著者
江口 泰正 井上 彰臣 太田 雅規 大和 浩
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.256-270, 2019-08-31 (Released:2019-08-31)
参考文献数
34
被引用文献数
12

目的:忙しい労働者における,運動継続が出来ている人の特性について,特に運動継続の理由・動機に着目して探索的に明らかにし,新たな行動変容アプローチに関する示唆を得ることを目的とした.方法:労働者に対して運動実施状況や運動継続の理由等について質問紙による横断的調査を実施し,1,020名から回収できた.無効なデータ等を除いた最終的な分析数は521名分であった.継続理由の強さを1~5点に得点化し,平均値を運動継続群と非継続群で比較した.また継続理由を因子分析した.結果:労働者における運動継続者の継続理由の上位[推定平均値(SE)]には,体力向上[4.02(0.12)],体型維持[3.98(0.13)]や健康への好影響[3.90(0.12)]など,健康への利益が多かったが,非継続者も上位は同様で,得られる利益について認識していることが明らかになった.次に継続理由の因子として「楽しさ・高揚感」「依存・自尊」「外観・陶酔」「健康利益」「飲食的充足」の5つが抽出された.このうち運動継続者に見られる顕著な特性として「楽しさ・高揚感」の重要性が示唆された.また「飲食的充足」は,非継続者の方が継続者より有意に得点が高かった.結論:労働者における運動継続への動機として「楽しさ・高揚感」が最も重要であることが示唆され,この因子に対する良いフィードバックが継続へのアプローチとして有効となる可能性がある.
著者
島内 憲夫
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.307-317, 2015 (Released:2015-12-03)
参考文献数
35

筆者の教育講演の焦点は,次の10点にある.①オタワ憲章設立前夜1980年代前半の動き,②オタワ憲章とバンコク憲章の特徴と相違,③健康の社会的決定要因(SDH),④Kickbuschの構想~健康教育からヘルスプロモーションへ~,⑤著者の日本でのヘルスプロモーション推進戦略,⑥人々の健康の捉え方,⑦健康はどこで・誰によって創られているのか,⑧健康格差社会の切り札,⑨幸福な生き方を支えるヘルスプロモーション,⑩ヘルスプロモーション哲学.ヘルスプロモーション活動は,人々の健康課題を共有し,解決し,共に推進することに焦点を置いている.その理由は,「健康は共に生み出すものだ」と考えているからである.それゆえ,分野間協力・住民参加等の人々の協働を必要としている.この協働は,人類が経験したことのないワクワクするほどの価値がある活動であり,人間性復活への活動(健康のルネサンス)であり,健康格差時代を力強く生き抜くための知恵なのである.21世紀を生きる我々人間は,未来をコントロールし,人生をあらゆる面において豊かなものとする,かつてないチャンスを与えられている.だからこそ,我々人間は自分の能力を全面的に発揮し人生を楽しみながら,世界のすべての人々と共にヘルスプロモーション活動を実践しなければならない.
著者
阿部 智美 相田 潤 伊藤 奏 北田 志郎 江角 伸吾 坪谷 透 松山 祐輔 佐藤 遊洋 五十嵐 彩夏 小坂 健
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.143-152, 2019-05-31 (Released:2019-05-31)
参考文献数
32

目的:医療系大学生の社会関係資本及び社会的スキルの精神的健康に対する関連について検討することを目的とした.方法:質問紙調査による横断研究を行った.医療系大学生648名を対象に質問紙を配布し,回収された質問紙の有効回答414名を分析対象とした.分析は,属性(学校,性別,学年,同居形態,親の学歴),社会関係資本(認知的社会関係資本,構造的社会関係資本),社会的スキルを独立変数,対数変換した精神的健康度を従属変数として重回帰分析を行った.結果:重回帰分析から,学校の認知的社会関係資本(β=-0.13, P=0.02),友人・知人との集まり「週に数回」(β=-0.15, P=0.045),社会的スキル(β=-0.24, P<0.01)が精神的健康度の高さに関連していた.反対に,グループ学習「年に数回」(β=0.20, P<0.01),「月に数回」(β=0.15, P=0.01),「週に数回」(β=0.11, P=0.04)が精神的健康度の低さに関連していた.結論:医療系大学生の高い認知的社会関係資本及び社会的スキルのスコアはより高い精神的健康と関連していた.これらの関連については,さらに検討が必要である.
著者
竹林 正樹 後藤 励
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.68-74, 2023-05-31 (Released:2023-06-22)
参考文献数
38

本稿は,健康支援関係者に向け,行動経済学やナッジの原理を概説することを目的とする.経済学は,人・物・金といった限られたリソースをどのように配分すると満足度を高めることができるのかを分析する学問である.伝統的経済学では,目的達成のために手立てを整えてベストを尽くす「合理的経済人」をモデルとする.行動経済学は,健康の大切さを頭でわかっていても認知バイアスの影響で望ましい行動ができないような「ヒューマン」を対象とする.ナッジは行動経済学から派生した行動促進手法で,認知バイアスの特性に沿ってヒューマンを望ましい行動へと促す設計である.ナッジが行動を後押しできるのは,認知バイアスには一定の系統性があり,ヒューマンの反応が一定の確率で予測できるからである.ナッジは他の介入に比べて費用対効果が高く,ナッジの中でも「デフォルト変更」に高い効果が報告されている.一方で,ナッジは行動変容を継続させるほどの効果は期待できないことや,日本での研究が少ないことといった限界がある.ナッジはヒューマンの自動システムに働きかける介入であり,倫理的配慮が求められる.介入設計に当たってはスラッジ(選択的アーキテクチャーの要素のうち,選択をする当人の利益を得にくくする摩擦や障害を含む全ての要素)になる可能性がないかを入念に検討する必要がある.
著者
松本 七映 鎌田 真光 林 英恵 カワチ イチロー 平山 太朗 根岸 友喜
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.223-228, 2021-05-31 (Released:2021-06-16)
参考文献数
19

「パ・リーグウォーク」は2016年3月に無料配信を開始したプロ野球パシフィック・リーグ6球団の公式アプリである.ファン心理を核として,行動科学理論とゲーミフィケーションに基づき,楽しみながらアクティブに過ごせるよう設計されている.例えば,プロ野球の試合と連動した1日合計歩数による対戦球団ファン同士の歩数合戦や,1日1万歩を達成すると1枚ランダムに選手画像がもらえる選手図鑑機能などがある.長期的かつ大規模に事業継続され,2021年3月時点で全47都道府県から6万超のダウンロードがあった.匿名データを用いた検証では,アプリ利用による歩数の増加とその継続が確認された.また,自治体等が実施する既存保健事業ではリーチが比較的困難であった男性,壮年期,様々な社会経済的状況の人々も巻き込み,これらの層でも歩数増加が認められた.アプリ利用開始時点で運動の行動変容ステージが前熟考期の者が約4分の1も占めていたことも分かっている.「みるスポーツ」と「するスポーツ(身体活動・運動)」を融合させたこのモデルは,新たな健康づくり,スポーツ施策の在り方を提示している.また,「ファン心理」という切り口は,他のスポーツやエンターテイメントへも応用可能である.好きな画像が集められるなどの非金銭的なインセンティブ,対象(集団)の団結力を引き出す競争の仕組み,ゲーム要素は,自治体の取り組みにも活かせるかもしれない.
著者
宍戸 洲美
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.169-173, 2016 (Released:2016-08-31)
参考文献数
1
被引用文献数
1

目的:日本の子どもたちの健康問題と養護教諭の職務を,IUHPE世界会議で報告することを通して,養護教諭の実践の質の向上を図ることと,日本独自の養護教諭制度や実践の有効性を世界に問うことを目的とした.結果:1995年から約20年間にわたりIUHPE世界会議で計8回報告を続けてきた.その結果,Yogo Teacherを国際語として広げる一方で,養護教諭制度が日本独自の制度であることが確認できた.養護教諭の実践が広く世界の子どもたちの健康問題の解決にも寄与できることが示された.また,この会議の3年のインターバルを活用してNational Network of Yogo Teachersのグループで学校保健活動や保健室実践について協議を行い,さらに実践をやり直すという研究方法が養護教諭の実践の向上につながった.結論:養護教諭の制度は国際的にみてもユニークな制度である.養護教諭の実践のプロセスを世界に向けて発信することは,日本における養護教諭実践の質向上に有益であるとともに,世界の子どもたちの健康問題解決にも寄与できる.
著者
近藤 克則
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.369-377, 2019-11-30 (Released:2019-11-30)
参考文献数
15

日本でも「健康日本21(第2次)」で「健康格差の縮小」が政策目標となった.しかし健康教育は,深く考えずに推し進めれば,健康格差をむしろ拡大しかねない.低学歴,非正規雇用,低所得で困窮している人たちほど,健診や健康教室に参加せず,健康情報を得る機会が少なく,知識はあっても処理能力に余裕がない傾向があるからである.ではどうしたら良いか.その手がかりは,ヘルスプロモーションのオタワ憲章などで示された「健康的な公共政策の確立」「支援的な環境の創造」「コミュニティの活動強化」など環境への介入である.それを進めるためには,その重要性を健康・医療政策に留まらない公共政策,環境・コミュニティづくりを担っている人・部門に対して伝えることが必要となる.従来型の健康教育から「健康格差の縮小」に寄与する21世紀型の「健康教育21」にしていくには 3つの見直しが必要である.1)生活習慣・行動変容を本人に迫る内容から,暮らしているだけで健康になる環境づくり「ゼロ次予防」への内容の拡大,2)ヘルスセクターや一般の人たちに留まらず,非ヘルスセクターや民間事業者への対象の拡大,3)教育方法の研究・開発・普及において,知識伝授型教育から行動経済学などの知見を踏まえた認知・処理能力を重視した方法への変革である.ヘルスプロモーションを実現するために,21世紀型「健康教育21」へのシフトが必要である.
著者
金森 悟 坂本 宣明 白田 千佳子 海野 賀央 江口 泰正 山下 奈々 北島 文子 厚美 直孝 小林 宏明 高家 望 福田 洋
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.79-86, 2021-02-28 (Released:2021-03-10)
参考文献数
6

目的:筆者らは,多職種産業保健スタッフの研究会にて「コロナは世界・健康教育・ヘルスプロモーションをどう変えたのか?」というテーマで夏季セミナーを開催した.本報告ではセミナーの開催概要を紹介するとともに,参加者によるセミナーの評価について報告する.方法:2020年9月13日に多職種産業保健スタッフの研究会のコーディネーター12名がセミナーを開催した.参加形態はZoomを用いたオンライン形式とした.全体の構成は第I部に基調講演,第II部は産業保健の現場からの話題提供,第III部は「オンラインの対面型コミュニケーションツールで可能になったことや新たな使い方」についてのグループワークとした.セミナーの評価を行うため,参加者を対象にGoogle formを用いた質問票調査を実施した.結果:参加者は71名,調査への回答者は52名(73.2%)であった.回答者のうち女性が69.2%,年代では40代が34.6%,職業では看護職が53.8%であった.各部について参考になったという者は80.8~96.2%であった.学んだことを今後に活用していこうと思う者は94.2%,全体について満足であった者は96.2%であった.結論:本セミナーでは,新型コロナウイルス流行下での健康教育やヘルスプロモーションの意義や事例,可能性が議論された.参加者のほとんどがセミナーに満足し,本セミナーの開催は意義があった.
著者
竹林 正樹 吉池 信男 竹林 紅
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.173-181, 2021-05-31 (Released:2021-06-16)
参考文献数
20

目的:ナッジのEASTフレームワークに沿って構築した職域用体重測定促進介入のプロセス評価と報告事業内容:働く世代の肥満予防策として,3つの体重測定促進介入を構築した.全群にEasy型ナッジを採用の上,クイズ群(Attractive型),宣言群(Social型),成功回顧群(Timely型)を設計した.青森県職員(応募要件:体重測定頻度が週1回未満)を対象に1時間の集合型研修会を開催し,実施者の実施意欲と負担感,参加者満足,人件費を含む実施コストについて,インタビューと質問紙調査によるプロセス評価を行った.事業評価:研修会の実施には職員4人が携わり(解析対象者3人),参加者は83人(解析対象者78人)だった.実施者の研修前の実施意欲はクイズ群,宣言群,成功回顧群の順に高かった.実施コストは成功回顧群(263~291千円),クイズ群(207~235千円),宣言群(179~207千円)で,実施負担感もこの順だった.参加者満足はクイズ群(92.6%),成功回顧群(88.5%),宣言群(64.0%)(P=0.016)の順だった.課題:クイズ群は実施者,参加者双方の評価が高く,最も普及可能性があると推測された.人件費を含む実施コストは,事前予想した額に比べ,実際に要した額は2倍以上であった.また,実施者のナッジ普及フェーズが習得期から実践期へ変化したことが観察された.
著者
中村 彩希 稲山 貴代 荒尾 孝
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.65-80, 2016 (Released:2016-06-02)
参考文献数
38
被引用文献数
1

目的:野菜摂取行動の実態を世帯収入別に把握し,野菜摂取行動と関連する他の食行動を特定すること.方法:調査機関の登録者30~59歳のうち8,284人にウェブ調査を実施した.調査項目は食行動(野菜摂取行動,食事に気をつける行動,朝食摂取行動,朝食共食行動,夕食共食行動,栄養成分表示活用行動,食卓での会話),属性,世帯収入および最終学歴とした.回答が得られた3,269人を解析対象者とし,解析は世帯収入300万円未満,300~700万円未満,700万円以上の3区分別に実施した.従属変数の野菜摂取行動は,毎日野菜料理をたっぷり(1日小鉢5皿,350 g程度)いつも/まあまあ食べている者を良好群とした.独立変数は他の食行動である.調整変数はモデル1には投入せず,モデル2には属性,モデル3には属性および最終学歴を投入し,ロジスティック回帰分析を行なった.結果:世帯収入300万円未満のモデル3において,良好な野菜摂取行動は,食事に気をつける行動(調整オッズ比(AOR): 2.87,95%信頼区間(95%CI): 1.97-4.19),栄養成分表示活用行動(AOR: 2.35,95%CI: 1.69-3.26),食卓での会話(AOR: 4.25,95%CI: 3.04-5.95)の良好な食行動と正に関連した.300~700万円未満および700万円以上においても野菜摂取行動と関連した食行動は同様であった.結論:野菜摂取行動の促進において,いずれの世帯収入においても積極的な自己管理や食情報交換・活用行動も合わせて促すことが,望ましい行動変容を促す可能性がある.
著者
中村 正和 増居 志津子 萩本 明子 西尾 素子 阪本 康子 大島 明
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.180-194, 2017-08-31 (Released:2017-09-07)
参考文献数
19

目的:eラーニングを活用した,実践的な知識とスキルの習得を目指した禁煙支援・治療のための指導者トレーニングの有用性を評価し,今後の指導者トレーニングの方向性を検討するための基礎資料を得ることを目的とした.方法:トレーニングプログラムは,禁煙治療版,禁煙治療導入版,禁煙支援版の3種類である.解析対象は2010~13年に学習を修了した1,526名である.プロセス評価のため,学習後,プログラムに対する興味,学習の難易度等について質問した.前後比較デザインを用いて,禁煙支援・治療に関する知識,態度,自信,行動の学習前後の変化を調べた.トレーニングによって修了者間の成績差が縮小するか,格差指標を用いて検討した.結果:プロセス評価において,修了者の評価は概ね良好であった.3プログラムとも知識,態度,自信のほか,行動の一部が有意に改善した.トレーニング前のスコアで3群に分類し変化をみたところ,知識,態度,自信,行動のいずれにおいても,低群での改善が他の群に比べて大きかった.修了者のトレーニング前の各評価指標の格差はトレーニング後,すべての指標において縮小した.結論:実践的な内容を取り入れたeラーニングを活用した指導者トレーニングプログラムを評価した結果,修了者の知識,態度,自信のほか,行動の一部が改善するだけでなく,修了者間の成績差が縮小し,指導者トレーニングとして有用であることが示唆された.
著者
嘉瀬 貴祥 上野 雄己 大石 和男
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.195-203, 2017-08-31 (Released:2017-09-07)
参考文献数
20
被引用文献数
1

目的:心身の健康と関連するパーソナリティの類型について,質問紙で測定されたBig Fiveの得点を用いたクラスタ分析により,パーソナリティ・プロトタイプと呼ばれる3つの類型(レジリエント型,統制過剰型,統制不全型)が国外の研究で抽出されている.本研究では,大学生(大学,専門学校,短期大学,大学院に在籍する学生)を対象とした調査のデータにおいても,パーソナリティ・プロトタイプが認められるか否か検討することを目的とした.加えて,それぞれの類型に該当する者の精神的健康の状態が,先行研究の報告を支持するか否か確認した.方法:株式会社クロス・マーケティングの調査モニターである大学生の400名を対象として,2016年5月に横断的なweb調査を実施した.調査内容はBig Fiveに基づくパーソナリティと精神的健康についてであった.この調査より得られたデータを,Ward法による階層的クラスタ分析,標準得点の算出,一要因分散分析を用いて分析した.次に,算出された標準得点を先行研究の結果と比較した.結果:階層的クラスタ分析の結果,レジリエント型,統制過剰型,統制不全型,識別不能型という4つのクラスタが得られた.さらに一要因分散分析の結果,レジリエント型と識別不能型は統制過剰型より精神的健康が高いという傾向が認められた.結論:本研究の結果から,諸外国の先行研究で見出されていたパーソナリティ・プロトタイプに相当するクラスタが,大学生においても存在することが示唆された.また,それぞれの類型に該当する者の精神的健康の状態は,先行研究の報告を支持するものであった.
著者
岩部 万衣子 小澤 啓子 松木 宏美 髙泉 佳苗 鈴木 亜紀子 赤松 利恵 岸田 恵津
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.151-167, 2017-08-31 (Released:2017-09-07)
参考文献数
32

目的:夜遅い食事及び夜食と肥満との関連を成人と子どもに分けて把握すること.方法:医学中央雑誌及びCiNiiを用いて,2005年以降の10年間に報告された論文を検索した.検索式には「夜遅い食事・夜食」と「肥満・MetS」を示す検索語を用いた.本研究の除外基準に基づき314件の表題と抄録を精査し234件を除外し,次に採択基準に基づき本文を精査して21件の論文を採択した.結果:21件中,縦断研究1件,横断研究18件,両方を含めたもの1件,介入研究1件であった.研究対象者は成人が15件,子どもが6件であった.成人では夜遅い食事を12件が調査し,7件で夜遅い食事の摂取者に肥満が多い等の正の関連があり,2件で性別等により肥満との関連の有無が異なり,3件で関連がなかった.夜食は10件で調査され,4件で夜食の摂取者に肥満が多く,3件で性別等により肥満との関連の有無が異なり,3件で関連がなかった.一方,子どもでは夜遅い食事の調査は1件と限られ,肥満との関連はなかった.夜食は6件で調査され,3件で関連なし,2件でBMIの高い者で夜食の割合が低く,1件で夜食の摂取者に肥満が多かった.結論:成人では夜遅い食事が肥満と正の関連を示し,子どもでは夜食が肥満と関連しないか負の関連を示した報告が多かった.しかし,多くは横断研究であり,交絡因子を調整した報告も少なかった.
著者
大塚 脩斗 坪井 大和 村田 峻輔 澤 龍一 斎藤 貴 中村 凌 伊佐 常紀 海老名 葵 近藤 有希 鳥澤 幸太郎 福田 章真 小野 玲
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.3-11, 2017 (Released:2017-02-28)
参考文献数
37

目的:地域在住高齢者における包括的に評価されたヘルスリテラシーと健康関連Quality of Life(以下,QOL)との関連について検討すること.方法:本横断研究の対象者は,65歳以上の地域在住高齢者330名(73.8(SD 5.5)歳,女性226名)とした.ヘルスリテラシーの評価には14-item Health Literacy Scale(以下,HLS-14)を用い,総得点と機能的,伝達的,批判的ヘルスリテラシーの各下位分類得点を算出した.健康関連QOLの評価には12-Item Short Form Health Surveyを用い,Physical Component Summary(以下,PCS),Mental Component Summary(以下,MCS)を算出した.単変量解析では,PCSおよびMCSとHLS-14の総得点および各下位分類の相関についてSpearmanの順位相関係数を用いて検討した.重回帰分析では,従属変数をPCSおよびMCS,独立変数をHLS-14の総得点および各下位分類とし,共変数を投入したモデルを作成した.結果:単変量解析の結果,以下の関係において有意な相関が示された.1)PCSと機能的ヘルスリテラシー(相関係数 rs=0.21,p<0.01),2)MCSと総得点(rs=0.14,p=0.01),3)MCSと機能的ヘルスリテラシー(rs=0.22,p<0.01),4)MCSと伝達的ヘルスリテラシー(rs=0.14,p=0.01).重回帰分析の結果,PCSおよびMCSと機能的ヘルスリテラシーにおいてのみ独立して有意な関連が認められた(PCS:標準β=0.20,p<0.01,MCS:標準β=0.13,p=0.02).結論:本研究では,機能的ヘルスリテラシーと健康関連QOLにおいて独立して有意な関連が示され,健康関連QOLの向上のためには,高齢者に対する健康関連情報の提供方法を工夫することが重要であると示唆された.
著者
中川 武子 水本 トシ子 宮本 ひでみ
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.229-238, 2011 (Released:2013-02-22)
参考文献数
9

2011年3月11日の東日本大震災発生後3週間目に,石巻市内の避難所において災害支援ナースとして支援活動にあたり,食中毒予防のために避難所の被災者に配給された消費期限切れの食品回収作業を実施した.約360人が生活している避難所では,咳嗽,嘔吐,下痢などを訴える人が多く,感染症も増えつつあった.被災者の中には消費期限切れの食品を保持している人がいた.それは「食品を捨てるのはもったいない」という気持ちと「食料が確実に配給される補償がない」という不安があったためであった.感染症予防の必要性を認識した担当者は,被災者の気持ちに配慮し,消費期限切れの食品を差し出しやすい環境を整えた.A4サイズの小さな箱を準備し,「私達がお預かりします」と声をかけ,消費期限切れ食品を回収した.その結果,消費期限切れの食品の量は,約50cm四方の段ボール箱5~6個分になった.回収した食品の内容は,家庭で作ったおにぎり,消費期限が1週間以上過ぎたおにぎり,菓子パン,食パンなどであった.特に食パンが多かった.緊急時においては,被災者が自分自身で食料を選択する環境が整っていない.そのような状況においては,被災者を食中毒から守るため,医療従事者の支援が必要である.
著者
今井 博之
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.32-41, 2010 (Released:2011-11-12)
参考文献数
24
被引用文献数
2

傷害(injury)は子どもや比較的若年の成人に多いので社会的損失が大きい.より若年の早死に焦点を当てたYPLL(損失生存可能年数)によると,傷害はガンや心疾患を凌駕する第一位の座を占めており,公衆衛生上の重要問題の一つである.かつて事故予防(accident prevention)と呼ばれていた分野は,今日では傷害制御(injury control)と呼ばれるようになった.その背景にはこの分野での過去数十年の進歩による概念の変遷がある.つまり,感染症制御モデルに倣った公衆衛生学的アプローチがその主軸となっている.傷害制御の基本的原理は,(1) Haddonマトリックスに示されるように,必ずしも事故の発生頻度を減らさないでも傷害の重症度を減らすことは可能であり,また,それらの対策には予防-介入-事後対策など包括的な実践が可能であるという考え方である.さらに,(2) 受動的-vs-能動的対策,(3) 3E(教育,工学,法制化)アプローチ,などの理解も不可欠である.本稿は,これらの基本的原理を解説することを主な目的とした.そしてさらに,近年発展をとげてきた行動科学的アプローチ(傷害氷山のエコロジカル・モデル,プリシード・プロシード・モデル,Haddonマトリックスの第3の軸)や,セーフコミュニティ運動が,傷害制御にどのように関わっているのかについても言及した.
著者
池畠 千恵子 古屋 美知 森岡 美帆
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.134-142, 2015 (Released:2015-06-05)
参考文献数
13

目的:早期離職につながる新人栄養士の業務遂行の思いを探索することを目的とした。方法:就労3カ月の栄養士10名(男性1名・女性9名)を対象に半構造化インタビューガイドに基づいてインタビューを行った.面接内容を録音したテープから逐語録を作成し,得られたデータについて質的記述的研究を行った.結果:新人栄養士の業務遂行に関する思いは5つのカテゴリーと18のサブカテゴリーが抽出された.『うまく出来ないことに対する不安』には調理技術の未熟さや時間に対する不安,指導者との感覚の違いからくる自信喪失等5つのサブカテゴリーが含まれていた.『業務内容に対する戸惑い』には資格を活かすことのできないジレンマや気持ちのコントロールの方法等3つのサブカテゴリーが含まれていた.『指導者に対する思い』には上司・先輩との人間関係や職場の栄養士の生き方からの学び等4つのサブカテゴリーが含まれていた.『仕事に対する喜び』には褒められ出来るようになったこと等3つのサブカテゴリーが含まれていた.『将来に対する希望』には実務経験の継続の意志や目指す栄養士像等3つのサブカテゴリーが含まれていた.結論:新人栄養士は専門職者としてうまく出来ないことに対する不安や栄養士としての資格を活かすことのできないジレンマをかかえていた.一方,患者・利用者や上司・先輩との人間関係を意識するとともに現状を受け入れながら,将来への希望を抱いていた.新人栄養士の早期離職を防ぐためには職場での指導者による指導のあり方を含めた栄養士の段階的・系統的な研修が重要であると示唆された.