著者
原 将也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.40-58, 2017 (Released:2017-06-09)
参考文献数
54

本稿では現代のアフリカ農村において,移住を仲介する保証人という存在に着目し,人びとが移住して生活基盤を確立していく過程を明らかにする.ザンビア北西部州ムフンブウェ県にはカオンデという民族が居住するが,ルンダ,ルバレ,チョークウェ,ルチャジという異なる民族の移入者を受け入れたことで,複数の民族が混住する.移入者の移住形態は農村を転々とした「農村→農村型」,都市で働いたのちに農村へ移住した「都市経由型」,都市生まれで農村へ移った「都市→農村型」の三つに分けられた.カオンデ以外の移入者は,親族間のもめごとや親族からの都市生活に対する妬みを避けるため,カオンデ農村へ移住した.彼らは親族ではなく,ルンダ語でチンサフという保証人を頼っている.移入者が信頼を寄せる人物であれば,だれもが保証人になりうる.アフリカ農村では人間関係を礎とした保証人によって,人びとの移住と平穏な暮らしが実現されている.
著者
西野 寿章
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.448-459, 2016 (Released:2016-12-10)
参考文献数
13

1990年代半ばから野菜の輸入が急増し,輸入野菜の農薬問題が顕在化して,安全性を求める消費者の声が高まった.これに対応するように,地産地消型の農産物直売所の開設が活発となった.本稿は,地方都市近郊に開設された農産物直売所が設立された背景や活動状況を追いながら,農産物直売所の地域農業持続に果たす役割について考察した.調査地域では,養蚕が盛んに行われていたが,1980年代末の繭価の下落を契機として養蚕を終了し,野菜栽培に転換した.その結果,畑地面積が増加して地域農業は維持されたものの,後継者の育成は困難を極めている.地域農業の存続のためには,就農を希望している人々に農業技術と販売方法を伝えていくことが重要となっている.
著者
清水 昌人 中川 雅貴 小池 司朗
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.375-389, 2016 (Released:2016-11-16)
参考文献数
18

本研究では全国の自治体における日本人と外国人の転入超過の状況を観察した.特に外国人の転入超過が日本人の転出超過の絶対値と同じか上回っている自治体を中心に,自治体の地域分布や人口学的特徴を検討した.総務省の2014年のデータを用い,総人口の転入超過を日本人分と外国人分に分けて分析した結果,外国人分の転入超過が日本人分の転出超過の絶対値と同じか上回っている自治体は分析対象全体の7%だった.それらの自治体は相対的に北関東や名古屋圏などで多く,北海道や東北で少なかった.また単純平均によれば,相対的に国外からの外国人分の転入が多いほか,総人口が多い,日本人の65歳以上人口割合が低い,外国人割合が高いなどの特徴があった.今回の分析による限りでは,全体として外国人の転入超過が自治体人口の転出超過に対して十分な量的効果をもたらしているとはいえず,またこのことは特に小規模自治体で顕著だった.
著者
藤村 健一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.199-218, 2016-09-30 (Released:2016-10-11)
参考文献数
28

本稿では,上海における仏教の観光寺院5カ寺の調査結果に基づいて,中国の観光寺院の空間構造や性格,拝観の特徴を考察する.中国仏教には,寺院の建物配置の基本的なパターンが存在する.中心市街地に近く境内が狭い寺院でも,そのパターンに近づくよう工夫している.一般に,観光寺院には宗教空間・観光施設・文化財(文化遺産)という3つの性格がある.中国の場合,日本の観光寺院と比べて,宗教空間としての性格は濃厚である.多くの拝観者が仏像に対して叩頭の拝礼を行っている.また境内には,位牌を祀る殿堂を備えていることが多い.観光施設としての性格ももつが,むしろ観光にとどまらず多様な手段で収益をあげる商業施設としての性格をもつ.一方,文化財としての性格は日本と比べて希薄である.
著者
松山 侑樹 遠藤 尚 中村 努
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.40-55, 2016 (Released:2016-06-23)
参考文献数
21

本稿は,高知県高知市におけるコンビニエンスストア(コンビニ)の立地要因を地理的条件から明らかにした.高知市におけるコンビニの立地は,他都市とは異なった展開を示した.高知市では,出店初期の1980年代に,主要道路沿い以外の地域への出店が多く,1990年代には,主要道路沿いへの出店が増加した.しかし,2000年代以降,他の地方都市と同様に,高知市においても,都心内部への集中出店や商圏環境の多様化がみられるようになった.外部条件の変化のうち,高速道路網の整備が,大手チェーンの参入および地元チェーンの出店戦略の変更を促進する要因として示唆された.特に,高知市では,地元チェーンがエリアフランチャイズ契約を通じて,県外資本のチェーンを運営している.したがって,契約条件の変更が,コンビニの立地パターンを劇的に変化させる要因の一つとなったことが明らかとなった.
著者
中村 努
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.21-39, 2016 (Released:2016-06-23)
参考文献数
30
被引用文献数
1

本稿では,高知県高知市における街路市出店者へのアンケート調査をもとに,ローカルな流通システムの展開とその空間特性を明らかにした.特に,出店者の商品調達から販売に至る行動に着目し,全国的に衰退過程にある定期市が,高知市において存続している要因について検討した.出店者の大部分は,自家生産によって農産物,花卉,青果,茶などを収穫したうえで,販売していた.しかしながら,出店者数の減少と高齢化が進行していた.夫婦2人で運営している出店者が多く,自家生産のみによる農産物の販路を,街路市以外に求める出店者の割合が高くなっている.その反面,街路市は対面販売を基本としており,出店者は街路市に対して,顧客とのコミュニケーションに楽しみや,生きがいを感じていた.ただ,今後も出店者に出店継続の意思はあるものの,後継者が確保できていないことが,多くの出店者にとっての課題となっていた.
著者
新井 祥穂 大呂 興平 古関 喜之 永田 淳嗣
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.16-32, 2011 (Released:2011-12-17)
参考文献数
20

農産物の貿易自由化の流れとともに農業経営の現場ではさまざまな可能性が追求されている.本研究では,台湾産の苗を用いたコチョウランの国際リレー栽培を取り上げ,台湾のコチョウラン生産者群の適応的技術変化と,その成果と深く関わる経営選択の分析を通じて,その動態の理解を試みた.分析の結果,各生産者は,市場や政策環境変化に誘発されつつも,適応的技術変化の到達点を見極めつつ,生育段階や,出荷先・輸出先の選択を柔軟に行っていることが明らかになった.特に苗の輸出先は,日本,アメリカ,ヨーロッパ等と多元化し,日本の地位は相対的に低下していた.2000年代半ば以降,日本では,台湾との国際リレー栽培への関心が一段と強まっているが,台湾の生産者からみると,品質の限定性の高い日本ばかりを相手にすることに合理性があるわけではなく,そのずれは,両国間の国際リレー栽培の安定的な存立に対する潜在的な不安要因になっている.
著者
青井 新之介 中澤 高志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.12-32, 2014 (Released:2014-09-17)
参考文献数
35
被引用文献数
2

本稿の目的は,社会・経済的地位が家族的地位への規定性を強めているとの認識の下で,方位角による展開法の適用によって同心円構造とセクター構造を分離し,東京圏の居住地域構造の変容を客観的に把握することである.社会・経済的地位の指標としてはブルーカラー従事者率を,家族的地位の指標としては世帯内単身者率を用いた.対象者は30∼34歳の男性で,単位地区は市区町村である.両指標は,外縁部に向かうほど上昇する同心円構造を強めており,ブルーカラー従事者では1980年からその傾向が現れていた.展開法を適用したところ,ブルーカラー従事者率については,セクター構造はパターンとしては安定しているが説明力を弱めていた.一方,世帯内単身者では,元来不明瞭であったセクター構造が2000年以降に検出されるようになった.都心を頂点とする同心円構造の強まりは,地代を基準とする市場原理の下で,居住地域構造が再編成されつつあることを示唆する.
著者
具 良美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.159-171, 2014 (Released:2014-11-29)
参考文献数
20

本論文の目的は,韓国のクラスター政策を概観し,ソウルデジタル産業団地と板橋テクノバレーを事例に,首都圏地域におけるクラスターの変化を検討することにある.韓国のクラスター政策は,2000年代初頭の盧武鉉政権の登場とともに,「産業団地イノベーションクラスター事業」を中心に全国レベルで推進された.当事業の目的は,R&Dの成果とネットワーク活動の向上により,単純な工場集積地であった既存の産業団地を,イノベーティブなクラスターに格上げすることにあった.ソウルデジタル産業団地は,かつて韓国経済の離陸に寄与した初期の工業団地であったが,1990年代後半からの産業再構築の結果,サービス業中心のイノベーションクラスターに変貌した.板橋テクノバレーは,2010年からIT主要企業・機関の集積が始動した新興クラスターである.2000年代初頭以降,既存の産業団地をクラスターに格上げする投資は継続されているが,創造性を伴ったイノベーションの時代の幕開けとともに,クラスター政策も新たな方向性が求められている.
著者
菊池 慶之 髙岡 英生 谷 和也 林 述斌
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.117-130, 2012-09-28 (Released:2012-09-28)
参考文献数
28

上海市においては,住宅制度改革が本格化した1998年以降,民間ディベロッパーの供給する居住用商品房の割合が急速に増加してきた.しかし,居住用商品房の価格は,上海市の平均世帯年収の25倍にも達しており,平均的な中流階級が居住用商品房を購入することは簡単ではない.そこで本稿では,居住用商品房購入者がどのようなプロセスを経て住宅の購入に至ったのかを明らかにすることにより,居住用商品房のアフォーダビリティを検討する.調査手法として,最初に上海市における平均世帯年収と住宅販売価格の推移を検討した上で,上海市の老公房と居住用商品房の居住者に対するアンケート調査を実施し,居住用商品房の購入価格と平均世帯年収の関係,過去の居住履歴,資金調達状況など,実際の居住用商品房購入プロセスを考察した.検討の結果,中高収入世帯の居住用商品房購入意欲は非常に高いものの,相対的な価格の高さと住宅金融の不足により,一次取得住宅としての購入は困難であることが明らかになった.また,既購入世帯においては購入以前から何らかの不動産を所有している世帯の割合が高く,現有資産の有無が居住用商品房のアフォーダビリティに大きく影響していることが示唆された.
著者
岡部 篤行
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.67-74, 2006 (Released:2010-06-02)
参考文献数
33
被引用文献数
3 4

本稿は,地理情報科学教育の確立に向けて,現在,どのような動向があるのかを概観し,それに関連して現在における地理学の課題を論ずるものである.Iにおいて,地理学の隆盛と衰退のトピックスを紹介する.IIでは「GISは学問か」という問いを検討することから,地理情報科学とは何かを述べる.IIIでは,地理情報科学と地理学の関係について論じ,前者がいわゆる一般地理学に対応するものであることを述べる.IVでは,地理情報科学の体系化とそれに基づくカリキュラムの開発状況を紹介する.Vでは,カリキュラム開発で提案された地理情報科学カリキュラムの第1案について概説する.VIでは,カリキュラム第1案の批判的検討を示し,その批判に基づき現在は地理情報科学・工学のカリキュラムを開発する方向に向かっていることを解説する.VIIでは,地理情報科学・工学のカリキュラム開発の経験を踏まえて,地理学の底力をつける糸口について述べる.
著者
村山 朝子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.60-69, 2007 (Released:2010-06-02)
参考文献数
14
被引用文献数
1 3

社会科の一分野として行われてきた中学校の地理教育を教科の枠組みの中でみた場合,とくに歴史的分野との関係,そして世界の扱いが問題になろう.この点を踏まえ,本稿では,地理的分野と歴史的分野との関連,両分野における世界の扱いが,学習指導要領においてどのように変化してきたのかを分析し,今後の地理教育のあり方について検討した.歴史的分野は,一貫して地理的条件との関連を重視し,その傾向が強まっているのに対して,地理的分野は,現代の地理的事象に対象を限り,歴史的要素を排除する方向にある.また,歴史的分野は終始日本史中心であったのに対して,地理的分野はこれまで世界と日本とをほぼ同等に扱ってきたのが,国土認識偏重に転じた.しかし,「日本理解の背景」という世界の位置づけは改善すべきであり,地域の歴史的背景を吹く待て世界地誌を充実させるべきである.世界については,分野の枠を超えた地歴融合的な扱いも有効であると考えられる.
著者
藤目 節夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.132-138, 2007 (Released:2010-06-02)
参考文献数
7
被引用文献数
2 1

市町村合併の目的の一つである地方分権の受け皿整備には,合併による自治体の規模拡大のみならず「小さな自治」の確立が不可欠である.小さな自治は,地域住民が自らの地域に目を向け,地域を調べ,知り,考えることから始まるが,この点に関して地理学の総合的なものの見方・考え方,調査方法はきわめて有効である.合併に伴う小さな自治の確立はいまだ緒に就いたばかりであり,今後における地理学者の地域づくりへの積極的な関与が大いに期待される.
著者
淺野 敏久
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1_18-24, 2008 (Released:2010-06-02)
参考文献数
26
被引用文献数
1

環境問題は客観的な環境の変化だけでは成立しない.現象が社会的に認められて,それが問題状況にあるとの言説が広まり,支持されることで成立する.ある環境変化(将来に予想される変化)を社会問題に仕立てていく原動力の一つに市民・住民運動がある.その発生の仕方や,担い手の社会経済的あるいは文化的属性が異なるので,当然のこととして環境運動の性格は地域によって異なる.結果として,環境運動の訴える環境問題も地域的な特徴を有したものになる.環境運動を研究するには,さまざまなアプローチがあるが,本稿では地域的な視点から環境運動にアプローチすることに焦点をあて,その場合の分析視点について試論を述べる.地域と環境運動の関わりについて,運動への地域性の反映という着目の仕方と,運動の地域への働きかけに着目する仕方があり,それぞれについて,筆者が行った研究をもとに,いかなる論点があるのかを例示的に示してみたい.
著者
秋本 弘章 近 正美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.2_17-32, 2009 (Released:2010-06-02)
参考文献数
16
被引用文献数
1

本稿は,日本地理学会地理教育専門委員会において筆者らが中心となって行っているインタビューから得られた知見をまとめたものである.インタビューでは,大学等で地理学を学び,教育界以外で活躍している社会人を対象とし,地理学および地理教育の意義等を質問した.彼らによれば,地理は,大変魅力的な教科であり学問であるばかりでなく,実社会でも役に立つという.とりわけ,地図活用能力とフィールドワーク力が実社会でも極めて重要であることが指摘された.地理教育の内容に関しては,最低限の地理的知識を身につけさせることを前提としながらも,社会に対する見方・考え方を身につけさせることを期待している.今後は,こうした地理教育への社会的要請を基盤としながら,地理教育の内容や方法について検討していくことが求められる.
著者
松原 彰子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.2_33-38, 2009 (Released:2010-06-02)
参考文献数
8

本稿では,筆者が慶應義塾大学の日吉キャンパスで行っている「地理学」の講義を例にして,大学の教養課程における自然地理学の授業の意義を論じた.地球環境や自然災害の多様な問題を正確に認識するためには,自然現象を空間的かつ時間的にとらえる自然地理学からのアプローチが有効である.したがって,このような立場から,教養課程において自然地理学の授業を展開することには意義があると考える.
著者
鈴木 康弘 杉戸 信彦 坂上 寛之 内田 主税 渡辺 満久 澤 祥 松多 信尚 田力 正好 廣内 大助 谷口 薫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.37-46, 2009 (Released:2010-02-24)
参考文献数
16

活断層の詳細位置・変位地形の形状・平均変位速度といった地理情報は,地震発生予測のみならず,土地利用上の配慮により被害軽減を計るためにも有効な情報である.筆者らは糸魚川-静岡構造線活断層帯に関する基礎データと,活断層と変位地形の関係をビジュアルに表現したグラフィクスとをwebGIS上に取りまとめ,「糸魚川-静岡構造線活断層情報ステーション」としてインターネット公開した.本論文は,被害軽減に資する活断層情報提供システムの構築方法を提示する.これまでに糸魚川-静岡構造線北部および中部について,平均変位速度の詳細な分布を明らかにした.この情報は,断層の地震時挙動の推定や強震動予測を可能にする可能性がある.さらに縮尺1.5万分の1の航空写真を用いた写真測量により,高密度・高解像度DEMを作成した.人工改変により消失している変位地形については,1940年代や1960年代に撮影された航空写真の写真測量により再現し,その形状を計測した.写真測量システムを用いた地形解析によって,断層変位地形に関する高密度な解析が可能となり,数値情報として整備された.
著者
村田 陽平 埴淵 知哉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.154-170, 2011 (Released:2011-02-12)
参考文献数
50
被引用文献数
2 1

本稿は,保健師による地域診断活動の実態を明らかにしながら,健康の地理学の可能性を検討するものである.具体的には,中部地方A地域管内の保健所(2カ所)・市町保健センター(10カ所)の保健師を対象に,2006年10月から2007年2月にかけて地域診断実施に関する半構造化インタビュー調査を実施した.その結果,現状では,多くの保健師が地域診断活動に対して苦手意識を持っており,体系的・理論的レベルにおいて地域診断を十分に実施していないことが明らかになった.一方,暗黙的・経験的なレベルでは,保健師は,地域における人間関係や情報をつなぐ能力を持っていることも導出された.その上で,今後の保健師の地域診断への提言を示し,人間の主観性を射程に入れる健康の地理学の視点が,地域の多様な関係性を結ぶ役割を果たす保健師という専門職の再構築につながることを指摘する.
著者
淺野 敏久 李 光美 平井 幸弘 金 科哲 伊藤 達也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.138-153, 2011 (Released:2011-02-12)
参考文献数
14
被引用文献数
2 6

江蘇省,浙江省,上海市の境にある中国で3番目に大きな淡水湖である太湖は,流域内の開発が著しく,深刻な富栄養化問題に直面している.2007年にはアオコ(藍藻類)が大発生し,無錫市において数日間にわたって給水が停止し,200万人以上に影響が出るという事件が生じた.この事態に中国では国をあげて,長江からの導水や下水処理場・下水道の重点的整備,排水対策のできない中小工場や畜産施設の閉鎖,養殖場の閉鎖などの浄化対策が短期間に多額の投資のもとに講じられた.本稿では,現地調査と文献等により,その状況を報告し,あわせて中国の環境対策と都市整備の関係について述べる.