著者
齋藤 元子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.6, pp.413-425, 2005-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23

学制公布の翌年1873(明治6)年に文部省の指示を受けて,師範学校が編纂した最初の官製地理教科書『地理初歩』は,アメリカ人コーネルの地理書を底本にしたといわれている.コーネルの地理書は,5段階のシリーズ教科書と自然地理書の6種類がある.これまでCornell's Primary Geographyを底本に, Cornell's High-School Geographyを補足本に用いたという説と, Cornell's First Steps in Geographyを底本にしたという説が提示されているが,詳細な検証はなされていない.本稿は,『地理初歩』の底本を明らかにすることを目的として,『地理初歩』の本文ならびに挿入図のすべてを, 6種類のコーネルの地理書と対比させ,文章の引用関係を調査した.その結果,『地理初歩』の底本はCornell's Primary Geographyであり, Cornell's First Steps in Geography, Cornell's lntermediate Geography, Cornell's Grammar-School Geographyを補足に用いたことが明らかになった.
著者
斎藤 功
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.53-81, 2006-02-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

ロサンゼルスの近郊酪農は都市の拡大とともに,南東部のアルテジア地域に集中し,1940年頃には搾乳型専業酪農drylot dairyが確立した.酪農家はこのアルテジア地域からチノバレーへ,さらにチノバレーからサンホワキンバレーへという3段階の立地移動を繰り返した.この延長線上に北部諸州やハイプレーンズへの立地移動がある.本稿は3段階にわたる酪農家の立地移動の実態と要因を解明し,その民族的背景を探ったものである.1960年代のアルテジア地域からチノバレーへの立地移動で,搾乳型専業酪農の規模は2倍の700頭に拡大した.1980年代,特に1990年代にチノバレーからサンホワキンバレーに移転した酪農場は搾乳規模が2,000~3,000頭になる大規模な工業型酪農に変身した.その際,兄弟や息子が独立する複数移動や連鎖移動が存在した.サンホワキンバレーでは移動時期と酪農規模に明確な差があるので,チノバレーの30年間が規模拡大のゆりかごになった.また,大規模酪農家の転入によりオランダ系酪農家がポルトガル系酪農家と肩を並べるまでになった.さらに,チノバレーなどから北部諸州やハイプレーンズに移転した大規模酪農家は,そこでも悪臭などの大気汚染や硝酸塩濃度の上昇という環境汚染を引き起こしつつあり,集団畜産肥育経営(CAFO)をめぐる規制が強化されつつある.
著者
成田 健一 三上 岳彦 菅原 広史 本條 毅 木村 圭司 桑田 直也
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.6, pp.403-420_1, 2004-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
31
被引用文献数
33 30

新宿御苑を対象に夜間の冷気の「にじみ出し現象」の把握を主眼とした微気象観測を夏季約7日間連続して行った.緑地の境界に多数の超音波風速温度計を配置し,気流の直接測定から「にじみ出し現象」の把握を試みた.その結果,晴天かつ静穏な夜間,全地点でほぼ同時に緑地から流出する方向への風向の変化と約1°Cの急激な気温低下が観測された.にじみ出しの平均風速は0.1~0.3 m/sで,にじみ出し出現時にはクールアイランド強度が大きくなる.このときの気温断面分布には流出した冷気の先端に明確なクリフが現れ,その位置は緑地境界から80~90 mであった.このような夜間の冷気の生成に寄与しているのは樹林地よりも芝生面で,芝生面は表面温度も樹冠より低い.芝生面の顕熱流束は夜間負となるが,にじみ出し出現夜はほぼゼロとなる.すなわち,クールアイランド強度の大小と大気を冷却する効果の大小は,別のものと考えるのが妥当である.
著者
Hiroaki MARUYAMA Takaaki NIHEI Yasuyuki NISHIWAKI
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.5, pp.289-310, 2005-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
32
被引用文献数
3 4

The Brazilian Pantanal, the world's largest wetland holding abundant wildlife, has recently drawn profound concern about the development of the tourist industry. To provide significant proposals for ecotourism in the wetland, we believe that detailed data acquired by fieldwork is requisite, This study examines the regional bases that carry regional ecotourism, and attempts to present some proposals for ecotourism from the case of the north Pantanal. The results are shown as follows in order of regional scale. (1) In the water source of the Pantanal, Cerrado region, it is necessary to make efficient plans to control recent agricultural development, especially in soybean and cotton production. (2) On the wetland level, legally protected areas such as national parks and RPPN (Reserva Particular do Patrimônio Natural) should be extended. (3) On the municipal level, environmental subsidies are needed for disused goldmines, and for the maintenance of tourist infrastructures such as Transpantaneira and MT 370. (4) Modern hotels and eco-lodges need to provide ecotourism organized by local people, and to equip the facilities with adequate sewage facilities and garbage recycle plants to preserve the natural environment.
著者
前田 洋介
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.6, pp.425-448, 2008-07-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
56
被引用文献数
5 1

本研究は, ローカルに活動するNPO法人の担い手と成立ちを明らかにすることを通して, 東京大都市圏におけるNPO法人の分布の空間的特徴に説明を加えることを目的とする. 分析結果からは, 東京大都市圏では, 都心部にNPO法人が集中する一方で, 東京西郊を中心とする郊外にもNPO法人が広く分布しており, そこではローカルに活動するNPO法人の割合が多いという空間的特徴が示された. そして, 多摩市で実施したインタビュー調査からは, ローカルに活動するNPO法人は性別役割分業のもと, 既婚女性を中心に日常的活動が支えられていること, そして地縁を越え, 多摩市程度の広がりを持ったさまざまな選択縁ゐもとに成立していると特徴づけられた. これらの点は, 東京西郊を中心とする郊外にNPO法人が多いことの一っの背景として考えられる. また, ローカルに活動するNPO法人の分布は, 担い手レベルで東京大都市圏の社会地域構造と関係していると考えられる.
著者
富田 啓介
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.6, pp.470-490, 2008-07-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
26
被引用文献数
1

愛知県尾張丘陵および知多丘陵に分布する8ヵ所の湧水湿地 (湧水によって形成された湿地) を事例として, 湿地内にみられる植生分布と, 地形および堆積物との関わりについて検討した. 谷壁斜面にみられる湧水湿地4地点と谷底面にみられる湧水湿地4地点にベルトトランセクトを設置し, 区域内の植生と堆積物の厚さの分布を調べた. 堆積物は, 谷底面の湧水湿地では厚く, 谷壁斜面の湧水湿地では薄かった. 植生にっいては, 谷底面の湧水湿地ではヌマガヤの優占する植被率の高い植生が, 谷壁斜面の湧水湿地ではイヌノハナヒゲ類などからなる植被率の低い植生がそれぞれ卓越していた. 谷壁斜面の湿地でも, 堆積物の厚い部分ではヌマガヤの優占する植被率の高い植生が卓越することが多かった. これらの結果は, 湧水湿地では地形が堆積物の厚さに影響を与えること, 植生分布と堆積物の厚さが密接に関係する場合があることを示している.
著者
Taisaku KOMEIE
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.12, pp.664-679, 2006-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
64
被引用文献数
6 12 4

Japanese colonial environmentalism in early twentieth-century Korea is examined with special reference to academic representations of hwajeon or shifting cultivation. Tracing the progress of the project for the disposal of hwajeon and the accompanying researches in forestry, geography, and agronomy, the author discovered that there was an intricate but strong relationship between the scientific discourses and colonialism in the name of conservation. After the Japanese annexation of Korea in 1910, the colonial foresters began to map the condition of the forest areas and to exclude the shifting cultivators in order to save the woody lands from them since these cultivators had apparently destroyed the Korean natural environment from the southern area up to the north for centuries. The disposal project mobilized academic researchers in geography and agronomy and was revised by them in the 1920 s. Hwajeon was found to be more systematic and stable than the foresters had supposed but was definitely represented as a destroyer not only of timber but of the national land itself and then a subject of “improement” in the 1930 s. The serial mapping and researches had a critical influence on the manner of understanding and treatment of the indigenous agriculture, although some of the Koreans and also Japanese considered it to be a debatable issue.
著者
佐藤 大祐
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.8, pp.599-615, 2003-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
49
被引用文献数
2 2

本稿は明治・大正期の日本において,ヨットというスポーツがいかに伝播したのかを,ヨットクラブの結成とクラブ会員の社会属性,および当時の社会的背景に注目して明らかにした.その結果,ヨットは居留地外国人・駐日外交官から日本人華族・財界人へと受容基盤を変化させるとともに,外国人居留地から高原避暑地,海浜別荘地へと伝播し,定着したことがわかった. まず,ヨットは欧米列強の植民地貿易の前進基地である外国人居留地に導入された.横浜では,居留地貿易を主導した商館経営者や銀行・商社駐在員,外交官などの外国人によって,ヨットクラブが1886年に結成され,彼らの社交場として機能した.その後,ヨットは1890年代に形成された中禅寺湖畔の高原避暑地.に伝播し,ヨットクラブが1906年に結成された.この担い手はイギリスやベルギーなどの駐日公使をはじめとする欧米外交官であった.中禅寺湖畔では,東京における欧米外交官と日本人華族の国際交流が夏季に繰り広げられた.そして,ヨットは海浜別荘地である湘南海岸において,華族を中心とする上流日本人の間へ1920年代から普及していった.
著者
Satoshi IMAZATO
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.5, pp.323-335, 2008-05-31 (Released:2010-07-01)
参考文献数
117
被引用文献数
1 3

This paper overviews the progress in the social and cultural geography of Japanese rural areas from the mid 1990s to the mid 2000s by considering four topics: political and economic restructuring, sustainable systems of social integration and subsistence, self-governance of natural environments, and the history of the social construction of rural images. Today, Japanese rural geographers encounter two kinds of globalization: economic globalization, which directly or partially influences the four phenomena above, and the globalization of research activities by geographers who must internationally develop their own theoretical frameworks on these topics.
著者
吉田 圭一郎 岩下 広和 飯島 慈裕 岡 秀一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.10, pp.516-526, 2006-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
35
被引用文献数
3 9 4

本研究では父島気象観測所で観測された78年分(戦前: 1907~1943年,占領期間: 1951~1959年,返還後: 1969~2000年)の月別気温および降水量データを用いて小笠原諸島における水文気候環境の長期的な変化を解析した.占領期間および返還後の年平均気温は戦前と比較して0.4~0.6°C 高く,年平均気温の上昇率は0.75°C/100yrであった.また,返還後の年降水量は戦前に比べて約20%減少した.修正したソーンスウェイト法により算出した月別の可能蒸発量と水収支から,年平均の水不足量(WD)が戦前に比べ返還後には増加したことがわかった.また,返還後は夏季において水不足となる月が継続する期間が長くなった.これらのことから小笠原諸島における20世紀中の水文気候環境は乾燥化の傾向にあり,特に夏季に乾燥の度合いが強まり,また長期化することにより夏季乾燥期が顕在化した.
著者
成瀬 厚 杉山 和明 香川 雄一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.10, pp.567-590, 2007-09-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
85
被引用文献数
3 3 1

近年, 日本の人文地理学において, 言語資料を分析する研究が増加しつつある. 本稿では, そのような論文を方法論的な観点から批判的に検討することを目的とする. まずは日本の地理学における言語資料分析を概観し, 言説概念の英語圏地理学への導入・批判を紹介することを通じて, 地理学研究で言語の分析をすることの意義を探求した. 人文地理学における言語の分析は, 単に新たな研究の素材の発掘や量的分析を補完する質的分析にとどまらない可能性を有している. それは, 社会を根源的に見直す概念となり得る. 現在の研究に不足しているのは, 言語資料の分析方法に関する詳細な検討, 関係する主体のアイデンティティの問題, そしてその言葉の生産過程における政治性への認識, である. 地理学的言説分析とは, 生産された言葉が発散するように地理空間に流通し, それを人々が消費し, 解読することによって, 意味的に収束させていく過程を分析し, また同時に, その意味的収束において発信者と受信者のアイデンティティと記述要素としての地理的要素との関係を論じていくことである.
著者
武者 忠彦
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.6, pp.421-440, 2004-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
34
被引用文献数
2 1

本稿では,地方都市の宅地開発政策にみられる農協の主体的な役割を,政策過程分析の枠組を援用して明らかにしている.事例とした長野県松本市における宅地開発の政策過程は,次のように再構成される.(1)1980年代初め,無秩序な開発による財政需要の増大と,開発を抑制することによる隣接市町村への人口流出という相反する問題に直面していた松本市では,市街化区域拡大によって周縁部の農地を開発し,人口を定着させることが行政課題として正当化された.(2)一方,当初は市街化区域拡大に反対であった農家の立場も徐々に変化してきたことから,行政は農家の利益団体である農協との協働によって「地域開発研究会」を設立し,区画整理事業を推進するという政策を選択した.(3)行政にとっては事業の合意形成などにおける農協の主体的役割は不可欠であり,農協にとっても市街化区域拡大による事業は組合員の農外所得創出,資金運用や不動産取引に関する利益があった.このような,両者の利益の接点となる政策実現のため,農協の主体的な役割は地域開発研究会によって制度的に維持されていた.
著者
遠藤 匡俊
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.19-39, 2004-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
57
被引用文献数
2 2

本研究の目的は,1800年代初期におけるアイヌの社会構造の一端を示し,命名規則の社会的・空間的適用範囲を明らかにすることである.1800年代初期の厚岸(アッケシ),択捉(エトロフ),静内(シズナイ),高島(タカシマ),北蝦夷地東浦(南カラフト東海岸)の5地域では,社会的に他人へ従属する人々が多く,そのほとんどは主人の家に同居していた.特に北蝦夷地東浦では人口の48.8%が同居者であり, 79.2%の家が同居者を含んでいた.居住者名を照合した結果,非親族を同居者として含みながらも同一家内に同名事例はなく,集落や多数の集落を内包する場所という空間的範囲でみても同名事例は非常に少なかった.つまり1800年代初期のアイヌ社会には命名規則が存在していた.さらに,対象とした5地域は互いにかなり離れており対象年次もそれぞれ3~28年間の違いがあるものの,5地域間で居住者名を照合すると同名事例は非常に少なかった.命名規則の空間的適用範囲は蝦夷地全域に及んでいた可能性がある.
著者
阿部 亮吾
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.14, pp.951-975, 2005-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
70
被引用文献数
4 3

1980年代以降急増したフィリピン人女性エンターテイナーの存在は,アジア系ニューカマーの中でも看過できない存在である.なぜならば,彼女たちは外国人を厳しく規制する日本の入管行政において,合法的な入国・就労が認められてきたエスニック集団だからである.本稿の目的は,システム化された移住労働の今日的状況のもとで,彼女たちを他者として位置づけているポリティクスを明らかにすることである.本稿では,名古屋市栄ウォーク街のフィリピン・パブを事例に,雇用者との労使関係,顧客との相互関係に着目し,彼女たちが雇用者と顧客双方からどのようなパフォーマンスを期待されているのかを議論した.そこで明らかとなったのは,ミクロ・スケールの日常空間で作用する雇用者の空間的管理のポリティクスと顧客のまなざしのポリティクスが,移住労働の制度・法的背景と相互に関係し作用する様相であり,それに果たすフィリピン・パブという空間の役割であった.
著者
高井 寿文
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.8, pp.523-543, 2004-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
46
被引用文献数
2 2

本研究では日系ブラジル人を事例とし,在日外国人が日本の都市空間においてナヴィゲーションする際の手掛かりや,居住年数の経過に伴う認知地図の発達様式を,日本人と比較しながら明らかにする.方向感覚質問紙簡易版の因子分析から,日系ブラジル人のナヴィゲーション能力に関わる重要な因子は,ランドマークの記憶や利用であることが明らかになった.経路図の分析では,日系ブラジル人は,ローマ字や商標で表される店舗をランドマークとして認知していることがわかった.居住年数にかかわらず,自宅周辺図の描画範囲は日本人に比べて狭く,手描き地図の形態はルートマップ型であった.以上より,言語環境や日伯の住居表示方法の違いといった文化的背景や,日本独特の景観や都市構造に対する非親和性が,日系ブラジル人の日本の都市空間におけるナヴィゲーションの手掛かりに影響し,認知地図の発達を阻害する要因となることが明らかになった.
著者
吉田 和義
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.8, pp.671-688, 2008-11-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
24
被引用文献数
3 1 1

子どもの知覚環境は, 成長に伴って野外での遊び行動を通して発達すると考えられる. 本研究はアンケート調査と手描き地図調査を用いて, ニュータウン地区における子どもの知覚環境の発達プロセスを明らかにすることを目指した. 就学前児童から中学校第1学年までに対し調査を行った結果, 次の事実が明らかになった. ニュータウン地区の子どもの遊び行動は制約が多い. 手描き地図の分析によれば, 保育園の年長児ですでにルートマップが形成され始め, 小学校第4学年以降サーベイマップの割合が次第に増加することが明らかになった. また, 建物表現に注目すると, 立面的な表現から位置的な表現へ, 視点が転換され, 相貌的な知覚の傾向が弱まる. それでもサーベイマップを描く子どもは, 中学校第1学年においても約半数にとどまり, 広域の空間を知覚する機会が少ないため, ルートマップからサーベイマップへの移行がハート・ムーア (1976) の研究結果に比較して遅くなる傾向にあることが明らかになった.
著者
Atsushi TAIRA
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.5, pp.279-291, 2008-05-31 (Released:2010-03-12)
参考文献数
113
被引用文献数
1 1

This article aims to explore the progress and the agenda of urban social geography in Japan. Urban geography in Japan has a long history, but studies of cities from social aspects have increased in earnest, rather recently. One factor is that Japanese geographers have been attracted mainly by changing patterns of the urban landscape and its economic functions. However, recent decades have seen a diversification of themes of research from gentrification, socio-political movements and social stratification, community restructuring with demographic changes, life-world of ethnic minorities to gender matters. The future agenda of urban social geography in Japan would be to deepen the research contents and to explore new frontiers along with theoretical advancement.
著者
吉田 明弘 吉木 岳哉
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.4, pp.228-237, 2008-05-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
28
被引用文献数
2 3

岩手県岩手山南東麓の春子谷地湿原において5地点のボーリングを行った. コア試料の14C年代測定およびテフラ分析, 花粉分析の結果から, この湿原周辺における約13,000年前以降の植生変遷および気候変化を検討した. この湿原は秋田駒柳沢テフラ (Ak-Y) の上に, 泥炭からなる湿原堆積物が堆積する. 湿原堆積物には, 下位より秋田駒堀切テフラ (Ak-HP), 十和田aテフラ (To-a), 岩手刈屋スコリア (Iw-KS) が挟在する. 湿原周辺では, 約13.4~13.0kaにはカバノキ属の森林とコナラ亜属を主体とする冷温帯性落葉広葉樹林が分布し, 冷涼な気候であった. 約13.0~10.5kaにはカバノキ属の森林から冷温帯性落葉広葉樹林となり, 次第に温暖化した. 約10.5~1.4kaにはコナラ亜属が優占する冷温帯性落葉広葉樹林となり, ほぼ現在と同様の温暖な気候になった. その後, 約1.4~0.2kaになるとスギ林が, 約0.2ka~現在にはアカマツ二次林やスギ植林が拡大した.
著者
安田 正次 大丸 裕武 沖津 進
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.13, pp.842-856, 2007-11-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
25
被引用文献数
7 7

近年, 群馬県と新潟県の境にある平ヶ岳頂上部の湿原が縮小しているとの報告がある. そこで, 平ヶ岳湿原の面積の変化を航空写真より検出した. 航空写真補正用ソフトおよびGISソフトを用い, 航空写真をオルソ画像化して歪みを取り除き, 面積の算出を行った. その結果, 1971年から2004年までの33年間で湿原面積は10%縮小していた. 湿原が顕著に縮小している部分において植生調査を行った結果, 湿原内部ではハイマツを中心としたパッチ状の群落が侵入し, 面積の変化が大きい湿原縁部ではチシマザサが優占する群落が侵入していた. ハイマツとチシマザサの湿原への侵入の様子とその生態的特性を検討したところ, ハイマツは湿原へ先駆的に侵入して植生変化のきっかけとなり, 面積の変化にはチシマザサがより大きく寄与していた. こうした植生の変化は, 湿原の生成, 維持に関わっている積雪量が減少したことが原因であると考えられた.