著者
杉浦 直 SUGIURA Tadashi
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1-23, 2007-01-01 (Released:2016-05-18)

本論文は,カリフォルニア州サンフランシスコのジャパンタウン(日本町)における都市再開発事業の進展を,そこに絡む活動主体(アクター)の動きと相互の関係に焦点をあてて分析し,当該再開発の構造とエスニック都市空間の建造環境の変容におけるその役割を考察したものである。日本町が位置するサンフランシスコのウェスターン・アディッション地区は,第二次世界大戦の後,建造環境が荒廃し都市再開発の対象となった。実際の再開発はA-1プロジェクトとA-2プロジェクトに分かれる。A-1プロジェクトにおいてはサンフランシスコ再開発公社(SFRA)の強い指導の下に経済活性化優先のスラムクリアランス型の再開発が行われ,日本町域では近鉄アメリカなどによる大型商業施設(ジャパンセンター)の開発が行われた。A-2プロジェクトは少し性格を異にし,コミュニティ・グループの参与の下に再開発が企画・実施され,日本町域では日系ビジネス経営者を中心に構成された日本町コミュニティ開発会社(NCDC)による「4ブロック日本町」再開発が行われたほか,日系アメリカ人宗教連盟(JARF)による中低所得者向きの住宅も開発された。なお,プロジェクトの初期において草の根的コミュニティ・グループ(CANE)による立ち退き反対闘争が行われたことも特筆される。このような再開発を経てジャパンタウン域の建造環境は大きく変容したが,その変化はかつての伝統的な総合型エスニック・タウンからツーリスト向けのエスニック・タウンに在来の現地コミュニティ向けエスニック・タウンの要素が混在した複合型のエスニック・タウンへの変化であったと要約されよう。こうした変化は,前述した諸アクターの相互関係によって規定される再開発の構造がもたらした必然的な帰結と言える。
著者
八木 浩司 斉藤 宗勝
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.121-136, 1997
被引用文献数
1 1

ネパールのヒマラヤ前縁帯およびテライ平原において, 天然林 (サラノキ: <i>Shorea robusta</i>) の果実が, カカオ代替油脂 (サルバター) 採取を目的として企業的に利用されている。その利用システムには天然林生産物と地域住民を基層構造とし, 首都カトマンズの企業そして国際市場につながる階層性が存在する。<br>材以外で, サルバターのような国際市場に結びついた天然林生産物利用地域の出現は, <i>S. robusta</i> 林がヒマラヤ前縁帯・ガンジス平原北縁に広大に分布する低価格天然林資源であること, 果実の結実期が乾季でその間農業活動が比較的低調であること, 労働集約型の採取活動が要求されるにも関わらずこの地域の最底辺層に位置する安い労働力が利用できることによって説明される。しかし, サルバター生産地域は, 自然および社会環境の変化に左右される不安定な存在である。さらに <i>S. robusta</i> 林は過度の人為ストレスのため持続可能利用されているとは言いがたい部分も生じている。
著者
大和田 美香
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.60-73, 2012

本稿では,南部スーダン(現 南スーダン)の首都ジュバにおける労働市場の現状を,人材ニーズの高い企業への聞き取り調査から明らかにする。また,現地の技能人材の育成がどのように行われているのかを,職業訓練事業の訓練卒業生への聞き取りから分析した。調査から分かったことは,第一に,建設業,自動車整備業,ホテルサービス業の各業種で,国内資本か否かによる従業員構成の違いが存在することである。企業内の職位については,外国人労働者が南部スーダン出身の労働者に比べて相対的に高い職位に就いていた。その背景には,紛争による南部スーダンの学校教育の停滞や,ウガンダやケニアなどの近隣国出身者の就業機会を求めた流入がある。南部スーダン人人材の育成が求められる状況の中,ジュバでは国際協力機構の職業訓練プロジェクトにより,技能を持った人材を育成し,就業に一定の効果を挙げていることが分かった。しかし,半数以上が期限付きの契約ベースの雇用である状況も分かった。
著者
吉田 明弘 鈴木 三男
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.155-172, 2013 (Released:2013-05-11)
参考文献数
41
被引用文献数
1 1

宮城県多賀城跡鴻ノ池地区における堆積物の14C年代測定,テフラ年代,花粉分析,出土材の樹種同定の結果から,多賀城周辺における高時間分解の植生復元を行った。この復元に基づき,多賀城周辺における古代の森林伐採と栽培植物を考察した。さらに,仙台平野周辺の考古資料をまとめ,古代の大和政権の東北進出に伴った広域的な森林伐採と地形形成への影響を検討した。多賀城周辺の丘陵地では,多賀城の築造前はコナラ属やクマシデ属など落葉広葉樹の自然林が分布していた。多賀城の築造後,丘陵地では森林伐採が行われ,陽地性で乾燥環境を好む草本植生が広がった。その後,継続的な森林伐採は,丘陵地の土壌侵食を増大させ,8世紀後半にはアカマツ二次林が成立した。9世紀初め以降には森林伐採が緩和し,丘陵地ではブナ属やコナラ亜属の二次林となった。多賀城の築造後,多賀城周辺の沖積平野では,人口増加を背景にして,大規模な水田稲作や畑作が開始した。一方,仙台平野周辺では,大和政権の進出に伴って窯業や製鉄業が盛んに行われるようになり,広域的な森林伐採が行われた。この森林伐採は,仙台平野への土砂流出を招き,7∼9世紀以降の海岸線の前進速度を増加させた可能性が高い。
著者
遠藤 匡俊 張 政
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.17-27, 2011-03-01
参考文献数
42

世界の狩猟採集社会の特徴の一つとして集団の空間的流動性があげられる。これまで複数の異なる民族を対象として流動性の程度を比較した研究例はほとんどみられなかった。本研究の目的は,アイヌとオロチョンを例に,集団の空間的流動性の程度を比較することである。分析の結果,以下のことが明らかとなった。集落共住率(<i>U</i>)を算出した結果,同一集落内に定住する傾向が強く集落を構成する家があまり変化しなかった紋別場所のアイヌでは,集落共住率(<i>U</i>)が0.9&sim;1.0である家の総家数に占める割合は73%ほどであった。一方,多くの家が集落間で移動する傾向が強く集落構成が流動的に変化していた三石場所のアイヌでは,集落共住率(<i>U</i>)が0.9&sim;1.0である家の総家数に占める割合は43%ほどであった。三石場所のアイヌと同様に,集落構成が流動的に変化していたオロチョンでは,集落共住率(<i>U</i>)が0.9&sim;1.0である家の総家数に占める割合は25%とさらに低く,0.1&sim;0.2の家は33.3%,0.3&sim;0.4の家は25%であった。13年間における集落共住率(<i>U</i>)の経年変化をみると,オロチョンの値は常に0.11&sim;0.33であり,三石場所のアイヌよりも下回っていた。アイヌの事例を1戸ずつ検討しても,集落共住率(<i>U</i>)の値が常に0.4未満であるような事例は1例もなかった。アイヌ社会のなかでも三石場所のアイヌ集落においては集団の空間的流動性が大きかったが,オロチョンの一家の場合にはさらに流動性が高かった可能性がある。
著者
清水 長正
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.126-135, 1994-07-15 (Released:2010-04-30)
参考文献数
20
被引用文献数
4 2

北上山地最高峰の早池峰山 (1,914m) では, 森林限界は高度1,700~1,300mの間で著しく上下している。このような森林限界を決めた条件として, 斜面地形に注目し考察した。早池峰山の森林限界は, 最終氷期に形成された岩塊斜面末端, 完新世に形成された雪食凹地末端や崩壊斜面上端などの斜面地形境界にほぼ一致している。これらの斜面地形の表層地質や残雪などが樹木の生育に直接影響し, 森林の成立を拒否した結果,斜面地形の境界部に森林限界を成立させたと考えた。
著者
山本 健太
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.185-206, 2008
被引用文献数
1

本研究の目的は韓国におけるアニメーション産業の集積と特質を企業間取引と労働者の活動実態の分析により明らかにすることである。韓国における当該産業はソウルに集積し, 日本および欧米制作企業からの受注業務が最大の売上額を占める。しかも, 取引および生産の様式が受注先国によって異なる特徴をもつ。日本を主要な取引国とする企業において, 企業間取引は日本の特定制作企業との間に, 相互の信頼関係を重視した固定的取引関係を構築している。日本におけるアニメーションの性質上, 納期は最短で1日と短い。また, 現場での柔軟な対応が要求される。そのため, 企業は労働者をフリーランサーとして雇用することで, 仕事の多寡やスケジュール変更に対応している。フリーランサーの仕事は所属する企業に依存する。また新規参入者の経歴は多様である。そのため彼らの多くは技術的に未熟な状態で参入し, 専門的な技術は現場での人的つながりによって獲得される。労働者がソウルにおいて仕事を継続する理由には, 産業自体への近接性のほか, 仕事仲間の存在や, ともに仕事をしたい労働者の存在が挙げられ, 労働者間のつながりを意識していることが指摘される。一方で, 欧米を主たる取引国とする企業では, 制作企業は多様な関連産業との問で取引をしている。また, 取引に際し, 企業の社会的信用を重視する。自社に対する信用は場所のネームバリューや生産量および資本の安定性によって評価されると考えている。そのため, 制作企業はCBD近隣にオフイスを構える傾向をみせる。これらの企業においてもまた, 多くの労働者はフリーランサーとして雇用される。彼らの就業後の技術習得機会については, 担当職種に応じて多様な機会を選択する。労働者の仕事の受注活動については所属企業外からの受注もみられる。彼らもまた, ソウルにおいて仕事を継続する理由として当該産業への近接性, 仕事獲得の窓口となる仕事仲間とのつながりを重視している。以上のように, 企業間取引および労働市場の特徴から, 韓国におけるアニメーション産業はソウルに集積している。
著者
葛西 大和
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.75-93, 1997-04-30
参考文献数
44

一国の経済地域の構造は経済の構成と発展の地域的投影であるから, この経済地域の構造に現われた特質を分析することによって, その国の経済現象の地域的展開と連関にみられる特異性を把握することができるはずである。本研究は, 外国貿易の展開を日本の近代の経済地域構造にみられる「求心的構造」の形成を解明するための重要な要因であると考えて1859年~1919年の開港場の設置経過と, 各貿易港における貿易額のシェアを統計的に分析した。<br>その結果, 幕末から維新期に条約によって開港場に指定された貿易港が, 1859年~1899年の40年間, 貿易を事実上独占していること, とくに横浜と神戸の占める割合が圧倒的であること, そして外国貿易の初期こそ開港指定の早い横浜が外国貿易をリードしたが, 国内における資本制生産の発展過程で, 明治20年代以降に神戸が, また30年代以降に大阪が貿易のシェアを大きく伸ばして, 関東沿岸と近畿沿岸の貿易港のシェアが拮抗するような貿易港の地域的パターンが産業革命期に確立していることが, 明らかとなった。
著者
葛西 大和
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.75-93, 1997

一国の経済地域の構造は経済の構成と発展の地域的投影であるから, この経済地域の構造に現われた特質を分析することによって, その国の経済現象の地域的展開と連関にみられる特異性を把握することができるはずである。本研究は, 外国貿易の展開を日本の近代の経済地域構造にみられる「求心的構造」の形成を解明するための重要な要因であると考えて1859年~1919年の開港場の設置経過と, 各貿易港における貿易額のシェアを統計的に分析した。<br>その結果, 幕末から維新期に条約によって開港場に指定された貿易港が, 1859年~1899年の40年間, 貿易を事実上独占していること, とくに横浜と神戸の占める割合が圧倒的であること, そして外国貿易の初期こそ開港指定の早い横浜が外国貿易をリードしたが, 国内における資本制生産の発展過程で, 明治20年代以降に神戸が, また30年代以降に大阪が貿易のシェアを大きく伸ばして, 関東沿岸と近畿沿岸の貿易港のシェアが拮抗するような貿易港の地域的パターンが産業革命期に確立していることが, 明らかとなった。
著者
田村 眞一
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.153-165, 2000-08-31
被引用文献数
1

岩手県釜石市唐丹町に, 享和元年 (1801年) の伊能忠敬による三陸沿岸測量を顕彰して, 文化11年 (1814年) に土地の篤学者葛西昌丕 (かさいまさひろ) によって建立された石碑がある。碑文の内容の最も重要な点は, 伊能の測量結果の北極出地に言及し, 西洋の説にいう「地球微動」が存在するか否かの検証を後世の人々に依頼していることである。唐丹町は, 旧仙台藩気仙郡の北端に位置するが, 当時としても最新の科学情報が, このような地域までどのように伝えられたかを考察する。伊能の測量がきっかけとなっているので, 伊能の測量時の日本における天文学事情に立脚して, このような概念に相当する天文現象を考察した結果, 候補として地球の「極運動」あるいは「章動」を推定した。
著者
千葉 昭彦
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.19-36, 1994-03-25 (Released:2010-04-30)
参考文献数
18
被引用文献数
4 2

本研究では経済活動としての開発行為の検討を通じて, 仙台都市圏での大規模宅地開発の展開過程の中でみられる諸特徴の変化の要因を明らかにすることを課題としている。そのために, 最初に不動産資本の運動に関するこれまでの研究を概観し, 開発行為の主要な担い手とみられる民間開発業者の行動原理を導きだした。次に, これに基づく民間開発業者の活動が, 地域においてみられる大規模宅地開発をめぐるいくつかの条件の下でどのように展開するのかを理論的に検討した。最後に, 以上のことに基づきながら, さらにその他の諸条件も考慮に加えて, 仙台都市圏での大規模宅地開発の展開過程を概観した。その結果, 仙台都市圏でみられる大規模宅地開発の特徴の変化は, 基本的には民間開発業者の活動によってもたらされたとの結論がえられた。
著者
曽根 敏雄
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.293-302, 1996-10-31 (Released:2010-04-30)
参考文献数
25
被引用文献数
1

永久凍土は, 普通年平均気温が0~-2℃以下の地域に分布するが, プラス数℃の地点でも点在的に存在することがある。北海道置戸町では, 1979年に道路工事の際に地下氷が発見された。著者はこの地点で, 1987年以降地温観測を行なってきた。地温が気温の季節変化に応じて地下10m深まで変動し, 永久凍土の下限は融解期に上昇し, 凍結期に下降した。1989年までは規模を縮小しつつも永久凍土は残存していたが, 1990年の秋には融解した。ここには風穴が存在し, 地中で熱の移流があり, 永久凍土の保存に有利になっていたと考えられた。
著者
石澤 孝
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.129-138, 2002-08-26
参考文献数
16

本研究は, 冬季オリンピックの開催にともなう長野市の都市化の現状を, 特に農地の公的転用という観点から検討したものである。その結果は以下のようにまとめられる。<br>第18回冬季オリンピックが, 1998年2月に長野市で開催された。国際オリンピック委員会が冬季オリンピックを長野市で開催することを決定したのは, 1991年のことである。それ以降長野市においては, 新幹線の開業や上信越自動車の建設などの高速交通網の整備が行われた。また, オリンピック施設やアクセス道路およびその付帯施設が建設されるなど, 都市的基盤の整備が進められた。これらの都市的基盤の建設用地の多くは, 農地の転用, 特に農用地区域における農地転用によって生み出された。その結果, 1989年約25,000haあった農業振興地域は1998年までに1%の減少にとどまったのに対し, 1989年に7,700haあった農用地区域は, 同期間に5%近い減少をみせている。このように急速な農用地区域の解除が行われたため, 今後は, 特に農用地区域の解除をともなう都市基盤の整備は難しくなると推察される。
著者
青山 高義
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.91-102, 1995
被引用文献数
1

後氷期に異なった植生変遷をたどったと考えられている。ヒノキアスナロとスギの寒冷環境に対する性質を, 現在の天然分布と気候環境を比較することによって検討した。東北地方において, ヒノキアスナロとスギは, 同じ地域に成育することもあるが, ヒノキアスナロは北上山地などのより乾燥した太平洋側に, スギは日本海側のより湿潤な地域に分布している。特にヒノキアスナロの高度限界は, このような水文環境に関連して, 乾燥側で上昇し, 匍匐形で森林限界を越えるという性質を持っている。すなわち, ヒノキアスナロは年水過剰量700mm, 冬3ヶ月の降水量200~300mmで, 暖かさの指数25℃・month の気候環境で成育することができる。<br>最終氷期の温度低下を7℃程度とすると, スギは東北地方が北限地域となって北海道では成育不可能であるが, ヒノキアスナロは降水量が減少した条件下で, 渡島半島で標高約200m, 東北地方で標高約500mまで成育可能で, レフユジアを形成し得たと考えられる。
著者
小田 隆史
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.12-27, 2010-03-15
被引用文献数
1

諸政策の新自由主義化にともなって,近年の米国都市社会においては,市民や民間企業等が,行政府や立法府と連携して都市社会を協治する「ガバナンス」という新秩序が創出されはじめ,この変化に関する隣接分野での研究が盛んになっている。こうした政策のパラダイムシフトが都市社会にもたらした変化の一端を捉え,新たな都市ガバナンスにおける行政と市民との連携のあり方を考える地理学的研究が求められる。その前提として,本稿は,米国カリフォルニア州サンフランシスコ市における歴史文化資源の保存に関係する法制度及び政策に関与する主体の変化に着目し,新旧制度の変化を整理,提示した。また,サンフランシスコ日本町において市民らがコミュニティ存続を訴えた「日本町保存運動」を取り上げ,この運動によって,旧来の行政による一般的な許認可手続きに加え,文化的遺産を考慮して再開発の許認可を行う特殊な法令・規制が付加された点,及び都市政策に日本町のNPO関係者や商店主等が,より直接的に関与するようになり,都市再開発にかかる主体と制度が変化・多様化した点を明らかにした。