著者
栗村 亜寿香
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.143-155, 2020-10-31 (Released:2021-05-25)
参考文献数
52

戦後民主化の時代,戦前の家族制度が廃止され,個人の自律と家族成員の平等や愛情を提唱する家族の民主化論が興隆した.彼らは戦前の家族制度復活論や個人主義化による家族解体のリスクもふまえ,自律した家族成員がいかに関係を形成しうるかという問いに取り組んでいた.戦前の家族の情緒的関係に対して民主化論者が批判的だったことはすでに明らかにされたが,それに代わる新たな家族関係がいかに構想されたかは十分検討されていない.なお自律・対話と親密性の両立という問題は当時固有のものではなく,「家族の個人化」や女性の社会進出が進んだ80年代以降にも家族の対話の必要性とその困難さが議論されてきた.自律や平等といった価値を手放さずに他者と親しい関係を形成するには,自律や対話と両立する親密性について検討する必要がある.本稿は当時の議論の検討を通じ,民主的家族における親密性に関して「多面的な自己開示」という見方を提起する.
著者
釜野 さおり
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.16-27, 2008
被引用文献数
3

本稿では,男女一対一の性関係を基盤にした関係と血縁に絶対的な価値をおき,ジェンダーに基づく役割分担の再生産が行われる「従来の家族」に対し,レズビアン家族・ゲイ家族の実践から何を問いかけることができるかを,先行研究などから実例を挙げて検討した。(1) レズビアンやゲイにとって友人やコミュニティが家族になっていること,(2) 血縁家族は精神的な支えになるとの前提が疑問視され,誰を「家族」と見なすのかの再考がなされること,(3) レズビアンやゲイが親になることで,「親=父親+母親」との前提が崩され,親子関係が「無の状態から交渉できるもの」となりうること,(4)ジェンダー役割を問い,日常の家事や育児に柔軟に対応するパートナー関係の実践があることを挙げ,これらが「従来の家族」に問いかける可能性があると論じた。最後に,レズビゲイ家族の実践が主流への同化か挑戦かの判断の難しさを述べた。
著者
荒牧 草平
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.85-97, 2018-04-30 (Released:2019-04-30)
参考文献数
25

子どもに対する親の教育期待は,親の社会経済的地位と子どもの学歴を媒介する,重要な要因とみなされてきた.一方,近年の研究は,子どもの学歴に対し,親だけでなく,祖父母やオジオバといった拡大家族の学歴も関連することを報告している.こうした分析結果は,回答者にとっての重要な他者である親キョウダイの学歴や態度が,回答者の教育態度の形成に関与していることを反映していると考えられる.また,これと同様の影響は,家族以外の重要な他者である,友人・知人からも受けていると予想できる.したがって,本稿では,拡大家族や友人・知人を含めた家族内外のパーソナルネットワークが,回答者の高学歴志向の形成に与える影響を明らかにすることを目的とした.小中学生の母親を対象とした質問紙調査データの分析から,1)キョウダイ,夫の親,友人・知人の学歴が本人の高学歴志向に独自の正の効果を持つこと,2)ネットワークメンバーの持つ高学歴志向が本人の高学歴志向に独自の正の効果を持つこと,3)本人や夫の階層要因は直接的な効果を持たないことなどが明らかとなった.最後に分析結果の意味について階層論とネットワーク論の観点から考察を行った.
著者
打越 文弥
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.18-30, 2018-04-30 (Released:2019-04-30)
参考文献数
27

本稿は,先進国に共通した世帯収入の不平等化の要因として指摘される,女性の労働市場への進出が世帯間格差を拡大させるという仮説を検証する.先行研究が前提としてきた仮定が日本には当てはまらない点を指摘した上で,本分析は「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」を使用し,マクロレベルの不平等生成プロセスの一端を,女性の就業と収入の変化という個人のミクロレベルの分析から明らかにする.分析結果の知見は以下の3点に要約される.第一に,女性の就労は世帯間の不平等を緩和するという平等化仮説が支持された.第二に,既存研究が指摘してきた女性の高学歴化と労働市場への進出の「緩い」関係が示された.第三に,高学歴・正規継続カップルでは夫婦共に収入が伸び,不平等化に寄与することが示唆されたが,このグループが全体に占める割合はわずかであり,全体としてみれば妻の就労は世帯間の収入格差を減少させる方向に働く.
著者
千田 有紀
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.94-94, 2000-07-31 (Released:2010-05-07)

ジェンダーの意味にまつわる現代のフェミニズムの議論は、たいていの場合、何らかのトラブルの感覚に行きついてしまうと、著者はいう。しかしジェンダーの意味をひとつに決定できないことは、フェミニズムの失敗ではない。トラブルは、「女」という謎めいた事柄に関連させられたことであり、大切なのはトラブルを避けることではなく、トラブルに隠された秘密を暴き、うまくトラブルを起こすことである。このような意味が、本の題名には込められている。副題は、「フェミニズムとアイデンティティの撹乱」。セックス、ジェンダー、性的欲望と実践からなる一貫したアイデンティティや「女」という主体の存在に疑問を投げかけ、これらがいかに権力の法システムによって生産されるかを解き明かした、フーコー流社会構成主義の本である。構成は、第一章が「〈セックス/ジェンダー/欲望〉の主体」である。この章は『思想』にかつて翻訳された章で、本書の章のなかでもっとも有名な部分であり、基本的な分析の枠組みが述べられている。ここでは、生物学的なセックス、文化的に構築されるジェンダー、セックスとジェンダーとの双方の「表出」、つまり「結果」として表出される性的欲望のあいだに、因果関係を打ちたてようとする法システムに疑問が投げかけられる。その結果、法システムこそが、ジェンダー、そしてセクシュアリティ、さらにはセックスを生みだすのであって、セックスが、ジェンダーやセクシュアリティを生みだすのではないことがあきらかにされる。本書の主張は、この章に還元されるものではないが、やはりこの本の白眉であることは間違いない。第二章は、「禁止、精神分析、異性愛のマトリクスの生産」である。レヴィ=ストロースの構造主義にはじまって、フロイト、ラカンの主張が分析の俎上にのせられる。近親姦のタブーは、禁止することによって欲望を生み出す装置である。精神分析に関する分析がなされているぶん、家族社会学者には興味深い章だろう。最後に第三章、「攪乱的な身体行為」では、クリステヴァ、フーコー、ウィティッグまでもが、批判的に検討される。とくに男と女の対立を止揚するものとして「レズビアン」というカテゴリーをもちだすウィティッグに対する批判は、システムのなかで解放を語る難しさについて考えさせられる。
著者
井口 高志
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.165-176, 2010-10-30 (Released:2011-10-30)
参考文献数
72
被引用文献数
3 1

本稿は,家族介護研究を中心に,支援・ケアに関する研究の潮流を整理し,家族社会学としてのこれからの課題を明らかにする。介護保険制度などの,ケアの「社会化」を目指した制度の展開とともに,ケアや支援に関する社会学研究が盛んになってきている。本稿では,まず高齢者と障害児・者の家族介護を対象とした研究の中に,この分野の源流とその後の流れを探る。次に,1990年代以降のケアの「社会化」を契機に生まれてきた研究について概観する。それらの作業から見えてくるこの分野の研究の焦点の一つは,ケア提供者,受け手,家族外のケア提供者などの個人に注目して,ケアへの意識やケアをめぐるやりとりを明らかにしていく探索的研究の展開である。もう一つの焦点は,人間の親密性や市民としての権利のあり方を問う問題視角の展開である。
著者
額賀 美紗子 藤田 結子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.130-143, 2021-10-31 (Released:2021-11-17)
参考文献数
30

本研究は,ぺアレントクラシー下での母親の教育責任の増大に注目し,働く母親の家庭教育をめぐる葛藤と家庭教育を通じた格差形成を明らかにする.この目的のため,就学前の子どもをもつ働く母親に半構造化インタビューを行い,彼女たちが家庭教育をどのように捉え,父親とどのように分担しているのかを階層視点から検討した.42名を対象とした分析から,「教育する家族」の子育てが,①父母協働志向の〈親が導く子育て〉,②母親に偏った〈親が導く子育て〉,③父母協働志向の〈子どもに任せる子育て〉,④母親に偏った〈子どもに任せる子育て〉に分化していることを示した.このモデルからは,子育て理念と父母のかかわりの違いが組み合わさることで,家庭教育を通じた大きな格差が就学前から生じている可能性が示唆された.また,働く母親の葛藤が,「親が導く」子育ての圧力と家庭教育への父親の関与の少なさによって生じていることも明らかになった.
著者
山田 昌弘
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.150-159, 2019-10-31 (Released:2020-10-31)
参考文献数
40
被引用文献数
1

戦後日本社会では,近代家族が普及し皆婚社会になると共に,独身者は,制度的にも慣習的にも例外と見なされ,社会的に処遇する仕組みを作らなかった.しかし,1980年頃から未婚化が進み,離婚が増大し,中年独身者が増大し,近年,問題化されるようになった.中年独身者の生活実態は多様である.居住形態は,過半が親と同居している.経済状況も多様であるが,特に親同居未婚者の収入は低く,多くは親と同居することによって生活を維持している.次に,感情生活では,パートナーシップが欠如している独身者は,その親密欲求を様々な対象に分散し,外部から調達して充足する傾向がみられる.今後,大量の親同居独身者が高齢化していく.親が亡くなった後,中高年になった独身者の経済生活,親密生活がどうなるか懸念される.
著者
風間 孝
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.32-42, 2003
被引用文献数
2

本稿は, 同性婚の政治性を明らかにすることを目的とする。まず, 近代家族が異性愛規範に基づくことにより, 同性愛者を周縁化し, 家族を形成する機会を奪ってきたことを論じた。つぎに, 近代家族を批判する立場からの婚姻制度の解体が多様性の承認につながるという主張は, 権力関係の外部を前提にしていることを指摘した。<BR>最後に, 家族制度擁護論に基づく反対論の分析を通じて3つの点を指摘した。第1に婚姻の定義に基づく同性婚の拒絶は法が特定の定義を採用する恣意性を隠蔽することによって成り立っていること。第2に生殖に基づく拒絶は同性カップルが規範的異性愛家族およびジェンダーの (再) 生産につながらないことを理由としており, それゆえに同性婚の要求は家族と規範的異性愛とジェンダーの結びつきに異議申立てを行うものであること。第3に同性婚の要求は, 近代の特徴である異性愛規範に基づいた公/私二元論の枠組みを問題化するものであること。
著者
コー ダイアナ 釜野 さおり
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.124-134, 2013
被引用文献数
2

本稿では,成人子と親との関係に関する研究のレビューを通じて,母娘関係の研究では異性愛が前提とされていることを示し,娘が異性愛的理想を拒否する・それを達成できないことを視野に入れることで,母娘関係の研究に新たな課題を提起することを指摘した.筆者らが過去に実施した同性間の関係に関する質的調査のデータを用いて,(1)異性愛規範性は,異性愛の母親とレズビアンの娘の関係において強化されると同時に揺るがされること,(2)母娘関係において距離をもつことと親密性は排他的ではないこと,(3)娘から母親に向けた,同性愛的指向・同性とのパートナー関係の開示は複雑であること,(4)母と娘のジェンダーの共有が,異性愛規範を強化せずに親密性の促進につながる場合があること,(5)娘の女性パートナーは母娘関係に重要な影響を与える存在であることを,実例で示した.レズビアンの娘とその母親との関係に着目することは,家族のダイナミックスのクィア分析に有用であることが示唆された.
著者
石井 クンツ昌子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.83-93, 2004-07-31 (Released:2009-08-04)
参考文献数
31
被引用文献数
4

不登校, ひきこもり, 青少年犯罪など子どもに関する様々な問題はあとを絶たない。これらの要因のひとつとして子どもの社会性の欠如があげられると同時に親子関係の問題も指摘されてきた。日本の親子関係に関する研究は主に乳幼児の発達と母親を対象にしたものが多く, 父親が子どもの社会性にどのように影響しているかについての研究は少ない。さらに就学児の社会性と父親の子育て参加の関連についての研究はほとんどなされていない。米国の研究についても同様なことが指摘される。本稿では父親の子育て参加が就学児の社会性に及ぼす影響に焦点をおき, 母親の子育て参加, 父母の年齢と教育程度, きょうだいの数, 子どもの年齢と性別, そして家族構造などの影響を解明する。日米のデータを重回帰分析した結果, 父親の子育て参加が活発であるほど就学児の社会性が高いことが明らかになった。さらに子どもの社会性に関しては子どもから見た父親の子育て参加が父親自身から見た子育て参加よりもより強い影響を示していることも解明された。
著者
釜野 さおり
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.188-194, 2009-10-30 (Released:2010-10-30)
参考文献数
30
被引用文献数
3 2
著者
金 鉉哲 裵 智恵
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.173-186, 2020-10-31 (Released:2021-05-25)
参考文献数
36

現在,韓国の出生率は,世界で最も低い数値を記録している.韓国政府はさまざまな出産奨励政策を進めてきたが,韓国政府の努力が必ずしも有効であるとは言い難く,今後の展望も明るくはない.韓国における人口政策がその有効性を失ったのは,IMF経済危機の以後からである.韓国社会において少子化をもたらす最も大きな要因は経済的な問題である.特に過度な私教育費の問題は,夫婦の出産意欲を低下させ,出産忌避をもたらしていると指摘されている.過度な私教育費支出の背景には,加熱し続ける教育熱,高校の序列化など学歴競争を深化させる教育政策,そして労働市場における著しい賃金の格差など,複数の要因が関連している.現実を打開できる改善策を考えるのは容易ではないが,教育の側面から言うならば,とりあえず,学校の序列化に歯止めをかけることによって私教育費支出への負担を軽減する政策が必要であるだろう.
著者
松木 洋人
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.18-29, 2007-04-30 (Released:2009-08-04)
参考文献数
15
被引用文献数
4 1

本稿では, 子育て支援の提供者の語りを分析することによって, 彼らが自らの経験をどのように理解しているのかを考察する。子育て支援の理念は, 従来の公的領域と私的領域の区分の再編成を含意しているが, その一方では, 家族に育児責任を帰属する規範はなお根強く存在している。このような状況において, 外部の人間が子育てに対して支援を行うことは, 家族責任についての規範的理解との間でのジレンマを提供者にもたらす可能性がある。提供者がそのようなジレンマに直面することを回避するには, 提供者が自らの活動を家族関係への支援として定義することが有効であるが, 提供者が子どもの親との関係を十分に形成できない状況では, 職務の限定性が生じることは避けられない。支援の受け手の限定化を前提としつつ, 提供者がその限定対象を創出するような働きかけを子どもの親に対して行うことが, 子育て支援を家族支援として行うための一つの実践的な解決となる。

9 0 0 0 OA 家族の臨界

著者
上野 千鶴子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.28-37, 2008-04-30 (Released:2009-08-07)
参考文献数
26
被引用文献数
3 2 13

「家族」の通文化的な定義がすべて解体したあとに,「家族とは何か?」という問いを問うことにどんな意味があるだろうか? 家族はどこまでいけば家族でなくなるのか,あるいは家族の個人化と言われる趨勢のもとで,家族は個人に還元されてしまうのだろうか? 近代家族は「依存の私事化」を必然的に伴った。「女性問題」と呼ばれるもののほとんどは,子どもや高齢者などの「一次的依存」から派生する「二次的依存」によって生じたものである。再生産の制度としての「家族」の意義は,今日に至るまで減じていない。「家族」を「個人」に還元することができないのは,この「依存的な他者」を家族が抱えこむからである。本稿は,「家族の臨界」をめぐる問いを,「依存的な他者との関係」,すなわちケアの分配問題として解くことで,「ケアの絆」としての「家族」を法的制度的に守ることは必要であると主張する。そしてその根拠としてケアの人権という概念を提示する。
著者
不破 麻紀子 筒井 淳也
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.52-63, 2010-04-30 (Released:2011-05-10)
参考文献数
21
被引用文献数
8 10 5

夫婦間の家事分担は,収入や時間的制約の差を考慮に入れても,実際の家事の多くを妻が担っているという不公平な状態になっている。それにもかかわらず妻側の不公平感は高くなく,こういった状態は経済的・時間的要因では説明ができない。これに対してジェンダー理論では妻の伝統的性別役割分業意識が強い場合は不公平感が弱いという説明を行ってきた。本論文ではこれに加え,特定の家事分担状態が不公平であるかどうかの判断基準には,社会的環境の影響も強く働いていると予測する。つまり自分が属している社会の分担水準が公平の判断基準となり,それが自分の家事分担の不公平感に影響していることが考えられる。家事分担と不公平感に関する国際比較データから,妻の家事分担比率が高い国,性別役割分業意識が強い国では,実際に妻の家事負担が大きく,また,妻が長時間働いていたり,高学歴であっても,不公平感をもちにくいということが明らかになった。
著者
コー ダイアナ 釜野 さおり
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.124-134, 2013
被引用文献数
2

本稿では,成人子と親との関係に関する研究のレビューを通じて,母娘関係の研究では異性愛が前提とされていることを示し,娘が異性愛的理想を拒否する・それを達成できないことを視野に入れることで,母娘関係の研究に新たな課題を提起することを指摘した.筆者らが過去に実施した同性間の関係に関する質的調査のデータを用いて,(1)異性愛規範性は,異性愛の母親とレズビアンの娘の関係において強化されると同時に揺るがされること,(2)母娘関係において距離をもつことと親密性は排他的ではないこと,(3)娘から母親に向けた,同性愛的指向・同性とのパートナー関係の開示は複雑であること,(4)母と娘のジェンダーの共有が,異性愛規範を強化せずに親密性の促進につながる場合があること,(5)娘の女性パートナーは母娘関係に重要な影響を与える存在であることを,実例で示した.レズビアンの娘とその母親との関係に着目することは,家族のダイナミックスのクィア分析に有用であることが示唆された.