
井手 史朗 大原 慎 内田 智之 井上 盛浩 華 見 萩原 政夫
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.326-330, 2019 (Released:2019-05-08)
参考文献数
11

65歳,男性。膀胱直腸障害と両下肢の感覚障害を自覚し入院となった。入院時,画像検査で胸部すりガラス影を認め,さらに抗サイトメロウイルス(CMV)-IgM陽性を有意と捉え,一連の症状をCMV感染によるものと考え,ステロイドパルス療法および抗ウイルス療法を開始するも,改善を認めなかった。その後,肺野病変が悪化したため気管支鏡検査を行い,生検も追加し,血管内大細胞型B細胞性リンパ腫(IVLBCL)の診断を得た。R-CHOP療法が施行され,自覚症状,採血データは速やかに改善傾向を認め,完全寛解に到った。MTXによる髄注療法を追加し,2年間の寛解を維持している。IVLBCLは9.5%に末梢神経障害を合併することが報告されているが,馬尾神経障害を呈する例は末梢神経障害のうちの14.5%とさらに稀であるとされ,ここに報告する。
著者
奥野 達矢 岩田 哲 早川 浩史 宮尾 康太郎 梶口 智弘
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.184-190, 2019 (Released:2019-05-08)
参考文献数
13

血管内大細胞型B細胞リンパ腫(IVLBCL)は稀な節外性B細胞リンパ腫であり,特異的な所見に乏しいため診断に苦慮することが多いが,急速な経過を辿るため診断の遅れは致命的となる。IVLBCLの診断に有用な所見を検索することを目的に,当院で診断されたIVLBCL患者10例について臨床像を検討した。最多の症状は発熱で8例にみられ,次いで呼吸器症状(咳嗽,喀痰,呼吸困難感)が7例にみられた。血液検査所見では血球減少を10/10例,高LDH血症を9/10例に認め,動脈血液ガス分析ではPaO2低下を6/7例に認めた。画像検査所見上は7例に肝脾腫がみられ,9例に胸部異常陰影がみられた。これらの所見は治療により改善した。IVLBCLにおける肺病変の合併頻度はこれまでに報告されている以上に高い可能性が示唆される結果であり,原因不明の呼吸器症状,低酸素血症でもIVLBCLを鑑別に挙げる必要があると考えられる。
著者
石川 立則 福見 拓也 守山 喬史 村上 裕之 永喜多 敬奈 吉岡 尚徳 牧田 雅典 神農 陽子 角南 一貴
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.60, no.10, pp.1455-1461, 2019 (Released:2019-11-06)
参考文献数
14

64歳,女性。2013年に,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)と診断され,R-CHOP療法8コース後のFDG-PET/CTで完全奏効を確認後,残存した後腹膜腔の軟部陰影に対し局所放射線照射を追加した。2016年初頭からLDH・可溶性IL-2受容体の高値が持続し,再発を疑いFDG-PET/CT撮影行うもリンパ節腫大や異常集積は認めず。同年7月末より発熱・盗汗出現し,血管内リンパ腫を疑いランダム皮膚生検を行ったところ,皮下脂肪織内の血管周囲および血管内に大型の異型細胞の浸潤を認め,細胞形態および免疫染色,免疫グロブリン重鎖遺伝子PCR結果からDLBCLの再発が示唆された。救援化学療法に加えて自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法を行ったが,約15ヶ月後に肺病変を伴い再発し,再度化学療法を行い現在再奏効が得られている。DLBCLが血管内リンパ腫様に再発を来すこともあり,臨床所見や検査所見から疑わしい際は,IVLBCLに準じた検査を検討する必要があると考える。
著者
テイ・アストラップ
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.22, no.9, pp.1377-1393, 1981

血液循環により生命活動を行なっている生体にとって,止血機構は重要な生命保全の手段であるが,この止血は血液の凝固作用と血液細胞および血管内皮細胞の機能との相互作用によって協調的に行なわれる。例えばいま組織の一部が損傷を受けると,そこからトロボプラスチンが血液中に放出されて凝固がおこり,できたフィブリンがその部位に定着する。茲に周囲の組織から線維芽細胞と毛細血管内皮細胞が伸びてきて,血管の豊富な肉芽組織となる。そして最終的にはこの肉芽組織は上皮や粘膜上皮細胞におき代って瘢痕となり,創傷は治癒することとなる。この際もし炎症反応が加わると,白血球や各種蛋白分解酵素がこの機序に参加してフィブリンの除去が促進されるが,この炎症反応がない場合には,ここで活性化された血液中および組織内の線溶系が,このフィブリンの溶解除去,瘢痕形成に主役を演ずることとなる。<br>もとより血液凝固には血中(および組織内)のフィブリノゲン,トロンビン,トロンボプラスチンが主導的な意味をもつが,その出血ないし組織損傷部位の凝固過程はまた阻害物質によっても大きく影響をうける。そしてそれは線溶についても同様で,これら凝固・線溶およびそれらに対する阻害物質の間には,止血機構という意味からも一定の協調・制御が働いている。<br>出血とは閉鎖血行路から血液が逸脱することであるが,これには大きく分けて3つの型がある。すなわち1) 血友病など凝固因子の欠如による出血,2) 肺における血栓・塞栓症における組織トロンボプラスチン放出による凝固と出血,3) 妊娠および出産時におけるトロンボプラスチン放出の出血性合併症である。<br>凝固あるいは線溶系が活性化されて出血がおこる際,その程度が一定の限度内で制御が効く範囲であれば,やがて止血されるが,この程度がその限度をこえる時は,出血は続き,創傷の治癒は後れる。この最も代表的な例はいわゆるDIC(汎発性血管内凝固)である。この際は凝固がおこってフィブリンが析出すると,線溶活性化物質がその表面に吸着され,プラスミノゲンは活性化され易いリジン型になって容易にプラスミンとなり,これによりフィブリンはとける。しかしこのプラスミンの作用を抑える&alpha;<sub>2</sub>アンチプラスミンがあれば,プラスミンの作用は一層つよくなり,出血は促進される。DICはまた脱フィブリン症候群(defibrination syndrome)ともよばれるが,凝固が一次的に先行し,そのため線溶が二次的におこるという機序は必ずしも全てのDIC例で確められるとは限らず,ことに不顕性(covert) DICの場合は血小板やフィブリノゲンの減少,FDPの増加,プロトロビン時間の延長などが検査で認められなくても,局所的に臓器内血栓ができ,血栓性発作などの臨床症状がおこることがあり,あるいは終始この症状の出ないこともあって,その診断は困難である。治療としては凝固を阻害するためにヘパリンを投与することがいわれているが実際に大量出血中の患者にヘパリンを直ちに注射するのには勇気を要する。この際比較的過量のカルシウムを投与すると凝固が却て遅延することがあるので,試みる価値があろう。<br>循環血中で凝固反応さらに血栓症がおこる際凝固促進物質の証明されることがある。血友病患者で外傷や出血がおこる時にはしばしばこの物質が認められるが,これは内因性機序の一部の活性化によるものであろう。<br>止血機序によっておこるフィブリン沈着などの局所の変化は創傷治癒に重要な影響を与えるが,これは臓器別に,また動物種によって差異がある。臓器や動物種によって凝固・線溶活性物質の量や活性化の機序に著しい相異があるからである。今後この方面の研究にはこれらの事項を十分に脳裏に収めておく必要がある。
著者
滝田 資也 堀田 知光 山田 英雄 斉藤 宏
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.17, no.5, pp.520-526, 1976

The distribution patterns of the erythropoietic marrows in 17 patients with polycythemia vera were evaluated with a Ring-type Whole Body Linear Scanning using <sup>59</sup>Fe. Ferrokinetics indices calculated by Huff's method were as follows: PID T1/2 42&plusmn;24 min. (Mean&plusmn;S.D.), RCU 86&plusmn;17%, PIT 1.00&plusmn;0.58 mg/kg/day, EIT 0.91&plusmn;0.61 mg/kg/day. RCU and EIT in polycythemia vera cases with myelofibrotic change were lower than those in polychytemia vera cases without myelofibrotic change. After the injection of <sup>59</sup>Fe, the longitudihal as well as transverse linear scanning were performed at 6 hours, 24 hours, 5th day and 10th day period. The distribution patterns of <sup>59</sup>Fe at 24 hours, which reflect the erythropoietic marrow distribution, were devided into 3 patterns, that is, normal, marrow expansion and extramedullary erythropoiesis. Among 20 cases, 5 had normal, 7 had marrow expansion and 13 had extramedullary erythropoiesis. The frequency of extramedullary erythropoiesis was significantly high in patients with splenomegaly. The accumulation of <sup>59</sup>Fe at the 10th day in the spleen reflecting the hemolysis and the pooling of the red cell was found in 19 among 20 cases with polycythemia vera. The whole body linear scanning is useful for the diagnosis, treatment and studies of pathophysiology of polycythemia vera.
著者
前田 卓也 増田 喬子 河本 宏
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.1066-1073, 2016

<p>がんに対する免疫療法,特にがん抗原特異的T細胞療法は現在大変注目されている。しかし,がん抗原特異的T細胞を充分量までの増幅することは技術的に困難であるという大きな問題が残されている。筆者らはiPS細胞技術を応用してこの問題を解決しようとしている。がん抗原特異的T細胞からiPS細胞を樹立し,そのiPS細胞をT細胞に再分化させれば,同じTCRを発現するT細胞を多量に得ることができる。筆者らはこの方法を用いて,がん抗原特異的なT細胞の再生に成功した。再生T細胞は元のT細胞に匹敵する抗原特異的キラー活性を示し,白血病細胞を殺傷した。将来的には様々ながん抗原特異的T-iPS細胞をHLAハプロタイプホモドナーから樹立し,バンク化することを構想しており,臨床応用を目指している。</p>
著者
青木 智広
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.575-584, 2016 (Released:2016-06-04)
参考文献数
43

縦隔原発大細胞型B細胞性リンパ腫(PMBL)の標準治療は未確立である。我々は,本邦のPMBL患者の治療法別の治療成績と予後因子を明らかにするために,多施設共同後方視的研究を行い,345例の初発PMBL患者の解析を行った。初回化学療法として最も多く選択されていたのはR-CHOP療法(N=187)であった。R-CHOP療法の後に,地固め放射線療法を受けていない患者(N=123)の予後因子を解析すると,IPI高値と胸水・心嚢水の貯留が,全生存率(OS)に対する予後不良因子として抽出された[IPI: hazard ratio (HR), 4.23; 95% confidence interval (CI), 1.48~12.13; P=0.007; effusion: HR, 4.93; 95% CI, 1.37~17.69; P=0.015]。これらの予後因子を組み合わせると,どちらの予後不良因子ももたない患者は,全体の約半数を占めており,地固めRTなしでも,4年無増悪生存率87%, 4年OS95%と非常に良好な成績を示した。これらの予後因子は,Validation Studyで確認される必要はあるが,患者のリスクに応じた治療選択をすることにより,初発PMBL患者に最適な治療を提供できる可能性が示唆された。