著者
戸所 隆
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.92, no.3, pp.135-152, 2019-05-01 (Released:2022-09-28)
参考文献数
38
被引用文献数
2

知識情報社会の今日,工業社会で世界最先端にあった日本は,東京と他地域との格差拡大と相対的国力低下問題を抱える.情報革命を牽引するコンピュータシステムは水平ネットワークの横型社会を指向するが,日本の地域社会システムや意識構造は基本的に中央集権型政治行政に代表される垂直ネットワークの縦型社会で,その齟齬が成長を妨げている.この是正には首都機能移転による水平ネットワーク型国土構造への転換と日本人の意識変革が求められる.地理学は時代の転換期に日本を創る基盤として大きな役割を果たしてきた.過去・現在のみならず未来に向かっても文理融合,俯瞰的視点から社会に地理学の研究成果を発信することと地理教育の振興が重要となる.しかし,国民の地理的認識力・地理教育基盤が弱体化している.そのため総合的体系的な地理学研究・教育の場として,地理学部創設が多くの大学に必要である.
著者
谷 謙二 斎藤 敦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.92, no.1, pp.1-22, 2019-01-01 (Released:2022-09-28)
参考文献数
39
被引用文献数
7

2018年3月に公示され,2022年から実施される新高等学校学習指導要領では,「目標」と「内容」に地理情報システム(GIS)の利用を掲げた新科目「地理総合」が必履修科目とされた.本研究では全国の高等学校に対してアンケート調査を行ってGIS利用の現状と課題を明らかにし,「地理総合」の実施に向けて必要な対応を検討した.調査の結果,高校でのGIS利用率は23.9%であった.GISを利用している教員は,地理を専門とし,大学でGISを実習形式で学ぶか,GIS研修を経験し,情報機器の整備された学校に勤務する傾向がみられた.GIS利用者は無償のGISソフトやサービスを利用し,WebGISへの期待が大きい.GIS利用の課題として情報機器の整備が第一に挙げられ,普通教室での投影機器とインターネット接続の普及が急務である.その上でGISを利用できる教員を研修等により増やす必要がある.GIS研修に際しては,教員の意欲や技術を考慮し,WebGISの閲覧・操作を中心とした簡便な内容が求められる.
著者
澤田 康徳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.91, no.6, pp.487-503, 2018 (Released:2022-09-28)
参考文献数
33

本研究では,日本有数の暑熱地域である熊谷市の小・中学校において,アンケート調査により養護教諭の職務上の暑熱に対する関心の契機と認識を明らかにした.関心の契機の得点(5段階)にクラスター解析を施した結果,各契機群中の上位得点の割合が,市~国の政策で大きい政策契機群,熊谷市で高温を記録した事実で大きい事実契機群,市内での異動で大きい経験契機群に類型化された.情報は,政策契機群では国や市の情報を多用し,事実契機群では気象庁などの公開情報を,経験契機群では身近な情報を,それぞれ多用している.暑熱の認識地点は,政策契機群で市の情報と対応する郊外に多い.事実契機群で推測により都心,経験契機群で実際の訪問や異動により都心および郊外北が,それぞれ多く,契機群ごとに空間認識や認識理由が異なる.近年,地域での気候対応が求められ,養護教諭の情報活用や気候認識を踏まえた養成や研修の必要性を本研究結果は示している.
著者
朝倉 槙人
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.91, no.6, pp.437-461, 2018 (Released:2022-09-28)
参考文献数
44

農村空間の商品化による地域活性化論が地理学や周辺諸分野で注目されている.既往研究の多くがルーラリティを観光資源とみなし,その商品化の過程や持続可能性を検討してきたのに対し,本稿では群馬県みなかみ町たくみの里におけるルーラリティの特質に留意して,ルーラリティの構築がホストの実践や商品の構築に果たす意味を,ホストの立場に即して検討した.「真正」なルーラリティを担保する集合的記憶のスケールは重層的であり,「真正」なルーラリティの構築が重視されるたくみの里においては,多様な集合的記憶を根拠とした多様なたくみの里像が地域にとって「真正」なものとなる.加えて,ルーラリティの存立に資するホストの実践が,地域の存立に資する実践とみなされることで,設立期に想定された「真正」なルーラリティに反するたくみの里像でさえ,当地にとって「真正」なものとなる.ルーラリティの構築をめぐるホストの実践の諸相をとらえなければ,農村空間の商品化という現象をとらえることはできない.
著者
大谷 侑也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.91, no.3, pp.211-228, 2018-05-01 (Released:2022-09-28)
参考文献数
32
被引用文献数
2

本研究は東アフリカ中央部に位置するケニア山(5,199m)の氷河の減少が周辺域の水環境・水資源にどのような影響を与えているのかを,実地観測,同位体比分析,年代測定,聞取り調査等から明らかにすることを目的とした.研究対象地域山麓部(約2,000m)では,降水量が概して少ないため,農業用水や生活用水をケニア山由来の河川水,湧水に依存している現状がある.調査と分析の結果,山麓住民が利用する河川水の涵養標高の平均は4,650m,湧水は平均4,718mとなり,氷河地帯の融解水が麓の水資源に多く寄与していることが明らかになった.また年代測定の結果,山麓湧水は涵養時から約40~60年の時間をかけて湧出していることがわかった.ケニア山の氷河は2020~2030年代には消滅することが予想されており,今回の結果から将来的な氷河の消滅は山麓の水資源に少なからず影響を与える可能性が示唆された.