著者
阿部 宏喜
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.169-176, 2001
参考文献数
25
被引用文献数
1

魚介類のおいしさに関する従来の研究では低分子エキス成分および無機イオンの影響が詳細に検討され、これまでに美味な魚介類の呈味有効成分が明らかにされている。近年、ペプチド、タンパク質、多糖類、脂質などの呈味効果が次第に明らかにされつつあり、魚介類の微妙な味の差に興味がもたれている。本稿では魚介類の味および風味質に対するグリコーゲンとタンパク質の影響、魚醤油の呈味有効成分とオリゴペプチドの呈味効果およびマグロのおいしさに対する脂質の影響に関する最近の知見を紹介する。
著者
坂根 直樹
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.143-148, 2006 (Released:2018-05-30)
参考文献数
26

わが国でも食生活の近代化に伴い、生活習慣病が増加しており、その基盤となる肥満対策が急務である。しかし、心理学的抵抗を示す肥満者への減量指導は困難を伴う。また、減量に成功しても逆に血圧が上昇する場合がある。その原因として低脂肪食を実行するため煮物など食塩摂取量の増加が関係している。一方、食塩味覚閾値には糖尿病のみならず、母親や遺伝子多型が影響を及ぼしている。そこで、「うま味」を活用したおいしくダイエット教室を開発し、その効果を検討したところ、有意な減量効果とともに有意な降圧効果も得られた。
著者
海老原 覚
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 = The Japanese journal of taste and smell research (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.61-67, 2014-04

唾液量の減少は呼吸器感染症と関連がある。唾液内の雑菌を誤嚥することによって起こると考えられる誤嚥性肺炎においても唾液の減少が問題を起こすからである。したがって、高齢者に対する誤嚥性肺炎の予防策としてドライマウス対策が重要であると考えられる。さらに、直接的嚥下障害対策も重要であり、高齢者の衰えた嚥下機能を回復するために様々な方法が試みられている。香辛料による温度受容体刺激は、直接の知覚神経末端への作用に加え、嚥下に必要な脳活動部位のうち知覚に関する領域を活性化して、嚥下反射を促進する作用があることが示されている。なかでも、黒胡椒の匂いによる嗅覚刺激は、大脳島皮質と前帯状回を活性化して、高齢者の衰えた嚥下機能を回復できることがわかった。この方法はどんな状態の高齢者にも有用であるが、介護者の手間を要するため、簡便に高齢者を24時間刺激し続ける方法を開発した。以上のように、辛味と匂い刺激を組み合わせることにより、効率的に誤嚥性肺炎患者の再誤嚥をかなりの程度防ぐことができたので、本稿で紹介する。
著者
西村 敏英
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 = The Japanese journal of taste and smell research (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.185-192, 1997-08-01
参考文献数
42

食肉は熟成により軟らかくなると同時に風味が向上する。風味要素のうち、呈味向上には遊離アミノ酸とペプチドの増加が寄与している。特に、遊離アミノ酸の増加はうまみを含む肉様の味の増強に、またペプチドの増加はまろやかさの向上に関与していると考えられる。食肉熟成中のペプチドの増加には、筋肉内エンドペプチダーゼ(カルパインおよびカテプシンBとL)が、遊離アミノ酸の増加には、中性に至適pHを有するアミノペプチダーゼC、HおよびPが貢献していると考えられる。
著者
原田 秀逸
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, 2008-04
著者
神宮 英夫
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.157-162, 2012
参考文献数
6

香りによって行動が改善される可能性を明らかにするために、情意との関係を考えた3つの研究を紹介する。これらは、認知症の高齢者への音楽療法と徘徊を抑える試み、および言語治療場面の研究である。各々の研究において、香りの強さは、刺激閾から認知閾程度の弱いものを使用したが、弱い香りにおいても行動改善の効果が認められた。このことから、認知症の高齢者や赤ちゃんなどのように、言語によるコミュニケーションが難しい場合に、官能評価以外で香りの効果を評価する方法として、行動変化を利用できる可能性が示唆された。
著者
西村 敏英
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.161-168, 2001
被引用文献数
9 3

肉のおいしさを決定する重要な要因は、肉自身のもつ食感、香り、味である。肉は、適度な硬さ、なめらかな舌ざわりと豊かな多汁性をもつとおいしいと感じる。また、種に特有な肉らしい香りがして、かつうま味が強く、こくやまろやかさを有する肉はおいしいと感じる。これらの肉質の多くは、肉を低温で貯蔵する熟成過程において得られるものである。
著者
松井 陽吉
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.189-196, 2003-08

最近お茶類に人気が出てきているのは茶系飲料が生活の中に定着したことや、様々な生理機能が解明されてきたことにある。水分補給や香味を味わうことで生活の潤いとして利用され、三次機能と呼ばれる生理機能を期待して消費されている。お茶が今日のように世界中で普及したのは大規模茶園と機械化が貢献してきたが、そのため香味を画一化して大量の生産ができるような体系にしてきた。ウーロン茶は発展途上にあり将来は緑茶や紅茶のような道を歩むかもしれないが、少量生産で茶農家独自の製法で生産されており、香味の多様性と魅力から見ると一律の香味である緑茶や紅茶に比べておいしさにかかわる点が異なって感じられる。お茶のおいしさを極めていくと、緻密な感性で生産されているため香味が多様でレベルが高いウーロン茶に行き着く。さらによりおいしいものを目指してゆっくり楽しむというお茶本来の姿もウーロン茶の飲み方の中に見ることができる。
著者
黒田 素央 山中 智彦 宮村 直宏
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.175-180, 2004-08
被引用文献数
2

多くの食品は、加熱処理により調製され、提供される。この加熱工程において、食品タンパク質の変性、食品素材からの成分溶出、メイラード反応をはじめとする化学反応など、多くの反応が起こり、食品の呈味が形成されると考えられている。このような食品の中で、スープやソースなど、食材を煮込むことによって調製する食品においては、長時間の加熱によって、特有の香り、風味が発現・増加することが知られている。これらの中で加熱により「コク味」と呼ばれる風味質が増加することが観察されている。本稿では、食品の「コク味」を表現するための用語の整理とコク味表現モデルについて概説を行った後、加熱によって「コク味」が向上する例として、牛肉スープストックあるいは牛肉エキスを取り上げ、最近の研究例について紹介する。具体的には、牛肉スープストックの加熱中に生成し、牛肉スープ特有の「あつみのある酸味」を付与しうる低分子「コク味」成分の研究例および牛肉エキス中の「コク味」(持続性、濃厚感、広がり)に寄与する高分子成分の解析例と加熱に伴う構造変化について、いかに詳述する。
著者
黒田 素央 山中 智彦 宮村 直宏
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.175-180, 2004
参考文献数
9
被引用文献数
2

多くの食品は、加熱処理により調製され、提供される。この加熱工程において、食品タンパク質の変性、食品素材からの成分溶出、メイラード反応をはじめとする化学反応など、多くの反応が起こり、食品の呈味が形成されると考えられている。このような食品の中で、スープやソースなど、食材を煮込むことによって調製する食品においては、長時間の加熱によって、特有の香り、風味が発現・増加することが知られている。これらの中で加熱により「コク味」と呼ばれる風味質が増加することが観察されている。本稿では、食品の「コク味」を表現するための用語の整理とコク味表現モデルについて概説を行った後、加熱によって「コク味」が向上する例として、牛肉スープストックあるいは牛肉エキスを取り上げ、最近の研究例について紹介する。具体的には、牛肉スープストックの加熱中に生成し、牛肉スープ特有の「あつみのある酸味」を付与しうる低分子「コク味」成分の研究例および牛肉エキス中の「コク味」(持続性、濃厚感、広がり)に寄与する高分子成分の解析例と加熱に伴う構造変化について、いかに詳述する。
著者
宮奥 美行
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.157-164, 2004-08
参考文献数
18
被引用文献数
1

カレーのおいしさを構成する要素は、だし、油脂、スパイス・カレーパウダー等の香辛料である。カレーパウダーは、複数のスパイスから構成される。混合後熟成することで、単品スパイスを混合しただけのものとは異なり、カレー製品の香味を増強する役目を持つ。油脂は、その存在状態が変化することで、香味の感じ方を複雑にする。日本における一般的なカレーでは、具在に肉、じゃがいも、人参、玉葱を使用するが、家庭での煮込み及び調理後の時間経過により、具材が、カレー・ソースの成分や状態変化を引き起こし、おいしさに変化をもたらす。
著者
服部 幸應
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.129-134, 2002-08
被引用文献数
1

「"こく"と料理」ということについて突き詰めると、「塩梅」と「だし」に行きつく。西洋も日本も中華もだしが重要である。ほどほどに、しかし、ある部分は濃厚なものが料理の組み合わせの中では必要となる。この濃厚さというものは、我々に満足を与えてほっとさせるという要素であり、これに、塩気が加わり、ある場合には脂肪分の多いものを、私は「こく」と呼んでいる。