著者
村山 正博
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.32, no.Supplement6, pp.162-171, 2000-12-31 (Released:2013-05-24)
参考文献数
16

スポーツ心臓の概念は,(1)耐久的トレーニングに伴う心拡大が主体で,肥大型心筋症の発症はスポーツ心臓の機序ではない,(2)市民スポーツレベルや小児期に起こることは少ない,(3)トレーニング中止後,正常の大きさに回復する.(4)不整脈としては,(1)洞徐脈およびそれに伴う房室接合部収縮または調律,(2) 第1度および2度(Wenckebach型)房室ブロック,(3)不完全右脚ブロック,(4)左側胸部誘導高電位差を特徴とするが,トレーニング中止後は(1)と(2)は100%消失し,(3)は12年後まで約半数,(4)は約30%が残存する.徐脈性不整脈の機序には迷走神経緊張亢進が関与し,また圧受容体感受性低下から起立性低血圧を起こし易くなる.頻脈性不整脈はスポーツ心臓とは無関係に偶発的に起こるものとして捉えるが,それを有する選手のスポーツ参加・禁止条件については,日本臨床スポーツ医学会がガイドラインを提案した.また,胸部打撲による心室細動誘発(commotio cordis)に関する実態および機序について文献的考察を行った.
著者
小川 聡 山口 和重 夏山 謙次 西田 育功
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.536-542, 2019-05-15 (Released:2020-05-27)
参考文献数
10

症例は55歳男性.頻発する単源性心室期外収縮(PVC)と心エコー図で左心機能低下と左室拡大を認め,頻発性PVCに対するカテーテルアブレーション目的で入院した.12誘導心電図は左脚ブロックパターン 下方軸 移行帯はV4で,右室流出路(RVOT)起源のPVCと診断された.右室内のmappingでは早期性および良好なpace mapが得られず,右冠尖(RCC)のmappingでPVCのonsetから22 msec先行するprepotentialを認め,同部位の通電によりPVCの完全消失に至った.12誘導心電図はRVOT起源のPVCと予測されたが,本例はRCC起源のPVCであった.12誘導心電図によるPVCの局在診断の文献は散見されるが,RVOT起源PVCとRCC起源PVCの鑑別が困難な場合がある.RVOT起源と考えられるPVCであっても,先行するpotentialが同定できない場合は,すみやかにRCC内のmappingを行いprepotentialを同定する必要性がある症例を経験したため報告する.
著者
岩島 覚 黒川 啓二 田中 靖彦 黒嵜 健一 斎藤 彰博
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.298-304, 2000-04-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
15

1986年1月1日~98年9月30日までに当院にて主疾患が膜様部心室中隔欠損症と診断された764例中,大動脈弁逸脱を認めた11例(1.4%)について検討した.大動脈弁逸脱発症時年齢は9カ月~10歳(平均4歳6カ月)で2歳未満に4例みられた.発症時の心エコー所見では膜様部VSD のpeak velocityは平均4.0m/sec,%LVDdが平均113%であった.心カテは7例(のべ12回)に施行され,平均肺動脈圧は平均25mmHg,Qp/Qsは平均2.0,左右短絡は平均47%であった.逸脱弁尖は右冠尖(RCCP)単独が7例,右冠尖と無冠尖(NCCP)の両弁尖が4例で全例にARを認めた.心エコーにおいて観察されたARのcolor flow(CF)の方向は主にRCCPが単独に認められた症例においては僧帽弁前尖方向に向かい,RCCP,NCCPの両弁尖が認められた症例においては主に心室中隔方向に向かっていた.2例においてCFの方向が経過観察中に変化した.心エコーにおける逸脱弁尖の診断はRCCP単独例においては左室長軸にて観察され,RCCP,NCCP両弁尖例では大動脈弁短軸にて観察されるが,RCCP,NCCP両弁尖例は描出しにくくARのCFの方向が逸脱弁尖の診断に有用である可能性が示唆された.
著者
伊藤 致 深澤 浩 内藤 滋人 窪田 彰一 伊藤 幸子 平辻 知也 鶴谷 英樹 関口 誠 河口 廉 高間 典明 磯部 直樹 瀬田 享博 櫻井 繁樹 安達 仁 外山 卓二 星崎 洋 大島 茂 谷口 興一
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.33, no.Supplement5, pp.68-73, 2001-12-31 (Released:2013-05-24)

【目的】陽性F波を呈する逆行性通常型心房粗動の心電図学的特徴を検索することで,回路の推測が可能か否かを検討した.【対象】陽性F波を呈する心房粗動と診断され,心臓電気生理検査を施行,起源が逆行性通常型および左房起源型心房粗動と診断された連続17症例.【方法】興奮波が三尖弁輪部を時計方向に旋回し,冠静脈洞入口部位での心房ペーシングでconcealed entrainment現象を認めた例を逆行性通常型心房粗動(R群:13例),心内電位で冠静脈洞遠位の左房から右房側へ興奮伝幡を認め,右房ペーシングでconcealed entrainment現象を認めなかった例を,左房起源型心房粗動(LA群:4例)と診断した.これら2群でのF波を比較した.【結果】1)V1のF波は,R群で陰性F波を,LA群では陽性F波を有意に認めた(R:81.8%,LA:0%,p<0.05).2)V6のF波は,R群で陽性F波を,LA群では陰性F波を有意に認めた(0.9%,LA:25%,p<0.05).3)I誘導では両群ともすべて陽性F波を認めたが,aVL誘導では関連はなかった.4)両群のF波成分を比較したところ,F波高はR群が高い傾向(R:0.22±0.06mV,LA:0.13±0.06mV,p=0.0503)にあり,F波幅はR群が有意に長かった(R:144±36mse,LA:92±24msec,p<0.05).5)肢誘導R,S波高に両群で有意差はなかった.【結語】1)陽性F波を呈する非通常型心房粗動は,V1およびV6誘導のF波を検討することで旋回が逆方向性通常型心房粗動なのか左房起源型心房粗動なのか推測できることが示唆された.2)F波成分は,左房起源型心房粗動では波形が小さく,その上降部と下降部が左右対称であったのに対し,逆方向性通常型心房粗動では,緩徐に上がり,急峻に下がるF波が特徴であると思われた.
著者
加藤 理 中田 八洲郎 住吉 正孝 久岡 英彦 小倉 俊介 桜井 秀彦 山口 洋 中里 祐二 南塚 只雄 羽里 信種
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.22, no.11, pp.1317-1320, 1990-11-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
18

ペースメーカー植え込み後にジェネレーターが回転しリードの捻れを生じる現象はPacemaker-twiddler'ssyndromeとしてよく知られているが,その発生は比較的まれである.我々は335例のペースメーカー症例のうち2例で本症候群を認めたので報告する.症例1は72歳,症例2は75歳の女性で各々身長(cm)153,146.5,体重(kg)75.5,64,で房室ブロックのため前胸部皮下にペースメーカーを植え込んだ.症例1では術後早期よりジェネレーターの回転が認められたが一過性に筋攣縮(twiching)が出現する程度でその後無症状であるため放置,4年後の現在も捻れは進行しているが右側臥位でジェネレーターが回転しそうになった時に患者自ら整復しペーシングも順調で経過観察中である.症例2では術後4カ月に筋攣縮出現リードの複雑な捻れを認め症状も持続するため再手術を行いジェネレーターを大胸筋に固定し,破損していたリードを修復した.2症例はいずれも高齢で高度の肥満があり皮下組織が粗であることが発生要因と考えられた.
著者
佐藤 健司 小原 秀一 塚口 功 安井 浩一 中田 健 玉井 正彦 小林 芳夫 小塚 隆弘
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.239-244, 1977-03-01 (Released:2013-05-24)
参考文献数
16

正常な房室大血管関係をもつ両房室弁交叉症(criss-cross heart)の1例を報告する.心室中隔欠損,左肺動脈低形成,動脈管開存を合併していた.特徴ある心血管造影所見を呈し,右下側に形態学的左室,左上側に形態学的右室があり,心室中隔は上下の心室間にほぼ水平方向の陰影欠損として認められ,大動脈は右前方に,肺動脈は左後方に位置し,見かけ上は{S,L,D}であるが心房心室関係および心室大血管関係はいずれも正常で,両房室弁を流れる血流が交叉する両房室弁交叉症となっていた.形態発生学的にbulboventricular loopが心臓長軸を中心にして心基部に向って時計方向に,さらに心臓前後軸の回りに後方からみて時計方向に異常回転した結果と考えられ,Andersonの命名法によれぽ,Solitusconcordant(l-rotated)-normalと表現できる.
著者
石原 有希子 田中 茂博 山田 朋幸 小阪 明仁 鴨井 祥郎 吉良 有二
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.42, no.12, pp.1609-1615, 2010 (Released:2012-06-15)
参考文献数
29

症例は, 気管支喘息(bronchial asthma; BA)の既往と喫煙歴のある76歳男性で, 吸入ステロイドとβ2刺激薬を常用していた. 2008年9月持続する心窩部痛とV2~4およびII, III, aVFの持続性ST低下より急性側壁心筋梗塞の診断にて入院した. 気管支喘息発作を併発し, ヨード造影剤使用による合併症のリスクが高くなることと, 血行動態が安定していたことから, 待機的冠動脈造影(coronary angiography; CAG)を行う方針とし抗凝固薬, 硝酸薬持続投与を開始した. 第2病日には症状は消失し, ステロイドとβ2刺激薬の定時吸入により呼吸状態も安定していた. 第5病日CAGに備え硝酸薬を中止したところ3時間後に胸部苦悶を訴えショックとなった. 喘鳴を伴い, 喘息発作増悪やうっ血性心不全を考えたが, 短時間型β2刺激薬吸入や利尿薬静注に反応せず否定された. II, III, aVFのST上昇を認めたため, 新たな急性冠症候群を疑いCAGを施行した. 左回旋枝(left circumflex artery; LCX) #11: 100%閉塞とLAD・RCAのび漫性攣縮を認め, 多枝冠攣縮が急性心筋梗塞に合併し広範心筋虚血に陥ったと考えた. ISDN冠注により攣縮解除後血行動態はすみやかに安定した. LCXに経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention; PCI)を施行し, CK再上昇や再発作はなく経過した. ステロイドによる喘息治療とCa拮抗薬・硝酸薬による冠攣縮予防とを継続し第20病日退院した. 冠攣縮が気管支喘息発作に合併した可能性やβ2刺激薬使用が急性心筋梗塞・多枝冠攣縮発症のリスクあるいは誘因となった可能性が示唆された.
著者
三田村 秀雄
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.135-139, 2015 (Released:2016-02-15)
参考文献数
14
著者
中村 健太郎 中川 貴史 笠岡 祐二 村田 将光 西村 健二 瀬崎 和典 野田 誠 速水 紀幸 村川 裕二 鈴木 文男
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.44, no.SUPPL.3, pp.S3_117-S3_122, 2012 (Released:2013-09-25)
参考文献数
9

われわれは,冠静脈洞(CS)pacingによる反時計回転(ccw)型心房粗動(AFL)の誘発時に,右房峡部領域において一方向性伝導ブロックの出現がみられることを報告してきた.他方,頻度の稀なclockwise(cw)型AFLの誘発機転は十分には検討されていない.今回cw-AFLが誘発された症例においてその誘発様式を検討した.症例:心房粗細動を有する80歳,男性.CS近位部~三尖弁輪周囲に20極電極カテーテル(先端A1,極間5mm)を留置し,低位外側右房(A19-20電極)より頻回pacingを行って峡部の伝導様式を検討した.周期250msにおけるpacingの際,pacing部位近接部を起源とする反復性心房興奮(RAR1+RAR2+RAR3波)が誘発された.3発のRAR波はおのおのCS開口部領域にて分裂電位を形成し,Wenckebach型伝導遅延を示しながら峡部をccw方向に伝導した.3発目のRAR3波の伝導の際,CS開口部領域における伝導遅延が十分となり,cw方向に反転するmicro-reentry性 echo-wave が同領域に出現した(U-turn現象).出現したecho-waveは,そのままcw方向に三尖弁輪周囲を旋回し,cw-AFLへと移行した.
著者
谷口 逹典 坂田 泰史
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.46, no.7, pp.831-835, 2014 (Released:2015-07-13)
参考文献数
15
被引用文献数
1
著者
長内 宏之 村瀬 洋介 中島 義仁 浅野 博 味岡 正純 酒井 和好 鈴木 文男
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.45, no.SUPPL.3, pp.S3_92-S3_97, 2013 (Released:2015-01-09)
参考文献数
4

背景 : WPW症候群の副伝導路 (AP) に対するアブレーション時に, いったん消失したAP伝導が再開するという現象が時として見られるが, 多くの場合APの不完全焼灼に起因する「単純再発」と考えられる. 一般に, アブレーションによるΔ波の消失はAPの離断を意味するものと考えられるが, ほかの可能性として, 例えば, 焼灼によってAPの不応期が延長しその値が患者の洞周期長よりも長くなった場合, 洞インパルスはAPを伝導することが不可能となり (機能的ブロック) , Δ波は消失し得るであろう. しかしながらこれまで, そのような状況は想定されてこなかったと思われる.  症例 : A型WPW症候群の患者 (31歳, 男性) に対しアブレーションを施行した. CS電極記録にて順伝導・逆伝導ともに最早期部位は僧帽弁輪側壁部であった. 経中隔弁上アプローチにより, 洞調律下で心室最早興奮部位にて通電を行い, 14秒後にAPの伝導ブロックをきたした. 60秒間の通電の後も伝導ブロックが維持され器質的ブロックと考えられたが, 右室のカテーテル刺激によると思われる心室性期外収縮を契機にΔ波が再出現した. 出現したΔ波が持続したため, 初回の通電部位に近接する前壁側部位にて追加通電を行ったところAP伝導は消失した. その後, Δ波の再発は見られなかった.  総括 : 高周波通電によりΔ波が消失したWPW症候群の 1例において, 心室性期外収縮を契機にΔ波が再出現した. Δ波再出現の機序として「房室結節を順伝導した洞インパルスが逆行性にAP内へ進入し, その逆行性不顕伝導の効果によりAPの順伝導が機能的にブロックされていた (linking現象の持続による機能的ブロック) . この状況下にて, 心室性期外収縮による“peeling-back効果”によりAPの不応期が左方へ移動し (不応期の短縮と同等) , AP順伝導が可能となってΔ波が出現した」という説明が可能であると考えられた.
著者
貝原 俊樹 北村 健 北條 林太郎 青山 祐也 小宮山 浩大 手島 保 西﨑 光弘 櫻田 春水 平岡 昌和 深水 誠二 吉田 精孝 河村 岩成 中田 晃裕 荒井 研 森山 優一 宮澤 聡 麻喜 幹博
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.S1_50-S1_54, 2015

<p> 高血圧症, 骨粗鬆症の既往がある83歳女性. 入院10日程前から食思不振があった. 入院4日前から食思不振が増悪し, ふらつきや1分程続く胸部圧迫感が出現した. 入院当日から動悸が出現したため, 当院を受診した. 心電図は洞調律で多形性心室性期外収縮が頻発し, 580msと著明なQT延長を認めた. 胸部レントゲンでは軽度心拡大を認めた. 採血では低カリウム血症 (2.3mEq/L), 低マグネシウム血症 (1.6mg/dL) を認めた. 検査終了後に突然強直性痙攣が出現し, 心肺停止となった. 無脈性多形性心室頻拍が確認され, 除細動150J 1回で洞調律に復帰した. 入院後は電解質を補正し, QT延長はやや遷延したものの, 心室性不整脈は著減した. また, 経過中たこつぼ様の壁運動を伴ったが, 第4病日で意識はほぼ清明にまで改善した. しかし第13病日に頭蓋内出血を発症し, 急変, 死亡退院となった. QT延長, 多形性心室頻拍に低カリウム血症, 低マグネシウム血症を伴った症例の報告は少ない. 本症例に関して, 低マグネシウム血症と心室性不整脈の観点から文献的考察を混じえ, 考察する.</p>