著者
植田 恵 高山 豊
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.330-338, 2013

原発性進行性失語(primary progressive aphasia;PPA)の評価は,既存の言語機能検査を使用して行われているが,その適切な組合せ・実施手順の明確化,あるいは新たな評価法の開発が望まれる。近年,新たな PPA の国際臨床診断基準とともにタイプ診断のための発話/言語機能の課題が示された。そこで,我々はこの課題と本邦で使用されている検査との対応について,また過去の自験例に実施した検査について検討することを通じて,PPA の評価における課題を整理することを試みた。タイプ分類は既存の検査を組み合わせることで対応が可能であると考えられたが,この検査の組み合わせの妥当性については今後さらなる検討が必要である。他方,長期経過をみていく際に必要となる ADL(activities of daily living)等生活面の評価についても PPA 特有の問題が反映される評価法が開発されることが期待される。
著者
岩村 吉晃
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.253-260, 2006 (Released:2007-10-05)
参考文献数
44
被引用文献数
1 2 1

アクティヴタッチについて,その研究史と筆者が行った大脳メカニズムの研究をふりかえり,これに関連する最近のヒト体性感覚中枢の研究を紹介した。さらに触認識のしくみ追求の立場から,頭頂葉における体性感覚と視覚の統合に関する研究を概観するとともに,触認識中枢をめぐって後頭葉における視覚と体性感覚の相互作用について最近の知見を紹介した。
著者
福澤 一吉
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.245-252, 2006 (Released:2007-10-05)
参考文献数
7
被引用文献数
1

一般に脳研究では神経細胞の働きや,脳損傷に由来する神経学的,または神経心理学的症状の記述,分析などのボトムアップ的なアプローチを取る。一方,脳の計算理論的アプローチでは脳が解こうとする問題は何か,それを解くにはどんな計算が必要か,その基本原理は何かをトップダウンに考える。脳が解く必要のある問題の 1 つは不良設定問題であり,到達運動のような単純な運動でも,ターゲットへ到達可能な無数の軌道から最適な軌道を 1 つ選択するための制約条件を決定しなくてはならない。たとえば,トルク変化最小モデルでは,到達運動では各関節に生じるトルクの時間変化の 2 乗の総和を運動軌道全体にわたり積分した値が最小となるような制約が腕にかけられているとしており,不良設定問題を解いている (川人 1996) 。本講演では運動の計算理論を背景に運動にまつわる神経心理学的症状 (失書症,失行症,視覚性失認の模写運動) の検討を試み,運動の計算理論と神経心理学の接点を模索した。
著者
Barbara A. Wilson
出版者
Japan Society for Higher Brain Dysfunction
雑誌
Higher Brain Function Research (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.121-127, 2006 (Released:2007-07-25)
参考文献数
44

Since I started working in the field of brain injury rehabilitation twenty seven years ago I have noticed several developments and these are almost certainly for the better. Not all are new developments as Poppelreuter was describing some of them as long ago as 1917. Indeed, the rehabilitation programmes set up for the German soldiers who survived gun shot wounds to the head in the first world war are better than many rehabilitation programmes in existence today. Nevertheless, the early twenty first century is an exciting time to be working in rehabilitation and the future looks promising. To my mind, the most important and influential developments in the past decade are those I list below.     1. Rehabilitation is now seen as a partnership between people with brain injury, their families and health service staff.     2. Goal planning is becoming increasingly established as one of the major methods for designing rehabilitation programmes.     3. Cognitive, emotional and psychosocial deficits are interlinked and all should be addressed in neuropsychological treatment programmes.     4. Technology is playing (and will continue to play) an increasing part in the understanding of brain injury and in enabling brain injured people to compensate for their difficulties.     5. Rehabilitation is beginning to take place in intensive care, it is not solely for those people who are medically stable.     6. There is a growing belief that neuropsychological rehabilitation is a field that needs a broad theoretical base incorporating frameworks, models and methodologies from a number of different fields.
著者
種村 留美 長尾 徹 野田 和惠 相良 二朗
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.384-391, 2016-09-30 (Released:2017-10-05)
参考文献数
5
被引用文献数
5 1

家電などの Everyday Technology (以下ET) の進化は著しく, 高機能, 多機能, 利便性に長けている。一方で, 高次脳機能障害や認知症などによる認知機能の障害は, これら ET の恩恵にあずかることは少なく, 目ざましく変化する ET に戸惑い, かえって家人等の実際の介護負担や介護負担感をも増やす結果となっている。  筆者の研究グループは, 元気健常高齢群, デイサービス利用群, 認知症群の在宅を訪問調査し, Nygård らが作成した Everyday Technology Use Questionnaire (以下ETUQ) 等を用いて, ET の使用状況を調査した。  その結果, 健常高齢者でも使用困難なET は最新の機器であること, ET 使用中止の理由は, 生活様式の変化によるものと認知機能低下によるものであった。認知症例における ET 使用は, 徐々に機器の手順がわからなくなり, 昔の道具を使用していることが多かった。さらに ETUQ を用いて, 発症後4 年経過した Gerstmann 症候群の ET 使用の調査を行い, 数字や文字を識別する必要のある機器の使用が最後まで困難であった。  これらの高次脳機能障害者や認知症者の在宅訪問調査の結果明らかとなった生活上の諸問題に対し, 当事者の諸問題の解決や家族の介護負担を軽減する, 簡単テレビリモコン, 徘徊予防センサー, 記憶補助アプリなどの Assistive Technology (AT) を紹介した。
著者
数井 裕光 武田 雅俊
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.304-311, 2009-09-30 (Released:2010-10-01)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

健忘症の評価は,せん妄や confusional state などの注意障害による見かけ上の健忘症を除外することからはじまる。その後,言語性と視覚性,再生と再認,前向性と逆向性それぞれの観点から記憶の評価を行う。MRI などの神経画像検査の結果や原因疾患に関する情報も積極的に利用すべきである。健忘症の責任部位は多彩であるが,とくに海馬,海馬傍回などの側頭葉内側部,前核,背内側核などの視床,前脳基底部が重要である。さらに脳に器質的な障害がない解離性障害でも逆向あるいは前向健忘を呈することがある。それぞれの部位および疾患ごとの健忘症状の特徴を知っておくことが必要である。また皮質下性認知症でも健忘を呈するが,アルツハイマー病よりも軽度で,手がかり再生や再認が保たれやすい。したがって,健忘の評価は両者の鑑別に有用である。
著者
春原 則子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.281-284, 2018-09-30 (Released:2019-10-02)
参考文献数
18

発達性ディスレクシアの読み書き困難に対する介入には, 支援と指導という大きな 2 つの方向がある。本稿では, 仮名の読み書き, 漢字の書字に関する 2 つの指導方法を紹介した。いずれも詳細な認知機能の評価から障害構造を推定し, さらにバイパスとして活用できる良好な機能を見出すことによって編み出されたものである。どちらも症例シリーズ研究法によって科学的な効果が確認され, 適用についても明確に示されている。発達性ディスレクシアについては複数要因説が有力であり, 指導方法も一様ではない可能性が高い。さらなる適切な介入方法の立案と効果や適用に関する知見の積み重ねが急がれる。
著者
藤本 寛巳 寺川 智浩 平山 和美 玉井 顯
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.156-160, 2023-06-30 (Released:2023-07-18)
参考文献数
6

発達性相貌失認は, 視力や知能, 注意, 記憶などには問題がないにもかかわらず, よく知っている人の顔を見ても誰であるかわからなくなる症状である。原因となる器質的脳損傷はなく, 画像検査上でも異常所見は認められない。発達性相貌失認を呈した 3 症例を紹介し, 相貌認知機能, 表情認知などを比較した。また, 幼少時から現在までの体験や心情についてインタビューを行った。3 症例とも職場の理解など社会生活を営むうえで多くの問題が残されており, 発達性相貌失認の存在と不自由を理解してもらうための啓発が最も重要であると思われた。
著者
高畑 圭輔 加藤 元一郎 三村 將 島田 斉 樋口 真人 須原 哲也
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.276-282, 2016-09-30 (Released:2016-10-01)
参考文献数
23
被引用文献数
2

近年, 頭部外傷の分野で, 国内外においてトピックとなっているのが, 受傷から数年以上のインターバルを経て出現する遅発性の症候である。本総説では, 頭部外傷後にみられる代表的な遅発性病態である慢性外傷性脳症 (CTE) と頭部外傷後精神病 (PDFTBI) について解説する。CTE は, ボクシングやアメリカンフットボールなど反復性軽度頭部外傷を受けた個体にみられる進行性の神経変性疾患であり, 精神症状, 認知機能低下やパーキンソニズムなどが出現する。神経病理学的には神経原線維変化などのタウ病変によって特徴付けられる。一方, PDFTBI は, 重度の頭部外傷から数年後に出現する精神病状態であるが, 詳しい病態はわかっていない。近年, PET によってタウ病変やアミロイド病変の検出が可能となりつつあり, 頭部外傷による遅発性病態の生前診断や背景病理の評価が可能となると期待されている。本総説では, 我々が行っている頭部外傷患者を対象としたタウイメージング研究の結果についても紹介する。

1 0 0 0 OA 失認のみかた

著者
佐藤 正之
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.204-211, 2020-06-30 (Released:2021-07-01)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

失認は, “ 病前まで意味を有していた刺激の認識が特定の感覚モダリティを介してのみできなくなること ” と定義される。これまでの失認の報告の多くは視覚失認で, 聴覚失認がそれに次ぐ。患者は「見えない」「聞こえない」と訴えるため, 視力障害や難聴あるいは認知症や精神疾患と容易に誤診される。 患者が対象を正しく認知できているかは, 呼称課題により知ることができる。名称と意味・概念とは表裏一体で, 一方が想起されると他方も自動的に想起される。呼称が正しくできれば, 対象の知覚と意味・概念の想起, 両者の統合, 名称の想起が正常に機能していることを意味する。失認では特定の感覚で, 知覚されたイメージと意味・概念との統合が機能していないと解釈される。視覚失認, 聴覚失認ともに用語が混乱している。統覚型と連合型の二分法は理解しやすいが, 実際の症例ではいずれとも判断できないものも多い。症状の正確な記載がなによりも重要である。
著者
田宮 聡
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.277-281, 2022-09-30 (Released:2022-11-24)
参考文献数
5

自閉症スペクトラム障害 (ASD) と多言語使用に関して以下の 3 点を取り上げる。  ①多言語環境は ASD 児の言語発達に悪影響を及ぼさないか?  ② ASD 児が多言語を習得することは可能か?  ③子どもの言語発達の問題は多言語環境の影響か? 障害か?  ①と②についてはカナダの研究を紹介する。この研究では, ASD 児 75 名 (平均年齢 4 歳半) を, モノリンガル群, 同時バイリンガル群, 継起バイリンガル群に分けてその言語発達について検討した結果, 3 群間に有意差は認められなかった。現在では, 多言語環境は ASD 児の言語発達に悪影響を及ぼすことはなく, ASD 児が多言語を習得することは可能と考えられている。  ③については, 多言語使用児の言語発達を評価する際には, 多言語使用にみられる特徴を念頭に置く必要があることを症例 A 子を通じて示す。A 子は, 英語が使用される海外の地域で育った。コミュニケーションの困難さのために 7 歳時に児童精神科を受診したが, A 子の言語発達の問題は多言語環境によるものではなく, ASD によるものと考えられた。
著者
塚越 千尋 俵 あゆみ 松岡 慧 生方 志浦 納谷 敦夫
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.450-458, 2016-09-30 (Released:2017-10-05)
参考文献数
28
被引用文献数
1

脳損傷患者の社会参加を阻む要因のひとつとして社会認知の障害が注目されている。我々は社会認知障害を呈した脳損傷患者 4 名に, 社会的な手がかり (表情など) を適切に知覚する練習として「Social Cognition and Interaction Training (社会認知ならびに対人関係のトレーニング, 以下SCIT) 」を用いたグループ治療を行った。また, 対象者らは対人関係の問題を過小 (または過大) に報告する傾向があり, これに対してロールプレイと動画を用いたフィードバックを含めた Social Skills Training (以下SST) を加えた。結果, 表情認知課題の成績が概ね改善し, また社会性を測定する KiSS-18 の成績において対象者自身の結果とスタッフの結果とのずれが小さくなった。予備的研究ではあるが, 認知的側面への介入である SCIT と, 行動的側面への介入である SST を組み合わせることが社会的認知・行動の問題に対して良い影響を及ぼす可能性があると考えられた。
著者
岡本 浩一郎 相場 恵美子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.188-196, 2018-06-30 (Released:2019-07-01)
参考文献数
13

中枢神経の脳・脊髄は頭蓋骨や脊椎に囲まれ, 観察は容易ではない。意識障害, けいれん, 片麻痺などの神経学的症状を示す患者では, 病歴の聴取, 身体診察に加え神経学的診察により, 病変の局在と広がりを推定するが, 客観的に評価するために, 脳や脊髄の状態を確認できる神経画像検査を行う。   中枢神経系の画像診断を専門とする神経放射線科医 (神経画像診断医) は, CT, MRI, 血管造影や, 必要に応じて核医学検査などの各種画像検査で得られる情報を統合して, 脳や脊髄に生じている病理組織学的な変化を推察し, 疾患に特徴的な病理学的所見や病態生理学的変化と画像所見の整合性を考え, 臨床症状や経過, 診察所見を考慮しながら画像診断を進める。   神経放射線科医が臨床でどのように画像所見を確認して画像診断を進めるのか, 実際の症例の画像を例にとりその過程をお示しすることで, 神経疾患に携わる医療関係者の皆様の理解に貢献することを本稿の目的とする。
著者
山田 恭平 加藤 貴志 外川 佑 藤田 佳男 三村 將
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.239-246, 2018-06-30 (Released:2019-07-01)
参考文献数
27
被引用文献数
7 2

4 つの下位検査からなる脳卒中ドライバーのスクリーニング評価日本版 (J-SDSA) が開発されたが, 本邦における参考値は明確になっていない。そこで本研究の目的は, 脳損傷者において J-SDSA を用いて運転可能と判断される各下位検査のカットオフ値を示すこと, さらに得られたカットオフ値と下位検査の組み合わせから実車評価結果の予測精度を明らかにすることとした。対象は 7 施設, 94 名の脳損傷者である。対象者には J-SDSA を施行し, その後実車評価を行った。実車評価の結果は, 教習所指導員の判定に基づいて運転可能群と運転不適群に分類された。群間比較では, J-SDSA の方向, コンパス, 道路標識の得点で有意差を認め, 可能群の成績が良好であった。上記 3 つの検査のカットオフ値を算出し, 検査の組み合わせを検討したところ, 3 検査ともカットオフ値を上回った対象者については 80%以上の精度で運転可能と予測できた。また, 3 つとも下回った対象者については運転不適と予測できた。
著者
前島伸 一郎 大沢 愛子 宮崎 泰広
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.299-307, 2010-06-30 (Released:2011-07-02)
参考文献数
50
被引用文献数
1 2

高次脳機能評価に必要な検査の進め方について解説を行った。患者の病状を正確に把握するためにも,適切な検査と詳細な観察,そして正しい解釈が必要である。高次脳機能障害は神経心理学的検査の成績だけでなく,患者が具体的にどのような課題に対して,どのように反応したかという過程が重要である。患者の日常生活や社会生活を念頭におき,患者や家族の声を傾聴する姿勢が何より大切である。
著者
樋口 大樹
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.277-280, 2018-09-30 (Released:2019-10-02)
参考文献数
21

発達性読み書き障害の脳画像研究はアルファベット語圏においては盛んに行われており, 左頭頂側頭領域および左後頭側頭領域の機能低下に加えて左下前頭回の活動亢進が生じることが報告されている。 左頭頂側頭領域の低活動は音韻処理の非効率性, 左後頭側頭領域は視覚的単語認知の拙劣さ, 左下前頭回は音韻出力への代償的な高負荷を反映しているのではないかと考えられている。一方, 中国語においては中前頭回の機能低下を報告している研究もあり, 脳機能低下部位が言語間で共通であるかに関しては今後も検討が必要である。日本語話者を対象とした研究では, 読みが拙劣な人では読みだけでなく線画に関わる脳活動にも非定型性が認められたが, 日本語話者の発達性読み書き障害を対象とした研究は少ないため, 今後より一層の検討が必要である。
著者
川上 暢子 菅野 重範
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.161-165, 2023-06-30 (Released:2023-07-18)
参考文献数
9

原発性進行性失語 (以下, PPA) は現在の診断基準では非流暢性 / 失文法型PPA (以下, nfvPPA) , 意味障害型PPA (以下, svPPA) , ロゴペニック型PPA (以下, lvPPA) に分類されるが, これに当てはまらない症例があり, その 1 つが進行性語聾 (または聴覚失認) の 1 群である。語聾では言語音の音韻認知が障害されており, 中枢神経の聴覚領域の損傷が原因とされる。神経変性疾患を背景とする PPA に併存する進行性語聾は, 背景疾患の種類により障害されやすい聴覚経路・領域が異なるため, 主要な聴覚処理障害および聴覚症状も nfvPPA, svPPA, lvPPA のそれぞれで違いがあることが報告されており, 本稿では最新の知見についてまとめた。また, 語聾の診断の基礎である言語音認知の評価は言語機能の影響を受けるため, PPA 症例では正確な評価が難しい場合も多い。評価方法の 1 例として, 基本的な聴覚機能および聴覚的言語理解について, 複数の言語・聴覚課題を組み合わせて評価を試みた症例を提示する。
著者
豊倉 穣
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.193-203, 2021-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
35

2 つの課題を同時に行うと成績が低下する二重課題コストの発現機序は完全には解明されていない。 機能画像, 事象関連電位, 磁気刺激, 動物実験など多彩な研究手法によって二重課題の処理メカニズムが検討されている。最近の機能画像のメタアナリシスでは, 両側の 3 領域(背側前運動野, 頭頂間溝, 前頭弁蓋部)と左側の 2 領域(下前頭溝~中前頭回, 下前頭回~上側頭回の前部)が処理要求の増大に対処する資源共有モデルの能動的, 機能的適応プロセスを反映していると報告されている。  脳損傷はしばしば情報処理速度の低下をもたらすが, 分配性注意の障害をきたすこともある。両者は並存することが少なくない。その場合, 分配性注意障害の正確な診断は困難となる。  複数作業の同時処理困難に対して二重課題を用いた認知リハビリテーションの効果が報告されている。 これによって実生活での改善も期待できる可能性がある。
著者
橋本 幸成 三盃 亜美 上間 清司 宇野 彰
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.356-364, 2022-09-30 (Released:2022-11-24)
参考文献数
24

左被殻出血によって軽度の表層失読を呈したと考えられた失名辞失語例を報告する。本例の障害機序を検討するため, 漢字刺激を用いた実在語と非語の音読課題, 同音擬似語を含む語彙性判断課題, 読解課題, 呼称課題を実施した。その結果, 漢字の非同音非語の音読成績は正常範囲内であり, 漢字から音韻へ変換する機能は保存されていると思われた。一方, 実在語の音読課題では低頻度かつ非典型読みの実在語の音読において基準値以下の成績を示した。誤反応はすべて LARC (legitimate alternative reading of components) エラーであり, 表層失読の特徴を認めた。また, 同音擬似語を用いた語彙性判断課題の成績が低いことから, 文字単語の同定過程に障害があると考えられた。二重経路モデルを用いた分析では, 意味システムの障害では本例の障害機序を説明できず, 文字列レキシコンや音韻列レキシコンの障害によって軽度の表層失読を呈したのではないかと考えられた。