著者
武田 千絵 中嶋 加央里 能登谷 晶子 砂原 伸行
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.207-215, 2017-09-25 (Released:2017-10-11)
参考文献数
22
被引用文献数
3

Trail Making Test(TMT)は,Halstead-Reitan Batteryの一つとして報告された縦型のTMT(縦版TMT)と鹿島らが作成した横型のTMT(横版TMT)の二つがある.しかし,2つのTMTでは成績が大きく異なり,その原因について詳細な言及はなされていない.今回若年健常者を対象に2つのTMTを実施し,所要時間を比較した.その結果横版TMTが縦版TMTよりも所要時間が延長し,Part A,B間で所要時間に差がなかった.縦版TMTの所要時間はPart Bで延長した.TMT完遂までに引かれる線の長さを除して検討したが,横版TMTが縦版TMTよりも遂行時間が延長した.縦版TMTは線が円を描く軌跡になるのに対し,横版TMTでは線がランダムに重なっていくため,視覚探索が困難となり所要時間の延長につながったと考えられる.
著者
原田 浩美 能登谷 晶子 中西 雅夫 藤原 奈佳子 井上 克己
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.16-24, 2006 (Released:2007-04-01)
参考文献数
23
被引用文献数
8 9 2

われわれは,健常高齢者における神経心理学検査の測定値を求めるために,65 ~ 85 歳の 92 名の対象に神経心理学検査を実施し,成績と年齢,教育年数との関連を調べた。年齢および教育年数によって階層化した各群別成績を求め,群間比較を行うことにより測定値の有用性を示した。 かなひろいテスト (無意味綴り,物語) とTrail Making Test (part A,part B) の成績は年齢,教育年数の双方ともと有意に関連した。300 語呼称検査の成績は年齢と有意に関連した。 Mini-Mental State Examination,N 式精神機能検査—物語再生項目 (直後再生,遅延再生) ,Rey-Osterrieth 複雑図形検査 (模写,直後再生) は,年齢と教育年数の双方に影響されなかった。本研究で検討した神経心理学検査成績の解釈をするとき,年齢と教育年数の影響を考慮に入れる必要があることがわかった。
著者
鈴木 重忠 能登谷 晶子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.257-263, 1993
被引用文献数
6 5

主として重度聴覚障害児の言語指導法の確立のために, 私どもが20余年前から開発してきた金沢方式 (従来の聴覚-口話法に加えて, 文字や手指言語をも早期から指導する) に関する研究結果を総括し, 金沢方式を支持する先人の見解や最近の文献を紹介した.その結果, 次の原則を得た.1) 手指や文字言語も健聴幼児が音声言語を発達し始める時期とほぼ同時期から発達させることが可能.2) 音声・文字・手指言語モダリティ間の機能移行が可能であり, かつ多様の移行ルートを持つ.したがって, 3) 早期から親子間のコミュニケーションを成立させ, 音声言語の発達を促進するためには, 文字や手指言語を早期から活用することが必要.4) 個々の聴覚障害幼児と発達の特性を考慮した言語指導法の選択が重要.また, 聴覚障害幼児の言語指導と人工内耳や聴能の鑑別との関連および聴覚障害幼児の選別システムなどについての将来展望を述べた.
著者
酒野 直樹 能登谷 晶子 駒井 清暢
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.251-258, 2007-09-30 (Released:2008-10-01)
参考文献数
10

パーキンソン病患者とパーキンソン症候群の患者42人(P 群)と,健常者群21人を対象に文字の大きさを比較した。対象者はひらがなの「た」の連続10回書字と,10文字からなる文の書字を行った。2群間で,文字の大きさの変化と,文字縮小率について比較検討した。その結果,「た」を連続10回書字する場合と文レベルの書字の比較では,縦書き,横書き共に,文の書字の方が文字の大きさ,縮小率で,P 群が有意に小さくなった。また,「た」の連続書字と文の書字の縮小率の比較では,文の書字の方が有意に小さい値を示した。今回の結果から,パーキンソン病やパーキンソン症候群の患者においては文字の連続書字よりも文の書字の際に小字傾向が表れやすいと考えた。
著者
能登谷 晶子 鈴木 重忠
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.140-146, 1984-04-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
26
被引用文献数
10 5

2歳2ヵ月から6歳7ヵ月まで聴能訓練と文字言語を並行して指導した, 聴力レベル98dBの一重度聴覚障害幼児の言語発達を検討し, 音声言語に及ぼす文字言語の効果について考察した.主な結果は以下のようであった.1) 文字言語は音声言語より習得が容易であった.2) 文字言語から音声言語への移行が認められ, 5歳0ヵ月に音声言語の発達は文字言語のそれに追いついた.3) 本例が6歳7ヵ月までに獲得した受信語彙数は, 音声・文字言語とも約4, 000語に達した.同時期の音声発信語彙数は約3, 000語であった.4) 本例の6歳代におけけ語彙, 文, 機能語の発達は同年齢の健聴児の発達レベルにほぼ相当した.以上の結果より, 先行して習得された文字言語は, 音声言語の発達を促進したと考えられ, 早期からの文字言語の導入は, 聴覚障害幼児の言語発達遅滞の改善に有効であることがわかった.
著者
橋本 かほる 能登谷 晶子 原田 浩美 伊藤 真人 吉崎 智一
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.336-340, 2012 (Released:2012-10-09)
参考文献数
16

0歳代から金沢方式(文字-音声法)で言語訓練中の聴覚障害幼児4例を対象に,日本語対応手話に指文字または手話による助詞が挿入された文に含まれる格助詞の出現時期について検討した.(1)格助詞の初出年齢は1歳11ヵ月~2歳2ヵ月で,健聴児の時期とほぼ同時期であった.(2)4例ともに共通して初出した格助詞は「を」であった.(3)聴覚障害児であっても,幼児期早期より日本語の文構造に沿った日本語対応手話よる単語(助詞は指文字または手話)を用いることにより,健聴児の助詞の発達にそった理解・表出が可能であることが示唆された.
著者
能登谷 晶子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.216-221, 2018-06-30 (Released:2019-07-01)
参考文献数
25

人は加齢とともに聴力閾値の上昇が高音域から生じる。内耳は加齢による影響を受け, 言葉や音楽の聞き取りに支障をきたすとされる。一方, 脳幹の聴覚伝導路は病理学的には加齢による神経の脱落は軽度にすぎないと言われている。したがって, 中枢性聴覚障害の精査では, 末梢レベルの聴こえの確認が重要である。本稿では, 広義の聴覚失認, Landau-Kleffner 症候群による純粋語聾, 皮質聾のうち自験例を中心に報告した。聴覚失認例では聴力は軽度から中度の閾値上昇で推移し, 語音・環境音では, 聴こえるが意味理解困難な状態を示した。母音聴取 50%, 子音は不可であった。純粋語聾例では, 聴力は正常から軽度の閾値上昇で推移し, 母音聴取は 100%, 子音の混乱が目立った。環境音の認知に問題なかった。 皮質聾例では, 純音聴力は無反応, 語音・環境音ともに聴取困難であった。いずれも聴性脳幹反応 (ABR) は正常範囲にあった。皮質聾例では, 患者自身の声が大声になる例とならない例に分類された。
著者
栗崎 由貴子 能登谷 晶子 小山 善子 鈴木 重忠 藤井 博之
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.308-313, 1996 (Released:2006-05-24)
参考文献数
10

右被殻出血により,失語症と左片麻痺を呈した生来右利きの一症例を報告した。症例は発症時 49歳,男性。当科初診の発症から 16ヵ月経過時の言語症状は,軽度の言語理解障害および音韻性錯語を中心とした表出面の障害であった。とくに復唱障害が著しかった。発症から 40ヵ月経過時には,表出面で自発語や音読の改善は良好であったが,復唱の際に文レベルで,助詞が他の助詞に置換される障害が認められた。この傾向は発症から 55ヵ月時も同様であった。本例の復唱障害の誤り方は,波多野(1991)の錯文法性錯語を主症状とした伝導失語例に類似していた。
著者
原田 浩美 能登谷 晶子 四十住 縁
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.408-415, 2006 (Released:2008-01-04)
参考文献数
7
被引用文献数
1

重度運動性失語症を呈した若年発症例に言語訓練を実施し,発症から 11 年 10 ヵ月の経過を追跡することができた。発症 41 日目からの訓練内容および経過を示し,標準失語症検査 (以下 SLTA) 成績によって言語機能成績の推移を評価した。その結果,発症 5 年を過ぎた時点でも訓練効果が認められることがわかった。また,SLTA 成績の経過から,回復は長期にわたることと言語機能により回復の推移と時期が異なることが示された。そのことから,失語症の訓練効果は発症後短期間にのみ見られるものではなく,失語症に対する長期的なアプローチが重要であることが示唆された。
著者
能登谷 晶子 原田 浩美 外山 稔 山﨑 憲子 木村 聖子 諏訪 美幸 金塚 智恵子 石丸 正 三輪 高喜 吉崎 智一
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.163-170, 2019-04-28 (Released:2019-06-01)
参考文献数
15

要旨: 「金沢方式」による訓練を0歳~1 歳代より開始し, 訓練途中の2~3歳代に人工内耳を装用した小児聴覚障害児8例について, 人工内耳術前後の言語獲得経過を報告した。8例が最初に理解した言語モダリテイは手話であった。その後, 聴覚口話や文字の理解が進み, いずれの児も 1 歳代で可能となった。手話による助詞付き 2語連鎖文は 1 歳7ヵ月~2歳2ヵ月までに出現した。8例は術後 1 年を経ないうちから, 自発文での手話が少なくなり, 装用 1 年経過時には話し言葉のみで会話が可能となり, 健聴児が幼児期に習得する様々な文型の出現を認めた。以上より, 術前から文構造を意識した言語聴覚療法は, 高度聴覚障害児の言語発達を促進することが示唆された。
著者
能登谷 晶子 鈴木 重忠
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.140-146, 1984
被引用文献数
8 5

2歳2ヵ月から6歳7ヵ月まで聴能訓練と文字言語を並行して指導した, 聴力レベル98dBの一重度聴覚障害幼児の言語発達を検討し, 音声言語に及ぼす文字言語の効果について考察した.<BR>主な結果は以下のようであった.1) 文字言語は音声言語より習得が容易であった.2) 文字言語から音声言語への移行が認められ, 5歳0ヵ月に音声言語の発達は文字言語のそれに追いついた.3) 本例が6歳7ヵ月までに獲得した受信語彙数は, 音声・文字言語とも約4, 000語に達した.同時期の音声発信語彙数は約3, 000語であった.4) 本例の6歳代におけけ語彙, 文, 機能語の発達は同年齢の健聴児の発達レベルにほぼ相当した.<BR>以上の結果より, 先行して習得された文字言語は, 音声言語の発達を促進したと考えられ, 早期からの文字言語の導入は, 聴覚障害幼児の言語発達遅滞の改善に有効であることがわかった.
著者
鈴木 重忠 能登谷 晶子 古川 仭 宮崎 為夫 梅田 良三
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.280-286, 1988-07-25 (Released:2010-06-22)
参考文献数
30
被引用文献数
1 2

文字言語も早期から指導する文字・音声法 (金沢方式) で言語治療を受けた難聴幼児の言語発達を客観的に知ることを目的に, 就学前に行った修正版絵画語い発達検査, 聴覚障害児用単語了解度検査, 音読明瞭度, 幼児・児童読書力テスト, 改訂版教研式全国標準新読書力診断検査成績を検討し, 以下の知見を得た.1) 音声言語の了解は従来の指導法による成績を上回る傾向を示した.2) 発音の明瞭度は従来の指導による成績を下まわることはないと推測された.3) 読書力は学齢前でも普通小学校2年相当を獲得できることがわかった.4) この読書力は先に行った幼児・児童読書力テスト成績と強い相関を示した.以上より, 文字・音声法は難聴幼児の言語発達促進に有用であることが示された.
著者
能登谷 晶子 鈴木 重忠 岡部 陽三 古川 仭
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.97, no.7, pp.1207-1210, 1994 (Released:2008-03-19)
参考文献数
5
被引用文献数
1

A 6-years 9-month-old child with congenital severely hearing impaired received a Nucleus 22 channel implant. Twenty-two CG electrodes are now in use. In the 5 months since the cochlear implant, the patient has made good progress. Her vowel discrimination score has reached 100%. However, her consonant discrimination has remained at the chance level. On the other hand, auditory reception of environmental sounds has shown relative improvement. Problems encountered in pediatric use of the cochlear implant are also discussed herein.
著者
橋本 かほる 能登谷 晶子 原田 浩美 伊藤 真人 吉崎 智一
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.132-137, 2012 (Released:2012-06-15)
参考文献数
10

幼児期金沢方式による言語訓練中に人工内耳を装用した12例の就学後の問題点と対策について報告した。就学時までに3000語以上の文字言語理解を獲得した文字先行移行パターンを示した8例中7例は就学以降も学業に著しい問題を示さず, 人工内耳においても文字言語の有用性が示唆された。幼児期に手話先行未移行パターン, 文字先行未移行パターンを示した例は就学以降の言語習得に問題が多いことがわかった。したがって, 人工内耳装用後も就学前に十分な言語力を獲得しておく必要があると考えた。さらに, 就学以降も言語力ならびに構音の維持のために定期的な評価・指導の必要性が示唆された。
著者
原田 浩美 能登谷 晶子 橋本 かほる 伊藤 真人 吉崎 智一
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.78-85, 2011 (Released:2011-04-16)
参考文献数
17
被引用文献数
2

金沢方式による言語聴覚療法を受け, 1歳から5歳代に人工内耳の装用を開始した11例を対象に, 理解語彙の聴覚読話移行に影響を及ぼす要因を検討した。手話理解・文字理解の視覚系言語から音声言語理解への6歳までの移行には, 文字先行移行パターン, 聴覚先行移行パターン, 手話先行未移行パターン, 文字先行未移行パターンの4つがあり, 移行パターンにかかわらず, 聴覚読話移行可能となるまでの期間は, 平均12ヵ月であった。6歳までに11例中7例が手話から聴覚読話へ移行した。聴覚読話への移行を可能にする要因を装用開始年齢と手話や文字による理解語彙数からみると, 人工内耳装用開始が2歳前後の場合は理解語彙が350語, 3歳前後の場合は700語, 3歳6ヵ月前後の場合は1000語程度獲得していた例で聴覚読話へ移行していたことがわかった。