著者
杉浦 直
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1-23, 2007-04-30
被引用文献数
4 3

本論文は, カリフォルニア州サンフランシスコのジャパンタウン (日本町) における都市再開発事業の進展を, そこに絡む活動主体 (アクター) の動きと相互の関係に焦点をあてて分析し, 当該再開発の構造とエスニック都市空間の建造環境の変容におけるその役割を考察したものである。日本町が位置するサンフランシスコのウェスターン・アディッション地区は, 第二次世界大戦の後, 建造環境が荒廃し都市再開発の対象となった。実際の再開発はA-1プロジェクトとA-2プバロジェクトに分かれる。A-1プロジェクトにおいてはサンフランシスコ再開発公社 (SFRA) の強い指導の下に経済活性化優先のスラムクリアランス型の再開発が行われ, 日本町域では近鉄アメリカなどによる大型商業施設 (ジャパンセンター) の開発が行われた。A-2プロジェクトは少し性格を異にし, コミュニティ・グループの参与の下に再開発が企画・実施され, 日本町域では日系ビジネス経営者を中心に構成された日本町コミュニティ開発会社 (NCDC) による「4プロツク日本町」再開発が行われたほか, 日系アメリカ人宗教連盟 (JARF) による中低所得者向きの住宅も開発された。なお, プロジェクトの初期において草の根的コミュニティ・グループ (CANE) による立ち退き反対闘争が行われたことも特筆される。このような再開発を経てジャパンタウン域の建造環境は大きく変容したが, その変化はかつての伝統的な総合型エスニック・タウンからツーリスト向けのエスニック・タウンに在来の現地コミュニティ向けエスニック・タウンの要素が混在した複合型のエスニック・タウンへの変化であったと要約されよう。こうした変化は, 前述した諸アクターの相互関係によって規定される再開発の加構造がもたらした必然的な帰結と言える。
著者
車 相龍
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.241-253, 2004-12-31 (Released:2010-04-30)
参考文献数
19

農村地域であった大田は, 鉄道, 高速道路などの内陸交通の要地として都市化を経験した。韓国の科学技術拠点はそういう大田の近隣にある大徳で開発された。この大徳研究団地が大田に編入されたことで, 大田は科学技術都市としての新たな発展の転機を迎えた。国の経済危機の影響で大徳研究団地の雇用が不安定化し, 起業家の道を選んだ研究員が増えたことで, 大田では大徳研究団地を中心とするベンチャー企業集積地である大徳バレーが形成された。これは先端技術産業地域として発展し始めた大田の地域変化を意味する。このような大田における地域変化には, 国や自治体による多様な地域政策的な介入が作用してきた。さらに, 近年, 大田では大徳バレーに基づく革新の持続・強化を目指す新たな地域政策が展開されつつある。ここで革新とは「知識創造による新価値の創出をもたらす新結合」を指す。大田が空間的・主体間・政策的な新たな結合を繰り返しながら経験した地域変化は, 革新を支える関係の構造, すなわち「革新の地域構造」の形成と発展をもたらしたといえる。
著者
元木 靖
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.161-178, 1999-09-01 (Released:2010-04-30)
参考文献数
39
被引用文献数
4 3

1970年代以降における米過剰と流通の自由化がすすむ中で, 米に対する消費者の要求は量の確保から質の向上に変わり,「うまい米指向」の時代に移った。本論では寒冷地に成立した東北日本 (北海道, 東北) の稲作が, 新しい時代環境にいかに対応しているかを見きわめ, 今後の可能性を探る一助として, 最近4半世紀間 (1970-95年) の水稲 (ウルチ) 品種の変遷について詳細な資料整理を試みた。その結果, 良食味米生産をめざした品種再編成が東北日本の南部で先行し, その後徐々に中部から北部へ進展してきたことを確認した。1990年代前半に至って, 東北に加え北海道の道央付近にまで, 良食味品種の栽培が一般的に認められるようになった。こうした新しい傾向が東北の良食味品種であったササニシキではなく, 全国的に良食味品種の筆頭とされるコシヒカリとの交配を通して実現してきたこと, および稲作の耐冷性強化にも大きな効果を発揮しつつ展開していることが地理学的に注目される。東北日本の稲作の将来に対して, 少なくとも品種的には大きな可能性が約束されつつあるといえよう。
著者
岩動 志乃夫
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.34-49, 2017

<p>秋田県大仙市は人口減少,少子高齢化等の進展による地域の衰退に危機感を抱き,地域再生へ積極的に取り組むため,角間川地域活性化協議会を組織した。特に観光面での充実を図るため,外国人留学生を対象としたモニターツアーを実施した。初めて大仙市を訪れる参加者に花火大会鑑賞,花火工場見学と模擬花火玉制作体験,古民家見学,茶道体験,花火寿司創作体験,角間川盆踊り体験といった内容について評価してもらった。その結果,ほぼどのツアーでも評価が高いのは花火大会鑑賞,花火工場見学と模擬花火玉制作体験, 茶道体験,個別評価に差がみられるのは古民家見学,花火寿司創作体験,比較的評価が低いのは盆踊り体験であった。同協議会は知名度のある花火関連内容の高評価に自信を深め,個別評価に差がみられる内容や評価の低い内容については今後の観光化の展開に修正や再考をしていくことになった。大学との連携によるモニターツアーの実施は今後の事業展開に向けてたいへん有意であり,今後の地域振興促進に向けて同協議会の意欲向上へと結びついた。</p>
著者
岩鼻 通明
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.19-27, 1999-03-15
参考文献数
4
被引用文献数
2

本研究の目的は, 長野県戸隠村中社集落の観光地化について, 1975年までの10年間の動向を報告した第1報, および1985年までの10年間の動向を報告した第2報に引き続いて, 1985年から1995年までの10年間の動向を明らかにすることにある。<br>この10年間の動向として, 前半のバブル経済期は観光客数が急増したが, 後半の経済不況期に入って, 宿泊客数の減少傾向が顕著になりつつある。とりわけ, 1995年に発生した阪神大震災と豪雨災害の影響が大きい。それにともない, 高齢化を主たる理由に廃業する宿泊・飲食施設も現れ始め, これまで拡大の一途をたどってきた戸隠観光にも変化が生じつつあることが明らかになった。また, 併せて1998年に開催の長野五輪への期待や, スキー場とゴルフ場の必要性に関しても調査を行ったが, 総じて長野五輪への期待感には乏しく, ゴルフ場の誘致やスキー場の拡大についても消極的な意見が多くみられた。
著者
堀本 雅章
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1-16, 2018

<p>沖縄県竹富町鳩間島は,西表島の北へ位置する人口約50人の島である。鳩間島では何度か,過疎化による廃校の危機に陥った。しかし,島外から子どもを受け入れ学校を維持してきた。</p><p>その後,交通網の整備,民宿の増加,食堂の開業など受け入れ態勢が整い,観光客が急増した。研究目的は,鳩間島の今後の望ましい観光客数や観光客の増加による変化など,観光に対する住民意識を考察することである。調査の結果,ほとんどの住民は観光客の増加または現状維持を望み,その理由は,「活気づく」,「経済効果」などである。一方,ゴミ問題や一部の観光客のマナーなどによる環境の悪化などの回答もみられた。「鳩間島の観光名所,魅力」については,最も多い回答は海で,何もないところ,のんびりできるなどの回答も多い。</p>
著者
瀧本 家康
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.17-35, 2013-06-10
参考文献数
25

梅雨明け時の熱帯対流活動活発化領域の位置の違いと日本周辺域の高度場の変化との関係を検討した。<br> 1979年から2002年の24年間において,日本付近のOLRを指標に梅雨明けが明瞭な20年間の梅雨明け日を定めた。これらの年について,梅雨明け日前後のOLRの合成図を比較した結果,フィリピン付近と西部北太平洋で対流活動が活発化する年(WP型,2年),フィリピン付近で活発化する年(P型,7年),西部北太平洋で活発化する年(W型,5年),両地域で活発化が起こらない年(N型,6年)の4つの型があることがわかった。P, W, N型の梅雨明け時の高度場の変化を調査した結果,梅雨明けには① 熱帯からの定常ロスビー波および偏西風ジェット上の定常ロスビー波の伝播による高気圧の強化(P型),② 偏西風ジェット上の定常ロスビー波の伝播による高気圧の強化(N型),③ 太平洋高気圧の東への後退(W型),という3つの機構があることが明らかとなった。また,熱帯対流活動が活発化する領域の違いが梅雨明けの引き金となる熱帯からの定常ロスビー波の発生の有無に関係している可能性が示唆された。
著者
高荷 久昌
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.73-91, 2002
参考文献数
81

東京湾は, 1950年以降港湾施設や臨海工場の立地のため広大な埋立造成が行われ, 自然の海岸が多く失われてしまった。このため1970年代後半から東京湾各港において, 港湾地帯の環境改善を進める計画がたてられるようになった。本研究は東京港で実証した公園緑地の形成過程を, 東京湾内の千葉港, 川崎港, 横浜港における公園緑地を中心とした環境施設に対して同様な分析を行って東京港と比較することにより, 東京湾の港湾地帯における環境施設の形成過程の体系化とそれぞれの港湾がもつ地域特性を明らかにすることを目的とする。<br>研究の結果, 東京湾の港湾における環境施設の形成過程は, 1970年代から港湾環境整備施設の制度化により, 港湾管理者を中心とする環境施設が整備され, その形成過程は緑地広場, 運動施設整備期から始まり, 70年代後半からの自然環境回復施設整備期を経て, 80年代から90年代にかけて親水施設整備期, 90年代の集客施設整備期に進展している。さらに東京湾の港湾における環境施設形成の内容を見ると, 複数の自治体を後背地にもつ東京港, 千葉港と, 同一の自治体である川崎港, 横浜港の2つのグループに分けることができ, 後背地の都市がもつ地域の特性が形成過程に差をもたらしている。
著者
澁木 智之
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.207-224, 2021 (Released:2021-04-28)
参考文献数
11
被引用文献数
2

本稿では,新潟県と徳島県の大規模イベント時における宿泊施設の空き室状況の時空間的変化を,じゃらんWebサービスの空室検索APIから取得したビッグデータを用いて示した。その結果,イベント開催日の120日前時点におけるイベント開催地周辺の宿泊施設の空き室数減少や,イベント開催地を中心とした空き室数減少の空間的な広がりやその時系列変化,および宿泊料金の高騰を明らかにできた。また,本稿の最後には,Web APIから得られる空き室情報について,ビッグデータの新しい位置情報としての応用可能性について述べた。
著者
米地 文夫
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.267-284, 1995-12-01
参考文献数
40

明確な地名としての「東北」の初出を, 岩本 (1989など) は慶応4年7月の木戸孝允の建議書をその初現であるとし, 難波 (1993) は同年閏4月から太政官日記にみられるとしたが, 筆者は同年正月の久保田 (秋田) 藩主への内勅や, 2月の仙台藩主からの建白書に, 「東北」の語があることを見いだした。<br>岩本は「東北」を「東夷北秋」を約めたもので, 勝者が敗者に押し付けた地名とした。しかし「東夷北秋」の略は「夷秋」で, 当時は欧米を意味していた。また朝廷側が味方の秋田藩を「東北の雄鎮」と呼んだり, 奥羽側でも自らをも含めて「東北列藩」と呼んだりしており,「東北」に蔑視的な意味は無かった。この「東北」は, 東海, 東山, 北陸の三道全体, すなわち東日本の意味で, 現東北6~7県地域を指すものではなかった。明治初年のこの広義の「東北」は当時の歴史教科書にはみられるが, 地理教科書にはほとんど登場しなかった。
著者
杉浦 直
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.207-222, 2018

<p>レブンワースは,カスケード山中に位置する資源依存型の山間小都市であったが,戦後1950年代には,産業基盤の弱化により衰退した。1960年代から市の再活性化が模索され始め,その過程でドイツ(ババリア)風に街並みを改造する「ババリア化」のアイデアが浮かび上った。その後さまざまな紆余曲折を経て,1970年代には建物改装のためのデザイン評価ガイドラインも制定され,2001年のガイドライン厳格化を経て,今日ではダウンタウンの建物のほとんどがババリア的建築要素をもつユニークなエスニックテーマ型のツーリストタウンが実現している。こうした「場所の構築」の文化的本質に関して以下の普遍的な意味が指摘できる。1)レブンワースでは他のテーマ性の強い観光空間と同様,ツーリスト向けの特殊な買い物空間が創出され,ビジュアルに特異な建造環境とともに様々なアイテムが消費されている。2)そこで見られるエスニシティは「発明されたエスニシティ」(Hoelscher, 1998)の性質が強いものであり,そこで謳われた真正性は所与のものではなく交渉され演出されたものであった。3)そこにおけるまちづくりの過程は,「空間的ストレス-シンボル化」モデル(Rowntree and Conkey, 1980)にきわめてよく適合する。</p>
著者
荒木 一視
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.53-73, 2019 (Released:2019-09-27)
参考文献数
27

近代工業勃興期にある1920年代の中国の食料の海外依存を検討した。その背景には,増加する鉱工業労働者への食料供給をどのようにして担ったのかという問題意識がある。当時の中国の穀物生産は拡大していないものの,鉱工業労働者は大きな増加を見るからであり,輸入穀物によってそれを賄ったのではないかと考えた。そこで中国の北京大学図書館で閲覧した『中國各通商口岸對各國進出口貿易統計』によって当時の食料貿易を把握した。期間を通じて上海を中心とした中部の港では欧米からの輸入拡大が認められた。従来それは中国の工業化に伴う工業原料の輸入とみられていたが,食料貿易も大きなシェアを持っていたことが明らかになった。特に小麦,米,小麦粉などの穀物の輸入がその主力であった。小麦においてはオーストラリアをはじめとしてアメリカ合衆国やカナダ,米においては香港をはじめとして英領インドやフランス領インドシナなどアジアからの輸入が中心であった。このように,20世紀初めの中国の近代工業化の一翼を支えたのは海外からの食料供給であったといえる。同時にそれは今日経済成長を遂げる中国とその食料の海外依存という文脈にも当てはまる。
著者
八木 浩司
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.83-91, 1993
被引用文献数
5 1

真昼山地・和賀岳東側斜面には最大傾斜方向にほぼ直交あるいはやや斜交し, 山稜側に相対する比高5~6mの逆向き小急崖と線状凹地が直線的に発達する。それら小急崖 (小崖地形) の走行は節理系の卓越走行と調和的で, 小崖地形周辺の基盤岩の前倒が認められた。また線状凹地内の堆積物は小崖地形よりも上部の斜面の沈下によってもたらされたような変形を示している。観察結果から小崖地形は, 山腹斜面が基盤岩の前倒により谷方向への反り返り, さらに山頂部が下部斜面に寄りかかるように沈下したことによって発達したものと考えられる。<br>和賀岳東面における基盤岩の前倒による小崖地形形成の引金として斜面に加速度的な振動をもたらす地震が考えられる。さらに小崖地形内で, 本来水平堆積すべき土壌・斜面物質が急斜し, その土壌・斜面物質の中部層準に約1000年前降下の十和田-a火山灰が挾在することから小崖地形の発達にかかわった最後の地変は1896年の陸羽地震の可能性がある。
著者
伊藤 晶文
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1-18, 1999-03-15
参考文献数
25
被引用文献数
2 6

宮城県北東部に位置する北上川下流沖積低地を対象に, ボーリング資料解析, FeS<sub>2</sub>含有量分析, <sup>14</sup>C年代測定結果に基づいて, 完新世における内湾の拡大過程および埋積過程を復元し, 当低地の形成過程を考察した。とくに内湾の埋積過程については, 各時代の海岸線背後における河道の位置を復元することを目的の一つとして復元を試みた。<br>北上川下流沖積低地は, 従来想定されていた南北に連なる一連の埋没谷の埋積により形成された低地ではなく, 海水準が-7mに達した7,500年前までは, 三つの個別の埋没谷を埋積する低地であったことが明らかとなった。7,500年前以降の海水準上昇に伴い, 内湾の拡大によって一つの連続する水域となった。本地域にあった内湾は, そのうち最大め流域面積をもつ北上川によって大部分が埋積され, 支流迫川は埋積にはほとんど関与していないことが明らかとなった。
著者
駒木野 智寛
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.221-238, 2016 (Released:2016-06-23)
参考文献数
17

竪穴住居址の出入口は,家族空間への出入口であると同時に集落という社会空間への出入口である。しかし縄文時代の集落研究にとって重要な竪穴住居址の戸口の方位とその決定要因については明らかにされていない。本研究では,岩手県域145遺跡の竪穴住居址697棟の前庭部を対象に開口方向を計測し竪穴住居址の戸口の方位を明らかにした。河川水系ごとに竪穴住居址の戸口の方位と最近30年間(1977~2006年)のアメダス観測点の冬季と夏季の卓越風向の観測値を比較分析した。その結果,竪穴住居址の戸口は,谷の軸を考慮して風雪の影響が強い冬季の卓越風向を避け,東から南を経て南西の方位を指向する傾向が認められた。地形との関係では,戸口の方位を谷側に向けることで,雨水が竪穴住居内に流入するのを防いだと考えられる。気候との関係では,戸口から竪穴住居内への日照の確保をするとともに,冬季の吹雪による影響を避ける方位を選択していたものと考えられる。
著者
荒木 一視
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.53-73, 2019

<p>近代工業勃興期にある1920年代の中国の食料の海外依存を検討した。その背景には,増加する鉱工業労働者への食料供給をどのようにして担ったのかという問題意識がある。当時の中国の穀物生産は拡大していないものの,鉱工業労働者は大きな増加を見るからであり,輸入穀物によってそれを賄ったのではないかと考えた。そこで中国の北京大学図書館で閲覧した『中國各通商口岸對各國進出口貿易統計』によって当時の食料貿易を把握した。期間を通じて上海を中心とした中部の港では欧米からの輸入拡大が認められた。従来それは中国の工業化に伴う工業原料の輸入とみられていたが,食料貿易も大きなシェアを持っていたことが明らかになった。特に小麦,米,小麦粉などの穀物の輸入がその主力であった。小麦においてはオーストラリアをはじめとしてアメリカ合衆国やカナダ,米においては香港をはじめとして英領インドやフランス領インドシナなどアジアからの輸入が中心であった。このように,20世紀初めの中国の近代工業化の一翼を支えたのは海外からの食料供給であったといえる。同時にそれは今日経済成長を遂げる中国とその食料の海外依存という文脈にも当てはまる。</p>
著者
山田 浩久
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.236-246, 2002-12-26 (Released:2010-04-30)
参考文献数
12

1970年代後半の地価上昇は, 第一次石油ショック後の景気低迷期における金利の引き下げと土地市場の特異性によって生じた。しかし, 恒常的な住宅地地価の上昇に所得上昇が追いつかなくなった大都市圏住民の増加と圏域の空間的拡大スピードの鈍化によって住宅地市場は縮小し, 地価上昇は沈静化に向かった。その結果, 住宅地市場から撤退した住宅購入希望者が大都市圏内部に滞留することになり, マンション開発が活発化した。マンション開発業者による土地買収は, 都心および都心周辺部の土地需要を大幅に増大させ, 既成市街地の再開発や用途混在型の土地利用を加速させる主要因となった。マンション開発がもたらしたこれらの現象は投機的土地取引や地価上昇の空間的波及を助長する作用がある。1980年代後半の地価急騰は東京都心部における商業地地価の局地的上昇を発端とする波及型の地価変動現象と特徴づけられるが, マンション開発が惹起した都市空間の変容がその背景にあったと考えられる。
著者
神田 兵庫 磯田 弦 中谷 友樹
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.91-106, 2020
被引用文献数
4

<p> 本稿では,1980年から2015年における市町村別人口および1kmメッシュ人口から,日本の大都市雇用圏がこれまでに経験した都市構造の変遷を把握した。その結果,日本の都市圏の多くは,クラッセンの都市サイクルモデルの想定とは異なり,いわゆる人口が増加した都市化や郊外化の段階を経験した後,都市圏全体として人口が減少する局面を迎えると,中心部の人口の割合が相対的に上昇する集中化(中心化)傾向を示すことが明らかとなった。また,人口減少局面においては,都市構造の遷移は小規模な都市圏の傾向を中規模以上の都市圏が追随する傾向にある。</p>
著者
林 秀司
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.126-138, 1998-06-15
参考文献数
11
被引用文献数
1 3

近年育成されたいくつかの水稲うるち米の良食味品種の普及を, GISソフトの Arc/Info を使って作成した作付比率の分布図を用いて, 地域的普及の視点から明らかにした。<br>多くの品種の普及地域は育成道府県に限定されているが, あきたこまち, キヌヒカリ, ヒノヒカリ, ひとめぼれは比較的広範囲に普及した。あきたこまち, ヒノヒカリ, ひとめぼれには育成県とその周辺で高い普及率を示す距離減衰的な普及パターンを示すと同時に, 飛地的な普及パターンが認められた。一方, キヌヒカリは明確な普及の中心がみられず, 分散的に普及した。このような水稲品種の普及には, 奨励品種の指定等の政策的要因が影響していることが考えられる。