著者
ナスルツラフ ニザール 立本 英機 三沢 彰
出版者
公益社団法人 大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.157-168, 1995-05-10 (Released:2011-11-08)
参考文献数
21
被引用文献数
1

自動車走行に伴って発生する粉塵が道路構造の違いや沿道植栽の有無によってどのような挙動を示すかを明らかにするために, 常磐自動車道および国道16号線に接した半地下構造, トンネル付近, 平坦構造, 盛土構造, 堀割構造, 高架構造および切土構造を選んで, それらの場所の土壌中重金属含有量の変化を調べた。その結果, 次のことが明かになった。1) 全体的な傾向として, 沿道土壌中の重金属含有量の変化は, 道路からの距離が離れるにしたがって金属含有量の減少がみられた。道路端又は遮音壁から7m以上および16m以下でみると, Zn, Pb, Cuおよび酸可溶性Feの含有量はトンネル付近, 半地下, 堀割, 高架, 盛土および切土構造の場合よりも平坦構造の場合の方が高い値を示した。酸可溶性Ca含有量は盛土構造で, Mn含有量は切土構造で最も高い値を示した。2) 沿道植栽の効果については, 樹林地中のPb含有量は無林地中のそれより多かった。また, Znおよび酸可溶性Ca含有量は, 無林地の方が多かった。酸可溶性CaおよびZnの道路からの距離による含有量の変化をみると, 樹林地の方が急激に減少した。特に酸可溶性Caは道路から3mまではその傾向が著しかった。3) Zn, Pbおよび酸可溶性Caは自動車走行により影響を受ける可能性がある。一方, Cu, Mnおよび酸可溶性Feは変化が少なく, むしろ, 地域に固有な土壌特性を反映しているといえる。4) 道路構造の違い, 道路の向き, 樹林の有無および風向等によって, 自動車走行に伴う重金属の拡散および沈着の度合が大きく異なり, 更に基礎データの積み重ねが必要であると思われる。
著者
森 淳子 宇都宮 彬 鵜野 伊津志 若松 伸司 大原 利眞
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.73-89, 1997-03-10
被引用文献数
14

1990年から1992年, 九州北部の2地点(対馬と福岡県小郡)においてエアロゾル観測を実施した。大気中での寿命が長く広域汚染の原因と考えられる硫酸粒子(サルフェート)については両地点において一致した挙動がみられた。一方, 硝酸粒子(ナイトレート)とアンモニア粒子は観測地点周辺の影響を受け, 内陸に位置する小郡では, 離島の観測地点である対馬に比べ両イオンの濃度が高かった。1991年6月と1992年2月に両地点でS0_4^<2->を中心に高濃度現象がみられた。1992年2月の観測データのイオンバランスの解析から, 対馬では酸性のNH_4HS0_4粒子の存在が示された。この2つのエピソードを中心に, 観測データとトラジェクトリー解析により輸送過程の解析を行った。1991年6月は典型的な梅雨期の気象条件であった。九州北部地域が梅雨前線の南部に位置する場合には太平洋高気圧下で低濃度, 北部に位置する場合には高濃度となった。これは, 大陸・朝鮮半島の大発生源から排出された汚染物質が前線の北部に滞留・変質しつつ前線付近に北西の気流によってもたらされたことが一因と考えられた。これらの結果は, 梅雨期においても大陸起源の高濃度の汚染物質の長距離輸送が生じることを示している。一方, 1992年2月に観測されたサルフェートなどの高濃度現象は, 西高東低の気圧配置下において北西季節風によって大陸からもたらされたと考えられる。低気圧は北緯23〜30。付近の日本の南岸を次々と通過し, その後に中国大陸東岸付近に高気圧が張り出し西高東低の気圧配置が出現している。この条件下で吹き出した北西風により大陸からの高濃度汚染物質が九州北部に輸送されたと考えられ, 冬型の気象条件下での高低気圧の通過が長距離輸送の要因であることが示された。
著者
横田 久司 上野 広行 石井 康一郎 内田 悠太 秋山 薫
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.231-239, 2012

ガソリンを給油する際にその一部が蒸発し、大気へ排出される「給油ロス」がある。SHEDを用いて、給油ロスに含まれるVOC成分を測定し、合計及び131種の成分別排出係数を算定するとともに、給油所からの給油ロスによるVOC排出量を推計した。2009年度における東京都内の給油ロスによる排出量は約1万トンと見込まれ、2005年度に比べて給油ロスの都内合計のVOC排出量に対する割合は増加していた。給油ロスによる損失額は、東京都で約19億円、全国では約162億円と見積もられた。VOC成分には、大気中VOC測定用の標準ガスに含まれない"未定量成分"が存在し、これらの成分にはアルケン類が多いため、MIRを考慮した未定量成分のオゾン生成への寄与割合は大きく増加した。以上のことから、VOC対策を効果的に推進していくためには、VOC成分の個別の排出量を的確に把握することが不可欠であることが示唆された。
著者
島 正之
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.67-75, 2015

わが国では硫黄酸化物による大気汚染は改善されたが、自動車交通量の増加に伴い、二酸化窒素や浮遊粒子状物質による大気汚染が問題となり、特に交通量の多い大都市部の幹線道路沿道部における大気汚染の住民の健康への影響が憂慮されている。千葉県で行った疫学研究では、学童の喘息症状の有症率および発症率は幹線道路沿道部において高かった。アレルギー素因等の関連要因を調整しても沿道部における喘息の発症率は統計学的に有意に高く,大気汚染が学童の喘息症状の発症に関与することが示唆された。その後、環境省が実施した大規模な疫学調査(そらプロジェクト)の学童調査では、自動車排出ガスの指標として推計された元素状炭素(EC)の個人曝露量と喘息発症との有意な関連性が認められた。近年注目されている微小粒子状物質(PM<sub>2.5</sub>)の健康影響については、比較的低濃度であっても短期的曝露により喘息児の肺機能の低下や喘鳴症状の出現との関連が認められた。喘息による救急受診は大気中オゾン濃度との関連が認められたが、PM<sub>2.5</sub>との関連は必ずしも明確ではなかった。今後はPM<sub>2.5</sub>の成分や粒径分布、さらには発生源と健康影響の関連を明らかにすることが望まれる。大気汚染に関する疫学研究には健康影響評価だけでなく、精緻な曝露評価が必要である。今後は国内外で様々な分野の研究者が協力して、大気汚染の健康影響を解明するための共同研究が活発に行われることを期待したい。
著者
横田 久司 舟島 正直 田原 茂樹 佐野 藤治 坂本 和彦
出版者
公益社団法人 大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.190-204, 2003-05-10 (Released:2011-11-08)
参考文献数
13
被引用文献数
1 3

自動車排出ガスによる大気汚染は, 幹線道路周辺などにおいて未だに深刻である。本研究では, 自動車排出ガスによる大気汚染を低減するため, アイドリング時の排出特性および停車中にエンジンを停止 (アイドリング・ストップ) した場合の排出ガスの低減効果について調査を行った。ガソリン車7台およびディーゼル車13台について, シャシーダイナモメータを用いて, 東京都実走行パターンおよびアイドリング・モードによる排出ガス測定を行った。その結果は, 以下の通りである。1. 排出ガスの排出率 (mg/s) および燃料消費率 (mL/s) を算出し, 実走行パターンとアイドリング・モード間での比較を行った。その結果, ガソリン車では, アイドリング時の燃料消費率は実走行時の47%に相当した。ディーゼル車では, アイドリング時のNOxは実走行時の30%, 同じく燃料消費率は28%に相当した。アイドリング時の排出率等は, 実走行時に比較して無視できないレベルにあることが確認された。2. エンジンが再始動するときに排出ガスの量は僅かに増加するが, 数秒から数分以上のエンジン停止により, ディーゼル車ではNOxおよび燃料消費量が低減し, ガソリン車では燃料消費量が低減することが確認された。三元触媒装着のガソリン車ではアイドリング時のNOx濃度は非常に低く, エンジン停止の効果は認められなかった。3. これらの結果を東京都内で使用されている小型貨物車の運行状況に適用したところ, アイドリング・モードによる排出ガス寄与率は, NOx3.5%, CO23.1%に達することが見積もられた。これから, 未把握の排出源として駐車中のアイドリングの実態調査が必要であることが示唆された。
著者
林 良茂 川西 琢也 清水 宣明 藤原 保彦 中根 隆
出版者
公益社団法人 大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.75-87, 1996 (Released:2011-11-08)
参考文献数
24
被引用文献数
1

NO2-NO-N2-水溶液系半回分式吸収実験を1.5×102<PNO2<6.2×102Pa, 0.4<PNO<5.1Paの条件下で行い, 水溶液中の [NO2-],[NO3-] の経時変化を調べた。暴露時間の経過に伴う吸収速度の変化から, 吸収速度を支配する反応式を推定し, 反応機構の移り変わりを調べた。その結果, 反応は以下の機構で進行することが明らかとなった。N2O4 (g) (2NO2 (g)) +H2O (1) =2H++NO2-+NO3-NO (g) +NO2 (g) (N2O3 (g)) +H2O (1) =2H++2NO2-↓3/2N2O4 (g) (3NO2 (g)) +H2O (1) =2H++2NO3-+NO (g)NO2-+NO2 (g) =NO3-+NO (g)拡散支配領域でのデータとこの領域で適用できるDanckwertsの提示した速度式から液相反応 [A4/1], N2O4 (a) (2NO2 (a)) +H2O (1) =2H++NO2-+NO3-, の反応速度定数kA4/1を求めた。そして吸収液のpHの影響を調べた結果, kA4/1=1.85 [H+] -0.20の関係を得た。この関係式は, pH=5~13の水溶液中にNO2 (a), N2O4 (a) が共存する条件下において, 反応速度定数kA4/1を十分に表現している。
著者
大原 利眞 若松 伸司 鵜野 伊津志 安藤 保 泉川 碩雄 神成 陽容 外岡 豊
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.6-28, 1997-01-10
被引用文献数
14

局地気象数値モデル(メソスケール気象モデル)と光化学反応を含む大気汚染物質の輸送モデル(光化学グリッドモデル)を組み合わせて, 夏季における光化学オキシダント高濃度現象の3次元数値シミュレーションモデルを構築し, 関東地域に適用して検証した。構築したシミュレーションモデルの特徴は, 4次元データ同化手法を用いた局地気象数値モデルと詳細な光化学反応を含む汚染質の輸送モデルを組み合わせた3次元モデルであること, 最新の光化学反応モデルと乾性沈着モデルを使用していること, 生物起源炭化水素の影響を考慮していること, 推計精度が比較的高い発生源データを使用していること等である。夏季の光化学オキシダント高濃度期間として, 立体的な特別観測が実施された1981年7月16日4時から42時間を対象に, 本モデルを用いてシミュレーション計算した。その結果, 光化学オキシダント及びNO_X, NO_2濃度の地域分布や時間変動パターン等について良好な現況再現性が得られた。また, 米国EPAによって示されているモデルの目標水準と比較した結果, その水準を上回っていた。更に, 航空機観測によって得られた上空濃度分布も定性的には再現することができた。
著者
大原 利眞 鵜野 伊津志 黒川 純一 早崎 将光 清水 厚
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.198-208, 2008-07-10
参考文献数
24
被引用文献数
22

2007年5月8,9日に発生した広域的な高濃度オゾン(O_3)エピソードの特徴と発生原因について,日本全国の大気汚染測定データと東アジアスケール化学輸送モデルを用いて解析した。全国の測定局で観測されたO_3濃度は,5月8日の朝9時ごろに九州北部で高濃度となり始め,15時には壱岐や五島といった離島を含む九州北部や中国地方西部において120ppbvを超える高濃度となった。高濃度は夜になると低下したが,21時においても西日本の一部の測定局では120ppbvを超える状態が持続した。翌日5月9日9時の濃度レベルは前日よりも全国的に高く,15時になるとO_3の高濃度地域は,北海道や東北北部を除く日本全域に拡大し,関東,中京,関西などの大都市周辺地域や,富山県や新潟県などの北陸地域や瀬戸内地域の測定局において120ppvb以上を観測した。化学輸送モデルは5月7〜10日に観測された地上O_3濃度の時間変動をほぼ再現するが,ピーク濃度レベルを過少評価する。この傾向は,中国沿岸域北部・中部の排出量を増加するに従って改善される。モデルで計算された5月7〜9日の地上付近のO_3濃度分布によると,空間スケールが500kmを越える80ppbv以上の高濃度O_3を含む気塊が,東シナ海上の移動性高気圧の北側の強い西風によって,中国北部沿岸から日本列島に輸送されたことを示す。5月8,9日に日本で観測された高濃度O_3には,中国や韓国で排出されたO_3前駆物質によって生成された光化学O_3に起因する越境大気汚染の影響が大きい。80ppbv以上の高濃度O_3に対する中国寄与率の期間平均値は,青森県以北を除く日本全国で25%以上であり,九州地域では40〜45%に達すると見積もられた。しかし,本研究で使用したモデルは都市大気汚染を充分に表現していないため,大都市域周辺等では越境汚染の寄与率が異なる可能性がある。また,モデル計算結果ならびに地上大気汚染測定局とライダーの観測結果から,O_3とともにSO_2や人為起源エアロゾルも越境汚染していたこと,これらの物質は高度1500m以下の混合層の中を輸送されたことが明らかとなった。
著者
渡辺 幸一 名取 千晶 朴木 英治
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.122-128, 2005-06-10
被引用文献数
4 4

2003年秋期に立山において霧水の採取・分析を行った。霧水のpHは, 中腹の美女平で4.1〜5.0, 山頂に近い室堂平で3.3〜5.1であった。美女平では海塩起源成分がしめる割合が高く, 立山が比較的海岸に近いためであると考えられる。霧水中のNO_3^-/nss-SO_4^<2->(N/S)は美女平で高く, 室堂平で低かった。pHが4以下の強い酸性霧は室堂平でしばしば観測され, 酸性霧中の硫酸イオン濃度が高かった。今回の観測期間中で最もpHが低い霧水が観測された9月19日について後方流跡線解析を行った結果, 大陸の汚染物質の影響を強く受けている可能性が示唆された。
著者
スタワリー ジーラナット 加藤 俊吾 高見 昭憲 畠山 史郎 嘉手納 恒 渡具知 美希子 友寄 喜貴 与儀 和夫 ジャッフェ ダニエル シュバルツェンデゥルバー フィル プレストボ エリック 梶井 克純
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.350-361, 2007-11-10
被引用文献数
2

大気中のオゾン(O_3),一酸化炭素(CO),揮発性有機化合物(VOC)を沖縄本島の辺戸岬において2004年の春に観測を行なった。後方流跡線による解析により,C(中国方面),K(韓国方面),J(日本方面),O(太平洋方面)という分類で観測地点まで空気塊が到達する経路ごとに分けた。CおよびK方面からの空気塊でこれらの濃度は高くなり,O_3はそれぞれ56.4,62.2ppbvでCOは240,209ppbvであった。O_3が高濃度だがCOが高くない輸送イベントがあり,それがK方面の方がC方面より月平均O_3濃度を高くしていた。最も低濃度はO方面であった。J方面の空気塊は中間の濃度となった。VOCは炭素数が増えると大気中濃度が減少する傾向が見られ,これは時間が経過した空気塊を測定していることを示している。飽和炭化水素についてこのような傾向が見られるのは,清浄な大気を観測しており近傍の影響を受けないことを示している。VOCの主な除去過程はOH反応や希釈である。観測されたさまざまなVOCの比の変化は,アジアでの国での測定結果と一致している。C方面およびK方面からのイソペンタン/ノルマルペンタンの比はこれらの発生源での組成の変化を示唆している。
著者
香川 順
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.A55-A68, 2006-09-01
被引用文献数
5 5

米国環境保護庁は、2004年10月に、Air Quality Criteria for Particulate Matterの最終版を公表し、これに基づき2005年6月にはスタッフ・ペーパーが公表され、これらを参照して、2006年1月17日付けのFederal Register (FR)で粒子状物質の環境基準の改訂の提案を行った。この改訂は、現行のPM_<2.5>の24時間の基準値である65μg/m^3では、公衆の健康を適切に保護できないとして35μg/m^3に下げること、および新たにPM_<10-2.5>のthoracic coarse particles(吸入性粗大粒子)の基準を設定することを提案している。現在パブリック・コメントを募集中で、EPAは、2006年10月には最終決定する予定である。そこで何故、PM_<2.5>の基準を厳しくし、さらに新たにPM_<10-2.5>の基準を設定することになったのかをFRを基に解説した。
著者
米持 真一 梅沢 夏実 磯部 充久 松本 利恵 深井 順子 城 裕樹 関根 健司 相沢 和哉
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.211-221, 2009-07-10
被引用文献数
3 1

マルチノズルカスケードインパクタ(MCI)サンプラーを用いて,埼玉県内の国道17号線沿道3地点と,対照となる一般環境の3つの組合せからなる計6地点で,微小粒子(PM_<2.5>)と粗大粒子(PM_<2.5-10>)を捕集した。MCIサンプラーを用いて得られたPM_<2.5>質量濃度は,FRMサンプラーを用いて得られたPM_<2.5>質量濃度より5%程度高くなった。道路沿道と一般環境のPM_<2.5>質量濃度間の相関は,PM_<2.5-10>濃度間の相関より高くなった。しかしながら,特に田園に位置する騎西では,冬期に道路沿道よりも高濃度となる現象が見られた。この原因は収穫期以降に見られるバイオマスの燃焼によるものと考えられた。また,東京湾から55kmの距離に位置する騎西でも,夏期の粗大粒子中に海塩粒子が輸送されていた。県内の6地点における硫酸イオンの濃度変動の類似性を変動係数で評価したところ,夏期,冬期ともに変動が極めて類似していた。このことから,少なくとも県内の硫酸イオンは自動車などの局所的な発生源の影響は少なく,長距離輸送などの影響が示唆された。
著者
武田 麻由子 相原 敬次
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.107-117, 2007-03-10
被引用文献数
7

丹沢山地の大気中のオゾンがブナ(Fagus crenata)に及ぼす影響を明らかにするため,ブナ林衰退地に近接する西丹沢犬越路隨道脇(標高920m)において,ブナ苗を用いたオープントップチャンバー法による野外実験を2002〜2004年に実施した。活性炭フィルターでオゾンを除去した浄化空気を導入した浄化チャンバー(平均オゾン濃度0.011ppm)及び現地の環境大気を導入した環境大気チャンバー(平均オゾン濃度0.046ppm)に2年生の丹沢産ブナ苗を移植し,3成長期間にわたって育成することにより,葉のクロロフィル含量(SPAD値),光化学系IIの最大光量子収率(Fv/Fm),樹高,根元直径,葉数,冬芽数,乾燥重量に対するオゾンの影響を検討した。オゾンにより,SPAD値は2成長期目の秋以降,3成長期目は全般にわたって有意に低下し, Fv/Fmは3成長期目の秋以降有意に低下した。樹高は3成長期目の秋以降,根元直径は3成長期目の夏以降有意に減少した。全乾燥重量は,3年間の累積的なオゾン曝露(6ヶ月間のAOT40が合計で88.7ppm・h)により浄化チャンバーよりも61.3%低下した。また,オゾンによる早期落葉が観察された。環境大気チャンバー内で育成したブナ苗の冬芽数は3成長期目終了時に有意に減少し,本実験を継続していれば、次年度以降にはさらに生長が抑制される可能性が示された。本実験の結果より,丹沢山地の大気中のオゾンがブナの生長生理に阻害的に働いていることが明らかになった。