著者
荘司 隆一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.65, no.7, pp.316-317, 2017-07-20 (Released:2018-01-01)

昨年3月に,「高大接続システム改革会議」の最終報告が出された。その中で大学入学者選抜改革としていくつかの提言がなされ,「高等学校基礎学力テスト」および「大学入学希望者基礎学力テスト」(現在のセンター試験に代わるもの)の実施が示された。これは高大一体となった大規模な教育改革についての提言であり,今年度の化学教育フォーラムは,そこに焦点を当てて開催された。
著者
佐藤 一男
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.354-357, 2011

本稿は,日立市において小学生と中学生の理数学力向上のために企業OBたちが展開しているボランティア活動の報告である。NPO法人日立理科クラブが誕生するまでには多くの困難があったが,産官学が一体になってこれを進めてきた。日立市および教育委員会の真剣な対応と学校現場の理解,そして日立製作所の強い支援と在住する企業OBたちの豊富な人材があってこの計画が順調に立ち上がりつつあり,「モノづくりと実験」を基本とするこの教育支援は効果をあげつつある。科学創造立国・日本を堅持するためにも,知識と経験のある企業OBのさらなる活躍に期待したい。
著者
鈴木 誠
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.107-110, 2011
参考文献数
4

フィンランドで大学に進学する場合は,まず日本の大学入試センター試験に該当するフィンランド大学入学資格試験(Matriculation Examination)に合格しなければならない。その後一定期間の兵役を体験し,一定の学資を貯めた後各大学が行う個別試験を経て,希望する大学に入学する。大学の学費は無償であり,医・教育学部の人気は高い。試験科目は多岐に渡り,高等学校で履修すべき到達度を測定する卒業試験の意味合いも兼ねている。心理学や哲学など日本の大学入試センター試験には見られないものも多い。特に語学については3科目必修となる。これは,フィンランドが国家戦略として目指す多言語活用能力(plurilingualism)育成に基づくものである。試験時間は,基本的には1教科当たり6時間にも及び,受験者に考えさせる論述問題がほとんどである。これらのことは,フィンランドがどのような人材を育成しようとしているかを明確に示すと同時に,日本の大学入試に対して多くの知見を提供するものである。
著者
萩原 俊紀
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.510-513, 2011-10-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
6

クメン法は開発されて半世紀以上が経った今でもフェノールの工業的合成方法の主流となっている優れた反応である。高校の教科書にも必ず記載されているが,その反応機構についてはまったく触れられていない。それはこの反応がプロピレンとベンゼンの求電子置換反応,ラジカル連鎖機構によるクメンの空気酸化,アニオン転位を伴うクメンヒドロペルオキシドの酸分解などを含む,高校の有機化学の範囲をはるかに超えた複雑な機構で進行しているためである。本講座では有機化学の基本となる電子と結合の関係から始まって,クメン法の反応機構をできるだけ平易に解説する。
著者
石渡 明弘
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.400-403, 2013-08-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
15

水素(H)の同位体である重水素(^2H,D)を利用した様々な化学・生化学的応用が広がっている。重水素の発見より約90年の月日が経つ(そろそろ一世紀を迎えようとしている)が,その重水素について,発見の経緯を少し述べた後に,同位体効果を利用した研究,質量分析,核磁気共鳴分光分析での利用と,反応解析などへの重水素標識の応用研究について,生体関連分子の化学の観点から紹介する。
著者
稲垣 都士 池田 博隆
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.28-31, 2019-01-20 (Released:2020-01-01)
参考文献数
11

フロンティア軌道論は福井謙一博士らによって1952年に提案された反応理論である。化学反応はフロンティア軌道(HOMO,LUMO)におもに支配される。福井博士はさらに1964年に軌道の対称性が反応を支配することを発表した。フロンティア軌道理論は,正電荷と負電荷の静電引力を基礎に置く有機電子論から,分子の中の電子の波動性を表している軌道に基づく反応論へ転換する先駆である。もとは分子間の反応に対して提案された理論であるが,分子内の反応へも展開され,分子の安定性にも応用できる。フロンティア軌道論の発表からもう半世紀をはるかにこえ,高校や大学での化学教育に今以上に軌道を導入することは可能であり,その試みが期待される。
著者
牛田 智
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.64, no.8, pp.406-407, 2016-08-20 (Released:2017-02-01)
参考文献数
6

藍は,日本人にとって最も身近な天然染料であるが,日本だけでなく,世界各地で古くから用いられてきた。その青色の色素はインジゴと呼ばれるが,緑色をした藍植物に含まれる無色の成分から,酵素反応や酸化といった化学反応で生まれ,また,染色する場合は,酸化還元というプロセスが関与する。これらのことは,教材という観点から考えると,歴史,地理,生物,芸術・工芸,化学など,様々な方向からのアプローチが可能である。本稿では,藍に関するちょっと不可思議な秘密を解説する。
著者
菊池 聡
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.684-687, 2001-11-20 (Released:2017-07-11)

疑似科学とは, 現代科学で未知の対象を扱っているから「疑似」科学なのではない。その理由は, 主に実証的な科学に要求される考え方のいくつかが不十分であったり, 欠落していることにある。そして, この科学の思考法を含む領域横断的なクリティカルシンキングの態度と技術が科学教育の大きな目標となりうる。さらに疑似科学を考えるとき, その動機と理論, 確率論的科学と決定論的科学を分けて考える必要のあることも指摘した。最後に宏観異常現象による地震予知をとりあげ, 疑似科学と科学の問題を具体例で考察した。
著者
永田 和宏
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.82-83, 2016-02-20 (Released:2017-06-16)

我が国独特の砂鉄製錬法であるたたら製鉄で造った和鉄は,表面がFeOや黒錆び(Fe_3O_4)で覆われることで錆びはほとんど進行しない。和鉄中の過飽和酸素が加熱や湿気などを契機に分解し瞬時に緻密な膜で覆われる。たたら製鉄や大鍛冶の脱炭工程,小鍛冶の工程で,1,500℃以上の固液共存状態で酸素を吸収し,急冷凝固して酸素は過飽和に固溶する。
著者
小田 寛貴
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.66, no.8, pp.380-383, 2018-08-20 (Released:2019-08-01)
参考文献数
2

鎌倉時代以前の古写本の大部分は,掛軸などにするために頁毎・数行毎に切断され,現存するものは極めて少ない。しかし,切断された断簡としては,かなりの量が伝世している。これが古筆切である。ただし,古筆切には,後世に制作された偽物や写しも多く混在する。そのため,炭素14(14C)年代測定という放射化学的手法によって古筆切の真贋や書写年代を決定することは,失われてしまった古写本の一部分が復元されることを意味する。さらに,こうした古筆切を史料とすることで,新たな歴史学・古典文学・書跡史学の研究が可能となる。
著者
籔内 一博
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.28-31, 2017-01-20 (Released:2017-07-01)
参考文献数
3

光は均質な媒質中を進む限りは直進するが,反射,屈折,回折あるいは散乱などによりその進む向きを変える。また,複数の光が出会うと干渉によりその強度が変化する。これらの現象の多くは,光の波長の影響を受けるため,進む光が可視光線であれば色の発現に結びつく。本稿では,これら光の進み方に関する光の基本的性質と色の関わりについて見直したのち,我々が日常目にしている青空,白い雲,夕焼けあるいは虹といった,太陽光を源として空が見せる多彩な色についてその仕組みを解説する。
著者
村上 雅彦
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.136-141, 2017-03-20 (Released:2017-09-01)
参考文献数
5

高校化学でも学習する炎色反応は,現在の重要な微量元素分析法である原子分光分析法の始まりといえる。本講座では,原子と光の相互作用(発光・吸光・蛍光)を利用した各種原子分光分析法の原理とその発展の過程について,励起源(物質を原子化し励起するためのエネルギー源)や光源などの技術の進歩を通して概説する。
著者
倉橋 智成
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.59, no.11, pp.568-571, 2011-11-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
4

硫酸はあらゆる酸の中で多方面に使用され続けている化学物質の一つであり,その製造には長い歴史がある。硫酸の製造は当初,窒素化合物や硝酸塩を用いる硝酸法から始まったが,製品の濃度が低く不純物が多い事などから近年ではより高濃度,高品質で安価な硫酸が得られる触媒を用いる接触法が確立された。当時は白金触媒が用いられていたが白金が高価なため,現在ではバナジウム触媒が使用されている。現在では硝酸法は姿を消し接触法での製造に至っている。また公害問題がクローズアップされ多くのプラントでは,吸収塔一塔から二塔への二段接触式が採用され転化率(収率)が97%→99.8%まで向上している。当社での実例を交えながら代表的なプロセス技術を解説する。
著者
中原 勝儼
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.492-497, 1989-10-20 (Released:2017-07-13)

すべての分野がそうであるように, 化学でもその内容を伝えるのには必要な専門用語がある。現在我々が普通に使っている化学用語あるいは物質名は, いつのころから使われるようになったのであろうか。日本の現在の化学の出発点が, 江戸時代末期から明治初期にかけてのヨーロッパの化学の導入, 理解である以上, 当時の用語を現在と比べてみるのも興味あることといえよう。その間の変遷はいろいろあるにしても, 当時用いられていたものがそのまま現在まで残っているものもある。しかしその下地のなかった当時, はじめて訳語をきめなければならなかった先人たちの苦労はいかばかりであったろうか。
著者
吉田 晃
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.65, no.8, pp.384-387, 2017-08-20 (Released:2018-02-01)
参考文献数
5

ラヴォワジエの研究の出発点は1772年のリンと硫黄の燃焼実験であり,その際の質量変化に着目したことであった。2年後には,プリーストリから示唆された酸素気体を対象として定量実験を繰り返し,この酸素が質量変化をもたらす原因であることを突き止め,フロギストンではなく酸素と結びついていた熱素(カロリック)の遊離が燃焼の際の熱をもたらすことを明らかにした。