著者
山﨑 宏人
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.91-97, 2016 (Released:2016-03-01)
参考文献数
39

再生不良性貧血はT細胞を介した自己免疫疾患と考えられている。GPIアンカー型膜蛋白が欠損した細胞の増加や6番染色体短腕UPDによるHLAアレル欠失血球の出現はT細胞の関与を間接的に示している。再生不良性貧血患者の約1/3にクローン性造血を示唆する遺伝子変異が検出されることが報告された。ATG+シクロスポリンによる免疫抑制療法不応例に対しエルトロンパグが奏効するとの報告が注目されている。再生不良性貧血に対する造血幹細胞移植の治療成績を向上させるためには,前処置関連毒性の軽減とGVHD予防の強化が必要である。最近,心毒性の軽減を期待して,シクロフォスファミドを減量し,代わりにフルダラビンを併用する前処置が広まりつつある。しかし,混合キメラや二次性生着不全といった新たな課題が浮上している。前処置にATGやalemtuzumabを加えて,GVHD発症抑制の強化が試みられている。
著者
長谷川 広大 松村 彩子 香月 健吾 穐本 昌寛 佐久間 敬之 中嶋 ゆき 宮崎 拓也 藤澤 信 中島 秀明
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.1286-1288, 2023 (Released:2023-11-02)
参考文献数
5

A 39-year-old woman with myotonic dystrophy (DM) presented with syncope and was diagnosed with primary mediastinal large B-cell lymphoma, clinical stage IA. PET-CT revealed an upper mediastinal mass with high FDG uptake (SUVmax, 14.8). She had muscle weakness associated with DM, but her performance status was preserved. She was treated with 6 cycles of dose-adjusted EPOCH-R therapy and localized irradiation for the residual mass, without severe adverse events or recurrence of syncope. Patients with DM should be monitored for cardiac events and muscle weakness when undergoing lymphoma treatment.
著者
柴田 浩気 田中 晴之 大谷 惇 久保 政之 長谷川 淳 天野 逸人
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.62, no.10, pp.1519-1521, 2021 (Released:2021-11-03)
参考文献数
5

Because the coronavirus disease 2019 (COVID-19) pandemic is still rampant, vaccination is being promoted worldwide. However, the safety of various COVID-19 vaccines remains poorly understood. We herein report the case of a 37-year-old woman who experienced thrombocytopenia following BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccination. The patient presented with purpura on the extremities 10 days after the first vaccination. She had marked thrombocytopenia and no thrombosis. Thrombocytopenia resolved spontaneously. Given the possibility of occurrence of post-vaccination thrombocytopenia, vaccinated persons should be instructed to consult a medical institution if they experience bleeding symptoms.
著者
岡田 弘 石丸 寅之助
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.14, no.11, pp.1120-1125, 1973 (Released:2008-10-31)
参考文献数
21
被引用文献数
1

Two instances of leukemia in siblings which occurred in two families are reported. One patient had microcephalia in addition to acute granulocytic leukemia. The parents were first cousins. Both mothers of the involved siblings had histories of early entry into Hiroshima City after the atomic bomb explosion and prior to their marriages. While a probable role of consanguineous marriage on the occurrence of familial leukemia is supported by previously reported studies, a leukemogenic effect of parental exposure to atomic bomb radiation has not been shown.
著者
得平 道英 木崎 昌弘
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.932-943, 2019 (Released:2019-09-04)
参考文献数
50
被引用文献数
2

メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(methotrexate-associated lymphoproliferative disorders, MTX-LPD)はWHO分類2017ではother iatrogenic immunodeficiency-associated lymphoproliferative disordersに属する病態であり,少量MTX投与下の自己免疫性疾患に出現する。日本人に好発し,約2/3の患者においてMTX中止後LPDが消退する。様々なLPD亜型の出現を認め,亜型によりLPD消退率,再燃・再発率,予後などが異なる。末梢血リンパ球絶対数(absolute lymphocyte count, ALC)のLPD発症,消退,再燃・再発への関与が示唆されている。その発症,臨床経過には極めて多岐にわたる因子が関与していると考えられ,その解析には注意を要する。
著者
坂本 光 今泉 芳孝 新野 大介 竹内 真衣 松井 昂介 蓬莱 真喜子 佐藤 信也 赤澤 祐子 安東 恒史 澤山 靖 波多 智子 大島 孝一 宮﨑 泰司
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.305-311, 2020 (Released:2020-05-01)
参考文献数
15

Human T-cell leukemia virus type I(HTLV-1)キャリアや成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)は免疫不全を来すことが知られているが,Epstein-Barrウイルス陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫発症(EBV陽性DLBCL)との合併の報告は少ない。今回,サイトメガロウイルス網膜炎を発症したHTLV-1キャリアに,網膜炎の治療中に肝臓腫瘍が出現し,生検の結果,ATLとEBV陽性DLBCLのcomposite lymphomaと診断した症例を経験した。化学療法開始前には肺クリプトコッカス症,侵襲性肺アスペルギルス症の合併を認めた。化学療法を行ったが,CMV抗原血症や敗血症の合併を繰り返し,最終的に敗血症で死亡した。日和見感染症を合併したHTLV-1キャリアでは,ATLのみならずEBV陽性DLBCLの発症および感染症の管理にも注意が必要である。
著者
内田 立身 河内 康憲 渡辺 礼香 西原 利男 三宅 隆明
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.123-128, 1996 (Released:2009-04-28)
参考文献数
11
被引用文献数
1

鉄欠乏性貧血に対する静注療法については,投与鉄量の計算式として,わが国では古くから中尾の式が用いられてきた。中尾の式は,日本人の循環血液量を80 ml/kg, 貯蔵鉄量を17 mg/kgとして計算するが,今回,51Cr法および血清フェリチン値からの検討で,循環血液量65 ml/kg, 貯蔵鉄量500 mgが妥当であると考えられ,これらに基づき鉄投与量を3.4×(16-X)/100×65×体重+500 mg(X: 治療前のヘモグロビン値)あるいは[2.2 (16-X)+10]×体重mgと設定した。現実にこれに基づいて治療を行ったところ,ヘモグロビンの回復も順調で,その後の減少も持続出血のない例では認められないことから,鉄剤の静脈内投与量は,少なめに見積もった上式が適当であると結論した。
著者
川島 一郎 日向 英人 中楯 礼人 細川 恵理子 坂本 勇磨 鈴木 潤 熊谷 拓磨 輿石 めぐみ 鈴木 愛 山本 健夫 中嶌 圭 桐戸 敬太
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.83-90, 2023 (Released:2023-03-29)
参考文献数
18

同種造血幹細胞移植(allogeneic hematopoietic stem cell transplantation, allo-HCT)時には低K血症を高頻度に認め,非再発死亡(non-relapse mortality, NRM)との関連も報告されている。しかし,日本のK注射製剤の添付文書を厳格に遵守すると,補正が困難な場合が多い。今回我々はallo-HCTにおける低K血症とK補充療法について検討した。当科で施行したallo-HCT症例75例を後方視的に解析した。低K血症は92%に認め,grade3以上は40%であった。Grade3以上の低K血症を認めた症例は有意にNRMが高く,予後不良であった(1年:30% vs 7%,p=0.008)。75%の症例で,添付文書の範囲を超える補充療法が必要であった。K注射製剤の添付文書の基準は1988年以降見直されておらず,現状に即した改定が望まれる。
著者
武本 重毅 ポルンクナ ラティオン 日高 道弘 河野 文夫
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.57, no.7, pp.848-853, 2016 (Released:2016-08-05)
参考文献数
18

成人T細胞白血病(ATL)患者(n=32)の可溶性CD25 (sIL-2R)ならびにCD30 (sCD30)の治療開始前血清レベルとリンパ節病変ならびに節外病変との関係を調べた。血清sIL-2Rレベルはリンパ節病変(領域)数(ρ=0.660, P=0.001)と,血清sCD30レベルは末梢血中ATL細胞数(ρ=0.456, P=0.009)との間に正の相関を認めた。次に初回治療前の胸水ならびに肺門リンパ節腫脹を検討できた24例について,その肺病変と末梢血中ATL細胞数,血清LDHレベル,sIL-2Rレベル,sCD30レベルとの関係を調べた。その結果,末梢血中ATL細胞数と腫瘍性肺病変との関連が疑われた。観察されたsIL-2RおよびsCD30血清レベルの上昇からは,リンパ節病変あるいは節外病変との関連が示唆され,ATL病態に関わる生体内メタロプロテアーゼ活性の指標となるかもしれない。
著者
萩原 政夫 林 泰儀 中島 詩織 今井 唯 中野 裕史 内田 智之 井上 盛浩 宮脇 正芳 池田 啓浩 小沼 亮介 熱田 雄也 田中 勝 今村 顕史
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.3-8, 2023 (Released:2023-02-11)
参考文献数
19

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン株流行期において,当院血液内科外来通院中に感染し,発症した11症例について報告する。化学療法が施行中の5例中4例が中等症-II以上となり,内2例はその後重症化し死亡に至った。一方で未施行の6例では1例のみが中等症-IIに進行するも重症化は免れ,残り5例は軽症から中等症-Iに留まった。モノクローナル抗体治療薬が発症から8日以内に投与された4例は全て生存し,投与がされなかった1例と投与が遅れた1例はSARS-CoV2 IgG抗体価が低値のまま死亡に至った。変異株の中では比較的重症化率の低いとされるオミクロン株の感染においても血液悪性疾患,特に化学療法によって免疫不全状態にある場合の重症化リスクは依然として高く,特異抗体の獲得が不十分あるいは大幅に遅延することがあり得るため,抗ウイルス薬に加えて積極的な抗体療法が予後を改善する可能性がある。
著者
萩原 政夫
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.1178-1185, 2021 (Released:2021-09-08)
参考文献数
36

全世界的に血液疾患特に悪性疾患におけるCOVID-19は死亡率が極めて高いことが多数報告されている。当院における大規模院内感染においても,無症状者を除いた場合の生存率は血液疾患患者において明らかに不良であり,特に酸素投与が開始となってから死亡に至るまでの日数が中央値5日と急速な増悪を認めた。非悪性疾患ではprednisoloneによる初回治療中のITP 2例が,急速に進行する肺炎/呼吸不全で死亡した。悪性疾患では,寛解確認前やステロイドを含む化学療法施行例は高リスク群であり,リンパ系悪性疾患が骨髄系疾患との比較で死亡症例を多く認めた。また呼吸不全に対しては,副腎ステロイド投与が著効した症例を経験した。なおSARS-CoV-2 IgG抗体獲得に至らない症例においては再感染ないし再燃のリスクがあり得ることに注意が必要である。
著者
安本 篤史
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.63, no.9, pp.1233-1241, 2022 (Released:2022-10-05)
参考文献数
45

抗血小板第4因子(PF4)抗体は,抗PF4/heparin複合体抗体として知られ,heparin起因性血小板減少症(HIT)の診断目的で測定される。HITではheparin曝露により産生される抗PF4抗体が原因で血小板減少症と血栓症を引き起こす疾患であるが,2021年,新型コロナウイルス感染症に対して開発されたアデノウイルスベクターワクチン後に発症する致死的なワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)に抗PF4抗体が関与していることが報告された。HITとVITTは抗PF4抗体が原因であるという点で合致し,病態も類似している一方,重症度が大きく異なり,また抗PF4抗体の測定法により検出感度が異なるなど合致しない点もみられる。本稿では抗PF4抗体に関連したHITとVITTについて概説する。
著者
小川 孔幸
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.799-808, 2020 (Released:2020-08-05)
参考文献数
21

凝固第XIII/13因子(FXIII)は,タンパク質を架橋結合させる酵素であるトランスグルタミナーゼの一種で,止血と創傷治癒に寄与する。FXIIIは,酵素活性を有するAサブユニット(FXIII-A)とそれを安定化するBサブユニット(FXIII-B)からなる異種四量体を形成する。自己免疫性後天性凝固第XIII/13因子欠乏症(AiF13D)は,抗FXIII自己抗体によりFXIII活性が著減し,主に高齢者に突発的で重篤な出血症状を呈する難治性出血性疾患である。AiF13Dは超希少疾病で,世界中で約100例(うち60例以上を日本から)が報告されているのみである。本症は日常臨床検査で異常が検出されないため,多くの症例が見逃されている可能性がある。AiF13Dの自己抗体は,Aa型,Ab型とB型の3様式が存在する。当院ではこれまでに4例(Aa型:3例,B型:1例)の診療経験がある。本総説では当院の診療経験を交えてAiF13Dの診断と治療の要点について概説する。
著者
布村 渉
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.57, no.7, pp.933-943, 2016 (Released:2016-08-05)
参考文献数
50

地球が誕生して46億年,地球上に原始生命体が登場してから約38億年の歴史からすれば,Homo sapiens(ヒト属ヒト)の繁栄十数万年は点ほどにしかならない。原始的な生命体の営みによって地球上に酸素がもたらされ,多くの生物は酸素を利用することで,より効率のよいエネルギー産生系を確立してきた。好気的呼吸をする生物にとって酸素は不可欠であり,酸素運搬の担い手である赤血球は,その進化と共に機能や形状を巧みに変化させてきた。私達の興味は,哺乳類だけが他の脊椎動物と異なりエネルギーを使って核を放出すること,つまり,脱核することにある。生物の進化は偶然の重なりの結果であるが,その偶然によって子孫を残すに至ったことには相応の意味があるはずだ。赤芽球の脱核のメカニズムと生物学的意義について,進化学的視点に立ち,哺乳類と恐竜類が共に進化した中生代約2億年とヒトの赤芽球・赤血球の知見を統合して考察したい。
著者
武藤 敏孝 高月 浩 萬納寺 聖仁 河村 京子 大藏 尚文 大島 孝一
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.58, no.8, pp.912-916, 2017 (Released:2017-09-05)
参考文献数
15

症例は37歳女性。子宮頸がん検診にて異常を指摘され来院した。子宮頸部生検にて粘膜下にCD20陽性の異常リンパ球が巣状に増殖し,MALTリンパ腫からびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫へのtransformationと診断された。Chlamydia trachomatis(C.trachomatis)による子宮頸管炎を合併しており,除菌治療を施行したところ,4ヶ月後に行った生検ではCD20陽性の異常リンパ球はほとんど認めず,リンパ腫病変は寛解と判断した。その後現在まで無治療にて再燃兆候は認めていない。MALTリンパ腫と感染症の関連については多くの報告があるが,胃以外について定見はない。子宮頸部MALTリンパ腫は稀であり,またC.trachomatisと子宮頸部MALTリンパ腫との関係は現在のところ不明である。検索しえた限りで報告例も確認できなかった。今後同様の症例蓄積と検討が望まれる。
著者
高橋 健 原 武志 吉川 武志 下村 順子 鶴見 寿 山田 鉄也 冨田 栄一 森脇 久隆
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.46, no.9, pp.1055-1059, 2005 (Released:2009-07-28)
参考文献数
15

症例は51歳男性。平成12年8月両側頚部リンパ節腫大を主訴に受診。右頚部リンパ節生検にてt(14;18)(q32;q21)を有する濾胞性リンパ腫(Grade 2)(臨床病期IIIA)と診断された。当初無治療にて経過観察されていたが,6カ月後,骨盤内リンパ節腫脹に伴う水腎症を合併したため当科入院となった。CHOP療法4コースに加え,40Gyの放射線療法を施行し部分寛解を得た。治療開始後4カ月にてnumb chin syndromeを呈し,骨髄穿刺にてt(14;18)に加えてt(8;22)(q24;q11)を含む複雑核型を有するBurkitt型形質転換が確認された。急性リンパ性白血病に準じて救援療法を施行するも早期に再燃し,平成13年9月7日死亡した。濾胞性リンパ腫からの早期のBurkitt型形質転換は稀と考えられた。
著者
上田 三穂 小林 裕 吉森 邦彰 高橋 由布子 近山 達 池田 元美 魚嶋 伸彦 木村 晋也 田中 耕治 和田 勝也 小沢 勝 近藤 元治 河 敬世 井上 雅美
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.38, no.8, pp.657-662, 1997 (Released:2009-04-28)
参考文献数
15

Chronic active Epstein-Barr virus infection(以下CAEBV)の経過中にEBV感染T細胞の腫瘍化を起こした1例を経験した。症例は20歳女性で発熱,陰部潰瘍,口腔内潰瘍などのベーチェット病様症状で来院した。頚部リンパ節腫脹を認め,生検では炎症性変化であった。EBV抗体価よりCAEBVと診断し,PSL, acyclovirの投与をおこなった。一旦症状は改善したが,発症約10カ月後に汎血球減少を呈し,骨髄にて異常細胞を35%認めた。TCR-β遺伝子の再構成を認めT細胞腫瘍と診断した。化学療法にて骨髄は寛解となったが,全身のリンパ節の再腫脹を認め,約3カ月の経過で治療抵抗性のため死亡した。骨髄中の腫瘍細胞でのEBVのterminal probeを用いたSouthern blottingにてsingle bandが検出され,単クローン性が証明されたことより,EBV感染T細胞の腫瘍化と考えられた。本邦の成人例では稀であり,報告した。
著者
大屋 周期 山崎 嘉孝 中村 剛之 森重 聡 山口 真紀 青山 一利 関 律子 毛利 文彦 大崎 浩一 内藤 嘉紀 大島 孝一 長藤 宏司
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.61, no.11, pp.1605-1610, 2020 (Released:2020-12-08)
参考文献数
15

多中心性キャッスルマン病は,リンパ節病理像によって特徴づけられるリンパ増殖性疾患でIL-6高値を特徴としている。症例は17歳の日本人男性,発熱,頭痛,倦怠感,体重減少を伴っていたが,血圧は正常であった。臍下部に可動性良好な腫瘤を触知し,血液検査所見は小球性貧血,低アルブミン血症,IL-6高値,sIL-2R高値,VEGF高値を示した。造影CT検査で55 mm大の骨盤内腫瘤と腸間膜周囲のリンパ節腫大を認め,多中心性キャッスルマン病を疑い骨盤内腫瘍を摘出した。術後,血圧が緩徐に上昇し可逆性後頭葉白質脳症による痙攣を発症した。高血圧の精査で,術前の血中ノルアドレナリン,ノルメタネフリン高値が判明し,摘出標本でIL-6およびクロモグラニンAが陽性であることから,IL-6産生パラガングリオーマと診断した。多中心性キャッスルマン病に類似した発熱,貧血などを来す病態の鑑別診断として,血圧上昇を伴わない症例でもIL-6産生褐色細胞腫・パラガングリオーマを考慮する必要がある。
著者
豊田 康祐 安部 康信 津田 麻理子 土師 正二郎 崔 日承 末廣 陽子 喜安 純一 大島 孝一 鵜池 直邦
出版者
The Japanese Society of Hematology
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.815-819, 2014

Primary effusion lymphoma (PEL)は体腔液中に限局して腫瘍細胞が増殖する稀なB細胞性リンパ腫であり,原則的に明らかな腫瘤形成は認められないとされ,human herpes virus 8 (HHV8)感染が陽性である。しかしながら本邦を中心にHHV8感染が認められないPEL類似の症例も報告されており,これらをPEL-like lymphoma (PEL-LL)とする疾患群も提唱されている。今回我々は胸水貯留で発症したPEL-LLを経験した。心疾患を有する70歳男性であり,リツキシマブ併用経口ソブゾキサン,エトポシド少量療法にて7か月間完全奏効を維持している。PEL-LLはPELと比較し,予後良好であることが報告されており,CD20抗原が陽性であることからリツキシマブの追加効果が期待されている。PEL-LLは高齢者に多い疾患であり,より忍容性のある有効な治療法の開発が期待される。