- 著者
-
梶本 哲也
- 出版者
- 公益社団法人 日本化学会
- 雑誌
- 化学と教育 (ISSN:03862151)
- 巻号頁・発行日
- vol.67, no.11, pp.550-553, 2019-11-20 (Released:2020-11-01)
- 参考文献数
- 11
現在,抗生物質の普及によって人類は多くの感染症から身を守ることができている。病原性細菌を狙い撃ちにする「魔法の弾丸」が次々に開発され,私たちは,まさに「抗生物質の時代」に生きていると言える。抗生物質の代表格は,何と言っても20世紀中ごろから世紀を超えて今日まで広く使われているβ-ラクタム系抗生物質である。β-ラクタム系抗生物質はペニシリンの発見と製品化によって開拓された医薬品である。人類を細菌感染症の威嚇から解放したペニシリンの発見は,医薬品開発の中ではセレンディピティーとして取り扱われることが多いようである。しかし,ペニシリンが医薬品として開発される過程には,シードを発見した研究者の鋭い観察力と忍耐力ならびに医薬品開発に使命感をもった企業とその研究者たちの高い志が垣間見られる。今回は,ペニシリンの発見からノーベル賞受賞に至るまでの過程とその後の抗生物質開発に及ぼした影響について概説したい。