著者
高泉 佳苗 原田 和弘 中村 好男
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.197-205, 2013 (Released:2014-09-05)
参考文献数
27
被引用文献数
2

目的:本研究は,健康的な食行動と身体活動を促進するための情報発信において,有用なチャネルを明らかとするために,健康情報源と食行動および身体活動との関連性を検討することを目的とした.方法:社会調査会社の登録モニター898名(平均年齢41.5歳)を対象とし,インターネットによる横断調査を実施した.調査項目は,独立変数として健康情報源,従属変数として食行動および身体活動を調査した.健康情報源と食行動および身体活動との関連は,ロジスティック回帰分析を用い,年齢階層,最終学歴,世帯収入,同居人数を調整して検討した.解析は男女別に行った.結果:「朝食を食べている」という食行動と関連していた健康情報源は,男性において雑誌(OR=1.70,95%CI=1.01-2.86)および家族(OR=1.98,95%CI=1.05-3.73)であった.「バランスの良い食事を食べている」と関連していた健康情報源は,女性において新聞(OR=1.68,95%CI=1.04-2.71)と家族(OR=2.40,95%CI=1.35-4.27)であった.23 Ex(エクササイズ)/週以上の身体活動と関連していた健康情報源は,男性において雑誌(OR=1.77,95%CI=1.07-2.95)とインターネット(OR=1.55,95%CI=1.03-2.35)であった.結論:本研究で得られた結果から,1)食行動の促進に有用なチャネルは,男性では家族と雑誌,女性では家族と新聞であること,2)男性における身体活動の促進には雑誌およびインターネットからの健康情報が有用であることが示唆された.
著者
井上 久美子 小林 三智子 長澤 伸江
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.164-172, 2019

<p>目的:スマートフォン(以下,スマホ)の常時携帯・接続可能という特殊な使用形態は,生活行動の乱れや心身の健康問題などの誘因になる.日本ではスマホ依存の定義や依存尺度が確立しておらず,先行研究では主に使用概算時間が指標として用いられてきた.そこで,本研究では回答が簡易であるスマホ使用場面数を用い,スマホ使用状況と健康状態や生活行動に対する自己管理力の関連と,指標としての有用性を検討した.</p><p>方法:女子大学生を対象とする横断研究として,24時間軸に沿って抽出した8つの場面から,スマホを使用する場面を複数回答する質問を含む生活調査を実施した.場面数と,身体的愁訴や生活行動および食に関する自己評価との関連を検討した.統計解析は,順序尺度はクラスカル・ウォリス検定,名義尺度はχ<sup>2</sup>検定後に残差分析を用いた.</p><p>結果:有効回答は1,260名(84.9%)であった.多使用群(6場面以上)は,食事,授業,アルバイトなどの場面を複数選択していた.少使用群(0~2場面)と中使用群(3~5場面)に比べ,多使用群では有意に身体的愁訴数(<i>P</i><0.001)と朝食欠食者数(<i>P</i>=0.001)が多く,食に関する自己評価が低かった.</p><p>結論:スマホ使用場面数を指標として用いることは,スマホの使用状況が生活行動や健康状態に及ぼす影響を検討するために有用である.本研究は,スマホ多使用者において,朝食欠食行動と身体的愁訴が増大するリスクがあることを示唆している.</p>
著者
坂本 達昭 細田 耕平 バズビートリニティー さくら 早見(千須和) 直美
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.246-255, 2019-08-31 (Released:2019-08-31)
参考文献数
25

目的:食事中のスマートフォン等の利用頻度および食事中にスマートフォン等を利用しないルールの有無とその遵守状況と家の食事の楽しさとの関連を検討すること.方法:熊本県と福井県の高校1・2年生1,897名に調査を依頼した(横断調査).調査内容は,属性,家の食事の楽しさ,共食頻度,食事中のスマートフォン等の利用頻度,食事中にスマートフォン等を利用しないルールの有無とその遵守状況である.回答者1,813名から無効回答等を除外し,残った1,718名を解析対象とした.従属変数を家の食事の楽しさ,独立変数を食事中のスマートフォン等の利用頻度,食事中にスマートフォン等を利用しないルールの有無とその遵守状況として,ロジスティック回帰分析を行なった.モデル1は調整変数を投入せず,モデル2は属性,モデル3は属性と共食頻度を調整変数とした.結果:モデル3において,食事中にスマートフォン等を利用しないルールがあり守っていること(男子:調整オッズ比2.24,95%信頼区間1.37-3.65,女子:調整オッズ比1.69,95%信頼区間1.13-2.54)は,家の食事の楽しさと関連していた.女子のみ,食事中にスマートフォン等をほぼ毎日利用していることと食事の楽しさには負の関連が認められた.結論:男女ともに食事中にスマートフォン等を利用しないルールがあり守っていることは,家の食事の楽しさと関連していた.
著者
喜屋武 享 高倉 実
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.229-245, 2019

<p>目的:教科学習中の学習を伴う身体活動介入(active lesson program,以下,ALP)の質を評価し,介入による身体活動,体格,健康指標,学業への有効性に関するエビデンスを更新すること.</p><p>方法:2015年4月から2018年8月に公刊された学術論文を5つの電子データベース(ERIC, PubMed, Science Direct, Cochrane Library, EMBASE)より選定した.選択基準は1)身体活動と学習内容の双方が含まれた授業であること,2)身体活動量,体格,体力要素,学業成績,学習行動促進要因を介入効果指標としていること,3)ランダム化比較試験,準実験デザイン研究,前後比較研究のいずれかであること,4)5歳~18歳の児童生徒が対象であること,5)介入期間が少なくとも1週間以上であること.学習内容が含まれない身体活動小休止,複合的な介入の一部として実施されたALP,特異的な集団(肥満児や障がい児)を対象とした研究は除外した.研究のバイアスリスクは,the Cochrane Collaboration "risk of bias" assessment toolを用いて評価した.</p><p>結果:10研究が採択・除外基準に適合した.そのうち,6研究は身体活動と学業の双方を,3研究は学業のみを,1研究は身体活動のみを評価した.10研究のうち2研究は,ALPと有酸素運動による小休止を比較したのに対し,その他は身体活動を伴わない授業を対照群として設定していた.全ての研究でALP後の身体活動量の増加を認めた.身体活動を伴わない学習と比較した場合,ALPの標準学力テストに対する積極的効果を示した研究は2研究あったが,その他の研究は群間の差を示さなかった.学習行動促進要因の1つである課題従事行動を評価した4研究が,ALPの積極的効果を示した.バイアスリスクは低程度から高程度であった.</p><p>結論:研究デザインの質は改善しているものの,バイアスリスクは高い.総じてALPは学力を阻害することなく身体活動を促進させることのできるプログラムであるといえるものの,健康指標への有効性について言及するためには更なる検討が必要である.</p>
著者
喜屋武 享 高倉 実
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.229-245, 2019-08-31 (Released:2019-08-31)
参考文献数
53

目的:教科学習中の学習を伴う身体活動介入(active lesson program,以下,ALP)の質を評価し,介入による身体活動,体格,健康指標,学業への有効性に関するエビデンスを更新すること.方法:2015年4月から2018年8月に公刊された学術論文を5つの電子データベース(ERIC, PubMed, Science Direct, Cochrane Library, EMBASE)より選定した.選択基準は1)身体活動と学習内容の双方が含まれた授業であること,2)身体活動量,体格,体力要素,学業成績,学習行動促進要因を介入効果指標としていること,3)ランダム化比較試験,準実験デザイン研究,前後比較研究のいずれかであること,4)5歳~18歳の児童生徒が対象であること,5)介入期間が少なくとも1週間以上であること.学習内容が含まれない身体活動小休止,複合的な介入の一部として実施されたALP,特異的な集団(肥満児や障がい児)を対象とした研究は除外した.研究のバイアスリスクは,the Cochrane Collaboration “risk of bias” assessment toolを用いて評価した.結果:10研究が採択・除外基準に適合した.そのうち,6研究は身体活動と学業の双方を,3研究は学業のみを,1研究は身体活動のみを評価した.10研究のうち2研究は,ALPと有酸素運動による小休止を比較したのに対し,その他は身体活動を伴わない授業を対照群として設定していた.全ての研究でALP後の身体活動量の増加を認めた.身体活動を伴わない学習と比較した場合,ALPの標準学力テストに対する積極的効果を示した研究は2研究あったが,その他の研究は群間の差を示さなかった.学習行動促進要因の1つである課題従事行動を評価した4研究が,ALPの積極的効果を示した.バイアスリスクは低程度から高程度であった.結論:研究デザインの質は改善しているものの,バイアスリスクは高い.総じてALPは学力を阻害することなく身体活動を促進させることのできるプログラムであるといえるものの,健康指標への有効性について言及するためには更なる検討が必要である.
著者
清水 準一 山崎 喜比古
出版者
JAPANESE SOCIETY OF HEALTH EDUCATION AND PROMOTION
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.11-18, 1997-03-30 (Released:2010-03-19)
参考文献数
26
被引用文献数
4

エンパワーメント理論はヘルスプロモーションと同様の基本理念を持つ概念として近年アメリカを中心に地域・精神保健, 福祉, 看護などの領域で注目されている概念であり, 本研究では海外の文献のレヴューによりその意味と意義の解明を試みた。エンパワーメント理論におけるパワーとは自らの生活を決定する要因を統御する能力のことであり、このパワーが欠如したパワーレスな状態が健康に対する危険因子であることは既に分かっている。エンパワーメントとは, このパワーを持たない人達が自分達の生活への統御感を獲得し, 組織的, 社会的構造に影響を与える過程とされる。幾つかの介入研究をまとめるとエンパワーメントは「参加」―「対話」―「問題意識と仲間意識の高揚」―「行動」といった過程を経て達成されている。介入や測定は対象を個人―組織―コミュニティ等に分けて行われていることが多く, 介入によって獲得された結果を測定する試みがなされている一方でその過程自体を測定することはできていない。エンパワーメントはそれまで個人的・主観的事象とされてきたパワーレスが社会的・客観的な事象と考えられるようになるに伴い, 個人レベルの介入だけでは解決できなかったパワーレスを様々な社会科学の知見を活用することにより改善する可能性を秘めているという点に専門家の期待が込あられていると考えられる。〔日健教誌, 1997; 4: 11―18〕
著者
津野 陽子 尾形 裕也 古井 祐司
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.291-297, 2018-08-31 (Released:2018-08-31)
参考文献数
14
被引用文献数
1

目的:従業員の健康・医療の問題を経営課題と捉え,経営戦略に位置付ける「健康経営」が推進されている.健康経営とは,健康と生産性のマネジメントを同時に行う手法である.健康と生産性の関連および職場要因と生産性に関する研究動向から健康経営と働き方改革について考察する.内容:職場における健康関連の生産性指標として,病欠,病気休業を指すアブセンティーイズムと何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し,業務遂行能力や生産性が低下している状態であるプレゼンティーイズムがある.この二つを合わせて生産性と捉えた場合,特にプレゼンティーイズムの損失が大きいことが注目されている.生産性と健康状態の間に相関があることを示す研究蓄積があり,健康リスクが多くなるほど生産性が低下することが示されている.健康と生産性の関連における研究枠組みには職場要因が含まれており,職場要因は生産性指標に直接的・間接的関連の両方を有していることが示されている.結論:健康と生産性を合わせてマネジメントするためには,職場要因への介入が必須であり,健康経営推進のためには働き方改革と一体として取り組むべきである.働き方改革といっても,各企業・組織の特性によって取り組むべき内容は異なる.各企業・組織において健康課題を可視化し,職場環境や仕事特性との関連性をデータを活用し検証することで,有力なエビデンスを持ってPDCAサイクルを回していくことが期待される.
著者
種田 行男 加納 政芳 山根 基 笠井 達也 鈴木 敏博 加賀 善子
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.184-193, 2009 (Released:2011-02-21)
参考文献数
20
被引用文献数
1

目的:中高年女性の運動実施意欲を高めて運動習慣の形成を支援するための家庭用体操ロボットを開発し,その実用性を検討した.方法:対象者は軽度の膝痛を有する中高年女性6名,年齢64(SD11)歳であった.この6名に膝痛軽減のための体操(膝関節の屈伸,大腿四頭筋の収縮,膝関節の屈曲と大腿四頭筋のストレッチ,膝関節まわりの筋収縮)を指導した.体操ロボットはHITEC Robotics製のROBONOVA―I(高さ310×幅180×奥行き90mm,重量1.3kg)を使用し,膝痛軽減体操を模擬するプログラムをロボットに搭載した.6人の対象者に体操ロボットを貸与し,20日間毎日自宅でロボットと一緒に体操を実施するように指示した.ロボットとの体操期間終了後にFocus Group Interview(FGI)を実施し,その内容を質的に分析した.結果:対象者の介入期間中のロボット利用率は,90.4(SD12.5)%であった.インタビュー内容の質的分析の結果,3つのカテゴリーおよび11のサブカテゴリーが抽出された.これらのカテゴリーの関連性を検討し構造モデルを作成した.その結果,体操習慣形成の構造は,「体操ロボットに対する好印象」に始まり,「動機づけ」,「ロボットへの愛着」,「仲間意識」を通じて「体操ロボットの積極的利用」に到達した.結論:対象者となった中高年女性は体操ロボットを積極的に受け入れていた.今回用いた体操ロボットは対象者の体操習慣の形成支援ツールとして活用できることが示唆された.
著者
辰田 和佳子 稲山 貴代 秦 希久子 中村 彩希
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.195-204, 2015

目的:第1に食事に気をつける行動の違いにより,食物摂取状況の良好さを示す食物摂取頻度得点に差があるかを確認すること,第2に食事に気をつける行動と10品目の食物摂取頻度との関係から,気をつける行動がどのような食物の望ましい摂取行動と関連するかを検討することを目的とした.<br>方法:東京都の障がい者スポーツセンターの利用者を対象に,無記名質問紙を用いた横断調査を実施した.調査票739部を配布し,最終的に成人肢体不自由者381人を解析対象とした.食物摂取頻度得点の差にはMann-Whitneyの検定を用いた.10品目の食物摂取行動を従属変数,気をつける行動を独立変数として,二項ロジスティック回帰分析にて両者の関係を検討した.<br>結果:食事に「とても気をつけている」者は,それ以外の者と比較し,食物摂取頻度得点が有意に高かった(20点 vs 18点).とても気をつける行動は,緑黄色野菜(オッズ比:2.57,95%信頼区間:1.65-4.00),その他の野菜(オッズ比:2.23,95%信頼区間:1.43-3.45),果物(オッズ比:2.29,95%信頼区間:1.47-3.57)の望ましい摂取行動と関連していた.<br>結論:自立/自律している肢体不自由者を対象とした栄養教育や支援プログラムでは,食事に気をつける行動と野菜や果物の摂取行動との関連をふまえて計画することが望まれる.
著者
北田 雅子 望月 友美子
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.153-161, 2014 (Released:2015-01-13)
参考文献数
17

目的:本稿では,第21回ヘルスプロモーション・健康教育国際連合(IUHPE)世界会議において報告されたタバコ規制に関する調査研究の動向を概観し,世界のタバコ規制の現状と今後の方向性を考察するとともに,日本の課題を検討することを目的とした.方法:学会抄録附属DVDを用い,タバコ規制に関する発表88演題(口頭発表,ワークショップおよびポスター)の抄録を全てレビューした.結果:演題内容は,タバコ規制の政策や戦略24,若者や未成年の喫煙防止13,禁煙サポート18,受動喫煙からの保護20,メディアやマーケティングによるタバコ規制等13であった.世界会議開催国タイからの演題は44と全発表の半数を占めた.これらの演題レビューの結果から,世界のタバコ規制は2005年に発効したFCTCにより,その取り組みが一気に加速しており,国家レベルで包括的な取り組みが展開されていることが明らかとなった.結論:日本の今後の課題は,他国のようにFCTCに沿ったタバコ規制を国内で推し進めることである.そのためには,ヘルスプロモーションの専門家は,一般市民のタバコリテラシーの向上を目指し,タバコ産業の活動(特に社会貢献活動,CSR)に抗する対策を考え,タバコの害から全ての人を守るための「政策決定の橋渡し(アドボカシー)」の役割を果たすことが必要であると思われた.
著者
新保 みさ 角谷 雄哉 江口 泰正 中山 直子
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.246-250, 2015

目的:学会セミナー「研究・実践からアドボカシー(政策提言)へ」は,アドボカシーについて学び,学会としてのアドボカシーのあり方を議論するためになされた.本報告では,講演後になされた,「研究・実践からアドボカシー(政策提言)へ」に関する総合討論の概要をまとめた.<br>内容:総合討論では,第1部の講演の内容やアドボカシーに関して,総合司会を中心に,講演者と参加者が相互に質問や意見交換を行った.主な話題としてアドボカシーへの原動力,アドボカシーの担い手,学会としてのアドボカシーのあり方に関して議論があった.講演者はこれまで関わってきたグローバル,国,自治体,企業のそれぞれのレベルにおける視点で発言をしていた.討論を通じて,日本でアドボカシーを進めるための課題として,行政機関における人材育成のあり方や大学の役割があげられた.政策を作る側からも学会としてアドボカシーを行う必要性が述べられ,今後の方向性が確認された.<br>結論:講演者と参加者の議論によって,アドボカシーはそれぞれのレベルで推進されているものの,課題があることが分かった.今後,日本健康教育学会としてのアドボカシーを推進するためには,意見を1つにまとめ,議論を重ねていく必要がある.
著者
小岩井 馨 武見 ゆかり 林 芙美 緒方 裕光 坂口 景子 嶋田 雅子 川畑 輝子 野藤 悠 中村 正和
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.13-28, 2019-02-28 (Released:2019-02-28)
参考文献数
51
被引用文献数
1

目的:効果的な減塩対策のためには食塩摂取源を把握する必要がある.食塩摂取源を食品群で把握するだけでなく,家庭内・家庭外由来かを特定し,さらに疾病の指摘の有無別に食塩摂取源の特徴を検討することとした.方法:平成29年神奈川県真鶴町の特定健診受診者を対象とした横断研究を行った.3日間の食事調査により出現した食品や料理を食品群別・加工度別に分類後,家庭内・家庭外(菓子・嗜好飲料・中食,外食)に整理した.その後,食事記録日数の不足者等を除外した213名を対象に,3日間の平均食塩摂取量に占める各々の食塩摂取量の割合(以下,「食塩摂取割合」)を算出した.さらに,循環器疾患の指摘または降圧剤の使用有無別(以下,「循環器疾患の有無別」)に食塩摂取割合を比較した.結果:食品群別の食塩摂取割合が最も高い食品は,男女とも調味料(約60%)であり,このうち,約75%が家庭内,約25%が家庭外であった.循環器疾患の有無別では,中食からの食塩摂取割合は男性の有り群は26.8%と,無し群14.3%に比べ,有意に高かった(p=0.029).結論:地域在住特定健診受診者では,家庭で使用する際の調味料からの食塩摂取割合が高いこと,男性の循環器疾患有りの者は中食の食塩摂取割合が高いことが示された.減塩対策を検討する上で,家庭内・家庭外の視点を取り入れること,男性では中食への減塩対策も必要であることが示唆された.
著者
松下 宗洋 原田 和弘 荒尾 孝
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.30-38, 2014 (Released:2015-01-13)
参考文献数
17
被引用文献数
1

目的:運動行動を促進する技法の1つとして,インセンティブを用いて動機づけを高める技法が注目されている.インセンティブを効果的に用いるには,インセンティブの内容(種類,金額)や,対象者の運動行動に対する準備性を考慮する必要がある.本研究の目的は,対象者の運動行動変容ステージとインセンティブの内容によって,運動行動を動機づける強さが異なるかを検討することである.方法:40~69歳のモニターを対象(N=1,290)にインターネット調査による横断研究を実施した.測定項目は,インセンティブの種類による運動行動の動機づけの強さ(以下,動機強化得点),インセンティブとして希望する相当額,運動行動変容ステージであった.結果:動機強化得点は,インセンティブの種類(p<0.01),運動の行動変容ステージ(p<0.01)により有意に異なり,両者の交互作用も有意であった(p<0.01).しかし,各行動変容ステージにおける動機強化得点の高いインセンティブは,現金,商品券,旅行券であり,順位に大きな変動はなかった.各行動変容ステージの運動取組動機率が50%に達するインセンティブ希望金額は,前熟考期が2,000円,熟考期が1,000円,準備&実行期が1,500円,維持期が500円であった.結論:運動行動を動機づける強さは,インセンティブの内容(種類,金額)や運動の行動変容ステージによって異なることが明らかとなった.今後は,本研究を基にしたインセンティブによる運動実践率向上の検証が課題となる.
著者
鈴木 雅子
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.298-304, 2018-08-31 (Released:2018-08-31)
参考文献数
16

目的:本稿は,文部科学省が提言した「学校における働き方改革に関する緊急対策」について,その基となった教員の長時間勤務の現状を報告した.長時間勤務の現状にある教員の健康については,地方公務員災害補償基金の統計を用いて公務災害の結果から検討した.内容:教員の勤務状況は平成28年度「教員勤務実態調査」において教員の1週間当たりの学内勤務時間は小学校教員で平均57時間25分,中学校教員は平均63時間18分といずれも前回(平成18年度)調査時より増加していた.また,小学校教員の33.5%,中学校教員の57.6%が週60時間以上の勤務をしており,月の残業時間が80時間以上とされる「過労死ライン」を超えていた.教職員の公務災害は全公務災害認定件数の約30%を占めていた.平成28年度の教職員の過労死等認定件数は脳・心臓疾患によるものが7件,精神疾患等によるものが14件と精神疾患等による過労死事案が多かった.教員の働き方改革では「タイムカードによる勤務時間管理」,「部活動時間の制限」等が提案されている.今後は長時間勤務の解消や労働環境を改善する方向に動くであろう.結論:教員の長時間勤務はマスメディアにも取り上げられ社会にも浸透してきた.教員の勤務問題を学校関係者以外と共有したという点において支援する環境は形成されつつある.今後は支援する環境を活かし,教員自ら健康的な働き方を提言していくことが必要である.
著者
冬賀 史織 鈴木 亜紀子 吹越 悠子 赤松 利恵
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.306-313, 2014 (Released:2015-01-13)
参考文献数
14

目的:成人を対象に,1年間の自己申告の体重増減の妥当性を調べ,3 kg以上体重増減があった者において,自己申告と実測の一致・不一致による特徴を比較した.方法:1年目(2009年度)と2年目(2010年度)の両方に特定健診を受診したA健康保険組合員2,982名(男性1,492名,女性1,490名)を対象とした縦断研究である.標準的な質問票の項目「この1年間で体重の増減が±3 kg以上あった」の2年目の回答により,自己申告増減あり群・なし群に分けた後,1年間の実測の体重増減により各々で実測増減 3 kg以上と未満に分け,4群とし,自己申告の妥当性を検討した.その後,実測増,実測減に分け,8群とし,実測増減 3 kg以上の者において,自己申告と実測の一致・不一致による特徴を比較した.結果:不一致 3 kg未満増減は679名,不一致 3 kg以上増減は191名であり,全体の29.2%(870/2,982)の者が自己申告と実測が不一致だった.不一致 3 kg以上増加は,一致 3 kg以上増加よりも,男性が多かった(64.8%,p=0.012).また,男女ともに体重増加量,体重増加率に有意差がみられ,不一致 3 kg以上増加の方が小さかった(すべてp<0.05).結論:全体で約3割の者が体重変化を正しく認識できていなかった.また,実測で 3 kg以上増加していたにもかかわらず,認識できていなかった者には男性が多く,男女ともに体重増加は小さかった.
著者
宮城 政也 喜屋武 享
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.372-381, 2018

<p>目的:本研究の目的は,中学校におけるストレスマネジメントおよびアサーティブネス・トレーニングを取り入れたアンガーマネジメント教育の効果を評価することである.</p><p>事業/活動内容:授業は特別活動の時間(50分×5回)を用い「アンガーマネジメント教育をストレスマネジメントおよびアサーティブネス・トレーニングを組み合わせて」実施した.調査対象は沖縄県公立中学校1校の3年生,2クラス(アンガーマネジメント授業実施クラス:男子16名,女子19名/授業非実施クラス:男子15名,女子18名)の計68名であり,心理評価尺度における授業前後の評価,ならびに教師の授業の振り返りと生徒の自己評価を実施した.</p><p>事業/活動評価:「授業実施クラス」「授業非実施クラス」の授業前後の各心理評価尺度による変化量として,「ストレス反応」「ストレスマネジメント自己効力感」「怒り制御」については,両クラスともに差はなかった.一方,「憂うつ」については「授業実施クラス」の変化量が有意に大きく,介入クラスの「憂うつ」の低下が認められた.また,教師の授業の振り返りならびに生徒の自己評価より,生徒たちのアンガーマネジメントに関する知識・技術に関する理解が認められた.</p><p>結論:アンガーマネジメント教育の実践には,課題が認められた.しかし,ストレスマネジメントやアサーティブネス・トレーニングを組み合わせることにより,中学生の「憂うつ」の軽減が期待できた.またアンガーマネジメントスキル向上の基礎となる高次の知的能力の育成に寄与する可能性も示唆された.</p>
著者
宮城 政也 喜屋武 享
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.372-381, 2018-11-30 (Released:2018-11-30)
参考文献数
24

目的:本研究の目的は,中学校におけるストレスマネジメントおよびアサーティブネス・トレーニングを取り入れたアンガーマネジメント教育の効果を評価することである.事業/活動内容:授業は特別活動の時間(50分×5回)を用い「アンガーマネジメント教育をストレスマネジメントおよびアサーティブネス・トレーニングを組み合わせて」実施した.調査対象は沖縄県公立中学校1校の3年生,2クラス(アンガーマネジメント授業実施クラス:男子16名,女子19名/授業非実施クラス:男子15名,女子18名)の計68名であり,心理評価尺度における授業前後の評価,ならびに教師の授業の振り返りと生徒の自己評価を実施した.事業/活動評価:「授業実施クラス」「授業非実施クラス」の授業前後の各心理評価尺度による変化量として,「ストレス反応」「ストレスマネジメント自己効力感」「怒り制御」については,両クラスともに差はなかった.一方,「憂うつ」については「授業実施クラス」の変化量が有意に大きく,介入クラスの「憂うつ」の低下が認められた.また,教師の授業の振り返りならびに生徒の自己評価より,生徒たちのアンガーマネジメントに関する知識・技術に関する理解が認められた.結論:アンガーマネジメント教育の実践には,課題が認められた.しかし,ストレスマネジメントやアサーティブネス・トレーニングを組み合わせることにより,中学生の「憂うつ」の軽減が期待できた.またアンガーマネジメントスキル向上の基礎となる高次の知的能力の育成に寄与する可能性も示唆された.