著者
影山 友章
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.4_1-4_6, 2022-03-31 (Released:2022-04-26)
参考文献数
14

“手間や労力がかからない製品やサービスの方が優れている”とされる,従来の価値観とは異なる,「不便益」という考え方が近年注目されている。一方,不便益を備えた物事を生み出すための方法論は,まだ未完成であると言える。本研究の目的は,「不便益を備えた製品やサービスを生み出すための方法論」を構築することである。そして,その目的を達成するために,新たなデザイン指標の仮説として「製品の使用過程における“余白”」を提案する。これは,製品やサービスを使用する際に,ユーザーの行動や意思がどれだけ介在できるのかを示したデザイン指標である。本研究では,その指標を実際のデザインプロセスの中で活用できるようにするために,概念の整理,細分化を行なった。そして,プロダクトデザインを専攻する大学生のデザイン実践に,整理された余白の概念を取り入れることで,そのアプローチの有効性の確認を試みた。結果,不便益を備えたいくつかのデザインアイデアを生み出すことができ,理論構築の足掛かりを築くことができた。
著者
岩崎 信治
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.67, pp.11-16, 1988

日本のモーターサイクルが米国に輸出をしはじめたのは1960年前後である。輸出モデルはどのメーカーも国内用のものをそのまゝ米国向に転用したもので、せいぜい塗色や部品を変える程度であった。米国よりそこはかとなく「トレール」という市場ニーズが知らされても、なかなか理解することができなかった。現地に進出したばかりの営業本社やデザインオフィスの情報ネットができ、日本からの開発チームのフィールドサーベイが可能になってから「トレールの遊び方」が判ってきたのである。輸出史上初の米国専用モデル、ヤマハトレールDT1は1968年に発売された。発売と共に大ヒットとなり米国市場で大成功を収めた。予定外の日本、欧州市場でも新カテゴリーモデルとして大人気で受け入れられた。本稿はデザインを担当した筆者の体験による「研究ノート」である。
著者
李 志炯 崔 庭瑞 小山 慎一 日比野 治雄
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.5_101-5_108, 2017

文字の太さは人間の感情や態度などと関係がある。たとえば,文字を読む際に太さが変化しても文字の意味が伝わるのは同様であるが,受ける印象には差が生じる。そのため,正確なコミュニケーションの実現のためには文字の太さと印象の関係について検討する必要がある。そこで,本研究では明朝体,ゴシック体の2書体それぞれのひらがなとカタカナを対象に文字の太さ(レギュラー,セミ・ボールド,エクストラ・ボールド)による印象の変化についての検討を加えた。その結果,明朝体のひらがなの場合,レギュラーでは柔和性・高級感・女性的な印象などが,他の太さでは柔和性・重厚性・男性的な印象などが抽出された。一方,明朝体のカタカナ・ゴシック体のひらがなおよびカタカナの場合,レギュラーでは先鋭性・高級感・女性的な印象などが,他の太さでは先鋭性・重厚性・男性的な印象などが抽出された。これらの結果により,文字の太さごとの印象の特徴および文字の太さによる印象の変化が明らかになった。
著者
丸山 萌 田内 隆利 久保 光徳
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.3_41-3_50, 2020

<p>本研究の目的は,人形用キモノの形態学的特徴から衣服のデザイン要素としての「キモノらしさ」を明らかにすることである。人形用のキモノは,和裁の理論にとらわれない方法で,人のキモノをより特徴が際立つように簡略化し,再構成したものであると考えられる。人形用キモノの特徴を調査するため,1/6 スケールの着せ替え人形「ジェニー」用に作られた 17 点のキモノ作品例を収集し,分類した。実際にそれらの人形用キモノを再現し,制作過程の検証と形の観察を行った。各作品の特徴を人のキモノと比較し,材料と各パーツの構成の関係,制作の難易度,各部の幅の比率,人形の身体の形との関係に着目した。考察の結果,キモノらしさのデザイン要素は,人形用キモノ全体に共通する特徴としての一定の形の要素に加え,布幅に由来する各部の幅の比率,材料を無駄なく生かす使い方にあると結論づけた。また人形のキモノがこれらの要素を踏まえつつ,自由な解釈により制作された様子を示した。</p>
著者
崔 晋海 小野 健太 渡邉 誠
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.2_21-2_28, 2017-09-30 (Released:2017-12-22)
参考文献数
3

本研究の広義の目的は,戦略的デザインプロセスとは,について答えることである。しかし,まずデザインプロセスを語るためには,デザインプロセスを記述する必要があり,またその記述方法は,他のデザインプロセスと比較検討できるような記述方法でなくてはならない。 そこで本研究は,デザインプロセス同士を比較・検討できる記述方法を模索し,その記述方法に従い,試行としてA社の実際に行われているプロダクトのデザインプロセスを記述し,分類した。 そして実際に,A社の9つのデザインプロセスを記述し,工程数に着目することにより,4つのタイプ(デザイン先行型,ルーチン開発型,市場反映型,デザイン受注型)に分類し,またそれぞれの関係性を明らかにした。
著者
渡辺 慎二 池本 浩幸
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.6_19-6_26, 2015-03-31 (Released:2015-07-31)
参考文献数
12

大規模企業のインハウスデザイン部門(デザイン部門と略す)は,事業活動を優位に進めるために,限られたデザインリソース(人や活動費用)を使い,多様な分野でパフォーマンスを最大に発揮することが常に求められる。事業の目的に沿って如何に質の高いデザイン業務を効率的に行うかの視点が常に重要である。そのため,デザイン部門の規模が大きい程,デザイン業務の把握と管理は難しくなる。 本研究では,この課題に対して,デザイン業務に関する時間(工数)に着目し,デザイン部門の業務を定量的に把握する仕組みと部門マネジメントの統一指標の策定によって,デザイン業務管理プロセスを改善する方法を提案した。提案内容は,(1)業務プロセスの見える化,(2)業務プロセスの品質を低下させる要因の特定,(3)業務管理データの決定と運用方法の策定,の三段階で構成される。実業務に本方法を適用した結果,本方法がデザイン部門の効率改善に有効であることを確認した。
著者
増成 和敏
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.5_51-5_60, 2013-01-31 (Released:2013-03-14)
参考文献数
24

本論は,松下電器において真野善一が目指したデザインマネージメントについて,主として真野の発言,記述とヒアリング調査より,以下の内容を明らかにした。1) 真野は,様々な場面を利用して,経営幹部,関連部門に対してデザイン啓蒙の発言をした。2) 施策としては,デザイン協議会, デザイン研究グループを発足させ,初のデザイン方針発表会を開催した。3) 真野の施策はデザイン力強化とそのためのデザイン組織の一元化を目指したが,会社の理解を得ることは難しく,デザイナーは各事業部に分散した。4) 真野は,造形こそ主たるデザインマネージメントでありデザイン評価に繋がるとして取り組んだが,会社はデザイン組織マネージメントを求めていた。
著者
千代田 憲子 森田 昌嗣
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.1-10, 1999-03-31
被引用文献数
2

本研究は, 街路景観エレメントと街路景観イメージの関連性に着目し, 街路景観エレメントのあり方について研究して, ストリートアメニティ形成方法を提案することを目的としている。本報では, 街路景観エレメントに関する実態調査として, 「街路景観エレメントの数量と分布調査」および「色調による色彩分布調査」の物理量調査を行ない, 次に街路景観イメージの意識調査として, 「SD法による街路景観イメージ調査」および「アンケートによるベスト・ワースト5地点調査」を行なった。その結果, 街路景観エレメントの充実は, 街路景観イメージの向上に明らかな効果が認められた。また, 街路景観エレメントが連続することにより, 相互に影響して全体の街路景観イメージを高めるなど, 街路景観イメージと街路景観エレメントの間には密接な関係があることが明らかになった。
著者
玉垣 庸一
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.47-54, 2005-05-31 (Released:2017-07-19)

本研究はCGでの活用を目指して三色表色系の拡張を試みたものである。最初に、色光の空間Vnから加法混色系の色空間への線形写像Ψ^^-(等色写像)を用いて等色実験を記述した。色光空間の基底にも色空間の基底にも依存しない等色写像と、双方に依存する等色行列の中間的な表現として、色光空間の基底には依存しないが色空間の基底には依存するような線形作用素を新たに提案しセンサと名付けた。次に、写像の結果がゼロベクトルとなるような色光の集合すなわち等色写像の核をKerΨ^^-とするとき、同一の色感覚をもたらす一群のメタメリックな色光が同値類を形成して、色光空間Vnの核KerΨ^^-に関する商ベクトル空間Vn/KerΨ^^-の元となることを示した。これにより、加法混色系におけるグラスマンの法則は商ベクトル空間への写像の性質を反映したものであることが明らかとなった。
著者
松岡 由幸 谷郷 元昭 寺内 文雄 久保 光徳 青木 弘行
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.57-66, 1997
参考文献数
8

近年, 製品に対するニーズが多様化する傾向にあり, 製品開発においてユーザーの嗜好性の違いを考慮した設計方法の構築が望まれている。そこで, 嗜好性の違いを考慮する方法として, ロバスト設計の方法に注目した。ロバスト設計とは, 製品における機能のばらつきに対処する方法である。本研究では, この方法を基に, 機能のばらつきを人の嗜好性の違いに置き換えることで, 嗜好性の違いを考慮する設計方法の構築を図った。具体的には, 自動車用シートのギャザーパターンをケーススタディーとして, シート設計におけるいせ込み量と引張力を制御因子, ギャザーパターンの外観に対する嗜好性の違いを誤差因子とし, ロバスト設計の手順に従うことで設計方法の構築を試みた。また, 従来の設計方法と比較することにより, 本方法の有効性を検討した。その結果, 今回の方法が製品設計において嗜好性の違いを考慮する上で有効であることを示した。
著者
樋口 孝之 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.1-10, 2004-01-31 (Released:2017-07-19)
参考文献数
78
被引用文献数
1

「意匠」の語としての由来は、3世紀後半に、文章の構成の進めかたを説いた陸機『文賦』という漢籍にあり、8世紀に、杜甫が詩のなかで画の構想を苦心して構想する描写に用いた用例が広<知られる。それらの解釈は、作文や絵画の制作における「構想」「旨趣」として理解される。日本では、漢籍からの解釈が学ばれる一方で、字義の訓から、「こころだくみ」「こころのたくみ」としての解釈がなされる。このときの「たくみ」は、「匠」の字義からではなく、ヤマトコトバの語義で理解されたものとみられる。明治初期に、作文や絵画の制作に関する表現以外に、普遍的な思考・思想の上での「考案」や「工夫」といった意味で用いられたことが確認された。「意匠」は、明治の初期には多用されることばではなかったが、明治中頃になって、一般的に用いられるようになっている。Designの対訳語として用いられる以前に、日本語語彙のなかで使用された漢語としての語義の構造があきらかになった。
著者
趙 英玉 宮崎 清
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.35-44, 2000
参考文献数
44

満州族の支配下におかれた清時代には、漢民族の被服文化に大きな変容が生じた。本研究では、清時代に書かれた小説『紅楼夢』にみられる被服の記述を抽出し、清代民族文化の出会いによる新しい文化創生の物語を、被服形態と着衣観念の側面から考察した。1)被服形態における特徴 : 外出服には満州族の被服がそのまま導入されているのに対し、在宅服には満州族の被服をそのまま導入する場合と、丈が短い上衣やほっそりとした仕立ての上衣など満州族の被服特質の一部を取り入れた新しい被服が着装される場合とがある。2)着衣観念における特徴 : 漢民族の古代思想は、陰陽観念をその基本に据え、被服においても陰陽の両面から解釈された。たとえば、上衣は「〓」より高貴な存在とみなされ、貴族は「〓」を露出せず、下着としてのみ着用した。しかし、『紅楼夢』には、「〓」を表に着用する場面が数ヶ所に現われる。このことは、清代中期における漢民族の衣生活にあっては、陰陽の観念に基づいた儒教観念の影響が薄らぎ、新しい被服文化が創生されつつあることを意味している。
著者
川野 江里子 野原 佳代子 ノートン マイケル 那須 聖
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.3_31-3_40, 2020-01-31 (Released:2020-02-25)
参考文献数
34

本研究は理工系大生と美大生の異分野間で協働するイノベーション・ワークショップを対象とし,ワークショップの空間を,参加者が実際にどのように捉え使いこなしているのか,その実態を明らかにすることを目的としたものである。会場のしつらえとアンケートから得られた参加者の印象・評価との関係を考察することでワークショップの物理的環境と議論の進んだ場所についての仮説を構築し,その上で,行動・会話観察をもとに会場における参加者の動きとコミュニケーション出現及び議論の内容との関係を考察した。議論時に思考の外在化を促す仕掛けとして準備したホワイトボード等の活用は,議論の活性化につながるコミュニケーション出現の起点となっており,議論中に思考が拡がるにつれ,使用する空間が面的に広がり,壁や窓,柱などの広い空間を利用しているケースが見られた。また,議論中の場所移動の様子からは,全てのケースに共通していることは見られなかったものの,一部のケースで,ワークショップ空間や空間移動を思考のためのツールやコミュニケーションのきっかけとしている事が確認された。
著者
神野 由紀
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.65-74, 1998-05-31
参考文献数
60

近代における「子供の発見」が市場としての子供の存在をも見出し, 子供のためのデザインが生み出されていく。本研究は近代日本でのその歴史を明らかにするものであるが, 本稿では特に子供部屋の出現と受容の変遷に焦点をあて考察した。欧米で子供部屋が急速に普及するのは19世紀以降で, 子供という存在の発見と尊重, さらに夫婦と子供を主体とする新しい家族像の誕生などが直接的な影響を及ぼしていた。日本では, 明治期の児童教育運動で家庭教育の重要性が唱えられる中, 盛んに紹介され始めるが, その内容は児童博覧会や家庭雑誌などを通じて人々に提供された。さらに大正時代中頃からは一連の生活改善運動や童心主義児童文学の影響を受け, 子供部屋への関心は一層強まる。こうした動向の下で「子供部屋」は百貨店など企業により商品化されていくが, 実際の子供部屋普及率の低さとは無関係に, 強い関心を持たれた近代日本の子供部屋には, 商品としての西洋的=近代的イメージが付されていたといえ, 人々の消費の欲望の対象になっていたことが明らかになった。
著者
小林 茂雄 中嶋 聡 小林 美紀
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.2_103-2_110, 2014-09-30 (Released:2014-10-25)
参考文献数
24

本研究は、視覚を完全に遮断した空間で協同造形作業を行う際、どのような対人協力行動やコミュニケーション効果が得られるかを実験的に検討した。幼稚園児から大学生までの被験者実験で得られた主な結果を以下にまとめる。 1)暗闇では明所の作業に比べ、声が大きく、発話量が増える傾向にあった。暗闇では初対面同士でも発話が増えることと、小学生以下の低年代の方が声が大きく発話が増える傾向にあった。 2)暗闇では明所に比べ、他者との協同作業が顕著に観察された。協同作業が、低年代では身体接触によって、高校生以上の高年代では言語によるコミュニケーションによって、より活性化されていた。 3)暗闇での協同作業は困難であったと被験者に評価されたものの、視覚が働かないことの非日常性による楽しさや、他者と躊躇なく関われるなどの対人行動に対する障壁の低さが言及された。
著者
落合 太郎 大嶺 茉未
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.2_71-2_80, 2016-07-31 (Released:2016-11-15)
参考文献数
11

直接情緒に働きかける音楽は,人の時間経過の感覚に影響を及ぼすと考えられ,モーツアルトのK.265/K.300eキラキラ星変奏曲が同じメロディで12の異なる様式に演奏されている点に注目して感覚時間比の測定を行った。予想と異なり,静かで緩やかな曲が時間の経過が短くむしろダイナミックでアップテンポの曲の方が長く感じるという結果であった。この実験過程で曲ごとに異なる色彩イメージを連想するという副次的結果を得たため「和音」に着目し,派生する色彩感覚を追加実験によって検証した。追加実験ではC(ド)のmajor,minor,sus4,diminishを代表和音としてデザイン学科学生を対象に聞かせた。色彩トーンや色相の連想イメージを聞くと一定の傾向が見られ,先行研究で報告された色聴保持者と共通する結果が得られた。和音は色彩イメージを誘発し,さらに当該色彩を介して環境デザインで指定された機能イメージと連動させることが理論的に可能となるため,和音が「言語」に替わるサインとして空間に機能するということが示唆された。
著者
石村 真一
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.47-56, 1997-01-31 (Released:2017-07-25)
参考文献数
5

本論は日本の桶・樽の造形文化に関する研究の第2報として, 鎌倉後期の絵画資料に描かれた中国風の桶を検証し, 我が国の桶文化が受けた中国大陸の影響を探ることを目的とするものである。検証の対象は『東征伝絵巻』, 『弘法大師伝絵巻』, 『大江山絵詞』という3種類の絵巻に限定し, 絵巻に描かれた桶をまず摘出した。続いて, 個々の桶を形態, 構造, 使用方法という要素から分類し, 中国の絵画資料, 民俗資料と比較検討し, 次のような事実を明らかにした。『東征伝絵巻』に関しては, 中国の桶文化を広く学んで描かれている。『弘法大師伝絵巻』に関しては, 特に運搬用桶の形態と機能について中国の桶文化を参考にしている。『大江山絵詞』に関しては, 部分的に中国の桶文化を取り入れて描いている。