著者
室岡 瑞恵 桑原 康裕 春山 成子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.138-148, 2012 (Released:2012-03-26)
参考文献数
5

アムール川は主に中国とロシアの国境を流れる国際河川である.中流域では高い頻度で洪水が起こっているが,定期観測データがほとんど無く,洪水の実態は明らかにされてこなかった.本研究ではアムール川中流域のハバロフスクにおける降水量データと流量データを基に洪水の数値解析を行い,現地での聞き取り調査と照合した.さらに,地形分類図を作製した上でJERS-1/SARデータにより湿地図を作製し,遊水地としての機能を多く果たす地形を明らかにした.その結果,月降水量の頻度は指数分布に従っており,5・10・20・50・100年確率降水量を算出することができた.また,降水量と流量の関係はロジスティック曲線に従っており,理論上,降水量96.5mm/月を超えると河川氾濫が始まることがわかった.当該地域の地形は丘陵地,氾濫原,自然堤防,低位及び高位段丘に分類できた.この中で湿地が多く分布するのは氾濫原で,湿地面積と降水量に相関がみられ,遊水地としての機能を大きく果たしていることがわかった.
著者
泉 貴久 岩本 廣美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.74-81, 2012 (Released:2012-04-09)
参考文献数
9
被引用文献数
1

日本地理学会が主催・後援する活動には,会員対象のもののほかに非会員を対象としたものがある.本稿では非会員対象の活動を社会貢献活動と呼ぶ.社会貢献活動は,一般市民向けのもの,学校教員や児童・生徒向けの地理教育に関わるものの二つに分類できる.前者は,地理学の有用性を一般市民に理解してもらうために行っており,その代表的なものが大会時に行われる公開講演会である.後者は日本の地理教育の活性化のために行われ,大会時に行われる学校教員向けの公開講座のほかに,大会とは別に不定期に行われる教員向けの研修会,高校生対象の「科学地理オリンピック日本選手権」,小中高校生対象の「私たちの身のまわりの環境地図作品展」などがある.これらの地理教育に関わる社会貢献活動の多くを,1998年に設置された地理教育専門委員会が中心となって他学会や研究会と共同で企画し,実行している.
著者
竹内 裕一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.65-73, 2012 (Released:2012-04-09)
参考文献数
32
被引用文献数
4

本稿は,地域における社会参加を視野に入れた地理教育実践及び地理カリキュラムのあり方を検討することを目的としている.具体的には,地理教育における社会参加学習の意義を明らかにした上で,身近な地域での直接経験を基盤とした異なる空間規模における「重層的地域形成主体」の育成をめざした地理カリキュラムの視点を提起した.

2 0 0 0 OA GISと地理教育

著者
伊藤 智章
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.49-56, 2012 (Released:2012-04-09)
参考文献数
35
被引用文献数
3 3

GIS(地理情報システム)は,高等学校の次期学習指導要領 2009(平成21)年版において初めて本文中に明記された.新学習指導要領は,地理教育の目標を達成するために,GISをどう活用することを求めているのか,それを受けて教員は,GISをどのように活用していくべきかを論じた.新学習指導要領は,地理的技能の獲得のためにGISを教育の内容全体において活用することを求めており,連携を求めた関連他教科(情報科や中学社会科)よりも,地理は踏み込んだ表現を行っている.現在,高等学校の地理教育におけるGISの活用は不十分であり,克服するべき課題が多く残されている.問題の解決のためには,教員が,地理的技能の獲得手段としてのGISの効果を認識し,現場の実情に合った方法論と教材を共有することと,GISを使って地理教育を充実させるために必要な環境を整えることが重要である.
著者
後藤 秀昭 杉戸 信彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.197-213, 2012-12-31 (Released:2013-01-31)
参考文献数
32
被引用文献数
1 8

国土地理院の基盤地図情報として公開されている数値標高モデル(5 mメッシュおよび10 mメッシュ)すべてを用いて実体視可能な地形ステレオ画像を作成した.地理情報システムにステレオ画像と既存の活断層分布図を読み込み,変動地形学的な地形判読を行ったところ,これまで認められていない新期変動地形を新たに多数見いだした.これらの地形の一部を速報し,数値標高モデルのステレオ画像を系統的に判読する重要性を例証すると同時に,空中写真とは異なる特性をもつ数値標高モデルのステレオ画像の長所についてまとめて紹介する.
著者
田和 正孝
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.59-65, 2013 (Released:2013-04-19)
参考文献数
17

沿岸部に岩塊を馬蹄形や半円形に積んで構築された大型の定置漁具がある.これは一般に石干見(イシヒビ)と呼ばれる.石積みの高さは,満潮時には海面下に没し,干潮時には干あがるように工夫されている.上げ潮流とともに接岸した魚群の一部は,退潮時,沖へ逃げ遅れて石積み内に封じこめられ,それらが漁獲される.小論は,筆者が近年調査対象としている九州・沖縄の石干見を事例に,各地で進む復元および保存と活用をめぐる動きの中で,地域が地理学者に対してどのような知識を求めたのか,このような活動に関わるにあたって地理学者はいかなる立場に定位できるのかについて,若干の考察をおこなうものである.
著者
阪上 弘彬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.242-254, 2013 (Released:2013-11-01)
参考文献数
35
被引用文献数
2 1

ESDは地理教育における重要なテーマとなっている.国際地理学連合・地理教育委員会(IGU-CGE), ドイツ地理学会(DGfG)では,ESDの観点が盛り込まれた諸宣言や教育スタンダードを作成し,地理教育におけるESD推進を進めている.国際地理学連合・地理教育委員会は,社会,環境の変革に対するアプローチは諸宣言の重要な要素であると述べている.社会変革という点でESDとIGU-CGEの地理教育は共通点を有しており,諸宣言の地理的能力においても社会の変革の要素をみることができる.また各国に対し諸宣言を取り組むことを求めており,ドイツ地理教育では諸宣言の内容を反映したレールプラン(カリキュラム)が提案されてきた.ESDはドイツ地理教育においても重要なテーマの一つであり,「ドイツ地理教育スタンダード」では,ESDの要素とともにドイツ独自の観点をみることができた.
著者
小泉 佑介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.400-411, 2023 (Released:2023-10-05)
参考文献数
18

本稿では,COVID-19パンデミック下で実施されたインドネシアの2020年人口・住宅センサスについて,政府資料やメディア報道,および中央統計庁職員への聞取りをもとにその実態を解説する.インドネシアの2020年人口・住宅センサスは,COVID-19の感染拡大によってさまざまな変更を迫られた.特にジャワ島のほぼ全域と外島の都市部における訪問面接調査が中止されたことで,同地域の人口データが,氏名,性別,続柄といった基礎情報のみに限定された.その背景には,COVID-19パンデミック対策に向けて2020年度の政府予算が再編され,2020年人口・住宅センサスに関する予算も大幅な削減を余儀なくされたことが大きく影響していた.インドネシアの2020年人口・住宅センサスは,以前のデータとの整合性を維持できなくなったことから,今後は人口センサスの調査方法の方針も大きく変わっていくと考えられる.
著者
丹羽 孝仁 西本 太 高橋 眞一 横山 智
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.279-290, 2023 (Released:2023-08-18)
参考文献数
27
被引用文献数
1

本研究は,ルアンパバーン県HB村の事例分析によって,ラオスの農村地域における人口動態の特徴を農村間人口移動の側面から明らかにした.その結果,農村における人口の変化には,次の3点の農村間人口移動が影響を及ぼしていることが分かった.①移住促進政策や結婚移動などの農村間移動を背景とする社会増減と移動後の自然増減の双方が大きく影響している.②農村間移動において移住先での生計の可能性を最大化できるように,新たな農地の獲得可能性や,従前の居住地にある農地へのアクセシビリティ,血縁・地縁のネットワークの有無が検討されている.③農村間移動が活発な背景には,移動前後で農業を主体とする生業に大きな変化がなく,生計を維持できる可能性が高いことがあげられる.ただし,利用可能な低地水田は限られており,米を十分に獲得することが難しい場合には,出稼ぎによる現金獲得が目指されている.
著者
高橋 眞一 横山 智 西本 太 丹羽 孝仁
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.264-278, 2023 (Released:2023-08-18)
参考文献数
26
被引用文献数
1

ラオス中部に位置する天水田稲作農村において,年率2%を超える長期の人口増加と村びとの生業の対応との関連を世代別に明らかにした.1920年代後半に開村した村の第1世代から第4世代まで,生業の要である水田取得が人口増加とともに開田から,相続,そして購入へと変化した.人口増加による土地の余力がなくなってきた第3世代から他の農村への移動が増加した.さらに人口増加が続いた第4世代になってタイへの出稼ぎ専業層の出現によって,人口増加による水田の不足は軽減された.この村における人口増加への対応は,農業生産性の向上,都市への移動ではなく,ラオス中部の水田拡大を背景とした農村間人口移動の加速とタイ出稼ぎの増加であった.そして近年の家族計画普及による人口増加の終焉は,この地域の農村の生業の方向を変えていくであろう.