著者
不破 麻紀子 筒井 淳也
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.52-63, 2010
被引用文献数
10

夫婦間の家事分担は,収入や時間的制約の差を考慮に入れても,実際の家事の多くを妻が担っているという不公平な状態になっている。それにもかかわらず妻側の不公平感は高くなく,こういった状態は経済的・時間的要因では説明ができない。これに対してジェンダー理論では妻の伝統的性別役割分業意識が強い場合は不公平感が弱いという説明を行ってきた。本論文ではこれに加え,特定の家事分担状態が不公平であるかどうかの判断基準には,社会的環境の影響も強く働いていると予測する。つまり自分が属している社会の分担水準が公平の判断基準となり,それが自分の家事分担の不公平感に影響していることが考えられる。家事分担と不公平感に関する国際比較データから,妻の家事分担比率が高い国,性別役割分業意識が強い国では,実際に妻の家事負担が大きく,また,妻が長時間働いていたり,高学歴であっても,不公平感をもちにくいということが明らかになった。
著者
知念 渉
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.102-113, 2014-10-31 (Released:2017-01-27)
参考文献数
20
被引用文献数
1

2000年代以降,「子ども・若者の貧困」に関する研究が数多く蓄積され,貧困家族を生きる子ども・若者たちの生活上の困難を明らかにしてきた.しかし,山田 (2005)が指摘するように,現代社会を生きる人々にとって,家族とは,生活に役に立つ/立たないという観点から理解できる「機能的欲求」には還元できない,自分の存在意義を確認する「アイデンティティ欲求」を満たす関係にもなっている.このような観点に立てば,従来の「子ども・若者の貧困」研究は,アイデンティティ欲求の次元における「家族であること」のリアリティを相対的に看過してきたと言えよう.そこで本稿では,「記述の実践としての家族」という視点から,文脈や状況に応じて流動する若者と筆者の間に交わされた会話を分析し,アイデンティティ欲求の次元における「貧困家族であること」のリアリティを明らかにした.そして,そのリアリティが,流動的で,相対的で,多元的であることを指摘し,その知見がもつ政策的示唆について考察した.
著者
釜野 さおり
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.200-215, 2017-10-31 (Released:2018-11-08)
参考文献数
13
被引用文献数
2

本稿では,「性的マイノリティについての意識:2015年全国調査」のデータを用いて「同性愛・両性愛フォビア度尺度」と「家族・ジェンダー保守度尺度」を生成し,各尺度得点を被説明変数とした重回帰分析を行った(n=1074).男性である,高齢である,同棲の経験がない,政治意識が保守的である,セクシュアル・マイノリティが周りにいないと認識していると,家族・ジェンダー保守度と同性愛・両性愛フォビア度が高いことがわかった.婚姻地位,都市規模,信仰・信心の有無は,いずれの尺度においても関連性が確認できなかった.学歴,就業の有無,主な仕事の種類,宗教心の重要性,居住地域については,2つの尺度間で,また,統制する変数によって結果が異なった.検討した変数すべてを含むモデルの標準化係数を見ると,同性愛・両性愛フォビア度に対する説明力が高いのは,年齢,セクシュアル・マイノリティが周りにいるか否か,性別の順であった.
著者
服部 良子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.36-48, 2015
被引用文献数
1

本論ではケア労働に関する家族的責任支援政策の今後を考察する.1980年代までに日本の制度は男女別雇用構造を形成した.それは男性労働者は稼ぎ手で,女性は被扶養でケア労働担当という男女分業の家族制度との組み合わせの構造をもつ.これは専業主婦を男性の扶養者とする税制と社会保障制度とリンクしている.85年の基礎年金改革も専業主婦を被扶養者第3号被保険者として保険料負担を課していない.均等法対策として日本企業はコース別雇用管理を採用して85年以前からの男女別雇用管理が維持された.そしてバブル崩壊以降,正規雇用の長時間労働が継続した.またパートや派遣の非正規雇用はさらに拡大した.そのため90年代以降,少子化対策の均等法・育児介護休業法等は雇用制度のなかで十分運用されていない.また社会的ケア労働支援は保育ケア不足が継続している.介護が公的保険制度化されたのと対照的である.少子化対応や女性活躍推進政策のケア労働のため家族的責任支援政策は法令遵守の徹底が必要である.
著者
神谷 悠介
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.135-147, 2013

本稿は,インタビュー調査に基づき,ゲイカップルにおける家計組織とパートナー関係を分析することによって,(1)レズビアンカップルと比較した際のゲイカップルの家計組織の特徴, (2)家計組織パターンと平等なパートナーシップとの関係,(3)同性愛者に対する差別が,ゲイカップルにおける家計組織や生活状況に与える影響について解明することを目的とする.分析の結果,(1)レズビアンカップルは共同管理型が典型的な家計組織パターンの一つであるのに対して,ゲイカップルは独立型が典型的な家計組織パターンであること,(2)家計組織の独立性は,平等なパートナーシップを保障するとは限らないこと,(3)同性愛者に対する差別がゲイカップルにおける生活の個別性の一因であることが解明された.
著者
服部 範子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.70-80,119, 1990-07-20 (Released:2009-08-04)
参考文献数
30

Topics about today's family problems and women's roles are debated very actively recently. In this context, there is an interst in how “the modern family” and sexual division of labor emerged in the study of family history and women's studies.The ideology of motherhood emerged during the period of the women's liberation movement at the biginning of this century : Ellen Key was known as a typical thinker about motherhood at that time. Through her thought, I believe we can understand how people, especially women came to accept the idea of “two-sexes-different-but-equal” favorably in those days. Her position on this should be clarified in this paper. To understand this better, the socio-economical circumstances at that time in Sweden, her home country, are considered.She insisted that women shold be seen not as “humankind” but as “womanhood.” She thought mtherhood was the very essential core part of womanhood, so she insisted that every wife or mother should stay home all day long, and put her children first, and that that was very rewarding work. Such ideas are considered to contribute to the formation of the ideology that women's place is in the home, by giving high priority to love, marriage and motherhood.
著者
柳 煌碩
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.57-71, 2018-04-30 (Released:2019-04-30)
参考文献数
24

本稿では,日本社会における規範的男性性から離れ,主夫という生き方を選択した8人の男性のライフストーリーを検討し,彼らの男性性がどのような葛藤・変容を経験し,再構築されていくのか,その過程を分析した.分析の結果,主夫たちは「日本型人事管理モデル(森口)」によって生じた諸トラブル(疾患型・非疾患型)を退職のきっかけとしていることがわかった.さらに,退職と主夫への転向を巡っては,妻の容認の仕方(全面的容認・部分的容認)が非常に重要な影響を及ぼしていること,それによって主夫たちの生き方(専業・兼業)と男性性の再構築の様相(男性性を巡る不安・主夫としての自覚)も異なっていることが明らかになった.最後に主夫への移行過程を「ヘゲモニックな男性性(R. W. コンネル)」の相対化過程として位置付け,その「相対化」の三つの側面(受動性と能動性の区別・妻が期待する男性性・日本型人事管理モデルの相対化)の重要性について考察を試みた.
著者
松田 茂樹 佐々木 尚之
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.169-172, 2020-10-31 (Released:2021-05-25)
参考文献数
9

東/東南アジアの先進国・新興国/地域は,いま世界で最も出生率が低い.この地域の少子化の特徴は,出生率低下が短期間に,急激に起こったことである.低出生率は,各国・地域の持続的発展に影を落としている.欧州諸国で起きた少子化は,第二の人口転換に伴う人口学的変化の一部として捉えられている.しかしながら,現在アジアで起こっている少子化は,それとは異なる特徴と背景要因を有する.主な背景要因のうちの1つが,激しい教育競争と高学歴化である.この特集では,韓国,シンガポール,香港,台湾の4カ国・地域における教育と低出生率の関係が論じられている.国・地域によって事情は異なるが,教育競争と高学歴化は,親の教育費負担,子どもの教育を支援する物理的負担,労働市場における高学歴者の需給のミスマッチ,結婚生活よりも自身のスペック競争に重きを置く物質主義的な価値観の醸成等を通じて,出生率を抑制することにつながっている.
著者
森 謙二
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.30-42, 2010
被引用文献数
3

葬送領域(葬ること)において,大きなパラダイム変化が起こっている。日本の近代家族は,祖先崇拝の機能をもち続け,民法もそれを容認してきた。20世紀の末になると,少子化によって祭祀承継者(アトツギ)の確保が困難になり,祖先祭祀の機能をもち続けた日本の近代家族は解体を始める。人々は地域や家族とのつながりが希薄になって,あらゆるものが市場化・商品化するなかで,自分自身の意志によって(自己決定)によって,葬送のあり方を決めたいと思うようになった。この現象を「葬送の個人化」と呼んでおく。葬式は家族だけで行い,人の死が社会に伝えられなくなった。お墓は家族が引き継ぐものではなく,樹木葬や散骨が急速に増えてきた。他方では,貧困層ではお金がないために葬式をあげることができない人々が増えるようになった。新自由主義の展開のもとで,葬送領域でも「格差」が顕著になってきた。
著者
舩橋 惠子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.10-2, pp.55-70, 1998-07-31 (Released:2009-08-04)
参考文献数
20
被引用文献数
1

育児休業は、常にジェンダー変革的とは限らない。制度は両性に開かれていても、実際に取得するのは母親が多い。女性ばかりが取得する結果、労働市場における男女不平等が再生産される。では、いかなる条件の下で、育児休業政策はジェンダー革新的になるのだろうか。本稿では、EUおよび北欧諸国 (スウェーデン、デンマーク、ノルウェー) の経験に注目しながら、男性の子育てを促進するジェンダー自覚的な育児休業のあり方を探る。ヨーロッパの経験からは、1) 「男性稼ぎ手モデル」から「平等シェアモデル」へ、2) 「家族単位」の制度から「他者 (移譲できない個人の権利」としての制度へ、という二つの基本的な政策動向が見いだされた。北欧の経験によれば、ジェンダー変革的な育児休業制度の条件は、1) 最低6ヶ月を越える充分な期間の長さ、2) 給与に連動した高水準の給付、3) 柔軟性、4) 割当制、の4つである、、さらに、企業文化の革新、父親役割の変革、ケアラーとしての父親 (対する社会的支援などが重要であることもわかった。このような父親の育児を推進する政策に加えて、男性保育者増強政策も必要である。育児は、男女の間でも、家族と国家との間でも、分かち合いうるのである。
著者
佐々木 尚之
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.152-164, 2012
被引用文献数
3

近年の社会経済環境のなか,少子高齢化の主な要因として晩婚化や未婚化の進行が指摘されている.しかしながら,これまでの初婚に関する研究では,一貫した結果が得られていない.その原因の一つとして,初婚の要因となる変数の時間的変化をとらえることができないという,データ上の制約があった.そこで本稿では,「日本版General Social Surveyライフコース調査(JGSS-2009LCS)」の詳細なライフヒストリー・データを用いて,学歴,就業状態,居住形態の結婚に対する影響力が時間とともに変化するのかどうかに焦点をあてたイベントヒストリー分析を行った.その結果,それぞれの要因の結婚に対する効果が加齢とともに増減することが明らかになった.雇用環境の急速な悪化にもかかわらず,結婚における男性の稼得力が重視され続けている一方で,女性の稼得役割も期待され始めている可能性がある.将来の経済的展望が不確実な現状では,家族形成は大きなリスクとみなされている.
著者
木戸 功
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.150-160, 2011-10-31 (Released:2012-11-13)
参考文献数
76

この論文では過去20年にわたる家族社会学における質的研究の動向をふりかえり,その現状と課題を考察する.『家族社会学研究』(1989-2010)における質的研究を,論文数,データとその収集方法,方法論,主題といった観点から検討する.論文数が増加してくるのは2000年以降のことであり,そこでは個人の経験に焦点をあて,面接調査によってえられた「語り」をデータとして使用する研究が多いが,方法論や理論的な想定については十分には議論されてこなかった.こうした検討をふまえて,方法の妥当性と知見の一般化可能性という課題について議論する.調査研究過程の手続きの有意関連性を示し,理論的想定を明らかにすることの重要性を指摘するが,このことは家族社会学における知見の意義を明確にするという意味でも重要である.さらに,この知見の一般化可能性という水準において,量的研究との関係を考えることを提案する.
著者
天童 睦子 高橋 均
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.65-76, 2011-04-30 (Released:2012-05-31)
参考文献数
20
被引用文献数
3 4 2

本稿では,2000年代半ば以降に登場した父親向け育児・教育情報誌に注目し,その言説分析を行う.父親の育児参加研究には注目が集まっているが,育児メディアにおける父親の子育て関与や主体化を言説分析の観点から行った研究は未だ少ない.本稿では,言説と主体化の理論的考察,および教育言説の視点による言説分析の枠組みの検討を行い,戦後から現代までの育児メディアの変容を概観したうえで,近年の代表的なビジネス系父親向け育児・教育情報誌にみられる育児・教育言説分析を行う.とくに『プレジデントFamily』等の雑誌言説に立ち現れる家族の育児戦略の考察を通して,子育てする父親の「主体化」,子どもに濃密な教育的まなざしを注ぐ教育家族の強化,家族の再ジェンダー化を示唆する.
著者
瀬地山 角
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.9, pp.11-21,135, 1997-07-25 (Released:2010-02-04)
参考文献数
13

This paper discusses connections between traditional family systems and institutional organizations in three East Asian societies. As many “ie-soiety” theorists have noted, the family unit in Japan served as a structural model for various institutions, most notably business corporations, during the early period of modernization in Japan. The ie (stem family) system, which emphasized continuity and seniority, but allowed for a flexible system of adoption, provided businesses with a structure that maintained a high level of integrity among its employees based on a system of seniority.Similar trends can be observed in both China and Korea. The preponderance of small businesses typical to Taiwan and Chinese diaspora stem from the traditional Chinese family system, which placed less emphasis on seniority among brothers. Likewise, Korean chaebolscan be traced to the Korean family system, which placed a higher priority on blood relationships than the Japanese family system, and a greater emphasis on seniority than the Chinese family system.
著者
久保田 裕之
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.78-90, 2009
被引用文献数
2

「家族の多様化」論の前提となる,家族に関する選択可能性の増大という認識は,家族が依然として選択不可能な部分において個人の生存・生活を保障している点からみれば一面的である。法・制度に規定された家族規範は,現代においても,婚姻をモデルとした性的親密性・血縁者のケア・居住における生活の共同というニーズの束として複合的に定義されており,個人の主観的な家族定義もまた,この家族概念をレトリカルに参照せざるを得ない。さらに,貧弱な家族外福祉を背景として,主観的家族定義における親密性の重点化により,親密性と生存・生活の乖離が生じることが現代の「家族の危機」の一因となっている。そこで,政策単位としても分析単位としても複合的な家族概念を分節化し,従来の家族の枠組みを超えて議論していくことが重要である。家族概念を分節化することで,家族概念の単なる拡張を超えて,家族研究の対象と意義を拡大することができる。