著者
山田 浩久
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.71-90, 2020 (Released:2020-09-24)
参考文献数
18
被引用文献数
4

本研究では,東日本大震災における東北地方の被災県を対象に,被災地で生じた居住地移動の類型化を通して,被災地の居住地移動と市街地再編との関係を明らかにした。分析の結果,被災地特有の特徴を示す居住地移動は,「新市街地対応型」,「自主探索型」,「疎開型」とそれらの「複合型」に類型化された。「新市街地対応型」は,主に被災市町村内で行われる短期,短距離の移動であり,行政の市街地再編計画に被災者の移動が取り込まれていくことになるが,「自主探索策型」は被災者が個々に域外に流出するため,人口が流出した市町村よりも流入先の市町村における市街地再編計画に,より大きな影響を及ぼす。一方,原発事故等に起因する「疎開型」は,健康被害に対する懸念や長期の避難生活がもたらす帰還意識の低下や市街地の物理的荒廃が住民の大幅減につながり,市街地再編計画の実施自体が危ぶまれている。また,上記移動パターンの特徴を併せ持った「複合型」は,今後の動向を把握しにくい移動であり,市街地の再編計画の細やかな修正が求められていくものと考えられる。いずれにおいても,安心を手に入れることが出来ないでいる被災者の不安を解消し,できるだけ早期に被災による居住地移動を完結させることが,被災地における市街地再編の条件になる。
著者
山田 浩久
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 社会科学 = Bulletin of Yamagata University. Social Science
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.63-82, 2009-02-15

はじめに:近年の観光開発は、開発業者による大規模な土地改変を伴うリゾート開発に代わり、自然環境の保全を前提とする体験型、対話型の観光を提案する開発が主流になっている。体験型、対話型の観光は、環境論的な観点から肯定されるとともに、開発費用を大幅に縮小することから、 主に地方の地域振興策の一つに採用される場合が多い。また、原則的に「人の手を加えない」 開発であることから、地域内の歴史的遺物や文化資産と絡めることが容易であり、街並保有や 文化伝承に関わる議論にまで展開させることが可能である。体験型、対話型の観光は、ローリスク、ローコストであるがゆえに、提案しやすく、受け入れられやすい開発であるといえる。しかしながら、観光を産業としてみた場合、産業の育成には資本投下が不可欠であり、投下 資本量に応じた生産性の向上が利潤を増加させ、地域経済を活性化させる。体験型、対話型観光の提案者は、ローリターンであることに触れず、環境保全や地域アイデンティティ創出の重要性を強調する。もちろん、それらが重要な案件ではあることは明らかであるが、地域政策を 立案する大前提は地域住民の生活向上にある。地域住民はローリターンの開発であることを認識し、開発の努力が実を結ぶまで耐え続けなければならないというのは閣発者側の論理であり、住民は分かりやすい短期的な成果を期待する。観光政策の実施に伴い、観光客のマナーの悪さや地域住民の負担過多といった問題も指摘さ れている。目標到達までの時聞が長期化するほど地域住民の意識は希薄化するであろう。地域振興策あるいは地域活性化策のーつとして観光開発を挙げる以上、経済的な効果を明確にし、短期の目標を積み上げることによって、地域住民の観光開発に対するモチベーションを維持する工夫が必要であると考える。
著者
山田 浩久 宮原 育子 櫛引 素夫 林 玉恵 山口 泰史 初澤 敏生
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.237-247, 2020

<p>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;本稿は,2020年8月8日の13:30~15:00に「Post COVID-19に向けた東北の観光戦略」をテーマにオンラインで開催された北東支部例会の報告である.参加者は北海道から九州まで,非学会員を含めて41名を数えた.広域からの参加が認められたことは,Post COVID-19に対する関心が地域を選ばないことの現れであると思われるが,それを支部例会で議論することができたのはオンライン開催のメリットである.会場では,東北地方を対象にして,震災復興事業とCOVID-19対策の両立,国と県の施策のずれ,航空機と新幹線への影響に関する報告があった後,東北地方のインバウンド旅行に大きな影響力を持つ台湾の観光情勢について報告がなされ,総合討論において活発な意見交換が行われた.</p>
著者
山田 浩久
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p>_2019年における山形県の総宿泊者数は557万人泊であり,東北6県の中で第4位となっている。しかし,人口(2015年国勢調査)百万人あたりの総宿泊者数は496万人泊であり,第2位にまで順位を上げる。同数値は,北海道と関東7都県を加えた14都道県の中でも第4位となり,全国平均(469万人泊)も上回る。山形県は,ゲスト側から見れば東北6県の中でも中位以下の誘客力しか有していないが,収益の分配や受け入れの負荷といったホスト側からの視点で見ると,東日本でも有数の観光県であると言うことができる。ただし,人口100万人あたりの外国人宿泊者数(21万人泊)については,東北6県内で第4位であり,同全国平均(91万人泊)も大きく下回ることから,山形県の宿泊者数を支えているのは,国内旅行であることが分かる。また,山形県は総宿泊者数に占める県外居住者のシェア(68.0%)が,東北6県の中で最も低く,国内旅行の中でも特に県内旅行に依存する割合が高いことも同県の宿泊者数に指摘される大きな特徴になっている。</p><p> 山形県では2020年3月31日にCOVID 19感染者の1例目が報告され,4月に感染が拡大したが,5月4日に69例目の感染が報告されてからは2ヶ月間感染が確認されず,7月4日に70例目の感染が報告された。山形県の2020年における月別総宿泊者数の対前年同月比を見ると,3月までは60%台を保っていたが,4月には一気に20%を割り込み(18.9%),東北6県最大の下げ幅を記録した。これは4月中の感染拡大によるものである。同県では100万人あたりの累積感染者数(5月5日時点64人)が東北最多となり,特に国内在住者の旅行に負の影響を及ぼした。</p><p> 一般に,国の政策は都道府県を介してトップダウンで市町村に降ろされていく。こうした政策の伝達体制によって生まれる事業実施までのタイムラグは,現況に対する個別事業の遅れに繋がるが,一方で自治体の「考える時間」にもなっていた。日本の観光政策に関しても,2000年代初頭より国家戦略の一つに位置づけられるようになり,観光立国推進基本法による国の制度設計に基づいて都道府県レベルでの観光計画が策定され,それが市町村の観光事業によって具現化されてきたが,COVID19のパンデミックは,トップダウン型の政策伝達体制を機能不全に陥らせた。自治体は「考える時間」を与えられず,独自の判断によって観光に対する様々な問題に対処することになった。</p><p> 4月に発令された全国の緊急事態宣言を受けて山形県が行った主な観光支援施策は,観光立寄施設支援と宿泊支援に大別される。それらは,国の「Go Toトラベル事業」の内容と類似するが,同事業よりも2ヶ月も早く,対象を県内に限定して実施された。そこには,県内旅行に依存する割合が高いという山形県の事情が存在しているほか,同県が2015年に蔵王山の噴火警報発令に伴う風評被害対策のために旅行クーポンを販売した実績と教訓が活かされている。</p><p> COVID 19のパンデミックは収束の気配すらなく,観光も含めた関係人口の大幅減が継続する可能性もある。しかし,全国的な観光政策はインバウンド旅行を基調にしており,中長期的な国の戦略はインバウンドの解禁を想定している。行政による経済的な支援にも限界があり,山形県においても,ホスト側の安全と安心を重視する方針を広域からのゲストに安全と安心を担保する方針に切り替えていくことになることは必至である。観光のパラダイムシフトは,旅行時の「衛生」概念の革新に集約される。わが国において,その転換点は行政による国内観光の支援期間にしか無い。「Go Toトラベル事業」断行の意味もそこに見出される。</p><p> Post-COVID19に向けたスタッフ,施設,ルール作りにおいて,各都道府県が同じスタートライン上にあるという現在の状況は,観光後発県の位置に甘んじてきた山形県にとって,飛躍のチャンスとも言える。積極的な活動によって一歩先んずることができれば,それが他地域との差別化をもたらし,ブランド化にも繋がっていく。人の集まる場所に行く観光から人が集まらない場所に行く観光への変化は,オフシーズンの観光や低活性の観光地を変える大きなきっかけになるはずである。</p>
著者
山田 浩久
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.236-246, 2002-12-26 (Released:2010-04-30)
参考文献数
12

1970年代後半の地価上昇は, 第一次石油ショック後の景気低迷期における金利の引き下げと土地市場の特異性によって生じた。しかし, 恒常的な住宅地地価の上昇に所得上昇が追いつかなくなった大都市圏住民の増加と圏域の空間的拡大スピードの鈍化によって住宅地市場は縮小し, 地価上昇は沈静化に向かった。その結果, 住宅地市場から撤退した住宅購入希望者が大都市圏内部に滞留することになり, マンション開発が活発化した。マンション開発業者による土地買収は, 都心および都心周辺部の土地需要を大幅に増大させ, 既成市街地の再開発や用途混在型の土地利用を加速させる主要因となった。マンション開発がもたらしたこれらの現象は投機的土地取引や地価上昇の空間的波及を助長する作用がある。1980年代後半の地価急騰は東京都心部における商業地地価の局地的上昇を発端とする波及型の地価変動現象と特徴づけられるが, マンション開発が惹起した都市空間の変容がその背景にあったと考えられる。
著者
山田 浩久
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.81-95, 1993

Most social and economic activities are based on land, which is included among high-dimensional goods. The balance between supply of and demand for land is maintained, by its price. However, its supply cannot be controlled. Land prices rise, not with demand, but with the increase in utility value resulting from the construction of railways and redevelopment. As the price of a plot of land is determined by the sales price of land nearby, high prices for neighboring areas due to increased utility value influences the price formation for land in outlying areas without changing their own utility value. Such a phenomenon was observed in small towns when land price in the Tokyo metropolitan area suddenly rose in the late 1980s. <br> In order to better understand the mechanism for land price fluctuations in this area, this paper aims to demonstrate the disparity between the price and use of land on the micro scale and to clarify the characteristics of the rise in land prices in the commercial area of a small town, with the area around the JR Nishifunabashi station as an example. The results of the analysis are as follows:<br> 1) The low interest rate policy and the resultant business boom in the 1980s activated transaction and finances involving land. As a result, land prices rose sharply in commercial areas around stations along the JR Sobu line over the three-year period 1985-1988. Many areas that showed a higher rate of appreciation in this period have developed as major commercial areas. On the other hand, the area around the Nishifunabashi station showed the highest rise in the 1988-1991 period, when the appreciation of land prices had eased off in all commercial areas. This belated rise was influenced by the appreciation of land prices in the area around the nearby Funabashi station and is therefore different from the phenomenon widely observed from 1985 to 1988.<br> 2) In the study area, the area of expensive land to the north of the station did not expand during the period 1985-1988, although the price difference increased. In 1991, however, the land on the south side of the station, where a number of large parking lots were located, appreciated in value, and the price became higher than in the northern area on the whole. The price difference with in the study area grew even greater.<br> 3) In contrast to the changes in the land price distribution, no remarkable changes were observed in land use in the study area. Such a precursory rise in the land price could be attributed to the inability of local commercial capital to cope with the rapid rise occurring in the area. It seems that the delay in the effective utilization of land in the northern area relatively improved the estimated value of the more promising land in the southern area. The 1991 appreciation in the southern area resulted from this situation. Concerning the relationship between the rise in land prices and changes in building height, most medium-high-rise and high-rise buildings were situated in areas where land was expensive, although some had been built within such an area in 1991. In addition to the shortage of local funds, setting the land price on the basis of the medium-and long-term forecast had led to this phenomenon. Lands assessed according to the projected value is not immediately utilized in accordance with the present circumstances.
著者
日野 正輝 富田 和暁 伊東 理 西原 純 村山 祐司 津川 康雄 山崎 健 伊藤 悟 藤井 正 松田 隆典 根田 克彦 千葉 昭彦 寺谷 亮司 山下 宗利 由井 義通 石丸 哲史 香川 貴志 大塚 俊幸 古賀 慎二 豊田 哲也 橋本 雄一 松井 圭介 山田 浩久 山下 博樹 藤塚 吉浩 山下 潤 芳賀 博文 杜 国慶 須田 昌弥 朴 チョン玄 堤 純 伊藤 健司 宮澤 仁 兼子 純 土屋 純 磯田 弦 山神 達也 稲垣 稜 小原 直人 矢部 直人 久保 倫子 小泉 諒 阿部 隆 阿部 和俊 谷 謙二
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

1990年代後半が日本の都市化において時代を画する時期と位置づけられる。これを「ポスト成長都市」の到来と捉えて、持続可能な都市空間の形成に向けた都市地理学の課題を検討した。その結果、 大都市圏における人口の都心回帰、通勤圏の縮小、ライフサイクルからライフスタイルに対応した居住地移動へのシフト、空き家の増大と都心周辺部でのジェントリフィケーションの併進、中心市街地における住環境整備の在り方、市町村合併と地域自治の在り方、今後の都市研究の方向性などが取組むべき課題として特定された。