著者
松尾 淳一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.244-247, 2013-05-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
6

ある炭素-水素結合を炭素-重水素結合に置き換えた場合に,反応速度が遅くなることがある。その効果を速度論的同位体効果という。その置き換えた結合がその反応にて切断される場合は,一次同位体効果として知られている。また,重水素にて置き換えた結合が反応によって切断されない場合は二次同位体効果として知られ,その重水素の位置の違いから,α二次同位体効果およびβ二次同位体効果として分類されている。これらの速度論的同位体効果によって,反応のどの段階が一番おそい段階(律速段階)なのか知ることができ,さらに反応の遷移状態の構造に関しても情報を得ることができる。したがって,速度論的同位体効果を明らかにすることは,反応機構を調べる際の重要な方法の一つとなっている。
著者
田中 秀明
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.220-223, 2011-04-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
14

現代社会のエネルギー媒体の主役である化石燃料(石油,石炭,天然ガス)には限りがあり,現状の勢いで消費が続くと早晩逼迫・涸渇する。一方,次世代を担うエネルギー媒体として期待されている水素は,物質としては地球上に大量に存在し,燃焼生成物も水のみである。このため,エネルギー・環境問題の緩和にも繋がるものと期待されるが,太陽光,風力,水力,地熱等,再生可能エネルギーを利用した水電解などにより抽出(製造)していく必要がある。加えて,水素の大量供給には高効率で安全な輸送・貯蔵技術も必要とすることから,経済産業省やNEDOなどの下にこれまでに様々な研究開発が実施され,課題克服や安全性検証が図られてきた。それでもなお「水素は危険」という先入観のために,その大量貯蔵に違和感を覚える向きもある。このような中,水素貯蔵に対する危険性を科学的・客観的な規準に基づいて正しく把握し,適切な安全対策を立て,将来の利用・普及に繋げることは,科学及び教育に携わる者の責務である。本稿では,水素の高効率貯蔵媒体として約半世紀にわたって開発されてきた水素貯蔵材料を採り上げる。そして,その安全に関する数ある性状の中から発火・爆発危険性について,我々が実際に行った新規に開発された当該材料に対する危険性の検証例を示し,他の貯蔵材料との比較についても紹介する。
著者
山本 安宏
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.66, no.11, pp.520-523, 2018-11-20 (Released:2019-11-01)
参考文献数
5

日本の硫酸工業は明治初期の貨幣の金属洗浄用から始まり,化学肥料工業の台頭,合成繊維の量産化,無機化学製品の伸長による硫酸需要の増大に合わせて供給体制を確立してきた。当初の硫酸製造法は単体硫黄,硫化鉱を原料とした硝酸式(鉛室法)であったが,非鉄金属製錬ガス,石油精製の回収硫黄およびコークス炉ガス等へと原料が変化し,高濃度,高純度の硫酸を製造する接触式へ変遷してきた。現在,世界では2億7千万t/年以上の硫酸が製造され,今後さらに需給拡大の見通しである。本稿ではその興味深い硫酸工業について紹介する。
著者
八代 仁 及川 秀春
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.238-241, 2016-05-20 (Released:2016-12-27)
参考文献数
4

2015年に世界遺産のひとつに指定された日本初の洋式高炉が釜石の地に作られた(橋野高炉跡)ことからもわかるように,岩手は古くから鉄の産地であった。岩手に鋳造技術が伝えられたのは今から900年以上も前,藤原清衡の時代とされている。北上川は石巻に注ぎ,海運で上方に通じていた。江戸時代からは南部藩の庇護のもとで湯釜の名品が生まれてきた。ここでは伝統を受け継ぐ南部鉄器に息づく先人の知恵を表面化学の視点から紹介したい。そしてこれらの知恵は新しい製品開発にも受け継がれている。
著者
冨田 友貴 井上 正之
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.65, no.11, pp.584-587, 2017-11-20 (Released:2018-05-01)
参考文献数
15

アミノ酸やタンパク質に含まれる硫黄の検出法として,水酸化ナトリウムを加えて加熱した後,酢酸鉛(Ⅱ)水溶液を加えて硫化鉛(Ⅱ)の生成による黒色を観察する方法が知られている。しかしこの方法によって硫黄が検出されるアミノ酸(残基)にメチオニンが含まれるか否かに関する教科書の記述は曖昧である。今回我々は,高濃度の水酸化ナトリウム水溶液中,30分間加熱を行う条件で上記反応の適用範囲について調べた。また新たに,固相での熱分解によってメチオニンまでをカバーする簡易な検出法を開発した。
著者
渡辺 正
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.65, no.12, pp.616-619, 2017-12-20 (Released:2018-06-01)
参考文献数
4

中学・高校の理科教科書の電気化学関連箇所は,戦後70年以上も「非科学」から脱していない。その根源は,「異種電荷の引き合いが電気分解を起こす」という途方もない誤解だろう。また,複雑な現象あれこれを伴う「ボルタ電池」は,中学校理科の導入素材として適切ではなく,ダニエル電池だけ扱えばよい。
著者
後飯塚 由香里
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.65, no.7, pp.348-351, 2017-07-20 (Released:2018-01-01)
参考文献数
13
被引用文献数
1

“目視で確認ができる”“生徒の興味関心に応じていろいろな学校で使いやすい”という意味で,色素を教材にすることは有用である。筆者は色素を官能基の種類によって分類し,性質を理解して高校化学の授業に色素を使っている。こうした色素の利用により,「有機混合物の分離」「ペーパークロマトグラフィー」「界面活性剤の分類」「コロイドの電気泳動」「イオン交換樹脂」「酸化還元」「化学発光」の単元で教材化が可能である。
著者
下井 守
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.282-285, 2006
参考文献数
8

酸素は無色透明の分子であるが,液体状態では薄い青い色を示す。また酸素は偶数の電子を持っているにもかかわらず磁石に引き寄せられる常磁性という性質をもつ。この酸素の特異的な性質は,ルイスの電子対や原子価結合法では説明ができないが,分子軌道法と分子間の相互作用により説明される。
著者
吉田 邦夫
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.51, no.10, pp.624-627, 2003-10-20 (Released:2017-07-11)
参考文献数
6

加速器質量分析(AMS)法を用いると,ほんのわずかな量でも炭素14年代測定が出来る。その結果,考古遺物だけでなく,これまで年代測定が許されなかった美術工芸品についても測定が可能になり,思わぬ結果が得られることもある。美術品鑑定者を欺くことが出来ても,科学分析はその虚を暴くことになるかもしれない。逆に,鑑定眼のもろさを,白日の下にさらすこともある。奇々怪々の世界である。
著者
一國 雅巳
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.43, no.9, pp.558-561, 1995-09-20 (Released:2017-07-11)
参考文献数
3

粘土はなぜ固まるか。これは簡単にみえるが, 意外と難しい問題である。水で練った粘土を固めたものが日乾煉瓦である。この煉瓦は水にあうと崩れる弱い建築材料である。粘土にいろいろな物質を添加して乾燥し, これを水に浸して崩れる過程を観察することで, 添加剤の効果を調べる実験を提案した。この結果から粘土が固まる性質の謎を解くカギを探し出すことができる。粘土の固結はグローバルな土壌の環境問題とも直結している。この簡単な実験が地球環境を考える糸口となっている。
著者
鎌田 康昌
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.130-133, 2009-03-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
4

ホログラムの色彩は光の回折によるもので,化学的プロセスによる発光発色とは異なる。再生が白色光の場合,ホログラムの表面構造あるいは立体的(厚み方向の)構造,屈折率分布を加工することによって,各波長成分による回折角度の違いが生じ,色彩が生じる。つまり,顔料や染料を用いず,照明する光から独自の色彩を得ることができる。
著者
丑田 公規
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.228-231, 2017-05-20 (Released:2017-11-01)
参考文献数
13

大量発生し,厄介者とされているクラゲを有効活用する解決策は,繰り返し話題になっているが,実情はそれほど容易な問題ではない。生物としてのクラゲの習性と,それを取り巻く社会状況は曲解され,それはメディアの取り上げ方によって拡大している。著者は新規な糖タンパク質であるクニウムチンをクラゲ体内に発見した経験をもつが,今のところその抽出が有効対策になるとは考えていない。またクラゲだけでなくムチンという化学物質については,一般人のみならず専門家の間にも誤った情報や呼称が広がっている。そこで,一般の化学教育に携わっている方に正確な情報をていねいにお伝えするため本稿を執筆することにした。
著者
吉原 賢二
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.4-7, 2018-01-20 (Released:2019-01-01)
参考文献数
8

ニッポニウムは小川正孝が1908年に発見を報告した元素名である。一時世界的に評価されたが追試が成功せず,周期表から消え去り,幻の元素のように思われていた。しかし,その後1990年代から東北大学の後輩教授である吉原による現代化学的再検討によって,ニッポニウムの実体は75番元素レニウムと判明した。小川の生涯にわたる研究への熱き情熱,その最期の悲劇,吉原に注がれたセレンディピティー(幸運な偶然)などまことにドラマティックというほかない。化学史上も化学教育上も興味深いものである。
著者
阿部 文一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.57, no.12, pp.562-565, 2009-12-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
4

電気化学がイオンの存在や挙動を徐々に明らかにして行った。水溶液中ではイオンは水和しており,水溶液の電気伝導率と溶液中のイオンの移動に密接に関係している。中和反応の進み方と伝導率および酸塩基滴定などについて実際の測定を念頭に置いて解説する。
著者
寺沢 充夫
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.840-843, 2002-12-20 (Released:2017-07-11)

空気中ではマイナスイオンとプラスイオンが同時に存在している。生体の中でもマイナスイオンとプラスイオンが生体イオンとして存在し, これをイオンバランスと呼んでいる。これらのイオンの違いや発生量の違いが生体に及ぼす効果に影響を与えている。ラットをコントロールグループ(イオン環境にしない通常の状態)とマイナスイオン環境にしたグループ, プラスイオン環境にしたグループそれぞれ5匹ずつ3群に分け, イオン環境にさらす。コントロールを基準とした場合, プラスイオン環境では多量のピルビン酸が発生し, それを分解するために多量のチアミン(ビタミンの種類ではビタミンB_1と呼ばれる)が消費される。その時, 多量のチアミンが血液によって肝臓から中枢に運ばれる。その結果, 肝臓に含まれるチアミン濃度は低くなった。マイナスイオン環境では乳酸の発生を抑え, チアミンの消耗を少なくし, 生体に良い効果をもたらしていることが示唆された。
著者
平澤 佑啓 東原 和成
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.65, no.10, pp.524-525, 2017-10-20 (Released:2018-04-01)
参考文献数
3

匂いの感覚は,鼻腔内の嗅覚受容体を匂い物質が刺激することにより生じる。ヒトは約400種類の嗅覚受容体を持ち,それらを無数に存在する匂い物質が様々なパターンで活性化させるので,我々は膨大な種類の匂いを区別して感じることができる。また,嗅覚受容体には遺伝子のタイプが多数存在し,その差異が匂いの感受性の個人差を生み出していると近年明らかにされた。