著者
松本 利恵 唐牛 聖文 米持 真一 村野 健太郎
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.357-373, 2002-11-10
被引用文献数
8

2000年7月の三宅島大噴火以降,関東地方では著しい大気中のSO_2濃度の上昇や大気降下物の酸性化が観測されている。そこで,埼玉県における大気降下物や大気中のS0_2濃度に対する三宅島火山の影響について検討を行った。1999年4月から2001年3月にかけて埼玉県内5地点で酸性雨ろ過式採取装置を用いた大気降下物の観測を行った。その結果,関東地方各地で大気中のS0_2濃度が上昇した2000年8月から10月は,1999年の同時期と比べて,大気降下物のpHは低下,nss-SO_4^2-の降下量は増加し,硫黄酸化物の大気降下物への汚染寄与が大きくなった。騎西に設置した酸性雨自動イオンクロマトグラフ分析装置により降雨量1mmごとに測定した2000年9月から10月初めの降雨のイオン種濃度変動と上空に存在する気流の関係を検討した。その結果,上空に三宅島から騎西へ向かう気流が存在するときに降雨のpHの低下およびnss-SO_4^2-濃度の上昇が生じ,高いときにはnss-SO_4^2-が陰イオンの約90%を占めていた。更に気流の方向により降雨の酸性化やnss-SO_4^2-濃度上昇の程度が短時間で変化したことから,火山から約220km離れた騎西の降雨に対する三宅島火山起源の硫黄酸化物の影響が明らかになった。降雨を伴う期間の騎西における大気中SO_2濃度変動について検討したところ,火山放出物が安定した上空を移流する場合には大気安定度が,強風に吹き下ろされて低空を移流する場合には三宅島からの輸送経路途中の降雨による洗浄効果が大きな要因となっていた。
著者
早崎 将光 菅田 誠治 大原 利眞 若松 伸司 宮下 七重
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.188-199, 2007-06-10
被引用文献数
5

2002年度は,日本国内の気象官署で観測された延べ黄砂日数が過去最高となった年であり,浮遊粒子状物質(SPM)の環境基準達成率はその前後の年度に比べて低い水準であった。本研究では,近年13年間(1992-2004年度)のSPM環境基準達成率の年々変動とそれに対する黄砂の影響評価をおこなった。年度別の環境基準は,以下の2条件を共に満たす場合に達成と判定される:(1)1日平均SPM濃度の2%除外値が閾値(100μgm^<-3>以下,(2)閾値を超過する高濃度日が連続しない。2002年4月には,顕著な黄砂が広域で観測された。SPM濃度の極大値はそれほど大きくないが(100〜200μgm^<-3>),4月8日から11日まで継続的に観測された。結果として,この大規模黄砂(2002年4月8-11日)が2002年度の環境基準達成率を約40%低下させていた。一方で,2001年度にも大規模な黄砂(2002年3月21,22日)が観測された。この黄砂は極めて高いSPM濃度(>500μgm^<-3>)をもたらしたが,およそ30時間程度で終結した。このため,2001年度の環境基準達成/非達成の地域区分は,黄砂の観測時間帯が日界を跨ぐか否かに依存していた。近年は,晩秋から初冬期におけるSPM高濃度日数が,1990年代と比べて著しく少ない。年間総計の高濃度日数が低下したことで,ただ一度の持続性黄砂のみで2002年度のSPM環境基準達成率が低い水準となったと考えられる。
著者
長谷川 就一 若松 伸司 田邊 潔
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.181-192, 2005-09-10
被引用文献数
9

従来から用いられてきた熱分離法による粒子状炭素成分分析において, 有機炭素(OC)の熱分解による元素状炭素(EC)の過大評価が問題となっていた。しかし, 最近, 分析中にフィルター試料の反射光や透過光を測定することによってOCの熱分解補正をおこなう熱分離・光学補正法が広まりつつある。本研究では, 熱分離・光学補正法による分析値が, 熱分離法による分析値とどの程度異なるかを調べるため, 冬季および夏季に, 都市部と郊外において, PM_<2.5>やPM_<10>など数種類の粒径範囲について採取したサンプルを各々の方法で分析し比較した。OCとECの熱分離条件は, いずれの方法においてもHe雰囲気下550℃とした。総炭素(TC)濃度については2つの方法において差は見られなかったが, ECおよびOC濃度は分析法によって明確に違いが見られた。EC濃度は, 熱分離法よりも熱分離・光学補正法の方が小さく, 熱分離法に対して, 反射光によって熱分解補正した場合の回帰直線の傾きは0.70, 透過光によって補正した場合は0.34であった。また, 分析法の違いによる影響だけでなく, 季節の違い, 採取場所による違い, 粒径範囲の違いによる分析値への影響についても検討したが, 分析法の違いによる影響が最も大きかった。また, 一般的に試料のサンプリングに広く用いられているハイボリウムサンプラー(HVS)とローボリウムサンプラー(LVS)の両方を用いてSPM(10μm 100%カット)を採取し, サンプラーの違いによる質量濃度や炭素成分の分析値への影響についても検討したところ, LVSに比べてHVSの質量濃度は15%程度, EC濃度は20%程度, OC濃度は40%程度小さくなっていた。
著者
大原 利眞 若松 伸司 鵜野 伊津志 神成 陽容
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.208-230, 2001-07-10
被引用文献数
5

大阪を中心とする関西地域において, 春季に発生する二酸化窒素NO_2などの高濃度汚染メカニズムを解明するために, 1993年4月に航空機観測を含む特別観測が国立環境研究所と関西地域の地方自治体によって実施された。観測期間中には二酸化窒素とオゾンの両方が高濃度となる汚染状態が発生し, これらの物質を含む多種類の汚染物質の動態を航空機, 生駒山および地上における立体観測によって観測することに成功した。本研究は, この高濃度状態の再現を目標とした数値シミュレーションモデルを構築し, 立体観測データによって総合的に検証したものである。構築した数値モデルを検証した結果, 地上の常時大気測定局で測定されたNO_x, NO_2,O_x(O_3), SO_2,NMHC濃度の時間変動がモデルによって良好に再現されること, 航空機観測結果などによって得られた多種類の物質(NO_2,O_3,VOC成分等)の鉛直濃度分布がモデルによってほぼ再現されること, 生駒山で測定された濃度時間変動もモデルによって説明できること, サルフェイトに関してもバックグラウンドが高いもののモデルによってほぼ再現できることなどが明らかとなった。これらの結果から, 本研究で構築した数値シミュレーションモデルによって, 観測された高濃度エピソードにおけるNO_2をはじめとする多種類の汚染物質の動態をモデル化できたと考えられる。
著者
片山 学 大原 利興 村野 健太郎
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.200-217, 2004-07-10
被引用文献数
10

地域気象モデルRAMSと結合した物質輸送モデルHYPACTを用いて東アジアにおける硫黄化合物の動態をシミュレートし,1995年7月と12月におけるソース・リセプター関係を定量化することにより,日本列島への沈着量の発生源地域別構成とその季節変動を解析した。本研究で用いたモデルは,従来のソース・リセプター解析用モデルとは異なり,地域気象モデルで計算された時空間分解能の高い気象データを活用することにより物質輸送モデルで必要とする各種の気象パラメータを精緻に与えているところに特徴がある。変質・沈着プロセスを組み込んだHYPACTは国内各地で観測されたSO_2とSO_4^<2->の地上濃度およびSO_4^<2->湿性沈着量を良好に再現する。このモデルを使って東アジアにおけるソース・リセプター関係を解析した結果,日本への硫黄沈着量の発生源地域別寄与率は7月には火山36%,日本28%,中国18%,朝鮮半島12%,12月には中国58%,朝鮮半島17%,日本13%,火山8%となり季節によって大きく変化する。すなわち,7月と12月における日本列島の硫黄沈着を比較すると,7月には火山を含む国内発生源の寄与が64%にも達するのに対して,12月にはその寄与は21%に低下し越境汚染の寄与牢が75%まで増加する。このように7月と12月において発生源地域別寄与率が大きく異なる原因は基本的に風系パターンの違いによって説明できる。また,日本海側と太平洋側の季節別沈着量を比較すると,太平洋側では7月の沈着量が12月の沈着量に比べて3倍程度増加するのに対して,日本海側における12月の沈着量は7月の沈着量に比べて約10%増加する程度である。このため日本全体では,越境大気汚染の寄与が大きな12月よりも火山を含む国内発生源の寄与が増加する7月の方が沈着量が20%程度多くなる。以上のことから,日本での沈着量の季節変動を議論する場合,越境汚染よりもむしろ火山を含む国内発生源影響の季節変動が重要である。
著者
李 忠和 伊豆田 猛 青木 正敏 戸塚 績
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.46-57, 1997-01-10
参考文献数
39
被引用文献数
9

硫酸溶液の添加により酸性化させた褐色森林土で育成したアカマツ苗の成長と植物体内元素含量に及ぼす土壌酸性化の影響を調べた。土壌酸性化処理は, 塩基溶脱を伴わない場合と溶脱を伴う場合について行った。塩基溶脱を伴わない場合の処理は, 土壌1l当たり, 10,30,60または90meq H^+イオンを硫酸溶液で添加した。また, 硫酸溶液を添加しない土壌を対照区とした。他方, 塩基溶脱を伴う土壌酸性化処理は, 上記の方法で土壌に硫酸添加処理を行った10日後に, 酸性化させた土壌または対照土壌をコンテナに入れ, 土壌体積の3倍量の脱イオン水を入れた後, 3日間静置し, コンテナの底から徐々に水を抜き, 土壌の塩基を溶脱させた。各処理区の土壌を詰めた1/10000aポットに, アカマツ(Pinus densiflora Sieb. et Zucc.)の2年生苗を移植し, 1995年6月2日から9月29日までの120日間にわたって温室内で育成した。このような処理によって酸性化させた褐色森林土で育成したアカマツ苗の生長阻害には, 土壌溶液のpHの低下とそれに伴う土壌溶液へのAlの溶出, およびアカマツ苗の地下部におけるAl濃度の増加に伴う地上部のCaなどの植物必須元素の減少などが関与することが示唆された。土壌酸性化に伴うアカマツ苗の成長低下の程度は, 土壌におけるAl濃度のみならず, Alとカチオンの存在バランスによってほぼ定まり, 土壌溶液の(Ca+Mg+K)/Alモル比が7.0以下になると明らかに乾物成長が低下し, その比が1.0の場合は乾物成長が対照区の値より約40%低下した。以上の結果より, アカマツ苗の成長に対する影響を考察する際には, 土壌における植物有害金属Alの濃度と共に, Ca, Mg, Kなどの植物必須元素の濃度も考慮する必要があると考えられる。
著者
松田 和秀 青木 正敏 張 尚勲 小南 朋美 福山 力 福崎 紀夫 戸塚 績
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.387-392, 2002-11-10
被引用文献数
6

長野県大芝高原にある平坦なアカマツ林において,2000年の9月18日から11月17日の間,SO_2乾性沈着の観測を実施した。SO_2フラックス測定には,熱収支ボーエン比法を用いた。フラックス測定により求められた沈着速度の信頼性を考察し,更に,インファレンシャル法による沈着速度計算値との比較も試みた。熱収支ボーエン比法によるSO_2の沈着速度を決定する気象要素の測定結果から,日中,特に12:00から14:00の間に最も信頼性のある沈着速度が算出され得ることが分かった。この時間帯に測定された沈着速度の分布に関し,それらのバラツキは大きかったが,0.0から1.0cm/sの区間に最も多く出現していた。観測期間中の12:00から14:00の間に得られた沈着速度のメジアン値は0.9cm/sであり, Erisman and Baldocchi(1994)らがまとめた日中の植物に対する沈着速度のレベルに近い値を示していた。インファレンシャル法により計算した沈着速度との比較を試みた結果,濡れた森林表面に対する沈着速度計算値が,乾いた森林表面あるいは相対湿度85%でしきい値を設けて両森林表面を取り扱った沈着速度計算値に比べ,測定値に近かった。キャノピー上層におけるクチクラ抵抗のパラメタリゼーションを調整する必要性が示唆された。
著者
佐久川 弘 新垣 雄光 増田 直樹 三宅 隆之 智和 正明 平川 剛
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.84-93, 2005-03-10
参考文献数
40
被引用文献数
3

神奈川県伊勢原市大山(標高1252m)の南側斜面で主としてみられるモミ枯れの要因である大気汚染の影響を評価するため, 阿夫利神社下社(標高約700m)において大気中の過酸化水素(HOOH)および有機過酸化物(ROOH)濃度を1998年8月23日〜8月26日に2〜3時間毎に測定した。過酸化物の測定には蛍光法を用い, カタラーゼとの反応速度の相違を利用した分別法により, HOOHとROOHs(総量)を測定した。また, 同時に気温, 湿度, 日射, オゾン(O_3), 窒素酸化物(NO, NO_2), 風向, 風速の測定も行った。HOOHの濃度範囲は0.8-4.0ppbvであり, 昼間高く, 夜間低い日周変化を示した。O_3濃度は, 3.1-70ppbvであり, HOOHと同様な日周変化を示し, HOOH濃度との正の相関が見られた。ROOHsは, 0.6-2.2ppbvでこの期間推移したが, その日変化はHOOHと逆の傾向があり, 昼間の光化学反応および夜間の化学反応の両方を考慮する必要がある。これらの結果から, 大山では昼間はHOOHがO_3と同様に光化学的に発生し, ROOHsも何らかの反応を通して生成する可能性が示唆された。両過酸化物とも高濃度に存在するので, モミ枯れとの関連性を今後調査する必要がある。
著者
米持 真一 梅沢 夏実 松本 利恵
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.129-142, 2007-03-10
被引用文献数
5

首都圏郊外に位置する,埼玉県北部の騎西町において,2000年から5年以上にわたり,PM2.5の質量濃度および主要成分濃度の連続観測を行った。PM_<2.5>の捕集にはPM_<2.5>、サンプラー(R&P社,PartisolPlus2025)を用い,一週間単位の質量濃度および主要化学組成の分析を行った。 PM_<2.5>濃度には明瞭な減少傾向は見られなかった。微小粒子の主成分である,水溶性無機イオンと炭素成分について分析を行い,その推移を評価した。水溶性無機イオンの90%は,塩化物イオン(Cl^-),硝酸イオン(NO_3^-)および硫酸イオン(SO_4^<2->)と,これらを中和するアンモニウムイオン(NH_4^+)で構成されていた。陰イオン3成分濃度は特徴的な季節変動が見られた。Cl^-と炭素成分(TC),特に,元素状炭素(Cel)には明瞭な減少傾向が見られた。また,NO_3^-にも緩やかな減少傾向が見られた。一方,SO_4^<2->には減少傾向は見られず,2004,2005年は,冬期を除く季節で増加していた。並行して稼働させたTEOMの観測値とPM_<2.5>サンプラーによるフィルター捕集との比較では,年平均値では概ね同程度の値であったが,TEOM内部での半揮発性成分の揮散量と,外気温に依存するPM_<2.5>サンプラーのフィルター上からの揮散量の大小関係により,両測定値の差には特徴的な季節変動が見られた。
著者
上野 広行 横田 久司 石井 康一郎 秋山 薫 内田 悠太 齊藤 伸治 名古屋 俊士
出版者
公益社団法人 大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.241-251, 2012-11-10 (Released:2013-03-12)
参考文献数
48
被引用文献数
2

加熱脱着GC/MS 装置を用いて、PM2.5 中のジカルボン酸、フタル酸、レボグルコサンを誘導体化して分析する迅速かつ簡便な手法を検討した。誘導体化条件を検討した結果、最適な条件として、温度320 ℃、ヘリウム流量20 mL/min、反応時間10 min、BSTFA+TMCS(99:1)とピリジンの混合比9:1、誘導体化試薬添加量10μLが得られた。添加回収試験の結果、過大な試料を用いると誘導体化成分のピーク形状が悪くなるため、試料量を制限する必要があった。非極性成分であるn-アルカン、17α(H), 21β(H)-ホパン、PAHs については、感度の点から試料量を多くする必要があり、極性成分との同時分析は困難であったものの、同じシステムで分析可能であった。この手法を東京都内の環境試料に適用して分析した結果、夏季と冬季では有機成分組成が大きく異なること、n-アルカンの濃度パターンは複数の発生源の影響を受けていることなどが示唆され、本手法は有機成分の発生源寄与等の検討に有効と考えられた。
著者
小林 由典 大河内 博 緒方 裕子 為近 和也 皆巳 幸也 名古屋 俊士
出版者
公益社団法人 大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.33-44, 2012-01-10 (Released:2012-06-27)
参考文献数
32
被引用文献数
1

26種類のAVOCs(塩素化炭化水素17種、単環芳香族炭化水素6種類、二環芳香族炭化水素3種類)の大気および大気水相のサンプリングを、2007年から2010年まで富士山と新宿で行った。2010年における大気中AVOCs濃度は富士山頂で最も高く(7月の平均総濃度:11.6 ppbv、n=5)、新宿(10~12月の平均総濃度:7.9 ppbv、n=52)、富士山南東麓(7月の平均総濃度:6.8 ppbv、n=9)の順であった。富士山頂における単環芳香族炭化水素(MAHs)の大気中濃度は都市域の新宿や国内外の高高度観測地点に比べて異常に高く、局地的な影響を受けている可能性がある。一方、2010年における大気水相中AVOCs濃度は富士山南東麓の雨水で15.8 nM(n=8)、富士山頂の雲水で15.7 nM(n=19)であり、新宿の露水で5.33 nM(n=15)、雨水で3.36 nM(n=30)であった。富士山における大気水相にはAVOCsが高濃度に含まれており、とくに塩素化炭化水素(CHs)は富士山南東麓の雨水および富士山頂の雲水ともにヘンリー則からの予測値以上に高濃縮されていた。大気水相へのAVOCsの高濃縮は大気中濃度、気温、各AVOCsの疎水性だけでは説明ができず、大気水相中の共存物質の影響が大きいものと推測された。
著者
三輪 誠 伊豆田 猛 戸塚 績
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.81-92, 1998-03-10
参考文献数
19
被引用文献数
4

人為的に酸性化させた褐色森林土で育成したスギ苗の乾物生長と土壌pH, 土壌中の水溶性Al濃度および(Ca+Mg+K)/Alモル濃度比との関係を調べた。火山灰母材, 花商岩母材および砂岩・粘板岩母材の褐色森林土1Lに, 10,30,60および100meqのH^+を硫酸溶液で添加して酸性化させた。また, 硫酸溶液を添加しない各土壌を対照土壌とした。これらの酸性化させた土壌および対照土壌に, スギ(Crypromeria japonica D. Don)の2年生苗を移植し, 1994年6月13日から9月5日までの12週間にわたって温室内で育成した。土壌への硫酸添加量の増加に伴って, いずれの土壌においても, スギ苗の乾物生長が低下した。これらの乾物生長の低下は, いずれの土壌においても, 土壌pH(H_2O)の低下に伴って生じたが, これは土壌中の水溶性Al濃度が増加したためであるとえられた。火山灰母材土では, 土壌中の水溶性Al濃度が風乾土あたりで10.5μg/gに増加すると, すでにスギ苗の乾物生長が低下したが, 他の土壌では, その濃度が30μg/gより高くなるとスギ苗の乾物生長が低下した。また火山灰母材土および花岡岩母材土では, 水溶性元素濃度から算出した(Ca+Mg+K)/Alモル濃度比が5より小さくなると, スギ苗の乾物生長が低下し始めた。これに対して, 砂岩・粘板岩母材土では, 同比が9.21のとき, すでにスギ苗の乾物生長が低下したが, この処理区の土壌中の水溶性Al濃度は37.8μg/gであった。以上の結果より, 硫酸溶液を添加して酸性化させた褐色森林土では, 土壌中の水溶性Al濃度が風乾土あたりで30μg/gより高くなると, 共存する塩基の濃度に関係なく, スギ苗の乾物生長が低下するが, その濃度が30μg/gより低い場合, Alの影響は共存する塩基の濃度に依存し, (Ca+Mg+K)/Alモル濃度比が5より小さくなると, スギ苗の乾物生長が低下すると考えられた。
著者
兼保 直樹 高見 昭憲 佐藤 圭 畠山 史郎 林 政彦 原 圭一郎 Chang Lim-Serok Ahn Joon-Young
出版者
公益社団法人 大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.227-234, 2010-08-30 (Released:2011-06-05)
参考文献数
16
被引用文献数
8

アジア大陸起源の汚染物質がわが国のPM2.5汚染状況に与える影響を明らかにするため、五島列島福江島と、その東方約190 kmに位置する福岡市において2009年春よりPM2.5濃度の通年観測を開始し、さらに4月に集中的に大気中エアロゾルの観測を行った。この結果、春季の福岡でのPM2.5濃度は福江島より半日程度遅れて変動していること、また濃度レベルも同程度または福江島の方がやや高く、日平均の環境基準値を超過する高濃度が度々出現した。組成分析の結果、高濃度時のエアロゾルの主成分は、硫酸塩と粒子状有機物が支配的であり、硫酸塩や総硝酸濃度は福江島の方が福岡より高かった。韓国済州島でのPM2.5測定データでは、福江島よりさらに早い時間に濃度増加を開始しており、長距離輸送による九州北部への汚染物質の到達を示している。このときの気圧配置より、4月上旬の2回の顕著な高濃度出現は、典型的な2つの長距離輸送パターン、すなわち前線後面型と移動性高気圧周回流型による輸送であると考えられる。月平均濃度でみても、4月の福江島のPM2.5濃度は福岡市よりやや高く、2009年春季の九州北部地域では、福岡のような大都市域においても、PM2.5濃度は域外からの長距離輸送による広域的な汚染状況に支配されていたと考えられる。
著者
池田 四郎 関根 嘉香
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.16-23, 2009-01-10
被引用文献数
1

大気質の管理には,これまで化学的よび物理的手法が用いられてきた。バイオアッセイは,生物応答を利用した環境汚染物質に対する有害性評価法であるが,大気質での適用例は少ない。筆者らは,海洋性発光バクテリアVibrio fischeriを利用した簡易毒性評価法の開発を目的に,発光バクテリアに対する大気中粒子状物質の影響について検討した。2007年12月から2008年4月にかけて東海大学湘南校舎4階ベランダにおいて,通気流量23.5L/minのローボリュームエアサンプラーを用い,7日間連続で大気中総浮遊粒子状物質(TSP)を石英繊維製フィルター上に捕集した。また2008年6月〜9月にかけて,通気流量22.0L/minのローボリュームエアサンプラーに接続したアンダーセンサンプラーを用いて大気浮遊粒子状物質を分級捕集した。試料を滅菌蒸留水で振とう抽出し,抽出液をポアサイズ0.45μmのフィルターでろ過した。その後,ろ液を24ウェルプレート内でバクテリアに作用させ,ルミノメーターにより生物発光強度を測定した。本研究では,日立化成工業株式会社機能性材料事業部ライフサイエンス部門による提供の下,Rapid On-site Toxicity Audit System (ROTAS^<TM>)のLeachableキットをバイオアッセイに利用した。その結果,バクテリアの生物発光量は大気中の粒子状物質に阻害されることがわかった。また,生物発光が大きく阻害される場合においては,通気量あたりの発光阻害度(%/m^3とTSP濃度(μg/m^3)の間に直線性が認められた。つまり,大気中浮遊粒子状物質には有害性がありTSP濃度に応答的であった。バクテリアに作用させた溶液は,黒色の微粒子によるコロイド溶液であった。そこで,この溶液を遠心ろ過し黒色微粒子を分離した。分離した粒子は透過型電子顕微鏡TEMを用いて観察し,さらにエネルギー分散型蛍光X線元素分析装置EDXによる成分分析をした結果,炭素を主成分としたススであることがわかった。このススが,バクテリアの発光を阻害した原因である可能性が示唆される。一方,TSP濃度が大きいにもかかわらず大気中浮遊粒子状物質が生物発光阻害を見せない場合もあった。年末年始の交通量が少ない時期や,花粉や黄砂が多く観測された春先が該当する。このことから,大気中浮遊粒子状物質には海洋性発光バクテリアの発光を活性化させる成分も含まれている可能性がある。また粒径2.1μmを下回る微小粒子が,バクテリアに対し高い発光阻害度を示した。このことから本法を利用し,PM2.5を対象としたバイオモニタリング技術開発の可能性が挙げられる。
著者
京谷 智裕 岩附 正明
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.287-300, 2000-09-10
被引用文献数
2

大気浮遊粒子状物質濃度が高く,内陸部盆地に位置する甲府市において,健康影響が強く懸念される粒径2.5μm以下の大気中微小粒子(PM2.5)と,従来から測定されてきた10μm以下の粒子(PM_<10>)の質量濃度を,1997年7月から1998年8月まで測定するとともに,著者らが開発した簡便な蛍光X線法を適用して,両者に含まれる各種元素濃度の特徴と一年を通じた変化を明らかにした。PM_<2.5>の質量濃度は,PM_<10>の61〜90%(年平均75%)を占め,微小粒子が粗大粒子(2.5〜10μm)の平均3倍の寄与を示すとともに,その年平均値(27μgm^<-3>)は米国のPM_<2.5>に関する新基準(15μgm^<-3>)を大きく上まわった。PM_<2.5>質量濃度はPM_<10>とよい相関を示し,平均としてはPM_<10>から推定できると思われた。S,Cl,Zn,Br,Pbの5元素は微小粒子中に偏在し,V,Cu,Kも微小粒子中に多く,人為的寄与が高いと推定された。特に,PM_<2.5>中のCu,Zn,Br,Pbは,地殻基準の濃縮係数(EF値)が自動車排出粒子の値と同様に極めて大きく,それらの大小関係も一致したことから,自動車の高い寄与が示唆された。また,SとVは夏季に,その他の元素は晩秋から初冬に高値を示し,それぞれ高い相関があった。Mg,Al,Si,Ca,Ti,Feの6元素は粗大粒子に多く含まれ,主に土壌起源とされたが,Caは土壌以外の寄与も推定された。PM_<10>におけるこれらの元素濃度の増大から黄砂の寄与を確認できた。また,Na,Cr,Mnは粗大粒子と微小粒子に同程度含まれ,主に土壌起源が推定されたが,Naは光化学反応が,Cr,Mnは土壌以外の起源が推定される時期があった。
著者
市川 陽一
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.A9-A18, 1998-03-10
被引用文献数
7
著者
市川 陽一
出版者
公益社団法人 大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.A9-A18, 1998-03-10 (Released:2011-11-08)
被引用文献数
1
著者
嵐谷 奎一
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.143-161, 2007-06-10

強い発がん性を有するBenzo (a) pyreneを含む多環芳香族炭化水素の測定方法の開発と一般環境中の多環芳香族炭化水素汚染状況に関する調査・研究を進めてきた。この調査・研究では多環芳香族炭化水素の定量精度の高い簡易迅速分析法の確立とその方法を用いて、1985年より一般大気中の浮遊粉じん、多環芳香族炭化水素の測定と土壌中の多環芳香族炭化水素の測定を実施し、汚染状況について把握した。