著者
近藤 尚己
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.398-403, 2018-11-30 (Released:2018-11-30)
参考文献数
12

健康格差とは,居住地・国・人種・ジェンダー・所得・学歴・職業・雇用形態など個人の持つ社会的な属性により,健康状態に差が存在することである.2008年,世界保健機関は健康格差対策に対して重要な推奨事項を提示した.すなわち「生活環境を改善すること」「幅広い連携とガバナンス体制の構築」「健康格差のモニタリングと施策の健康影響評価」である.しかし,この指針で十分触れられていないのが,これらの活動の達成のためにいかにして個人や組織の行動を変化させるか,という点である.健康づくりへの関心を保てない人でも無理なく健康的な選択をしてもらうにはどうしたらよいか.近年,人の認知と行動のクセ:認知バイアスへの理解を基にした行動科学的戦略の有効性が示唆されており,公衆衛生にも応用すべきである.多様な社会背景を持つ人々を類別化(セグメンテーション)し,それぞれの興味関心を理解してアプローチするマーケティングの工夫も必要である.医療現場で「せっかく治した患者を病気にしたもとの環境に戻さない」ための取り組みも芽生え始めている.「社会的処方social prescribing」は,外来や入院の場で患者の社会的リスクを“診断”し,地域の行政機関や民間活動との信頼ある連携により,それを“治療”するという考え方である.以上のように,健康格差対策には,頑張ることが難しい人に寄り添い,行動をそっと後押しするための,幅広い連携によるまちづくりが求められる.
著者
尼崎 光洋 森 和代 清水 安夫
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.3-14, 2011 (Released:2012-11-17)
参考文献数
53
被引用文献数
1

目的:本研究の目的は,性感染症の予防行動意図尺度(Preventive Behavioral Intention Scale for Sexually Transmitted Infections:PBIS)を開発することである.方法:調査対象者は,第1調査では,大学生335名(男性177名,女性158名)であり,第2調査では,大学生422名(男性136名,女性286名)であった.調査内容は,安全な性行動に関する事柄を測定するSexual Risks Scaleから,性感染症の予防に対する行動意図に関する7項目を用いた.また,性感染症の予防行動として,性交時のコンドームの使用行動について回答を求めた.分析方法は,確認的因子分析,ステップワイズ因子分析,多母集団同時分析,単回帰分析を用い,Cronbachのα係数及びΩ係数を算出した.結果:PBISは1因子5項目であることが確認され,信頼性(α=0.829,Ω=0.829)と構成概念妥当性(GFI=0.996,AGFI=0.985,CFI=1.000,RMSEA=0.012)が確認された.また,PBISは.男女間において,因子構造と因子負荷量,観測変数の誤差分散が変わらないことが示された.さらに,単回帰分析の結果,PBISは,コンドームの使用行動を説明することが可能であることが示された(R2=0.321).結論:本研究で開発したPBISは,性感染症の予防に対する行動意図を測定する尺度であることから,性交や性的接触などの性行動を経験した大学生だけでなく,性行動を経験していない大学生をも対象とした性感染症の予防教育の効果を評価する指標として用いることが可能な尺度であると示唆された.
著者
中山 和弘
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.76-87, 2014 (Released:2015-01-13)
参考文献数
29
被引用文献数
1

目的:2013年のInternational Union for Health Promotion and Education(IUHPE)の国際会議における,ヘルスリテラシーのセッションについて紹介する.結果:健康情報に基づいた適切な意思決定が困難な人々を支援するためのツールとして,ヘルスリテラシーの測定尺度が必要とされている.より包括的な新しい尺度が紹介され,それらはヘルスリテラシーの定義に個人だけでなく広く社会を含めた形で開発されていた.それは,ヘルスリテラシーが,ヘルスケアと多様化する現代社会のギャップを埋めるうえで重要だからである.とくにEuropean Health Literacy Survey (HLS-EU)に関連した報告では,ヘルスリテラシーに社会格差のあることが指摘され,健康格差の是正と公平のために,その測定と介入を進める必要があるとされた.ヘルスリテラシーは,読み書きなどのリテラシーと同様に,エンパワーメントの問題ととらえられていて,世界中で対象のヘルスリテラシーに合わせた様々なコミュニケーションの取り組みが始まっていることが確認できた.結論:ヘルスリテラシーは,ヘルスプロモーションにおける1つのコア概念であり,これまでの多くの関連概念に公平という概念を加えた“アンブレラターム(様々な概念を傘の下に入れた言葉)”でもあるという見解が示された.それはまた,測定して変えられる健康の社会的決定要因の一つでもであると捉えられた.
著者
森 美奈子 上村 浩 竹林 正樹
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.146-153, 2022-05-31 (Released:2022-06-10)
参考文献数
25

目的:ナッジが設計された社員食堂での健康メニュー選択促進の実践と利用者の状況等の報告を目的とした.活動内容:特定非営利活動法人TABLE FOR TWO Internationalと契約した社員食堂では,ナッジのEASTフレームワークに則って健康メニュー選択を促進している.Easyナッジとして,手に取りやすい場所に健康メニューを配置し,健康メニューを選ぶと20円が自動的に寄付できる仕組みとした.Attractiveナッジとして,手書きポップで健康メニューを強調し,支援を受けた子どもの笑顔の写真を掲示した.Socialナッジとして,開発途上国の学校給食への寄付数を,Timelyナッジとして,今すぐに援助を要する子どもがいることを掲示した.活動評価:参加群(当該社員食堂利用者)100名に質問紙調査を,未参加群(当該社員食堂を利用したことのない労働者)70名にウェブ調査を実施した.参加群(解析対象者47名)は,未参加群(同70名)より社会貢献活動と健康メニューの両方に興味がある者が多く,ボランティア活動の参加経験率も高かった(いずれもP<0.001).参加群の利用期間は平均29.3か月,今後も継続利用したい者が71.0%だった.これらのナッジは,既存のナッジの弱点である「短期的効果」を克服できる可能性が示唆された.今後の課題:本実践では各群で調査法が異なったこと等の限界があるため,今後は同一企業の社員を対象に条件を揃えて検証する必要がある.
著者
阿部 修士
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.404-410, 2018-11-30 (Released:2018-11-30)
参考文献数
19

人間にとって,生きるということは意思決定の連続に他ならない.食事のメニューや着る洋服を決めるといった日常的なことから,進学先の選択や配偶者の決定といった人生における重大事まで,意思決定は途切れることなく続く.こうした意思決定は,論理的思考や合理的判断に基づいて行っていると,我々は考えがちである.ところが,実際にはわたしたち人間の意思決定は,意識の外で自動的・無意識的に起こるこころのはたらきにも大きく依存している.すなわち,わたしたち人間はいくら理性的に意思決定をしようとも,容易には抗えないバイアスの影響を受けている.本稿では,主に人間を対象とした心理学や神経科学から得られた知見に基づき,意思決定の基礎的なメカニズムとその背後に潜むバイアスについて,具体例を交えながら概観した.さらに,こうした知見に基づき,どのようなストラテジーを用いることで,より良い意思決定を実現できるかを,特に健康教育の視点から考察した.
著者
石倉 恭子 加藤 美生 甲斐 裕子 山口 大輔 吉葉 かおり 福田 吉治
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.254-265, 2021-08-31 (Released:2021-09-03)
参考文献数
43

目的:小型通信機器搭載アプリ等にて,身体活動を促進する一連のしかけ(ツール)に使用されたナッジを明らかにした.方法:「physical exercise」等と「app」等を検索語として,データベース検索(Scopus, Pubmed, Web of Science, CiNii)により2014~2019年に発行された論文を抽出した.論文で扱われた身体活動を促進する無作為化比較介入試験(RCT)を抽出したのち,ツール毎にナッジチェックリストMINDSPACEの9要素(“Messenger”“Incentives”“Norms”“Defaults”“Salience”“Priming”“Affects”“Commitments”“Ego”)の有無を分類した.国内実装事例を全国紙新聞記事から抽出し同様に分類した.結果:抽出されたRCTは32本であり,全て海外で実施されていた.使用されたツールは32 件で,MINDSPACE要素は平均4.2(範囲0–9)個であった.多用された要素は“Priming”(n=30, 93.8%),“Ego”(n=26, 81.3%),“Norms”(n=17, 53.1%),“Commitments”(n=15, 46.9%)であった.国内実装事例で使用されたツールは36件で,要素は平均1.4(範囲0–9)個であり,“Incentives”(n=31, 86.1%)が最も使用されていた.結論:有効なツールに使用された“Priming”や“Ego”,“Norms”,“Commitments”は,国内実装事例では殆ど使用されていなかった.今後,身体活動促進を意図しツールを開発する際は,これらを考慮することが望まれる.
著者
佐見 由紀子 植田 誠治
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.269-279, 2017-11-30 (Released:2017-11-30)
参考文献数
14

目的:中学校で取り上げる市販薬の使用における副作用の「罹患性」の自覚を高める教材を用いた保健の授業を行い,その効果を検討することを目的とした.
著者
吉村 喜代美 赤松 利恵 吉村 悦郎
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.271-281, 2019

<p>目的:高齢男性が講師役を務める同性代の男性を対象とした料理教室を開催した.本稿ではその教室の内容を報告するとともに,受講生の本料理教室に対する評価と,講師役の意識変化を検討した結果を報告する.</p><p>活動内容:2017年1月,H市社会福祉会館にて活動している男性料理倶楽部会員8名(平均年齢72.0歳)が講師役となる料理教室を開催し,男性16名(平均年齢68.1歳)が受講した.受講生に対しては質問紙調査,講師役に対しては質問紙調査および料理教室開催前後のグループインタビュー調査を行った.さらに会食時における双方の自由発言を記録し分析した.</p><p>結果:受講生参加動機では,「今後必要だと思ったから」と「男性による料理教室に興味があったから」が参加者総数16名の内の80%を超えていた.教室の内容や男性講師については90%近くが高評価であり,教室が再開催した場合の参加希望は100%であった.受講生から男性講師役に対しては「同性ならではの共感」,「同じレベルゆえのメリット」などのカテゴリが抽出され,講師役からは「自覚の芽生え」,さらに双方から「今後への意欲」が見られた.</p><p>結論:高齢男性が講師役となって実施した料理教室は,受講生,講師役双方の調理への関心を増加させることが示唆された.また,再開催の要請もあり,今後も継続し発展していく可能性も示唆された.</p>
著者
澤田 亨
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.101-106, 2020-05-31 (Released:2020-07-09)
参考文献数
10

これまでにオリンピアンの健康について調査した欧米の研究は,オリンピアンは一般人と比較して糖尿病,高血圧,虚血性心疾患といった非感染性疾患の罹患率が低く寿命が長い傾向にあることを報告している.日本においても1964年東京オリンピック出場選手が追跡調査され,「東京オリンピック記念体力測定の総括」として追跡データの解析が進められている.また,オリンピアン以外を対象に調査した研究は,オリンピアンに限らず,青年時代にスポーツを経験した人は成人後の非感染性疾患の罹患率が低く,寿命が長い可能性があることが報告されている.2020年東京オリンピック・パラリンピックを契機に今まで以上に多くの青年がスポーツを定期的に楽しむようになり,世界の人々の健康度がさらに向上することが期待される.
著者
島内 憲夫
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.40-46, 2018-02-28 (Released:2018-02-28)
参考文献数
19

目的:WHOのヘルスプロモーション(HP)に関するオタワ憲章は世界の保健医療関係者にとってのバイブルであり,理念である.本報告は,1.HPの基本理念,2.HPを支える理論,3.HP推進の立役者,4.日本でのHPの登場・展開,5.国際的なHPの動向,6.今後のHP戦略について論じた.内容:ヘルスプロモーションとは,人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし,改善することができるようにするプロセスである(オタワ憲章:1986年,バンコク憲章:2005年).HPの立役者は,Kickbusch IとNutbeam Dの二人である.HP活動は,人々の健康課題を共有し,解決し,共に推進することに焦点を置いている.その理由は,「共に生み出すものだ」と考えているからである.21世紀を生きる我々は,未来をコントロールし,人生をあらゆる面において豊かなものとすることが求められている.それゆえ,我々人間は自分の能力を全面的に発揮し,人生を楽しみながら,世界のすべての人々と共にヘルスプロモーション活動を実践しなければならない.結論:そのためには,HPと協働できる健康と幸福を目指した新しい健康教育理論の構築に向かっての努力が必要である.
著者
山下 留理子 荒木田 美香子
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.39-49, 2014 (Released:2015-01-13)
参考文献数
25
被引用文献数
2

目的:特定保健指導における保健指導の技術の経験,自信,修得意思について,保健師と管理栄養士で相違を明らかにし,両職種の技術の向上につながる研修への示唆を得ることである.方法:全国の自治体及び保健指導実施機関で保健指導に従事する保健師,管理栄養士(1,758人)を対象に横断調査を実施した.49項目の保健指導の技術の経験,自信,修得意思の程度と研修の参加状況等について,郵送による無記名自記式質問紙調査で尋ねた.有効回答率は40.8%で保健師503人,管理栄養士215人を分析対象とした.技術項目ごとにMann-WhitneyのU検定,χ2 検定,t検定を用いて,職種間で比較検討をした.結果:管理栄養士の方が「経験が少ない」と回答した割合が高かったものは,49項目のうち20項目あった.「健診・保健指導事業の企画・立案・評価技術」の領域で,すべての技術において経験が少なかった.保健師の方が「自信なし」と回答した割合が高かったのは,「栄養学および食事摂取基準,関連学会ガイドラインの食事療法を理解して活用する」等16項目であった.また,保健師の方が「経験は多いが自信なし」と回答した割合が高かった技術は19項目あった(p<0.05).結論:保健師と管理栄養士の保健指導の技術において,経験,自信,修得意思に職種間の相違がみられた.また,保健師の方が経験は多いが自信がないと回答した技術項目が多かった.
著者
村山 伸子 米山 けい子
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.21-38, 2017 (Released:2017-02-28)
参考文献数
25

目的:「フードバンクこども支援プロジェクト」の目的は,子どもがいる生活困窮世帯に対して夏休みに集中した食料支援を行うことにより,夏休み期間の欠食の防止や食費,光熱水費の増加による家計への負担を軽減することである.また,食料支援をとおして,生活困窮者の生活上のニーズを把握することである.事業/活動内容:このプロジェクトは,2015年8月にフードバンク山梨が食のセーフティネット事業として実施した.自治体や学校からの紹介を含め食料支援を希望した127世帯に,米や菓子等を約 11 kg箱詰めにして,毎週1回計5回配送した.プロジェクトの評価は,新しく支援をすることになった104世帯を対象に,質問票を配布した.事業/活動評価:61世帯から回答を得た.プロジェクト前後で,子どもの摂取頻度が増加した項目は,3食食べる,ご飯,めん,肉や魚(生鮮・加工品),卵,野菜,牛乳・乳製品で,減少したのは外食であった.食費は,米・パン・めんの支出が有意に減少した.生活上のニーズとして,食事・栄養,経済,健康・医療等があげられ,就学援助金(給食費・医療費)等の公的支援の認知度が低いことも課題として把握された.今後の課題:夏休み期間の食料支援は,子どもの食事や家計に有益であること,NPOが学校や行政と連携することにより,必要な人に支援がつながることが示唆され,活動のスケールアップが課題である.
著者
神馬 征峰
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.245-252, 2013 (Released:2014-09-05)
参考文献数
20

背景:1994年以降ポピュレーション・ヘルスの波が高まるにつれ,とりわけカナダではヘルスプロモーションが下火となり,ヘルスプロモーションの価値見直しの検討がなされてきた.注目すべき事項として,本稿では3つの課題をとりあげる.第1に「ヘルスのプロモーション」と「ヘルスプロモーション」の違い,第2にヘルスプロモーションにとって望ましいエビデンス,第3にヘルスプロモーションの発展過程についてである.内容:第1に,「ヘルスのプロモーション」とは,健康を増進しようと思っている人すべてにあてはまる共通な言説である.一方「ヘルスプロモーション」は「健康に影響を及ぼすライフスタイルや生活状態を計画的に変容させていく」ための専門分野ととらえるべきである.第2にエビデンスに関しては,プロミスィング・プラクティス(有望実践例)がより適切であるとの動きがある.有望実践例とは,「ベスト・プラクティスと称するほどには十分(科学的に)評価されていないかもしれないけれども,輝きに満ち(illuminating)かつ心をゆさぶる(inspiring)実践例」である.最後に,ヘルスプロモーションの発展プロセスとして,ツリー型(樹木型)に対して,ヘルスプロモーション活動があちこちから生じるリゾーム型(地下茎型)の発展がみられている.結論:公衆衛生分野においてヘルスプロモーションの定義をより専門的なものと捉え,有望実践例が,リゾーム型に発展していくプロセスに今後注目すべきである.
著者
赤松 利恵 永橋 久文
出版者
JAPANESE SOCIETY OF HEALTH EDUCATION AND PROMOTION
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.31-40, 2008
被引用文献数
3

目的: 行動変容段階モデルを用いて, 小学校における食に関する指導を行い, 介入のプロセス評価および影響評価から, モデルの利用可能性について検討する.<BR>方法: 都内の公立小学校1校において, 2005年6月から2006年12月にかけて食に関する指導を実施した.全教職員が指導にあたり, 関連する授業の他, 給食時間などを利用し, 家庭地域との連携も積極的に行なった.子どもたちを対象としたアンケートから「よく残す食べ物」の変化, またセルフモニタリングシートを続けた子どもから「給食を残さず食べる」行動の変化を影響評価として検討した.さらに, プロセス評価として, 保護者を対象としたアンケートから家庭への普及の程度を, また, 教員が作成した研究紀要から行動変容段階モデルの利用可能性を検討した.<BR>結果: 2005年6月と2006年5月の2回のアンケートに回答した子ども (197人) を対象に, 「よく残す食べ物」について検討した結果, 13個中10個の食べ物で「よく残す」と回答した子どもが減った.特に, 小魚, 果物は統計的有意に減少していた (p<0.05) .キノコを題材として指導を進めた3年生では, キノコを「よく残す食べ物」と回答する子どもが減っていった.また, 給食カードを続けた1年生の目標達成率は, 開始時に比べ半年後で高くなっていた.家庭への普及の程度は保護者を対象としたアンケートの結果からは, 充分普及されたとは言えなかったが, 熱心な家庭を中心に「食育プロジェクト」と呼ばれる自主的な活動が始まった.行動変容段階モデルを使った教員からは, 『行動変容段階モデルに沿って学習計画を立案することにより, 毎時の学習の位置づけと目標を明確にもって授業を進めることができるようになってきた』という意見があがった.<BR>考察: 本研究は, 実践的な研究であったことから, 研究デザインや評価方法など, 研究としての限界はあるが, 行動変容段階モデルの利用可能性を示したと考える.
著者
石橋 千佳 堀口 逸子 丸井 英二 稲田 英一
出版者
JAPANESE SOCIETY OF HEALTH EDUCATION AND PROMOTION
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.283-293, 2013

目的:特に性差に焦点をあてて喫煙者のリスク認知構造の特徴を明らかにすること.<br>方法:Web調査により20~50歳代で各世代均等に無作為に2,000人の回収を依頼し,横断研究を実施した.調査期間は2009年3月の5日間である.質問内容は年齢,性別,喫煙の有無,リスク14項目について被害の重大性(11件法),リスク10項目についての本人の主観的な生起確率(4件法)である.リスク14項目について因子分析し,因子得点を算出しMann-Whiteny検定を行った.<br>結果:回答者は1,308人(喫煙者334人,非喫煙者974人)であった.喫煙者についてリスク14項目を因子分析した結果,2つの因子が抽出された.第1因子として因子負荷量の高い項目は順に,SARS,BSE,鳥インフルエンザ,HIV/AIDS,結核,肝炎,放射能であった.第2因子は,電磁波,大気中の発がん性物質,遺伝子組換え食品,食品添加物,魚介類に含まれる水銀,受動喫煙,残留農薬であった.男女の喫煙者で因子得点の平均値を分析した結果,第2因子に有意差がみられた.また喫煙者を男女別に因子分析したところ,男性喫煙者は3つの因子,女性喫煙者は2つの因子が抽出された.<br>結論:喫煙者において,男女間でリスク認知に差異が認められ,かつリスク認知構造が異なっていた.
著者
伊藤 由紀 篠田 邦彦
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.99-108, 2015 (Released:2015-06-05)
参考文献数
18

目的:肥満傾向児と痩身傾向児の生活習慣を発達段階別に比較し,両者の共通点と相違点を特定することを目的とした.方法:平成25年度の新潟県内の小学校3年生から高校3年生男女を対象として実施した「生活実態調査」の結果を研究利用の許可を得たのち分析した.研究デザインは質問紙を用いた横断的研究である.有効回答者は7,395名であった.児童生徒の肥満度より「痩身傾向児」「標準児」「肥満傾向児」の3群に分類し,食事習慣,運動習慣,睡眠習慣,その他の習慣について比較検討を行った.結果:運動習慣について,男子の「週3日以上運動する」者の割合は,小学生では痩身傾向児(n=50, 58.8%)が肥満傾向児(n=147, 42.6%)よりも高かった(p=0.01).一方,高校生では肥満傾向児(n=89, 37.1%)が痩身傾向児(n=12, 25.0%)よりも高い傾向がみられた(p=0.001).他にも望ましい習慣と思われる「朝食を毎日食べる」「食事の際よく噛んで食べる」「家族(大人)と食べる」「TV視聴時間が2時間未満」の者の割合は,小中学生では男女ともに痩身傾向児に高い傾向であった.一方,高校生女子では標準児に高い傾向であった.結論:食習慣はすべての学校段階で痩身傾向児に望ましい習慣が形成されている傾向が示された.運動習慣,睡眠習慣については,肥満傾向児と痩身傾向児に望ましくない類似した傾向が認められた.また肥満度により同じ体型に判定されていても発達段階によってその実態は異なっていた.
著者
岡 浩一朗
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.69-70, 2015 (Released:2015-06-05)
参考文献数
10