著者
有田 誠
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.929-932, 2013 (Released:2013-08-23)
参考文献数
13

栄養素であり、かつ生体膜リン脂質や中性脂肪の構成成分でもある脂肪酸は、生命活動において必須である。脂肪酸には多くの種類があり、飽和と不飽和、さらに不飽和度の高い多価不飽和脂肪酸などに大別される。また、多価不飽和脂肪酸の中でも分子内の二重結合の位置によりn-3系、n-6系の脂肪酸が存在しており、それらは哺乳動物の体内において相互変換されることはなく、代謝的に質の異なる脂肪酸である。このように質の異なる脂肪酸が生体内で特徴的な分布を示し、それぞれに特異な代謝を受け、さらにその代謝は互いに影響し合うことで、様々な生理機能や病態に影響を及ぼすことが知られている。そこで本稿では、このような脂肪酸バランスの違いが関わる事象について、とくに炎症性疾患との関連についてご紹介したい。
著者
山際 健太郎 伊佐地 秀司 兼児 敏浩 竹田 寛
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.811-816, 2009 (Released:2009-06-11)
参考文献数
23

中心静脈カテーテル (CVC) 留置に関連した合併症である心タンポナーデ (CVC原性心タンポ) により死亡した40歳代の生体肝移植症例を報告し、CVC原性心タンポの特徴と予防対策を文献的に考察した。本症例ではCVC先端を右心房に留置して、同時にCVC挿入により右緊張性気胸が合併した。そのためCVC先端が右心房に持続的に接触して、輸液の血管外漏出が起こり、CVC原性心タンポが発生した。CVCの右房内留置はCVC製品の添付文書に禁忌事項として記載されている。CVC原性心タンポは欧米で143例 (死亡率72.1%)、本邦で14例 (死亡率35.7%) の報告がある。新生児に多く、CVC先端の穿孔または接触圧迫で輸液が心嚢腔に漏出して起こる。CVC原性心タンポの予防にはCVC先端を胸部X線写真上で気管分岐部と同じ高さ (心外膜の外) に管理することが重要である。
著者
鈴木 規雄 木田 圭亮 明石 嘉浩 武者 春樹 三宅 良彦
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.1083-1090, 2013 (Released:2013-10-25)
参考文献数
15
被引用文献数
6

【目的】蛋白代謝、免疫能、脂質代謝の三つの生体指標から栄養評価するCONUT法が知られているが、心不全における栄養評価方法は十分に確立していない。急性心不全患者に対してCONUT法を用いた栄養評価が、短期予後の予測に有用であるか検討した。【対象及び方法】急性心不全で入院となった連続38名に対し、入院時にCONUT法でスコア化 (CONUT score) 及び栄養評価を行い、短期予後との関連性について調べた。【結果】CONUT法により36名 (95%) が軽度以上の栄養障害と評価された。CONUT scoreは感染症合併群、非合併群において感染症合併群の方が有意に高値 (p=0.02) であり、CONUT scoreが高値であると入院期間が長期化していた (p=0.02)。また、軽快退院群は有意に低値であった (p=0.02)。【結論】多くの急性心不全患者が栄養障害を有している可能性がある事が示唆された。また、CONUT法は早期に急性心不全患者の栄養障害をスクリーニングし、短期予後を予測する簡便な方法として有用性があると考えられた。
著者
多田 俊史 下浦 芳久 浦 芳美 福岡 幸子 甲斐 千穂 詫間 晴美 西田 玲子
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.2_99-2_103, 2006 (Released:2007-04-26)
参考文献数
14

当院でTPNに関連したと考えられた肝障害が認められた55名を対象とした。TPN開始から肝障害発症までの期間は3日まで6名、7日まで19名、14日まで12名、21日まで6名、28日まで4名、28日以降8名であった。グルコース投与速度は3mg/kg/min未満が16名、3~5 mg/kg/minが21名、5mg/kg/min以上が18名であった。脂肪製剤を14名で使用し、血液培養の結果から原因菌が同定された感染症合併は12名であった。肝胆道系酵素の最大値はAST:160±160 IU/L、ALT:162±169 IU/L、ALP:618±299 IU/L、γ-GTP:230±348 IU/Lで、肝障害の分類では混合型39名、肝障害型8名、胆汁うっ滞型8名であった。輸液内容変更のみの15名中14名が肝機能改善し、1名のみに改善が認められなかった。輸液内容の変更と経口・経腸栄養を開始した18名全員で改善が認められた。輸液内容を変更しなかった22名のうち経腸栄養を開始した2名で改善が認められた。また、内容を変更せずそのまま輸液を継続した20名中10名で改善が認められた。
著者
御子神 由紀子 丸山 道生 橋本 直子 中島 明子
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.1089-1093, 2010 (Released:2010-10-25)
参考文献数
13
被引用文献数
2

【目的】摂食・嚥下障害を有する高齢者の栄養状態の分析とリハビリの効果を明らかにするため調査を行った。【対象及び方法】入院後経口摂取困難となった高齢者66例を対象とし、ADLで分類し、改善している者を改善群、退院時も変化がない者を不良群、死亡退院した者を死亡群とした。カルテより入院時疾患、既往、Alb、栄養経路、転帰などを調査した。【結果】経口摂取能力、Albの改善は改善群では不良群より良好であった。転帰先は改善群では不良群より自宅退院が多かった。不良群で転院の者は全て経口摂取能力を獲得していなかった。【考察】摂食・嚥下障害とADLの改善は相関し、予後の因子の一つとして低栄養が推測される。転院の原因は胃瘻など栄養管理が困難な場合、低栄養によるADLの低下であった。医療経済効果のため栄養管理を地域医療に推進させる必要があり、今後このような高齢者を支えるためにシステムの構築が重要である。
著者
山田 実
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.1065-1068, 2013 (Released:2013-10-25)
参考文献数
9

サルコペニアとは加齢に伴う筋量減少のことを指し、身体的虚弱の要因となることから国内外で注目されている。日本人高齢者の有症率は20%を超えることが予想されており、その予防や改善は重要な取り組みとなる。サルコペニアの要因は多岐に渡るが、中でも可変的因子として運動と栄養が挙げられ、近年ではこの両者のコンビネーション介入が注目されている。我々も運動と栄養のコンビネーション介入を実施しており、運動単独に比べて栄養補助を加えることで、筋量の増加効果、歩行速度改善効果、それに転倒発生抑制効果などを認めている。このように適切な介入を実施することで、サルコペニアの予防・改善につながる可能性が示唆されており、今後の更なる発展が望まれる。
著者
佐々木 敏
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.763-768, 2010 (Released:2010-07-05)

昨年(2009年)、厚生労働省から「日本人の食事摂取基準(2010年版)」が発表された。2010年版は2005年版で示された考え方が踏襲されているが、数値の時代から理論・理屈の時代に、そして、活用は数値をあてはめる時代から考える時代に入ったという印象を強く受ける記述になっている。食事摂取基準の基本的な考え方はほとんどが「総論」で記述されている。「総論」の特徴をあげるとすれば、「活用の基礎理論」が盛り込まれたこと、活用目的が3種類に分けられて記述されたこと、そして、アセスメントの重要性が強調されたことであろう。これで現場が食事摂取基準をじゅうぶんに活用できるかといえば、そこまでは至っていない印象が強いが、それでも、栄養管理業務が医療業務のひとつであり、「科学」であるとすれば、食事摂取基準の理論、特に、総論の内容は栄養管理に携わる者が必ず理解していなければならないことは明らかである。
著者
座間味 義人 小山 敏広 合葉 哲也 天野 学 安藤 哲信 倉田 なおみ 名和 秀起 名倉 弘哲 北村 佳久 千堂 年昭
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.1027-1033, 2014 (Released:2014-08-20)
参考文献数
16
被引用文献数
1

【目的】従来の薬剤経管投与法である粉砕法は薬効の減少につながる薬剤量の損失が指摘されている。そこで粉砕法による薬剤量損失に対する簡易懸濁法の有用性について検討した。【方法】頻繁に粉砕指示がなされる5種類の薬剤を用いて粉砕・分包による薬物含量減少、薬剤調製時の懸濁性および実際の経管投与を想定した薬物含量について2つの方法を比較した。【結果】薬剤を粉砕・分包するとそれぞれの薬物含量は減少した。またワーファリン®錠を粉砕して水に溶解すると完全には懸濁せず、小さな塊が生じたが、簡易懸濁法では均一に懸濁した。ワーファリン®錠の経管投与を想定した実験において粉砕法では薬物含量が大幅に減少したが、簡易懸濁法では、ほとんど損失が認められなかった。【結論】簡易懸濁法は粉砕法に比べて薬剤損失の面で有用性が高いことが示唆され、ワーファリン®錠のように安定性が悪い薬剤では特に適正な薬物投与に貢献出来ると考えられる。
著者
望月 弘彦
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.1183-1191, 2014 (Released:2014-10-20)
参考文献数
15

病態が安定しており、在宅復帰によってQOLの改善が見込め、患者や家族が希望していることが HPN導入の前提となる。保険診療上の適応は「医師が必要と認めた場合」であるが、より生理的な経口・経消化管から栄養投与が十分にできないことが絶対条件となる。HPNの合併症としてカテーテルに関連した感染症、カテーテルやポートの閉塞、静脈血栓、血糖や水・電解質異常、肝機能障害などに注意が必要である。アクセスデバイスにはブロッビアック/ヒックマンカテーテルや CVポート、通常の CVカテーテルや PICCカテーテルがあり、予想される HPN施行期間や患者の活動性、余命などを考慮して選択する。在宅への移行にあたっては、十分な患者・家族指導とともに輸液製剤を提供する調剤薬局も含めた在宅担当者との緊密な連携が欠かせない。さらには地域包括ケア病床などのポスト急性期、医療療養病床などの慢性期病院も活用したネットワーク造り:地域一体型 NSTの構築が望まれる。
著者
建宮 実和
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.1171-1176, 2014 (Released:2014-10-20)
参考文献数
6

地域で食支援を行なう訪問看護ステーションを開設した。 「多職種連携」という言葉が聞かれるようになってから久しいが、あなたの住んでいる、もしくは働いている地域で「顔の見える関係」とは、構築されているだろうか。あなたの大切な人が倒れたとき、あなたが老いた時、どんなケアが、どんな場所で、誰に依って提供されるだろうか。地域連携の栄養管理を行う上で、看護師はどのような役割を果たせば良いのだろうか。実践を始めたばかりではあるが、NST専門療法士の資格が、地域連携においてどのようにいかされるか、ステーションでの実践を通して考察する。
著者
吉村 芳弘
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.1235-1237, 2014 (Released:2014-10-20)
参考文献数
2
著者
丸山 道生
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.819-824, 2014 (Released:2014-06-23)
参考文献数
15

摂食・嚥下障害患者にとって、人工的水分・栄養補給(AHN)を行う場合、その多くはPEGが第一選択となる。特に適応上議論のある認知症に関して、欧米では医学的観点からもPEGの効果は認められないとされ、合理的にPEGの適応はないことが導き出されている。しかし、本邦ではPEGは生存も効果も良好であるゆえに、AHNをすると意思決定した場合は、PEGをして長く生きることを、一方、AHNを選択しない場合はPEGを施行せず、早く死ぬことを意味する。その意思決定はより哲学的な問題で、PEGによるQOLの考慮は副次的なものでしかない。医療者・介護者の役割は、患者と家族のPEG選択への苦悩を軽減させること、そして、患者がPEGとそれに続く胃瘻栄養を行った時に、患者と家族のQOLを向上させ、患者の人生の物語を豊かにするのを応援することである。
著者
堤 理恵 西口 千佳 長江 哲夫 前川 ひろみ 中井 敦子 谷本 幸子 三村 誠二 長江 浩朗 栢下 淳子 中屋 豊
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.929-935, 2012 (Released:2012-06-15)
参考文献数
15
被引用文献数
1

【目的】Nutrition Support Team (NST) が稼働している施設において、整形外科手術後7日間の高齢患者に対する栄養摂取状況と必要エネルギー達成率について検討を行った。【方法】対象患者は、全身麻酔下にて整形外科手術を実施した70歳以上の高齢者とし、レトロスペクティブに検討を行った。【結果】対象患者は、本研究の趣旨に賛同した6施設、合計102症例 (男/女 : 36/66) とした。年齢78.2±5.4歳 (mean±SD)。総摂取エネルギー量は、術後1日目1012±602kcal、3日目1280±491kcal、5日目1404±431kcal、 7日目1407±420kcalであり、このうち1-2日目は輸液併用患者が42%であった。また、必要エネルギー達成率は、術後5日目は40%であった。施設間において総エネルギー量はばらつきが大きく最大で2倍以上の差が認められた。【結語】どの施設でも術後の栄養摂取状況は術後5日間で徐々に増加したが、目標量に達成している患者は全体の40%と少ないことが示唆された。
著者
増本 幸二 新開 統子 上杉 達
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.1195-1201, 2012 (Released:2012-10-31)
参考文献数
20
被引用文献数
2

新生児は、各種栄養素の代謝や消化管における消化・吸収において、成人や小児とは大きく異なっている。さらに児の出生体重や在胎週数によっても、各種栄養素の代謝や消化管における消化・吸収は異なっている。そのため、新生児の栄養管理を行う上では、児の出生体重や在胎週数を考慮した、生理的な特殊性を理解する必要がある。新生児の栄養管理でも、まず成人や小児と同様に栄養アセスメントと栄養管理計画書作成を行う。病的な新生児では特に栄養障害を有することが多く、栄養アセスメントと栄養管理計画書に基づき、可能な限り早期に栄養療法を開始する。栄養療法は消化管が使用可能であれば経腸栄養を用いるのが原則であるが、投与量が不十分あるいは、病態的に必要であれば、静脈栄養を躊躇せず行う。なお、静脈栄養、経腸栄養ともに、新生児の代謝や消化吸収の特殊性を考慮し、成長発達を考えた慎重な管理を行う必要がある。
著者
宮澤 靖
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5, pp.1065-1070, 2009 (Released:2009-10-20)
参考文献数
13
被引用文献数
3

近年、高齢者が増加し今後、日本は今までに経験をしたことがない高齢化社会を迎えようとしている。それに伴って、従来施行されてきた栄養サポートの理論が少しずつ変化してきている。特に高齢者の場合は、潜在的に生理機能が低下し栄養サポートでは極めて重要な「骨格筋」が減少して、器質性多疾患に陥っている患者が散見される。高齢者の栄養サポートのポイントは「動いて食べる」ことにつきるが、認知症の発症にて食行動の意欲が減少したり、長期臥床において十分な体動が得られない症例も少なくない。特に体動の少ない高齢者や長期臥床患者においてはエネルギー提供量の過不足による新たな問題も生じるため慎重に検討しなくてならない。本稿においては、高齢者の栄養学視点から見た特徴や従来、多くの施設で施行されているエネルギー必要量の算出式の問題点、身体計測等を概説する。
著者
井上 善文
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.1163-1167, 2009 (Released:2009-12-21)
参考文献数
12

インラインフィルターを、感染予防目的に使用すべきかについての議論がある。0.2μmのフィルターも仮性菌糸を伸ばして増殖するCandida albicans の貫通を阻止できないという報告がある。これらの問題に対し、臨床をシミュレートした実験を行った。その結果、流入側が孔径の大きな多孔質層、流出側が孔径の小さい緻密層から構成された非対称膜から成るフィルターではCandida albicans の通過を阻止できないことを証明した。さらに、対称膜から成るフィルターは7日間、Candida albicans だけでなく、細菌の貫通も阻止できることを証明した。アミノ酸を含むTPN輸液が微生物増殖の良好な培地であることは明らかである。完全な輸液の無菌調製ができていない場合には、感染予防を目的としたインラインフィルターを使用することが、理論的にも適正な管理方法であると思われる。
著者
井上 善文
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.3_255-3_260, 2008 (Released:2009-04-30)
参考文献数
10

本邦におけるNST活動は、稼動施設数やJSPEN会員の増加など、大きな成果を残しているように見える。しかし、このNST活動が施設内に定着し、すべての患者に対して適切な栄養療法が実施されるようになったかと考えると、数多くの問題が残されている。医療従事者の栄養療法に関する知識不足も1つの問題である。最も根本的な問題が医師の栄養療法に対する姿勢である。医学生に対する臨床栄養教育、卒後教育が明らかに不足している。医師が栄養療法の意義・重要性を認識し、適切な栄養療法を実施しようとすれば、自ずとNSTの必要性が実感されて活発なNST活動が実施できることになる。TNTおよびNST医師教育セミナーなどを積極的に推進し、医師の臨床栄養に関するレベルアップを図ることがNST活性化のための最重要課題である。
著者
小林 由佳 中西 弘和
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.627-634, 2013 (Released:2013-04-24)
参考文献数
6
被引用文献数
5

がん患者に対する積極的な栄養療法は否定的であったが、近年はがん患者への積極的な栄養療法が提案されるようになってきた。しかし、がん患者の多くはがん化学療法や放射線療法などに伴い摂食障害になることも多く、また、がん特有のがん悪液質が原因となることで栄養不良が起こり得るため、早期からの栄養管理を行うことはとても重要である。特に外来化学療法を受ける患者は家庭で日常生活を送り、栄養管理を家族や自身で行いながら治療を受けることになるため、様々な問題を抱えている。そこで、特にがん化学療法の副作用として摂食障害の原因となる悪心・嘔吐、味覚異常、口腔粘膜炎、食欲不振の対策について、定義、発現機序、発現時期、症状、予防対策、栄養療法や食事内容の工夫について述べるが、患者及び患者家族のquality of life (QOL) に大きく影響する摂食障害を画一的に対応することは困難である。実際の臨床現場では患者個別の対応が望まれる。
著者
北川 泰久
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.1003-1008, 2014 (Released:2014-08-20)
参考文献数
18
被引用文献数
3

日本は超高齢化社会を迎え、がん、認知症患者が増え、疾患を有する高齢者の栄養をいかに管理するかが社会的に大きな問題となってきている。特に、高度の認知症に対する胃瘻(PEG)の適応に関しては、延命治療の是非にも議論が及び混乱を招いている。 1980年初期に導入された PEGの新規造設件数は現在、20万件を越し、これからも高齢者の増加とともにますます重要となってくる。本稿では適応からみたPEGという内容で、その現状と今後の課題について述べてみる。
著者
海塚 安郎
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.671-682, 2012 (Released:2012-05-10)
参考文献数
57

急性呼吸不全は肺酸素化障害が主病態であり、原因は細菌性肺炎、誤嚥性肺炎、間質性肺炎、刺激性のガスの吸入、敗血症、多発性外傷、ショックなど数多くあり、それらは肺の直接障害によるものと全身性炎症反応の標的臓器となり発症する場合がある。治療は、原因への治療と呼吸循環をはじめとする全身管理で構成される。侵襲に伴い神経-内分泌-免疫系が賦活され代謝動態は異化亢進となる。さらに呼吸不全では呼吸仕事量の増加、挿管による新たな感染症のリスク、広域抗菌薬使用による正常細菌叢の乱れ、ステロイド使用による高血糖、喀痰力の維持改善の点からも全身管理の一環として代謝・栄養管理が重要であり、早期からの経腸栄養が推奨される。初期投与設定では、熱量は25kcal/kg/日 (20≤BMI≤25) とし、使用する栄養剤は1.5~2.0kcal/mL濃度、タンパク質投与量は1.0-1.2g/kg/日、脂質含量15~30%を基準とし、血糖値は120~160mg/dLとする。炭酸ガス産生抑制が必要な病態では脂質含量を増やす。その後は血液生化学データの推移を確認し電解質および体液の厳密な管理を行い、その上で患者の個別性を反映 (投与熱量、タンパク質量の調節) した栄養管理を行う。ALI/ARDS症例へのn-3系脂肪酸、γリノレン酸、抗酸化物質を強化した栄養剤は現状では「考慮すべき」レベルである。