- 著者
-
三浦 大助
- 出版者
- The Volcanological Society of Japan
- 雑誌
- 火山 (ISSN:04534360)
- 巻号頁・発行日
- vol.67, no.3, pp.273-294, 2022-09-30 (Released:2022-10-27)
- 参考文献数
- 44
火山災害の軽減において,破局的珪長質噴火の前兆期を認定し,その特徴を知ることは学術的に重要である.前兆現象が出現し,後に続く大規模噴火と関連する場合に,どのようなタイプの前兆現象が起こるのかは非常に興味深い.テフラ堆積物のシーケンスは,前兆期から大規模噴火までの貴重な記録と考えられることから,クッタラカルデラ火山のクッタラ-早来テフラ(Kt-Hy)を対象として,現地地質調査,粒度分析,XRF分析,EPMA分析により,その噴火推移を調べた.59-55 kaのKt-Hy噴火は,近傍相において初期のサブプリニー式噴火(LpfaおよびLpdc),その後のマグマ水蒸気噴火(MpdcおよびUpdc)までのシーケンスが記録されている.Lpdc-Mpdcユニットは,谷埋め型の火砕物密度流堆積物である.その後,発泡度の低い珪長質マグマが,希薄な火砕物密度流として広く拡がった(Updc).これらの噴火シーケンスの変化と堆積相の詳細な解釈に基づき,MpdcとUpdcの給源火口は,各々成層火山の南麓と現在の山頂カルデラ周辺と推定された.クッタラカルデラ火山では,成層火山体の形成時期について,議論があった.本研究による近傍-遠方堆積相と,移動する火口位置の証拠から,成層火山がKt-Hy期にも成長したことが示唆された.成層火山を含めたKt-Hy噴出物の推定総噴出量は,最大で7-8 km3 DREとなる.Kt-Hy噴火は,火口の移動とマグマ水蒸気噴火で特徴づけられ,円錐の成層火山体で,カルデラを伴うタイプにおける前兆期の特徴とよく一致している.Kt-Hy噴火に続く54 kaの大規模珪長質噴火(Kt-3)には,岩石学的な類似性がみられ,これらのことから,大規模珪長質マグマの早期貯留の可能性が示唆された.