著者
森岡 悦子 金井 孝典 山田 真梨絵
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.328-336, 2012-06-30 (Released:2013-07-01)
参考文献数
20

左一側性病変により連合型視覚失認を生じ, 経過中に視覚失語に移行した例について検討した。症例は, 65 歳の右利き男性で, 頭部 MRI で, 脳梁膨大部を含む左後頭側頭葉内側部に病変を認めた。初回評価時, 触覚性呼称, 聴覚性呼称, 言語性定義による呼称は良好であったが, 視覚性呼称は不良であった。また, 形態知覚は保たれていたが意味に関する課題は不良であったことから, 連合型視覚失認と考えられた。初回評価 2 ヵ月後, 視覚性呼称は不良であったが, 意味に関連する課題は改善し, 視覚失語に移行したと判断した。視覚失語への移行は, 右半球の意味記憶の機能の活性によると考えられたが, 右半球処理による視覚性認知は, 左半球で処理される言語性認知ほど詳細ではなく単純である可能性が示唆された。視覚失語において, 視覚性呈示により物品の概念が想起されても視覚性呼称に至らないのは, 右半球処理によって想起される概念が浅く脆弱なためではないかと考えられた。
著者
野村 心 甲斐 祥吾 吉川 公正 中島 恵子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.347-352, 2017-09-30 (Released:2018-10-01)
参考文献数
10

高次脳機能障害における社会的行動障害に対しての治療的介入は確立していない現状であるが, 脳損傷後の行動障害に対して, 患者の気づきのレベルや抑制コントロールに合わせて行動的アプローチと認知的アプローチなどの治療の形を変えていく必要がある (三村 2009, Sohlberg ら 2001) 。しかし, 気づきの定量化は難しく治療を選択・変化させる指標は明確ではない。今回, anger burst を呈した若年症例について, コーピング活用の観点から後方視的に検討し, アプローチの比重を変化させるタイミングを考察した。その結果, 行動的アプローチ期で学習したコーピングを活用して, 怒りに直面した際の適応行動が出現し, Social Skills Training (SST) などの場面で自発的にコーピングの活用がみられた時期, つまり, 自己の不適切行動を修正しようとする意欲が生じた時期が認知的アプローチへ変化させるタイミングと考えられた。
著者
髙野 裕輝 関野 とも子 山﨑 勝也
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.386-394, 2017-12-31 (Released:2019-01-02)
参考文献数
19
被引用文献数
1

左側頭葉後下部性失読失書 1 例と対照群 5 例に対し, 仮名文字列の語彙性判断検査および仮名実在語の音読-意味説明検査を, 呈示時間を統制した上で実施し, その成績や反応潜時の分析から仮名文字列の読み方略について検討した。その結果, 逐字音韻変換が機能し得ない短呈示条件下で本例はチャンスレベルを超える語彙性判断能力を示したが, それに比し音読や意味説明能力は低下が顕著であり, 欧米語圏で報告されている潜在性読みが観察された。以上より, 本例は単語形態熟知性の高い文字列を視覚的な「まとまり」として捉え, それが既知であるとの判断は概ね可能だが, それを音韻に変換するか意味にアクセスする過程に障害を呈していた。このような傾向は, 左側頭葉後下部性失読失書と病態的に近似していることが指摘されている日本語話者の純粋失読例にも認められる可能性が考えられた。この点については症例の蓄積を重ね, 今後検討を行う必要があると思われた。
著者
原 有希 衛藤 誠二
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.372-379, 2017-12-31 (Released:2019-01-02)
参考文献数
18

左中大脳動脈領域の脳梗塞により, 倒立書字・倒立描画を呈した症例を報告した。症例は基本的な視知覚機能は良好で, 文字・物体・画像の認知も保たれていたが, 向きの判断が困難であった。また, 文字・線画の正立像と倒立像の識別にも困難を示した。「線画」では上下の同定は可能であったが, 「文字」では上下の同定も困難であった。これらの特異的な徴候は, orientation agnosia と一致し発症 6 ヵ月後も残存した。線画と文字に対して外的手がかりを利用した空間定位の練習を 10 ヵ月実施したことによって, 倒立書字・倒立描画が消失した。症例の呈した症状を, 物体中心座標系と観察者中心座標系の視点から考察した。倒立書字・倒立描画は, 障害されている空間座標系の脳内表象に基づいて, 運動を実行することで出現した可能性がある。
著者
掛川 泰朗 磯野 理 西川 隆
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.312-319, 2016-06-30 (Released:2017-07-03)
参考文献数
28
被引用文献数
1 2

脳血管障害による右半球病変に伴って身体パラフレニアとフレゴリの錯覚を合併した2 症例を報告した。脳血管障害によるカプグラ症候群やフレゴリの錯覚などの人物誤認症候群の報告は未だ少数である。 Feinberg ら (1997) は, 身体パラフレニアを, カプグラ症候群と同型の病態構造を有していると指摘しているが, 身体パラフレニアとカプグラ症候群の合併の報告はみられない。一方, 身体パラフレニアにフレゴリの錯覚の合併をうかがわせる記述は少数見出された。身体パラフラニアの患者における麻痺肢への態度は一定の既知感があるという意味でむしろフレゴリの錯覚に近いかもしれない。身体パラフレニアと人物誤認症候は右半球病変, とりわけ前頭葉病変に共通した責任病巣があるものと考えられており, これまで注目されてこなかったが, フレゴリの錯覚と身体パラフレニアはより高率に合併している可能性がある。
著者
伊澤 幸洋 小嶋 知幸 浦上 克哉
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.572-580, 2012-12-31 (Released:2014-01-06)
参考文献数
30

アルツハイマー病 (AD) 患者における簡易知能検査と WAIS-Ⅲ の関連および疾病による知能特性について検討した。対象は, DSM-ⅣとNINCDS-ADRDA の診断基準を満たした AD 患者78 例 (男性 21 例, 女性 57 例) で平均年齢 81.6±6.0 歳であった。検査はHDS-R, MMSE, RCPM の簡易知能検査と WAIS-Ⅲ を実施した。その結果, 各簡易知能検査と WAIS-Ⅲ FIQ, VIQ, PIQ はそれぞれ中等度以上の有意な相関を認め, 旧版のWAIS ・WAIS-R で認めた併存的妥当性は維持されていると考えられた。RCPM は WAIS-Ⅲ動作性下位検査との相関から構成能力や図形の認知処理との関連は強いが, 推理能力との関連はやや弱いと考えられた。また, AD による知能特性として WAIS-Ⅲ の「類似」と「理解」の成績低下から抽象化能力および社会通念の低下がうかがわれる一方, 「数唱」と「行列推理」は比較的高得点であり, 言語性短期記憶や収束的思考能力は疾病の影響を受けにくい知能領域と考えられた。
著者
東川 麻里 波多野 和夫
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.281-288, 2003
被引用文献数
1

再帰性発話と反響言語が合併した失語例を報告した。この症例は「ナカナカ」という語を中心とした常同的発話を産生した。この「ナカナカ」には,「ナカナカブイ」,「ナカナカナイト」のように語尾に付加語が付く程度の変形が観察された。われわれはこの現象を再帰性発話の概念で理解し,その経過における「浮動的段階」 (Alajouanine 1956) に相当すると考えた。さらにこの「ナカナカ」は文法的機能語を伴うこともあり,半常同性発話 (Hadanoら 1997) の症状に類似するものと思われた。反響言語は主として会話場面で出現し,形式としては減弱型または完全型であった。本例の失語型は従来の Wernicke (1874) -Lichtheim (1885) から Geschwind (1965) に至る古典論的な失語分類では位置づけが困難であると思われた。とくに,異なる種の反復性言語行動または自動言語が合併した症例として,これまでに報告例の少ない貴重な症例と思われた。
著者
加藤 徳明
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.297-303, 2020-09-30 (Released:2021-10-01)
参考文献数
18

脳疾患・脳外傷者の自動車運転再開・中止の判断には, 神経心理学的検査等の院内検査だけでなく, 運転シミュレーター, 実車教習を含めた包括的運転評価が勧められる。運転免許適性検査基準を満たしていることは大前提だが, 基準を満たしても同名半盲や半側空間無視, 重度の感覚障害の場合は個別の医学的判断が必要である。免許取り消し又は停止となる病気・病態の確認も重要であり, 認知症は免許取り消しになる。症候性てんかん, 低血糖症, 抑うつ状態, 睡眠時無呼吸症候群は症状の確認が必要である。失語症者は机上検査の解釈が難しく, Trail Making Test-A, Rey-Osterrieth の複雑図形, Tapping span, Vi sual Cancellation 図形「A」・「B」, Continuous Performance Test 等の利用が有効な可能性がある。包括的な評価で「運転適性あり」と判定すれば, 警察の安全運転相談 (全国統一相談ダイヤル : #8080) に連絡するように指導する。不安要素がある場合は「運転再開保留」とし, 3~6 ヵ月程度期間をあけて, 回復を待って再評価を実施する。
著者
上村 直人 藤戸 良子 樫林 哲雄
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.310-316, 2020-09-30 (Released:2021-10-01)
参考文献数
6
被引用文献数
1

近年, 高齢者と自動車運転の問題, 特に認知症と自動車運転は社会的にも問題化し, 臨床現場でも様々な対応や試みが行われている。さらに 2017 年 3 月 12 日からは 75 歳以上の高齢ドライバーは 3 年ごとの免許更新時と基準行為と呼ばれる特定の交通違反を犯すと, 更新を待たずに認知機能検査を受検することが必要となった。その結果, 認知症が疑われる第一分類に判定されれば, 医師の診断を受けることが義務化された。現在, わが国では認知症と判定されれば, 現行法でも既に自動車運転が禁止されているが, どのような状態であれば運転を中断すべきか, という医学的基準や評価方法は確立されていない。認知症といっても軽度から重度まで, また認知症の原因疾患によっても事故の危険性には差異がある可能性があり, 今後さらなる医学的検討が必要である。そこで今回, 臨床現場における認知症と運転行動の関連性のほか, 現時点での課題について解説した。
著者
光戸 利奈 錦織 翼 辰川 和美 橋本 優花里 宮谷 真人
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.18-27, 2019-03-31 (Released:2020-04-03)
参考文献数
30

言語流暢性課題の得点がアルツハイマー病 (以下 AD) や軽度認知障害 (以下 MCI) の評価に役立つ指標であることがすでに報告されている。そして, 言語流暢性課題では反応の質的な分析を行うことで, 語彙検索機能や自己モニタリング機能について検討できる可能性がある。また, 語彙検索機能については, 検索の方略という視点から検討されているが, 英語話者を対象とした先行研究で扱われている方略は日本語話者にとって一般的とはいえないため, 日本語話者特有の方略に基づいて分析する必要がある。そこで本研究では, 日本語話者の AD と MCI の語彙検索機能と自己モニタリング機能の特徴を明らかにすることを目的とした。動物の名前を挙げる意味課題と「か」からはじまる語を挙げる文字課題を, AD と MCI, そして健常高齢者 (以下 NC) に実施した。語彙検索機能の評価には日本語話者特有の方略を考慮した上でクラスター数とスイッチ数を用い, 自己モニタリング機能の評価には, 産生語の重複エラー率と検査者への質問の有無の割合を用いた。その結果, 意味課題において AD では NC と比べてクラスター数とスイッチ数が少なく, 重複エラー率が高かったことから, 語彙検索機能と自己モニタリング機能の低下が示唆された。また, MCI では NC と比べてクラスター数とスイッチ数は少なかったものの, 重複エラー率には違いが示されなかったことから, 自己モニタリング機能に先行して語彙検索機能が障害される可能性が示唆された。
著者
能登谷 晶子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.216-221, 2018-06-30 (Released:2019-07-01)
参考文献数
25

人は加齢とともに聴力閾値の上昇が高音域から生じる。内耳は加齢による影響を受け, 言葉や音楽の聞き取りに支障をきたすとされる。一方, 脳幹の聴覚伝導路は病理学的には加齢による神経の脱落は軽度にすぎないと言われている。したがって, 中枢性聴覚障害の精査では, 末梢レベルの聴こえの確認が重要である。本稿では, 広義の聴覚失認, Landau-Kleffner 症候群による純粋語聾, 皮質聾のうち自験例を中心に報告した。聴覚失認例では聴力は軽度から中度の閾値上昇で推移し, 語音・環境音では, 聴こえるが意味理解困難な状態を示した。母音聴取 50%, 子音は不可であった。純粋語聾例では, 聴力は正常から軽度の閾値上昇で推移し, 母音聴取は 100%, 子音の混乱が目立った。環境音の認知に問題なかった。 皮質聾例では, 純音聴力は無反応, 語音・環境音ともに聴取困難であった。いずれも聴性脳幹反応 (ABR) は正常範囲にあった。皮質聾例では, 患者自身の声が大声になる例とならない例に分類された。
著者
赤沼 恭子 目黒 謙一 橋本 竜作 石井 洋 森 悦朗
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.360-367, 2004 (Released:2006-03-24)
参考文献数
13
被引用文献数
4 3

地域在住高齢者 160名を対象に, MMSE自由書字を, 文字数, 漢字・仮名における文字形態の誤り, 文字運用に焦点をあて CDR別に分析した。CDR 0 は健常, CDR 0.5は最軽度アルツハイマー病, CDR 1+はアルツハイマー病である。その結果, 文字数は CDRが重症化するにしたがい減少傾向を示し, 文字形態は健常においても 30%に漢字もしくは仮名の誤りを生じていたが, CDR 0.5群もしくは 1+群において仮名を誤る対象者が多かった。文字運用は, 名詞においては CDR 0群と 0.5群では誤りに差はないものの CDR 1+群で誤りが多く, 送り仮名では CDR 0.5群で誤りが多くみられた。文字運用に注目した場合, 漢字と仮名で構成された送り仮名 (綴り) の誤りは最軽度アルツハイマー病という病的過程を反映している可能性が示唆された。
著者
品川 俊一郎
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.361-367, 2016

<p>&ensp;&ensp;前頭側頭型認知症 (Frontotemporal dementia: FTD) は遺伝学的, 病理学的, そして臨床症候群としても不均一な疾患群であり, 関連遺伝子としてはMAPT, GRN, C9orf72 などが知られており, 組織病理学的にはピック球のような tau をもつもの, TDP-43 をもつもの, FUS をもつものなどに大別される。この生物学的不均一性によりアルツハイマー病における A β蛋白のような疾患特異的なバイオマーカーの開発が困難となっている。画像診断においては前頭葉の大脳皮質の損傷は均一ではなく, 臨床場面で画像のみにおいて診断を行うことは困難である。認知機能検査における遂行機能障害も疾患特異的なものは少なく, 行動徴候の把握が認知機能検査よりも鋭敏とされている。行動型 FTD では診断基準に挙げられるような脱抑制, 自発性低下, 共感性の欠如, 常同行動, 食行動変化といった行動症候が出現するが, FTD は精神疾患や他の認知症などへの過剰診断と過小診断どちらも多いため,注意が必要である。</p>
著者
中川 良尚 佐野 洋子 北條 具仁 木嶋 幸子 加藤 正弘
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.373-383, 2011-12-31 (Released:2013-01-04)
参考文献数
20
被引用文献数
4 2

失語症状の長期経過を明らかにする研究の一環として, 失語症例の超長期的言語機能回復後の経過, および言語機能に低下を示した症例の特徴について検討した。対象は, 右利きの左大脳半球一側損傷後に失語症を呈した 270 例中, 2 年以上経過を追跡することができ, かつフォローアップの最終評価時年齢が 70 歳以下であった 151 例。言語機能回復訓練実施中あるいは訓練終了後に, SLTA 総合評価法合計得点が低下した症例が 151 例中 37 例 (24.5%) 存在した。内訳は, 最高到達点から 1 点低下した症例が 19 例, 2 点以上低下した症例が 18 例であった。     SLTA 総合評価法得点を合成項目別に検討すると, 約 90% の症例で訓練によって回復した合成項目に低下を認めたことから, 訓練により回復した機能は必ずしも保持されるのではなく, 脆弱であるとことが示唆された。
著者
小嶋 知幸
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.156-168, 2006 (Released:2007-07-25)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

復唱という言語モダリティについて,とくに言語情報入力の処理と,入力された言語情報の把持という処理に焦点を当て,生理心理学的立場から論じた。復唱における入力の処理過程を認知神経心理学的観点から分析したモデルに基づき,音響処理·音韻処理·語彙処理·意味処理の 4水準に,一時的な音響⁄音韻情報把持に必要な残響記憶を加えた計 5つの水準について,それぞれの水準の障害で生じる臨床像と推定される障害メカニズムについて,症例に基づいて報告した。また,臨床症状から推定した各処理水準における障害メカニズムの妥当性を,電気生理学的に検証する方法について探った。
著者
櫻井 靖久
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.25-32, 2010-03-31 (Released:2011-05-11)
参考文献数
34
被引用文献数
7 3

これまでに明らかにされた病巣局在の結果に基づいて,孤立性失読・失書の新しい神経学的分類を提唱した。従来の分類との違いは以下の通りである。(1) 非古典型純粋失読は紡錘状回型と後頭葉後下部型に分けられる。紡錘状回型は漢字に著明な純粋失読,より一般的には単語の純粋失読,後頭葉後下部型は仮名の純粋失読,より一般的には文字の純粋失読と特徴づけられる。(2) 側頭葉後下部型の失読失書の病巣は紡錘状回中部・下側頭回(37 野)である。これより内側の病変(37 野)で紡錘状回型純粋失読が起こり,この背外側の病変(中側頭回後部,21/37 野)で漢字の純粋失書が起こる。(3) 角回性失読失書の病巣は角回だけでなくその後方の外側後頭回を含む。角回のみの病変では純粋失書になる。
著者
安野 史彦
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.119-128, 2004 (Released:2006-03-09)
参考文献数
49

近年の研究はセロトニン神経系が記憶機能に重要な役割を有することを示唆している。われわれは脳内5-HT1A受容体に特異的に結合する[11C]WAY-100635をリガンドとした positron emission tomography (PET) を用いて脳内5-HT1A受容体結合能を測定し, 記憶機能との関連を検討した。さらに5-HT1A受容体の作動薬であるタンドスピロンを用い, 5-HT1A受容体の刺激が認知機能に及ぼす効果について検討を行った。両側海馬に限局した後シナプス5-HT1A受容体の結合能は, 被験者の顕在記憶機能との間で負の相関を示した。タンドスピロン投与は用量依存的に言語性顕在記憶機能を低下させた。結果は海馬に局在する後シナプス5-HT1A受容体が, 顕在記憶機能に対して抑制的な影響を有することを明らかにした。
著者
高原 世津子 野間 俊一 種村 留美 上床 輝久 種村 純
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.251-258, 2005 (Released:2007-03-01)
参考文献数
9
被引用文献数
1

欧米で広く推奨されている学習方法であるPQRST法は, Preview, Question, Read, Self-Recitation, Testからなり, 他の記憶ストラテジーに比べ有効であることが示されている。今回われわれは, 両側側頭葉前下部, 前頭葉眼窩面に広範な脳内出血を認め, 受傷後7ヵ月半を経過した健忘症患者にPQRST法を用いた記憶訓練を施行し, 良好な結果を得たので報告する。PQRST法は本来言語的手がかりを使用するが, 今回は, 症例に相対的に残存していた視覚性記憶もあわせて利用した。PQRST法は記憶障害患者に深い情報処理を促し, 文章の理解と保持を促進したことが示唆された。また, Baddeleyらによってその有効性が確認されている, 誤りなし学習法についても検討し, それが追認された。また, 学習時にのみ示していた軽度保続に対しても, 誤りなし学習が有効であることが示唆された。約2ヵ月の治療的介入の結果, 検査成績の向上とともに, 実際の生活場面においてもエピソード記憶が改善し, 症例は社会復帰を果たした。