著者
岩鼻 通明
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.93, no.5, pp.397-398, 2020-09-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
2
著者
松岡 由佳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.93, no.4, pp.249-275, 2020-07-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
174

英語圏の人文地理学では,1970年代からメンタルヘルスが研究テーマの一つとなってきた.本稿は,そうした研究の展開に注目し,研究の背景や論点,アプローチを整理するものである.戦後の欧米諸国における脱施設化に関心を寄せた地理学者たちは,近隣環境や公共サービス,福祉国家の再編の視点から,メンタルヘルスについての研究をスタートさせた.1990年代には,史資料や当事者の語りに依拠して,狂気の歴史や精神障がい者の「生きられた地理」を明らかにする研究が台頭した.それらの研究における精神障がい者のアイデンティティへの関心は,2000年前後になると,精神障がいというカテゴリーの内にある微細な差異を,感情や癒しの側面から検討する研究へと発展した.研究者の関心のシフトや,学際的な志向の強まりがみられる近年は,ジェンダーやエスニシティをはじめとする多様な差異との関連においてメンタルヘルスをとらえるアプローチが盛んとなりつつある.
著者
張 耀丹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.93, no.1, pp.1-16, 2020-01-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
28
被引用文献数
1

東京大都市圏における中国人ホワイトカラー層の住宅の購入動機や選好パターンを検討した.研究手法として東京大都市圏で自己居住用の住宅を購入した中国人22人にインタビュー調査を実施した.調査対象者の住宅購入動機として,賃貸住宅に比べたコストパフォーマンスの良さなどの経済的動機が重視されていたが,その場合でも,日本に長期間居住したいという意識が前提になっており,心理的な動機も存在していた.また,購入する住宅を決める際にも,自身が居住する際の満足度や長期間居住した場合に得られる資産的価値を重視していた.住宅を購入した地区の地理的な特徴として,就業地や商業施設への利便性が高い地域が好まれ,子どもの出生前に住宅を購入した人が多いこともあり,教育機関へのアクセスを重視する人は少なかった.加えて,購入地域の選定に際して中国人の集住地域にこだわることは少なく,購入地の分布は分散的であった.
著者
中澤 高志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.88, no.1, pp.49-70, 2015-01-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
32

本稿では,高度成長期の勝山産地において,「集団就職」が導入され終焉に至るまでの経緯を分析する.進学率の上昇や大都市との競合により,労働力不足に直面した勝山産地の機屋は,新規中卒女性の調達範囲を広域化させ,1960年代に入ると産炭地や縁辺地域から「集団就職者」を受け入れ始める.勝山産地の機屋は,自治体や職業安定所とも協力しながらさまざまな手段を講じ,「集団就職者」の確保に努めた.「集団就職者」の出身家族の家計は概して厳しく,それが移動のプッシュ要因であった.勝山産地の機屋が就職先として選択された背景としては,採用を通じて信頼関係が構築されていたことが重要である.数年すると出身地に帰還する人も多かったとはいえ,結婚を契機として勝山産地に定着した「集団就職者」もいたのである.高度成長期における勝山産地の新規学卒労働市場は,国,県,産地といった重層的な空間スケールにおける制度の下で,社会的に調整されていた.
著者
淺野 敏久 馬 欣然
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.90, no.4, pp.376-389, 2017-07-01 (Released:2022-03-02)
参考文献数
9

自然遺産を保全し,地域づくりに活かすためにジオパーク認定を受けようとする地域が増えている.ジオパークでは,地域住民の理解と協力を得らえることが重視され,住民参加は認定の要件の一つになっている.本稿では,山陰海岸ジオパークを事例として,ジオパークに対する住民の意識と行動を,ウェブアンケート調査とジオガイド等への聞取り調査等を基に明らかにした.当地では,ジオパークは住民によく知られている.ただし,住民の関心は,ジオパークが強調する大地の成り立ちと人々の暮らしの関わりより,観光客と同様に温泉と食に向いている.また,ジオパークによる地域活性化への期待はあまり高くなく,むしろ自然保護につながるものと期待されている.ガイドはジオパーク全域よりジオサイトへの強い愛着に基づく行動をしており,ジオパーク的な情報は説明の選択肢の一つと割り切っている例もあった.
著者
福井 一喜
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.88, no.6, pp.607-622, 2015-11-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
34
被引用文献数
1

本研究は宿泊施設の経営戦略に着目して,群馬県草津温泉の宿泊業におけるインターネット利用の動態を,各施設の誘客,予約受付,関係構築・維持の3段階におけるネット導入の状況分析から明らかにした.結果として,大規模施設や社会組織加盟率の高い施設で導入率が高く,予約受付段階では広く導入済みだが誘客と関係構築・維持段階での導入は限定的であり,導入状況に差異が見られることが分かった.それは,情報通信技術の普及と個人旅行化が進む中,多様な個人客需要に対応する新たな経営戦略を策定した施設がネット利用をその具現化手段として積極導入して差別化を図る一方,従来の経営戦略で存続できる施設や人材や資金に余裕がなく現状維持を志向する施設はネット利用の導入に消極的なままだからである.草津温泉では,宿泊施設がおのおのの経営戦略においてネット利用を選択的に導入する中で,宿泊施設の利用形態が分化しつつある.
著者
栗林 賢
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.90, no.2, pp.137-149, 2017-03-01 (Released:2022-03-02)
参考文献数
17

本研究では,JAの合併に伴う取扱量の増大を背景とした卸売市場の集約化がどのようにして展開しているのかを,JAつがる弘前によるリンゴ出荷を対象に明らかにした.その結果,卸売市場への出荷は,産地での袋詰めや希望価格の実現性の低さなど産地側の負担が大きいものの,JA内で在庫が発生した際などに大量出荷可能な大都市の市場への量的集中がみられた.その一方で,大量に出荷することのできない市場でも価格や等階級指定の緩さといった取引上の優位性がある市場や出荷量の増加要求のあった市場への出荷は増加傾向にある.しかし,同じ少量出荷している市場でも,取引に優位性のない市場への出荷は減少傾向にある.そのような市場と多量出荷可能な市場間での出荷するリンゴの等階級の重なりが,より一層少量出荷型市場からの撤退を促し,多量出荷可能な市場への集約化を進行させていることもわかった.
著者
両角 政彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.4, pp.354-376, 2013-07-01 (Released:2017-12-05)
参考文献数
40
被引用文献数
1

本稿では,ユリ切花産地によるブランド化の実態をとらえ,その効果と課題を明らかにし,花きのブランド化の取組みが産地・生産者にもたらす意味を考察した.ユリ切花ブランド「魚沼三山」の展開において,グローバルスケールでは輸入ユリ球根調達に関わる国際的連関が,ナショナルスケールでは高品質ユリ球根の生産委託による国内産地連関と出荷等級品ごとに市場を選択する国内市場連関が,ローカルスケールではユリ切花の生産と出荷における産地内連関がそれぞれ形成されてきた.本事例では,産地が独自に開発した品種ではなくても,地域連関にみられる流通業者を通じた既存品種の調達方法の革新,球根冷蔵管理技術の開発,切花の生産過程の改良,出荷・販売過程の組織化などによって,製品差別化が実現されている.これらの取組みは,他の産地・生産者が模倣困難であるとは必ずしもいえないが,一連に結びつくことで一定の参入障壁となり,高付加価値化を可能にしている.
著者
高波 紳太郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.92, no.3, pp.175-190, 2019-05-01 (Released:2022-09-28)
参考文献数
54

薩摩半島の川辺盆地周辺において,基盤地形に応じて階段状に堆積した阿多溶結凝灰岩に発達する遷急点群の平均後退速度を明らかにした.特に永里川における後退期間の大きく異なる2遷急点での結果から,最終氷期中の降水量減少が岩盤侵食速度を低下させたかどうかを考察した.現地露頭調査や掘削資料に基づく阿多火砕流堆積時の原地形の復元により,遷急点形成当初の位置を推定し,その現在までの後退距離および長期的な平均後退速度を求めた.短期的な後退速度の算出には人工の曲流短絡で生じた遷急点を用いた.結果,遷急点の平均後退速度は11万年間で2.0~2.6 cm/年,最近315年間では0.8~2.0cm/年と推定され,氷期を含む長期的な速度が温暖期に限られた短期的な速度をやや上回った.過去11万年間の薩摩半島では,気候変動に伴う河川流量,すなわち降水量の減少による岩盤侵食速度の極端な低下はなかったことが,地形学的に強く示唆された.
著者
宇根 義己 友澤 和夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.92, no.3, pp.153-174, 2019-05-01 (Released:2022-09-28)
参考文献数
42
被引用文献数
3

インド・デリー首都圏のムスリム居住地ジャミア・ナガルに展開する繊維・縫製産業を事例に,都市インフォーマル部門における産業集積の存立構造を明らかにした.調査対象の作業場における現場労働者,経営者は主に低所得州の農村地域出身であり,当該地域における地縁・血縁関係を基盤にして人材が当地へ供給されている.作業場は卸売・輸出業者との近接性を活かした高い接触頻度により,賃加工型の受注を獲得している.また,デリーの卸売・輸出業者によるサプライチェーンの一端を担うことが当集積の存立をもたらしている.現場労働者の生活環境は良好とはいえないが,出来高制を基本とした長時間労働のため,フォーマル部門の労働者の最低賃金以上の収入を得る者もある.また,現場労働者から作業場の経営者となる経路が確認された.現場労働者による起業を可能としているのは,多額の投資を必要としないことや労働力の確保が容易な点などであった.