著者
吉田 英嗣
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.8, pp.544-562, 2004-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
46
被引用文献数
4 4

第四紀の成層火山を持っ流域の地形発達には,大規模山体崩壊など,火山特有の侵食過程に伴う土砂供給が関与し得る.本稿ではその一例として前橋・高崎地域の地形発達を検討した.24ka頃,利根川が形成する扇状地面上に前橋泥流堆積物が堆積した結果,泥流堆積域で地表が緩傾斜化し,河床高度が増した.利根川は泥流堆積面を侵食し,16ka以降,河道を定めて広瀬面を形成した.前橋泥流堆積面である前橋面上には,前橋泥炭層が広範に形成された.11ka頃,前橋泥流堆積面を侵食していた烏川の谷を含む高崎地域に,井野川泥流堆積物が流下し,鳥川は河道を現在の位置に変えた.この烏川は井野川泥流堆積面(高崎面)を下刻し,高崎面が離水した.さらに,高崎面東部で井野川泥流堆積物を刻む水系が,侵食面の井野面を形成した.両泥流の堆積は,本地域における複数回の大規模な河道変遷を招き,ひいては地形発達を長期的に規定してきた.
著者
上杉 和央
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.13, pp.823-841, 2007-11-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
63

江戸時代, とりわけ18世紀以降の地図収集のネットワークについて, これまで具体的に論じられたことはなかった. 本稿では大坂天満宮祝部渡辺吉賢の収集した地図を出発点にして, 地図の貸借をしていたことが明らかな人物を網羅的に提示し, そのうち代表的な人物にっいて吉賢との関わりを論じた. そして, その上で地図収集のネットワークの広がりにっいて検討を行った. その結果, 日本中にネットワークが広がっていたこと, 身分や職業を越えて地図の貸借があったこと, そして世代を超えた時間的広がりを持ったネットワークになっていたことなどを指摘した. また, このようなネットワークは, 森幸安の地図作製にも関わるなど, 地図史の展開において不可欠な役割を担っていたことも明らかにできた.
著者
森川 洋
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.421-442, 2002-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
107
被引用文献数
4

今日の急激な社会変化に対応して,欧米諸国では地理学者の多くが地域概念に注目している.その場合に,社会科学としての人文地理学には今日の社会存在論に適合した地域概念を構築し,研究に利用することが要求される.本稿ではドイツ語圏における地域に対する考え方とその変化をたどり,今日論議されている問題点を紹介する.WerlenはGiddensに倣って現代社会をポストモダン社会ではなく近代末期として解釈し,近代社会の特徴を脱定着化,時空間を超えた社会システムの広がり,グローバル化としている.しかしその解釈は,伝統的社会と近代的社会の差異を中心に考えたもので,情報技術や交通の発達とグローバル化に基づく現代社会=近代末期社会の特徴を明確に示したものとはいえない.人文地理学で考えられた地域概念の発達史をたどってみると,「実在する全体的地域」から研究者の分析的構築物または思考モデルとみられるようになり,さらに,人間行為によってつくられた社会的構築物と考えられるようになった.ドイツ語圏では地域概念は今日なお玉虫色をなしていて種々の見方があるが,地域はグローバル化と平行して発展する傾向にあると考える人が多い.地域の特徴や形態は変化するとしても,それは将来もなお重要な研究対象として存続するであろう.地域的アイデンティティを加えた地域の重合関係や他地域との結合関係を中心とした地域構造の研究が今後重要であろう.地域の計画面における実用的価値も低下することはない.
著者
篠田 雅人 森永 由紀
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.13, pp.928-950, 2005-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
61
被引用文献数
21 19

干ばつは過去数十年間に世界で起きた自然災害の中で最も被災者が多い.1970年代後半以降,エルニーニョ/南方振動の温暖位相への移行と同調して,強い干ばつが世界で広域的に発生する傾向にある.モンゴル国では乾燥かつ寒冷という厳しい気候ゆえに,基幹産業である遊牧が干ばつとゾド(家畜の大量死につながる寒候季の寒雪害)に繰り返し脅かされてきた.本研究では,世界にある干ばつの早期警戒システムとモンゴル国における気象災害業務・研究を概観し,この地域の自然・社会経済条件に適合した気象災害の早期警戒システムを提案する.忍び寄る災害である干ばつ・ゾドは,深刻化する前に先行時間があるため,定量的予測の不確実な天候の長期予報の助けを借りないでも,気候メモリとしての陸面状態(土壌水分,植生,積雪,家畜の状況など)を的確にモニタリングしていけば,災害予測と影響緩和が可能である.
著者
青山 雅史
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.8, pp.529-543, 2002-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
40
被引用文献数
3 2

かつては日本アルプスのカール内にある岩塊堆積地形の多くがモレーンやプロテーラスランパートと考えられてきたが,その中に岩石氷河が含まれる可能性も指摘されている.この指摘の妥当性を検討するために,空中写真判読と現地調査を行った.その結果,岩石氷河と認定可能な地形が多数存在することが明らかとなった.たとえば,周縁部に切れ目のない連続性の良いリッジを持ち,その内側に同心円状の畝・溝構造を有する岩塊堆積地形や,畝・溝構造が未発達であっても前縁部のリッジが崖錐基部付近にある岩塊堆積地形は,形態と堆積物の特徴からみて,岩石氷河の可能性が高い.したがって,カール内の岩塊堆積地形を用いて氷河の消長や古環境変遷を論じる際には,あらかじめ地形の成因を十分に吟味する必要がある.
著者
Raelyn Lolohea 'ESAU
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.352-367, 2004-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
81
被引用文献数
1 2

The purpose of this study is to examine socio-cultural aspects of international migration from Tonga and its impact based on the behavioral approach, which has thus far been neglected in existing literature associated with the country's migration. An interview and questionnaire survey of 150 households from the three island groups in Tonga was conducted. As a result, the following findings were obtained. Household size has recently decreased due to transformation from the extended family to the nuclear family and emigration from Tonga. Consequently, the number of migrants per household is larger than before. The individual or nuclear family rather than the extended family plays a greater role in migration decisionmaking now. With respect to the reason for migration, an increasing motivation to migrate for study abroad since the 1990s is remarkable. Reliance on remittance is not significant partially due to the increase in student migration. Furthermore, there is an obvious tendency for migrants to marry persons with Tongan nationality, and, thus, they are quite likely to settle in their host countries and not return to Tonga.
著者
森 正人
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.1-27, 2005-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
117
被引用文献数
1 2

本稿は,「節合」という概念を手掛かりとして, 1934年の弘法大師1100年御遠忌で開催された「弘法大師文化展覧会」を中心として,弘法大師が日本文化と節合され,展示を通して人々に広められる過程を追う.この展覧会は,戦時体制に協力する大阪朝日新聞と御遠忌を迎えた真言宗による「弘法大師文化宣揚会」が開催したものであった.この展示には天皇制イデオロギーを表象する国宝や重要文化財が,弘法大師にも関係するとして展示された.また展示会場は近畿圏の会館や百貨店であり,特に百貨店では都市に居住する広い階層の人々に対して,わかりやすい展示が試みられた.このような種別的な場所での諸実践を通して国民国家の維持が図られた.ただし会場を訪れた人々は,イデオロギーの中に完全に取り込まれてしまうのではなく,それを「見物」したり,娯楽としてみなしたりする可能性も胚胎していた.
著者
杉浦 芳夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.11, pp.566-587, 2006-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
83
被引用文献数
1 3

本稿では,オランダのアイセル湖ポルダ-における集落配置計画と中心地理論との関係を,文献研究を通して考察した.四つの干拓地のうち,当初の集落配置プランに中心地理論がヒントを与えた可能性があるのは北東ポルダーであり,その場合,形態論的側面にだけ限定すれば, Howard(1898)の田園都市論を媒介にしている可能性がある.東フレーフォラントと南フレーフォラントについては,上位ランクの集落配置は,考え方の点で,明らかに中心地理論の影響を受けているTakes(1948)の研究『本土と干拓地の人ロ中心』に基づいてなされた.東フレーフォラントの下位ランクの集落配置については,都市的生活を指向し,車社会に移行しつつあった当時のオランダ農村事情に通じていた社会地理学者らめ意見に基づき,中心地理論が厳密に応用されることなく行われた.ポルダー関連事業で活躍したこれらオランダの社会地耀学者の調査研究成果は,中心地理論研究史の中でも評価されて然るべき内容のものである.
著者
森川 洋
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.9, pp.503-524, 2007-08-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
32

メクレンブルク・フォアポメルン州では職員過剰の現状と将来の人口減少予測や東ドイツ支援資金の廃止予定により, 郡の機能改革だけでなく地域改革をも含めた「行政近代化計画」が進行している. 州は職員支出を抑えるために多くの州職員を郡に移管するので, その受入れのためには, 郡の合併と特別市の郡復帰によって, 面積3,200~7,000km2からなる広域郡を形成する予定である. それは自治体自治の強化を無視し, 規模の経済による行政の合理化だけを意図した改革であり, 基本法や制度法に抵触するといわれ, 郡も特別市も市町村やアムトもこの改革に反対している. この「行政近代化計画」においては, 改革費用の問題をはじめ, 公聴会の開催や現行制度に対する「欠陥分析」, 改革頻度などの問題が取り上げられた. 政治的決着による五つの広域郡についても, 役場の距離や郡域の均等発展のほか, 特別市の郡復帰に伴う問題点, さらには空間整備計画との関係などが論議された. 将来この改革が法的に承認されたとしても, 新連邦州のすべてが本州と同じ道を歩むとはいえないであろう. 本稿の目的は, この「行政近代化計画」を通してドイツにおける行政システムの問題点を検討することにある.
著者
石川 菜央
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.8, pp.638-659, 2008-11-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
51
被引用文献数
3 4

本研究の目的は, 闘牛開催地が全国的に担い手不足に悩む中, 徳之島において闘牛が盛んに行われ, 若い後継者が続々と現れている要因を解明することである. 具体的には, 闘牛大会の運営方法, 後継者を生み出す仕組み, 担い手にとっての意義の3点に着目し, 娯楽の側面, 行事をめぐる対立, 女性の役割を踏まえなら分析した. その結果, (1) 島内からの多数の観客が大会を興行として成り立たせ, 行政の支援や観光化なしでの運営を可能にしていること, (2) 牛舎が若者を教育する場になる上, 大会での応援を通して牛主以外の多くの人々が闘牛に関わること, (3) 親しい人物のウシとは取組を避け, 取組相手とも友人関係を築く切替えの早さを前提に, ウシの勝敗が日常の社会的評価とは異なる価値基準として島内で確立していることを指摘できた. 担い手は, このような闘牛に強い愛着を持っており, 島に住み続ける大きな動機にもなっている.
著者
Ren'ya SATO
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.5, pp.349-360, 2008-05-31 (Released:2010-03-12)
参考文献数
119
被引用文献数
1

This paper reviews the major researches on African area studies conducted during the past 20 years by Japanese geographers. Mainly three major trends are reviewed and examined to find common interests and future directions: (1) Studies by physical geographers on late Quaternary environmental history, physical as well as anthropogenic impact on formation or change of landscape, and human response to currently changing environment, (2) Studies on subsistence economy, technology and strategy of local people including concerns of interaction among local groups and historical dynamics, (3) Political economy and political ecology that focus on coping behaviors and strategies of various actors in rural as well as urban areas with unstable environment stemming from global or national political economy.
著者
Toshio KIKUCHI
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.5, pp.336-348, 2008-05-31 (Released:2010-03-12)
参考文献数
22
被引用文献数
4 6

In this paper we point to “rurality” as an option within “urbanity” in the urban fringe of the Tokyo metropolitan area as well as discuss some ways for recreating rurality and a mechanism for restructuring it within a sustainable rural system. Rural and urban residents have been mixed in the urban fringe, and rurality has been diminishing with the increasing number of urbanites and the decreasing amount of rural land use. In some parts of the urban fringe, however, a sustainable rural system has been restructured through the establishment of farm shops, social networks, and activities connected to the conservation of forestland. These functions as a node to connect rurality with urbanity, and reinforcing this connection over time has led to the development of a sustainable rural system that comprehensively combined characteristics of rural and urban communities. Explaining how a sustainable rural system is restructured through intertwining rurality and urbanity is an important issue for contemporary geographical studies.
著者
Kazutoshi ABE
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.5, pp.262-278, 2008-05-31 (Released:2010-03-12)
参考文献数
77
被引用文献数
2 2

The aim of this article is to examine recent research trends in urban geography in Japan. For this purpose, papers from five major academic journals on geography were reviewed. It has been found that the number of articles on urban geography increased consistently in Japan after World War II, reaching a peak in the 1980s. Although the number decreased somewhat in the 1990s, it is again increasing in the 21st century. Trends in these articles may be summarized as follows: 1) a decrease in studies that examine cities as a single point; 2) an increase in studies that examine cities as an area; 3) an increase in studies that analyze urban functions; 4) a decrease in studies that use quantitative techniques; 5) an increase in studies that focus on humans themselves; and 6) an increase in studies that deviate from traditional categories. Another important point is that there have come to be a greater number of studies that examine some aspect “in cities” than studies “of cities.” A change in the writing style of research reports is also seen. Human agency continues to be a problem taken up in studies of urban geography. In the past, few papers quoted from people directly, whereas today this way of writing is not uncommon. In addition, nowadays there are also articles that directly quote individual opinions and judgments. From the above, recent urban geography may be summarized as having an increasing number of studies that view cities as areas, which serve as the field for examinations of urban functions, people's lives, or social groups, and that emphasize direct voices and narration. The influences of humanistic geography can be seen in the background. However, with excessive focus on urban functions or humans themselves, we run the risk of “not being able to see the forest for the trees.” It should also be pointed out that a writing style which relies too much on direct quotes or narration risks the identity of urban geography.
著者
Yoshitaka ISHIKAWA
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.5, pp.247-261, 2008-05-31 (Released:2010-03-12)
参考文献数
103
被引用文献数
2 4

This paper reviews the existing literature on Japanese population geography since 2000 by major population topics, including projection, birth/death, migration, distribution, and household/marriage. Among these themes, migration studies (in particular, internal migration) still occupy a considerable proportion. The increase of GIS-based investigations is worthy of attention. Concerning the contribution of Japanese population geography as a whole, the following two things can be demonstrated. First, some Japanese population geographers have published major works in prestigious English foreign journals and have eagerly pursued international comparisons or joint studies with foreign researchers. Second, much of the research presumably deals with the manifold empirical aspects of the geographical impacts of Japan's population decline. Finally, a few problems concerning the existing literature are also mentioned.
著者
菊池 慶之
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.4, pp.131-149, 2008-05-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
43
被引用文献数
2 1

日本の都市内部構造は, 1970年代後半以降, 都心の盛衰と郊外の消長によって, 形態的な多様性を増してきた. そこで本稿では, 都市内部構造の多様化とその要因を明らかにすることを目的とする. 手法としては, 地域メッシュ統計を利用して157の都市地域を取り上げ, 1981~2001年にかけての従業者密度分布の変化を分析した. この分析の結果は, 以下の5点にまとめられる. 第1に, 日本の多くの都市では, 1990年代以降, AD (Agglomeration District) の空洞化が一般的な傾向となり, 下位階層の地方中小都市ほどADからの従業者の流出が進んでいた. 第2に, SD (Suburban District) の拡大は, 1980年代からすでに多くの都市で一般的な傾向となっていた. 第3に, 下位階層の都市ほど相対的なADの密度低下が進む傾向にあり, 都市間の格差が拡大していた. 第4に, 国土の中核部の都市ではADの空洞化とSDの拡大が著しいのに対して, 周縁部の都市の内部構造は安定的であった. 第5に, 早くからダウンサイジングが進んだ都市のいくつかに再集中化傾向が生じているのが確認された.
著者
梶田 真
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.60-75, 2008-02-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
31
被引用文献数
1 4

本稿では, 地方交付税削減策の実態を詳細に検討した上で, 利害関係者の動きに注目しながら, 市町村合併政策との関係の中で小人口町村を対象とした地方交付税削減策が強く推進されたことに対する解釈を試みた. 分析の結果, (1) 地方交付税削減策と小人口町村の財政状況の悪化, 財政担当者の自町村の財政状況に関する認識の変化は時期的に明瞭に連動している, (2) 近年の小人口町村に対する基準財政需要額算定額に関する定量分析の結果, 2001年度という新たな転換点が検出された. この年度を境として, 重み付き回帰モデルの各パラメータの数値は, 増加から減少に転じ, 小人口町村の経常収支比率も急上昇する, (3) 構造改革を掲げた小泉政権の発足を契機として, 2001年度以降, 総務省は地方交付税制度の骨格を守るために小人口町村をスケープゴート的に扱うようになった, という3点が明らかになった.
著者
関根 智子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.76-87, 2008-02-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
17

本研究は, 東京都足立区北東部を事例として, GIS上で25,359棟の建物に対し, 商業施設の一つであるコンビニエンスストア (以下, コンビニと略称) への最短道路距離を求め, 建物レベルの近接性を測定した. 建物レベルの近接性の分布を詳細に検討したところ, 近接性は道路網のパターン, 施設と道路網の位置関係, 建物と道路網の位置関係, 施設同士の位置関係, などによって規定されていた. 次に, 建物レベルの近接性と, 町丁目中心点からみた町丁目レベルの近接性を比較したところ, 町丁目レベルでは, 施設への平均距離が若干長いことから, 全体的にみると近接性は多少悪くなった. 最寄りのコンビニは, 町丁目の境界を成す主要道路沿いかその外側に8割立地していることから, 町丁目中心点に比べて, 主要道路沿いにも分布する建物の方が, コンビニへの近接性は良くなると考えられる. したがって, 近接性を測定する場合, 地域単位の中心点と建物とのコンビニに対する位置関係の差が, 生態学的誤謬をもたらす原因となっていることが明らかとなった. 最後に, 町丁目内における建物レベルの近接性の差異を分析したところ, 近接性が“良い”町丁目内では内部の差異は小さかった. それに対し, 近接性が“普通”の町丁目内では差異が大きくなる傾向がみられることから, 町丁目の中心点で近接性を代表させることの限界が明らかになった.
著者
畠山 輝雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.13, pp.857-871, 2007-11-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
15
被引用文献数
5 5 1

平成の大合併では, 財政的な議論が中心となり, 住民サービスへの対応が後回しとなったため, 峠などのサニビスの地理的分断条件を伴う合併が全体の約4分の1を占めた. そこで, 地理的分断条件が高齢者福祉サービスへ与える影響について, 群馬県沼田市を事例に明らかにした. 沼田市では, 白沢地区と利根地区の間にある椎坂峠が通所サービスの分断条件となっていた. 合併後のサービス体制の不備の結果, サービス空間の再編成が行われたにもかかわらず, 峠越えによる時間的, 精神的負担および住民意識における旧市町村の枠組の残存が要因となり, 合併当初は地区間のサニビスの相互利用は進まなかった. 地理的分断条件を含む市町村においては, 合併後の高齢者福祉サービスに関する計画について, 市町村域を一体的に考えるのではなく, 地理的条件を考慮した上で, 旧市町村域もしくはさらに詳細な地域ごとに計画を作成する必要があ名.
著者
山口 太郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.9, pp.525-540, 2007-08-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
27
被引用文献数
1

本研究では, 敷地の広さや緑の豊かさから環境の良い住宅地として評価されている戦前期に開発された郊外住宅地に対して, 時代を経たことによるさまざまな変容の結果としての現況を, 景観観察から分析した. 新宿区中井地区を事例に, 可視的な景観構成要素に対し, 景観観察に基づくデータ化と, それらのデータを使用して計量分析手法による景観の類型化を行い, 中井地区の景観の特徴を分析した. その結果,「商・住併用を含む低・中層住宅」,「前面に駐車スペース等を持つ住宅」,「敷地規模が大きく植栽の豊富な戸建住宅」,「中・小敷地規模の住宅+諸施設」の4類型が得られた. 景観を重視したまちづくりが注目される今日, 地理学から何ができるかを考えたとき, 景観観察からいくつかの景観類型が得られた本研究を通じて, 可視的な景観構成要素に注目することと, まちづくりに求められている小スケールでの調査の意義を提示できたのではないかと考える.