著者
片倉 葵 菊竹 雪 楠見 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.1_19-1_28, 2020-07-31 (Released:2020-08-10)
参考文献数
13

近年,商品のパッケージデザインは包装技術の発展や新素材の登場,宣伝媒体の変化により多様化している.しかし,ロングセラー商品には発売当初からパッケージのデザインをほとんど変えずにマイナーチェンジだけを行なっている商品と,時代の変遷に合わせてデザインを変更し売れ続けている商品とが存在する.本研究では前者のロングセラー商品に焦点を当てた.長期間メーカーで継承されている一定のデザイン上の法則性を「レギュレーション」と定義し,パッケージ正面部のグラフィックにどのようなレギュレーションが存在するのかを検証した.商品を購入する際,パッケージと共に重要視されている色に注目し,産業革命後の大正期に発売された食品パッケージ正面部の背景色とモチーフに使用される色との二色の色面積比率を算出し,数値を可視化した.現在販売されている商品のグラフィックと発売当初のグラフィックの色面積比率を比較すると色面積比率はほぼ一定に保たれており,パッケージ正面部におけるグラフィックのレギュレーションの存在を見いだすことができた.
著者
宮木 慧子 石村 真一
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.55-64, 2004-09-30 (Released:2017-07-19)
参考文献数
16

日本において,昭和40年代まで陶磁器の流通包装には,ワラ包装が行われていた。本研究は,有田・伊万里をはじめ東アジアにおいて広域調査を実施し,各窯業地の諸形態を明らかにして,日本のワラ包装形態を造形の視点から比較考察する。(1)日本の包装形態は,陶磁器の形状から大型器種と小型器種に対応する2系統8種のワラ包装タイプに類型化される。大型器種に対しては衝撃に強い「太織巻き」,小型器種には円筒形の「ワラ包み」が主に行われており,産地ごとに微妙に意匠の異なるものの,同一産地においては,それぞれ特色あるワラ包装技術を共有していた。(2)各産地における包装形態と意匠の独自性は,保護機能の他に産地識別のための情報機能をも果たしていた。(3)陶磁器包装の伝播は窯業技術の伝播と深い関連が窺える。江戸前期,景徳鎮の包装技術が有田にもたらされており,高品位の磁器創出を目指していた有田の美意識と日本のワラ文化の成熟が優れた意匠のワラ包装技術を確立したと考えられる。
著者
近藤 祐未 板垣 順平 渡邉 誠介
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.2_49-2_56, 2020-09-30 (Released:2020-10-05)
参考文献数
23

大学による地域連携活動は、いまや自明の理となっている。とりわけ、学生が主体となった活動は、自治体や企業も注目しその成果も期待されている。一方で、活動の主体となる学生にとっては成果だけでなく、自身にとっての経験や達成感、自信、スキルなど、活動を通して何を得られたか、が重要となる。しかし、地域連携活動に関する既往研究の多くは、活動終了時に実施される単発的な振り返りやアンケートをもとにその学習効果について議論されたものが多く、長期的な視点による地域連携活動の学習効果について分析・検討されたものはみられない。筆者自身が取り組んだ長岡造形大学大学院の「地域特別プロジェクト演習」では活動を進める時々に、辛いやしんどいといった意見が多くあったが、活動が終了してからしばらく経ってからの何気ない会話では、その印象や捉え方に変化がみられた。そこで本研究では、「地域特別プロジェクト演習」を研究対象として、実施者である学生の視点から活動の記憶や印象を手掛かりに、省察の変化の過程について検討し、その変化の要因を明らかにすることを目的とする。
著者
川上 比奈子
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.6_57-6_64, 2017-03-31 (Released:2017-05-10)
参考文献数
29

漆芸家、菅原精造はアイリーン・グレイに日本漆芸を教え、共同し、彼女の作品に影響を与えた。本稿の目的は、日本とフランスの菅原の遺族に取材し、関連文献・史料を調査してグレイが学んだ菅原の漆芸習得の背景を明らかにすることである。結果、次の事実が明らかになった。1)菅原の漆芸技術の習得は、圓山卯吉が創設し運営した山形県酒田市の教育機関兼事業所「カワセ屋」での修行に始まる。 2)「カワセ屋」が木工・家具製作に重点をおいていたことから、菅原は木工・家具製作の技術も習得していた。 3)菅原に漆芸を教えた師匠の一人は漆器職人、森川奇秀である。 4)菅原は、1901(明治34)年9月に東京美術学校漆工科に入学し、1905(明治38)年11月に渡仏した。同校に4年以上在学したが、卒業はしていない。 5)東京美術学校漆工科における主な教員は、彫刻家・高村光雲、漆芸家・川之辺一朝、漆芸家・辻村松華である。6)東京美術学校で菅原が学んだ内容に高村から学んだ彫刻の要素が含まれている。7)菅原は自身を漆芸家としてだけでなく彫刻家と自任していた。以上から、グレイは漆塗りの技術だけでなく、家具の製作や彫刻など立体造形の技術も菅原から学んだと考えられる。
著者
山本 政幸
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.27-36, 1999-05-31

本稿は, エドワード・ジョンストンとエリック・ギルのデザインした書体を中心として, 作者の思想や産業との関わりに着目しながら, イギリスにおけるモダン・サンセリフ活字の成立過程を明確にすることを目的としている。ジョンストンとギルの活動の根本に手工芸が据えられていた事実を追い, 並行して二人が近代産業に取り込まれながらサンセリフ体に着手する過程と, 彼らの書体に見出された新しい役割を確認したあと, 幾何学的アプローチと伝統的アプローチという二つの側面から, デザインの特徴についても言及した。彼らのサンセリフ体活字は, 産業との関わりから新しい社会における新しい目的のために作られ, 企業イメージの統一やサインから書籍印刷にいたるまで, 幅広い用途に対応する現代的な役割を備えた。その形態は, 機械的な規則と, ヒューマニスティックな骨格を併せもち, 幾何学的な新しさの中にも, 二人が尊重した伝統的基盤が根付いていた。これはイギリスのモダン・サンセリフ活字が成立する過程で生じた特徴といえる。
著者
工藤 真生 山本 早里
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.6_21-6_28, 2014-03-31 (Released:2014-06-10)
参考文献数
20

本稿は教育施設におけるサイン計画指針立案のため、その一要素であるピクトグラムに焦点を当て、より多くの人にわかりやすいデザインの条件を明らかにすることを目的とする。そのために、知的障害がある幼児・小学生・中学生・高等生、通常学校に通う中学生・高校生、大学生を対象に6 項目7 種類のピクトグラムをわかりやすい順に順位付けをする調査を行い、各属性の平均順位を比較した。結果、①動きや音を表すmotion line、②場所を表すピクトグラムの場合、その場所を象徴する人物、③その場所で行う行動・もしくはその行動を表す人物、以上3点の中から、ピクトグラムの項目を考慮して付加することが、必要であることを明らかにした。また、非常口・トイレはJIS のピクトグラムが被験者の全属性に共通して平均順位が1 位であり、これは行動と合わせてピクトグラムの意味を学ぶ機会や、目にする頻度が多い事が一因と考えられた。よって、形の改良だけではなく、ピクトグラムが表す意味を学びそれを視覚的な手がかりとして行動する、教育の機会が必要であることを指摘した。
著者
孫 大雄 宮崎 清 樋口 孝之
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.1-10, 2008-03-31

本稿では、1920-1930年代における小池新二(1901-1981年)のデザイン振興活動を考究した。小池は、学生時代に美学美術史を学ぶ一方で旅と登山に親しみ、実践の活動を通して自然と文明に対する思索を行う視座を感得した。大学卒業後、建築美学を探求するなかで欧州で展開されていた近代造形活動の考えに心服し、1930年代には多くの建築情報の出版活動への関与を行い、合理性・工学的審美性など客観的な科学を基盤とした近代建築運動を精力的に紹介した。また、「海外文化中央局」を設立運営し、建築・工芸についての世界的な活動の動向を中心に、幅広く人類文化の全領域にわたる膨大な情報の収集.研究を行った。1936年の「日本工作文化連盟」設立にあたっては中心的な役割を果たし、「工作」という概念を用い、生活の様式をつくりあげるものとしての造形運動の啓蒙・指導をめざした。それらの活動を通して、生活のあらゆる場面に造形美を創成しようとする「汎美計画」の思想を構築し、提唱した。
著者
全 聖福 釜堀 文孝
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.29-38, 2004-03-31
被引用文献数
1

本論文は食品や生活用品購入において商品のどのような要素を重視しているかについて「大学生が持っている商品購入の傾向」と「商品において各項目がどの位重要なのか」の二つの項目を蔚山(ウルサン)大学の学生52入に対して調査を行い、分析した。その結果、両方の各項目に対して、「デザイン」「機能」「販売」を重視しているのは「化粧品」「合成洗剤(お風呂用洗剤)」であり「デザイン」「販売」を重視しているのは「飲み物(果実飲み物,炭酸飲み物)」「アイスクリーム類(アイスクリーム)」「お菓子類(ビスケット)」「お菓子類(クッキー)」「お菓子類(スナック)」「お菓子類(パイ)」、「機能」「販売」を重視しているのは「歯ブラシ/歯磨き」「乳加工品(粉ミルク)」「合成洗剤(洗濯用洗剤」「発酵食品(ヨグルト)」、「デザイン」「機能」を重視しているのは「穀類加工品(ご飯)」「水産物加工品(しじみのみそ汁)」「レトルト食品(コムタン)」「調味料(みそ)」「即席乾燥食品(明太スープ)」「芳香剤」という結論を得、商品によって重要視する要因が異なることがわかった。
著者
岡本 陸 稲坂 晃義 宮崎 愛弓 長尾 徹
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.4_19-4_28, 2023-03-31 (Released:2023-03-30)
参考文献数
26

近年,デザイン非従事者がデザインのプロセスに参加するような考え方や活動が注目されてきているが,多くの人々がデザイン行為に対する自己効力感に課題を抱えていると考える。本研究の目的は,デザイン非従事者に,共創という状況の中でDual Focus の考え方を援用したリフレクションを行わせることが,デザイン行為に対する自己効力感にどのような影響を与えるのかを明らかにすることである。デザインを専門的に学んでいない大学生に対して,デザイン行為を伴うグループワークを実施させた後,Dual Focus を用いてリフレクションをした群(他者視点を介入させる群)と,用いずにリフレクションをした群(他者視点を介入させない群)の2つに分け,それぞれの効果を分析した。その結果,グループワーク実施後にDualFocus を援用したリフクションを行った群は,自己に対してより詳細に振り返る傾向が確認され,さらにデザイン行為に対する自己効力感の一部分が有意に向上していることが分かった。
著者
大森 峰輝
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.73-80, 2001-11-30 (Released:2017-07-19)
参考文献数
28

高層居住は我々にとって好ましくないことであるというような指摘や報告がされる場合がある。本稿では、これらに係る著述の論拠を探り、高層・超高層集合住宅の住環境デザインに際しての設計指針について検討した。その結果は、以下のようにまとめられる。1)高層居住に対する批判の論点は、生理・心理的影響、外出や子供の遊びなどの行動制約と拘束の問題、日常生活の安全性の問題の3つに分類できる。2)生理・心理的な影響、行動制約や拘束を回避するには、遊び場やコミュニティ・スペースを分散配置する等の対策を検討すべきである。3)犯罪や事故の原因が、必ずしも高層であることによるものだとは言えない。しかし、居住者の自治意識・連帯感を高める上で、住戸タイプ(間取り)の複合等の対策により居住者の年齢・家族構成等について配慮すべきである。
著者
中山 郁英 水野 大二郎
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.2_43-2_50, 2021-09-30 (Released:2021-11-03)
参考文献数
54

本稿では行政とデザインについて議論するための共通の土台をつくることを目的とし,行政とデザイン双方から歩み寄ってきた背景を,行政とデザインの統合の場としての「公共イノベーションラボ」を起点とし,文献レビューを中心に解説した。行政側では,1)行政課題の複雑化や,2)行政サービスのデジタル化,3)多様な主体が参画する形への行政改革の進展といった変化が起きており,それを解決推進する手段としてデザイン,特にサービスデザインが注目を浴びるようになった。また,デザイン側では,プロダクトなどの伝統的分野から,サービスやシステム分野への関心の広がり,また社会的課題をテーマとするソーシャルイノベーションのためのデザイン分野の活発な活動が,行政組織でのデザイン実践へと繋がっていったことを整理した。最後に,行政組織においてデザインを実践する際の論点として,1)政策過程のどの部分にデザインが介入するか,また2)行政組織とデザイナーがどのような関係性で協働するのか,という2点について展望を述べる。
著者
大澤 隆男 古谷 純 池田 稔 熊谷 健太
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.3_33-3_42, 2019-01-31 (Released:2019-03-25)
参考文献数
16

国内電機メーカは需要の変化に伴い事業戦略の見直しが進んでおり,企業内デザイン組織はその対応からより適切なデザイン価値の提供が求められている。日立製作所デザイン本部は製品価値を高めるプロダクトデザインから,ユーザの経験価値を高めるエクスペリエンスデザインへとデザイン価値を向上させる組織改革を進めてきた。 本稿は2005年から2010年に行った日立製作所のデザイン改革を「Will:組織の思い」「Must:組織の義務」「Can:組織の技量」からなる枠組みで整理した。「Will:組織の思い」では危機意識から将来ビジョンを描き実現の行程を共有し,「Must:組織の義務」で事業ニーズと成果評価を分析しデザイン満足度を上げ,「Can:組織の技量」で経験価値を創出するデザイン基盤を整備した。これ等の活動でデザイン本部は技術ポートフォリオを変え,B2B事業の貢献を高め顧客協創によるイノベーション創出を担う組織に変貌した。本事例から電機メーカのデザイン組織改革におけるWMCモデルのフレームワークの有効性を考察した。
著者
平野 聖 石村 眞一
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.55-64, 2007-09-30
被引用文献数
2

本論では,扇風機のデザインの歴史を研究することを通じ,我が国家庭電化製品のデザイン開発における特徴を解明する一助としたい。明治,大正時代の史料を調査することにより,以下のことが判明した。明治時代には,先進国から我が国へ輸入された製品が,扇風機を普及させる中心的役割を果たした。欧米では,天井扇の需要が大いにあったが,我が国においてはほとんどなく,卓上扇風機を中心に開発が進められた。我が国における職人の能力は高度であった為,欧米から導入された技術を受容できる余地があった。当初は町工場も扇風機を製造していたが,やがて財閥系の大企業が製造を独占するようになる。大正時代に入ると多くの大企業が扇風機製造に進出し,各社の宣伝活動が盛んになった。大正時代前半には,扇風機のデザインにおける基本的な4つの要素が出揃った。すなわち,黒色,4枚羽根,ガード,首振り機能である。扇風機は高価であったので,大半の人々は扇風機の貸付制度を利用していた。その結果,扇風機はステイタスシンボルとして機能した。
著者
酒巻 隆治 染矢 聡 岡本 孝司
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.59-66, 2009-03-31 (Released:2017-07-19)
参考文献数
39
被引用文献数
2

本論文では,Webデザインがユーザに与える印象と,記憶される情報量との関係を明らかにするため,Webアンケート調査と被験者実験(眼球運動測定,ヒアリング)を通して調べた結果について報告する.まずSD法によりWebデザインが与える印象,評価を分析した結果,「利便性」「文字の可読性」「エンターテイメント性」というWeb評価因子が抽出された.また共分散構造分析を通し,良いデザインと思われるには「利便性」「エンターテイメント性」,再利用意向を高めるには「利便性」の影響が大きいことを明らかにした.またWeb閲覧時のユーザの眼球運動測定,閲覧後のヒアリングにより,注視された情報量と記憶された情報量とは相関関係があること.また,注視された情報量は「利便性」「エンターテイメント性」,記憶された情報量は「利便性」の影響が大きいことを示した.つまり,良いデザインと思われる為にも,再利用意向を高める為にも,情報が注視される為にも,記憶に残す為にも,「次に何をすればいいか迷わない」「タイトルが見つけやすい」などユーザのメンタルモデルに即した「利便性」をWeb上にデザインすることが重要となることが明らかになった.
著者
寺内 文雄 久保 光徳 青木 弘行 橋本 英治
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.45-52, 2005-03-31
被引用文献数
3

近年の環境問題において、モノを長く使うことに対する意識の低さが、問題解決に向けた障害の一つとなっている。本研究においては、モノの長期使用を念頭に置き、生活者の意識面における問題を解決するための方策として、モノに対して抱く愛着に着目した。そして、モノが有する様々な感性要素と愛着の発生に関わる因果モデルを、構造方程式モデリング手法を用いることにより構築した。また、モノに対する生活者の志向態度を因子分析とクラスター分析手法を用いてに四タイプに分類し、各タイプの因果モデルを検討することにより、その特徴と特質を明らかにした。最後に、これらの検討結果を踏まえて、愛着を誘発するための人工物設計指針6項目 : 完成度の高い造形処理、素材の特性を生かした質感表現、頭に馴染む使い勝手のよい機能、使い込むことによって見いだされる新たな仕組みの導入、愛着感構成要素の実現、本物感を満たすブランド価値の確立、を導いた。
著者
青木 弘行 久保 光徳 鈴木 邁 後藤 忠俊 岡本 敦
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.1993, no.96, pp.47-54, 1993-03-01 (Released:2017-07-25)

エレクトリックギター用材料に適した新しい材料選択基準を求めるため、音色に強い影響を与えるヤング率、振動損失、密度、そして周波数スペクトル分布に代表される物理特性と、エレクトリックギターの音色としての「ふさわしさ」に対する評価尺度である感覚特性との相関関係について検討した。木材、プラスチック、金属に対する打撃振動、および振動音測定実験を行い、物理特性および音響特性の解析を行った。感覚特性は、これらの振動音の、エレクトリックギターに対する、相対的な「ふさわしさ」であるため、一対比較法を用いた官能評価実験により解析を行った。本研究によって解析された物理特性と感覚特性との関係を明確にするため、典型的な楽器用材料選択基準による評価を行うと同時に、これらの特性の相関式を、重回帰分析法に従って求め、エレクトリックギター用材料選択基準の検討を行った。これらの検討より、選択基準の説明因子である密度、特にその値の対数値とヤング率の影響が重要であることが明らかとなった。さらに、密度やヤング率を操作できる材料である繊維強化複合材料(GFRP、CFRP)の、エレクトリックギター用材料としての有効性について検討し、高剛性、低密度であるCFRPの利用可能性を確認した。
著者
小川 直茂 三上 訓顯 坂本 淳二
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.5_81-5_90, 2017-01-31 (Released:2017-03-10)
参考文献数
6

平成27年10月に厚生労働省が示した「患者のための薬局ビジョン」にもとづき,今後薬局の役割は薬剤の提供から,患者の健康維持・増進を総合的に支援する「健康サポート」へと転換を迎える。そうした体制の実施にあたっては,薬剤師が必要とする様々な情報を効率的に記録・管理・運用できるシステムのあり方について検討を深めることが極めて重要である。本研究では,薬剤師の意識調査と分析を通して健康サポート薬局の推進および効果的運用に向けた情報記録・管理・運用システム設計のための課題を明らかにすることを目的として研究に取り組んだ。 調査結果についてカテゴリカル主成分分析と階層クラスター分析を用いて解析を行った。カテゴリカル主成分分析の結果5つの主成分が明らかになり,階層クラスター分析によって薬剤師の意識傾向を6つのグループに類型化することができた。これらの結果を元に考察を行い,多くの機関とのコミュニケーションハブとして機能するためのコミュニケーションモデルのシステム面での支援の必要性や,健康サポート業務の段階に応じて必要な情報に効率的にアクセスできる方法の検討など,システム構築に向けた複数の課題を明らかにすることができた。