著者
梶田 真
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.9, pp.645-667, 2003-08-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
44
被引用文献数
1 1

日本は昭和の大合併後,領域再編を行うことなく地方行財政を発展させ,福祉サービスの拡充を図ってきた.このような動きは,日本の財政調整制度である地方交付税が,増大していく地方自治体のサービス供給に必要な財源を保障したことによって可能となっている.それゆえに,地方交付税の配分構造は戦後,大きく変化しているが,この配分構造変化には領域再編を伴わない地方行財政の発展がもたらした,さまざまな地理的要因が反映されている.本稿では地方交付税の配分構造変化を定量的に分析し,その結果を福祉国家化,高度経済成長に伴う地域構造の変化,地域問の水平的政治競争に注目しながら解釈することを試みた.分析の結果,(1)地方財政における地方交付税の比重上昇,(2)都道府県から市町村への配分のシフト,(3)小人口自治体への傾斜配分の強化,という三つの動きが確認された.また,1990年代に入り,市町村では小人口自治体への傾斜配分が後退しているが,その原因として(1)大都市圏の政治的影響力の増大と(2)少子高齢化の進展による行財政改革圧力の高まり,の2点が挙げられる.
著者
新井 智一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.8, pp.555-574, 2003-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23
被引用文献数
2 1

本研究は,1980年代以降イギリスで発展したロカリティ研究を援用し,東京都田無市と保谷市の合併における社会経済的・政治的要因について明らかにした.両市は高度経済成長期において急速にベッドタウン化し,都市基盤整備が遅れた.このため,田無市は1980年代以降,大工場からの税収を基に,田無駅北口再開発などの都市基盤整備を推進した.さらに,1990年における田無市長の発言により,同再開発の推進を目的とした両市の合併問題が浮上した.これを受けて,財政基盤の脆弱な保谷市では,青年会議所などが合併推進活動を展開させたが,田無市民の合併への関心は低かった.しかし,その後の景気低迷により,同再開発は田無市への大きな財政的負担となった.さらに,田無市の大工場では生産規模が縮小し,それに伴い,田無市の法人地方税収も減少した.こうして,共に財政状況の悪化した両市は,財政基盤の強化を目的として合併したのである.
著者
稲垣 稜
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.8, pp.575-598, 2003-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
44
被引用文献数
5 4

本研究では,高蔵寺ニュータウン出身者を例に,郊外第2世代の移動プロセス,および彼らの移動選択に影響を及ぼす諸条件を検討した.移動には男女差がみられ,未婚時には女性の離家未経験者の割合が高く,結婚時には女性の長距離移動がやや多い.高校卒業直後は,制度的な条件に移動が制約される面が強いが,その一方で,男女のライフコースの違いを前提とする親の言動など非制度的な条件も重要である.大学卒業後は,正規就職ができず,親と同居しながら非正規労働力として就業せざるを得ない女性が生み出されやすい.社会人になると,非制度的な条件が一層重要になる.こうした諸条件の一方で,離家の可能性を持つライフイベントを経験しない場合は,親との同居の意味を積極的に考えること自体が少なく,同居を当然視するという側面もある.結婚後は,同居・別居に対する親子間での異なる意識や,親の居住する郊外住宅地の物理的条件が,親子の同居.別居に及ぼす影響も大きい.郊外第2世代の移動選択に影響を及ぼす条件の多くは郊外の特性を反映したものであり,しかもその特性は,郊外第1世代の行動によって形成されたものであることが少なくない.
著者
美谷 薫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.231-248, 2003-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
29
被引用文献数
1

本研究の目的は,町村の「広域合併」により成立した都市の行政にみられる特性を,特に事業の展開に伴う公共投資の配分に着目して明らかにすることである.研究対象地域には,臨海工業地域の造成にあわせて,1960年代の2度にわたる合併の結果,旧郡全域が1市へと再編された千葉県市原市を選定した.市原市の行政は,当初,合併の目的とされた工業都市建設が都市経営の中心に据えられ,その投資配分は臨海部への「集中投資型」を示した.その後,地域間格差の是正政策とダム建設に代表される農村部での大規模プロジェクトによって,「分散投資型」の配分がもたらされた.さらに合併から約25年が経過すると,人口規模に見合う中心市街地の建設を目指した施策によって「拠点投資型」の投資配分を呈した.しかし,「対等型広域合併」の結果市原市は市域内に中心地間の競合関係や多様な地域属性を有することとなり,市行政は市域の機能的一体化という「統合」を意図する一方で,その施策には均衡発展の必要性などの「分散」の方向性も強く働いてきた.市原市の事例は,広域合併都市の地域経営の課題を示唆するものであり,これらは今後の市町村の領域設定を考える上で重要な視点であると考えられる.
著者
川瀬 久美子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.211-230, 2003-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
32
被引用文献数
3 1

三重県雲出川下流部において,海岸低地の地形発達と堆積環境の変化との関わりについて検討した結果,以下のことが明らかにされた. 1. 上部砂層の堆積年代および河成層の特徴から,完新世後半に河道変遷によって土砂の堆積する場が南から北へ移動した可能性が高い. 2. 浜堤列の地形的特徴は,約3,600~2,600ca1. BPの第1浜堤列形成時には相対的に波浪の営力が強い環境(波浪営力卓越環境)であったが,約1,500ca1. BPの第II浜堤列の完成期までには,河川による土砂の堆積作用が勝る環境(河川営力卓越環境)に変化していたことを示唆している. 3. 河成層の堆積過程は,3,000~2,200cal. BPの河成堆積の少ない相対的な安定期を挟んで,それ以前には粗粒な洪水砂層1が,それ以降には細粒な洪水砂層IIが発達したことを示している. 4. 以上のことから,約2,000年前以降,河川の供給土砂量が増大したと推定される.
著者
矢崎 真澄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.101-115, 2003-02-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
12
被引用文献数
3 1

本研究は,沿岸漁民の漁場認知に関する主体的環境の多様性について実証的に明らかにすることを目的としたものである.そのため本研究では,漁民が「シマウチ(シマナカ)」と通称する伊豆半島東南部と伊豆大島および新島によって囲まれた海域を対象地域とした.従来,沿岸漁民にとって最も重要な魚礁を中心とした漁場の認知に関する実証的研究はほとんど行われることがなかったためである.「シマウチ(シマナカ)」の海域における大陸棚は,伊豆大島南西や「オオムロダシ」と呼ばれる広範囲の漁場を除いては,幅が狭く,棚端からは500m以上の急深になっている.この海域には,多様な漁場が存在し,207の漁場が確認された.この海域においては半島と島嶼の漁業集落間だけでなく,隣接する漁業集落間においても,全く同一の漁場を異なる呼称で認知している事例を多数確認した.漁場は物理的に同一位置にあっても,異なる漁民集団の共有するそれぞれの漁場認知体系の中で名付けられている.漁場の認知の方法は,地形の知覚像に依拠する場合が多い.漁民の漁場認知にみられる重層性はそれぞれの漁業集落を起点とした漁場体系が,重なり合っているためといえる.
著者
松本 太 福岡 義隆
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-18, 2003-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
28
被引用文献数
5 2

ソメイヨシノPrunus yedoensisの開花日に及ぼす都市の温暖化の影響にっいての研究は時系列的にみた研究が多く,水平的な都市の気温分布と開花日の観測を向一の都市において同時期に行った研究はほとんどみられない.そこで春の都市気候とソメイヨシノの開花日との関係を埼玉県熊谷市において調査した.その結果,熊谷市におけるヒートアイランドは市街地の地上構成物質の熱的性質(1/cρ√κの値)と密接に関係していることが明らかとなった.そして,ソメイヨシノの開花日の局地差は都市の気温分布とよい対応を示しており,ヒートアイランドが開花現象に影響を与えていることが明らかとなった.よって,ソメイヨシノの開花日は都市の温暖化などの気候環境を表す指標として有効であると結論された.また,観測から得た熊谷市における気温分布と開花日との〔空間的な関係〕を熊谷地方気象台における気温と開花日との〔経年的な関係〕に置き換えて評価することも可能であった.
著者
本間 昭信
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.14, pp.887-900, 2002-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
17
被引用文献数
3 1

本研究は,視覚障害者の日常生活におげるモビリティの規定要因を,対象者の移動環境に対する満足度や,障害の度合いといった個人属性の関係から明らかにすることを目的としている.まず,視覚障害者の移動環境にどのような種類があるかを因子分析から明らかにし,重回帰分析によって単独移動率として定義されたモビリティと移動環境の満足度を評価する.そして,因子得点に基づくクラスター分析から典型的な移動環境評価の特性を分類し,対象者のモビリティと個人属性の関係を追究した.その結果,対象者の移動環境に対する満足度の高さがモビリティを規定するとはいえないことが示された.これは,障害の度合いや移動に対する抵抗感,そして対象者の背景の個人差によって生じるものである.それゆえ,対象者の日常的な移動行動上の制約を明らかにするためには,物理的環境の制約のみならず,個人がおかれた社会的背景と意識的側面に注意を払いながら考えていくことが重要な課題となる.
著者
鄭 美愛
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.13, pp.791-812, 2002-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
29
被引用文献数
1

本稿は,ソウル大都市圏に位置する盆唐ニュータウン(以下NT)居住者の居住地移動パターンと移動要因について,ライフステージの概念を適用し,縦断分析によって明らかにした.地方出身者は地方から首都圏に移動した後に盆唐NTに転入する.世帯準備期においては主に利便性要因,世帯形成期には住居要因により移動が生じる.世帯成長期の移動には住居・資産形成要因が重要である.ソウル出身者は江北を発地とし,江南またはソウル大都市圏を経由して盆唐NTに至る.親世代がソウルで生活基盤を構築した彼らの場合,住居要因が世帯準備期からすでに重要な移動要因である.世帯成長期には,住居要因に加えて自然環境・資産形成要因によって盆唐NTに転入した.サンプル世帯の約6割は江南を経由する.江南に居住することが盆唐NTへの移動の契機となった.江南に居住できた人々のうち,世帯成長期にあってより良好な居住環境を求める者,資産形成を図る者が盆唐NTへ移動する.
著者
澤田 康徳 高橋 日出男
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.8, pp.509-528, 2002-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
24
被引用文献数
3 2

本研究では,夏季の関東地方におけるメソβスケール降水域の発現・移動に関する地域的特徴を,レーダーアメダス解析雨量に基づく多数事例から明らかにし,それと上層風および地上風系場との関係を考察した.降水域は夕方に八溝山・男体山・榛名山付近や秩父山地など関東平野周辺の山地域で多発する.多くの事例では降水域はほとんど移動しない(停滞型)が,榛名山付近で発現した降水域は熊谷付近を経て東~東南東進する(移動型)ことが多い.上層風 (500~700hPa) の風向は停滞型・移動型とも西よりの風が卓越しており,風速は移動型の方が多少強い傾向があるものの,個々の降水域の移動速度とは相関が低く,降水域の停滞・移動は上層風だけでは説明できない.地上風系場に着目すると,移動型の場合には,降水域の移動方向に沿って侵入経路の異なる海風などにより形成される収束域が存在する.停滞型の場合は,降水域の発現地点付近に収束域が形成され,降水域東側には顕著な収束域は存在しない.収束域は関東平野中央部をほぼ東西に横切って形成されるため,榛名山付近で形成された降水域が熊谷付近を経て東進しやすいと考えられる
著者
Akira TABAYASHI
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.280-303, 2002-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
32

The present paper takes up all the tulip bulb farmers who engaged in tulip bulb cultivation for 44 years from 1948 to 1991 in the Kurobe alluvial fan in the northeast of Toyama Prefecture. Based on changes of their distribution, the paper clarifies the process of forming the bulb cultivation area and discusses various conditions of its formation. As a result, it becomes clear that the cultivation area expanded from several specific rural communities to the environs in the 1950s and receded again to the rural communities and their vicinities in and after the 1960s. The area where the tulip bulb cultivation became active up to the mid-1950s still now plays a core part. The bulb cultivation distributed area corresponded to the area in which several former municipalities were integrated. The formative conditions of the tulip-bulb producing area, such as roles of the Tulip Bulb Farmers' Cooperative in Toyama Prefecture, other agricultural management sectors, relations with off-farm employment, pioneers and leaders, existence of regional organizations, and subsidy from the administration are important, not to mention the climate, soil, and other natural conditions. In addition to these, age, existence of successors, technical level, and other attributes of the farmers and the individuals are related.
著者
Shunsuke IKE
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.344-370, 2002-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
31

In this paper, the author attemped to clarify the social characteristics of rural communities in Hokkaido by using the empirical data of ownership and utilization of common lands, which are important as the material basis of rural communities in Japan. The area selected for study was the settlement of Saruba in Biratori Town, Hokkaido, where common land (Saruba-kyodoyama) has been used effectively. As a result of investigation, it has been clarified that Saruba-kyodoyama has the same fundamental characteristics as common lands in Japanese traditional communities, such as formal equality of right in the community. However, there are some important differences. In case of traditional communities in Japan, the ownership of common land has been recognized as a certification of membership in the community. On the other hand, ownership is recognized only economically as money in Saruba-kyodoyama. Frequent movements of ownership shares in Saruba-kyodoyama resulted from those features of common land in Hokkaido. Differences in the ownership and utilization of common land in Hokkaido as compared to traditional communities in Japan illustrate the differences in social characteristics between rural communities in Hokkaido and those in the rest of Japan. Therefore the author considers that analyses of characteristics of rural communities in Hokkaido with the common lands used as indices has achieved a specific effectiveness.
著者
Junji NAGATA
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.213-235, 2002-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
22

Under the producers' price limitation policy, sugar cane farming in Okinawa cannot exist without rationalizing its management, mainly through the introduction of mechanical harvesting. This has become a serious problem especially in the isolated islands where sugar cane farming and sugar production are the main industries. In this paper, I focused on Minamidaito Island, which is the only area in Okinawa that has introduced mechanical harvesting on a large scale, and examined the actual management of sugar cane farming, based upon a survey conducted in Kita Village in 1988. The conclusion revealed that the mechanization of harvesting did not necessarily serve for the rationalization of the management. The characteristics of the management of sugar cane farming on Minamidaito Island after mechanization are: remarkably increased investment in capital equipment and in farmland improvement, increased cultivation cost needed for new planting and application of fertilizers and chemicals, and increased labor input. These lead to diminishing the income of farmers because problems like how to take advantage of the capital equipment, how to convert the conventional extensive system of cultivation to a labor-intensive, capital-intensive system have not been discussed enough. The liberation from hard labor by the mechanization of harvesting is considered to be the minimum necessity for the young labor force to participate in sugar cane farming. But at the same time, if the mechanization does not lead to the rationalization of its management, sugar cane farming will gradually lose its future labor force, and its status as the main industry of the isolated islands of Okinawa will be lowered.
著者
島津 俊之
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.88-113, 2002-02-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
110
被引用文献数
3 2

本稿は地理学史におけるクリティカル・ヒストリーの潮流に鑑み,明治政府の地誌編纂事業を新出史料に基づいて再構成し,近代日本の国民国家形成との関係性を考察した.一国地誌の編纂は当初民部省・文部省・陸軍省で個別に構想され,文部省は『日本地誌略』を,陸軍省は『兵要日本地理小誌』などを刊行した.陸軍省から正院に移った塚本明毅は『日本地誌提要』を編纂し,さらに「皇国地誌」の編纂を推進した.それを「大日本国誌」に発展させた内務官僚桜井勉の異動は,その中止や地誌編纂事業の帝国大学移管と規模縮小につながり,井上毅文相の裁定と死は当該事業の命運を断った.正院-内務省系統のキーパースンは,地誌編纂の表象的な国土統合機能を主権強化の要件としたが,国民統合の構想には欠けていた.しかし,対外的な国威発揚の用具ともなった『日本地誌提要』は,その記載内容が実質的に国民統合に向けて動員された.かかる「意図せざる結果」は,国土統合や主権強化の諸過程とあいまって,国民国家形成に寄与し得るものであった.
著者
原田 洋一郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.41-65, 2002-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
30
被引用文献数
1

本稿では,神岡鉱山栃洞地区での江戸末期における鉱山開発の展開とその地域的基盤について,開発に必要とされた技術者,資金の確保のあり方に注目して検討した.北陸,東海地方には,衰退した鉱山から盛況へ向かいつつある鉱山へと移動を繰り返す金山師が多数存在し,地域に技術者が確保されていた.開発資金は,主に船津町村,高山町の商人によって供給された.とりわけ,山元の船津町村では江戸末期までに戸数が増加し,さまざまな属性の者が居住するようになっており,それらが時期に応じ,経済力に応じて,資金供給,下請稼行,必要物資などの販売など,異なったかたちで開発に関与したことが,開発の継続と盛行に大きく寄与していた.江戸末期には対象地域のような,比較的貧弱な鉱床の開発が広く行われたが,それらの開発は,地域住民の積極的な開発への関与,全国規模での鉱物資源の流通システムの成立によって可能になったと考えられる.
著者
新井 祥穂 永田 淳嗣
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.129-153, 2006-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
14
被引用文献数
1

1972年の復帰後の沖縄では農業への政策介入が強化され,農業基盤整備事業はサトウキビの価格支持と並び政策の大きな柱とされた.しかし,県内でいち早く大規模な灌漑整備を伴う土地改良事業が行われた石垣島では,1980年代末以降農家の反対が顕在化し事業が停滞している.本稿では,農家が事業との関わりを通じて得た経験や学習や評価に注目しつつ,事業が石垣島の農業経営に対して持つ意味を分析し,停滞の理由付けを試みた.その結果,面整備は確かに労働節約効果を有するものの,灌概整備がサトウキビの増収に直結しないことや,面整備が果樹生産にはマイナス効果を持つことなどを学んだ農家は,土地改良事業の効果が限定的であることを理解し,それが事業に対する消極的・否定的な態度につながっていることが明らかになった.土地改良事業の大前提ともいえる短期の生産性向上効果が限定的である点は,沖縄の土地改良事業が抱える本質的な問題であるといえる.
著者
川瀬 宏明 木村 富士男
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3, pp.147-159, 2005-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

冬季北西風の吹出し時に,日本の周辺海域には筋状雲が現われる.その中でも,日本の南海上ではしばしば太い筋状雲が発生する.本研究では,冬季3カ月(1, 2, 12月)のGMS (Geostationary Meteorological Satellite)可視画像を分析し,850hPaの風と対応させることで,このような筋状雲が下層風によって受ける影響を調べた.その結果,筋状雲の出現は風向だけでなく風速によっても変化することがわかった.筋状雲には風速の増加に伴い発生頻度が増加するものと,逆に発生頻度が減少するものが存在する.九州の東海上,四国の南海上に現れる筋状雲は前者にあたり,紀伊山地の風下,紀伊水道で発生している筋状雲が後者にあたる.また,風速の変化によって出現する位置が変化する筋状雲も存在する.四国山地の南東風下にできる筋状雲がこれにあたり, 850hPaの風速が増加するほど発生位置が北東に移動する.
著者
遠藤 匡俊
出版者
社団法人日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.74, no.11, pp.601-620, 2001-01-01

文字を持たないアイヌ社会において,近所に生きている人やすでに死亡した人と同じ名を付けないという個人名の命名規則が,どの程度の空間的範囲に生活する人々に適用されていたのかは,これまで不明であった.アイヌ名の命名には,出生後初めての命名と改名による新たな命名があり,いずれもアイヌ固有の文化であったと考えられる.アイヌ名の改名は根室場所,紋別場所,静内場所,三石場所,高島場所,樺太(サハリン)南西部,鵜城で確認された.中でもアイヌ名の改名が最も多く生じていたのは,根室場所であった.根室場所におけるアイヌ名の改名は,結婚や死と関わって生じた事例が多かった.改名による新たな命名が多く生じていたにもかかわらず,同じ名を付けないという個人名の命名規則は,1848-1858(嘉永1-安政5)年の根室場所においては,集落単位のみならず根室場所全域ではぼ遵守されていた.根室場所は,アイヌの風俗の改変率が高いことから和人文化への文化変容が進んだ地域とみなされるが,アイヌ名の命名規則に関する限り,アイヌ文化は受け継がれていたと考えられる.

2 0 0 0 OA 記号の限界

著者
中島 弘二
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.176-179, 2003-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1