著者
鄒 青穎 田口 一汰 佐藤 龍之世 石川 幸男 檜垣 大助 蔡 美芳 五十嵐 光 山邉 康晴
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.142-156, 2023 (Released:2023-06-01)
参考文献数
31
被引用文献数
1

津軽十二湖地すべり地は,白神山地の最西部,青森県津軽国定公園にある約300年前の地震によってできた地すべりである.そこには,流れ山や舌状小尾根地形や巨礫や湖沼群など,十二湖を形成した地すべりの運動やその範囲を示す痕跡が各所に見られる.ここへの来訪者の多くは,推奨散策ルート沿いに1~4時間滞在し,池とブナ自然林の自然風景を鑑賞するために訪れている.来訪者は,地すべりに関連する池の成因や地形と植生との関係への興味が高いが,地学や地生態学的要素に関する情報は来訪者には伝わっていない.そうしたギャップを解消するため,十二湖の地形のできかたとその上に成り立った地すべり地形と植生の対応関係について調査を行い,それらへの理解が深まる散策ポイントを巡る散策マップを作成した.
著者
坂口 豪
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.131-141, 2023 (Released:2023-06-01)
参考文献数
8
被引用文献数
1

浅間山北麓地域では,ジオパーク活動の開始前より,地元住民や自然愛好家が浅間山周辺地域の自然・文化資源を対象にして組織的なガイド活動を行っていた.そうした場所で,ジオパーク認定を目指した活動が始まったことにより,このガイド活動を行っていた人が中心になり浅間山ジオガイドの会が組織された.嬬恋村と長野原町とでジオパーク活動が進められることになると,浅間山ジオガイドの会に所属していなかったガイドも浅間山ジオガイドの会に所属するようになった.そうして,この地域ではジオパークの理念に沿ったガイド活動が行われるようになった.浅間山ジオガイドの会では,外部講師を招いての講座や会員相互での研修が行われ,ガイドのテキストを会員全員で分担して作成するなど,組織でガイド能力を向上させる取組みが進められた.さらにこの会は,ガイド養成講座を開催し,ジオガイドを増員させていった.
著者
有馬 貴之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.114-130, 2023 (Released:2023-06-01)
参考文献数
32
被引用文献数
1

本稿では,観光庁の発表した持続可能な観光ガイドラインと日本ジオパーク委員会のジオパーク自己評価表の比較を行った.その結果,日本のジオパーク活動は,運営体制,保護・保全計画,教育,宣伝,解説,自然遺産の把握に重きが置かれる枠組といえる.こうした枠組は持続可能な観光地を目指す地域にも貢献できる可能性がある.一方,日本のジオパーク活動では客観的データの取得やその調査が弱い.ゆえに持続可能な観光を進める上では,客観的データによる状況把握や,有用な指標の開発が急務である.また,人権などの権利関係や,地質や地形に関連する他の自然環境の把握,今後生じうる観光の負の影響への対策への関心が比較的低い点も課題であるといえる.
著者
池田 和子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.48-56, 2021 (Released:2021-03-02)
参考文献数
12
被引用文献数
2 2

本研究は,若者の「聖地巡礼」経験の実態を明らかにするため,小山工業高等専門学校1年次生205名へのアンケートを分析したものである.聖地巡礼経験は学生の約4分の1にみられ,未経験の学生も約3分の1は行ってみたいと考えていた.作品はアニメが中心だが,実写なども含まれた.訪問先は東京都区部が特に多く,次いで近隣の北関東が多いが,国外を含め広範囲にみられた.回答者の能動的な訪問では,効率よく回遊できる東京都心が選ばれる一方,地元への関心を背景とした訪問がある.訪問に至る過程は多様で,訪問意思の強さも一様ではない.訪問は作品の熱心なファンによるものだけでなく,他の目的のついでなどでも行われていた.また訪問には映像との関わりが強く,作品の映像美や聖地巡礼動画に触発されていた.若者の「聖地巡礼」は,幅広い関心度と多様な目的で行われる,身近な観光・レジャーといえる.
著者
大矢 幸久
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.92-109, 2023 (Released:2023-04-29)
参考文献数
58

これまで地誌学習において,カリキュラム作成者や授業者によって恣意的・主観的に設定された「地域性」や「地域的特色」を子どもに無批判にとらえさせる危険性が指摘されてきた.本稿では,地域を社会的に生産された構築物としてとらえ,それを吟味・批判し,地域像の再構成や新しい地域像の創造を目指す地誌学習の授業構成を明らかにした.イングランド地理教育研究やジオケイパビリティ・プロジェクトの成果を踏まえると,社会構成主義的アプローチだけでなく,知識の実在性を重視する社会実在主義的アプローチに基づく地誌学習の構想が求められる.検討の結果,学術研究の成果に基づく学問的知識と子どもの生活経験に基づく日常的知識を問いによって結び付けて地理的概念の獲得・伸長を図る「構築物–再構成型地誌学習」の構成原理および授業過程モデルを提起した.

1 0 0 0 OA ピルバラ紀行

著者
藁谷 哲也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.82-91, 2023 (Released:2023-04-18)
参考文献数
19
著者
澤田 康徳 鈴木 享子 小柳 知代 吉冨 友恭 原子 栄一郎 椿 真智子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.40-53, 2023 (Released:2023-03-08)
参考文献数
28
被引用文献数
1

本研究ではGLOBEプログラムを例に,身近な自然環境調査成果の全国発表会に関する感想文から,生徒と教員の発表会のとらえ方および生徒の調査の継続志向の特徴を示した.発表会のとらえ方には,生徒の参加や発表,調査に関する観点が生徒と教員に認められた.発表会の多様性は生徒に特徴的な観点で,日本各地や他の学校の環境およびその認識などを含む.すなわち生徒において全国発表会は,自然環境の認識や理解を日本規模で深める場の機能を有する.また,異学年間の活動の継続を考え今後の活動意欲につながっている.教員において全国発表会は,充実した調査の継続に重要な自校の測定環境をとらえなおす場として機能している.生徒の調査の継続志向は,科学的思考より調査結果や探究活動過程全体,生徒をとりまく人と関連することから,継続的調査に,発表会においてとりまく人などと連関させた生徒の振り返りや教員の測定環境のとらえなおしが重要である.
著者
南雲 直子 大原 美保 バドリ バクタ シュレスタ 澤野 久弥
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.361-374, 2016 (Released:2016-11-16)
参考文献数
22
被引用文献数
2

洪水常襲地帯であるフィリピン共和国パンパンガ川下流域のブラカン州カルンピット市をモデル地域に,降雨流出氾濫モデルによる洪水氾濫解析とGISマッピングを実施し,地域の住民避難や時系列の洪水災害対応計画に役立つリソースマップ,浸水想定マップ,浸水確率マップ,浸水チャートを作成した.こうした資料の作成には,高解像度数値標高モデルをはじめとする地理空間情報と洪水記録の蓄積が必須である.また,地域の浸水危険性の把握には洪水氾濫解析結果だけでなく,地理学的視点からの土地の成り立ちへの理解も重要で,同時に住民が自ら考え行動できるよう継続的な支援を行っていくことが洪水被害の軽減に役立つ.
著者
筒井 一伸 小関 久恵
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.1-21, 2023 (Released:2023-01-07)
参考文献数
25

政策的議論が本格化して15年近く経過した地域運営組織(RMO)は2020年度には5,783まで増加した.RMOは平成の市町村合併で広域化したことによる地域課題への対応を目指した,2000年代の第二次コミュニティブームの時期に設立されたものが多いが,1970年代前半からの第一次コミュニティブームの中で設立されたものもある.本稿では,前者の例として山形県酒田市日向(にっこう)地区,後者の例として鶴岡市三瀬地区のRMOを事例にその再編過程の実態を明らかにした.その結果,RMO設立という組織再編だけではなく,社会的背景に応じた機能再編が図られているものの,RMOがもつ機能には時代性があり,それにより分離型と一体型の志向性の違いが読み取れた.また三瀬地区ではRMO設立に伴い,基盤となる地区の空間再編が行われたことも明らかになった.

1 0 0 0 OA 訂正

出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.E01, 2022 (Released:2022-11-25)
著者
福田 崚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.338-349, 2022 (Released:2022-10-07)
参考文献数
26

都市における経済的中枢管理機能の重要な一部を担ってきた支所の集積は,情報通信技術の発達で縮小が想定される一方で,必ずしも減少していないという指摘も存在する.本稿では,既往研究の観測上の問題点を指摘したうえで,全国展開していないことも多い非上場企業も含めた分析により2009年から2019年の支所立地の動向の把握を試みた.結果,全体の支所数が減る中での広域中心都市の優位性と新たな領域に進出する企業による支所数の下支えが確認され,支所の増加に寄与する動きもあることが示された.また,大阪については支店経済化が進行し支所立地数の安定と支所従業者数の増加が生じていることが明らかにされ,大都市であることに対応した専門的サービスや需要の大きさに依拠した新規の進出があることが示唆された.
著者
根田 克彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.319-337, 2022 (Released:2022-09-17)
参考文献数
75
被引用文献数
3

本稿は,新型コロナウイルス感染初期の2020年初頭から新型コロナウイルス対策がほぼ終了した2022年初頭までの,イギリス政府による飲食店に対する感染対策と支援措置を時系列的に整理し,最後に,新型コロナウイルス対策が,イギリスのタウンセンター政策に及ぼした影響を論じる.感染症の拡大初期に,イギリスはロックダウンのような規制に消極的で,飲食店に対する経済的支援対策を充実した.しかし,まもなく政府は,ロックダウンを実施し,感染を抑制する多くの規制を設定した.また,都市計画の一時的な規制緩和による飲食店の支援措置を実施したが,そのなかには公式な都市計画としたものがある.それにより,タウンセンターにおける事業所の交代を容易にして,ポストコロナにおけるタウンセンターの再生を意図した.すなわち,イギリスは新型コロナウイルスを,タウンセンター政策を根本的に変更するきっかけとして利用したといえる.
著者
佐藤 洋
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.303-318, 2022 (Released:2022-08-06)
参考文献数
27
被引用文献数
2

本稿では2020年6月に第32次地方制度調査会が公表した「2040年頃から逆算し顕在化する諸課題に対応するために必要な地方行政体制のあり方等に関する答申」で提案された「地域の未来予測」を手がかりに,東京大都市圏の市町村へ財政運営に関するアンケート調査を実施し,数量化III類を用いた分析により,財政状況への認識と将来予測,広域連携の関係を検討した.本稿の主な知見は次の3点である.①財政状況を健全であると認識し,長期の将来予測を実施している市町村は広域連携に消極的な傾向がある.②2040年頃の将来予測の必要性を感じながらも将来予測をしていない,または短期の将来予測に留まる市町村が多い傾向がある.③財政関係の広域連携では構成市町村間で温度差がある.以上の知見により,財政の将来予測では国や都道府県が市町村へ支援を行う必要があること,地域の未来予測においても市町村同士の水平的連携による情報交換が重要になることが示唆される.
著者
和田 崇
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.286-302, 2022 (Released:2022-08-06)
参考文献数
51
被引用文献数
1

本稿では,広島アジア競技大会の開催を契機として,広島市にいかにしてボランティア文化が定着し,その担い手や地域社会にいかなる便益をもたらしたかを解明した.広島市では,広島アジア競技大会を通じたボランティアへの関心の高まり,全国的な「ささえるスポーツ」政策の推進,大規模スポーツイベントやクラブチームなどボランティア活動機会の確保を背景に,2001年に広島市スポーツイベントボランティアが創設された.この事業は担い手にも地域社会にもさまざまな効果をもたらし,有意義な取組みであったと評価できる.ただし,それは長い時間をかけて同事業を行政主導・非日常のものから市民主体・日常のものへと変化させ,スポーツ経験者以外の多様な市民が自発的に参加できるようになったからこその評価といえる.