著者
小高 有普 清水 忠男 村中 稔 安島 諭 桑村 佐和子 大谷 正幸
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.3_11-3_20, 2016-09-30 (Released:2016-12-21)
参考文献数
18

工業高等専門学校(工業系高専)は今,次世代教育に向けた課題に直面している.その具体的方策の手がかりを得るために,「創造性」に焦点を当てた調査研究を行った.1)ことに国の経済事情,教育施策,社会動向の変遷とともに,「創造性」の意味合いが大きく変化しており,「創造性」を喚起する教育がますます重要性を増していることが確認された.2)「創造性」がどのように捉えられ,どのようにその喚起が図られようとしているかについて,工業系高専,美術系大学および工業系大学のデザイン専攻の教員を対象としたアンンケート調査を行った結果,高等教育機関の教育現場において重点の置き方や方法の違いが明らかになった.これらの調査結果を踏まえて,デザイン教育の方法が,これまで以上に創造性の喚起を必要とする今後の工業系高専教育に応用可能であることが提言される.
著者
庄子 晃子
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.51-58, 1997-09-30
被引用文献数
4

1933年11月11日から商工省工芸指導所で顧問を務めたブルーノ・タウト(Bruno Taut、1880-1938)は、翌年3月6日の離任に際し、3月5日付で"Bericht uber meine bisherige Arbeit fur Kogeishidosho-Sendai(仙台の工芸指導所のための私のこれまでの仕事に関する報告)"を提出した。この中でタウトは、工芸指導所で果たした仕事を、1.大規模なプログラムの提案、2.個別的なプログラムの提案、3.優良品の選択、4.教育的な仕事、5.実際的な仕事、に五分類している。1.は1933年11月14日付の工芸指導所への提案"PROGRAMM(プログラム)"を指し、2.は研究試作についての個別的具体的諸提案を示す。3.は見本のための国内外の優良工芸品の選択を、4.は所員への教育を意味する。5.はタウトのデザインになるドアハンドルとタウトの指導による木製仕事椅子、金属製卓上照明具などの"Mustermodell(規範原型)"の試作研究実践の報告である。この文書は、工芸指導所でのタウトの仕事の全貌を彼自身が記録したものとして、さらには昭和初期の工芸指導所のデザイン研究の実情を示すものとして重要である。
著者
宮内 〓
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.59-68, 1996-07-31
参考文献数
20

島根県の美保神社において,氏子が戸外での儀式に酒,つまみ,盃,箸などを運ぶために使用する「イスズ箱」と沖縄地方で御嶽信仰において,お供えを運ぶための「ビンシー」と呼ばれる箱とを比較して,デザインの特質を述べた。1.意味不明のイスズ箱とは,「神に酒を供えるための錫の瓶を収めた箱」であることを明らかにした。2.イスズ箱は,針葉樹の白木製で,隅打付接ないし組手接の箱である。わが国古来のアイデアである中蓋によってつまみ,盃,箸と徳利とをへだて,徳利が壊れないために箱の内部を巧妙に仕切っている。中蓋はお盆としても使用される。3.ビンシーは広葉樹で朱漆塗り,蟻組接である。箱の作り方として中国の影響が指摘される。また,箱自体が神に供物を捧げる台となる。4.二つの箱の機能は類似しているが,デザインが非常に異なるのは,文化,伝統の反映であると考えられる。
著者
近藤 朗 清水 忠男
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.37-46, 1994-07-31
被引用文献数
2

オフィスにおける作業の焦点は,単純情報処理から創造的問題解決に移りつつある。本小論では,「情報環境」という視点からオフィス環境を捉えなおし,グループによる創造的問題解決であるコラボレーションの「場」に関する研究の方向性を求めることを目的とする。そのため,オフィスの情報環境の現状を,それを構成するツールを中心に,業務の異なる部署別にアンケートおよびインタビュー手法で調査した。その結果,創造的問題解決の初期段階では各業務同様なツールを使用し業務が具体性を帯びるに従い業務特性にあったツールを使用している事が明らかになった。コラボレーションの「場」におけるツールに求められる機能としては,1)情報の共有化および展開を支援する機能,2)遠隔地の人々とも円滑に協調作業ができる情報伝達機能が求められていることが考察される。
著者
林 品章
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.27-36, 2000-03-31

本論文は1970年代以降の台湾視覚伝達デザイン運動について論述したものである。1970年以降, 「運動」と呼ばれる出来事は, 年代順に「アミーバ(変形虫)デザイン協会」, 「広告時代雑誌」, 「中国時報人間コラム」, 「連広会社」, 「時報広告アカデミ賞」, 「外貿協会デザイン推進センター」など, 六つがあげられる。本論文においては, それらの出来事やその動きが, 当時の台湾の視覚伝達デザインの発展に大きな原動力になっていることを明らかにする。また, それら出来事の考察から, 1970年代から現在に至るまで, 台湾の視覚伝達デザインにおいては, 表現技術や表現概念などが次第に複雑になり, 各領域に重視される度合いも大きくなってきたことが分った。それ故, 本論文は, その六つのデザイン運動の考察に加えて「その他」の項に, 視覚伝達テザインの発展に貢献した各々の組織について重点的に述べる。
著者
曽和 英子 曽和 具之
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.4_51-4_60, 2013-11-30 (Released:2014-01-25)
参考文献数
21

雲貴高原は、中国「民族街道」と言われ、その多様な気候や地形において、様々な民族の多様な民族文化が展開されている。その中には、黄河中流域から移住したミャオ族など稲作諸民族も含まれている。本研究は、ミャオ族、トン族、ブイ族、チワン族、ヤオ族など稲作諸民族の集落における現地調査を通して、それぞれ民族の染めの伝承およびその地域特性を明らかにした。その結果、以下のことが明らかになった。(1)水資源が豊富な平地においては、黒染め、重ね染め、亮布づくりが盛んに行われている。一方で、水資源の乏しい山岳地域では、蝋纈染めが伝承されている。(2)トン族、ブイ族、チワン族は平地に多く分布し、古くから様々な染めの文化を形成してきた。ミャオ族は山岳部に多く分布し、上記の民族の染めの文化を吸収し、多様な地域性を生み出した。
著者
林 品章 孫 祖玉 林 廷宜
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.5_89-5_98, 2013-01-31 (Released:2013-03-14)
参考文献数
26

本研究は、日本統治時期に於ける台湾民間建築にみられるアール・デコ様式について、その歴史的変遷と特色とを明らかにすることから今後のデザイン創作に資することを目的としている。調査は、台湾建築物に関する文献や史料、ならびに現存する歴史的建造物を対象に行った。調査資料の分析と蒐集した画像資料の分類の結果、以下のことがらが判明した。(1)日本統治時期に於ける台湾の西洋式建築の発展は3段階に分かれ、アール・デコ様式はその3段階目に発展した。(2)台湾のアール・デコ様式の広まりは、台湾総督府の政策が大きな影響を及ぼした。(3)アール・デコ様式は、モダンなイメージを現すものとして劇場やレストランなど消費娯楽型建築にもてはやされ、その後、民家へと広く普及した。(4)アール・デコ様式は、世界諸民族の文様を取り入れた多元文化融合が特徴であるが、台湾はその精神理念と同じく、台湾、日本、西洋を融合した独自の「台湾アール・デコ様式」を生み出した。(5)アール・デコ様式の台湾への導入は、その後の台湾建築の現代化と国際化への啓発効果をもたらした。
著者
鎌田 尚希 大木 あかり 荒井 将太 武田 将太郎 齋藤 杏 大澤 優輝 髙田 茉知 山本 貴士 武川 直樹 青木 良輔
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.4_1-4_8, 2023-03-31 (Released:2023-03-30)
参考文献数
13

畳まれた長傘による歩行時のヒヤリハット事例が日本の行政機関からしばしば報告されているが,長傘の危険な持ち方に関する対策検討が少ない.代表的な危険な持ち方に,長傘を地面に対して水平に持つ横持ちが取り上げられる.その問題に対し,長傘の先端が地面に向かうように持つという持ち方の啓発活動が主な対策である.しかし,横持ち以外の持ち方の危険性や,危険な持ち方に至る人々の心理の探究が少ない.本稿では,2種類の長傘の持ち方調査と,調査結果に基づく3種類のプロトタイプを提案し,その使用感をヒアリングした.持ち方調査から長傘の先端をつけない持ち方を,あるいは周囲への迷惑がないと判断すると本人にとって楽な持ち方を優先する傾向が確認された.この知見に基づいて製作された各プロトタイプのヒアリングから,楽な持ち方に適したものが好まれる傾向があった.
著者
張 英裕 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.1_1-1_10, 2013-05-31 (Released:2013-07-30)
参考文献数
10

台湾において寺廟の屋根は人間と神の境界線と、神への敬意が最も表現される場所である。故に、寺廟の屋根は民家、寺院、祠堂などの素朴な屋根と大きく異なり、そこには想像上の動物や熟知されている古典物語などが飾られている。大量尚且つ華麗な装飾を設置する事によって、人々は祈願が神に届き、達成されるようにとの願いを込めているのである。本稿は台湾雲林県北港鎮にある朝天宮で現地調査を行い、その結果,それらの装飾は華麗に見せるために設置されただけではなく、各自に意味がこめられ、一定な規則に沿って製作され、設置されることを明らかにしたものである。その装飾動機は1.構造の強化と美観の向上、2.凶事を避け吉事を招き入れる、3.理想境の追求と教化、4.神への表敬である。また装飾原則は1.地位序列原則、2.対称原則、3.地から天への原則、4.中央収束原則。加えて吉祥、教化、防災などを目的とする。
著者
日野 永一
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.23-30, 1994-09-20 (Released:2017-07-25)

明治末から大正の初期(1909-1913)にかけて,5冊のデザイン技法書が相次いで刊行された。これらの書は専門教育を対象としているが,当時普通教育の中へデザインが導入されたことが,大きな出版の契機となっている。これら技法書は,欧米の研究に基づきながらも,日本独自のデザインを生み出すことに意を用い,それぞれが独自の特色を示している。現在と比較するならば,時代の差と,体系的な未整備が残るが,その基本的な考え方は現在にまで続くものがあり,現在そのまま使用されている用語も少なくない。これらの書で確立されたデザインの創作方法は,その後の日本のデザイン教育に大きな影響を与えることになり,特に「便化」という自然物のスケッチから始まって模様を構成する方法は,長く中心的な指導法の位置を占めるようになった。
著者
平田 光彦
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.4_1-4_8, 2014-11-30 (Released:2015-04-10)
参考文献数
25

本研究では,整斉を基調とした楷書の点画構成において,はねを有する画が与える美的印象を,感性評価によって実証的に検討した.調査対象は,右方向へ送筆後にはねる画と右下方向へ送筆後にはねる画の強調効果であった.刺激には,はねを有する画を強調した標準構成のサンプル文字と強調のないサンプル文字を用意し,SD法によって視覚的印象のデータを採集した.評価尺度には筆者らの先行研究で構成した3次元(「均整美」,「開放性(活動性)」,「力量性」)の尺度を使用した.サンプル文字の評価値には,採集データに項目反応理論を適用して求めた尺度値を使用し,分散分析による検定をおこなった. 調査の結果,はねを有する画は,右方向への強調構成によって均整美の評価を上げた.また開放性の評価結果から,はねを有する画が,視覚を通して身体運動への共感覚を喚起する可能性が推察された.最後に,右下に送筆後はねる画で,力量性の評価が向上する画の長さの範囲があることが示唆された.
著者
河瀬 絢子 崔 庭瑞 李 志炯 泉澤 恵 日比野 治雄 小山 慎一
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.2_81-2_88, 2016-07-31 (Released:2016-11-15)
参考文献数
21

本研究では,専門家・非専門家のOTC医薬品記載情報への注視方法とリスク評価の相違点を明らかにするため,一般消費者(一般学生),専門家(薬学生,薬剤師)に対してOTC医薬品に関する眼球運動計測実験と質問紙調査を行った。眼球運動計測実験では、被験者は,3種類のOTC医薬品の中から最も購入したいとおもった1品を選択した。課題遂行中,「製品名」,「キャッチコピー」,「成分」,「使用上の注意」等の12の外箱記載項目に対する視点の停留時間が計測された。眼球運動計測実験の結果,専門家は一般消費者よりも「成分」,「使用上の注意」,「薬効分類」を長時間注視する傾向がみられた。質問紙調査では専門家が一般消費者よりもOTC医薬品の副作用リスクを高く評価した。以上の結果から専門家はOTC医薬品の副作用リスクを高く評価するとともに「成分」,「使用上の注意」,「薬効分類」等の詳細情報をよく読んでいることが示唆された。専門家による高いリスク評価を一般消費者に伝えるためには,リスク情報を強調した外箱情報デザインが有効である可能性がある。
著者
王 健 久保 光徳
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.4_1-4_10, 2021-03-31 (Released:2021-03-30)
参考文献数
20

本研究は,歴史的な彫刻形態からその造形傾向である「作風」を解明し,先人たちが生み出した造形に関するアイデアの言語化を試みると同時に,現代の造形教育,地域資源としての活用に資することを最終的な目標としている。 本報告では,江戸時代後期に千葉県を中心に活躍した彫物大工である武志伊八と後藤義光による代表的な社寺彫刻とされる「波」と「龍」の彫り物の特徴的な形態に注目し,3D 形状スキャンニングから得られるポリゴンモデルに対する形態分析を実施し,形態構成要素への分解を試みた。伊八の「波」の特徴は,層状に立体構成された「ラミネート層」的な造形傾向を示し,義光の「龍」は,骨格をイメージさせる「連続する球体」で構成される造形傾向を示していることを確認した。 形態構成要素によって「波」と「龍」の両形態を再構成し,彫物大工の作風を可視化するモデルの制作を試み,企画展で展示した。そのモデルによって両者の作風の相違が,鑑賞者に分かりやすく伝達されることの可能性を示唆することができた。
著者
吉松 孝 池田 美奈子
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.4_33-4_42, 2021-03-31 (Released:2021-03-30)
参考文献数
24

米国・中国のシットコム番組の「笑い」がデザインされる際の表現においてどのような差異があるのかを、言語的特性の視点から分析した。米中で代表的なシットコム6 番組を分析対象とし、ラフ・トラックの性質について、「未熟性とのギャップ」「実在と虚構の混在」「エネルギーの移行」「表意と推意のズレ」「音声的要因」「先天的差異、属性差異の再認識」という大分類と、さらにシーン内容に即し詳細に作成した小分類を使用し、ラフ・トラックの数のデータ分析とテキスト分析を行った。テキスト分析では、発音されるべきところと違う発音のされ方や声真似など、言語や音声を契機として笑いが起こされたと考えられる箇所を、各番組の初めに出てくるシーンから、無作為に取り上げた。分析の結果、音声的要因により発生する笑いのポイントの割合は、両国とも3%-4%程度であり、差異として、米国シットコムでは「音の高低」による比率が高く、中国では、「同音異義語、似た音での聞き間違い」での比率が高いことが示された。
著者
滝沢 正仁 大島 創 山本 浩司 高橋 秀喜 北 真吾
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.2_29-2_38, 2017-09-30 (Released:2017-12-22)
参考文献数
29

高速道路の可変式道路情報板には,危険回避やルート選択に役立つ情報が表示される.近年,グローバル化や高齢化社会への対応策として,シンボル活用の機運が高まっているが,情報板シンボルには,わかりにくいものが存在する.また,媒体特性や環境特性を考慮したデザイン指針や評価手法も定められておらず,改良への手がかりが乏しい.そこで本稿では,情報板シンボルのわかりやすさに関する,「造形の基本的取決め」,「評価手法」,「改良の手がかりとなるデザイン指針」の導出を目的に検討した.まず,情報板の特性を道路標識や一般シンボルとの比較から整理し,取決めと評価手法を導いた.次に,提案した評価手法を用いて,取決めに基く代替案と現行シンボルの理解度調査を実施した.以上の結果から,取決めの妥当性を確認し,デザイン指針として,「車の造形を高評価のもので統一」,「熟知性の高い図材を用い,図材間の因果関係や,主体と客体を明確化」,「熟知性が低いまたは高速道路の文脈と関連付けが困難なシンボルは意味内容の見直しも検討」を導いた.
著者
菅 靖子
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.11-20, 2004-09-30

本稿は19世紀から20世紀にかけて日本の「美術製造品」のイギリスヘの輸出に関わっていた商社の相互関係や本国での活動に着目し,後期ヴィクトリア朝からエドワード朝にかけて同国における日本趣味を支えたインフラストラクチャの一端を解明することを目的とする。そのためにイギリス・日本の両国に活動拠点をもっていた3つの人脈,マリアンズ,ストロームとロットマン,そしてホームとセールを中心に築かれた諸商会の経営体制を検証する。彼らが縁戚関係あるいはパートナーシップを通して経営していた諸商会は,名称変更こそあったが,しばしば数年で消えてゆく当時の外国商会の高い破産率を乗り越えて比較的継続した活動を展開した。その要因のひとつには,これらの同業者達のあいだに代理店制度など直接の相互関係があったことがあげられる。雇用主や従業員の繋がりや店舗や在庫の引き継ぎからなるこうした横のネットワークは、イギリスの日本趣味の流通を支えた一要素であった。
著者
井磧 伸介 宮崎 紀郎 玉垣 庸一 李 震鎬
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.71-78, 1996-05-31
参考文献数
11

近年の雑誌広告ではカラー表現が一般的であるが,モノクロ写真を取り入れた広告も少なくない。本研究は,カラー全盛とも言える現在の広告表現において,モノクロ写真を使用した雑誌広告がどのようなイメージで受け取られるのか調査を行ない,モノクロ写真を使用する効果を検討するものである。まず,収集した雑誌広告を配色や構図などで分類し,代表的な広告サンプルを選び出した。次に,これらのサンプルについてのイメージ調査を20代前半の男女70名に対してSD法によって実施した。その結果,整然性,鮮明感,重厚感の3つの因子が抽出された。このうち,「まとまった」,「静かな」等の形容詞のみならず,「好きな」,「美しい」といった形容詞とも相関の高い整然性因子では,モノクロ写真を使用した広告がカラー写真を使用した広告より高く評価され,文字や製品写真にカラーを重点的に使用すれば,さらに評価を高めることが判明した。これは,モノクロ写真とから部分との対比が,それぞれをより際立たせた結果であると推測される。
著者
庄山 茂子 浦川 理加 江田 雅美
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.87-94, 2004-03-31 (Released:2017-07-19)
参考文献数
10
被引用文献数
1

本研究は、女子学生のリクルートスーツにおいて、シャツの色彩の違いが、服装メッセージにどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的とした。調査に用いた試料は、ベーシックなdark Grayのスーツにオープンカラーのシャツである。12色のシャツの色について調査した(ペールトーン10色と無彩色2色)。調査対象者は、就職活動中の女子学生166名と採用者側の銀行員157名とした。女子学生が着たい色、採用者側が好感を持つ色について回答を求めた。それぞれの色について、25対の形容詞を用いてSD法によるイメージ評価をしてもらった。その結果、女子学生が着たい色および採用者側が好感を持つ色の上位は、White、Blueであった。因子分析の結果、女子学生は、着たい色に「洗練」や「知性」を求め、採用者側は交換を持つ色に「誠実さ」を感じている事が明らかとなった。シャツの色彩の違いにより異なる服装メッセージが認められた。
著者
町田 俊一
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.41-46, 2003-09-30 (Released:2017-07-19)

浄法寺漆器の復興にあたっては、実質的な技術課題は下地加工と塗漆技術である。漆器生産技術の中でも、下地加工は漆器の強度を左右する重要な工程で、技術修得にも長い時間がかかると言われている。また、下地加工の意味は、素地の凹凸を埋めて、軟らかい木部の上に硬い塗膜層を形成し、強度を確保すること、断熱性を向上させることであると言われている。製造技術を新たに再修得しなければならなかった浄法寺漆器にとって、高度な技術は、時間とコストの増加を招く。そこで、日常品に適した下地法を採用するため、現在我国の主要な漆器に用いられている8種類の下地について手間と、強度の比較検討を行った。その結果、蒔地法、塗重ね法が高い強度を発揮する事が判明し、更にこれらの下地は技術修得が容易に行えることが判明した。