著者
伊藤 慎悟
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.510-523, 2010-09-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
20
被引用文献数
1

本研究は仙台市を事例に,1960年代に開発された戸建住宅団地の年齢構成と高齢化の差異を明らかにし,その差異に影響を及ぼしている要素を導き出すことを目的とする.まず,1975年の5歳階級別人口比率において,第一,第二世代の偏りに団地間で差異がみられ,仙台駅からの距離といった団地属性との関連性が強いことが判明した.市域縁辺部にある住宅団地の多くは,第一,第二世代に偏った年齢構成をしているが,2005年に至って居住者の入れ替わりはあまりみられず,第一世代の加齢と第二世代の転出によって急激に高齢化している.これに対し,仙台駅から比較的近い位置にある住宅団地は,若年単身世帯の受け皿としての機能も有し,高齢化があまり進んでおらず,両者における差異が明瞭にみられた.
著者
鈴木 重雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.524-534, 2010-09-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
34
被引用文献数
4 6

日本各地で人間による樹林地の利用圧の低下や竹林管理の粗放化に起因する竹林の拡大が報告されている.本研究では,広島県竹原市小吹集落において,最近40年間の,たけのこの生産状況の変化と竹林化の生じた土地利用に着目し,竹林の拡大した要因を検討した.その結果,竹林面積は1962年から2000年の間に2.6倍に拡大していた.たけのこ生産が盛んに行われていた1986年以前だけでなく,国内産たけのこの需要が低迷し,高齢化等によりたけのこ生産が衰退した1986年以降の期間も,竹林の拡大は継続し,特に畑と樹園地で急激に竹林化が生じていた.1962年から2000年の竹林拡大のうち36%が1962年の農地で生じており,耕作放棄や竹林への転換がなければ起こらなかったと推測できた.竹林は所有者による植栽終了後も竹林管理の粗放化により拡大していた.加えて,竹林に隣接する農地の耕作放棄により拡大しやすい空間が生じたことも,急激な拡大に影響していることが明らかとなった.
著者
西山 弘泰
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.384-401, 2010-07-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
34
被引用文献数
2 2

本稿は,1960年代・1970年代にスプロールを伴って形成された小規模開発住宅地に着目し,住民の転出入から,これらの住宅地が郊外に立地する住宅地の中でどのような位置づけにあったのか,どのような役割を果たしていたのかを,戦後日本の住宅事情や社会・経済情勢から明らかにした.対象地域の埼玉県富士見市関沢地区は,1970年前後を中心とした中小ディベロッパーによる小規模開発・狭小敷地の建売住宅開発が連担し形成された住宅地である.関沢地区では,開発が始まる1960年代中頃から1980年代前半まで20代・30代を中心とする若年ファミリーが多く居住し,活発な転出入がみられた.居住者の多くは東京区部から転入し,数年で比較的近隣のより敷地規模の広い戸建住宅へ転出していった.しかし1980年代中頃から,関沢地区の戸建住宅では建替えが進み,活発な転出入がみられなくなり滞留傾向が強まる.このことから1960年代後半から1980年代前半における関沢地区の狭小な戸建住宅は若年層の仮の住まいとしてその役割を果たしていたと考えられる.そして関沢地区の戸建住宅において居住者の活発な入替えがあった背景は,第1にバブル崩壊までの持続的な地価や賃金の上昇,第2に家族向け賃貸住宅の不足,そして第3に分譲マンションが一般化していなかったことがあげられる.このことから,当地域にみられた狭小な戸建住宅は,当時の社会・経済情勢が投影された時代の産物であったといえる.
著者
川口 純 日下 博幸 木村 富士男
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.375-383, 2010-07-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2

ヤマセは,夏季の北日本の太平洋側に吹き付ける冷たく湿った東寄りの風である.ヤマセ卓越時には,東北地方太平洋側で東~南東の風が吹く.しかしながら,北上盆地では南風が吹く.本研究では,この南風の成因を明らかにするために,データ解析と領域気象モデルWRFを用いた数値実験を行った.結果を以下に示す.(1)WRFを用いた数値実験の結果,実地形を用いた基準実験と,北上高地の地形高度を90%に減少させた実験では北上盆地で南風が吹くが,北上高地の地形高度を80%,70%に減少させた実験では,北上盆地では南風が吹かずに東風が卓越する.(2)この結果は,フルード数やロスビー数を使った力学的解析の結果と一致する.(3)ヤマセ卓越時の北上盆地の南風は,地形障壁の効果と重力流の特徴をよく表している.
著者
秋本 祐子 日下 博幸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.324-340, 2010-05-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
25
被引用文献数
6 8

領域気象モデルWRFの入力データ(大気・土地利用・海面水温・地形),および地表面パラメータ(粗度・アルベド)の変化に対する感度実験を行い,それらが地上気温の再現精度に与える影響を定量的に比較した.結果は以下の通りである.デフォルトの設定による計算では,日最高気温・日最低気温がともに関東平野全域で過小評価される.大気の入力データとして,デフォルトのデータの代わりに気象庁のメソ客観解析データを用いると,前述した地上気温の過小評価が改善される.土地利用データとして,デフォルトのデータの代わりに国土数値情報の土地利用データを使用すると,熊谷を含む郊外の中小都市の存在が識別できるようになる.その結果,関東平野の北西部で気温が上昇し,地上気温の過小評価が改善される.海面水温データ・地形データの変更,および地表面パラメータの変更は,地上気温の計算結果に大きな影響を与えないことが分かった.
著者
谷岡 能史
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.44-59, 2010-01-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
30
被引用文献数
2 2

7~10世紀の暖候期(5~10月)における気候について,六国史と『日本紀略』を対象史料として検討した.長雨や干ばつを中心に集計した結果,干ばつは7世紀末~8世紀,長雨は9世紀の特に後半に多く記載されていた.理化学的な気温復元結果から,前者は温暖化の時代であり,7月における干ばつの増加と関連があるとみられる.後者のうち,879~887年は7月に長雨が多く,梅雨前線の北上が遅かったことが示唆される.これに加え,平安遷都という都城の立地条件の変化が史料編者の意識を変化させた可能性もある.また,理化学的データではとらえきれないスケールの小さい変動も記載の変化に関わっていたと考えられる.
著者
上杉 昌也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.6, pp.618-629, 2009-11-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
25
被引用文献数
2 3

本稿では,現在の市街地の原型が形成された高度経済成長期の大阪東北部に注目し,セル・オートマトン(CA)を用いて市街地の面的拡大過程が適切に説明できるかを検証するとともに,その視点から当該地域の市街地拡大の特徴について考察した.CAシミュレーションによって,既成市街地を核とした拡大の過程や膨張した市街地どうしが連坦しさらに大きなかたまりになっていく過程から,局所的な相互作用の集積がマクロなスプロール現象を導いたことが確認された.一方でモデルの限界も見られ,東部丘陵地域および門真市南部などの飛地的な大規模集合住宅については現実に近いパターンを再現できなかった.以上のことから,現在の大阪東北部の市街地は,周囲の市街地とは連坦しない大規模集合住宅地に先導された市街地拡大過程と,既成市街地を基盤にして小規模な土地利用転換が累積した市街地拡大過程によって特徴付けられることが示された.
著者
宇根 義己
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.6, pp.548-570, 2009-11-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
43
被引用文献数
5 4

タイで最も多くの日系自動車部品企業が立地するアマタナコン工業団地を取り上げ,企業集積のプロセスとリンケージの特性を明らかにした.まず,当団地の立地戦略において,バンコク都心部から通勤可能である上,政府機関の地域別税制恩典制度においてバンコク大都市圏よりも厚い恩典が享受できる点が企業に評価された.当団地には量産型車種を生産する自動車工場が立地していない.だが,1990年代以降の自動車工業地域の拡大に伴い,当団地がその中央部に位置するようになり,物流コストの低減を重視する部品企業の立地が促進した.さらにアジア通貨危機後は,団地内のエンジン工場の生産拡大に対応してエンジン部品企業が立地した.また,日本人・商社の関与による大規模開発が当団地に安心感と知名度をもたらし,農村地域からの労働力と日系企業を引きつけた.以上のプロセスにより当団地に企業集積が形成された.国内のリンケージは,複数の自動車企業や垂直的・水平的関係にある企業との間に形成されている.リンケージを空間的にみると,日系企業が集中する特定の工業団地間を中心としており,団地内リンケージは限定的である.
著者
與倉 豊
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.6, pp.521-547, 2009-11-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
39
被引用文献数
4 4

本稿では,産(企業)・学(大学,高等専門学校)・公(公設試験研究機関など)の連携の事例として,経済産業省が実施する「地域新生コンソーシアム研究開発事業」を取り上げ,共同研究開発ネットワークの構造とイノベーションに関する計量的な分析を行った.研究テーマの共有に基づく組織間ネットワーク構造の可視化と指標化を行った結果,次のような知見を得た.まず,地域ブロックごとにネットワーク構造が,共同研究開発先を多く有するコアが複数存在する「分散型」と,コアが限られている「集中型」とに分かれることを確認した.また,共同研究に参加する組織の中心性の高さが,事業化の達成と密接に関わることを明らかにした.さらに,共同研究開発の空間的拡がりの違いを,研究分野別・組織属性別に検討した結果,「ものづくり型」の研究分野ではローカルなアクターが指向されているのに対して,「サイエンス型」の研究分野では,より広域的なネットワークが形成されていること,大学や高等専門学校が遠距離との共同研究開発において中心的役割を担っていることが明らかとなった.
著者
藤本 潔
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.5, pp.465-490, 2009-09-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
88
被引用文献数
1

氷河性アイソスタシーにより沈降傾向にある北海南部大陸沿岸の海面変化研究史をまとめるとともに,地質層序や地形発達との関係も考慮し完新世中期以降の海水準微変動について考察した.オランダ西部から北西ドイツに共通する現象として,5200~4500 cal BPの海面上昇停滞または海面低下と,4500~4100 cal BPの上昇の加速が認められた.また2350~1900 cal BPの塩性湿地の一時的な離水現象から,この間の海面低下とその後の再上昇が推定された.北西ドイツで推定されている3300~2900 cal BPの急激な海面低下はオランダでは認められない.オランダの海面変化曲線は圧密の影響を排除するため,基底泥炭基部から得られた14C年代値に基づく地下水位変動曲線から間接的に推定されたものである.この手法では海面低下の検出は難しく,見かけ上海面上昇速度の低下または停滞と認識される可能性がある.
著者
番匠谷 省吾
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.212-226, 2009-05-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
25
被引用文献数
1

本稿は,伐期を迎えた国産材産地における製材業に焦点を当て,原木供給,製材工場における木材の生産,流通という一連の過程の分析を通じて,製材業の生産構造について検討した.事例として取り上げたのは日本を代表する木材産地の一つである宮崎県都城市である.都城市の製材業に影響を与えている主な地域的要因は①他の国産材産地に比べてスギの伐期が早く,豊富な資源が存在した点,②行政の積極的な取組みにより流域林業,製材業が整備された点,③国内の乾燥材市場の成熟にいち早く対応し,市場での地位を築くことができた点,の3点である.このような環境下において,都城市の大規模業者は素材消費量,乾燥材生産量を増加させ,積極的な設備投資により効率化,無人化を進め,低コスト路線にシフトしつつある.一方で,中規模業者は原木消費量では維持,減少傾向にあり,乾燥材は生産しているものの,効率化,無人化の段階には達しておらず,低コスト路線にはシフトしていない.また,経営基盤が脆弱なため,安定した売上が見込める製品市場への出荷や,複数の製材工場による乾燥機の共同所有などの生残り戦略がみられる.
著者
杉浦 真一郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.188-211, 2009-05-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
28
被引用文献数
5 3

介護保険に関して,近年の市町村合併は,旧自治体ごとの負担(保険料)を均一化する一方で受益(サービス給付)を必ずしも平準化できない点で地域的公正の観点から問題を生じさせている.本稿は,旧自治体別の介護保険について,新自治体となる合併地域全体との間の量的・質的差異を全国スケールで分析した.主な結果は次の通りである.①新自治体とのサービス給付水準の差異が顕著な旧自治体を抱える新自治体は概して非都市的な地域特性を多く含み,高齢者人口規模などからみた首位都市としての地位が相対的に高い旧自治体による編入合併が多い.②合併によって新自治体との間で著しい給付水準の差異を有する旧自治体は全国的に分布するが,特に県境地帯の山間部や離島など周辺性を有する地域に多い.③それらの旧自治体は合併前の数年間をみても事業特性に大きな変化がなく,合併後も受益と負担の不均衡による地域的公正の問題が新自治体内で存続する可能性が示唆される.
著者
田中 雅大
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.88, no.5, pp.473-497, 2015

<p>本研究は,視覚障害者を中心に設立されたNPO団体によるWebを用いた地図作製活動を事例にして,地理空間情報を活用した視覚障害者の外出を「可能にする空間」の創出方法を明らかにし,依存先の集中と分散という視点から地理空間情報技術による外出支援の可能性と課題について考察した.ICTの発達によって地理空間情報を可視化する動きが強まる中,この団体は「ことばの地図」というテキスト形式の地図を作製している.それは,触覚情報を中心に伝えるとともに,漠然とした空間の広がりを強調して利用者の探索的行動を喚起することで,依存先の分散化を促し,視覚障害者の外出を「可能にする空間」を創出している.ただし,その内容は道路の管轄にも左右されている.そのため,技術自体の機能性のみが強調される技術決定論的な外出支援策ではなく,地理空間情報技術が関与する物質的空間の設計方法も同時に考慮できる仕組みが必要である.</p>
著者
野上 道男
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.6, pp.427-449, 2021-11-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
29
被引用文献数
3

伊能忠敬は間縄で測った測線距離を方位によって南北成分と東西成分に分解し,成分ごとに加算して,折れ線となる導線の節点の座標値を次々に求めた.座標値は大図縮尺(1/36,000)の値が用いられ,緯度差1度=28.2里は101.52寸となる.星測点では導線測量による南北座標値は星測緯度の座標値で補正された.補正率(補正量/南北距離)によって,星測点付近の導線の南北・東西位置も滑らかになるように補正された.このようにして得られた座標値をそのまま正距直交座標系の紙面にプロットして大図の導線が描かれた.中図(1/216,000)では6で除した座標値を得て,同じように正距直交座標系の平面にプロットされた.