著者
神田 未和 藤田 則子 松本 安代 堀口 逸子 木村 正
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.173-183, 2019-05-31 (Released:2019-05-31)
参考文献数
15

目的:カンボジアにおける子宮頸がん対策整備を目指した「カンボジア女性工場労働者のための子宮頸がんを入口とした女性のヘルスケア向上プロジェクト」における健康教育活動の実践報告をすること.事業/活動内容:カンボジア産婦人科学会(Cambodian Society of Gynecology and Obstetrics: SCGO)は,日本産婦人科学会(Japan Society of Obstetrics and Gynecology: JSOG),国立国際医療研究センター(National Center for Global Health and Medicine: NCGM)と共に,包括的な子宮頸がん対策事業を実施した(2015年10月-2018年9月).健康教育活動として,「女性工員の子宮頸がんに関する意識調査」を行い,子宮頸がん検診普及のための健康教育教材を開発し,カンボジア人の医師・助産師で編成された健康教育チームによって工場の状況に合わせた健康教育プログラムを開発・実施した.その結果,工場での子宮頸がん検診実施につながった.事業/活動評価:関連資料のレビューに加え,健康教育受講者13人と実施者8人に対しインタビューを行った.その結果,健康教育活動を通じて工場関係者の意識の変化や実施した学会関係者にとっては新しい気づきがあることが示された.また,女性工員たちが自らの健康や基本的な衛生・生理について知らなかったことも示された.課題:工員の識字率が高くないこと,時間的制約があり質疑応答やフィードバックの時間が充分に確保できないことから,女性たちが自らの健康について理解を深めるためには,健康教育内容と実施体制をさらに改善する必要がある.
著者
山根 承子
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.68-72, 2022-02-28 (Released:2022-04-16)
参考文献数
8

近年政府や自治体・企業の取り組みとして注目を集める「ナッジ」だが,誤解も多く,危険な使われ方も散見される.本稿ではナッジの根本に存在する経済学の考え方を改めて示し,主に倫理的な問題点を整理することで,よりよいナッジの普及に貢献しようとするものである.本稿では,インフォームド・コンセントの倫理的な重要性と,同意のあるデフォルトナッジの効果が大きいことから,「本人が知らぬ間に行動変容させる」ようなナッジは慎むべきであると主張する.また,サンスティーンらの著書で「慎重型ナッジ支持国」に分類されている日本でナッジを行うことに対する注意を喚起する.最後に,昨今のパーソナライズドナッジの流れを汲み,健康行動に関わるいくつかの研究を紹介する.パーソナライズドナッジは一律に与えるナッジよりも効果的であるという研究が多いが,パーソナライズするということは距離の近い介入を行うということであり,より倫理的な観点が必要になるだろう.
著者
上野 真理恵 三宅 公洋 島田 英昭 髙見澤 裕美 友川 幸
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.125-134, 2022-05-31 (Released:2022-06-10)
参考文献数
17

目的:幼稚園児の年齢(学年)ごとの手洗いの能力を明らかにし,効果的な手洗い指導の在り方について示唆を得ることを目的とした.方法:2020年12月に,N県内のA大学附属幼稚園において,園児を対象に分析的観察研究(横断研究デザイン)を実施した.調査項目は,手洗いの方法,手洗い時間,すすぎ時間,洗い残し部位とし,学年間の差異を検討した.結果:保護者の同意が得られた園児77名(88.5%)のデータを分析した.手洗いの方法は,年少児が年長児に比べて有意に得点が低かった.石鹸を使用した園児の割合は,年少児と年中児で60%未満であった.適切な手洗い時間を満たした園児の割合は,年少児で最も低く,年中児と年長児に比べて有意に手洗い時間が短かった.適切なすすぎ時間を満たした園児の割合は,すべての学年で30%未満であり,学年間の有意差はみられなかった.洗い忘れ・洗い残しがあった部位は,年少児では,手の平以外の部位,年中児と年長児では,指先,親指,手首(年中児は指の間)であった.結論:今後の手洗い指導では,年少児には,石鹸の使用や手全体を洗う等の適切な手洗いの方法,年中児と年長児には,石鹸の使用に加え,洗い忘れ・洗い残しがあった部位,すべての学年で,手のすすぎ方や拭き方に関して指導していく必要がある.さらに,年少児や年中児が使用しやすい箇所への石鹸の配置,手洗い場への踏み台の設置等,手洗いの環境の工夫が必要である.
著者
新保 みさ 福岡 景奈 赤松 利恵
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.12-20, 2017 (Released:2017-02-28)
参考文献数
15
被引用文献数
3

目的:小学校の学級担任を対象に,学級担任が給食指導で参考にしていることを調べ,栄養教諭・学校栄養職員と相談している者の特徴を検討することを目的とした.方法:2014年7月,埼玉県A市の教育委員会を通して,市立小学校全32校の学級担任569名に横断的な質問紙調査を行った.調査項目は,給食指導を行う上で参考にしていること,給食指導で行っている取り組み,給食の喫食時間,学級全体の残菜量,属性であった.結果:解析対象者は456名で,男性143名(31.4%),平均教員経験年数(標準偏差)13.5(12.5)年だった.給食指導を行う上で参考にしていることのうち,選択した者が多かった上位3つの選択肢は「自分自身が家庭で受けた教育」(272名,59.6%),「自分自身が小学校のときに受けた給食指導」(208名,45.6%),「栄養教諭・学校栄養職員と相談」(172名,37.7%)だった.「栄養教諭・学校栄養職員と相談」を選択した者はしなかった者と比較して,女性,給食に関する校務分掌経験がある者,給食が自校式の者が多く,給食指導での取り組み個数が多かった.結論:学級担任は,自分自身が家庭や小学校で受けた教育を参考に給食指導をしている者が多かった.栄養教諭・学校栄養職員と相談している者は4割程度で,給食に関する校務分掌経験がある者や給食が自校式の者などの栄養教諭・学校栄養職員と関わる機会のある者が多かった.
著者
小澤 啓子 鈴木 亜紀子 髙泉 佳苗 岩部 万衣子 松木 宏美 赤松 利恵 岸田 恵津
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.205-216, 2016 (Released:2016-11-30)
参考文献数
29
被引用文献数
2

目的:夜遅い食事と肥満との関連を把握すること.方法:PubMedおよびCINAHLデータベースを用いて,検索式には「食事」,「夜・時間」,「食行動」,「肥満・MetS」を示すキーワードを組み合わせ,2005年以降10年間に英語で報告された論文を検索した.596件の表題と抄録を精査し,本研究の採択基準(①原著,資料や短報など,②健常な幼児以上のヒト,③「夜遅い食事」か「夜食」を含む,④「肥満」か「MetS」を含む,⑤基礎研究でない)を満たさない535件を除外した.さらに本文を精読し,最終的に11件の論文を採択した.結果:採択論文は,縦断研究が2件,横断研究が7件,介入研究が2件であった.研究対象者は,成人のみ対象が10件,成人と子ども対象が1件であった.5件で夜遅い食事(夜食含む)を摂取する者は,肥満(body mass index: BMI 30 kg/m2以上)の割合が高い,BMI値が高い,もしくは体重増加量が有意に多い結果であった.その一方,残り6件のうち5件は,夜遅い食事(夜食含む)と肥満(体脂肪率などの体組成を含む)との関連はなく,他の1件は,夜遅い食事を摂取する者は,摂取しない者よりもMetSのリスクが有意に低かった.結論:夜遅い食事と肥満との間に正の関連,負の関連を示すもの,関連を示さないものが混在しており,一貫した結果がみられなかった.その理由として,交絡因子としてエネルギー摂取量調整の有無が関わっている可能性がある.

15 0 0 0 OA 座位行動の科学

著者
岡 浩一朗 杉山 岳巳 井上 茂 柴田 愛 石井 香織 OWEN Neville
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.142-153, 2013 (Released:2014-06-11)
参考文献数
62
被引用文献数
6

背景:現代社会では,移動や職場,自宅などの様々な生活場面において長時間の座位行動が蔓延している.日常生活における座位時間の多寡が,心血管代謝性疾患のバイオマーカーや2型糖尿病,ある種のがん,早世のような健康アウトカムと関連があるという証拠が急速に蓄積されつつある.重要なのは,これらの関連が身体活動に費やす時間の影響を調整した後でも認められることである.本稿では,成人を対象にした座位行動研究に関する今後の方向性を明らかにするため,近年の研究動向を行動疫学の枠組みを応用することによって概観した.内容:このレビューには,座位行動(座り過ぎ)と健康リスク指標との関連についてのエビデンス,自己報告および機器を用いた座位行動の測度,鍵となる座位行動の分布およびトレンド,座位行動のエコロジカルモデルおよび環境的関連要因,座位時間を減らすための介入の有効性,座位時間を減らすことや中断することに関する公衆衛生勧告の概要を含めた.結論:今後行うべき座位行動研究として,座位時間が健康アウトカムに及ぼす影響を明確に理解するための機器を活用した測度による地域住民を対象にした前向き研究,様々な行動場面における長時間にわたる座位行動の多水準の決定要因を解明するための前向き研究,自宅や職場,移動環境における座位行動を減少および中断させる更なる介入研究,日常生活において座位時間を減らすことに関するメッセージを広めるためのトランスレーショナルリサーチ(マスメディアキャンペーンなど),発症機序および量反応関係を解明するための実験研究などが挙げられる.
著者
奥原 剛
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.163-171, 2022-05-31 (Released:2022-06-10)
参考文献数
25

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が始まってからの2年間で筆者が抱いてきた問題意識を,理論的枠組みと関連研究を添えて本稿で提起する.筆者の問題意識の中核は,「知識偏重のコミュニケーションの限界」である.専門家の「知の呪縛」を解き,対象者のリアクタンス(抵抗)を誘発する「メッセージ疲労」を回避するために,コミュニケーション方略を拡張する必要がある.「教えるだけのコミュニケーション」から脱却し,「感じさせるコミュケーション」へ転換するために,健康行動の「感情的決定因子」や人の「根源的欲求」に訴える等の方略を提案する.COVID-19で得た教訓を,今後の行動変容のコミュニケーションの研究と実践に活かすために,本稿が役立てば幸いである.
著者
原田 和弘 田島 敬之 小熊 祐子 澤田 亨
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.103-114, 2022-05-31 (Released:2022-06-10)
参考文献数
35

目的:本研究では,ヘルスリテラシーがアクティブガイドの認知と関連しているかどうかと,ヘルスリテラシーの程度によって,アクティブガイドの認知と身体活動との関連性が異なるかどうかを検証した.方法:この横断研究では,社会調査会社の全国の調査モニター7,000名にインターネットによる質問紙調査を行い,アクティブガイドの認知,身体活動(中強度以上の身体活動量,身体活動レベル),ヘルスリテラシー,および基本属性の関連性を評価した.結果:アクティブガイドの認知を従属変数としたロジスティック回帰分析の結果,ヘルスリテラシー得点が有意に正の関連をしていた.身体活動の両指標を従属変数とした重回帰分析とロジスティック回帰分析の結果,アクティブガイドの認知とヘルスリテラシーとの交互作用項が有意に負の関連をしていた.ヘルスリテラシーの程度で層化した分析を行った結果,ヘルスリテラシー低群でもヘルスリテラシー高群でも,アクティブガイドの認知は身体活動の両指標と有意に正の関連をしていた.ただし,偏回帰係数やオッズ比は,ヘルスリテラシー高群よりもヘルスリテラシー低群のほうが大きかった.結論:本研究により,ヘルスリテラシーが高い人々のほうがアクティブガイドを認知している傾向にあること,および,ヘルスリテラシーが低い人々においてアクティブガイドの認知と身体活動との正の関連性が顕著な傾向にあることが明らかとなった.
著者
湯川 慶子 石川 ひろの 山崎 喜比古 津谷 喜一郎 木内 貴弘
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.16-26, 2015 (Released:2015-02-27)
参考文献数
32

目的:慢性疾患患者の代替医療による副作用への対処行動や主治医とのコミュニケーションとへルスリテラシーとの関連を明らかにすることを目的とした.方法:2011年5月から7月に,全国の患者会の慢性疾患患者920名に自記式質問紙を用いた横断研究を行った.603通を回収し欠損が多いものを除いた570通のうち(有効回収率62.0%),代替医療の利用経験を持つ428名を対象とした.副作用経験の有無(副作用の経験あり群・経験なし群),副作用時の対処(利用中止群・利用継続群),主治医への副作用の症状と療法の報告(主治医への報告あり群・報告なし群)別のへルスリテラシーについて対応のないt検定を行った.さらに,属性とヘルスリテラシーを説明変数,利用中止,主治医への報告ありを目的変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った.結果:428名中88名(20.6%)が副作用を経験していた.そのうち45.9%が利用を継続し,61.6%は主治医に副作用の症状と療法を報告していなかった.利用中止群が利用継続群よりも,報告あり群が報告なし群よりもヘルスリテラシーが高かった.多変量解析でも,ヘルスリテラシーと利用中止か継続かとの関連(OR=2.75,95%CI 1.06-7.10),主治医への報告の有無との関連(OR=2.59,95%CI 1.01-6.65)が認められた.結論:へルスリテラシーは,代替医療による副作用への適切な対処,主治医への報告など,代替医療の安全な利用に重要である.
著者
小島 唯 福岡 景奈 赤松 利恵
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.216-224, 2014 (Released:2015-01-13)
参考文献数
17

目的:学校栄養士における,「赤黄緑の3色食品群」を用いた食品分類について,学校栄養士が普段用いている分類と栄養士自身が正しいと考える分類の相違点を特定し,さらに各群に含まれる栄養素の認識の相違点を知ることを目的とした.方法:2012年5~10月,東京都および愛知県の学校栄養士442人を対象に,無記名自記式横断的質問紙調査を実施した.調査内容は,属性の他,赤黄緑の3色食品群を用いた食品の分類,赤黄緑各群の定義,栄養素の赤黄緑3群への分類をたずねた.食品の分類では,21の食品について普段学校給食等で用いる分類と,栄養士自身が正しいと考える分類を,赤黄緑の3群からそれぞれ選択させた.また,両者の回答の一致率を算出した.結果:237人から回答を得た(有効回答率53.6%).栄養士が普段用いている分類と,自身が正しいと考える分類との回答の一致率(%)が高かった食品は,大豆99.5%,きのこ類99.0%,緑豆もやし98.0%であり,一致率が低かった食品は,こんにゃく57.5%,わかめ67.7%,こんぶ69.1%であった.例えばこんにゃくでは,普段用いている分類と,正しいと考える分類の回答が赤群で一致した者(一致率(%))2人(1.0%),黄群で一致した者27人(14.0%),緑群で一致した者82人(42.5%)であり,栄養士間でも回答に違いがみられた.結論:赤黄緑の3色食品群は,栄養士が普段用いる分類と正しいと考える分類に相違がみられ,また栄養士によっても分類の認識が異なる食品があった.赤黄緑の3色食品群には分類の根拠となる,量的指標が求められる.
著者
柴沼 晃
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.50-55, 2015 (Released:2015-02-27)
参考文献数
21

背景:平均的な健康水準が改善しているにも関わらず,人々の間には依然として健康格差が存在する.健康格差をもたらす要因には,政策や制度により解消しうるものとしえないものがある.「健康の社会的決定要因」は,人々の健康が,政治や社会,経済的に「本来であれば解消しうる要因」によって強く影響を受けるとの捉え方をする.本稿では,健康の社会的決定要因のうち,政治に関連する要因に着目した「健康の政治的決定要因」について紹介する.内容:健康の政治的決定要因の定義は論者により異なる.多くの論者は,政府やその他のプレイヤーの能力や政治的意思の欠如,利害対立に着目し,それが健康格差を解消できない原因の一端であるとしている.健康の政治的決定要因に関する研究には,国際保健におけるプレイヤー間の力学やガバナンスに着目した議論もあれば,各国における政治体制の違いや政策の優劣に関する議論もある.前者の例として,国際保健における新たなプレイヤーの参画と健康格差解消への役割に関する研究がある.後者には,政治体制の移行と健康格差に関する研究がある.結論:健康の政治的決定要因は,経験的には知られている一方,学術的には比較的新しい概念である.異なる視点をもつ研究者が研究を蓄積し,相互に批判を行うことで,健康と政治との関連について明らかにされていくことが期待される.
著者
鈴木 圭輔 春山 康夫
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.14-20, 2023-02-28 (Released:2023-03-12)
参考文献数
27

近年,国内外では慢性疼痛および付随する原因不明の様々な症状は,中枢神経感作(以下,CS, central sensitization)に関する多くの研究が注目されている.CSとは身体から脊髄,脳幹部,視床,大脳(一次体性感覚野)に至る痛みの伝達経路の異常により,通常では痛くないはずの軽い刺激が疼痛として認識され,とても痛く感じたり,痛みが広がって感じたりする状態である.中枢神経感作に関連した痛みは,明るい光,触覚,騒音や温度(低・高い)に過敏性を示し,疲労,睡眠障害や集中力低下などを伴うことも少なくない.中枢神経感作には線維筋痛症,慢性疲労症候群,過敏性腸症候群,顎関節症のほか,レストレスレッグス症候群や頭痛などの疾患が関係している.一方,わが国においてはCSに関する知識はまだ普及されていないのは現状である.本稿では,1)慢性疼痛患者および神経疾患であるレストレスレッグス症候群や片頭痛とCSの関わりについて解説する.2)一般住民を対象にした疫学研究結果をもとにCSの保有率および影響因子を報告することを目的とする.
著者
竹林 正樹 小山 達也 千葉 綾乃 吉池 信男
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.240-247, 2022-08-31 (Released:2022-09-07)
参考文献数
20

目的:大学生を対象にした健康教育関連シンポジウムの案内チラシにおけるナッジ別の参加意欲の検証.方法:保健系大学生917人を無作為に3群に振り分け,健康教育関連シンポジウムの異なる3種類のチラシをメールで送信し,参加意欲を調査した.対照群のチラシは従来型のチラシをもとに詳細な情報を記載し,簡素化ナッジ群は文字数を73%削減した.EASTナッジ群はナッジの枠組みEAST(簡素化,印象的,社会的,タイムリー)に沿って,4コマ漫画や主催者の似顔絵等を記載した.結果:対照群70人,簡素化ナッジ群67人,EASTナッジ群71人(有効回答率29.1%)を解析対象とした.「参加したいが日程が合わない」「参加する」と回答した者は,対照群,簡素化ナッジ群,EASTナッジ群の順に,30.0%,40.3%,47.9%で,対照群よりEASTナッジ群が有意に高かった.チラシの感想では,対照群は「読みやすい」「すぐに読みたくなった」で他の2群より有意に低く,「不快に感じる」は簡素化ナッジ群より有意に高かった.結論:既存型のチラシは情報量の多さが参加意欲の阻害要因であり,「阻害要因の除去としての簡素化ナッジ」と「促進要因としてのタイムリーナッジ」を設計することで意欲が向上することが示唆された.本研究は実際の参加者数をアウトカムにしなかったこと等の限界があり,さらなる検証が求められる.
著者
宮脇 梨奈
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.156-162, 2022-05-31 (Released:2022-06-10)
参考文献数
24

COVID-19パンデミック下では,感染拡大と同時に,感染症に関するさまざまな情報が拡散されている.拡散される情報は,正しい情報ばかりでなく,誤情報や偽情報も氾濫し,この状況はインフォデミックと表現され,COVID-19だけでなく公衆衛生にさまざまな悪影響をもたらしている.インフォデミックは,広く普及した双方向性をもったインターネットと共有も容易であるソーシャルメディアによる影響が大きい.そのため,インターネットやソーシャルメディアのプラットフォームでの対応や,ソーシャルメディアの分析による現状把握と対応が進められている.それと同時に,情報を受け取る側が誤・偽情報を判断し,それらを共有しないことも重要であることから,デジタルヘルスリテラシーを向上させることも求められている.日本においても,COVID-19パンデミック下でインターネットやソーシャルメディアも主な情報源のひとつとなり,多くの者が誤情報や偽情報に接触していた.また,情報の真偽の判断ができない傾向や,拡散・共有経験も一定数みられる.今後は,インターネットやソーシャルメディアの情報やデジタルヘルスリテラシーの現状把握をし,それをCOVID-19の感染対策やワクチン接種,そして今後の公衆衛生上の課題解決につなげていくことが期待される.
著者
竹林 正樹 甲斐 裕子 江口 泰正 西村 司 山口 大輔 福田 洋
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.73-78, 2022-02-28 (Released:2022-04-16)
参考文献数
22

目的:第29回日本健康教育学会学術大会シンポジウム「わかっていてもなかなか実践しない相手をどう動かす? —身体活動促進へのナッジ—」における発表と討議の内容をまとめることで,今後の身体活動・運動促進支援に資することを目的とする.現状と課題:心理・社会的特性に沿った行動促進手法の1つに「ナッジ」がある.ナッジでの身体活動・運動促進に関する先行研究では,「プロンプティング(例:階段をピアノの鍵盤模様にし,利用時に音が鳴る)」に一定の効果がある可能性が示唆されている.しかし,日本では,ナッジによる身体活動・運動促進に関する先行研究が少なく,特に行動継続に関する見解が十分とは言えない状況にある.知見と実践事例:身体活動・運動促進には,ナッジの枠組みである「FEAST(Fun: 楽しく,Easy: 簡単に,Attractive: 印象的に,Social: 社会的に,Timely: タイムリーに)」とヘルスリテラシー向上を組み合わせた介入が効果的と考えられる.この実践例に,青森県立中央病院が実施する「メディコ・トリム」事業がある.この事業では「笑い」を取り入れた健康教室を行った後,参加者が生活習慣改善を継続した可能性が示唆された.さらなる研究・実践を蓄積していくことにより,継続性のある身体活動・運動促進に関する方略の確立が求められる.
著者
戸ヶ里 泰典 福田 吉治 助友 裕子 神馬 征峰
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.329-341, 2018-11-30 (Released:2018-11-30)
参考文献数
60

目的:健康教育学・ヘルスプロモーション領域において,介入プログラムを開発するうえで健康行動理論・モデルに基づくことが重要とされている.しかし数ある理論・モデルについて意図的にその整理を試みた報告は十分にない.そこで当該領域における理論・モデルを系統的,歴史的に整理することを本報告の目的とした.方法:健康教育・ヘルスプロモーション領域において,国内外6つの健康行動理論・モデルを扱っている定評のある文献を参考に,著者間での議論を通じて理論・モデルを抽出した.これらは,Glanzらの整理に沿って,個人,個人間,集団・マルチレベルの3つの枠組みで分類し,歴史的な変遷を図示化した.結果:個人の理論・モデルは期待価値理論を基礎とした連続性モデルと時間軸を含み行動へのプロセスをモデル化したステージモデルとに区分して分類した.個人間レベルの理論・モデルについては,社会的認知理論,ストレスと健康生成論,社会関係,健康・医療とコミュニケーションの4つの系譜に分けて整理を行った.集団・マルチレベルの理論についてはコミュニティエンゲージメント,問題解決型アプローチ,戦略立案型アプローチの3つの系譜に分けて整理した.結論:個人,個人間,集団・マルチレベルの3つの枠組みで主要行動理論・モデルについて整理し下位水準の分類まで明らかにした.また理論の系統的発展を体系的に記述することができた.本研究を通じて理論・モデル各々の特徴の理解をより深めることが可能となった.
著者
髙泉 佳苗 原田 和弘 中村 好男
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.63-73, 2017 (Released:2017-05-31)
参考文献数
20
被引用文献数
4

目的:食生活リテラシーと食情報源(利用回数,信用度)および食情報検索バリアとの関連を検討した.方法:社会調査会社の登録モニター(20~59歳)を対象に,ウェブ調査による横断研究を実施した.解析対象は1,252人(男性631人,女性621人)であった.食生活リテラシーと食情報源(利用回数,信用度)および食情報検索バリアとの関連は重回帰分析(強制投入法)を用いた.結果:食生活リテラシーと正の関連が認められた食情報源は,男性では「医療従事者・専門家」(利用回数:β=0.12,p<0.01),「友人・知人」(信用度:β=0.14,p=0.01),「インターネット」(信用度:β=0.23,p<0.01)であった.女性では「インターネット」(利用回数:β=0.17,p<0.01,信用度:β=0.19,p<0.01),「友人・知人」(信用度:β=0.13,p=0.01)であった.食生活リテラシーと関連が認められたバリアは,「自分で検索した食情報は難しすぎて理解できない」(男性:β=-0.23,p<0.01,女性:β=-0.25,p<0.01),女性では「食情報を検索していると欲求不満や苛立ちを感じる」(β=-0.11,p=0.01)であった.結論:食生活リテラシーが低くなるほど,特定の食情報検索バリアが高くなる可能性が示された.食生活リテラシーに影響を与えている可能性がある食情報源は,男性女性ともに「友人・知人」,「インターネット」であり,さらに男性においては「医療従事者・専門家」も含まれていた.
著者
神馬 征峰
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.253-261, 2013 (Released:2014-09-05)
参考文献数
5
被引用文献数
2

背景:健康教育やヘルスプロモーションによる行動変容は最重要課題の一つである.しかしながら,これらの戦略をもってしても,行動変容が難しい場合がある.本稿では行動変容の一つの手段として,Positive Deviance Approachを紹介することを目的とする.内容:他の人たちと同じ課題を抱えているにもかかわらず,その課題をよりうまく解決する人を positive deviant,その行為をpositive devianceという(本稿では以下いずれもポジデビと称する).1990年,米国のNGO,Save the Childrenがベトナムの4つの村で栄養調査を行った結果,3歳未満児の64%が栄養不良であった.ということは,36%は栄養不良ではない,ということでもある.この36%の中でポジデビを探した結果,見えてきた特徴は以下のようであった.「田んぼや畑からお金のかからない食品を入手している」,「汚れたら子供の手を随時洗わせている」,「子供が1日に食べる回数を2回から4,5回に増やしている」.これに基づいたポジデビ・アプローチをとることによって,7年間で 50,000人以上の子供たちの栄養状態が改善した.その後さらにこのアプローチは,院内感染対策,乳幼児死亡改善策,肥満対策,妊婦の栄養対策などに用いられ,困難な行動変容課題を克服してきた.結論:ポジデビ・アプローチは行動変容が困難な健康課題を克服するための手段として有効に使える.日本でも今後これが広がっていくことを期待したい.老人対策,震災後の地域保健対策,学校のいじめ対策などに,このアプローチは使える可能性がある.