著者
本田 智子 今村 徹
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.237-242, 2019-06-30 (Released:2020-07-06)
参考文献数
23

症例は 57 歳, 右利き男性。兄には左利きの矯正歴がみられた。右頭頂後頭葉皮質下出血発症 4 週時点で左半側空間無視, 構成障害, 着衣失行を認めた。音声言語の理解, 表出および読字には問題なかったが, 漢字書字に障害がみられ, 無反応, 部分反応, 存在字近似反応などの純粋失書と思われる反応に加えて, 文字の構成要素はすべて書き出されているが空間配置が乱れた構成失書がみられた。小学校 1, 2, 3 年生の教育漢字から無作為に選択した 51 文字の書取と写字では, 純粋失書は写字で著明に減少したが, 構成失書は書取と写字で同程度の割合でみられ, 偏と旁など, 部首と部首との空間配置が乱れる場合と, 1 つの部首を構成する字画の主要なまとまり同士の空間配置が乱れる場合とがあった。近年, 右半球損傷による構成失書の症例がいくつか報告されている。構成失書は従来指摘されてきた左頭頂葉病変以外にも, 非定型側性化を背景に有する右半球病変で出現する可能性がある。
著者
吉野 眞理子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.176-180, 2011-06-30 (Released:2012-07-01)
参考文献数
18

失語の口頭表出面について,いくつかの代表的症状をとりあげて論じた。言語学的側面,語用論的側面,言語を支えるさまざまな認知機能,随伴する発話運動系の障害,非言語コミュニケーション的側面,心理社会的側面などさまざまな要因のダイナミックな相互作用による結果が口頭表出面に現れると考えられる。口頭表出にいたるさまざまな基盤的・背景因子とそれらのダイナミクスを,観察される発話症状から探り当てるのは容易ではない。
著者
熊倉 勇美
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.15-20, 2012-03-31 (Released:2013-04-02)
参考文献数
7

脳血管障害などに起因する摂食・嚥下障害の患者は, (1) 低栄養・脱水, (2) 誤嚥性肺炎, (3) 窒息など, によって生命を脅かされる。また, 止むを得ず経管栄養などを選択すると, 口から食べる楽しみが奪われ, (4) QOL が低下する。言語聴覚士 (ST) は, 摂食・嚥下機能の回復, QOL の向上などに関わるリハビリテーションチームの一員であるが, 最近では高次脳機能と「食べること・飲み込むこと」に関連した問題にも取り組んでいる。中でも高齢者や認知症患者, さらに高次脳機能障害患者の食の問題 (ペーシング障害や拒食などからもたらされる栄養失調, 誤嚥性肺炎など) がトピックスとして取り上げられている。本稿では, 高次脳機能障害の中から半側空間無視の 2 症例を挙げ, 治療経過を紹介した。最後に, ST の立場から高次脳機能障害と摂食・嚥下障害に関して, 今後の展望と, 取り組むべき課題について論じた。
著者
宮内 貴之 佐々木 祥太郎 佐々木 洋子 最上谷 拓磨 白濱 勲二
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.335-344, 2021-09-30 (Released:2022-07-04)
参考文献数
21

脳卒中後は, 高い頻度で注意障害が生じる。注意障害は Activities of Daily Living (ADL) に影響を与えるが, 机上検査を用いた検討が多く, 行動観察評価である Moss Attention Rating Scale 日本語版 (MARS-J) を用いた検討はされていない。本研究の目的は急性期脳卒中患者における行動観察評価と ADL の関連を明らかにすることとした。対象は急性期脳卒中患者 64 名とし, 行動観察評価と机上検査および ADL を退院前 1 週間以内に評価した。評価指標は, 行動観察評価は MARS-J, 机上検査は Clinical Assessment for Attention (CAT) , ADL は Functional Independence Measure (FIM) を用い, 各指標の関連を検討した。Spearman の順位相関係数の結果, FIM と MARS-J は高い相関関係があった。また, FIM と CAT の Visual Cancellation Task (VCT) の所要時間, Symbol Digit Modalities Test (SDMT) の達成率も相関があった。一方, FIM と VCT の正答率と的中率は低い相関を示した。これらのことから, 急性期脳卒中患者では注意機能の行動観察評価と ADL は関連があり, ADL 上の注意障害を捉える上で MARS-J が有用である可能性が考えられた。

1 0 0 0 OA 読み書き障害

著者
櫻井 靖久
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.197-201, 2022-06-30 (Released:2022-08-30)
参考文献数
23

後天性読み書き障害について, 認知心理学的な分類と病巣研究に基づいた神経解剖学的な分類を整理して紹介した。認知心理学では, 失読を中心性 (視覚認知から意味, 音声にアクセスする段階での障害) と周辺性 (単語の視覚認知レベルの障害) に分け, 中心性失読はさらに音韻性失読, 表層性失読, 深層性失読に分けられる。失書も同様に, 中心性 (語彙, 音韻処理にかかわる過程での障害) と周辺性 (視覚・運動覚イメージを書字運動に変換する段階での障害) に分けられ, 中心性 (言語性ともいわれる) 失書は音韻性失書, 語彙性失書, 深層性失書に, 周辺性 (運動性ともいわれる) 失書は失行性失書, 異書性失書にそれぞれ分けられる。神経解剖学的分類では, まず純粋失読, 失読失書, 純粋失書に分け, それぞれが細分類されている。   さらに選択的音読み障害と意味性認知症にみられる訓読みに顕著な読み障害に関する筆者らの最近の研究を紹介した。これらの事実は, 音読みにかかわる経路と訓読みにかかわる経路が独立した二重回路をなすことを示唆している。
著者
木村 亜矢子 堀 匠 佐藤 啓子 佐藤 智美 先崎 章
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.421-427, 2017-12-31 (Released:2019-01-02)
参考文献数
4

記憶障害と発動性低下のため日常生活の遂行が難しい患者 1 例に対し, SNS (social networking service) を用いた支援を行った。症例は 40 代, 男性の運転手で前交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血を発症した。身体, 言語機能はほぼ問題ないが, 重度記憶障害, 発動性の低下を中心とした高次脳機能障害を認めた。入院当初メモリーノートや, アラーム機能による行動指示を試みたが, 活用は困難であった。 本人が使い慣れていた SNS (LINE のトーク機能) を使用し, 多職種チームが連携して支援を行った結果, 病棟生活では標準意欲評価法 (CAS) による評価が改善し, 退院後もLINE を用いて屋外での単独行動が安全に可能となった。家族にとっても行動を遠隔に確認し見守ることができ, 退院後の安心や省力化につながった。SNS (LINE) による行動指示や記憶を補完する支援は, 患者が自立した生活を送るために有効であった。
著者
松元 瑞枝 市川 勝
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.330-338, 2017-09-30 (Released:2018-10-01)
参考文献数
19

失語症のある人 (Persons With Aphasia, 以下 PWA) がインフォームド・コンセント (Informed consent, 以下 IC) について抱いている思いを明らかにし, 必要と考えられる支援について検討した。在宅生活を送っているPWA 21 名に半構造化面接を行って逐語録を作成し, 質的に分析した。その結果, 言語障害や退院などに関する不安, 変化する言語症状についての自覚, リハビリテーション (以下リハ) 内容について理解困難, IC の説明不十分又は覚えていない, コミュニケーション支援に関するニーズ, 不 十分な同意の確認などの 12 のカテゴリーが生成された。従って, 医療関係者は PWA への IC の説明や同意の確認の際には, コミュニケーション支援を提供する必要があると考えられた。例えばリハ開始の説明の際写真や絵を用いるなどが考えられた。そして ICは必要に応じて繰り返すことが求められており, また, 言語聴覚士は適切なコミュニケーション支援について医療従事者に伝える役割を担う必要があると考えられた。
著者
蜂須賀 研二
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.184-192, 2014-06-30 (Released:2015-07-02)
参考文献数
40
被引用文献数
1

Marin はアパシーを意識障害,認知障害,感情障害によらない動機付けの減弱と定義し,Levy & Dubois は1)情動感情処理障害によるもの,2)認知処理障害によるもの,3)自己賦活障害によるものの3 タイプに分類した。アパシーは臨床症状にもとづき診断され,やる気スコア,Neuropsychiatric Inventory,必要に応じて標準意欲評価法を用いて評価されるが,MRI や脳受容体シンチグラフィーで客観的に責任病巣を確認する必要がある。薬物療法としてドパミン系薬剤,ノルアドレナリン系薬剤,アセチルコリン系薬剤が用いられる。非薬物療法としては,促し,チェックリスト,面接と外的代償,行動の構造化,音楽療法等の報告はあるが十分なエビデンスはない。今後,原因疾患,責任病巣とアパシーのタイプ,重症度とその経過に配慮して,訓練方法の研究が必要である。
著者
出田 和泉 種村 純 岸本 寿男
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.404-415, 2008-12-31 (Released:2010-01-05)
参考文献数
11

アマチュア尺八奏者でピアノの訓練経験もあったKM は,五線譜および尺八譜の読み書きが可能な二楽譜使用者であった。くも膜下出血後尺八譜の読み書き障害は軽度だったが,五線譜の読み書き能力は顕著に障害され,既知のメロディーを聴いて書譜する課題や音読課題では,五線譜と尺八譜の成績が乖離した。楽曲を正確に記譜する五線譜に対し,尺八譜は楽器の操作法を仮名文字で表記する奏法譜である。西洋音楽と異なり邦楽には,演奏する前にリズムを付けて音名を唱える「唱譜」という口伝の習得様式が存在するため,楽譜は唱譜によって暗記した演奏法を記憶から再生するための補助手段として用いられる。既知のメロディーの書譜,音読課題で尺八譜が五線譜よりも成績が良かったのは,唱譜で覚えた記憶から正答を引きだした可能性が考えられた。このような尺八譜の特異性が楽譜の読み書き課題において成績の乖離に関与したと考えられた。
著者
小浜 尚也 種村 純
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.411-420, 2020-12-31 (Released:2022-01-04)
参考文献数
23

左半球損傷者 (LHD) 10 名, 右半球損傷者 (RHD) 10 名, 健常者 10 名を対象に, 左右半球損傷者の情動喚起効果の違いによる表情の特徴を検討した。情動喚起効果が低い刺激として静止画, 高い刺激として情動的話題による会話を行った。静止画は International Affective Picture Systems (IAPS) を使用し, 各刺激に対する好悪判断を行った。表情評価は顔面解剖学に基づいた客観的評価システムである Facial Action Coding System (FACS) を用いた。IAPS 条件において 3 群間で好悪判断の分布に有意差はなかった。表情表出の総数は, IAPS 条件では RHD 群は LHD 群および健常群に比べ少ないが, 会話条件は 3 群間で有意な差はなかった。RHD の表情表出は刺激の情動喚起効果に影響を受けることが考えられ, FACS によって損傷半球別の表情特徴を初めて明らかにした。
著者
成田 渉
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.171-180, 2020-06-30 (Released:2021-07-01)
参考文献数
28

認知症性疾患として最多を占めるアルツハイマー病には記憶障害を主症状としない一群が存在する。 このうち, logopenic progressive aphasia (LPA) は左半球の機能低下を反映し, 喚語困難に加え, 句や文の復唱障害として表現される言語性短期記憶の障害を特徴とする。Posterior cortical atrophy (PCA) は後頭葉から頭頂葉および後頭葉から側頭葉の機能低下によって視空間認知障害, 対象認知の障害などを生じる。  片側の障害が多い脳血管障害と比較して, 左右差があっても基本的に両側性障害である神経変性疾患では両側の大脳半球損傷でみられる症状を認めやすい。視空間認知機能の側性化は言語機能に比べて弱く, 同時失認のように両側性の障害で顕在化する症状は, 神経変性疾患では比較的生じやすくなる。脳血管障害では検討の場面が限られていた認知機能の側性化について, 神経変性疾患の症状は新たな検討の機会を与えるものになると考えられる。
著者
太田 信子 種村 純
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.339-346, 2013-09-30 (Released:2014-10-02)
参考文献数
10
被引用文献数
3

The Cambridge Prospective Memory Test (CAMPROMPT)原版を原著者らの許可を得て翻訳して,日本版を作成し,健常者242 名および脳損傷者57 名に実施した。その結果から,検査法の信頼性を検査者間信頼性,平行検査信頼性,内的整合性から検討した。検査者間信頼性について,1 名の評価者と4 名の採点者との一致率 (98.2%) および相関 (1 名はSpearmanʼs ρ=0.986,3 名はそれぞれSpearmanʼs ρ=1.000) から,採点方法の信頼性が高いことが示された。平行検査信頼性について,バージョン間の相関(Spearmanʼs ρ=0.537)から,成績はバージョンの影響を受けないことが示された。内的整合性について Cronbachʼs α は脳損傷群 0.849 と健常群 0.817 から,対象によらず一貫して展望記憶機能を評価することが示された。4 つの年齢別に標準値の作成により,標準化を行った。信頼性の検討を通じて,CAMPROMPT 日本版は,十分な信頼性を有する評価法であることが確認された。
著者
板倉 徹 西林 宏起 中尾 直之
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.156-162, 2008-06-30 (Released:2009-07-01)
参考文献数
6

言語関連野と頭頂葉連合野に病変を患者19 例に対して,術中覚醒下に大脳皮質を刺激してその反応を観察した。男性15 例女性4 例で年齢は18 歳から72 歳。腫瘍はグリオーマが14 例,転移性脳腫瘍が4 例,その他1 例であった。覚醒手術はプロポフォール麻酔下に皮膚切開と開頭を行い,その後覚醒下に皮質刺激を行った。言語関連野の術中刺激による反応は症例によるばらつきが著しかった。ただBroca 野やWernicke 野の刺激では言語停止が多くみられ,それぞれの近傍では言語の保続が観察されることが多かった。頭頂葉の術中刺激では右側では半側空間無視などは観察されなかった。左頭頂葉の刺激では肢節運動失行,手指失認,構成障害,口腔顔面失行や観念運動失行が皮質刺激で一過性に観察された。
著者
安達 侑夏 笠井 明美 今村 徹
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.255-259, 2018-06-30 (Released:2019-07-01)
参考文献数
8

症例は 80 歳, 女性, 右利き。左前頭葉の脳内出血発症 60 日で当施設転入居。四肢に粗大な運動麻痺なし。自発話は乏しく, 話し掛けられると単語~短文レベルで発話がみられることがある程度。問いかけへの肯定 / 否定の意思表示は曖昧だが, 表情や行動, 態度から非言語的な状況理解は基本的に悪くないと思われた。施設内での生活場面で, 窓の鍵やドアが見えると開けようとするといった使用行動がみられた。さらに, 複数の職員がテーブルを囲んでミーティングをしていると, 近づいてきて職員の隣の椅子に座り, ミーティングの参加者のようにうなずきながら話を聞いたり, 机上の資料を手に取ったりする, など, 施設に勤務する職員であるかのように行動する場面が散発した。これは施設の環境が刺激となって出現した, Lhermitte の原著に忠実な環境依存症候群であると考えられた。
著者
福永 篤志 大平 貴之 加藤 元一郎 鹿島 晴雄 河瀬 斌
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.242-250, 2005 (Released:2007-03-01)
参考文献数
18
被引用文献数
3

後出し負けじゃんけんの「負けよう」とする認知的葛藤の脳基盤はいまだ明確ではない。今回われわれは, 右利き健常人9名に対し, 後出しじゃんけん (負けまたはあいこ) 負荷時に3テスラfMRIを撮像し, 安静時と比べて有意に検出されたBOLDシグナルの分布について検討した。結果は, 負け・あいこじゃんけんともに, 前頭葉, 後頭側頭野, 感覚運動野, 小脳半球, 補足運動野 (SMA) 等に有意なBOLDシグナルが検出された (corrected p<0.05)。また, 左手負けじゃんけんでは左SMAが, 左手あいこじゃんけんでは右SMAがそれぞれ強く賦活され, 右手負けじゃんけんでも左SMAの反応が強かった。以上の結果から, 左SMAがステレオタイプな動作を抑制する機能や葛藤条件の監視に関与していることが示唆された。
著者
山口 修平
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.222-230, 2007-09-30 (Released:2008-10-01)
参考文献数
25
被引用文献数
2

エピソード記憶の記銘と想起,意味記憶の想起,そして作業記憶における前頭葉の役割を神経機能画像研究の成果を中心に概説した。エピソード記憶の記銘の際には左の前頭前野が関与し,想起に際しては両側の前頭前野が関与している。記憶内容の言語化の程度も半球差に影響している。新奇な刺激の自動的な記銘には後方連合野の関与が強いが,前頭葉の情動(前頭眼窩面)や注意のネットワーク(前帯状回)も関与している。意味記憶そのものは側頭葉を主体とするネットワークに存在するが,その随意的な想起には左腹外側前頭前野の役割が重要である。作業記憶は前頭葉の実行機能の中で中心的な役割を果たしており,その際に主に活動する前頭葉内部位は中および下前頭回であり,頭頂葉とのネットワークが重要である。
著者
小森 憲治郎 池田 学 中川 賀嗣 田辺 敬貴
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.107-118, 2003 (Released:2006-04-21)
参考文献数
21
被引用文献数
6 3

側頭葉の限局性萎縮により生じる意味痴呆と呼ばれる病態では,言語・相貌・物品など広範な対象についての意味理解が選択的に障害される。意味痴呆における葉性萎縮のパターンには,通常左右差が認められるが,萎縮の優位側に特異的な認知機能障害については,いまだ十分な合意的見解が得られていない。そこでまずわれわれは,左優位の萎縮例と右優位例の神経心理学的比較検討から,左右側頭葉の役割分化に関する手がかりを得ようと試みた。その結果,典型的な語義失語像を呈した左優位例では,呼称,語産生と,理解に関する項目で右優位例を下回り,知能検査についても言語性検査の成績低下が著明であった。一方右優位例では,総じて語義失語の程度はやや軽度で,代わって熟知相貌の認知障害,物品の認知ならびに使用障害を呈したが,言語の諸機能はまんがの理解を除き左優位例に比べ成績低下が軽度であった。また知能検査では言語性,動作性ともに低下し,何らかの視覚性知能の障害も併存している可能性が示唆された。さらに諺と物品という,それぞれ言語性・視覚性と異なる表象の保存状態を調べる補完課題を用いた比較では,どの意味痴呆患者も何らかの補完課題の障害を認めたが,諺の補完課題での成績低下が著明で物品の補完は比較的保たれる左優位例に対し,おもに物品の補完課題に著しい困難を呈し,諺では補完が比較的保たれる右優位例,という二重乖離が認められた。これらの結果は,左側頭葉前方部が言語性の,また右側頭葉前方部は視覚性の表象を司る神経基盤として重要であることを示唆している。
著者
山田 裕子 前島 伸一郎 片田 真紀 阿部 泰昌 爲季 周平
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.244-250, 2007-09-30 (Released:2008-10-01)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

脳梗塞による右大脳半球損傷で失語症を伴わない口腔顔面失行を呈した症例を報告した。症例は64 歳の右手利きの男性で,左手利きの家族性素因はなかった。神経学的には顔面を含む左片麻痺と左半身の感覚障害を認めた。神経心理学的には,口腔顔面失行,左半側空間無視,注意障害,構成障害を認めた。失語症や観念失行,観念運動失行はなかった。頭部MRI では右中大脳動脈領域の広汎な梗塞巣が認められた。本症例の言語機能は左半球優位に,口腔顔面の随意運動に関する機能は右半球優位に側性化されている可能性が示唆された。一般的に口腔顔面失行は失語症に伴うことが多く,発語に関する半球に密接に関連すると考えられているが,言語と口腔顔面の随意運動に関する神経機構は互いに独立して存在しうるものであると考えられた。また失行の中でも口腔顔面と上肢の行為の神経機構は異なる半球間に側性化されていると考えられた。
著者
津田 哲也 中村 光 吉畑 博代 渡辺 眞澄 坊岡 峰子 藤本 憲正
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.394-400, 2014-12-31 (Released:2016-01-04)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

項目間の意味的関連性を統制した非言語性意味判断課題を用いて, 失語症者の意味処理能力を検討した。対象は右利き失語症者 35 例 (平均 65.4 歳) および同年代の健常者 10 例 (統制群)。課題では提示された目標項目に対し, 対象者に 5 つの選択肢のなかから, 最も意味的関連性が強いと判断する 1 項目を指すよう求めた。選択肢は質的に異なる 2 つの意味的な関連性 (状況関連性と所属カテゴリー関連性) の有無を基準に設定した。例えば, 刺激項目が「犬」の場合, 状況と所属カテゴリーもどちらも関連する項目 SC (猫), 状況的関連のある項目 S (家), 所属カテゴリーが関連する項目 C (象), 生物・非生物のみ一致するが状況・カテゴリーの関連性はない項目 N1 (鯛), いずれも関連のない項目N2 (消しゴム) の線画を提示した。その結果, 統制群・失語群いずれも全反応中に占める比率は SC が最も多く, 次いで S または C の順で, N1・N2 は最も少ない反応であった。また, 失語重症度別・聴覚的理解力別での反応に有意な偏りを認め, 重度群・理解不良群は軽度群・理解良好群よりも全反応中の N1・N2 の比率が有意に高かった。失語症者において重症度・聴覚的理解力と非言語性意味処理には一定の関連があることが確認された。以上より, 多くの失語症者は非言語性意味判断において, 状況関連性やカテゴリー関連性という判断基準を利用できることが示された。
著者
池田 学 一美 奈緒子 橋本 衛
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.304-309, 2013-09-30 (Released:2014-10-02)
参考文献数
21
被引用文献数
2

進行性失語の概念と診断について,脳前方部に原発性の変性病変を有する認知症の枠組みの中で特徴的な進行性失語症を主症状とする臨床症候群を捉える流れと,Mesulam が当初は全般的認知症を伴わない緩徐進行性失語症(slowly progressive aphasia without generalized dementia)として報告し,その後も発展させてきた(脳血管性失語に対しての)変性性失語症という流れを辿り,概念の変遷と診断基準の特徴を紹介した。そして,各々の診断基準を実際に自験例に当てはめた場合,進行性失語の各サブタイプの診断がどのように変化するかを示すことにより,各々の診断基準の特徴と課題を検討した。