著者
横山 智
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.11, pp.591-613, 2007-10-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
52
被引用文献数
3 3

社会主義国のラオスでは1990年代以降の経済自由化に伴い, 国をあげて観光を促進した. その結果, バックパッカーを主体とする旅行者到着数は急増し, 北部にはバックパッカー向けの観光関連施設が集中する農村が現れた. その代表ともいえる農村のヴァンヴィエンでは, 中心部の既存商業地区にバックパッカー向けの観光関連施設が集中して立地するバックパッカー・エンクレーブが形成された. そこでは, 多くの他地域出身者が観光関連施設を経営している. これまで, バックパッカーのような周辺部を訪れる旅行者は, 途上国の地域経済に貢献する旅行者とされていたが, 事例としたヴァンヴィエンでは, 観光による利益享受は稲作を営む農民には及んでいなかった. 加えて, 薬物や売春などの新たな社会問題も持ち込まれた. 結果として, 途上国農村におけるバックパッカー・エンクレーブの形成は, 目に見えるような景観的変化のみならず, バックパッカーの流入と異なる出自を持つ住民の混在によって, 新たな社会・人間関係が築かれ, また経済的な格差を生み出すような社会経済的空間を創り出した.
著者
戸田 春華
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.11, pp.614-634, 2007-10-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
31
被引用文献数
5 6

本研究は, 近年深刻化しつつある猿害について, 被害地周辺でのサルの行動特性と被害地との関係を明らかにするものである. 対象地域は三重県の北西部, 鈴鹿山脈南部に位置する亀山丘陵である. 田畑作物の収穫時期にあたる8月の1ヵ月間, ラジオテレメトリ法を用いてサルの群れを追跡し, サルの行動ルートと猿害の場所・内容を調査した. さらに群れの行動ルート周辺において聞取り調査を行い, 猿害について情報を得た. 対象としたサルの群れは, 耕作地が連続的に分布する森林を移動し, その林縁にある耕作地の作物を食べていたことが明らかとなった. 大きな傾向として林縁からの距離が長ければ長いほど被害は少なくなった. また, 林縁に近い場合でも, 特にカキやクリの木がある場所には, サルの群れが何度も訪れ, その周辺の田畑への被害が著しかった. その一方で, そのような条件でも, 防護柵を設置し, ロケット花火で追い払っている耕作地周辺では被害が少なかった. 本稿で明らかにしたサルの行動と被害地の特徴は今後の猿害対策にも大きな効力を発するものと思われる.
著者
岡橋 秀典
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.8, pp.463-480, 2007-07-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
21
被引用文献数
2 1

本稿では, インドの技能労働者養成に大きな役割を果たすITI (産業訓練校) に注目し, それによる人的資源開発の特質と問題点について考察した. インドのITIの設置は1980年代から増勢を強め, 1990年代以降急増している. またITIの分布には地域的な偏りがあり, 南インドに多く北インドで少ない. 近年のインドにおけるITIの急増は, 主に南インドでの増加によっていることが大きな特徴である. これは, この地域の初等教育における高い就学率と, 海外出稼ぎに代表される就業機会によると推察される. ITIによる人的資源開発には, 修了者の失業問題や企業内部労働市場での地位の固定性など, 問題も少なくないが, 南インドのバンガロールのITIの事例では, 大規模な政府校および一部の民間校を中心に, 水準が高いものがあることが判明した. ITIは分布が広範で収容力も大きい点で, 今後, 教育内容の改善が進められれば, インドにおける人的資源開発, 雇用問題の緩和に資する大きな可能性を持つと考えられる.
著者
古賀 慎二
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.3, pp.138-151, 2007-03-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
29
被引用文献数
4 4 3

本稿は, 京都市を対象に, 1990年代後半期におけるオフィスの立地変化に伴う業務地区の変容を考察したものである. バブル経済崩壊後の長期不況により, 京都ではほとんどの業種でオフィスが減少した. その中でも京都を歴史的に支えてきた繊維・衣服等卸売業オフィスは減少が著しい. 他方で, 情報・サービス業オフィスは不況期でも増加し, 京都駅周辺など交通条件の良い地区で新たな集積がみられるようになった. 中心市街地の業務地区の面積はこの期間に約3分の1縮小し, 都心部内のかつての業務地区に立地していたオフィスの跡地はマンション開発の好適地となっている. また, 大都市で近年みられるようになった投資用マンションの立地が, 京都の業務地区を変容させた一要因でもある.
著者
片岡 久美
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.3, pp.99-120, 2007-03-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
22
被引用文献数
3 3

1981~1990年に日本付近を通過した100個の台風を対象に, 日本列島661地点の降水量データを用いて, 台風通過に伴う降水量分布や降水量階級別頻度の月別の差異を明らかにした. 各対象地点における台風通過時の降水量を月別に平均して, その分布を調べると, 6月, 9月に31mm以上の地点範囲が広い. 両月は停滞前線の存在割合が高く, 前線の影響により広範囲で降水が増加したとみなされた. 31mm以上の地点範囲が最も広い9月は台風の中心気圧が低く, 台風の通過に伴う気圧傾度の強まりにより, 前線に多量の水蒸気が輸送され, 降水を増加させると考えられた. 他方8月は, 平均降水量の分布において31mm以上の地点範囲は狭いが, 大雨の出現頻度は他の月と比べて多い. その要因として, 8月は, 台風が日本列島付近を通過するのに要する期間が長く, 日本列島に長期間影響を与えること, 台風の通過個数が多く, 同時期に二つ以上の台風が日本付近を通過すること, が挙げられた.
著者
根田 克彦
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.13, pp.786-808, 2006-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
64
被引用文献数
3

本研究では,イギリスのノッティンガム市を事例として,小売開発政策と現実の小売商業地の実態とを比較することにより,イギリスの小売開発政策の特質と課題を考察した.イギリスの小売開発政策の特質は,サスティナブルな開発と買物機会の公平性を実現するために,徒歩と公共交通機関によるアクセスが容易なセンターに開発を集中させ,それ以外の場所での小売開発を厳しく規制することにある.保護される対象は中心市街地のみではなく,センターの階層構造そのものである.課題としては,以下のことが挙げられる.1)下位自治体の小売開発政策と上位レベルのそれらの間で,階層構造の設定に一部不一致がある.2)活性化の成功例といわれる中心市街地でも,その縁辺部では空き店舗がある.3)センター外の大型小売開発が,下位階層センターを脅かす存在となっている.4)小売開発政策が伝統的小売階層をあまりに強調していることである.
著者
Shuichi ITO
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.12, pp.680-699, 2006-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
49
被引用文献数
1

This study examines how married women adapt their way of life to the suburbs and why they choose to hold part-time jobs, to clarify the mechanisms underlying “spatial entrapment” and “spatial mismatch.” Data were collected through a questionnaire survey targeting married couples living in Chiba New Town, located in the northeastern suburb of the Tokyo metropolitan area. Among 107 sampled women, 72 are part-time workers. Many of them preferred the short commute, short and flexible working hours, and lack of overtime responsibilities in their job. Thus they often found jobs by receiving information on the local labor market from news-papers and their insertions, posters and displays, and direct leaflets. Women who found their current jobs through these mediums commute to their workplaces approximately four kilometers away from their home, which corresponds to the distance between stations in the new town. Nevertheless, after commencing work, women realized that their current jobs did not match their preferred ones. Also, full-time homemakers are likely not to need to work outside the home in order to support their households. These results demonstrate that suburban married women become short-distance commuters because they take advantage of the social environment that embeds them in their job search. However, this also reflects unique characteristics of Chiba New Town, such as inaccessibility to central Tokyo, wives' lifestyle of giving priority to their family needs, and the relatively high incomes of their husbands that are sufficient for living.
著者
Takashi NAKAZAWA
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.12, pp.595-607, 2006-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
36
被引用文献数
1 1 2

This study examines the characteristics of the residential locations of working women in the Tokyo metropolitan area, based on a questionnaire survey and some interviews. The spatial differentiation of residential location is discerned among groups of working women. In particular, the residential locations of married women in nuclear family households are more concentrated around inner Tokyo than those of married childless women. This is different from the spatial pattern suggested by the life cycle theory. Restrictions of time in women's everyday lives, location of husbands' workplace, and difference in the resignation rate between inner Tokyo dwellers and suburban dwellers are investigated as the factors that cause the residential location differentiation among groups of working women. Single working women are quite mobile in terms of residence and move mainly around inner Tokyo. Some single women purchase their own houses. Although the circumstances thus far do not easily allow single women to buy their own houses, the number of single female owner occupiers is expected to increase.
著者
遠藤 匡俊
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.11, pp.547-565, 2006-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
56
被引用文献数
1 3

狩猟採集社会の集落でみられる集団の空間的流動性には,紛争処理機能が備わっていると考えられてきた.本研究では,1856~1869(安政3~明治2)年の東蝦夷地三石場所におけるアイヌを対象として,集団の空間的流動性の程度を測定し,流動性の機能を集落内居住者間の血縁親族関係の維持という側面から検討した.その結果,集団の空間的流動性は分裂の流動性と結合の流動性に二分された.後者では流動性が高くとも分裂してこなかった家を含む集落が多く,集団の流動性は紛争処理理論のみでは説明できないことがわかった.集落の構成が流動的に変化していたにもかかわらず,集落内の家と家は親子,兄弟姉妹関係にあることが多く,つねに血縁親族関係を主体として集落が形成されていた.集団の空間的流動性には,同じ家で暮らした親子,兄弟姉妹が結婚を契機に居住集落を異にした後になっても,それぞれが移動することによって再び同じ集落で暮らそうとする,いわば血縁共住機能が備わっていると考えられる.
著者
安田 正次 沖津 進
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.10, pp.503-515, 2006-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
56
被引用文献数
2 1

近年,上越国境山岳域で積雪量が減少しているという報告がなされている.この地域中央にある平ヶ岳では積雪量の減少によると考えられる植生の変化が確認されている.しかし,この地域では気象観測がほとんど行われていなかったため,積雪量の経年的変動は明らかになっていない.そこで,平ヶ岳における過去から現在に至る積雪量の変動を,低標高域の観測点の観測記録より推測した.その結果,平ヶ岳における積雪量は長期的に減少傾向にあることが明らかとなった.積雪量変動の要因を各気象要素から検討した結果,各年の積雪量は日本付近における冬型気圧配置の出現頻度に応じて増減していることが明らかとなった.長期的には冬型気圧配置出現頻度は漸増しているが,現実には積雪は減少傾向にある.この原因として冬期の気温が上昇傾向にあることが挙げられた.そして,気温だけでなく,上空の寒気の温度も上昇していることが明らかとなったド以上より,積雪量が減少しているのは,冬期の気温および上空の寒気の温度が上昇しているためであると考えられた.
著者
難波田 隆雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.7, pp.355-372, 2006-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
13
被引用文献数
5 4

本研究では,企業城下町相生市を事例に,企業合理化に伴う中心商業地の変容を明らかにするため,店舗交替の経年的変化と非商店の実態から非商店化の過程と要因を解明した.相生市では合理化以降,商業の衰退が深刻である.中心商業地は,企業が設置した売店組合を基盤に,戦後企業の発展とともに成長したが,近年では人口や歩行者通行量が著しく減少し,非商店化している.バブル崩壊以前は店舗交替が進展していたが,崩壊後は新規出店が少なく,店舗閉鎖が非商店化につながっている.中には住民の存在,所有者の意向により店舗交替を阻害している区画も含まれるが,賃貸可能性のある空き店舗も多い.これらから,合理化により衰退しつつあった中心商業地において,バブル崩壊以降,新規参入需要が低下したことが非商店化の主たる要因であるといえる.したがって,企業城下町の中心商業地における非商店化は,最盛期の規模・エリアの縮小を示している.
著者
森川 洋
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.7, pp.455-473, 2005-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
31
被引用文献数
1 1

日本の「平成の大合併」にとって参考にすべき点があると考え,連邦国家ドイツにおける市町村地域改革と市町村の現状について調査した.市町村地域改革が1960~1970年代に実施された旧連邦州では,「市民に身近な政治」が重視され,当初漸移形態と考えられた市町村連合は単一自治体にほとんど移行することなく今日まで存続している.一方,1990年代に旧連邦州を模倣するかたちで実施された新連邦州の市町村地域改革では,いまだ小規模村が多く残存する州もあるが,市町村連合の多くは経済的利益を考慮して将来単一自治体に移行するものと考えられる.
著者
Pengfei WANG
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.5, pp.198-215, 2006-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
48
被引用文献数
1 3

The purpose of this study is to illustrate the changing relationship between resource use patterns and state policies in the rural area of Beijing City from the viewpoint of political ecology in China's rapid economic growth. Since the reforms initiated in 1978, local government such as at village and township levels have enlarged the decision making power of agricultural production in accordance with the measures suited to local conditions in Beijing City. Policies of state and local government have lead to diversified resource use patterns on farmland in Beijing City. Local peasants also adapted to changing state policies by modifying the use pattern of regional resources. Relations between the state policies and the natural environment of Beijing City differ from other rural cases. The change of state policies has not damaged local natural environment, it has been somehow improved in the past twenty years. Thus different agricultural production policies were applied to each agricultural region, differentiating the crop production patterns.
著者
Yoshiyuki KOSEKI
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.5, pp.216-236, 2006-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1 2

Taiwan's banana industry developed during the period of Japanese occupation, and Taiwan bananas monopolized the Japanese market until banana importation was liberalized in 1963. This paper examines the development of Taiwan's banana-producing regions by highlighting the relationship between Taiwan bananas and the Japanese market and the change in bananaproducing regions of Taiwan following the end of World War II. Before Japan colonized Taiwan in 1895, bananas were a subsistence crop mainly in northern Taiwan. However, during the colonial period, a commercial banana-producing region was formed in central Taiwan around Jiji. After World War II, while the colonial banana network was maintained, the production center moved southward to Chishan town, where bananas are mainly grown for the Japanese market. Both banana-producing regions are now facing such problems as the aging of farmers, shortage of successors, crop diseases, and typhoon damage. Besides, a price competition war in the Japanese market forces Taiwan growers to raise their competitiveness. By joining WTO, further reorganization of banana-producing regions is expected in Taiwan.
著者
森田 匡俊 奥貫 圭一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.82-96, 2006-02-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
22
被引用文献数
1

境界効果とは,分析対象とする地域境界の定め方が分析結果に与える影響のことであり,いくつかの問題がある.本稿では,そのうち特に,地域境界によって定まろ対象地域の大きさが分析結果に与える影響に焦点を当てて検討を行う.境界効果の既存研究では,平面上でのK関数法の実践における境界効果は扱われているものの,ネットワ-クK関数法の実践における境界効果は,いまだ検討されていない.そのためネットワ-クK関数法の実践には,境界効果によって分析結果から誤った解釈を行ってしまう危険がある.本稿では,まずネットワ-クK関数値の振る舞いを一直線上のモデルとして構築し検討した.次に愛知県日進市の道路ネットワ-クとコンビニエンスストアの立地点分布を利用して,一般のネットワ-ク上のネットワ-クK関数値の振る舞いと境界効果の関係式を導出した.
著者
松浦 旅人
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.39-52, 2006-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23
被引用文献数
2 2

本稿では,東北日本内陸盆地の一つである新庄盆地内の地形成因を明らかにするために,丘陵背面構成層・盆地埋積層の編年,および断層運動の解析に基づいて,地形の分化作用,盆地内隆起に関する考察を行った.その結果,盆地東部,新庄東山断層下盤側に形成されている泉田低地(沖積層堆積域)は,断層角盆地であること,盆地内に広く分布する丘陵背面(約300ka)は,断層運動による局地的な変位とは異なる地域的隆起によって形成されたこと,が推定される.第四紀後期において新庄盆地は逆断層運動によって山地から分化しながら,同時に盆地全体が隆起し開析を受けてきたことにより盆地内に丘陵が発達したものと考えられる.
著者
堀 正岳 植田 宏昭 野原 大輔
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.26-38, 2006-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
25

茨城県筑波山の西側斜面における斜面温暖帯の発生をとらえるため,気温ロガーを用いた10分間隔の観測を2002年11月から90日間行った.斜面温暖帯の研究において,このような高時間解像度かつ長期間の観測を行ったのは本研究が初めてであり多数の温暖帯事例による定量的な把握が可能となった.観測期間中の斜面上の夜間最低気温は平野に比べてつねに高く,11月では斜面上の気温はつねに0°Cを上回っていた.夜間の気温の階級別出現頻度は,平野上では0°Cを挟んで高温側と低温側に均等に分布していたのに対し,斜面上では高温側に偏った分布を示した.平野と斜面との間で+2°C以上の気温の逆転が10時間以上持続する場合を斜面温暖帯の事例と定義したところ,こうした事例は観測期間中37~47日(42~53%)もみられ,月による頻度の違いはほとんどなかった.斜面温暖帯発生時には平野の気温が日没前後に低下することで平野と斜面との気温逆転が生じている.斜面上の気温は午前3時以降に時間変化が小さい状態になり,これに伴って平野と斜面の気温差は時間変化が小さくなる.温暖帯の中心の気温は1月に向けて低下するのに対して,平野との気温差はわずかに大きくなる傾向がある.このとき斜面温暖帯の中心の標高は200~300mであり,夜間を通してほぼ一定の高さを保っていた.
著者
宮澤 仁 阿部 隆
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.13, pp.893-912, 2005-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
25
被引用文献数
5 23

本稿は,国勢調査の小地域集計結果の分析から,1990年代後半の東京都心部の人口回復に寄与した住民の特性ならびに人口増加地区における住民構成の変化を明らかにした.その結果,この時期にアフォーダビリティに関して多様な条件の住宅が供給された東京では,特定の属性の住民のみが都心居住を可能にしたわけではなく,特定の町丁へ転入した住民は,家族構成と社会階層に応じて居住地・住宅を選択していた.このことは,都心部の居住地構造にミクロスケールの量的・質的変化を生じさせ,短期間にその不均一性を高めたと考えられる.この不均一性の高まりに伴い発現する都市の新たな現象や社会問題の解明に取り組むことが今後の課題である.
著者
半澤 誠司
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.10, pp.607-633, 2005-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
78
被引用文献数
5 7

本稿の目的は,日本の家庭用ビデオゲーム産業について,分業形態を明確化した上で,主に労働市場と取引関係の視点から,その地理的特性を明らかにすることにある.当該産業において,労働者の離職率は全般的に高く,採用では中途者が好まれる.そして,中途者は新卒者よりも,就業先として都区部を好む傾向が強い.一方,多層的取引階層は存在しないが,外注の利用は一般的である.特に一部外注に際しては,迅速な対応が必要となるため,外注先との近接性が重要となる.こうした特性から,地域労働市場の厚みと,一部外注における対面接触の利便性を要因として,産業集積が形成された.しかるに,産業集積を主導する立場にある企業が存在しない上に,企業間の取引階層は浅く,取引関係が固定的なため,集積地域内には互いに独立した取引グループが多数存在している.こうした地理的特性の多くは,ゲーム産業固有の分業形態に規定されているといえる.
著者
矢部 直人
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.8, pp.514-533, 2005-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
35
被引用文献数
5 4

1990年代のIT革命の後,事業所サービス業の立地が分散する可能性が生まれた.しかしながら,現在まではさまざまな空間スケールでの集積が報告されている.本研究は東京大都市圏において複数の空間スケールにわたる分析を行い,各空間スケールにおけるソフトウェア産業の立地要因を明らかにすることを目的とする.大都市圏内のソフトウェア産業は,広域的なスケールでは23区および業務核都市に,局地的なスケールでは駅の周辺に集積している.ネスティッドロジットモデルによる分析の結果,企業はこの二段階の空間スケールごとに立地意思決定を行っていることが判明した.広域的な地域選択では,顧客への近接性,オフィス賃料を評価し,局地的な地点選択では,上流工程を担当している企業が駅への近接性を主に評価することが明らかになった.また,1990年代には地価が下落したため,下層の企業も交通ネットワークの充実した23区へ立地するようになった.