著者
平 篤志
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.28-47, 2005-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
133
被引用文献数
1 1

本稿は,主として日本語および英語で公表された多国籍企業に関する地理学的な研究の動向を分析し,今後の課題を提示することを目的とする.多国籍企業に関する研究は,経済学・経営学分野において先行したが,近年,地理学的なアプローチからの研究が増加しつつある.その視点は,多国籍企業の分布パターンや直接投資の空間パターンから,多国籍企業の企業内・企業間連関,多国籍企業の進出と地域経済との関係,多国籍企業の経営手法と技術移転,多国籍企業と国家・地方政治権力との関係などへ多角的に拡大・深化している.また,業種別では,製造業企業を対象にしたものが大半を占めてきたが,サービス業企業の動向を分析したものも現れるようになった.分析のための空間スケールは,国家スケールが中心であったが,近年,ローカルな場所・空間の持つ意味が注目される中で,多国籍企業研究においてもローカルな立地動態に関する研究が増加しつつある.今後は,先行研究の研究結果を踏まえてそれらをさらに深化させるとともに,多国籍企業の企業文化の考察など企業論的な観点に立った研究を蓄積していくことが求められる.
著者
伊賀 聖屋
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.14, pp.997-1009, 2004-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
22

本稿は,現在の日本における加工原料米の流通体系の実態を,米酢加工業を事例として,フードシステムの観点から分析する.一般に,新食糧法下の現在,大手の米加工企業を中心にミニマム・アクセス米(MA米)への依存度の高まりが指摘される.このような状況下で,米酢加工業ではどのような加工原料米の流通体系が構築されているのか.とりわけ,大手企業と比べた場合,地場企業の原料調達・加工・販売のシステムには,どのような特徴が認められるかという点に着目した.その結果,以下のことが明らかになった.(1)地場企業は,コスト削減を図る大手企業とは異なり,新食糧法の施行以後も従来の原料調達の方式を変更していない.加工原料米の集荷圏は狭小であるとともに,米酢の加工工場は原料調達地域に立地しており,農村内部に一つのサブシステムが構築されている.(2)地場企業は,大手企業と同様に製品の流通圏を全国に拡大しているが,米酢の伝統的生産設備・手法を維持し,自社の製品に原料産地訴求・安全訴求という特質を持たせることによりプレミアムフード市場への参入を図っている.
著者
田中 耕市
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.14, pp.977-996, 2004-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
117
被引用文献数
7 3

これまで,地理学において利用されてきた近接性の概念は多種多様に及び,現在でも新たな測定法の創出や,既存の測定法に対する改良モデルの提案が続けられている.さらに,GIS(地理情報システム)の出現を機に,近接性研究のスタイルは大きく変化しつつある.本研究では,既往の近接性概念や測度を整理した上で,GISの発展が近接性研究へ与えた変化と,その将来性について展望した.GISに内包されている最短経路探索やバッファリングなどの解析ツールは,近接性の算定に要する作業量を大幅に減少させた.さらに,自動地図化機能によって,各地点における近接性の測定結果から,近接性面を容易に作成できるようになった.近接性の測定に要する時間は大幅に短縮された結果,分析の精密化が進展し,大量地点で近接性を測定する研究や,異なる条件下で測定した近接性を比較する研究が増加した.さらに,GISによって詳細かっ効率的な空間解析が可能になった結果,時間地理学的概念に基づく新しい測度が考案された.「個人の近接性」とも呼ばれるこの時空間測度は,個人の時空間的制約条件を考慮したもので,既存の積分的近接性の問題点を回避するものである.
著者
村中 亮夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.13, pp.903-923, 2004-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
46
被引用文献数
6 5

本稿では,面的に偏在する空間財を評価する仮想市場評価法 (CVM) として,支払意思額 (WTP) を距離帯別仮想市場から推定する方法論を提示した.この手法を用いて,スギ花粉飛散量の減少による健康リスクの削減を意図した,スギ人工林整備の便益を評価した.その結果,便益に対するWTPは,世帯年収の影響を受けていることがわかった.そして,所得変数による便益移転評価モデルを用いて便益移転を行うと,山口県におけるスギ人工林整備事業(2002~2011年度)の便益は,山口県民にとって約144億円(現在価値化)の効果が期待できると推定された.このスギ人工林単位面積当たり便益は,スギ人工林密度の低い地域,世帯密度の高い地域で高くなる.また,便益の値は,スギ人工林密度の高い地域の中でも,世帯密度の高い山陽側で高いことがわかった.この推定便益は県林業費の約2割を占めている.
著者
水野 真彦
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.13, pp.940-953, 2004-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
31
被引用文献数
4 2

本研究は,大阪府における中小企業のネットワークと技術的イノベーションの地理的側面について特許のデータを用いて考察したものである.大阪府の中小企業が他の企業と共同で生み出した発明を特許の共同登録のデータから把握し,両者間の地理的距離と企業の属性との関係を検討した.その結果,共同発明を行った相手は,同じ大阪府内の企業あるいは組織である割合が高いことが示された.規模が小さく,若い企業は,近接した企業と共同で発明を生み出すという傾向が非常に弱いながらも見出せた.一方,産業部門により相手との距離は異なる.具体的には,金属・プラスチック製品などの中小企業間の域内ネットワーク,電気機械や家具などの大企業と中小サプライヤーの域内ネットワーク,大阪府の中小一般機械メーカーと域外の大企業とのネットワークなどを典型とする多様なネットワークから発明が生み出されていることが確認された.
著者
Peijun SHI Yi YUAN Chunyang HE Xiaobing LI Yunhao CHEN
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.12, pp.866-882, 2004-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23
被引用文献数
1 5

Since China adopted reform and open policy in 1978, intensive land use pattern changes have taken place at different scales with the rapid economic growth and fast urbanization, resulting in complex impacts on the regional eco-environmental security. Based on some case studies in Shenzhen, Beijing and the grassland and farming-pastoral zone of North China, three models, namely City Expansion Model in Metropolitan Area in Beijing, Basin Rainfall-runoff Model in Shenzhen, and Land Use Pattern Adjustment Model in the grassland and farming-pastoral zone of North China were used to try to demonstrate the possibility of promoting ecological security level in China by implementing the rational land use pattern adjustment.
著者
Jiyuan LIU Xiangzheng DENG
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.12, pp.800-812, 2004-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
22
被引用文献数
3

Urban land expansion is the closest representation of urbanization in spatial dimension, and is one of the most important factors affecting land-use/cover change on a regional scale. China has experienced rapid urban growth, which can be monitored by the Landsat TM digital images. This paper measures urban land expansion in China using the high resolution Landsat TM digital images in three periods, 1989/1990, 1995/1996 and 1999/2000, and identifies four types of urban land expansion, namely neighborhood, axis-based, pole-based and multi-nucleus expansion which coexisted in the 1990s. The urban land expansion in China totals 817 thousand hectares, among which the expansion during the first half (1990-1995) is more than four times that of the latter half. This paper identifies the main factors contributing to the formation of the four types of urban expansion patterns based on cases studies of Beijing, Guangzhou, Shanghai and Zibo, and gives a detailed account of the driving forces of urban land expansion in the 1990s.
著者
Takashi INOUE Kao-Lee LIAW
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.12, pp.765-782, 2004-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
24
被引用文献数
3

Abstract: In recent migration literature, three distinctive features in the sex ratio of annual interprefectural migration in Japan since the 1950s have been identified and explained: (1) an upward trend, (2) a persistently high level, and (3) systematic fluctuations around the trend. We first show in this paper that these three features can also be clearly seen in the sex ratio of non-metropolitan out-migration rates in the launching stage (i.e. between graduation from middle school and acquirement of the first job) of the life course of the Japanese. We then explain these features in terms of (1) the changing and persistent ideologies that orient and constrain the behaviors of Japanese household members and (2) the changes in the spatial economy of Japan. To gain further insights, we also show the systematic effects of educational attainment and sibling status on the non-metropolitan out-migration propensities of the Japanese in the launching stage of their life course. Our findings suggest that the migration propensities will continue to be highly selective with respect to gender (higher for males than for females) and educational attainment (higher for the better educated and lower for the less educated) but will be little affected by sibling status. With respect to the changes in the spatial economy, our findings also suggest that the migration responses will be much greater for males than for females, and that among males the responses will be particularly intense at the two extremes of educational attainment, especially the upper extreme.
著者
上杉 和央
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.9, pp.589-608, 2004-08-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
54

本稿では,主に元禄期頃までの大坂の初期名所案内記にみえる名所観を検討した.その目的は,当時の名所観はどのように構成されていたのか,そして名所観に地域差はないのか,といった点を論じることにある.まず,江戸時代の名所は歌名所と俗名所に区別されていたことを確認し,さらに名所たらしめる情報の時間差によって〈過去名所〉と〈現在名所〉に区分し得るような名所観の構成を提示した.研究の蓄積が多い江戸での検討結果では〈現在名所〉が強く意識され,また京都では〈過去名所〉への意識が強い.一方,大坂の初期名所案内記を検討すると,〈過去名所〉への指向は強いものの「ハレ」の日の行事を中心とした〈現在名所〉への関心も高まっている状況が見出され,江戸とも京都とも異なる名所観のあり方が明らかとなった.
著者
小原 規宏
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.8, pp.563-586, 2004-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
28

本研究は,埼玉県さいたま市東部高畑集落を事例として,専業農家における農業経営の変化を検討し,専業による農業経営の持続性を支える要因を考察した.その結果,高畑集落では,各農家がそれぞれ異なる部門の経営を多様に組み合わせ,その組合せを時代ごとに変え,複合経営という形態をとることで専業を維持してきた.さらに,複合経営の多様性と柔軟性という点に着目し,複合経営での商品生産部門とその数によって類型化を行ってみると,複合経営には,所得の相互補完性,農業労働力の平準化,そして後継者の就農化への貢献といった効用があることが明らかになった.っまり,複合経営という形態によって,農業所得や年間の労働力配分が平準化し,各農家の経営の兼業化を促進する要因が取り除かれ,後継者の就農問題も解消され,専業による農業経営が維持されていた.複合経営は,新しい経営が軌道に乗るまでの不安定な収益を補完することで,新しい部門やその部門の担い手を育てる役割を担っており,農業後継者がいる専業農家を生み出すインキュベーターとしての役割を担っていることが明らかとなった.
著者
佐川 正人
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.6, pp.441-459, 2004-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

北海道の寿都地方では,例年5月から7月頃にかけて南ないし南東寄りの「寿都のだし風」,「寿都だし」などと呼称される局地的な強風が吹走する.本研究ではこの期間に合わせ,強風の吹走が予想される地域に風向・風速計を設置して数ヵ月間気象観測を行い観測値を解析した.また併行して寿都測候所の資料を基に数年間の風の吹走傾向についても,天気図型に区分するなどして総観気候学的解析を試みた.その結果,寿都地方の強風吹走時には,白炭~南作開(狭窄部)を境として風の吹走傾向の異なることが判明し,加えて,北作開(開放部中央)の風速が7ms-1前後を境に樽岸(開放部東)における風速の現れ方に違いのあることが認められた.また,北作開の風速の増大に対し,樽岸の風速の増大が大きくなる場合には,オホーツク海高気圧型に限られることが明らかになった.
著者
Naoko OSHIMA Shinji KADOKURA Hisashi KATO
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.336-351, 2004-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

The development of a quantitative method to predict regional extreme high temperature due to global warming is necessary. In this study, a statistical downscaling model for estimating monthly mean daily maximum temperature in August in Japan was proposed and examined. The model related the local variable with the principal components of large-scale climate variables over the region using stepwise multiple regression analysis. The principal components of air temperature and zonal wind at 850hPa level, sea level pressure, and geopotential height at 500hPa level were selected as eligible predictors. The statistical model was evaluated by the cross validation procedure. The correlation coefficients between the observation and the regression estimates were significant at most stations, and the model estimated the observation fairly well. Therefore it was confirmed that the method is applicable to the estimation of high temperature in the region. The method was then applied to the output of NCAR-CSM. The 1×CO2 climate downscaled from the global model output was generally cooler than the observation due to the underestimate of 850hPa air temperature to the north of Japan showing that the downscaling model reflects deviations in the global model.
著者
Akio TSUCHIYA Pedro Braga LISBOA
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.321-335, 2004-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
45

Meteorological parameters were measured in mahogany (mogno)-black pepper (pimenta) agro-forestry sites at Parque Ecológico de Gunma in Santa Bárbara do Pará, Brazil in September 2001 in order to investigate the differences in microclimatic mitigation in relation to forest structure and growth. In site mogno africano (MAF) where African mogno and pimenta were planted four years ago, the tree height (H) was 14.9±0.9m and the canopy coverage (CC) was 59.40±9.22%. Likewise, in site mogno amazônico (MAM) where an agro-forestry of Amazonian mogno and pimenta has been tested for six years, H was 6.6±0.8m and CC was 35.48±5.36%. In site mato reservado (RES), which is a 30-year-old secondary forest with 24 woody species, H: 13.3±7.8m, CC: 72.39±8.23%, and in site rocado (ROC), which was clear-cut 10 months ago, eight perennial herbs and 21 pioneer woody species were found, but CC was the smallest (6.21±1.09%). With respect to the radiation balance, downward short wave radiation (SWdown) was ROC>MAM>MAF>RES, while upward short wave radiation was ROC>MAM>MAF_??_RES. Both net radiation and photosynthetically active radiation had a similar phase to SWdown. Temperature was also dependent on SWdown. But dew point temperature (Tdp) decreased faster in ROC and MAM than at the other sites because radiative cooling due to upward long wave radiation (LWup) was larger in the nighttime. When temperatures reached Tdp in ROC and MAM, the relative humidity became 100% and the absolute humidity kept decreasing as long as dew formation continued. From these circumstances, it is clear that the diurnal fluctuation of microclimatic environments near ground surfaces depends on CC, and it is believed that pimenta, which are fond of the shade, should be planted in RES with high microclimatic mitigation effects.
著者
Hiroo OHMORI Jack Hiroki IGUCHI Tsuyoshi OHTA Atsuko TERAZONO Kengo HIKITA
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.301-320, 2004-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1

In order to investigate the vegetation response to global warming, experimental research was carried out on a high mountain of Japan for three years from 1997 to 1999. The experimental site was in the alpine zone at 2, 780m above sea level, near the peak of Mt. Norikura (3, 026m) in central Japan. Vegetation growing period is about 4 months without snow cover from early June to early October. Five open top chambers with a diameter of 80cm and a height of 30cm were used for temperature enhancement, and another five places were selected as controls outside the chambers. The main objectives were to clarify the differences in vegetation growth, phenology, biomass and coverage of plant between temperature-enhanced chambers and controls. To prove temperature enhancement, air temperature at vegetation height of 5cm high above ground and ground temperature at root layer of 3cm depth were recorded every hour in each chamber and at each control. Vegetation growth and phenology of several alpine species were measured at about four-week intervals, and biomass and coverage were measured on the last experimental day every year. The mean air temperature at vegetation height and mean ground temperature at root layer in chambers were about 0.65°C and 0.25°C higher than in the controls, respectively. Vegetation growth was significantly accelerated, and phenology was surely affected by the extension of growth period due to temperature enhancement for most of the plants observed. Vegetation growth and phenology, however, varied with species, indicating that species vary in response to warming. Differences in biomass between chambers and controls were not significant for all years, suggesting that the total growth of plants in the unit area is controlled by nutrient conditions of the soil. Through three years of experiment, coverage of Loiseleuria procumbens (Ericaceae) recognizably increased, overcoming other species in chambers, while there were no conspicuous changes in controls. It suggests that L. procumbens whose canopy expands horizontally over the other forbs might be more physiologically active than others under warming conditions, although vegetation growth showed positive response to temperature enhancement for most species.
著者
Norikazu MATSUOKA Shin-ichi SAWAGUCHI Kenji YOSHIKAWA
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.276-300, 2004-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
62
被引用文献数
11 18

This report overviews observations on periglacial geomorphology in central Spitsbergen, which have been undertaken by the Japanese geomorphological groups. Focus is given to permafrost-related processes, including solifluction, thermal contraction cracking and pingo growth. Annual freeze-thaw action dominates the ground, resulting in extensive occurrence of solifluction and shallow landslides on soil slopes. Solifluction shows low surface velocity but large volumetric transport, which respectively reflects infrequent diurnal frost creep and deep movement. The latter partly originates from plug-like flow in the basal active layer, where permafrost temperature is low and muddy sediment is thick. Non-sorted polygons with a wide range of diameters develop on lowlands. In colder inland terrains, large polygons (>7m) have ice wedges, whereas smaller polygons have only soil wedges or cracks confined to the active layer. Significant ice-wedge cracking occurs during rapid and intensive cooling in midwinter. In warmer coastal terrains, ice wedges are not common even below large polygons, because higher winter temperature can produce only shallow cracks. Open-system pingos occur in valley bottoms and near shores. Some pingos are still growing under a low artesian pressure fed by constant supply of sub-permafrost water. Following lateral river erosion, a new frost mound emerged at a side of a pingo, reaching 3m high during three years. The observations demonstrate that central Spitsbergen is situated in a High Arctic but relatively warm permafrost environment. The transitional condition between cold and warm permafrost allows diverse periglacial features to coexist within a small area. Even minor climatic change can switch the two thermal regimes, affecting significantly the type and magnitude of periglacial processes.
著者
Masaaki KUREHA
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.262-275, 2004-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

The purpose of this study is to examine the changes in outbound tourism from the Visegrád Countries (Poland, the Czech Republic, Slovakia, and Hungary) to Austria. The number of tourists from these countries to Austria has greatly increased since the late 1980s, especially during winter. A majority of these tourists used to visit cities in Austria, especially Vienna, during the socialist period. However, tourist destinations have now changed. Several areas in the Alpine region have become popular among tourists since 1990. In the province Tyrol, many winter tourists stay in the valleys with large glacial ski areas that always offer good snow conditions. Most of them travel in groups, and there are only a small number of individual travelers. Tourists come to Tyrol by chartered bus and usually opt for cheaper accommodation, when staying for five to six days. Since 1990, tourism from the Visegrád Countries to Austria has been developed on account of winter sports, however, it accounts for approximately 2% of the tourist nights in Austria. This development in tourism can be partly attributed to the accessibility from the Visegrád Countries to Austria and the fact that Austrian resorts are relatively inexpensive, compared with the other Alpine resorts in Switzerland or France. Moreover, many Alpine regions have come to need the new tourist market of the Visegrád Countries, because the regular visitor market, comprising largely German tourists, is unlikely to expand.
著者
瀬戸 真之
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.4, pp.209-218, 2004-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
34
被引用文献数
2 1

足尾山地北部の古峰ヶ原高原において,斜面堆積物の特徴に基づいて斜面の不安定期と岩塊堆積物の形成プロセスを検討した.調査地には,花闘岩のコアストーン起源の岩塊,トア,および岩塊が集積した地形(岩塊流)がみられる.また,粘土やシルトなどのマトリックスと岩塊,角礫,最終氷期中に降下したテフラ (Ag-KP, Nt-I) を含む相対的に細粒な斜面堆積物もみられる.後者の堆積物は,基岩風化層上面の凹凸に支配されずに広く堆積していることから,線的な動きではなく,最終氷期後半の面的なマスムーブメントによって形成されたと考えられる.一方,岩塊堆積物の形成プロセスは,水流による風化層からの岩塊の洗い出しと,緩速度のマスムーブメントによる岩塊の移動の組合せと考えられる.岩塊堆積物は,細粒の斜面堆積物を刻む谷の中に堆積していることから,最終氷期末期以降に形成されたと考えられる.
著者
長尾 朋子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.4, pp.183-194, 2004-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
38
被引用文献数
2 5

伝統的治水工法の一つである水害防備林が現存する久慈川中流域において,その立地と機能を検証した.水害防備林は立地面から,自然堤防上,段丘崖下,霞堤の前面の3種類に分類され,護岸機能とスクリーニング機能を持つことが確認された.さらに,自然堤防上に立地している水害防備林は土砂を捕捉することにより自然堤防の上方への発達を促していることがわかった.水害防備林は「成長する水制構造物」として評価できる.
著者
目代 邦康 千木良 雅弘
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.55-76, 2004-02-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
82
被引用文献数
9 10

赤石山脈南部の大谷崩から山伏にかけて,幅の広い緩斜面を頂部に持つ山稜が分布する.これらの山稜最上部には比高10m以上の凹地(山上凹地)があり,その下方には比高数m程度の山向きの小さな崖(山向き小崖)が発達する.この地域には瀬戸川帯のスレートが分布し,その壁開の走向は上記の凹地と小崖の伸びの方向と大略平行である.これらの凹地・小崖地形は,山体を構成する岩盤が斜面下方に倒れかかった結果形成された重力変形地形であると推定できる.崖頂部の丸みの程度,凹地内堆積物の層相とテフラが示す変形時期,山上凹地・山向き小崖の配列と分岐パターンは,山体の変形が,山体上部から下部へと進行し,かつ地層の走向方向から等高線に沿う方向へと進行したことを示している.稜線付近にある上位の山向き小崖は,少なくとも2万年前には存在しており,下位の山向き小崖は約1万年前に形成されたと考えられた.
著者
中島 直子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.14, pp.1001-1024, 2003-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
73

19世紀,大英帝国の首都ロンドンは拡大を続け,1851年に人口は236万人を超えた.中産階級は,次第に環境の良い郊外に移り住み,スラム化した都心部には労働者が多数残された.しかし大都市問題に関わる公的機関の介入は限られ,改良事業の多くが博愛主義者の慈善活動に依存していた.本稿では,1860年代以降,英国のオープン・スペース運動の発展に貢献した,社会改良家オクタヴィア・ヒルの環境への関心と行動の範囲・内容を明らかにする作業を通して,緑に囲まれた都市や国土の景観を保全する活動が,当時の人間のいかなる意識や理解に基づいて始まり,社会の批判や合意を得て進んでいったのかを検討する.ヒルのオープン・スペース運動は,都心部に小さな遊び場を造ること,身近な「使われない墓地」を開放することから始まり,コモンやフットパスの保護,英国南東部ウィールド丘陵の眺望点の保護,さらに湖水地方の景勝地の保護へと発展した.19世紀末にオープン・スペース運動は躍進期を迎え,ヒルは英国全体のオープン・スペースの保護を対象とし得るナショナルトラスの創設者の一人となった.ヒルの著した論文・書簡・報告文の内容から・オープン・スペース意識と行動とを検討し,オープン・スペース運動は博愛主義に基づく社会改良事業から始まった環境保護運動であり,「美の普及」に関わる芸術活動と関連していたこと,さらに彼女のオープン・スペース運動への貢献が,先行研究で示された本のより大きかったことを論じる.